343 アマ無線で山の話

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アマ無線で山の話
私のもうひとつの趣味がアマ無線である。それも・トンと━ツーのモールス符号による無線電信
だ。というのは16才のときこの通信術を学校で習い、10年間もプロ通信士としてメシの種にし
ていた。のち通信士が不要になったので職業を変更したが、せっかくの技術を捨てるのが惜しいの
で趣味に生かした。短波を利用した無線電信は非常に遠くまで届く。とくにアメリカ西海岸のアマ
無線局は、まるで隣町と間違えるほど明瞭で強力に聞こえる。
彼らと通信するときは英語を簡略して交信する。
Good Morning=GM
GoodBye=GB
アドレス=QTH
名前=QRA Dr=dear
妻=XYL
無線機=RIG
天気=WX
年齢=yrs old ES=and
ur=you are
こんな具合の英語なので実に簡単だ。 一例を紹介すると
GM Dr Paul ur 599 QTH Iwakura City es QRA Taka age 79rys old
My family XYL es 1 cat neme Tom WX fine 22c
「おはようございます。親愛なるポールさん。貴方の電波は599非常に強力です。
こちらの住所は岩倉市、私の名はタカオで年齢は79才です。家族は妻と猫のトムが一匹
います。天気は快晴で気温は22度です。」
とこんな具合。太陽の黒点数が11年周期で活発化するが、そのときが電波もよく届く。
今年から再来年にかけてがその最盛期になり、毎朝アメリカと交信し昼間はオーストラリア、
ニュージーランド方面、夕方はヨーロッパと交信できる。電波の調子がよいと数ワットの出力と
数メートルの垂直アンテナでも充分通信可能である。
先日は鳩吹山へ小型無線機を持参し、簡単なワイヤーアンテナを張って、CQ CQ と相手を求
める符号を打つとすぐ CA=カリフォルニアから
応答がきた。それがいつも交信している
PAUL=ポール氏だった。私は
「いまは Home QTH(自宅)でなく山の上だ」
と言うと、彼は
「山か、私もむかし日本の山に登ったことがある」
という。驚いて何という山だ?と聞くと
「むかし軍隊にいたとき日本に駐留していた。
そのとき大阪の人たちと Ibiki 山に登った」
MT イビキと符号を打ってきたので、そんな
山は無いと何度も聞きなおしたら最後に
「思い出した。MT=マウント、イブキだ」
と正確に返事をくれた。なんでも戦後に駐留米軍の
一員として大阪にいたとき登ったらしい。
彼も山が大好きでパロマー山に住んでるほどだ。
「伊吹山は私の自宅から近い日帰り登山ができる。
近いうちに私も登る予定だ」 伝えると
「それは結構。イブキ山に私からヨロシクと
言ってくれ」
「HI(笑い声) OK では GB=さよなら
73=Good luck(お元気で)の意味」
と交信を終わった。いままで外国アマ無線局と
は沢山交信できたし。岩倉市の私の家にも遊びに
きてくれた。中でもドイツのヒマラヤ登山隊、
あるいはベトナム戦争中の米軍、日本復帰前の
JA2ACR 久保田孝夫
沖縄日本人局など、手元にある交信証は貴重な
歴史の証人となっている。