山形医学 2 0 1 4 ;3 ( 22 ) :7 7 8 0 子宮広間膜裂孔ヘルニアの1例 CTで術前診断し得た子宮広間膜裂孔ヘルニアの1例 柴田健一* ,小野寺雄二** ,萩野資久** ,陳 正浩** ,橋爪英二** ,鈴木 晃** ,木村 理* * 山形大学医学部外科学第一講座 ** 日本海総合病院外科 (平成26 年3月14 日受理) 抄 録 腹部のイレウスの原因に内ヘルニアがあるが、術前に診断することは難しい。今回、われわれは、比 較的まれな疾患である子宮広間膜裂孔ヘルニアをCTで術前診断して、手術を行った1例を経験したの で報告する。症例は5 9 歳、女性。下腹部痛を主訴に外来を受診した。腹部CT検査で、骨盤内に限局した 小腸のループ形成がみられた。子宮と直腸を右側に圧排しており,子宮広間膜裂孔ヘルニアと診断し た。外科に入院となり、緊急手術を施行した。開腹したところ、小腸が左子宮広間膜裂孔に入り込んで 内ヘルニアとなっていた。嵌頓を解除した後、子宮広間膜に直径約2c m の裂孔を確認し、縫合閉鎖した。 嵌頓した小腸は部分切除を行った。本疾患の診断にはCTが有用であり、その所見としては、骨盤内の限 局した小腸のループ像と子宮および直腸の圧排が特徴的である。開腹歴のない女性のイレウスにおいて は、本疾患も念頭において診療に当たるべきであると考えられた。 キーワード :子宮広間膜裂孔ヘルニア、小腸イレウス 液ガス分析でもアシドーシスは見られなかった。 緒 言 腹部CT所見(図1) :骨盤内に拡張した小腸像があり、 左卵巣動静脈の尾側でループ形成がみられた。子宮と 腹腔内の内ヘルニアはイレウスをきたすことが多い 直腸を右側に圧排しており、子宮広間膜と裂孔を直接 が、術前診断に苦慮することも多い。今回、われわれ 確認はできなかったが、子宮広間膜裂孔ヘルニアと診 は、比較的まれな疾患である子宮広間膜裂孔ヘルニア 断した。 をCTで術前診断して、手術を行った1例を経験した 経過:以上の所見から、左子宮広間膜裂孔ヘルニアと ので報告する。 診断し、腹部所見が強かったことから、緊急手術を施 行した。 症 例 手術所見(図2) :下腹部正中切開で開腹したところ、 小腸の拡張がみられ、回盲部から5 5 c m の位置で、小腸 症例:5 9 歳、女性 が左子宮広間膜に前方から後方に入り込んで内ヘルニ 主訴:下腹部痛 アとなっていた。腸管を引き出し、左子宮広間膜に前 既往歴:特記事項なし 葉と後葉をともに貫く直径約2c m の裂孔を確認して、 妊産歴:3妊3産 すべて3 8 0 0 g台の児を自然分娩 縫合閉鎖した。右側の子宮広間膜には裂孔は見られな 現病歴:2 0 1 2 年1 2 月の朝から下腹部痛を自覚し、次第 かった。嵌頓した小腸は色調が悪く、約1 0 c m の部分切 に増強してきたため、救急外来を受診した。 除を行った。 現症:身長1 6 5 . 0 c m 、体重6 0 . 0 ㎏、血圧1 5 6 / 9 6 m m H g 、脈 術後経過:経過は良好で、第3病日に食事を開始し、 拍6 7 / 分、整、体温3 6 . 7 ℃、下腹部を中心に強い圧痛あ 第7病日に退院となった。現在まで再発を認めていな り、苦悶様顔貌。筋性防御なし。手術瘢痕なし 。リン い。 パ節腫脹なし。 血液生化学所見:血算、生化学とも異常所見なし。血 -7 7- 柴田,小野寺,萩野,陳,橋爪,鈴木,木村 a b 図1.骨盤内に限局した小腸の拡張したループ像がみられ、子宮と直腸を右側に圧排しており子宮広間膜裂孔ヘルニアと 診断した。 a b 図2.a)回盲部から5 5 c m で、小腸が嵌頓して内ヘルニアになっていた。 b)直径約2c m の左子宮広間膜裂孔(矢印)を確認して閉鎖した。 ルニアは、子宮広間膜の欠損による異常裂孔をヘルニ 考 察 ア門として生じる内ヘルニアである。本症の画像診断 において腹部CTが有用であり、Suz uki ら2)はその所見 内ヘルニアはイレウス全体の1%以下とされている としては①Dougl as 窩内に存在する嵌頓した小腸ルー が、子宮広間膜裂孔ヘルニアは異常裂孔ヘルニアに属 プ像、②小腸ループによる子宮・S状結腸・直腸の偏 し内ヘルニアの0 . 0 1 6 %、異常裂孔ヘルニアの1- 位・圧排像、③怒張した腸間膜血管の患側への集中像 4%と比較的まれな疾患である1)。子宮広間膜裂孔ヘ を報告している。子宮広間膜は薄い間膜であるため、 -7 8- 子宮広間膜裂孔ヘルニアの1例 CTで直接子宮広間膜と裂孔を確認することは困難で あるが、自験例においては、骨盤内に嵌頓した小腸 結 語 ループ像と、それによる子宮と直腸の圧排像の所見が 確認され、術前診断に至っている。 3) 吉村ら 比較的まれな疾患である、子宮広間膜裂孔ヘルニア は本邦における子宮広間膜裂孔ヘルニアの をCTにより術前診断して早期手術を行い、良好な経 報告例8 7 例について検討し、術前診断された例はわず 過を得ることができた1例を経験したので報告した。 か1 0 . 4 %であったと報告している。1 9 9 9 年以前の正診 本疾患の診断にはCTが有用であり、その所見として 率が4 . 5 %であったが、2 0 0 0 年以降の正診率は1 6 . 2 % は、骨盤内の限局した小腸のループ像と子宮および直 とやや上昇しており、CT画像の進歩によるものと 腸の圧排が特徴的である。開腹歴のない女性のイレウ 考 察 し て い る。ま た、Kos akaら 4) は、近 年 のmul t i - de t e c t or CT(MDCT) とmul t i pl anar r e f or mat t i ng スにおいては、本疾患も念頭において診療に当たるべ きであると考えられた。 (MPR)のようなCT機器の進歩により、術前診断能が 向上していると報告している。 参考文献 5) Hunt は 、本症を子宮広間膜の前葉および後葉を貫 通するf e ne s t r at ype と、前葉または後葉の間隙のみを 1. 小松英明,長嵜寿矢,柴田良仁,山口広之:CTにて 貫くpouc ht ype に分類している。その成因としては① 術前診断し腹腔鏡下に治療した左子宮広間膜裂孔ヘルニ アの1例.日臨外会誌 71:29973001,2010 先天性異常、②妊娠、分娩、手術、重労働等の外力に 伴う裂傷によるもの、③加齢に伴う広間膜の弾力性の 2. Suz ukiM,Takahas hiT,FunaiH,Uogi s hiM,I s obe ol ogi ci magi ngofhe r ni at i onof T,KannoS,e tal . :Radi 低下によるもの、④骨盤内の炎症後の組織の癒着や歪 t he s mal l bowe lt hr ough a de f e c ti n t he br oad みによるものをあげている。谷岡ら6) は、本邦報告例 9 0 例の検討で、7 9 例(8 8 %)はf e ne s t r at ype であった と報告している。 104,1986 l i game nt .Gas t r oi nt e s tRadi ol11:1023. 吉村文博,古田晋平,金谷誠一郎,小森義之,櫻井洋 一,宇山一朗:腹腔鏡下手術にて診断・治療した子宮広 自 験 例 は、子 宮 広 間 膜 の 前、後 葉 を と も に 貫 く 間膜裂孔ヘルニアの1例.日臨外会誌:565569,2009 f e ne s t r at ype であった。3 8 0 0 g台の大きめの児を3回 4. Kos aka N,Ue mat s u H,Ki mur a H,Yamamor iS, 分娩しており、妊娠、分娩の影響による可能性を疑う t e c t orCTf orpr e Hi r anoK,I t ohH:Ut i l i t yofmul t i de が、明らかではない。 ope r at i vedi agnos i sofi nt e r nalhe r ni at hr oughade f e c t 自験例では左側のみに裂孔がみられ、右側は正常で ol17:11301133,2007 i nt hebr oadl i game nt .EurRadi あったが、両側に異常裂孔をみとめた報告もあり7)、 5. Hunt AB:Fe ne s t r ae and Pouc he si nt he br oad e nt i alhe r ni a.Sur g l i game nt as an ac t ualand pot 対側の確認は必ず行うべきであると考えられた。 Gyne c olObs t e t58:906913,1934 本邦において、9 0 例を超える本症の報告例がある が、本症を保存的加療によって軽快した報告例は見 6. 谷岡ゆかり,平野厚宜,沖田幸祐,加藤彰,山下智省, 小野恭平他:小腸イレウスを呈した子宮広間膜ヘルニア られなかった。術前にイレウス管を挿入し、減圧す ることで腹腔鏡手術を行った報告例も散見され る1),8),9),10)。赤松ら9) はイレウス管等で十分に腸管内 の1例.日消誌 107:620624,2010 7. 宮澤智徳,冨田広,牧野春彦,畠山勝義:両側に異常 裂孔を認めた子宮広間膜ヘルニアの1例.日臨外会誌 減圧が達成できていれば、慎重な手術操作による腹腔 66:22872290,2005 鏡手術も可能になり、加えて術前診断がなされていれ 8. 山本紀彦,細田洋平,門田和之,西原政好,島田守,岡 ば腹腔鏡下手術が完遂できる可能性は高まると報告し 博史:腹腔鏡にて修復した子宮広間膜裂孔ヘルニアによ ている。自験例では、腹部の圧痛が強く、早期の手術 るイレウスの1例.日臨外会誌 69:928931,2008 が望ましいと考えられ、受診した当日に開腹手術を選 9. 赤松道成,蔵下要,古波倉史子,伊志嶺朝成,長濱正 択した。CTにより、術前診断が得られていたことか 吉,西巻正:術前診断し,腹腔鏡手術を行った子宮広間 ら、下腹部の小開腹のみで完遂することができた。結 膜裂孔ヘルニアの1例.日臨外会誌 72:490493,2011 果として、腸管切除を要する状態であったため、イレ 10. 村上隆啓, 宮城正典:子宮広間膜ヘルニアの2例. ウス管による減圧を待たずに手術を行うことで、良好 な経過を得ることができた。 -7 9- 日腹部救急医会誌 31:697700,2011 Yamagat aMe d J2014;32( 2) :7780 子宮広間膜裂孔ヘルニアの1例 A cas e ofi nt er nalher ni at i on t hr ough a br oad l i gamentdef ect ed t omogr aphy ofut er usdi agnos ed pr eoper at i vel y by comput Keni chiShi bat a*,Yuj iOnoder a**,Mot ohi sa Hagi war a**,Masahi r o Chi n**, Ei j iHashi zume**,Aki r a Suzuki **,Wat ar u Ki mur a* *F i r s tDeper t mentofSur ger y,Yamagat aUni v er s i t yF ac ul t yofMedi c i ne **Depar t mentofSur ger y,Ni honk aiGener alHos pi t al ABSTRACT We r e por ta c as e ofi nt e r nalhe r ni at i on t hr ough a br oad l i game ntde f e c tofut e r usdi agnos e d ve l ybyc omput e dt omogr aphy( CT) .A 59ye ar ol dwomanpr e s e nt i ngwi t hl owe rabdomi nal pr e ope r at i pi t al .Abdomi nope l vi cCTr e ve al e dadi l at e ds mal li nt e s t i nall oopt ot hel e f t pai nwasadmi t t e dt oourhos hedi s pl ac e me ntoft heut e r usandr e c t um t owar dt her i ghts i de .Wedi agnos e dt he oft heut e r usandt r ni at i ont hr oughabr oadl i game ntde f e c tofut e r usandpe r f or me de me r ge nc y pat i e ntwi t hi nt e r nalhe e gme ntwasi nc ar c e r at e di nt hel e f tut e r i nebr oadl i game nt .The r e f or e ,we s ur ge r y .As mal li nt e s t i nals nde t e c t e dade f e c toft heut e r i nebr oadl i game nt ,whi c hwasabout2c mi n r e l e as e dt hehe r ni at i ont he tandpar t i al l yr e s e c t e dt hes mal li nt e s t i ne .I nt hi sc as e ,CTwasus e f ult o di ame t e r .Wes ut ur e dt hede f e c har ac t e r i s t i cCT appe ar anc e soft hi sdi s e as ear el oc al i z e danddi l at e d di agnos et hi sc ondi t i on.Thec l vi cc avi t y ,and i nt e s t i nall oopsc ompr e s s i ng t her e c t um and t heut e r us . i nt e s t i nall oopsi nt hepe sc ondi t i onbeke pti nmi ndi nc as eoff e mal epat i e nt spr e s e nt i ngwi t h The r e f or e ,wer e c omme ndt hatt hi i l e uswi t houtpr i orl apar ot omy . ds:br oadl i game nthe r ni a,s mal li nt e s t i nei l e us Keywor -8 0-
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