固有値問題いくつか ゆきみ http://yukimigo.com/ 2014 年 5 月 11 日 線型代数応用編. 意外と知らないよね, くらいのお話. 1 Gershgorin の定理 以下 Cn で考える. ただし対称行列のときはもちろん Rn でよい. Theorem 1 (Gershgorin の定理). 正方行列 A = (aij ) の固有値は C 上の半径 ri = n ∑ |aij |, j̸=i 中心 aii の閉球にふくまれる. proof. A のある固有値を λ, それに属する固有ベクトルを l とすると, λl = Al だから, λli = n ∑ aij lj = j=1 ∑ aij lj + aii li j̸=i によって (λ − aii )li = ∑ aij lj j̸=i となっている. max |lk | = |li | とすると, |λ − aii ||li | ⩽ ∑ |aij ||lj | ⩽ |li | j̸=i ∑ j̸=i だから, |li | で割ればよい. ♡ 1 |aij | 2 固有値の性質 さて, ここですこしだけ線型代数の復習をしよう. 一般に対称行列 A は直交行列によっ て対角化される. よって二次形式の標準形は, 固有値を λ1 , . . . , λn とすると, (x, Ax) = λ1 y12 + · · · + λn yn2 となり, つぎがなりたつ. Theorem 2. A を対称行列とすると, W (A) ··= {(x, Ax); |x| = 1} は閉区間で, その両端はそれぞれ A の最小, 最大の固有値に等しく, その両端の値を取る (x, Ax) の x は A の固有ベクトルになる. proof. (x, Ax) = n ∑ λi yi2 i=1 で, てきとうに番号を入れかえて λ1 ⩽ . . . ⩽ λn としておく. ふつうに計算して λ1 ∑ yi2 ⩽ i ∑ λi yi2 ⩽ λn i だから, |x| = 1 とすると λ1 ⩽ ∑ ∑ yi2 i λi yi2 ⩽ λn i によって W (A) ⊂ [λ1 , λn ] となる. λ1 , λn ∈ W (A) であればよい. どちらでもおなじで, λ1 の固有ベクトルを l とすると, (l, Al)(∈ W (A)) = λ1 |l|2 = λ1 だからよい. ♡ 2 3 Min-Max の原理 つぎは量子力学でとても重要だけどあまり知られていない. らしい (田崎 [5] の付録に よると). というわけでかんたんな場合をかいておこう. もっと一般に関数解析をばりばり 使う場合は Lieb-Loss [2] にある. ちなみに悪名高い Ruelle [3] にもあるそうで. Theorem 3 (Min-Max Principles). A を対称行列とし, その固有値を λ1 ⩽ . . . ⩽ λn とする. F を Rn の部分空間とするとき, λk = min max{(x, Ax); |x| = 1} dimF =k x∈F がすべての k でなりたつ. proof. A の固有ベクトルからなる ONS を l1 , . . . , ln とする. てきとうに番号をつけか えて Ali = λi li としてよい. lk , . . . , ln で張られる部分空間を En−k+1 とすると, その次元は n − k + 1 だ から, 任意の k 次元部分空間 F とゼロでない共有元をもつ. それを x として, x = yk lk + · · · + yn ln (|x| = 1) とすると, (x, Ax) = λk yk2 + · · · + λn yn2 ⩾ λk |x|2 = λk だから max{(x, Ax); |x| = 1} ⩾ λk x∈F となっていて, F は任意だから min max{(x, Ax); |x| = 1} ⩾ λk dimF =k x∈F がなりたっている. 一方, l1 , . . . , lk で張られる部分空間 Fk は k 次元だから x ∈ F (|x| = 1) を x = y1 l1 + · · · + yk lk 3 とかくと, (x, Ax) = λ1 y12 + · · · + λk yk2 ⩽ λk |x|2 = λk だから max {(x, Ax); |x| = 1} ⩽ λk x∈Fk によって前の結果とあわせて λk ⩽ min max{(x, Ax); |x| = 1} ⩽ max {(x, Ax); |x| = 1} ⩽ λk dimF =k x∈F x∈Fk となって, 証明できた. ♡ 参考文献 [1] Richard Courant and David Hilbert. 『数理物理学の方法 上』. 数学クラシックス. 丸善出版, 2013. 藤田宏・高見頴郎・石村直之 訳. [2] E.H. Lieb and M. Loss. Analysis. Graduate Studies in Mathematics Vol. 14. American Mathematical Society, second edition, 2001. [3] David Ruelle. Statistical Mechanics: Rigorous Results. World Scientific Pub Co Inc, 1999. [4] 笠原皓司. 『線形代数学』. サイエンスライブラリ 数学 25. サイエンス社, 1982. [5] 田崎晴明. 『統計力学 2』. 新物理学シリーズ 38. 培風館, 2008. おおむね笠原 [4] の内容です. モチベーションはクーラント・ヒルベルト [1] とか? 4
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