2.酸素非発生型光合成 21.酸素非発生型光合成の概要 22.光合成細菌 Rhodopseudomonas 属の光合成 23.初期過程(光励起電子移動) 24.キノンプールとシトクロム bc1 複合体 25.ATP合成酵素 1 21.酸素非発生型光合成の概要 ・光合成には「酸素発生型」と「酸素非発生型」がある。 酸素発生型:ラン藻(シアノバクテリア)、高等植物 酸素非発生型:紅色細菌、緑色硫黄細菌、緑色非硫黄細菌(糸状光 合成細菌)、ヘリオバクテリア ・酸素発生型は水を酸化し、炭酸固定を行う。 酸素非発生型は炭酸固定を行うものと行わないものがある。 ・両者のメカニズム(反応中心の構造・機能など)には共 通点が多い。 2 酸素非発生型光合成生物 細菌の種類 紅色非硫黄細菌 紅色細菌 紅色硫黄細菌 緑色非硫黄細菌 電子源 (独立栄養の時) 反応中心のタイプ H2 または従属栄養 H2S H2 (糸状光合成細菌) または従属栄養 緑色硫黄細菌 H2S ヘリオバクテリア 従属栄養のみ Type II (キノン) Type I (鉄硫黄) 3 反応中心の2つのタイプ Type I (鉄硫黄) Type II (キノン) E = –0.65 V E = –0.15 V 4 22. Rhodopseudomonas 属の光合成 ・紅色非硫黄細菌の光合成は最もよく研究されている。 電子源 細菌の種類 紅色細菌 (独立栄養の時) 紅色非硫黄細菌 反応中心のタイプ H2 Type II または従属栄養 (キノン) ・1984年に Deisenhofer らが発表した Rhodopseudomonas viridis 反応中心のX線構造は、光合成研究における記念すべき成果 だった(1988年ノーベル化学賞) 5 光合成反応中心の構造的特徴 Fe QA QB PhA • D: the “special pair” • B: bacteriochlorophylls • Ph: bacteriopheophytins • Q: quinones • Fe: a non-heme iron PhB BA BB DA DB ・ほぼ2回対称 ・しかし、電子が流れるのは一方のみ(図の左側) 6 スペシャルペアの特徴 ・吸収スペクトルが長波長(低エ ネルギー側)にシフト other BChls ・酸化電位が低い=酸化され やすい the Special Pair (P870) O CO2Me CO2R N NO Mg O N N N N Mg N N NO Mg N N CO2R N RO2C MeO2C O CO2Me O E = +0.45 V E = +0.64 V 7 23.初期過程:光励起電子移動 ・非常に速い! ・極低温(液体ヘリウム温度) でも速度は低下しない。 ・逆電子移動が極めて遅い。そ のため、電荷分離の量子収率 は 100% に近い。 8 なぜ逆電子移動が遅いのか? ・色素間の距離 P870 BChl 11 Å BPheo QA QB 11 Å 14 Å 18 Å 28 Å 17 Å 28 Å ・エネルギー Em (V) P870* –1.0 順電子移動のΔG: BChl 小さい負の値 (–0.20 eV) BPhe –0.5 逆電子移動のΔG: hv 0.0 0.5 大きい負の値 (–1.30 eV) P870 ΔG と電子移動速度の関係=Marcus 理論 9 もう一つの重要な補因子:キノン O O MeO O Plastoquinone 9 H MeO O H 10 Ubiquinone (Coenzyme Q10) ・生化学のエネルギー変換で非常に重要な補因子。 ・プラストキノンは葉緑体に存在し、光合成明反応の電子伝達系 を受け持つ。 ・ユビキノン(補酵素 Q)はミトコンドリアに存在し、呼吸の電 子伝達系を受け持つ。 ・バクテリア光合成ではユビキノンが使われる。 10 キノンの酸化還元 O– O O– +e– ・キノンは可逆的に2電子を –e– 受け取れる。 O ・電子移動と同時にプロトン 移動が起こることがある。 ・還元されるとフェノラート アニオンの形になるため、 強い塩基性を持つ。 ・従って、プロトン性の溶媒(環境)では プロトン化された中性分子の状態をとる。 +e– –e– O– O• –H+ +H+ +H+ –H+ OH OH +e – –e– O– O• –H+ +H+ OH OH Q3: キノンを非プロトン性溶媒(アセトニトリルなど)中で電気化学的に 還元すると、一電子ずつ二段階で還元される。一方、プロトン性溶媒中 では、一段階で二電子還元が起こる。理由を説明しなさい。(次ページ も参照のこと) 11 24.キノンプールとシトクロム bc1 複合体 反応中心 シトクロム bc1 「キノンプール」 !2 ・キノンプールは細胞膜中にある。 ・反応中心でキノンはヒドロキノンに還元されたあと、キノンプー ルに放出される。ヒドロキノンはシトクロム bc1 複合体で再酸 化される。 12 キノンプールの酸化還元とプロトンの能動輸送 cyt c2 細胞質 細胞膜 ペリプラズム Q: キノンプールのキノンが長いアルキル鎖を持つのはなぜか? 13 シトクロム bc1 複合体 heme bH (high potential heme) +50 mV heme bL (low potential heme) –90 mV cyt b cyt c 1 cyt bc1 +290 mV Fe2S2 center (The Rieske FeS center) Qi quinone reduction site Qo quinol oxidation site +280–290 mV ・触媒する反応:ヒドロキノンを酸化し て、電子をシトクロムc2に渡し、同 時にプロトンをくみ出す。 ・実際には、1サイクル中にヒドロキノ ンを2分子還元し、同時にキノンを Ⅰ分子還元する。(Q-サイクル) 14 R. sphaeroides シトクロム bc1 複合体のX線構造 cytochrome b cytochrome c1 Iron-sulfur protein subunit Esser et al. J. Biol. Chem. 2008, 283, 2846–2857. 15 3つのヘム(鉄ポルフィリン)の役割 ・シトクロム bc1 は bH, bL, Qi c1 の3つのヘムを持つ。 ・電子の流れ bH Qo → Fe-S (Rieske) → c1 S Qo Fe Fe c₂ c₁ S Qo → bL → bH bL ・電子が二手に分かれる (bifurcation) 16 Bifurcation はなぜ起きるのか O E1' – O OH E2' – + OH + +e , H +e , H –e–, H+ –e–, H+ O• OH E2’ ~ +0.3 V E1’ ~ –0.1 V ・中性のセミキノンラジカルは、ヒドロキノンよりも強い還元 剤である。 ・Rieske FeS はヘム bL よりも強い酸化剤である。 ・まずヒドロキノンが Rieske FeS で酸化され、生成した中性セ ミキノンラジカルがヘム bL で酸化される。 17 シトクロム bc1 の電子の流れ(まとめ) –0.2 low-potential chain bL 0.0 bH QH2 Re-reduction of Q "bifurcation" +0.2 Rieske Fe–S +0.4 cyt c1 cyt c2 high-potential chain +• P870 18 Qサイクル Q bH QH 2 Qi QH2 bL S Fe Fe S c1 Qo S S Fe Fe Fe Fe cyt c2 S QH 2 S 2H+ Q Q 2– QH2 cyt c2 S Fe Fe Q S S Fe cyt c2 Fe S Q-• Q-• S cyt c2 Fe Fe S Q Fe S cyt c2 Fe 2H+ QH 2 S 2H+ 19 25.ATP合成酵素 ATPの構造 NH2 N O O O –O P O P O P O O– O– O– O N HO N N OH ATP合成の反応機構(回転機構) Fillingame et al., Biochim. Biophys. Acta 2002, 1555, 29. Walker, Angew. Chem. Int. Ed. 1998, 37, 2308. 20 「回転機構」を目で見る! Noji et al., Nature 1997, 386, 299. 21 ATP酵素を逆向きに動かす:力学エネルギーで化学反応 Itoh et al., Nature 2004, 427, 465. 22
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