「BP剤服用患者における 服薬実態調査結果」

第24回 日本医療薬学会年会 名古屋国際会議場
平成26年9月28日
「BP剤服用患者における
服薬実態調査結果」 佐古有紀1) 桐林東一郎2) 河野弥生3,4) 花輪剛久3,4) 米澤 博5)
1)  株式会社ケイ・ディ・フドー 康仁薬局中筋店
2)  株式会社サンクスネット 3)  東京理科大学 薬学部薬学科 医療デザイン学
4)  東京理科大学アカデミックディテーリング部門 5)  帝人ファーマ株式会社
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第24回日本医療薬学会年会
利益相反の開示
筆頭発表者名: 佐古有紀
私の今回の演題に関連して、
開示すべき利益相反は以下のとおりです。
研究費:帝人ファーマ株式会社
我が国において、急速な高齢化に伴い骨粗鬆症患者が年々増加し
ている。骨粗鬆症治療には、エビデンスのある経口BP剤が最適であ
るが、服薬継続率は50%程度と言われている。
現在までに、服薬継続率の調査は数多く報告されている一方、服
薬実態などの報告は少なく、高齢者の服薬の実態と剤形に対する意
背景
識調査の結果は、老人ホーム等の施設で行った調査より、
薬剤が喉から胸にかけてつかえた経験がある等、何らかの問題を抱
える高齢患者が約3割は存在することが報告されている1)。
しかし、錠剤のサイズが大きい経口BP剤の服用においても
服薬に関する問題を抱える患者の存在は明らかになっていない。
3
1)橋本隆男:高齢者の服薬の実態と剤形に対する意識調査:
Therapeutic Research vol,27(26),1219-1225,2006. 目的
Ø 薬 局 に お い て 経 口 B P 剤 の 服 薬 上 の 問 題 を 抱 え る 患 者
を 定 量 的 に 把 握 す る Ø 薬 局 デ ー タ を 活 用 し 、 ど の よ う な 事 象 ・ 属 性 が あ る と き に
服 薬 に お け る 問 題 が 起 こ り や す い か 検 証 す る 上 記 を 目 的 と し て 、 薬 局 薬 剤 師 に よ る 患 者 に 対 す る 聞 き 取 り 調 査 を 実 施 4
調査方法
Ø  場所:広島県内グループ店舗32店舗
Ø  対象:
①  経口BP剤が処方されている患者
②  本調査への参加に同意いただける患者
Ø  期間: H26.3月~H26.8月
Ø  調査方法
①  薬局において、経口BP剤の処方があった患者に対し、薬剤師による服薬指
導のタイミングで質問シートに基づくヒアリングを行う(2~3分程度)。ヒアリ
ング内容をシートに記録し、集計分析を行う。
②  患者属性(併用薬、服用BP剤名、年齢、性別など)は薬歴に記録されている
データから抽出して記録する。
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ヒアリング調査1の項目
Q1 口の中に乾いた感じ(口腔内乾燥)がありますか?
①ある ②ない
Q2 BP剤を飲んで喉から胸にかけてつかえた経験がありますか?
①ある ②ない
Q3 BP剤を1回で飲み込めなかった経験がありますか?
①ある ②ない
Q4 BP剤を飲み忘れた経験がありますか?
①ある ②ない
Q5 BP剤と間違えて他の薬剤を服薬した経験がありますか?
①ある ②ない
Q6 BP剤を上手く掴めない経験がありますか?
①ある ②ない
Q7 BP剤の包装(PTP)が開けにくいことがありますか?
①ある ②ない
Q8 BP剤の服用後、胃がむかむかする(消化管障害)経験がありますか?
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①ある ②ない
ヒアリング調査2での回答形式の変更と患
者情報の追加について
参考とした過去の意識調査との差分を明確にするため、
聞き取り調査の下記の通り一部変更を行った。
≪変更点1≫回答の選択肢を過去の意識調査の
設問に合わせて有無から頻度に変更
Q2 Q3 ①あり ②なし⇒ ①しょっちゅう ②時々 ③たまに ④ない
≪変更点2≫患者背景情報の確認(新規追加)
患者の①在宅 ②外来 を記録する項目を追加
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アンケート回収症例の内訳
聞き取り調査1
聞き取り調査2
アンケート回収症例数
アンケート回収症例数
519例
165例
アンケート回収症例数
684例
不採用症例数
登録不適格 ※
:24例
錠剤以外のBP剤使用 :23例
※二重にアンケート実施、欠損
解析対象症例数
637例
患者背景 年齢・性別・用法
年齢別男女の割合(N=637)
男女の割合(N=637)
女性 男性
80歳以上(N=199)
70~79歳(N=272)
60~69歳(N=118)
女性 男性
18例
181例
254例
109例
50~59歳(N=24)
4例
20例
49歳以下(N=24)
7例
17例
18例
9例
91%
年齢の割合(N=637)
69歳以下
9%(56例)
70歳以上
26%
(166例)
経口BP剤の用法別の割合(N=637)
1日1回(42例)
月1回(282例)
週1回(313例)
7%
49%
44%
74%
Q1結果(身体機能)
Q1.口の中に乾いた感じ(口腔内乾燥)がありますか?
Ø  口腔内乾燥がある患者は14%(86/637例)であった。 70歳以上(N=471)
口腔内乾燥ある
口腔内乾燥の有無の割合(N=637)
口腔内乾燥ない
16%
(75例)
84%
ある ない
14%
(86例)
69歳以下(N=166)
口腔内乾燥ある
86%
93%
口腔内乾燥ない
7%
(11 例)
Q2およびQ3結果(身体機能)
Q2.BP剤を飲んで喉から胸にかけてつかえた経験がありますか?
Ø  つかえた経験がある患者は5%(31/637例)であった。
Q3.BP剤を1回で飲み込めなかった経験がありますか?
Ø  1回で飲み込めなかった経験がある患者は8%(50/637例)であった。
つかえた経験の有無の割合(N=637)
経験ある
経験ない
5%(31例)
95%
飲み込めなかった経験の有無
の割合(N=637)
経験ある
経験ない
8%(50例)
92%
Q2Q3結果(身体機能)
Q2とQ3をありと回答した患者=飲み込みに問題のある患者
Ø  年代を問わず、全体の11%(68/637例)に飲み込みに問題がある患者が存在
した。
70歳以上(N=471)
問題ある
問題ない
飲み込みに問題の有無の割合
(N=637)
問題ある
問題ない
11%
(51例)
89%
11%
(68例)
69歳以下(N=166)
問題ある
問題ない
10%
(17例)
89%
90%
Q4結果(服薬実態)
Q4.BP剤を飲み忘れた経験がありますか?
Ø  BP剤を飲み忘れた経験がある患者は40%(256/637例)であり、70歳以上の高
齢者では飲み忘れは少なかった。
飲み忘れた経験の割合
(N=637)
経験ある
経験ない
40%
(256例)
60%
年代別飲み忘れの割合
80歳以上(N=199)
70~79歳(N=272)
36.7% 38.6% 60~69歳(N=118)
44.9% 50~59歳(N=24)
45.8% 49歳以下(N=24)
62.5% 0.0% 10.0% 20.0% 30.0% 40.0% 50.0% 60.0% 70.0% Q5、Q6、Q7結果(服薬実態)
Q5.BP剤と間違えて他の薬剤を服薬した経験がありますか?
Ø  間違えて他の薬剤を服薬した経験のある患者は0.3%(2/637例)であった。
Q6.BP剤を上手く掴めない経験がありますか?
Ø  上手く掴めなかった経験がある患者は2%(12例/637例)であった。
Q7.BP剤の包装(PTP)が開けにくいことがありますか?
Ø  包装(PTP)が開けにくいことがある患者は6%(36/637例)であった。
上手く掴めなかった経験の有無
の割合(N=637)
経験ある
経験ない
PTPが開けにくかった経験の有無
の割合(N=637)
経験ある
経験ない
2%(12例)
98%
94%
6%(36例)
Q8結果(副作用)
Q8.BP剤の服薬後、胃がむかむかする(消化器障害)経験がありますか?
Ø  胃がむかむかする経験は月一回と週一回で6.4%(18/282例)、6.4%(20/313
例)であった。1日1回は4.7%(2/42例)であった。
胃がむかむかする経験の割合
(N=637)
経験ある
経験ない
6%
94%
月1回 胃がむかむかする 週1回 胃がむかむかする 1日1回 胃がむかむかする
経験の割合(N=42)
経験の割合(N=282)
経験の割合(N=313) 経験ある
経験ない
経験ある
6.4%
(18例)
94%
経験ない
経験ある
経験ない
6.4%
(20例)
4.7%
(2例)
94%
95%
結果(対象患者に対する過去の薬歴から得られた情報)
BP剤以外の薬剤の飲み込みにくさに対する薬局での対応実態
Ø  剤形の変更が行われているケースは全体の2%
Ø  BP剤において飲み込みに問題のある患者に限っても2.8%
過去1年の薬歴より抜粋
全体
Q2/Q3で
BP剤で飲み込みに
問題があった患者
剤形の変更
4/637例(0.6%)
0/71例(0%)
粉砕
1/637例(0.2%)
0/71例(0%)
0/637例(0%)
0/71例(0%)
OD錠の服用
8/637例(1.3%)
2/71例(2.8%)
合計
13/637例(2.0%)
2/71例(2.8%)
対応の種類
脱カプセル
考察
Ø  BP剤の服薬に問題を抱える患者が11%存在するにもかかわらず、患者からの
「自発的な訴えがない現状」が明らかになった。
Ø  BP剤を飲み忘れた経験がある患者は40%(637例中256例)であり、70歳以上
の高齢者では飲み忘れは少なかった。わが国では一般的に高齢者の方がむ
しろコンプライアンスが高いとの報告2)があり、同様の結果が得られた。
Ø  ヒアリング調査の回答形式の変更を行ったが、Q2,Q3の飲み込みに対する結
果は、それぞれ約11%とほぼ同じ結果が得られ、この結果から、頻度など複雑
な聞き取りを行わず、簡単な質問で十分服薬上の問題が発見可能と考えら
れた。
Ø  高齢者の多くは加齢に伴い、唾液分泌や嚥下機能の低下がみられることから
服薬と身体機能の低下のギャップを意識しながらも解決策を見出せない状態
にある可能性が考えられた。
2)須藤紀子、高齢者における服薬アドヒアランス,日本臨床,60(8)1626,2002.
結論
Ø 経口BP剤を服用している高齢患者には、口腔内の乾燥、
嚥下に問題を抱え、かつ、BP剤の副作用に不安を持つ
患者がおり、医師や薬剤師に相談できないまま服薬を
継続している可能性が示唆された。
Ø 骨粗鬆症治療は継続服用が重要であり、我々薬剤師は
患者にやさしい飲みやすい剤形や副作用の低減を考慮
した剤形への変更提案など、患者のライフスタイルや
ニーズにあった、服薬指導をすべきである。
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