偏光度計算式の解説

2014.04
王子計測機器株式会社
偏光度計算式の解説
● はじめに
偏光板の偏光度の測定については、弊社ホームページの位相差測定装置の技術資料に「10.
偏光板の透過率測定方法」で説明していますが、偏光度計算式を色々と調べると別の形で表現
した式もいくつかあります。ここでは、偏光度計算式の比較とその意味合いを整理します。
● 偏光度の計算式
前述の技術資料の説明と重複しますが、楕円偏光測定装置 KOBRA-WPR での偏光度の測
定は回転検光子法で得られる透過光強度を利用し、次式によって試料の偏光度Vs を算出しま
す。
Tsp-Tsc
Vs 
:偏光度
Tsp  Tsc
Tsp 
Tsy 2  Tsx 2
2
Tsc  Tsy  Tsx
Tsm 
Tsy  Tsx
2
:平行位透過率
①
:直交位透過率
:平均透過率
ここで、Tsy、Tsx はそれぞれ試料の透過軸方位、吸収軸方位の透過率です。式①の関係
は装置の検光子についても同じですので、添え字を a とすると、回転検光子法で得られる透過
光強度は、θを検光子の回転角として次式で表されます。
I( θ ) 
I0
{( TayTsy  TaxTsx ) cos 2 ( θ φs )  ( TayTsx  TaxTsy ) sin2 ( θ φs )}
2
②
ここで、φs は試料の偏光板の透過軸方位です。KOBRA-WPR ではTay、Tax を波長ご
とに装置定数として設定しておき、θが30°ごとのI(θ)の値を基にして、式②をカーブフ
ィッティングして先ずTsy、Tsx を算出し、その後に式①によってVs を求めます。
文献や解説書を見ると、偏光度計算式は以下のようにいくつかの表現の異なる式があります。
V 
I max-I min
I max  I min
V  I 0-I 90 
③
2( I 45  I 135 )
I 0  I 45  I 90  I 135
④
1
S12  S 2 2  S 32
S0
V 
V
⑤
I pol
⑥
I pol  I unp
式②は2枚の偏光板(試料と検光子)の偏光度が異なるとした場合に、回転検光子法で得ら
れる透過光強度の表現式です。試料の偏光板を同じもの2枚を準備し、1つを検光子の代わり
に使用すれば、
式②の添え字 a はすべて s になるので、平行位と直交位それぞれの透過率Tsp、
Tsc を測定することによりVs は単純に式①の一番目の式で求まります。
式①の一番目の式にTsp、Tsc を代入して整理するとVs は次式でも求まります。
Vs 
Tsy  Tsx
⑦
Tsy  Tsx
1) 式③の確認
同じ偏光板を2枚使うとして式②の添え字 a を s とすると、Imax とImin はそれぞれθが
φs とφs+90のときの値になるので次のようになります。
I0
( Tsy 2  Tsx 2 )  I 0 Tsp
2
 I (φs  90 )  I 0 Tsy Tsx  I 0 Tsc
I max  I(φs ) 
I min
⑧
式③の右辺は式⑧から次のようになります。
I ma x-I min
I max  I min

I 0 Tsp  I 0 Tsc
I 0 Tsp  I 0 Tsc

Tsp-Tsc
Tsp  Tsc
 Vs 2
⑨
したがって、式③は間違いで式⑩のようになりますが、これは同じ偏光板2枚を用いて測定
したときの計算式であることに注意すべきです。
Vs 
I max-I min
I max  I min
⑩
次に、試料の偏光板と検光子が異なるものとした場合、式③は式①と式②から整理すると次
のようになります。
2
V

I max  I min
I max  I min
(Tsy-Tsx )(Tay-Tax )
( Tsy  Tsx )( Tay  Tax )
⑪
 Vs  Va
式⑪より試料の偏光度Vs は式⑫のようになります。式③は偏光度100%の検光子で測定
したときの、試料の偏光度を求める式を意味していることになります。
Vs 
1 I max  I min
Va I max  I min
⑫
2) 式④の確認
式④のI***の***は検光子の回転角を表すので、同じ偏光板を2枚使うとし、試料の
Tsm とVs を設定して式②からθ=0、45、90、135°の各値を求めて、式④からV
を計算すると図1のようになります。計算値のVs はφs の影響を受けませんが、図1を見
ると元のVs の値とは大きく異なり、かつTsm によっても変わることが分かります。ただし、
Tsm=50%のときは元のVs と計算値は同じになれます。そこで、式④の右辺に50/T
sm を掛けて計算し直すと、Tsm の値によらず元のVs の数値が得られました。したがって、
式④は間違いであり式⑬のように表すべきですが、実際には試料のTsm の値は既知ではな
いので偏光板の偏光度測定には式④は使えないことになります。Tsm=50%のとき、すな
わち偏光度100%のときには式④が成り立ちますが、その場合は測定する必要がないと言
えます。
100
Tsm=35%
Tsm=40%
Tsm=45%
Tsm=50%
計算値のVs (%)
90
80
70
60
50
50
60
70
80
90
元の偏光度Vs (%)
100
図1 式④を用いてシミュレーションした偏光度V
V
2( I 45  I135 )
50
( I 0-I 90 
)
Tsm
I 0  I 45  I 90  I135
3
⑬
3) 式⑤の確認
式⑤はストークスパラメータによる表現ですので、図2のようなポアンカレ球によって表す
ことができます。この図は、S0を全光量とした部分偏光すなわち非偏光と完全偏光の合成と
した場合の図であり、さらにその完全偏光分を楕円偏光としたときです。それを、回転検光子
法で得られる透過光強度図形で考えると、図3(b)のように楕円偏光と非偏光の和となりま
す。このような偏光状態の解析には、試料単体および試料に位相差既知の波長板を重ねたとき
の透過光を回転検光子法で測定し、波長板によるポアンカレ球赤道面での移動量の計算値と実
測値とを比較することにより、偏光度と楕円率を得ることができます。したがって、測定対象
の光が部分偏光の可能性がある場合は、波長板を使った測定を必ずしておくことが重要です。
完全偏光分が直線偏光である場合は式⑫からVs を算出できますが、完全偏光分が直線偏光
と見做せるかどうかは波長板を使った測定での判断が必要です。
図2 ポアンカレ球による部分偏光の説明
(a)ポアンカレ球赤道面
(b)回転検光子法の透過光強度図形
図3 部分偏光の説明
4
4) 式⑥の確認
式⑥は完全偏光分と非偏光分の光強度で記述したもので、曖昧な表現ですので、3)の説明
と同様に厳密には完全偏光分が楕円偏光であるか直線偏光であるかによってVs の求め方は
複雑であったり、単純になったりします。
● 測定例
液晶ディスプレイに使用される偏光板は偏光度が99.9%以上の高偏光度であり、低偏光
度の偏光板に接する機会は少ないですが、偏光サングラスの中には低偏光度の製品もあり、そ
れを使って偏光度の測定をしました。
・装置:楕円偏光測定装置
KOBRA-WPR
使用ソフト・・・楕円偏光測定用PRソフト(テストモード)
透過率測定用TRソフト(偏光板透過率測定)
・試料:クリップオンタイプ偏光サングラス
(スポルディング製、偏光ライトブルー、カタログ値;透過率52%、偏光度52%以上)
図4 低偏光度の偏光サングラス
回転検光子法での透過光強度図形は波長によって異なり、図5(a)のようになります。ま
た、透過率測定用のTRソフトすなわち式①と式②から得た偏光度は図5(b)のようになり
偏 光 度 V ( % )
ます。
― 450nm
― 500nm
― 550nm
― 590nm
― 630nm
― 750nm
90
80
70
60
50
40
30
20
10
0
450
(a)回転検光子法の透過光強度図形
500
550
590
630
波 長 ( n m )
750
(b)TRソフトで得た偏光度
図5 低偏光度の偏光サングラスの測定結果
5
低偏光度の偏光サングラスの透過光は明らかに部分偏光ですが、前述のように楕円偏光測定
用のPRソフトで波長板を使って測定した結果を解析すると、完全偏光分はいずれの波長でも
直線偏光と見做してよいことが分かりました。また、検光子の偏光度Va を99.5%と仮定
して、式⑫から算出した偏光度はTRソフトの結果とよく一致しており、偏光度計算式が違っ
ても同じ値が得られることが確認できました。
● おわりに
以上のように、文献や解説書で記載されているいくつかの偏光度計算式について確認した結
果、検光子の偏光度が100%のときに成立する式であったり、部分偏光が非偏光と直線偏光
の合成であるときに成立する式であったりすることが分かりました。したがって、適用しよう
とする式が条件を満足していることを認識した上で使用することが重要となります。
最後に、公開特許(特開 2001-166143)を見ると、確かに同じ偏光板を2枚使用し、式①の
一番目の式で偏光度を算出するとありますが、そのときのTsp とTsc は波長域400~70
0nmの範囲を10nmおきに求めた分光透過率τ(λ)から次式によって算出するとなって
います。
700
 P( λ ) y( λ )τ( λ ) dλ
TspまたはTsc  400700
400 P( λ ) y( λ ) dλ
⑭
ここで、P(λ)はC光源の分光スペクトル、y(λ)は2度視野等関数
KOBRA-WPR の場合は、半値幅10nmのバンドパスフィルタを使った測定ですが、使
用する光源の分光スペクトルとフィルタの半値幅の広さによって同じ計算をしても得られる
値は異なることに注意が必要となります。
以上
6