3B01 Au(111)上ジベンゾペンタセンの価電子状態とホール-振動カップリング (東大院・総合 1,横国大・理工 2) ○鈴木 敦 1,佐藤博史 1,青木 優 1,首藤健一 2,増田 茂 1 Valence electronic structure and hole-vibration coupling of dibenzopentacene on Au(111) (Univ. of Tokyo1, Yokohama National Univ.2) ○Atsushi Suzuki1, Hirofumi Sato1, Masaru Aoki1, Ken-ichi Shudo2, Shigeru Masuda1 【序】 有機半導体はソフトマテリアルの典型であり,その特性から基礎物性のみならず,有機太陽電 池や有機 EL などデバイスへの応用研究が盛んに行われている.有機半導体結晶は弱い van der Waals 相互作用によって形成しており,分子間で緩く結合した HOMO(最高被占軌道)や LUMO(最 低空軌道)等の π 軌道が電気伝導に関与する.また,これらの π 軌道は有機-金属界面における電 荷注入過程においても重要な役割を果たす.このような電荷輸送機構に決定的な影響を与える有 機薄膜の電子構造を調べる上で,電子分光は直接的かつ有効的な手法である.本研究では,Au(111) 基板上に作製したジベンゾペンタセン(DBP)超薄膜を取り上げ,紫外光電子分光(UPS),準安定原 子電子分光(MAES),第一原理計算(DFT)を適用し,価電子構造や特に,HOMO バンドのホールダ イナミクスを明らかにすることを目的とした.なお,MAES は試料最外層の価電子状態を選択的 に観測できる特徴をもつ[1]. 【実験】 実験には超高真空電子分光装置(base pressure: b He I UPS DBP / Au(111) 6.0×10-11 Torr)を用いた[1].UPS,MAES のプロ He I ーブには He 共鳴線(h = 21.22 eV),He*(23S, 45°45° a e- 19.82 eV)をそれぞれ用いた.Au(111)基板は Ar+ Y 5.2 Å X スパッタリングと電子衝撃加熱(~ 900 K)を繰り 4.7 Å 返すことで清浄化した.DBP 超薄膜は,室温の ることで作製した.膜厚は水晶振動子膜厚計で 制御した.試料の冷却にはクライオスタットを 用いた.孤立分子・イオンの電子状態や振動状 態は C2h を仮定して計算した. 【結果と考察】 Intensity (arb. units) 基板に蒸着速度 0.1 Å・min-1 以下で真空蒸着す 3.1 Å HOMO (8bg, 15) 11 121.5 1.0 0.5 13,14 15 5.2 Å Fig. 1 に Au(111)基板に作製した DBP 薄膜の 膜厚依存 UPS スペクトルを示す.横軸は基板の 2.1 Å Au(111) 0=EF 4.7 Å 5d 3.1 Å フェルミ準位(EF)を基準とした結合エネルギー (EB),縦軸は放出電子強度を示す.スペクトル の右側の数値は DBP 膜厚の平均値を示す.蒸着 量の増加とともに Au 基板由来のバンド(sp,5d) 2.1 Å sp 5 Binding energy (eV) Au(111) 0=EF Fig. 1 : DBP/Au(111)の UPS スペクトル が弱くなり,DBP 分子軌道由来のバンドが観測された[2].注目すべき点は,単分子層形成過程(2.1, 3.1 Å)のスペクトルにおいて,HOMO(15)バンド a の高 EB 側に微細構造(X,Y)が観測されたこと である.4.7 Å から 2 層目由来の HOMO バンド b が出現し,微細構造は消失する.これは 1 層目 と 2 層目のバンドが重なったためであると考えられる. Fig. 2 に HOMO バンドの UPS スペクトル(○)とピークフィッティングの結果を示す.前者は 4.2 Å 薄膜を 370 K でアニールした後,基板温度 55 K まで冷却して測定した.横軸は HOMO バンド のピークを 0 とした.図中の破線は Voigt 関数(Gauss 関数と Lorentz 関数の畳み込み),実線は破線 を足し合わせたものである.HOMO バンドはほぼ等間隔の 3 成分に分離され,フィッティングカ ーブによりよく再現される.各成分のエネルギー間隔は~160 meV となった.これは気相ペンタセ ンの UPS で観測される HOMO バンドの微細構造のエネルギー(167 meV)[3]に近く,光イオン化後 に生成した DBP+イオンの C-C 伸縮振動に帰属される.これは孤立した DBP+イオンの MO 計算 によっても確かめられた.このような振動構造は,HOPG 基板上のペンタセンでも観測されてい るが[3],金属基板上での観測例は今回が初めてである. Voigt 関数のうち Gauss 関数(半値幅:WG)はフェルミ分布とアナライザーのエネルギー分解能に よる拡がり,Lorentz 関数(半値幅:WL)は寿命による拡がりを反映すると考えられる.第一ピーク では WG = 100 meV,WL = 110 meV であった.WL 値からホール寿命(τ)を見積もると,6.0 fs であっ た.この値は C-C 伸縮振動の周期(26 fs)の約 23 %に相当する.また,振動構 He I UPS DBP(4.2 Å) / Au(111) 造 の 強 度 分 布 は ポ ア ソ ン 分 布 (In = Voigt fitting 動強度比から求められる S 因子と振動 エネルギーを用いて,電荷と分子振動 の結合程度を表す再配列エネルギー (λreorg)を求めた.4.2 Å 薄膜では λreorg = 131 meV となった.λreorg はホール移動 Intensity (arb. units) Sne-s/n!)に従うことが知られている.振 ○ : experimental (at 55 K) - : fitting curve WG : 100 meV WL : 110 meV τ : 6.0 fs λreorg : 131 meV 度にとって,分子間トランスファー積 分と並んで重要な値である.同様な解 析を 1.8 Å 薄膜についても行った. 発表では,第一原理計算で得られた Au(111)基板上における DBP の分子配 向と実験結果との比較も行う. 158 meV 160 meV 0.8 0.6 0 -0.4 0.4 -0.2 0.2 Energy relative to 0-0 peak (eV) Fig. 2 : DBP/Au(111)の UPS スペクトル 参考文献 [1] M.Aoki et al. J. Electron Spectrosc. Relat. Phenom. 156, 383 (2007). [2] B. Mahns et al. Phys. Rev. B. 86, 035209 (2012). [3] H. Yamane et al. Phys. Rev. B. 72, 153412 (2005). -0.6 3B02 カリウム添加ジベンゾペンタセン薄膜の価電子構造:Mott-Hubbard 絶縁体 (東大院・総合 1,横浜国大・工 2)○佐藤 博史 1,三原 識文 1,鈴木 敦 1,青木 優 1, 首藤 健一 2,増田 茂 1 Electronic structure in potassium-doped dibenzopentacene thin film : Mott-Hubbard insulator (Univ. of Tokyo1, Yokohama National Univ.2) ○Hirofumi Sato1, Shimon Mihara1, Atsushi Suzuki1, Masaru Aoki1, Ken-ichi Shudo2, Shigeru Masuda1 【序】有機半導体の優位性の一つに,アクセプターやドナーの添加により電子的性質を容易に制 御できる点がある.ピセンやジベンゾペンタセン (DBP, Fig. 1) など多環芳香族化合物のカリウム (K) 添加結晶における超伝導の発見はその好例である [1, 2].このような電子物性を理解するため には,アルカリ金属原子から有機半導体分子への電子移動,HOMO-LUMO ギャップ内での準位 形成,状態密度の変化などに関する知見が不可欠である.本研究では,DBP 薄膜及び K 添加薄膜 を取り上げ,紫外光電子分光 (UPS),準安定原子電子分光 (MAES),DFT 計算を適用し,価電子状 態 (特に,フェルミ準位近傍の電子状態)の解明を目的とした.MAES は試料最外層の価電子状態 を選択的に観測できる特徴をもつ. 【実験・計算】実験には超高真空電子分光装置 (base pressure: 1.0×10-10 Torr) を用いた.UPS, MAES の励起源には He I 共鳴線 (hν = 21.22 eV),He* (23S, 19.82 eV)をそれぞれ用いた.単結晶 Au (111) 基板は Ar+スパッタと電子衝撃加熱 (~ 900 K)を繰り返し清浄化した. DBP 薄膜及び K 添加薄膜は, 室温の基板に真空蒸着して作製し,膜厚は水晶振動子膜厚計で制御した.また,第一原理計算プ ログラム STATE [3] を用いて K 添加 DBP 薄膜の電子状態を評価した. 【結果と考察】 Fig. 1 に Au (111) 基板に作製した DBP 薄膜 (10 ML) の UPS と MAES スペクトルを示す.横軸 は基板のフェルミ準位 (EF) を基準とした結合エネルギ ー (EB),縦軸は放出電子強度を示す.UPS スペクトルで は,分子由来のバンドが観測され,従来の報告と一致す る[4].MO 計算から,a − d バンドはそれぞれ 8bg(HOMO), 7bg + 7au,6au,6bg のπ軌道,その他のバンドはπとσ 軌道に帰属される. HOMO バンドの閾値は 0.6 eV(矢印) であり,DBP 薄膜は絶縁体である.MAES スペクトル でも He*(23S) のぺニングイオン化過程を経た脱励起に 由来するバンドが観測され,UPS スペクトルとよく対応す Fig. 1. DBP(10 ML) / Au(111) の UPS, MAES スペクトル. る. Fig. 2A に室温の DBP 薄膜 (10 ML) / Au (111) 上に K 原子を時間 (t / min.) 蒸着した際に得られた UPS スペクトルを示す.K 蒸着量の増加に伴い,以下の結果が得られた.(1) K 蒸着の初期 (t < 15) では,仕事関数が減少し,DBP 由来のバンドは高 EB 側へシフトする.(2) t ≧ 15 の領域では,EF 近傍に 2 つのギャップ準位 (GS1, GS2) が出現する.こ れは,K 原子が DBP 薄膜内へ熱拡散して生成した KxDBP 錯体に基づくギャップ準位 (complex-based gap state, CBGS) に帰属される[5].また,t ≧ 27 で HOMO バンドが消失し,GS1, GS2 バンドは高 EB 側へシフト する.(3) t ≧ 55 では,GS1, GS2 バンドに変化は見ら れず,低 EB 側に薄膜表面に残留した K 4s 由来のバン ドが出現する. Fig. 2B に EF 近傍における t = 27, 53 の UPS スペク トルと,DBP 薄膜を加熱(360 K)しながら K 原子を蒸 着した際に得られた UPS と MAES スペクトルを示す. ガウス関数フィッティングにより,GS1, GS2 バンド の強度比(IGS2 / IGS1)を求めた.DFT 計算より,GS1, GS2 バンドはそれぞれ電荷移動に伴って変調された HOMO と電子占有された LUMO に帰属される.t = 27 では,IGS2 / IGS1 = 0.58 となり,K 4s 電子が LUMO に 1 個移動した K1DBP 錯体に対応する.t = 53 では, IGS2 / IGS1 = 1.05 となり,LUMO が電子 2 個に占有され た K2DBP 錯体に相当する.閉殻構造により,GS1, GS2 バンドは高 EB 側へシフトし安定化する.さらに,加 熱しながら K 蒸着をした場合,IGS2 / IGS1 = 1.67 となり, 電子 3 個が移動した K3DBP 錯体が形成されたと考え られる.K3DBP 錯体の DFT 計算では,LUMO+1 ~ +3 の混成状態にも電子が入る.これより,GS2 状態は Fig. 2. (A)K 蒸着時間依存 UPS スペクトル. (B)EF 近傍の UPS,MAES スペクトル. LUMO+1 以上の準位も寄与した混成状態であること が示唆される.MAES では,GS2 バンド(IGS2 / IGS1 = 2.16)が強調されている.これは,GS2 状態が真空側 に染み出しているからと考えられる. Fig. 3 に,DFT 計算と UPS による K1DBP 錯体の EF 近傍のエネルギー準位図を示す.計算では,EF 近傍に LUMO に電子が半分詰まった GS2 が出現し,金属的な Fig. 3. EF 近傍のエネルギー準位図. 電子構造を示した.一方,UPS では EF に状態はなく,絶縁体的な電子構造である.これは,Kペンタセン[6], K-ピセン[7] などの強相関電子系で見られる Mott-Hubbard 絶縁体の描像とよく一 致する.UPS の結果から,Hubbard ギャップ(U)は 1.64 eV と見積もられた.K3DBP 錯体において も EF に状態がないことから,Mott-Hubbard 絶縁体であることが示唆される. 【文献】[1] R. Mitsuhashi et al., Nature, 464, 76 (2010). [2] M. Xue et al., Sci. Rep., 2, 1 (2012). [3] Y. Morikawa, Phys. Rev. B, 51, 14802 (1995). [4] B. Mahns et al., Phys. Rev. B, 86, 035209 (2012). [5] S. Masuda, Appl. Surf. Sci., 2010, 256, 2054. [6] Monica F. C. et al., Phys. Rev. B, 79, 125116 (2009). [7] M. Caputo et al., J. Phys. Chem. C, 116, 19902 (2012). 3B03 高分解能電子エネルギー損失分光法によるヘテロ分子間相互作用 (千葉大院融合*、分子科学研究所**) ○岩澤 和明*、西村 孝宏*、佐藤 一至*、上野 信雄*、解良 聡** Intermolecular interaction among hetero molecules by means of high resolution electron energy loss spectroscopy (Graduate School of Advanced Integration Science, Chiba Univ.*, Institute for Molecular Science**) ○Kazuaki Iwasawa*, Takahiro Nishimura*, Kazushi Sato*, Nobuo Ueno*, Satoshi Kera** 【序論】p 型有機半導体分子と n 型有機半導体分子、特に CH 系 π 共役分子(p 型)と CF 系 π 共役分子(n 型) との組み合わせにより形成されるヘテロ単分子層膜では、超格子構造が自己組織化されることが知られてい る。図 1 に示す DIP(diindenoperylene、p 型 )分子と PFP(perfluoropentacene、n 型)分子を用いて、DIP 分 子と PFP 分子の分子数比率を 1:1 にした場合、基板面内で分子長軸方向に並んだ DIP 分子の間で PFP が 僅かに面内回転した配向を示し、異方的な分子配列をとることが STM の結果から報告されている[1]。このよ うな超格子構造の成長起源は明らかにされてはいないが、隣接するヘテロ分子間に働く水素結合(C-H… F-C)による安定化が大きな寄与を持つと考えられている[2]、がその弱い相互作用は不明な点が多い。 そこで、本研究では、高分解能電子エネルギー損失分光法(HREELS:High-Resolution Electron Energy Loss Spectroscopy)を用い、分子振動の観点から分子間相互作用を考察し、超格子構造の安定化への水素 結合の寄与について検証を試みた。異方的な分子配列・配向を取り、DIP 分子末端の C-H 結合と PFP 分子 末端の C-F 結合の間での水素結合により超格子が形成される場合、HREELS では DIP 分子末端の C-H 結 合、PFP 分子末端の C-F 結合として、水素結合の有無による複数の振動モードが検出されると考えられる。 【実験】HREELS 測定および試料作製は全て超高真空下で行った。大気中で劈開した高配向性熱分解グラフ ァイト(HOPG)基板を大気中で劈開後、超高真空中に導入し加熱クリーニングを実施した。HREELS により清 浄性を確認した HOPG 基板上に、まず DIP の submonolayer 膜(膜厚 2Å)を成膜した。その上に DIP と PFP の分子数比が 1:1 となるように PFP を真空蒸着し、DIP-PFP ヘテロ単分子層膜を作製した。蒸着順序に関わ らず、分子は層内を相互拡散し、互いに混ざり合うような超格子膜が平衡構造として得られる[1]。上述の試料 作製の各段階において、HREELS 測定を実施した。入射電子の入射角は 60°で固定とし、鏡面反射条件での 測定を主体に、非鏡面反射条件での測定も行った。入射電子エネルギーは 5eV を用いた。 【結果および考察】図 2 に(a)鏡面反射条件、および (b)非鏡面反射条件での 、HOPG 基板、DIP submonolayer 膜、DIP-PFP ヘテロ単分子層膜の HREELS スペクトルを示す。 HOPG基板上に DIP 分子を2Å蒸着すると、鏡面反射条件ではピーク 1、2、非鏡面反射条件ではピーク 1、 2 に加え、ピーク 3、4 が検出される。ピーク 1、2 は面外 C-H 変角振動に帰属できる。特にピーク 1 はインデ ノ基、ピーク 2 はペリレン部位の C-H だと考えられる。そして、ピーク 3、4 は、それぞれ面内 C-H 変角振動、 面内 C-H 伸縮振動に帰属できる。鏡面反射条件では面外の振動モード 1、2 のみが検出され、面内の振動モ ード 3、4 が検出されていない。ここで、表面垂直双極子選択則により鏡面反射条件では試料表面に垂直な振 動モードのみが検出されることから、DIP 分子は基板に対して分子平面を平行に配向していると考えられる。 DIP-PFP ヘテロ単分子層膜を作製すると、上述の DIP 分子に由来の構造に加え、PFP 分子に由来する構 造が検出された。鏡面反射条件ではピーク A、非鏡面反射条件ではピーク A、B および C が検出されている。 ピーク A は面外 C-F 変角振動、ピーク B、C は面内 C-C 伸縮振動に帰属される。ここで面内の振動モードで ある B、C は鏡面反射条件では非常に強度が弱い。一方、非鏡面反射条件では顕著に検出されており、PFP 分子は基板に対して分子平面をほぼ平行に配向していると考えられる。また、DIP 分子由来のピーク 1~4 に ついては、DIP submonolayer 膜のときと同様に検出されており、基板に対し平行に配向していると考えられ る。以上より得られた DIP-PFP ヘテロ単分子層膜における DIP 分子と PFP 分子の配向は報告されている STM の結果と一致している[1]。 次に、相互作用の有無、水素結合に寄与する結合と寄与しない結合の存在について考察を行なった。図 3(a)に示すように、DIP-PFP ヘテロ単分子層膜では、DIP 分子と PFP 分子との分子間相互作用により、ピー ク 1、2 が高損失エネルギー側にシフトしていることがわかる。しかし、DIP submonolayer 膜、DIP-PFP ヘテ ロ単分子層膜ともに単一ピークでフィッティングできていることから、異方的な分子配列・配向を取っているに も関わらず DIP 分子内の C-H 結合はインデノ基、ペリレン部位のそれぞれの箇所で等価であると考えられる。 40 一方、PFP 分子の C-F 面外変角振動については、DIP-PFP ヘテロ単分子層膜と、さらにその上に厚く PFP 分子を蒸着し PFP-PFP 分子間相互作用を支配的にしたときの結果を比較すると、半値幅に大きな差はなくピ 30 ーク位置のみが僅かに異なることがわかる。また、ここでも単一ピークによりフィッティングすることができ、 PFP 分子内の C-F 結合も等価であると考えられる。以上より、DIP と PFP との分子間相互作用は、水素結合 20 (C-H…F-C)の寄与というよりは、むしろ等方的な相互作用であり、分子間のファンデルワールス相互作用と 基板を介したπ電子相互作用の寄与が大きいと考えられる。 10 【参考文献】[1]米澤 et al., 第 61 回応用物理学会春季学術講演会 講演予稿集 (2014), No.21-095 0 300 350 400 450 10 [2]Y. Wakayama et al., ACS Nano 5, 581(2011) 200 16Å on DIP on HOPG 9Å on DIP on HOPG 3Å on DIP on HOPG図 2 on HOPG PG Intensity (Normalized) A (23meV付近) 12 DIP-PFP DIP(2Å) HOPG -100 0 PFP16Å o PFP16Å o 0.03 PFP9Å on PFP9Å on PFP3Å on PFP3Å on DIP on HO 0.02 DIP on HO PFP16Å on DIP 再 on H HOPG PFP9Å onHOPG DIP on H PFP3Å on DIP on H on DIP on H DIP-PFP PFP3Å DIP on HOPG 再 0.01 DIP(2Å) DIP on HOPG HOPG 再 HOPG HOPG (b) 非鏡面反射条件 100 200 300 400 A (23meV付近) 12 B C 4 3 -100 0 Energy Lossloss(meV) Energy (meV) 100 200 300 400 Energy Loss (meV) 低温(rough) HOPGPFP16Å 上の DIP submonolayer 膜と DIP-PFP 単分子層膜の HREELS スペクトル on DIP 室温 Intensity (arb.unit) PFP multilayer on DIP PFP 3ML on DIP (a) DIP 面外C-H変角振動 PFP subML on DIP DIP subML on HOPG Ei=5eV, Specular HOPG 1 2 DIP-PFP ヘテロ単分子層膜 DIP submonolayer (b) PFP 面外C-F変角振動 A Intensity (arb.unit) 6Å on DIP 室温 ×0.1 Intensity (Normalized) Intensity (normalized to elastic peak) Specular (a) 鏡面反射条件 PFP +6Å DIP-PFP ヘテロ単分子層膜 80 90 100 110 Energy Loss (meV) Energy Loss (meV) 120 (a)DIP on HOPG Ei=5eV, Specular PFP +13Å (b)PFP :H, :C, 2 Energy lo :F 図 1 DIP 分子と PFP 分子 の分子構造 20 24 28 Energy Loss (meV) Energy Loss (meV) 図 3 HREELS スペクトル拡大図 (a)DIP 面外 C-H 変角振動ピーク、(b)PFP 面外 C-F 振動ピーク (a)の DIP submonolayer 膜でピーク 2 の半値幅が大きいが、これは装置のエネルギー分解能に起因するものと考えられる。 0 0 100 3B04 二次元超構造分子薄膜の構造秩序性に由来する電子状態 (分子科学研究所)○山根 宏之、小杉 信博 Electronic structure induced by the structural ordering in two-dimensional superstructure molecular films (Institute for Molecular Science) ○Hiroyuki Yamane, Nobuhiro Kosugi 【序】 有機 EL 素子や有機太陽電池などの有機エレクトロニクスの根幹をなす有機半導体では、分子 に緩く結合した π 電子とその分子間での重なりが分子集合体としての電子機能・物性に関与する。 このような電子機能・物性は、エネルギーと運動量の関係である価電子バンドの分散関係や電子格子相互作用により支配されており、実験的には角度分解光電子分光法(ARPES)によって評価 することができる [1]。また、最近では、分子の元素置換に基づく価電子バンド分散の精密測定に よる分子間相互作用の系統的評価も可能となっている [2]。 多環芳香族炭化水素(PAH)は歴史的にも古くから研究されてきた有機半導体だが、最近では グラフェンの分子ユニット(ナノグラフェン)としての新しい興味も持たれている。また、PAH 分子であるペリレンやコロネンは Au や Ag 単結晶表面上で超構造薄膜を形成することが知られて いる [3]。本研究では、以上の点に注目し、コロネン(C24H12)を出発点とした PAH 超構造薄膜 の作製と ARPES による精密電子状態評価を行い、弱い相互作用系における二次元分子薄膜の界面 相互作用と分子間相互作用に関する研究を進めた。 【実験】 実験は分子科学研究所 極端紫外光研究施設(UVSOR-III)の高輝度 VUV・軟 X 線アンジュレ ータービームライン BL6U で行った。Ar+スパッタ(I ~ 2 μA)およびアニール処理(T ~ 700 K) によって得た Au(111)表面上に、単分子層程度のコロネン分子を真空蒸着(≤ 2 Å/min)し、高感度 低速電子線回折(MCP-LEED)による構造評価を行った後、高分解能 ARPES 測定を行った。 【結果】 図 1(a)にコロネン/Au(111)界面の MCP-LEED 像(E = 60 eV)を示す。コロネン薄膜由来の LEED スポット(黒点)は Au(111)基板由来の LEED スポット(赤点)の 1/4 倍周期で現れている。この ことから、コロネン/Au(111)界面では、図 1(b)の実空間モデルや図 1(c)の表面 Brillouin zone(SBZ) で示すような(4×4)超構造(分子間距離 = 11.5 Å)を形成していることがわかる。 Au(111)表面とコロネン(4×4)/Au(111)界面の ARPES 測定より得た kΓK = 0.7~1.5 Å−1(図 1(c)参照) 領域の価電子バンド図を図 2(a),(b)に示す。Au(111)表面(図 2(a))では、Au 5d バンドと sp バンド の分散が観測されている。この Au(111)表面上にコロネン(4×4)超構造薄膜を作製すると(図 2(b))、 コロネンの最高被占軌道(HOMO, Eb = 1.6 eV)に加えて、放物線状の分散を示す界面準位 I, II を Eb = 0~0.4 eV (I), 1.7~2.4 eV (II)において観測した(白点線)。 _ Au(111)表面では、Γ 点近傍で放物線状の分散を示すShockley準位が現れることがよく知られて おり、今回観測した界面準位Iの分散曲率はAu(111)表面のShockley準位の分散曲率とほぼ等しい。 これより、界面準位Iはコロネン(4×4)超構造薄膜によるAu(111)表面での周期性や対称性の変調を 反映した電子状態であり、その分散曲率からコロネン/Au(111)の界面相互作用は非常に弱いことが 分かった。一方、界面準位IIはコロネン(4×4)超構造薄膜の表面ポテンシャルによって形成された Tamm準位であると考えられる。 次にHOMOのピークエネルギーに注目すると、HOMOはコロネン(4×4)超構造のSBZに従った 周期性(π/b ~ 0.27 Å−1)で非常に弱く分散している(ΔEb ~ 35 meV)。このようなHOMOの分散は、 _ _ _ _ Γ-K方向でのみ観測され、Γ-M方向では観測されないことがわかった。このような分子面内方向で のπバンド分散は、分子-基板間の軌道混成が強い界面において、基板電子を介した分子間バンド 分散として観測されてきた [4]。今回のような弱い相互作用界面において分子面内πバンド分散を 観測したのは初めてのケースであり、その成因解明には、系統的な実験研究と高精度バンド計算 による解釈が必要である。現在は、分子サイズの異なる他のPAH分子を用い、弱い相互作用系の 二次元分子薄膜における界面相互作用と分子間相互作用に関する系統的研究を進めている。 講演では、以上の結果の詳細について議論を行う予定である。 N. Ueno and S. Kera, Prog. Surf. Sci. 83, 490 (2008), and references therein. H. Yamane and N. Kosugi, Phys. Rev. Lett. 111, 086602 (2013). C. Seidel, R. Ellerbrake, L. Gross, and H. Fuchs, Phys Rev. B 64, 195418 (2001). H. Yamane et al., Phys. Rev. B 76, 165436 (2007); M. Wieβner et al., Nat. Commun. 4, 1514 (2013). [1] [2] [3] [4] (a) (b) Au (0,0) Au 11.5 Å (a) Au(111) EF Binding Energy Eb / eV kΓK kΓM HOMO 図 2. ARPES 測定(hv = 45 eV) より得られた (a) Au(111)表面と (b) コロネン(4×4)/Au(111)界面 の価電子バンド図(T = 15 K) および kΓK = 1.08 Å−1, 1.40 Å−1 の ラインプロファイル(= ARPES スペクトル) 。ARPES 測定した k 領域は図 1(c)の SBZ に赤点線 で示している。 High コロネンの HOMO 電子密度 _ K _ M _ Γ Au Au 図 1. コロネン/Au(111)界面の (a) MCP-LEED 像(E = 60 eV) (b) 分子配列モデル図 (c) 表面 Brillouin zone(SBZ) 黒太線:Au(111)表面 青細線:コロネン薄膜 赤点線:ARPES 測定領域 (c) 0 (b) Coronene/Au(111) (i) (ii) (i) (ii) I 1 1 2 sp 2 II Au 5d 0.8 1 1.2 1.4 0.8 1 1.2 1.4 Momentum kΓK / Å−1 Momentum kΓK / Å−1 Low 3B05 低エネルギー逆光電子分光法による 有機半導体薄膜の空準位の精密測定と分子配向依存性 1 京大化研・2 産総研 ○山田一斗 1・吉田弘幸 1・堤 潤也 2・佐藤直樹 1 Precise measurements of molecular orientation-dependent electron affinities of organic semiconductor thin films using low-energy inverse photoemission spectroscopy 1 Kyoto Univ.・2AIST ○Kazuto Yamada1・Hiroyuki Yoshida1・ Jun’ya Tsutsumi2・Naoki Sato1 【序】有機半導体薄膜の電子構造は、孤立分子の電子構造に基づいて理解できる。一 般に、孤立分子と固体の電子構造の違いは、その集合状態に依存する「固体効果」に よる。電子準位のうち占有準位の固体効果は、光電子分光法(PES)により詳細に研 究されてきた。これに対して、空準位の研究は、容易に適用できる実験手法がなかっ たためにずっと遅れている。空準位の研究には、逆光電子分光法が原理的に最も有効 な方法である。この方法は、試料に照射した電子が空準位に緩和する際の発光を観測 する。しかし、従来の逆光電子分光装置は、分解能が低く、電子線照射により試料が 損傷するという問題があり、高精度での測定ができなかった。 我々はこれらの問題を同時に解決する新しい実験手法として、低エネルギー逆光電 子分光法(LEIPS)を開発した [1]。電子のエネルギーを下げて試料損傷を防ぐとと もに、近紫外光を観測することにより、従来に比べて高い 0.25 eV のエネルギー分解 能での測定を可能にした。この手法により、空準位のエネルギーを PES と同程度の 精度で決定できるようになった。 最近、有機薄膜のイオン化エネルギーが分子配向に依存することを Koch らが報告 した [2]。本研究では、LEIPS を用い、ペンタセン(PEN)とフッ素置換ペンタセン (PFP)、フラーレン(C60)について、薄膜の電子親和力の分子配向依存性を高精度 で測定した。なお、PEN と PFP のイオン化エネルギーでは、フッ素置換が異なる配 向依存性を導くことが報告されている [3]。一方、C60 はイオン化エネルギーに配向依 存性のないことが判っている [4]。これらの報告と測定結果から、薄膜の電子準位に ついて配向依存性の起源について論じる。 【実験】PEN、PFP と C60 の試料薄膜は、超高真空中で、シリコン酸化膜(SiOx)と 高配向性熱分解グラファイト(HOPG)の室温基板上に 10 nm の膜厚で調製した。各 試料について LEIPS のその場測定により電子親和力を決定した。検出光のエネルギー は 3.2-4.9 eV の間で複数の異なる帯域を用い、系統誤差を抑えた。試料透過電流スペ クトルの立ち上がりが真空準位のエネルギー位置に相当するとして、これに対する LEIPS スペクトルの立ち上がりから電子親和力を決定した。PEN と PFP 薄膜の分子 配向は AFM 測定により判別し、SiOx 上では分子長軸が基板表面に対しほぼ垂直に配 向するのに対して、HOPG 上では分子平面が表面に平行に配向することを確認した。 【結果】PEN と PFP の LEIPS スペクトルを図 1 に示す。得られた電子親和力は、 PEN では SiOx 上に比べて HOPG 上の薄膜が 0.8 eV 大きく、PFP では逆に 0.6 eV 小 さいことが分かった。また C60 の電子親和力が基板に依存しないことが分かった。 【考察】PEN と PFP のイオン化エネルギーの分子配向依存性に関する Koch らの報 告 [3] では、SiOx 上に対して金基板上の PEN は 0.55 eV 大きく PFP では逆に 0.85 eV 小さい結果を、フッ素置換により表面電気二重層の向きが変わるためとして説明して いる。本研究で同様の配向依存性を示すことが判った電子親和力についても、一見こ のモデルで説明できそうに思える。しかし、真空準位については分子配向依存性がな いことが判ったため、Koch らの表面電気二重層のモデルで解釈することはできない。 最近、Soos らは PEN と PFP のイオン化エネルギーと静電分極エネルギーの配向 依存性の詳細な理論計算を報告した [5]。PEN と PFP の静電分極エネルギーには、 電荷と永久四重極との相互作用が顕著に寄与する。この相互作用は分散力より長距離 まではたらくので最近接以上の構造に依存する。そのため、薄膜表面近傍の静電分極 て静電分極エネルギーを計算し電子親和 力も算出したところ、PEN と PFP のイオ ン化エネルギーと電子親和力の配向に依 存する実験値を定量的に説明できた。 intensity (arb. units) エネルギーは分子配向依存性を示すと考えられる。このモデルは、真空準位はそのま まで電子親和力・イオン化エネルギーが PEN on HOPG 配向依存する実験結果をよく説明する。 4.53 PEN on SiOx このモデルに基づき、CRK モデルを用い 1.36 HOPG Eea = 3.17 Evac 4.52 2.18 SiOx Eea = 2.34 [1] H. Yoshida, Chem. Phys. Lett. 180, 539 (2012); H. Yoshida, Anal. Bioanal. P. Rabe, N. Koch, Nat. Mater. 7, 326 (2008). [3] G. Heimel, I. Salzmann, S. Duhm, N. Koch, Chem. Mater. 23, 359 (2011). [4] A. Hinderhofer, A. Gerlach, K. Broch, T. Hosokai, K. Yonezawa, K. Kato, S. Kera, N. Ueno, F. Schreiber , J. Phys. 1 2 3 4 4 5 energy from EF / eV PFP on HOPG PFP on SiOx intenisity (arb. units) Chem. 406, 2231 (2014). [2] S. Duhm, G. Heimel, I. Salzmann, H. Glowatzki, R. L. Johnson, A. Vollmer, J. 0 4.60 1.07 HOPG Eea = 3.53 Evac 4.61 0.48 SiOx Eea = 4.13 0 1 2 3 4 4 5 energy from EF / eV Chem. C 117, 1053 (2013). [5] B. J. Topham, Z. G. Soos, Phys. Rev. 図 1. SiOx と HOPG 上の PEN と PFP 薄 膜の LEIPS スペクトル(左側)と試料 B 84. 165405 (2011). 透過電流スペクトルの 1 次微分(右側)。 3B06 フッ素置換によるアルカンチオール 自己組織化単分子膜の電子ダイナミクス制御 (慶大理工 1, JST-ERATO2) ○小倉宗久 1, 渋田昌弘 1, 2, 江口豊明 1, 2, 中嶋敦 1, 2 Controlling Electronic Dynamics of Fluorine-Substituted Alkanethiol Self-Assembled Monolayers Probed by Two-Photon Photoemission (Keio Univ.1, JST-ERATO2) ○M. Ogura1, M. Shibuta1, 2, T. Eguchi1, 2, A. Nakajima1, 2 【序】アルカンチオール自己組織化単分子膜(Alkyl-SAM)は、化学プロセスにより比較的簡便に 作製できる上に、分子末端を化学修飾あるいは置換することで、分子レベルでの均一性を保った まま表面の反応性や機能性を精密制御できると期待されることから、様々な分野で盛んに研究が 行われている。これまで本研究室では、Au(111)表面に作製した Alkyl-SAM が良好な単分子絶縁 膜として機能することを時間分解・角度分解 2 光子光電子(2PPE)分光により明らかにしてきた[1]。 2PPE では 1 つ目の光によって励起した電子を 2 つ目の光で光電子として検出することで、励起 状態にある電子の振る舞いを観測することができる。本研究では、SAM 上に作製した機能性材料 への電荷注入障壁を制御することを目的として、フッ素置換した Alkyl-SAM(F-SAM)の 2PPE 測 定を行い、Alkyl-SAM の化学修飾に伴う表面の仕事関数や電荷注入特性の変化を調べた。 【実験】F-SAM は、Ar+スパッタ、アニールにより清浄化した Au(111)基板を 1 mM の 1H,1H,2H, 2H-パーフルオロデカンチオール(CF3(CF2)7CH2CH2SH)のエタノール溶液に 20 h 浸漬すること で作製し、すみやかに試料導入チャンバーを通じて超高真空チャンバーへ搬送した。同様の手順 で作製された F-SAM は、秩序だった配向を有していることが原子間力顕微鏡観察により確かめ られている[2]。比較のために、デカンチオール(CH3CH9SH)を用いた Alkyl-SAM も同様の手順 で作製し、測定に用いた。2PPE 測定では Ti:Sapphire レーザーの第 3 高調波(hν = 4.04-4.77 eV) を試料に集光し、2 光子過程により放出された光電子の運動エネルギーを電子エネルギー分析器 により測定した。また、第 4 高調波(hν = 5.63 eV)で励起した電子を第 2 高調波(hν = 2.82 eV)で 検出する、Two-color 2PPE も行った。観測された構造の占有・非占有状態への帰属は、2PPE ス ペクトルの光子エネルギー依存性に基づいて行った。 【結果と考察】図 1 に、Alkyl-SAM と F-SAM の 2PPE スペクトルを示す。横軸はフェルミ準位 (EF)を基準とした中間状態エネルギーである。Alkyl-SAM において観測される EF + 3.6 eV 付近 の構造 C は、金-チオール結合により新たに生成した非占有準位であり、アルキル鎖長に関わら ず、ほぼ同じエネルギー位置に現れることが知られている[3]。F-SAM においても、同じエネル ギー位置に非占有状態が観測されており、Alkyl-SAM と同様、金-チオール結合を有する分子膜 が形成されていることを示している。また、F-SAM の仕事関数(Φ)は 5.8 eV と、Alkyl-SAM(Φ = 4.3 eV)に比べ著しく増加しており、金属清浄表面 C の中でも大きな仕事関数をもつとされる Au(111) F-SAM では、フッ素置換したアルキル鎖を表面 真空側に向けて表面を密に覆った、いわゆる standing-up 構造をとり、双極子モーメントを基 板側に向けた強い電気二重層が形成されると考 えられている。このことは、先に示した仕事関数 Intensity (arb. unit) 表 面 (Φ = 5.5 eV)よ りも 大きな 値を示し た。 Au derived (occupied) Au(111) Au(111) Au derived (occupied) C (unoccupied) の増加と良く対応しており、本研究においても分 Photon energy (eV) Alkyl-SAM 4.04 F-SAM 4.33 子レベルで均一かつ密に詰まった F-SAM が形成 されていると考えられる。分子レベルで平坦な表 面では、表面近傍の真空中に放出された電子が基 板内部に誘起された鏡像電荷に束縛されること によって生じる鏡像準位(Image potential state: 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5 3.0 3.5 4.0 4.5 5.0 Intermediate Energy (eV) 図 1. F-SAM(hν = 4.33 eV)と Alkyl-SAM (hν = 4.04 eV)の 2PPE スペクトル IPS)が、しばしば形成される。Alkyl-SAM の場合、真空準位よりも 0.6 eV 低い EF + 3.7 eV 付近 にバンド下端をもつ IPS が形成され、ポンプ光とプローブ光に遅延時間を与えた Two-color 2PPE で明瞭に観測できることが報告されている[1]。さらに、時間分解 2PPE による IPS に励起された 電子の寿命の計測から分子膜の絶縁性を直接的に評価することができ、Alkyl-SAM が優れた電気 絶縁性を有することが明らかとなっている。IPS は、真空準 位 Evac(= EF + Φ)を基準として、その下 0.85 eV までにエネ ルギー位置に形成されることから、Φ の大きい F-SAM にお いて IPS を観測するためには、高エネルギーの光(> 4.95 eV) Energy (eV) IPS 5 Evac : +4.3 4 が必要となる。そこで、5.63 eV のポンプ光と、2.82 eV の 3 プローブ光をもちいて遅延時間を変化させつつ Two-color 2 2PPE を行ったが、F-SAM 上の IPS は観測されなかった。 1 その理由として、F-SAM では、分子膜内に生じる鏡像電荷 EF が、膜内に形成される強い電気二重層により遮蔽されるため、 -1 IPS 中の励起電子の束縛エネルギーが小さくなり、IPS の波 -2 e- IPS C hv ≈ 4.3 eV 動関数が真空側に大きく拡がった結果、観測が困難になった + のではないかと考えている。また、Alkyl-SAM のフッ素置 - 換を行っても、EF の近傍(EF ± 3.5 eV)に新たな構造は現れな Evac : +5.8 6 IPS C hv = 5.63 eV IPS + Alkyl-SAM F-SAM かった。このことは、化学修飾により、Alkyl-SAM のもつ 図 2. Alkyl-SAM と F-SAM の 高い電気絶縁性を保ちつつ、分子膜を介した電荷注入特性を エネルギーダイアグラム 制御できることを示唆している。発表では、これらの SAM 上に有機分子層を蒸着した試料を用 いて、基板からの電荷注入の挙動がどのように変化するかについても議論する。 [1] M. Shibuta, et al. J. Phys. Chem. Lett., 2012, 2012 3 , 981. [2] K. Tamada, et al. Langmuir, 2001, 2001 17, 1913. [3] N. Hirata, et al. J. Phys. Chem. C, 2012, 2012 116 , 13623. 3B07 内殻励起ダイナミクス計測から探る有機単分子膜の高速電荷移動 (広大院・理 1,広大・放射光センター2) ○和田真一 1,2,古賀亮介 1,林下弘憲 1,小川舞 1,梶川隼平 1,平谷篤也 1,2 Ultrafast charge transfer of organic monolayers probed by core-excitation dynamics measurements 1 ( Graduate School of Science, 2HSRC, Hiroshima Univ.) ○S. Wada1,2, R. Koga1, H. Hayashita1, M. Ogawa1, J. Kajikawa1, A. Hiraya1,2 【序】 有機界面における電荷移動のナノレベルでの理解は、有機分子デバイスを基盤とした応用研 究において重要である。我々は内殻電子励起による反応ダイナミクス計測という、従来の計測手法と は異なる非接触な手法で、有機単分子の高速電荷移動計測を試みたいと考えている。 本研究で着目する軟 X 線を用いた内殻励起の最大の特徴は、価電子励起とは異なる局所的な電 子遷移であり、分子内の特定の原子を選択的に励起することができる点にある。そのためオージェ崩 壊後のイオン性解離を経ることで、選択的な化学結合の切断が可能になる。我々は、内殻共鳴励起 によるサイト選択的化学結合切断が、反応場となる末端官能基を最表面に規則正しく配列した自己 組織化単分子膜(SAM)において顕著に観測されることを見出すとともに、その選択性が周辺分子 環境に依存した電荷およびエネルギーの失活のしやすさに大きく影響されることを見出した[1]。一 方、オージェ崩壊過程も電荷移動の起こりやすさによって影響を受ける。内殻電子を非占有軌道に 共鳴励起すると、オージェ崩壊によって通常は共鳴オージェ電子が放出される。もし、この励起電子 が基板と強く相互作用して内殻正孔寿命よりも速く基板に失活するような場合は、結果的には内殻 電子を直接イオン化したことと同じになるため、 正常オージェ電子が放出されることになる。し たがって共鳴オージェ/正常オージェ収量比 を計測することで、このような速い電子移動ダ イナミクスを、内殻正孔寿命(酸素の場合で 4 fs)を基準とする速度として決定することができ る(core-hole clock (CHC)法)[2,3]。 本研究では、選択的イオン脱離反応が顕著 に起きる種々の SAM を対象試料に、構成分 子中の反応部位から金属基板へ非局在化す る電子の高速移動を CHC 法で計測し、選択的 結合切断反応における選択性の違いとの関係 性をもとに議論した。 【実験】 本研究では末端をメチルエステル修 図 1. メチルエステル修飾 SAM での内殻共鳴励起に よるサイト選択的イオン脱離と励起電子の電荷移動 の概念図。(左)観測されているサイト選択的イオン脱 飾した種々の SAM を用いた(図 2)。実験は、 離反応の例。O-CH3 結合の選択的切断による CH3+イ 高エネルギー加速器研究機構 PF の BL-7A お オンと C-OCH3 結合切断による OCH+イオンの検出。 よび広島大学放射光科学研究センター (右)共鳴オージェ電子分光で議論できる内殻共鳴励 HiSOR BL13 の放射光光源を用いて行った。 起電子の高速失活。観測される電子移動は内殻正 孔寿命(酸素 1s では 4 fs)と競争する程度の速さ。 全電子収量および全イオン収量から内殻励起 スペクトルの帰属を行い、PF のシングルバンチ運転を利用した 飛行時間型イオン質量測定により各脱離イオンの収量スペクト ルを得た。また HiSOR で共鳴オージェスペクトルを計測し、 Spectator(傍観)型オージェ成分比の変化から電子移動ダイナミ クスについて考察した。 【結果と考察】 C1s→σ*(O-CH3) 共 鳴 励 起 で CHn+ イ オ ン (n=0-3)が選択的に脱離する。各 SAM におけるこの CHn+イオン 収量比(フラグメンテーション比)を図 3 に示す。絶縁性が高い脂 肪鎖 SAM MHDA に比べて、導電性が高い芳香鎖 SAM の方 図 2. 本研究で用いたメチルエ がフラグメンテーションを激しく起こして脱離 ステル修飾 SAM。 していることが分かる。内殻共鳴励起により 選択的に解離する比較的速い過程と、付随 するエネルギーの散逸による非選択的な間 MP0 MP1 M2P MHDA 100 されており[1]、両者のバランスによってフラグ メンテーションパターンが決まっていると考え られる。すなわち、導電性が高い芳香鎖 Branting ratio 接解離過程によってイオンの脱離が引き起こ SAM では、後者の比較的遅い間接過程が 基板への速い電子失活によって抑制された 0 と考えられる。これは分子鎖長にしたがって C+ M2P, MP1, MP0 の順にフラグメンテーション CHn+イオンの収量比。 そこで電荷移動ダイナミクスの違い を具体的に評価するため、2 つの芳 香鎖 SAM で共鳴オージェ電子スペク トルを測定した。図 4 は傍観型成分の れの芳香鎖 SAM も内殻正孔寿命より も速い速度で電子移動失活を起こし ており、鎖がより短い MP0 の方がより 速く失活していることが分かる。このよ うに内殻励起反応ダイナミクス計測法 を用いることで、有機単分子の電荷移 動を非接触に計測し議論することが できると考えられる。 【引用文献】 [1] S. Wada et al., J. Phys: Condens. Matter 18, S1629 (2006). [2] J. Schnadt et al., Nature 418, 620 (2002). [3] A. Fohlisch et al., Nature 436, 373 (2005). Intensity / arb. units みを抽出し、全オージェ収量との比と 傍観型成分の失活度合いから、いず CH3+ CH2+ 図 3. C1s→σ*(O-CH3) 励起 で選択 的に 脱 離し た が激しくなっていることからも分かる。 してプロットしたものである。図が示す CH+ 0.50 0.45 0.40 0.35 0.30 0.25 0.20 0.15 1.0 0.10 0.9 0.05 0.8 0.00 0.7 -0.05 0.6 0.5 0.4 0.75 0.3 0.50 0.2 0.1 0.25 0.0 -0.1 0.00 -0.25 0.75 0.50 Total Auger yield (500-520eV) Spectator Auger yield (500-520eV) MP0 M2P Total Auger yield (500-520eV) Spectator Auger yield (500-520eV) 530 532 534 536 538 540 542 Photon Energy / eV MP0 530 530 Ratio of Spectator 532 532 534 534 536 536 538 538 Photon energy / eV M2P 540 540 542 542 Ratio of Spectator 0.25 0.00 -0.25 530 532 534 536 Photon Energy 538 540 542 / eV 図 4. MP0 および M2P SAM での酸素領域における傍観型 共鳴オージェ成分比。 3B08 金(111)面における直鎖アルカン脱水素反応とグラフェンナノリボン生成 Dehydorogenation of n-alkane and formation of graphene nano ribbon on Au(111) (東京農工大工 1、千葉大工 2、KEK-PF 3) ○遠藤 理 1、中村 将志 2、雨宮 健太 3、尾﨑 弘行 1 [序] 炭素の単原子シートであるグラフェンを一定幅で切り出した物質であるグラフェンナノ リボン(GNR)は、幅とエッジの状態によってバンドギャップを変化させることが理論的に予 測されている[1]。金(111)面に吸着した分子量の比較的大きな直鎖アルカンは、真空中の加熱 により分子が脱離する前に脱水素反応を起こすことが知られている[2]。この加熱生成物の詳 細は明らかではないが、金(111)面に吸着した芳香族化合物は脱水素反応によって GNR に変換 されることが報告されている[3]。我々は直鎖アルカンの加熱反応を極限まで進行させた場合 GNR が生成する可能性がある点に着目し、幅やエッジの状態を制御した GNR の作成法とし て確立することを目指した研究を行っている。本研究では直鎖アルカン単分子層の脱水素反 応の炭素 K 吸収端近傍 X 線吸収分光(C K-NEXAFS)および C1sX 線光電子分光(XPS)測定、走 査トンネル顕微鏡観察(STM)を行った。 [実験] 大気中でバーナーアニールにより清浄化した Au(111)面を不活性雰囲気下で冷却した後 硫酸水溶液中のサイクリックボルタンメトリー(CV)により清浄表面を確認した。再アニール後 n-C44H90 の n-ヘキサン溶液に浸した試料を純ヘキサンでリンスし、単分子層の形成を CV で確認 した[4] 。試料を真空槽(~5x10-8 Torr)へ移送し、400~800 K で加熱後測定を行った。C K-NEXAFS および XPS 測定は高エネルギー加速器研究機構物質構造科学研究所放射光科学研 究施設(KEK-PF)の BL-7A および BL-13B で行った。直線偏光した入射光に対し、直入射(NI) および斜入射(GI)でスペクトルを測定し、それぞれ面内および面直成分を検出した。NEXAFS 測定は SES-2002 電子エネルギーアナライザーを用いて 235-275 eV の運動エネルギーの電子 を計数するオージェ電子収量法で行った。XPS は励起エネルギー430 eV で行った。エネルギ ー較正には高配向熱分解グラファイト(HOPG)の π*CC 遷移(285.5 eV)、金の 4f7/2、4f5/2XPS ピー ク(84.0、87.7 eV)を用いた。STM 観察は超高真空中室温で行った。 [結果と考察] 図 1a は 400 K で加熱し溶媒分子を取り除いた後の n-C44H90/Au(111)の C K-NEXAFS スペクトルである。NI で 292 eV 付近に 1s→σ*CC 軌道遷移(σ*CC 遷移)が顕著にみら れ、分子軸が表面に平行であることを示している。また 287 eV のピークは σ*CH/R 遷移(R は Rydberg 状態を表す)に帰属され、対応する軌道が Au(111) 表面への吸着により CH 方向へ分 布するため NI、GI 両スペクトルで観察されている。286 eV の GI に見られるバンドは M*遷 移に帰属され、CH と基板の金の電子との混合により生じる状態である[5]。これらの特徴は 炭素骨格面が基板に平行にした配向を示している。図 1b は 800 K での加熱時のスペクトルで ある。GI で 283 ~286 eV に π*CC 遷移が現れ、σ*CH/R 遷移は NI、GI 双方で消失しており、脱 水素反応がほぼ完全に進行したと考えられる。NI の σ*CC 遷移は 292~305 eV に広がっており、 図 1d に示した Pt(111)面上の単層グラフェン(MG)のスペクトルに類似していることから、グ ラフェン類似の物質が生成し、flat に配向していることを示している。GSCF3 理論計算によ 図 1。(a) n-C44H90/Au(111)、(b) GNR/Au(111)(800 K)、(c) GNR/Au(111)(室温)、(d) MG/Pt(111) の C K-NEXAFS スペクトル。(e) GNR/Au(111)の C1s XPS(800 K)。(f) GNR/Au(111)の STM 像(室温)。(55.3 nm)2、V = -2.0 V、I = 30 pA。 り、グラフェンよりも低エネルギーの 284.5 eV 付近の π*CC 遷移は、アームチェアエッジの炭 素での遷移に帰属される。図 1c は加熱後に室温で測定したスペクトルである。矢印で示した ように NI、GI 両スペクトルで σ*CH/R 遷移が再生しており、再水素化によって CH2 が生成し たものと考えられる。実際 DFT 計算によれば、水素分圧に依存し CH2 端が安定となる場合が あることが予測されている[6]。図 1e に 800 K における C1s XPS スペクトルを示す。ピークエ ネルギー284.0 eV は Au(111)面における芳香族化合物の加熱で得られた GNR の 284.5 eV [3] に近い。図 1f に示した室温における STM 像では、幅数 nm 程度で高さ約 0.15 nm のリボン状 の物質が観察されており、GNR の生成を裏付けている。 [謝辞] NEXAFS スペクトルの GSCF3 理論計算でお世話になった分子研の小杉先生に御礼を申しあ げます。本研究は JSPS 科研費 26390061 の助成を受けたものです。 [参考文献] [1] M. Ezawa, Phys. Rev. B 73(2006)045432. [2] D. Zhong, et al., Science 334(2011)213. [3] J. Cai et al., Nature 466(2010)470. [4] O. Endo et al., J. Phys. Chem. C 112(2008)17336. [5] K. Weiss et al., J. Electron Spectrosc. Relat. Phenom. 128(2003) 179. [6] T. Wassmann et al., Phys. Rev. Lett. 101(2008)096402. 3B09 Au(111)表面上の Cu 電析における界面構造ダイナミクス (千葉大院工 1,東京農工大 2,高輝度光研究セ 3,物材機構 4) ○中村将志 1、坂西貴広 1、遠藤理 2、田尻寛男 3、坂田修身 4、星永宏 1 Structural dynamics of Cu electrodeposition on Ag(111) surface (Chiba Univ.1, Tokyo Univ. of Agri. & Tech.2, JASRI/SPring-83, NIMS4) ○M. Nakamura1, T. Banzai1, O. Endo2, H. Tajiri3, O. Sakata4, N. Hoshi1 【序】金属上への異種金属の修飾は装飾や防食だけでなく、高活性な電極触媒の 調製法にも応用されている。異種金属を修飾した電極触媒は、単体よりも高活性とな ることが知られており、近年ではコアシェル触媒の開発が盛んに行われている[1]。電 気化学環境下は、電極電位により析出量などを緻密に制御することができるが、溶媒 や電解質イオンが共存しており、金属イオンの析出や溶解過程は複雑となる。原子レ ベルで修飾量や構造を制御する方法の1つにアンダーポテンシャル析出(UPD)があ る。UPD は金属イオンが基板との相互作用を強く受けるため、熱力学的平衡電位よ り正電位側において単原子層レベルで析出する。金属析出の初期過程の観測に適して いる。 本研究では、Au(111)電極上の Cu UPD について、界面におけるイオン種の動的構 造変化を時分割 X 線回折測定により追跡した。Au(111)電極上の Cu UPD は盛んに研 究されており[2,3]、吸着構造はカウンターアニオンの種類に依存した析出が起こる[4]。 Cu イオンだけでなく、電解質イオンの構造にも着目し、金属イオンの析出•溶解過程 を明らかにすることを目的とする。 【実験方法】 試料には Au(111)電極、電解液溶液には 0.5 M H2SO4+1m M CuSO4 を 用いた。水素-酸素炎でアニール後、アルゴン雰囲気下で冷却し時分割 X 線回折用の ドロップセルに取り付けた。X 線回折測定は大型放射光施設 SPring-8 の BL13XU で行 った。Cu と硫酸イオンが共吸着する-0.25 V と硫酸イオンのみが吸着した 0.35 V の 間で短形波を印加した。測定にはマルチチャンネルスケーラーを用い、電位ステップ 前後の回折強度を 500 µs の時間分解能で積算した。電位は全て Hg/HgSO4 基準である。 【結果と考察】 図1に 0.5 M H2SO4+1m M CuSO4 中における Au(111)の電流電位 曲線を示す。Cu イオンは2段階で析出することが知られており、-0.2 V 付近の酸化 還元ピークより低電位側で1段階目の析出が起こる。さらに-0.4 V より低電位側では、 2段階目の析出が起こり Cu は 1 × 1 で吸着する。一方、-0.2 V より高電位側では、 硫酸イオンが吸着している。はじめに-0.25V および 0.35 V における構造解析を行っ た。-0.25 V では Cu はハニカム構造となり、その中心に硫酸イオン存在し√3 × √3 R30º 構造を形成する。また、0.35 V では Cu は析出しておらず、硫酸イオンが Au 表面に 直接吸着している。これらの構造は既報の 結果と一致した[2]。 Cu の析出により回折強度が鋭敏に変化 する(0 0 1.4)における時分割 X 線回折測定 の結果を図2に示す。この回折点では Cu が析出すると吸着 Cu と Au 表面原子から の散乱 X 線の干渉により回折強度が減少す る。Cu 析出過程(図2(a))における回折強 度の減衰は Cu 脱離過程(図2(b))における 強度変化と比較し非常に遅かった。また、 電位ステップ直後に回折強度が一時的に 増加した。同様な測定を他の回折点でも行 うことにより時分割 Crystal truncation rod (CTR)を求め構造解析を実施した。ク ロノアンペロメトリーによる過渡電流と 各イオン種の動的変化を比較検討した。 図 1 0.5 M H2SO4+1m M CuSO4 中における Au(111)の電流電位曲線 スキャン速度:5 mV/sec 図2 時分割 X 線回折測定結果(L=1.4) (a)0.35 V→-0.25 V: Cu 析出過程 (b)-0.25 V→0.35 V: Cu 脱離過程 【参考文献】 [1] P. Mani, R. Srivastava, P. Strasser, J. Phys. Chem. C, 112, 2770 (2008). [2] M. Nakamura, O. Endo, T. Ohta, M. Ito, Y. Yoda, Surf. Sci. 514, 227 (2002). [3] E. Herrero, L. J. Buller, H. D. Abruna, Chem. Rev. 101, 1897 (2001). [4] Z. Shi, S. Wu, J. Lipkowski, Elctrochimica. Acta. 15, 9 (1995).
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