屈折率測定によるARコーティングの反射防止効果の評価

2014.06
王子計測機器株式会社
屈折率測定によるARコーティングの反射防止効果の評価
●はじめに
弊社技術資料「等方性フィルムの屈折率測定方法の検討結果」(2013.12)では、等方性フィル
ムに光を斜め入射したときのP偏光・S偏光の透過光強度に着目し、屈折率既知の基準板を利用
する手法で、フィルム状試料の屈折率を測定する方法について報告しました。
反射防止コーティング(以下、ARコート)は、レンズなどの様々な光学素子やディスプレイ
関係の材料に多く用いられ、当然ですがその評価は実際に反射率を測定すればよいことになりま
す。JISでも、プラスチックの全線透過率および全線反射率の求め方が規定されていますし、
反射率の自動測定装置も種々販売されています。ここでは、反射率測定とは別の発想で、等方性
フィルムの屈折率測定方法と同じ方法でARコートあり・なしのガラス基板の屈折率を測定し、
その結果の特徴について報告します。
●結果
等方性フィルムの屈折率測定と同様の方法で、入射角50°でのP偏光とS偏光の透過光強度
から得られる試料の屈折率から、ARコートの反射防止効果に関係した評価ができることが分か
りました。
●実験に使用した装置とソフトウェア
・装置
楕円偏光測定装置
KOBRA-WPR
屈折率測定用ソフト
KOBRA-N
●試料
表1の白板ガラス基板を使用して実験を行いました。
表1 試料 (寸法はすべて40×40mm)
No.
厚さ(mm)
ARコート
1
0.5
なし
2
0.5
両面あり
3
0.7
なし
4
0.7
両面あり
5
1.0
なし
6
1.0
片面あり
7
1.0
両面あり
1
●測定結果
本測定方法の特徴を説明するために、測定波長590nmで入射角θ=50°でのP偏光とS
偏光の強度比率をImin/Imax として、本方法によって得られた表1の各試料の屈折率をグラフ
にすると、図1のようになります。この図を見ると、ARコートありとなしで屈折率差が0.2
7と明確な違いとなって現れ、かつガラス基板の厚さが異なってもARコートなし、両面ARコ
ートありの試料の値はそれぞれほぼ一か所に集まっています。また、片面ARコートありの試料
の値は、ARコートありとなしの中間にあることが分かります。カタログ値を見ると波長590
nmでの白板ガラスの屈折率は1.5230とありますが、ARコートなしの試料の屈折率はそ
の値に近く、両面ARコートありの屈折率は1.25となって空気の屈折率1に近くなっていま
す。このことは、空気と試料との屈折率差が小さく反射率が小さいことを意味します。
1.55
t0.5_ARなし
t1_ARなし
1.50
t0.7_ARなし
y = 5.7722x2 - 11.579x + 7.0498
R2 = 1
屈折率
1.45
1.40
t1_片面AR
1.35
1.30
t1_両面AR
1.25
t0.7_両面AR
λ =590nm
t0.5_両面AR
1.20
0.70
0.75
0.80
0.85
0.90
0.95
1.00
Imin/Imax
図1 P偏光S偏光の比率Imin/Imax と本測定法で得た屈折率の関係
KOBRA-WPRの透過率測定用のソフトを使って、偏光子・検光子を取り外した状態(す
なわち非偏光)で波長590nmでの透過率を測定し、(100-透過率)を反射率と見做して、
図1の屈折率との関係をグラフにすると図2のようになり、当然ではありますがθ=0°と5
0°ともに反射率と屈折率は密接な関係があることが分かります。
2
12
y = -150.69x2 + 451.08x - 326.05
反射率 (%)
10
8
6
y = -129.93x2 + 389.26x - 283.7
4
θ =0°
θ =50°
2
0
1.20
1.25
1.30
1.35
1.40
1.45
1.50
1.55
屈折率 n
図2 本測定法で得た屈折率と反射率の関係 (白板ガラスt1mm)
●おわりに
以上のように、本測定法で得られる屈折率は等方性試料の屈折率測定のみでなく、ARコート
の反射防止効果の評価にも利用できることが分かりました。専用のKOBRA-Nソフトは位相
差測定装置KOBRA-WRおよび楕円偏光測定装置KOBRA-WPRで利用でき、従来のソ
フトと併用することにより光学素子や光学フィルムに関する幅広い総合的な測定を実現できるも
のとなります。
以上
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