インナービジョン 第 29 巻 第 7 号(通巻 340 号) 2014 年 7 月号抜き刷り 第 73 回日本医学放射線学会総会 ランチョンセミナー 11 第二世代面検出器CTの最新臨床応用 1 講演 頭頸部領域におけるサブトラクション技術と 金属アーチファクト低減技術の臨床応用 久野 博文 2 講演 Full Iterative Reconstruction optimized for Specific Organs:開発と臨床応用 立神 史稔 3 講演 独立行政法人 国立がん研究センター東病院放射線診断科 広島大学病院放射線診断科 石灰化サブトラクション技術を用いた 冠動脈 CT の実際 ─ The impact of coronary calcium subtraction CT angiography ─ 田中 良一 岩手医科大学附属病院循環器医療センター循環器放射線科 第 73 回日本医学放射線学会総会 ランチョンセミナー 11 第二世代面検出器CTの最新臨床応用 第 73 回日本医学放射線学会総会が 2014 年 4 月 10 ∼ 13 日の 4 日間にわたって,パシフィコ横浜(横浜市)で開催された。3 日目の 4 月 12 日(土)に行われた,東芝メディカルシステムズ(株)共催のランチョンセミナー 11 では,慶應義塾大学医学部放射線科学教室の 栗林幸夫氏が座長を務め,独立行政法人 国立がん研究センター東病院放射線診断科の久野博文氏,岩手医科大学放射線医学講座の田 中良一氏,広島大学大学院医歯薬保健学研究院 / 研究科放射線診断学研究室の立神史稔氏の 3 名が,「第二世代面検出器 CT の最新臨 床応用」をテーマに講演を行った。 講演 Seminar Report 頭頸部領域におけるサブトラクション技術と 金属アーチファクト低減技術の臨床応用 久野 博文 国 独立行政法人 国立がん研究センター東病院放射線診断科 立がん研究センター東病院は,さ MRI に類似した高コントラスト分解能の ションソフトウェアは,サブトラクショ まざまな臓器のがんに特化した専門 画像評価が可能になれば,皮質骨と骨 ンしたいターゲットを選択することで, 施設であり,特に頭頸部がんの症例数が 髄の両方を対象とした診断法を確立で その部位に対して非線形の位置合わせ 多いことが特色のひとつである。主力装置 きる可能性がある。 を行い,ズレを修正して精度を向上させ の320列ADCT「Aquilion ONE」は, Aquilion ONE によるサブトラクショ ることができる(図 1)。作成したデータは, Area Detectorによる1回転160mm ン技術は,Volume scan で寝台をまっ 多方向の MPR 画像やカラーフュージョ の Volume scan で,頭頸部がんの標的 たく動かさずに 160 mm の広範囲を撮影 ン画像に展開することが可能である。 臓器を寝台移動なしで撮影することができ できるため,ヘリカルアーチファクトや慣 る。Volume scan は形態のみならず動 性力による臓器のブレから根本的に脱却 態評価も可能になるため,当院では頭頸部 できることが特長である。撮影にあたっ 領域で最大限に活用している。本講演では, ては,まず患者さんの下顎骨や頭蓋底を サブトラクション技術を用いた 症例提示 ● Case 1:上咽頭がんの頭蓋底浸潤 Volume scanによる新技術として,サブ し っ かり固 定する。造 影 開 始 後 7 秒 上咽頭がんの TNM 分類では,頭蓋 トラクション技術を用いた頭頸部がん診療 (plain 画像)と 60 秒(腫瘍濃染画像)後 底への浸潤は T 3,頭蓋内進展は T 4 と への応用と,金属アーチファクト低減アル にそれぞれ 1 回転の Volume scan を行い, なるが,従来の CT では皮質骨の微妙な ゴリズム“SEMAR”について解説する。 2 つの画像をサブトラクションすると,造 硬化性変化などから判断していた。骨自 Aquilion ONE による サブトラクション技術を用いた 頭頸部がん診療への応用 影剤で増強された領域のみが強調された 体をサブトラクションして,骨髄の造影 サブトラクション画像が得られる。 効果を伴う領域をより強調させることで, また,骨に特化した骨軟部サブトラク 斜台への浸潤が観察できる(図 2)。脂肪 当院では,Volume scan によるサブト a b c d ラクション技術を頭頸部がんに応用し, 骨浸潤評価に用いている。一般的に, 術前のがんの骨浸潤評価については,皮 質骨に関しては CT の方が優れ,骨髄に Plain CT(7sec) CE CT(60sec) 関しては MRI の方が優れているため, CT と MRI の両方で評価する必要がある。 Aquilion ONE による Volume scan subtraction 技術により,高い空間・時 間 分 解 能を有する C T を用いて造 影 2 INNERVISION (29・7) 2014 Subtraction image Misalignment correction Non-correction 図 1 骨軟部サブトラクション ソフトウェア 図 2 Case 1:上咽頭がんの頭蓋底浸潤の評価 a, b:造影 CT 画像,c:サブトラクション画像, d:脂肪抑制造影 MRI 画像 Seminar Report a b a b c d c d CT と MRI 所見を総合的に判 断し,骨髄進展範囲を同定。 Subtraction image Subtraction color fusion 図 3 Case 2:上顎洞がんの 頭蓋底・頭蓋内浸潤の評価 a, b:造影 CT 画像,c:サブトラクション画 像,d:サブトラクションカラーフュージョン b 図 4 Case 2:上顎洞がんの 神経周囲進展の評価 a, b:造影 CT 画像,c:サブトラクション 画像,d:サブトラクションカラーフュージョン a 0 (HU) 1000 SEMAR (-) SEMAR (+) 5 10 Metal HU (C) HU (SEMAR) Before SEMAR a:SEMAR 適用前,b:SEMAR 適用後 c d b After SEMAR 図 6 Case 4:舌がん(左舌縁),T 4 a a b a,b:造影 MRI 画像, c:CT サブトラクション画像,d:シェーマ 0 Before SEMAR *実際の読影レポートより引用 図 5 Case 3:下歯肉がんの 下顎骨切除の術前評価 2000 a Subtraction color fusion 3000 Subtraction image 当施設では,読影レポート上 に腫瘍進展範囲のシェーマを 添付し,正確な情報を臨床医 に伝える工夫をしている。 After SEMAR 図 7 Case 5:右臼後部がん T 4 a a:SEMAR 適用前,b:SEMAR 適用後 15 20 Fitted values Fitted values 口腔がん n=64 SEMAR(-)→ 平均 866(HU) SEMAR(+)→ 平均 194(HU) 平均口腔内金属数 = 9.2本 図 8 口腔内金属数と SEMAR 効果との 関係(口腔がん 64 例) 抑制の造影 MRI 画像と比較しても,骨 必ず実施し,骨髄への腫瘍の進展をシェー 髄への進展範囲がほぼ遜色ない画像で マで読影レポートに加え,下顎骨切除の 属アーチファクトの影響で,横断像や顎 描出されている。 術式を決定するようにしている(図 5)。 骨再構成画像での評価は難しい(図 7 a)。 ● Case 2:上顎洞がんの頭蓋底・ 頭蓋内浸潤 金属アーチファクト 低減アルゴリズム: SEMAR の臨床応用 サブトラクション画像ではコントラス ト分解能の向上により,中頭蓋底の骨 組織を介した硬膜下の軟部組織への進 口腔内の金属から生じるアーチファク SEMAR を適用することでアーチファク トが低減され,bの画像のように病変の 存在(←)が確認できるようになった。下 顎骨の垂直断面像を再構成すると,下顎 骨との関係について評価が可能となる。 展がある程度把握できる(図 3)。硬膜浸 トは,CT による頭頸部がんの画像評価 当院の口腔がん64 例について,口腔内 潤を伴っていることが,MRI を実施しな において大きな障害となる。Aquilion 金属数と SEMAR 効果との関係を検討 くても判断できるような画像が得られる。 ONE の Single Energy Metal Artifact したところ,可動舌領域の CT 値は口腔 また,神経周囲進展に関しても,サブト Reduction(SEMAR)は,生データベー 内金属数にほぼ関係なく,軟部組織に近 ラクション画像では神経孔内の軟部腫瘍 スで画像の質を低下させることなく,金 い値に低減を示した(図 8)。症例によっ が描出され,従来のルーチンの CT 画像 属アーチファクトのみを低減するアルゴリ て SEMAR 効果にかなりばらつきが認め に追加する画像情報として非常に有用で ズムである。Volume scan の画像データ られ,今後はアーチファクト低減効果の ある(図 4)。 に約 2 分の後処理として適用することで, 条件についての検討が課題と言えるが, ● Case 3:下歯肉がんの下顎骨切除, 腓骨再建 金属アーチファクトの低減が可能となる。 ● Case 4:舌がん(左舌縁) ,T 4 a SEMAR によってアーチファクトの増悪 を示す可能性は低いことから,口腔周辺 下顎骨浸潤を伴う口腔がんの下顎骨 口腔がんの場合,歯の充填物による金 の病変に関してはルーチンで適用しても 切除における術式の決定に術前画像診 属アーチファクトのため腫 瘍の存 在 よいのではないかと考える。 断は必須だが,従来の CT では骨の破壊 すら指摘できないことが多いが,SEMAR 程度を判断するにとどまり,腫瘍の骨髄 を適用することでアーチファクトが低減 本研究は JSPS 科研費 26861033 の助成を受けた ものです。 への進展まで観察することは難しかった。 され,左舌縁の舌がんが確認できるよう サブトラクション画像を追加すると,骨 になった(図 6 →)。さらに,アーチファ の破壊とともに骨髄の中に腫瘍組織がど クトが消えた部分の組織がある程度残っ のくらい進展しているかが,高いコント ているため,元画像ではまったく指摘で ラスト分解能で評価することが可能にな きないような病変を確認できることもある。 る。当院では,CT のサブトラクション画 像や骨条件の画像と造影 MRI の両方を ● Case 5:右臼後部がん,T 4 a 久野 博文 Kuno Hirofumi 2000 年 浜松医科大学医学部医 学科卒業。2007 年 10 月∼国立が ん研究センター東病院放射線診断 科医員。 頭頸部領域の画像診断 を専門として臨床・研究に従事。 右の臼後部がんの症例(図 7)では強い金 INNERVISION (29・7) 2014 3 講演 Seminar Report Full Iterative Reconstruction optimized for Specific Organs: 開発と臨床応用 立神 史稔 逐 広島大学病院放射線診断科 次近似再構成法が近年注目され, 被ばく低減に貢献している。東芝メディ カルシステムズ社では,独自の逐次近似応用 Full IR では認められない(図 2)。 Full IR の初期検討 2)低コントラスト分解能 ● Full IR の原理 Catphan(低コントラストモジュール) 再構成法である「AIDR 3 D」をすべての Full IR は,オリジナルの投影データ を 200 mA と 50 mA で撮影し評価した CT機種に標準搭載している。AIDR 3Dは, と初期値から作成した投影データの差異 (図 3) 。200 mA(図 3 上段)では,FBP 従来の FBP 法を併用する Hybrid IR で を比較し,さまざまなモデルを用いて正 から AIDR 3 D,Full IR となるに従って あり,FBP上で統計学的ノイズモデルなど しいと判断されるデータのみを画像に反 画像のノイズが低減していることがわかる。 を組み合わせ,繰り返し処理を行うことで 映していく。かつ,隣合う画像ボクセル 特に Full IR では,ファントム内のオブ アーチファクトやノイズを低減する。再構 の CT 値変化や傾きを比較し,ノイズの ジェクトの構造が明瞭に観察できる。 成時間は FBP 法とほぼ同等である。本講 みを効果的に除去する。前者は主に,アー 50 mA(図 3 下段)では,AIDR 3 D の画 演では,現在同社が開発を進めている真の チファクトの低減や空間分解能の向上, 像ノイズは低減しているが,コントラス 意味での逐次近似再構成法である「Full 後者はノイズ低減や低コントラスト分解 ト分解能が向上したとは必ずしも言えな Iterative Reconstruction(Full 能の向上に寄与する。両方の画像を組 い。Full IR では,200 mA より画質は落 IR) 」を紹介する。Full IR は,Hybrid み合わせて 3 D volume data を作成し, ちるが,細かなモジュールの構造も認識 IR では適用できなかった各種モデルが適用 同様の処理を何度も繰り返し実施する。 可能である。 可能であり,大幅な被ばく低減に加え,分 当院では,3 2 0 列 A D C T「A q u i l i o n Full IR は,高コントラスト分解能, 解能の向上が期待できる。 ONE/ViSION Edition」を用いて,Full 低コントラスト分解能ともに向上するこ IR の初期検討を行った。 とが確認された。 1)高コントラスト分解能 伸展固定肺を胸部ファントム(京都科 Hybrid IR の特徴と課題 ●ファントムによる検討 現在使用している Hybrid IR(AIDR ●伸展固定肺 3 D)は,まずスキャナーモデルと統計学 Catphan(高コントラストモジュール) 学社製 LUNGMAN)内に封入し,隙間 的ノイズモデルを組み合わせて投影デー を用いて高コントラスト分解能の評価を を緩衝剤で満たした後,外側に付属品の タからストリークアーチファクトを除去 行った(図 1)。AIDR 3 D の高コントラ チェストプレートを装着して 50 mAs で し,その後,FBP 法で画像再構成を行い, スト分解能は FBP とほぼ同等であり, 撮影した(図 4)。SD 値を測定したところ, 画像上でノイズ除去を繰り返し行うとい Full IR では各種モデルの適用によって FBP では 124 . 0,AIDR 3 D では 100 . 8 , う 2 段階のノイズ低減処理を実施する。 高コントラスト分解能が向上しているこ Full IR では 60 . 7 であった。それぞれ画 Hybrid IR(AIDR 3 D)を用いたこれま とがわかる。また,FBP と AIDR 3 D で 像を拡大すると,Full IR では気管の辺 での報告では,22 ∼ 64%の被ばく低減 は,高周波強調関数でオブジェクト周 縁や緩衝液部分のノイズが格段に低下 が可能とされている。特に,肺野や血管 辺にアンダーシュートが発生しているが, していることがわかる。 系などの高コントラスト 領域において高いノイズ 低減効果が得られている。 FBP(FC51) AIDR 3D(FC51) Full IR FBP(FC51) AIDR 3D(FC51) Full IR 一方,軟部組織などの 低コントラスト領域につ いては,さらなる空間分 解能の向上や被ばく低 減へのアプローチが望ま れる。このような Hybrid IR の課題を改善する手 法として期待されている のが,Full IR である。 4 INNERVISION (29・7) 2014 AIDR 3D の高コントラスト分解能は,FBP とほぼ同等 である。 Full IR では各種モデルの適用により, 高コントラスト 分解能が向上している。 図 1 高コントラストモジュール 120 kV,200 mA 120 kV, 200 mA FBP と AIDR 3Dでは,高周波強調関数にてオブジェクト 周辺にアンダーシュートが発生している。 図 2 高コントラストモジュール 120 kV,200 mA Seminar Report Full IR AIDR 3D FBP SD:124.0 SD:100.8 (18.7%off) SD:60.7 (51.0%off) AIDR 3 D では ノイズに埋もれ てわかりにくい が,F u l l I R で 200 mA FBP(FC51) AIDR 3D (FC51) Full IR は結節(←)が はっきりと描出 されているほか, 小 さな 石 灰 化 50 mA (◀)なども境界 が明瞭に描出さ 図 3 低コントラストモジュール FBP (FC51) SD:63.1 図 4 伸展固定肺 AIDR 3D (FC51) SD:25.7 (59.3% off) れている。 120 kV,50 mAs Full IR SD:6.4 (89.9% off) FBP (FC51) SD:135.6 軟部組織にお AIDR 3D (FC51) SD:36.2 (73.3% off) Full IR SD:8.4 (93.8% off) けるノイズ低減 率について,肝 実質 2 か所と筋 肉に ROI を設定 して測定したと こ ろ,A I D R 3 D では 3 3 ∼ 55%程度のノイ ズ低減率であっ 図 5 肺野(1 . 08 mSv) 120 kV,20 mAs,2 mm FBP(FC13) SD:26.6 たが,F u l l I R 図 6 肺野(0 . 27 mSv) では 78 ∼ 84% 120 kV,5 mAs,2 mm AIDR 3D(FC13) Full IR SD:11.4 SD:6.5 (57.4% off) (75.6% off) と,より大きな FBP(FC51) AIDR 3D(FC51) Full IR SD:118.2 SD:54.0(54.3% off)SD:14.1(88.1% off) SD:14.1(88.1% off) ノイズ低減効果 が得られた。 まとめ 逐次近似再 構成法は,低線 量撮影において ノイズとアーチ ファクトを飛躍 図 7 図 5 の縦隔条件(0 . 27 mSv) 120 kV,5 mAs,5 mm 的に低減させる 図 8 肝実質(1 . 1 mSv) 有用な手法であ 80 kV,135 mAs,0 . 5 mm る。Full IR は, ●臨床症例 と比べると画質は若干落ちるものの, Hybrid IR(AIDR 3 D)ではなし得な 図 5 は,肺野を 1 . 08 mSv で撮影した AIDR 3 D ではノイズに埋もれてわかり かった,空間分解能の向上と低コント 画像である。SD 値は,FBP では 63 . 1 , にくかった細かい血管構造まで,Full ラスト分解能の改善が可能となる。その AIDR 3 D では 25 . 7,Full IR では 6 . 4 IR では描出されている。 ため,さらなる被ばく低減と画質向上の で,Full IR は FBP のほぼ 1 / 10 まで低 図 6 に対し,5 mm 厚で再構成を行っ 両立が期待できるのではないかと考えて 減している。それぞれの画像を拡大すると, た縦隔条件の画像では,SD 値は FBP の いる。 AIDR 3 D に比べ Full IR ではノイズが 26 . 6 から Full IR では 6 . 5 まで低減して 大幅に低減していることがわかる。また, おり,大幅な画質の向上も得られている Full IR では細い血管の構造や境界がか (図 7) 。まだ改善すべき点はあるものの, なり明瞭に観察できる。 将来的にはこのような超低線量での撮影 さらに, 図 5 の 1 / 4 の線 量である をめざしていくべきと考える。 0 . 2 7 m S v での検 討も行 っ た( 図 6)。 図 8 は,1 . 1 mSv で撮影した肝実質の FBP では 135 . 6 だった SD 値は,Full 画像である。肝細胞がんが多発しており, IR では 8 . 4 にまで低減した。図 5 の画像 淡い低吸収の結節が見られる。FBP や 立神 史稔 Tatsugami Fuminari 2000年 大阪医科大学卒業。2005年 大阪医科大学放射線医学教室助手。 2007 年 University Hospital Zurich 留学。2011 年∼広島大学病院放射 線診断科講師。 INNERVISION (29・7) 2014 5 講演 石灰化サブトラクション技術を用いた冠動脈 CT の実際 ─ The impact of coronary calcium subtraction CT angiography ─ Seminar Report 田中 良一 冠 岩手医科大学附属病院循環器医療センター循環器放射線科 動脈サブトラクション CTA は,石 まで検討を重ねるなかで,冠動脈サブト 灰化が除去され血管内が明瞭に観 「Moderate」が最も多かった。 ラクション CTA の有用性が明らかになっ また,当初は1回の息止めでサブトラク 察できるため,有用性が高い。本講演では, た。以下に,検討内容とその評価を報 ションを行っていたものの,息止めを長く 現在,東芝メディカルシステムズ社と共同 告する。 できない患者さんにおいては 2回の息止め 開発を行っている冠動脈サブトラクショ で行った。1回呼吸停止の平均は3.19点, 320 列 ADCT を用いた サブトラクションの特長 ン機能について説明する(2014 年 4 月 中旬リリース開始) 。 冠動脈 CT の現状 2 回呼吸停止は 2 . 78 点と,やはり点数 に若干の差が生じることが preliminary 320 列 ADCT を用いたサブトラクショ study でわかった。 ンは 1 回転の volume scan のため,ヘリ 診断精度は,1 回呼吸停止で行うと非 冠動脈狭窄の低侵襲な診断法として カルスキャンで発生する時相のズレによ 常に良い相関が得られるが,2 回呼吸停 冠動脈 CT が普及していることは周知の るバンディングアーチファクトがないこ 止では感度,特異度,陽性的中率,正 通りである。64 列以上の CT で高い診断 とが大きな利点だ。ハーフ再構成のため, 診率が下がっている(図 1)。 能を有することは論文等でも報告されて データ収集角度のズレが若干生じるが, いる。また,石灰化スコアを測定するこ ヘリカルスキャンのらせん軌道と比べると, とで,有病の可能性の高い症例のスクリー その影響は少ないことがわかっている。 ニングが可能である。ただし,石灰化病 320 列 ADCT を用いて冠動脈サブトラク 1 回呼吸停止の症例について検討した。 変が必ずしも有意狭窄とは限らず,また, ションを行う場合は,できる限り低被ば ただし,このデータは最新型の Aquilion CT では石灰化がある部分の内腔は非常 く,かつ,モーションのないボリューム O N E / V i S I O N E d i t i o n ではなく, に見にくくなることが指摘されている。 データを得ることが条件である。 Aquilion ONE/Global Standard 冠動脈狭窄の主因は動脈硬化である Edition で撮影した結果であり,スキャ Preliminary study が,動脈硬化が進むほど石灰化が顕著 1 回呼吸停止での サブトラクションの精度評価 ン時間は 0 . 35 秒 / 回転である。 になり,冠動脈カテーテル検査(CAG) 実際にどの程度サブトラクションが有 対象症例は,石灰化スコアが 400 以上, を実施する場合にもリスクが高まる。石 効なのか,preliminary study として, 20 ∼ 40 秒の呼吸停止が可能,不整脈 灰化は CT ではアーチファクトが発生す CAG と比較できた 20 例について検討し や BMI> 40 kg/m 2 などは除外した。ス るため,石灰化スコアが 600 ないし 400 た。画質については, 「Uninterpretable キャンパラメータは,0 . 5 mm,120 kVp, 以上の症例は評価が難しいと言われている。 (評価できない) 」 「P o o r(良くない) 」 0 . 35 s/rot,AIDR 3 D standard を用い 常に動いている心臓の特性から,石灰 「Moderate(まあまあ良い) 」 「Good(と た。心拍数 65 以上の症例では βブロッ 化病変の内腔の評価に画像減算法であ ても良い) 」という4 段階の視覚的評価を カーを使用し,造影剤(350 mgl/mL るサブトラクションを適用するのは無理 行った。その結果,全体平均は2 . 98 点で, Iohexol)を注入速度 0 . 07 ×BW(kg) ではないかと考えていた。しかし,これ 1 回呼吸停止 感 度 100 . 0 %(11 / 11) 特異度 2 回呼吸停止 Measure Conventional CCTA Subtraction CCTA True positive 15 15 False positive 20 16 True negative 19 23 False negative 1 1 66 . 7 %(2 / 3) 感度(%) 93 . 8 93 . 8 81 . 0 %(17 / 21) 58 . 6 %(17 / 29) 特異度(%) 48 . 7 59 . 0 陽性的中率 73 . 3 %(11 / 15) 14 . 3 %(2 / 14) 陽性的中率(%) 42 . 9 48 . 4 陰性的中率 100 . 0 %(17 / 17) 94 . 4 %(17 / 18) 陰性的中率(%) 95 . 0 95 . 8 正診率(%) 61 . 8 69 . 1 87 . 5 %(28 / 32) 59 . 4 %(19 / 32) 0 . 741(0 . 598 0 . 885) 0 . 905(0 . 791 1 . 000) 正診率 図 1 Preliminary study の診断精度 6 INNERVISION (29・7) 2014 AUC(95% CI) 図 2 Conventional coronary CTA(CCTA)と Subtraction CCTA の診断率,診断能(参考文献 1)より引用改変) Seminar Report Conventional CCTA Conventional CCTA Subtraction CCTA CAG Subtraction CCTA CAG 図 4 症例 2:50 歳代,男性,石灰化スコア= 895 図 3 症例 1:50 歳代,男性,石灰化スコア= 583 (参考文献 1)より引用転載) mL/s,注入時間 10 秒で注入した。 とが認められた。 ●症例 2 結果は,石灰化スコアの平均は 1276 ただし,この検討方法においては, 図 4 は,50 歳代,男性,石灰化スコア でバラつきが大きく,最低 476,最高 1 回の呼吸停止のスタディであるという 895 の症例である。conventional CT で 3275 と,かなり石灰化スコアが高い人も limitation がある。そのため,2 回の呼吸 は石灰化( )があり,血流は保たれて 含まれている。撮影時の平均心拍数は 停止の場合はどうなのかという疑問が残 はいるようだが,狭窄率がどの程度かが 56 . 3 であり,心拍を抑えた状態で撮影 る。また,Aquilion ONE/ViSION Edi- わかりにくい。そこでサブトラクション している。 tion ではないため,0 . 275 秒 / 回転の結 を行うと,実際よりもやや強めに描出さ 被ばく量は,石灰化スコアやテストイ 果ではない。 れている可能性はあるものの,50%を超 ンジェクションも含めて 1 検査あたり平 そのほか,本研究を進めるにあたって, えるような狭窄( )が見られる。CAG 均 11 . 97 mSv と,許容範囲内であった。 東芝メディカルシステムズ社と共同開発 と対比しても,よく一致していると考え また,サブトラクション用の撮影のみで している心拍によるズレを位置合わせす られる。 は 5 . 21 mSv で,通常の CTA に近い値 るソフトウェアを用いているが,2013 年 となっている。 1 月にリリースした最新の V 3 ではなく, まとめ conventional CT では石灰化のアーチ 数世代前のバージョンを使っている。そ 冠動脈サブトラクション CTA は,高 ファクトなど画質スコアは 2 . 5 と低いが, のため,精度が最新版に比べて若干劣 度石灰化を伴う病変の診断精度を改善 サブトラクションを行うことで 3 . 1 にま ると考えられる。さらに,被ばく低減に しうる技術であると考えている。また, で改善された。また,conventional CT 関しては,同社が開発中の新しい Full ソフトウェアの改良によって,位置合わ では,石灰化がある部分は診断不可能 IR 法を応用するなど,さらなる工夫が必 せの精度の改善が期待できる。当然,ア になるため,診断不可能なセグメント数 要と考える。 プリケーションは改良されているため, の比率が 41 . 8%と高い。サブトラクショ ンを行うと,アーチファクトが残るため 症例提示 2 回呼吸停止への応用も今後進むと思わ れる。実際にすでに実施している範囲で ●症例 1 は,2 回呼吸停止でも良い結果が得られ ものの,診断可能なセグメントの比率が 図 3 は,50 歳代,男性,石灰化スコ ている。ただ,限界がまったくないわけ 87 . 3 % に上がることが証明された。 ア 583 の症例である。conventional CT ではない。すべての石灰化がきれいに除 診断不可能なセグメントが 12 . 7 % ある conventional CT とサブトラクション では強い石灰化が見られ,主幹部(LMT) 去されるわけではないため,適用を守っ CT の診断率,診断能を図 2 に示す。こ は血流が保たれていることがある程度認 て適切に使っていただければと考える。 れは,あくまでも石灰化があるセグメン められるが,左前下行枝(LAD)は,有 トのみを取り出して評価した結果であり, 意 狭 窄か否かがわかりにくい。また, ●参考文献 1)Tanaka, R., et al.:Improved evaluation of calcified segments on coronary CT angiography ; A feasibility study of coronary calcium subtraction.The International Journal of Cardiovascular Imaging , 29(2)Suppl., 75 ∼ 81 , 2013 . 石灰化がないセグメントも含めると数値 diagonal branch に関しては石灰化がか は当然良くなる。石灰化があるセグメン ぶって,血流があるのかどうかがわから トに限定すると,特異度は conventional ない。 CT では 48 . 7%にまで落ちるが,サブト サブトラクションを行うと,LMT の ラクションを併用することで 10%ほど改 石灰化は除去されてやはり狭窄はなかっ 善し,59 . 0%となった。AUC も,con- たことがわかる。LAD はやや強めの狭窄 ventional CT では 0 . 741 だが,サブトラ があるが有意狭窄ではないと考えられ, クションを行うと 0 . 905 であった。ROC diagonal branch は高度な狭窄があるこ 解析を行うと,N 数が少ないためきれい とが認められる。CAG と対比すると, な曲線にはならないが診断能が上がるこ よく一致することがわかる。 田中 良一 Tanaka Ryoichi 1990年 大分医科大学(現大分大学)医 学部卒。92年 大分医科大学放射線科医 員。93年 国立循環器病センター放射線 診療部レジデント。94年 大分医科大学 放射線科医員。98年 国立循環器病セ ンター放射線診療部スタッフ。2006年 岩手医科大学放射線医学講座助教, 2008年 同講師,2013年∼同准教授。 INNERVISION (29・7) 2014 7 2782-①
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