量販店向けPOSシステム提案における UXデザインへの取組み

特 集
SPECIAL REPORTS
量販店向けPOSシステム提案における
UXデザインへの取組み
Proposal of New POS Systems for General Merchandising Stores Utilizing UX Design Approach
駒宮 祐子
星野 直樹
■ KOMAMIYA Yuko
■ HOSHINO Naoki
東芝テック(株)は,リテールソリューション分野の主な商品であるPOS(販売時点情報管理)システムにおいて,国内約
50 % のシェアを保持し市場をリードしている。しかし近年,パソコンやスマートフォンの普及による消費者の購買行動の変化や
店舗運営の変化などにより,従来の商品開発手法だけで POSシステムを開発していくことが困難になってきている。
そこで当社は,ユーザーエクスペリエンス(UX)デザイン手法を用いて買い物客の行動や思考を分析し,2020 年をターゲット
とした新しい量販店向けPOSシステムとサービスの提案を行った。カスタマージャーニー(CJ)マップを活用したアイデア発想
とアイデア展開のために考案した当社独自の UXデザイン手法により,様々な要求に対応した提案が可能になった。
In the field of retail solutions, Toshiba TEC Corporation leads the market for point of sales (POS) systems in Japan with a share of almost 50%.
However, due to the changes taking place in both customers' purchasing behavior and store operations due to the wide dissemination of notebook
PCs and smartphones in recent years, it has become difficult to develop POS systems using the product development approach as in the past.
To solve this issue, we have developed proposals for new POS systems and services for general merchandising stores to be realized by 2020
through the analysis of customers' purchasing behavior and attitudes, based on a user experience (UX) design approach. Our proprietary UX design
approach, incorporating an idea generation process using customer journey (CJ) maps, makes it possible to propose optimal solutions to meet various
requirements.
1 まえがき
量販店向けPOSシステムは,買い物客による購入点数の多
い食品スーパーマーケットなどで商品を登録する作業に特化
した縦型スキャナと,現金やクレジットカード,商品券など様々
な支払い方法に対応した支払い業務を行うPOSターミナルを
組み合わせたシステムとなっている。また,買い物客がみずか
ら会計作業を行うセルフレジも多くの店舗が導入しており,買
。
い物客が会計方法を選択できる価値を提供している(図1)
一方,量販店では,ネットショッピングなどによる買い物客
の実店舗離れへの対策として,スマートフォンに実店舗で利用
量販店向け POS システム M8500/IS-910T
セルフレジ SS-800
図1.量販店向け POSシステムとセルフレジ ̶ 量販店で使われている
POSシステムで,一般にレジと呼ばれている。
POS system and self checkout system for general merchandising stores
できる電子クーポンを送信して買い物客を実店舗へ誘導する
O2O(Online to Offline)サービスなどを導入している。
マップと略記)のフォーマットを作成し,ターゲットである大
ここでは,食品や日用品を扱う大型・中型量販店をターゲッ
型・中型量販店と同様,一般的に利用される駅前狭小店及び
トとした実店舗来店者数の増加促進に向け,新しいPOSシス
高級店も加えた4 種類の店舗の CJマップを作成した。CJマッ
テムとサービスを提案するためのアイデア展開にUXデザイン
プの作成では,デザイナー全員参加のディスカッションを店舗
手法を活用した取組みについて述べる。
種類ごとに1回ずつ行い,デザイナー自身が当てはまる買い物
客の属性については自分の行動や満足,不満などの主観的な
2 現状把握と不満点からのアイデア発想
まず現状把握のために,横軸を買い物前,買い物中,会計,
及び買い物後の買い物のフローとし,縦軸を買い物客の属性
と店舗スタッフとしたカスタマージャーニーマップ(以下,CJ
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意見を,そうでない属性については観察による気づきや調査結
果から抽出した買い物客の意見をラベル化した。また,満足
点や肯定的意見,不満点や否定的意見,気づきや行動が直観
。
的にわかるように色分けした(図 2)
この結果,大型・中型量販店での買い物に不満点が多かっ
東芝レビュー Vol.69 No.10(2014)
主婦
働く主婦
冷蔵庫内をスマホで撮影 財布の中身
確認
⇒ 無いものチェック
買うものをメールで家に
聞いて確認してから
ポイントで買いたい
⇒ 足りるか不安
子連れママ
買い物中
会員カード
確認
スマホに
買い物メモ
アプリで覚えても
アプリを使い忘れる
買い物中は
カバンが邪魔になる
夫婦
高齢者
サラリーマン
OL
学生
カゴ持ちだと
傘が邪魔になる
未開封で賞味期限○○
⇒ 開封後の期限が知りたい
子供はお菓子売り場で
待たせる
カゴにマイバッグを入れて
そこにキレイに詰めてほしい
パンや総菜に
売れ残り感
何を買ってるか
見られたくない決済前に食べだす DQN
マイカゴは家での
保管が面倒
商品が限定されたクーポンは役立たない
安い商品を見つけて買おうとするが、
家にまだ残っているんじゃないかと迷う
クーポンの存在がウザい、不要
肯定的内容
カートを大量に
運ぶ職員・危ない
滞在時間が知りたい
⇒ 駐車料金
週末家族連れ
とにかく早く
済ませたい
車内で買った
ものが転ぶ
専業主婦
買ったものを袋に詰め忘れる
駐車場のゲートに手が届
冷蔵庫に
かず、車を降りてお金を払う 入れるのが面倒
あんまり万引き対策しない?
⇒ 全体から見たら些事
混んでいるのに全てのレーンが空いていない
陳列している
店員さんが
どいてくれない
否定的内容
仕事帰り
兼業主婦
ネット価格と
店頭価格が違う
マグロサク⇒ 期限近い ⇒ 刺身に ⇒ 惣菜の材料に?
店舗
スタッフ
買わなければならないものが多い
子ども連れ
袋詰めスペース狭く、ストレス
袋詰めスペースで
盗まれそう
他の家族が何を 自分の番にロール 駐車場ゲートとスマホ・スマレシが
自分の番にキャッシャー 買うか気になる
紙交換・イライラ 連携してほしい
買い忘れに
が離れると気まずい
子供が二人乗る
カゴに野菜くず
袋不要って言ったのに 気づいて残念
カートが重い
レジ前の商品をついつい カゴをキャッシャー台に
買い忘れが嫌で
マイバッグに入らず …
乗せるのが重い
子供用に車内で
日用品を買うには
入れられてしまう
メモ作成
試食が楽しみ
品出しの段
一日つぶれた
結局袋をもらう
食べるお菓子用意
カートが小さい
ボールが邪魔
感じがする
カートの下のトイレット 空きレーンの近くに並ぶ 電子マネーにも
大量に買ったのに
父親だけ車を運転
広すぎて迷う
ポイント欲しい
ペーパー会計忘れそう
クーポンの存在が
買いたい商品の前で
カートの車輪が
駐車料金かかりイライラ
家族は先に買い物
ウザい、不要
ずっと動かない人がいる デジタルサイネージは 値引き品ばかり買うのは
レジ待ちの早さは運なのでイライラ
上手く動かない
カートを待ち列において
ネットチラシを
誰も見てない
昼食を兼ねて
人の目が気になる
子供が走り回って カートで遊ぶ
自分からクーポン使わなきゃ
また商品見に行く
チェックする
AM中に外出
商品の場所が
危ない
ならないのは嫌だ
子供が危ない
サイネージ五月蝿い!
レジで小銭を
縦並びのレーンの
分からない時ある
駐車した場所を
落とすとパニック
会員カードの種類が多すぎ
並び方がわからん
お肉など、丁度いい
駐車場の1Fが
コンテンツが退屈!
頑張って覚える
グラム数が無い
キャッシャーとつい
マイバッグカードが取りにくい
空いてると嬉しい
孫のために菓子買う
お話しちゃう
二人で料理してると自分が
買ったものが使われてる
カバンを選ぶ
値引きシールを
賞味期限が新しいものを
金額をぴったり払いたい
貼ってとお願い
奥から選ぶ人がいる
歩行支援用
エコバッグを用意
カートに無理やり
家族と買い物に ちょっと良い食材買う
夜、店員が少ないからレジ稼働率悪い
カートにむりやり
カゴを載せる
来てるから楽しい
⇒ 客が少なくてもレジ待ち発生
寄りかかる
何かのついでに
普段乗るバスの
小銭をちゃんと用意したい
買い物
ルートにある
自転車が邪魔で
試食が楽しみ
お店に入れない
おつりを綺麗な人に
立体駐車場で酔う
カゴが濡れてる
駐車場が暑い!
レジ待ち列が邪魔で通れない
丁寧に渡され嬉しい
ときがある
子供用のでかい
駐車券を車内に
待ち時間に
カートが邪魔
置き忘れる
洗車してるオッサン
マイバッグカードを入れても
袋の有無を確認してくれる人がいる
惣菜にカバーかけない
カートの下段が見えない
袋の有無は最後に確認したい(スタッフ)
⇒ 市場的なワクワク感の演出
大量万引きが不安
⇔ 袋の有無は最初に宣言したい(客)
売れ残りをどうしてるのか気になる
子供はベンチで
DSさせる
子どもと楽しく
買い物したい
お釣りをそろえて渡してほしい レジ袋破れる
お釣り確認しづらい
小銭は出しづらいから レシートの上に小銭を
乗せられるのは嫌だ
端数はポイントで
開店からずっと置いてる惣菜は不安
同じ商品で値札が違う事がある
子供用のカート選び
が大変(キャラなど)
ランチの予約をして
から買い物に行く
家族連れ
値引きを待つ
客が怖い…
重たい商品を買うのは断念⇒
本当は買いたいのに…
惣菜に使われて
いる肉は不安
買い物後
会計
特
集
大型量販店
買い物前
縦型スキャナの脇に袋不要のカード
クーポン袋を用意してる
スマホをかざすだけでクーポン・ポイントカード使いたい
行動や気づきなど
図 2.大型量販店の CJ マップ ̶ 縦軸と横軸は同じ項目で 4 種類の CJ
マップを作成した。大型・中型量販店では不満などの否定的内容が多く,
駅前狭小店や高級店では肯定的内容が多い。
CJ map in case of large store
時間にゆとりがある
急いで済ませたい
高齢者
買うものが多いので
楽に済ませたい
お得で賢い
買い物がしたい
手厚い接客
をして欲しい
なにか良いものがあったら買いたい
図 3.大型・中型量販店の買い物客の要求分析 ̶ 買い物の必要性と緊
急性で買い物客を分類した。様々な要求が存在し,従来のPOSシステム
だけでは対応が難しい。
Analysis of customer requirements in medium and large stores
動が原因になっている意見が多かったことから,店舗での快
適な買い物を実現するためには,どのような買い物客にどのよ
うな要求があるのかを認識する必要があった。そこで,東芝
たので,不満点から問題点や原因を分析して価値に置き換え,
テック(株)で今まで行ってきた店舗ヒアリング結果なども参
これらの価値からアイデア発想することを試みた。しかし,不
考に,買い物の必要性と緊急性を軸に買い物客層を整理した
満点からの価値は,単に不満を裏返した表現になり,アイデア
。そして,様々な要求やシチュエーションの買い物客の
(図 3)
発想につながらなかった。
この原因としては,不満点が起点だと機器や設備などの直
中から,量販店のメインユーザーである,主婦及び高齢者を
ターゲットとした。
接的な解決や買い物客のふるまいに視点が置かれ,本質的な
しかし,ターゲットユーザーの中でも,急いで必要な商品だ
価値抽出が阻害されることや,価値を表すことばが一般的で
けを効率的に購入したいとか,店舗スタッフとコミュニケーショ
抽象的な表現になるため魅力がなく,アイデア発想のきっかけ
ンしながらゆっくり購入したいなど,求めるサービスや要求が
になりにくいことなどが挙げられる。
大きく異なる買い物客が店舗内に同時に存在することが明ら
これに対し,CJマップのディスカッションでは,現状把握を
目的としているにも関わらずアイデアに関する発言も多かった。
かになり,買い物客の満足を得るためには,従来のPOSシス
テムだけでは対応が難しいことが推測された。
このことから,CJマップの各ラベルに書かれた生の情報がアイ
3.3 アイデアの発想と価値視点による検討
デア発想の基点になりやすいと考えられる。そこで,CJマップ
設定したテーマやターゲット分析,4 種類の CJマップを参考
を活用したアイデア発想を試みることにした。
にしながら自由に発想し,45 のアイデアを抽出した。
また,駅前狭小店及び高級店の満足点を大型・中型量販店
3 CJ マップを基点としたアイデア発想
に盛り込むために,4 種類の CJマップの合計約 300 の意見や
情報,気づきのラベルを買い物客の求める価値という視点で
3.1 テーマの設定
A ∼ Sまでの19 の価値にグルーピングし,1 枚のUX価値マッ
2 章で述べた CJマップから,各店舗ともクーポンやポイント
プにまとめた。この際,発想をより活発にするために,各々の
が使いにくいという意見が多く,O2Oなどのサービスが来店
価値だけでなく,価値を構成する個々のラベルも読めるように
誘導にうまく作用していないことが推測された。また,駅前狭
配慮した。横軸の買い物フローに沿って価値や思考を一覧化
小店及び高級店での主な満足点である,わかりやすい商品情
したことで,
“量販店での買い物”という行為がどのような価値
報や店舗スタッフの高いホスピタリティを大型・中型量販店で
や思考で構成され,各ステップで価値や思考がどのように変化
も実現させ,更に不満点も解消することが必要であると考え
していくのかが直観的に理解できるUX価値マップとなった。
た。これらの考察から,発想のためのテーマを“店舗に誘導
抽出された45 のアイデアは,O2Oなどのサービスに関するア
する送客の仕組み”及び“店舗での快適な買い物”とした。
イデアや店舗内のシステムに関わるアイデア,具体的な機器の
3.2 ターゲットの明確化
アイデアなど多岐にわたっていた。そこで,これらを価値とい
次に,大型・中型量販店での不満点は,他の買い物客の行
う視点で UX価値マップ上にプロットし,価値とアイデアの関
量販店向け POSシステム提案におけるUX デザインへの取組み
25
4 種類の CJ マップ
買い物前
買い物中
会計
買い物後
カートto カートセルフレジ
TM
A. 買い忘れを
MEMOkara
M.レジでイ
M.
レジでイライラしたくない
レジでイライ
ライラし
イラし
ラ た
ラし
たくない
たくな
くない
避けたい
E. 効率的に
に
大型量販店
中型量販店
アイデア
買い物前
駅前狭小店
高級店
高級店
価値
買い物中
A. 買い忘れを
会計
買い物後
M.レジでイライラしたくない
避けたい
E. 効率的に
買いたい
O. 配送サービス
H.ポイントや
クーポンが N. 持ち帰りやすく 受付が面倒
確実に買いたい
使いにくい 袋詰めしてくれ
F. 近いから
たらうれしい
行きやすい J. カートや
P. 冷蔵庫に
かごが使い
S
C. 買い物を
入れるのが
にくい L. 子どもや
イベントとして
面倒
I. 店員さんと
高齢者が
楽しみたい
気になる
G. 商品が 会話したい
R. 駐車システム
見やすい
K. 店内が
Q. 値引きミスや との連携
狭く買い物 S
商品鮮度が
S. 品ぞろえ D. 欲しい
しにくい
商品が
心配
が豊富
ある
B. 必要な分を
図 4.UX 価値マップから展開した UX アイデアマップ ̶ 4 種 類の CJ
マップのラベルを買い物客の思考や価値視点でグルーピングして一つにま
とめたUX 価値マップに,抽出したアイデアをプロットした。
UX idea map obtained by developing UX value map
買いたい
い
IT エクスプレスレーン
O.. 配
O
配送サービス
サ
受付が面倒
付が面倒
が
クーポンが
ク ポンが
ポンが N
N.. 持ち
持ち帰りやすく
持ち帰りや
持ち帰り
持ち帰
ち帰り
ち帰
りや
やす
やすく
すく
すく 受
確実に買いたい
い
使い難い
使い難
い難い
難い
い
袋詰めしてくれたら
袋詰め
詰め
めして
めし
め
してくれた
てくれた
たら
F. 近い
近いから
いから
ら
うれ
うれし
うれしい
れしい
行きやすい
行き
きやす
すい J
J. カ
カー
ート
トや
や
P.. 冷
P
冷蔵庫に
冷蔵
蔵庫に
庫
カゴが
カゴが
S
入れるのが
入
れる
るのが
が
C 買い物を
C.
コンシェルジュレーン
使い難い L.
L こどもや
や
面
面倒
イベントとして
て
I.I. 店
店員さんと
員さんと
んと
高齢者が
高齢者
齢者が
者が
が
G.
商品が
商
商品
品が
が
楽しみたい
会話したい
話 たい
話した
気になる
気にな
にな
なる
なる
見やすい
見や
やす
すい 会話した
駐車システム
車システ
車
テム
テム
K 店内が狭
K.
店内が狭く
店内
く
Q 値引きミスや R.. 駐車シス
Q.
との
との連携
の連
連
買い物し難
買
買い物し難い
い物し い
商品鮮度が
い
S. 品揃え D. 欲しい
S
S
心配
商品が
が
量販店が注力している価値
が豊富
が
豊富
他社のサービス
ある
B 必要な分を
B.
H.ポイン
H.
ポイン
ントや
トや
図 5.デザイン提案をプロットした UX 提案マップ ̶ 図 4 のアイデアか
ら,価値と価値のつながりを視点にブラッシュアップしたデザイン提案を
行った。
UX proposal map showing plotted design proposals
カートtoカートセルフレジ
車で買い物に来た家族連れの買い物客など,
子どもと楽しく会計しカートのままスムーズに駐車場へ。
IT エクスプレスレーン
とにかく早く会計を済ませたい買い物客に対応
した,スピード優先の電子マネー専用レーン。
クーポンも利用しやすく賢い買い物が簡単に。
係が視覚的に確認でき,アイデアの統合や追加検討などが容
電子マネー決済機
。そし
易に判断できるUXアイデアマップに展開した(図 4)
利用可能なクーポンが
自動的に利用される。
て,価値と価値をつなげるPOSシステムやサービスの新たなア
イデアが更に追加された。
4 デザイン提案
デザイン提案に向けて,他社のシステムやサービス,及び量
販店が行っているサービスもUXアイデアマップにプロットし,
会員事前認証及び
電子マネーチャージ機
現金を事前に電子マネーに。
レジ袋不要も事前に宣言。
サイネージ及びデジタルクーポン発券機
クーポンを会員カードやスマートフォンを
タッチして取得。
他社とは合致せず,かつ量販店のサービスに関わる価値とは
親和性があるアイデアに絞り込んだ。更に,その中から当社な
らではの技術や仕組みを生かせるアイデアを選択した。
その結果,テーマの一つである店舗に誘導する送客の仕組
図 6.ITエクスプレスレーンとカートtoカートセルフレジ ̶ 店舗での
快適な買い物を実現するサービスを提案した。また,モックアップを作成
し,リテールテック JAPAN 2014 に出展し多くの意見を収集した。
IT express lane and cart-to-cart self checkout system
みを実現するために“MEMOkaraTM ”サービスを,もう一つの
テーマである店舗での快適な買い物を実現するために“ITエ
。
期待できる(図 6)
クスプレスレーン”,
“カートtoカートセルフレジ”,及び“コン
カートtoカートセルフレジは,買い物客のタブレットを装着
シェルジュレーン”の三つのレーンを用意することで,店舗ス
して商品情報やレシピなどを見ながら買い物ができ,カートの
タッフを増やすことなく,急ぎの主婦からゆっくりとサービスを
まま横付けしてスムーズに会計できる。従来のセルフレジより
受けたい高齢者まで,様々な買い物客の要求に対応するデザ
設置面積が小さく,設置台数が増やせる(図 6)
。
。
インを提案した(図 5)
TM
コンシェルジュレーンは,決済方法を自由に選べ,袋詰めな
MEMOkara は,スマートフォンやタブレットに書いた買い
どは店舗スタッフが行う,よりホスピタリティの高いサービスを
物メモを,購入予定情報として店舗が活用し,メモに対して有
提供する。これは,ITエクスプレスレーン及びカートtoカートセ
効なクーポンや情報を送り,買い物客を店舗へ誘導するO2O
ルフレジで削減できる店舗スタッフでサービスが可能である。
サービスである。
これらの中で,MEMOkaraTM ,ITエクスプレスレーン,及び
ITエクスプレスレーンは,電子マネー対応のお客さまカード
カートtoカートセルフレジは,プロトタイプをリテールテック
やスマートフォンによる会計のスピードアップと買い物客に合っ
JAPAN 2014 に出展し,好評を得るとともに多くの意見を収集
たクーポンの配信ができるPOSシステムで,レジ待ち解消が
することができた。
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東芝レビュー Vol.69 No.10(2014)
5 東芝テックの UXデザインプロセス
ここまで述べてきた取組みから,買い物客の行動や思考,気
づきなどのラベルで構成された CJマップ層をベースに,UX価
値マップ層からアイデアや提案に対する意見や評価結果などの
フィードバック層へと情報を順にレイヤ状に重ねて可視化するこ
とで,各層で新しいアイデアの発想やブラッシュアップを促進す
。また,一つのツールを最大限活
る方法が見いだされた(図7)
用することで,ツール作成の時間を最小限にとどめ,アイデア
発想に時間を配分しやすくなることも大きなメリットになった。
特
集
お客さま,お店,街の皆さまの求める価値をどなたでもわかりやすく,
使いやすいカタチでの提案を目指しています。
街がうれしい
「このお店があるからうれしい」
につながる機器やシステム,
サービス提案を目指します。
お店がうれしい
お客さまのご要望に答えやすく,
サービスしやすい,
「店舗スタッフの
皆さまがうれしい」を目指します。
お客さまがうれしい
お子さまからご高齢の方まで,
多様なお客さまの
「私がうれしい」を目指します。
ユニバーサルデザイン=アクセシビリティ+ユーザビリティ
フィードバック層
提案に対する VoC や
評価結果から
提案の有効性確認と
方向性を分析
UX 提案層
アイデア V
図 8.リテールソリューション事業における UX デザインの考え方 ̶ 買
い物客の満足を第一に,店舗運営や社会における店舗のあり方も考慮した
コンセプトである。
UX design concept for retail solutions business
アイデアⅣ
アイデアの統合と
他社や市場動向を確認
提案へ
て買い物ができる環境やシステム,サービスなどのアイデアを
。
提供していくことを目標にしている(図 8)
今回のデザイン提案は,
「お客さまがうれしい」と「お店がう
UX アイデア層
アイデアⅢ
アイデアを一覧化して
アイデアとのつながりから
新たに発想
UX 価値マップ層
アイデアⅡ
価値を視点に情報を
グルーピング,価値と価値
とのつながりから発想
CJ マップ層
れしい」に注目したアイデアとなった。
7 あとがき
アイデア発想のためには,知識や経験をデザイナー自身の
アイデアⅠ
現状を一覧化
全体像を把握して,
まずは思いつくままに
アイデア創出
VoC:顧客の声
思考の中で醸成することが必要である。
UXデザイン手法の活用は,CJマップをデザイナー自身が作
成することで知識や経験の背景となる価値に対する意識が醸
成され,アイデア発想につながりやすい。また,CJマップに情
報を積層していく一連の手法は,知識や経験,ディスカッショ
図 7.CJ マップによる東芝テックの UX デザインプロセス ̶ CJマップ
層をベースに,情報をレイヤ状に重ねて可視化することでアイデアを発想す
る手法を開発した。
Toshiba TEC Corporation's UX design process with CJ maps
ンでの意見,アイデア発想などを思考しやすい形で視覚的に
整理し,定着する手段として効果的であるとともに,アイデア
の検証にも利用できる。
今後,デザイン提案に対する買い物客や店舗スタッフの意
6 リテールソリューション事業における
UXデザインの考え方
見や技術的課題などもフィードバック層に反映させ,製品化の
方向性を検討していく。
東芝グループのUXデザインコンセプトを基に,当社リテー
ルソリューション事業に展開したUXデザインの考え方は,店
舗で商品を購入する買い物客の満足を目指す「お客さまがうれ
しい」,店舗スタッフが買い物客の要望に応えやすくサービス
がしやすいを目指す「お店がうれしい」,更に地域の暮らしに
役だつ店舗であるための機器やシステム,サービスの提案を目
指す「街がうれしい」と位置づけている。そして,使いやすさ
であるユーザビリティと高齢者や障がい者などに対しての配慮
であるアクセシビリティとの実現による,誰でも使いやすいユ
ニバーサルデザインをベースに,より多くの買い物客が満足し
量販店向け POSシステム提案におけるUX デザインへの取組み
駒宮 祐子 KOMAMIYA Yuko
東芝テック(株)商品・技術戦略企画部 デザイン室参事。
製品デザイン,及びユーザビリティやユニバーサルデザイン,
UXデザインの企画運営に従事。日本デザイン学会会員。
Toshiba TEC Corp.
星野 直樹 HOSHINO Naoki
東芝テック(株)商品・技術戦略企画部 デザイン室主務。
製品デザイン,ユーザビリティ評 価,及びユニバーサルデザ
イン,UXデザイン推進業務に従事。
Toshiba TEC Corp.
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