医用画像とCT再構成理論

医用画像とCT再構成理論
さまざまな医用画像
—  X線画像とFPD
—  X線CT
—  MRIとPETなどの核医学画像
—  超音波画像
—  内視鏡、カプセル内視鏡
—  PACS、電子カルテ
X線
—  1895年、ドイツのW.C. レントゲンが発
見した高エネルギの電磁波(光子線)。
—  X線を発生するX線管の例を下に示す。
フィラメントから発した電子ビームがタン
グステン製のターゲットに衝突することで、
X線が発生する。
1896年のレントゲン写真
http://ja.wikipedia.org/wiki/ヴィルヘルム・レントゲン
医用画像ハンドブック(オーム社)、p.403
X線画像の形成
—  X線を画像化する装置として、増感紙-フィルム系が利用されてきた。こ
れは、X線蛍光体を塗布した増感紙で銀塩フィルムをサンドイッチした構
造である。
医用画像ハンドブック(オーム社)、p.468
—  1983年に商品化されたCR(Computed Radiography)によって、デジ
タルX線画像の取得が容易になった。これは、IP(イメージングプレート)
に形成した潜像を、下図のように読み出し、A/D変換する方式である。
医用画像ハンドブック(オーム社)、p.468
FPD(Flat Panel Detector)
—  CRは、撮影と同時にデジタル画像が取得できるわけでは
ない。2000年前後から実用化が進んだFPDは、デジタル
カメラの画像センサのように、撮影と同時に、デジタル画像
が形成される。FPDには、X線を蛍光体で可視光に変換す
る間接型と、X線を電荷に変換する直接型がある。
医用画像ハンドブック(オーム社)、p.478
FPDを用いたX線撮影装置
—  FPDによって、デジタルX線画像をリアルタイムに取得可能
になり、X線撮影装置が飛躍的に多様化した。
医用画像ハンドブック(オーム社)、p.486
9インチFPDは1472×1472画素
17インチFPDは2880×2880画素
ともに30fps
医用画像ハンドブック(オーム社)、p.486
X線アンギオグラフィ
—  血管にX線が透過しにくい造影剤を注入し、X線撮影を行う。
毎秒数フレームの画像を動画として確認することができる。
カテーテルを血管に挿入した状態をリアルタイムに確認で
き、動脈硬化の治療等に利用される。
http://www.cvi.or.jp/z-kensa-kateteru.html
http://ja.wikipedia.org/wiki/血管造影
超音波画像装置
—  体表面に当てたプローブから超音波(2MHz 20MHz程
度)を照射し、体内から反射する波を観察し、画像化する。
http://www.kanazawa-hosp.jp/service/sanfuji/sanfuji03_4.htm
内視鏡
—  「胃カメラ」ともよばれる内視鏡は、1950年に東大医学部
とオリンパス光学が発明した。下図のような装置構成であ
る。現在では、胃だけではなく、大腸、小腸など、内臓の各
部を観察できる内視鏡が商品化されている。
医用画像ハンドブック(オーム社)、p.1328
http://ja.wikipedia.org/wiki/内視鏡#mediaviewer/ファイル:Flexibles_Endoskop.jpg
カプセル内視鏡
—  通常の内視鏡で観察できる範囲は、概ね、食道から十二指
腸までと、直腸から大腸までである。小腸を観察できる内視
鏡も存在するが、かなり特殊な装置である。
—  カプセル内視鏡は、小腸を観察するために左図の錠剤状
のカメラを飲み込み、右図のように映像を無線受信する装
置である。この装置では、1秒に2枚、8時間で6万枚の画
像を撮影する。
http://www.nikkei.com/article/DGXNASFK0402R_U3A200C1000000/
http://www.nikkeibp.co.jp/article/news/20090415/146577/
CT画像の再構成理論
コンピュータ断層撮影
—  コンピュータ断層撮影(CT、Computed Tomography)は、
X線などによる走査映像をコンピュータ処理することで、人
体の内部画像を再構成する技術。
http://www.chuo-c.jp/visitors/images/ct.jpg
主な断層撮影技術
—  X線CT:全周囲方向から被検査物のX線投影像を取得し、
それを再構成することで、内部の3次元構造を再構成する。
—  MRI:核磁気共鳴画像法(Magnetic Resonance
Imaging)。人体に強い磁場を与えることで、水素原子(水
分)の3次元分布を計測する。
—  PET:ポジトロン断層法(Positron Emission
Tomography)。人体に投与した放射性化合物(トレー
サー)が放出するガンマ線を検出し、3次元画像化する。
—  その他に超音波CT、SPECT、光トポグラフィなどがある。
X線CT
—  1917年、数学者J. Radonが「2次元あるいは3次元の物
体はその投影データの無限集合から一意的に再構成でき
る」ことを証明。
—  1970年頃、英国EMI社のG.N.Hounsfieldが頭部専用の
X線CTを開発することに成功。日本には、1975年に東京
女子医大に設置された。
—  その後、プロセッサの進歩、メモリの大容量化、高性能な固
体検出器の開発、走査メカニズムの改良などにより、性能
が飛躍的に向上した。
X線CT装置の構成
—  X線源とX線検出器が回転する。各回転角で、X線源と検出
器が平行移動し、断面の投影像を得る。この測定を180°
繰り返すことで、多数の断面像を取得する。
投影像の生成
—  対象物体の断面をxy平面とし、断面上におけるX線の減衰
量分布をf(x,y)とする。X線の照射方向をt軸、t軸と直交する
r方向にX線源と検出器を走査する。走査位置rにおけるX
線の検出量をI0(r)とすると、I0(r)は照射したX線の強度Iに
対して、下式になる。
% +#
(
&
Io (r) = I exp " $ "# f (x, y)dt)
・・・(1)
'
*
—  (x,y)と(r,t)の関係は、x軸に対するr軸の回転角θを用いて、
次のようになる。
" r% " cos(
!
$ ' =$
# t & # )sin (
sin ( %" x %
'$ '
cos( &# y &
・・・(2)
ラドン変換
—  式(1)の対数をとることで、次式を得る。
I
$ "# f (x, y)dt = ln I (r)
・・・(3)
0
—  式(3)左辺に式(2)を代入することで、次式を得る。
+#
+$
g(r," ) = % #$ f (r cos" # t sin " ,r sin " + t cos " )dt ・・・(4)
!
—  g(r,θ)は、2次元分布f(x,y)の投影像を、(r,θ)をパラメータと
して表現したものである。これをf(x,y)の投影、あるいはラド
! ン変換とよぶ。g(r,θ)を画像化したものをサイノグラムとよぶ。
—  CT画像の再構成は、投影から元の分布f(x,y)を求めること
である。逆ラドン変換とも呼ばれる。
人体頭部模型とラドン変換の例
Sheppファントム
Matlabのヘルプドキュメントから抜粋
中央断面定理
(フーリエ切断定理)1/2
—  投影g(r,θ)のrに関する1次元フーリエ変換G(s,θ)が、2次元
分布 f(x,y)の2次元フーリエ変換F(u,v)と、原点を通るs軸
方向において等しくなる性質を中央断面定理とよぶ。
—  f(x,y)の2次元フーリエ変換F(u,v)は次式で定義される。
F(u,v) =
+#
+#
" j 2% (ux +vy )
f
(x,
y)
e
dxdy
$ "# $ "#
・・・(5)
—  g(r,θ)のrに関する1次元フーリエ変換G(s,θ)は次式である。
!
!
G(s," ) =
+%
# j 2$sr
g(r,
"
)e
dr
& #%
中央断面定理
(フーリエ切断定理)2/2
—  (r,t)を(x,y)に変数変換することで、G(s,θ)を変形する。
#
=#
G(s, ! ) =
式(4)を代入
!"
+"
!"
g(r, ! )e! j 2 ! sr dr
{#
式(5)と比べることで =
+"
!"
+"
+"
!"
!"
+"
+"
!"
!"
# #
=# #
=
式(2)で変数変換
+"
}
f (r cos! ! t sin ! , r sin ! + t cos! )dt e! j 2 ! sr dr
f (r cos! ! t sin ! , r sin ! + t cos! )e! j 2 ! sr dtdr
f (x, y)e! j 2 ! ( xs cos! +yssin! ) dx dy
F(s cos! , ssin ! ) = F(u, v)
—  G(s,θ)=F(u,v)の関係を中央断面定理とよぶ。
中央断面定理を用いた再構成
(フーリエ変換法)
—  下図のように、θごとに測定された投影のrに関する1次元
フーリエ変換を、uv平面においてθ方向となるs軸上に与え
れば、2次元分布f(x,y)の2次元フーリエ変換を得る。これを
逆変換すれば、f(x,y)を再構成することができる。
フーリエ変換法のメリット/デメリット
—  メリット
—  FFT(高速フーリエ変換)を利用できるので、計算が高速であ
る。
—  デメリット
—  2次元フーリエ変換は(u,v)、(x,y)について直交座標系で行うこ
とが一般的である。一方、G(s,θ)のサンプリング点は、(u,v)の
正方格子と一致しないので、補間が必要になる。この補間が
計算誤差となり、再構成画像が劣化する。
—  実際の装置ではフーリエ変換法はあまり利用されない。
フィルタ逆投影法1/3
—  一つの投影像を3次元空間に逆投影するという操作は、次
ページの図8.6(b)に示すように、それぞれの投影値を投
影直線上にある単位格子に、均等に値を振り分けることで
ある。
—  全ての方向からの投影像を逆投影することで、概略の3次
元分布b(x,y) (単純逆投影分布)を得ることができる。これ
は、真の3次元分布f(x,y)よりもぼけており、f(x,y)に点拡が
り関数h(x,y)を畳み込んだものになる。
b(x, y) = f (x, y) " h(x, y)
!
フィルタ逆投影法2/3
—  2次元デルタ関数δ(x,y)の投影g(r,θ)は、次式のように1次
元デルタ関数δ(r)になる。
g(r," ) =
&
+%
$%
# (x, y)dt = # (r)
—  1次元デルタ関数の逆投影βθ(x,y)は、投影方向に沿った直
線(xcosθ+ysinθ=0)上でのみ値をとるので、次式となる。
!
" (x, y) = $ (x cos# + y sin # )
#
—  βθ(x,y)をすべてのθについて積分すると次式になる。β(x,y)
はデルタ関数の逆投影像であり、単純逆投影による点拡が
り関数と考えることができる。
!
1
"(x, y) =
x2 + y2
フィルタ逆投影法3/3
—  単純逆投影分布b(x,y)と真の2次元分布f(x,y)、点拡がり関
数β(x,y)の関係は次のようになる。
b(x, y) = f (x, y) " #(x, y)
—  したがって、単純逆投影分布b(x,y)に点拡がり関数β(x,y)を
逆畳み込みすることで、真の2次元分布f(x,y)を推定するこ
!
とができる。
—  実際に広く利用されている方法は、このように2次元のフィ
ルタリングを行うのではない。あらかじめ投影g(r,θ)の各rに
関して1次元フィルタリングを行っておき、その上で、逆投影
処理を行う方法である。
参考画像
篠原広行 他、「断層撮像法の基礎 第38回 トモシンセシスと再構成」、断層映像研究会雑誌、第39巻 第3号、pp.21-31、2013年1月から