原子・電子シミュレーションによる粒界構造の評価 原子力基礎工学研究部門 腐食損傷機構研究グループ / 原子力材料設計評価研究グループ 都留智仁 緒 言 結晶金属の強化法として結晶粒の微細化などの転位の運動を阻害する方法が広く行われてきた一方、原子力材料においては、粒界での偏析による強度低下や照射欠陥の 生成による脆化が生じるため、結晶欠陥の形成過程や変形過程での挙動の機構論的な理解が必要である。変形への欠陥構造の影響は欠陥の種類によって異なり、粒界の中 でも結晶粒径だけでなく結晶粒の形状や粒界の種類によって異なるため、個々の場合でなく包括的な理解を得なければならない。本研究では、多様な粒界構造の安定性に ついて、第一原理計算と経験ポテンシャルを用いて評価を行い、最も安定な粒界に注目し転位との相互作用の原子論的状態遷移解析を実行し相互作用エネルギーを評価する。 (1)第一原理計算による粒界の安定性の検討(Al, Cu) 2 Grain boundary energy JGB [mJ/m ] 1000 Cu , Al 63A では Al よりも Cu が低い粒界エネルギー。 Mishin potential DFT それ以外では、Al が Cu の 70% 程度の粒界 エネルギー。 Cu では電子が球対象に分布(d 軌道が閉核) 500 Al 6=11A 63A 611A バルクに近い 63A では Cu の方が安定であり過剰体積が 大きな不均質な粒界では Al が安定となる。 6=11B 6=3A 60 120 180 Misorientation angle 4[deg] 結合の方向性が粒界安定性に大きく寄与する。 図 1. 回転角と粒界エネルギーの関係 Al Cu 0.0005 Fe 0.0004 0.001 0.0003 0.0002 0.0005 0.0001 0.0000 0 0 2000 1000 2 Grain boundary energy JGB [mJ/m ] 図 2. 63A と 611A の電子密度 (3)ランダム粒界の構造因子 –2 –2 0.0015 Excess free volume per area in Fe [nm ] (2)対応粒界 (63 ∼ 699) における粒界エネルギーと過剰自由体積 Excess free volume per area in Al [nm ] 611A 不均質な界面を安定化 6=3B 0 0 63A Cu Al では粒界に広がっている(p 軌道の結合の方向性) 粒界エネルギーと自由体積には強い 相関関係がある。 Tetra 粒界エネルギーの低い粒界 Penta Hexa 図 4. ランダム粒界のボロノイ多面体解析 は不純物の偏析サイトに 粒界近傍の不均質領域のボロノイ多面体では、バルクに近い四角形と六角形 なりにくい。 が減少し、五角形面を多く持つ原子が増加する。 ランダム粒界近傍ではアモルファスに近い構造を持つ。 図 3. 粒界エネルギーと過剰自由体積の関係 (4)粒界と転位の相互作用 63 (111)[110] Nudged Elasc Band (NEB) [111] 0.20 [1 12] [110] 䊶ೋᦼ⁁ᘒ䈫ᦨ⚳⁁ᘒ䈎䉌ᔕ䈱Minimum energy path (MEP)䉕ត⚝䈜䉎ᣇᴺ䋮 䊶䊘䊁䊮䉲䊞䊦䈱1࿁ᓸಽ䈱䉂䉕↪䈇䉎䋮 䊶MEP䈮ᴪ䈦䈢ⶄᢙ䈱㕷ὐ䉕䈧䈔䉎䈖䈫䈏䈪䈐䉎 䋮 ࡕ࠺࡞ߩᚑ㧦 (1 ×10 ) 䊶ೋᦼ⁁ᘒ䈫ᦨ⚳⁁ᘒ䈱㑆䉕䈇䈒䈧䈎䈱 䊧䊒䊥䉦䉟䊜䊷䉳䈮ಽഀ䋮 䊶㓞ធ䈜䉎䉟䊜䊷䉳ห჻䉕ᗐ⊛䈭䊋䊈 䈪⚿ว 䋮 Energy difference (eV/Å) Minimum energy path a b = [110] 2 –5 ฦ䉟䊜䊷䉳䈱ㅪ⛯ᕈ䉕⸽ S ( R0 ,....., RN 1 ) Linear interpolation k E ( Ri ) ¦ ( Ri Ri 1 ) 2 ¦ i 1 i 1 2 N N 1 ో䈩䈱䉟䊜䊷䉳䈱䊘䊁䊮䉲䊞䊦䉣䊈䊦䉩䊷䈫䈳䈰 䈱䉣䊈䊦䉩䊷䈎䉌䈭䉎⋡⊛㑐ᢙ䉕ᦨዊൻ䈜䉎 䋮 63 (111)[110] a [110] 2 ii 'E 0.00 –0.10 Normalized displacement (E PN= 1.16×10 -5eV/Å) Layer I Layer II Layer III Layer IV 0 0.5 Reaction coordinate (GPa) 1.5 v 1 の 10000 倍のエネルギー障壁 <Burgers vectorの分解> 䊶ㇱಽォ䈻䈱ಽ⸃ a a a [110] o [211] [12 1] 2 6 6 iv パイエルスポテンシャル iv –0.20 1 iii i 0.5 0.5 'E = 1.16×10 -1eV/Å 0.10 図 6. 反応の最小エネルギー経路 -1.5 v 1.0 0 図 5. 原子論的状態遷移解析(NEB 法) i EP 1.2 活性化エネルギー: ii Reaction energy (eV/Å) Nudged Elasc Band ᴺ㧦 IV III II I iii 䊶☸⇇㕙䈮䈍䈔䉎ಽ⸃ a a a [110] o [112] [111] 2 6 3 DSCᩰሶ 䉴䊁䉾䊒ォ 完全転位は粒界上で DSC 転位とステップ転位に分解される。 ステップ転位は粒界面で不動化するため、後続の転位の障害になる。 図 7. 原子スケールの反応過程 DSC 転位は粒界面に平行な Burgers Vector をもち粒界移動を生じる。 結 論 原子・電子シミュレーションにより、多様な粒界構造の安定性と構造を評価した。その結果、電子が方向性の結合をもつ場合では不均質な界面を埋めるように電子密度が 分布することで安定な粒界を形成することがわかった。また、ランダムな粒界では、バルクの構造と大きく異なり、アモルファスに近い原子構造をとることがわかった。 63 粒界と転位の相互作用では、完全結晶中のパイエルスポテンシャルの 10000 倍もの高いエネルギー障壁を越える必要があることを定量的に示した。
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