日本金属学会誌 第 78 巻 第 7 号(2014)267273 特集「レアメタルのリサイクル関連技術と最前線」 Al2O3CaOSiO2Cu2O 系スラグと溶銅間における 白金族金属の分配比に及ぼすスラグ組成および 酸素分圧の影響 西 嶋 和 貴 山口勉功 岩手大学工学部マテリアル工学科 J. Japan Inst. Met. Mater. Vol. 78, No. 7 (2014), pp. 267 273 Special Issue on Recycle Related Technologies of Rare Metals, and Their Frontier 2014 The Japan Institute of Metals and Materials Effects of Slag Composition and Oxygen Potential on Distribution Ratios of Platinum Group CaO SiO2 Cu2O Slag System and Molten Copper at 1723 K Metals between Al2O3 Waki Nishijimaand Katsunori Yamaguchi Department of Materials Science and Technology, Faculty of Engineering, Iwate University, Morioka 0208551 The demand of platinum group metals (PGM) such as platinum, rhodium and palladium is recently increasing for a catalyst for decomposition of toxic gases in automobiles. The worldwide scarcity and high price of PGM accelerate the PGM recycling. The liquid copper has been used as a collector metal in one of the major methods for the recovery of PGMs from scraps of the automobile catalyst. With the aim of the minimization of the loss of PGM into slag phase, the distribution ratios of platinum, rhodium and palladium between the molten copper and the Al2O3CaOSiO2Cu2O slag under MgO saturation with Q=0.36 and 0.52 (Q= (massCaO+massMgO)/(massCaO+massMgO+massSiO2)) were investigated at 1723 K in the range of the oxygen partial pressure 10-8 to 10-3 kPa. The copper solubility in the slag increases with increasing the oxygen potential, and liquid Cu2O separated from the Al2O3CaOSiO2Cu2O slag with the oxygen partial pressure of 10-3 kPa. When the distribution ratio of /Cu /Cu =(massPGM in slag)/[massPGM in Cu], LsPGM PGMs between the slag and liquid copper was defined as LsPGM for platinum, - - 6 5 rhodium and palladium were almost constant with increasing the oxygen potential up to 10 10 kPa and increased in the range of higher oxygen partial pressure. Based on these distribution ratios, activity coefficients of Pt and Pd oxides in the slag were thermodynamically calculated. The activity coefficients increase with increasing the oxygen potential. [doi:10.2320/jinstmet.JA201404] (Received February 3, 2014; Accepted May 14, 2014; Published July 1, 2014) Keywords: platinum group metal, recycling, molten slag, liquid copper, distribution ratio る方法がある1).酸化熔錬で発生する酸化銅には僅かではあ 1. 緒 言 るが PGM が含まれるために,還元溶錬の Al2O3CaOSiO2 系スラグへ戻され,酸化銅は金属銅に還元される1).本プロ 白金族金属(Platinum Group Metals: PGM)の生産量の約 セスは,未だ経験則に頼る部分が多いのが実状であり,定量 50 が自動車の排気ガス浄化触媒として利用されている. 的な制御が切望されていた.特に還元熔錬においては,いか PGM は貴金属であるとともに,資源量の少なさとその偏在 に溶融銅中に PGM を濃縮させるかが重要である.スラグへ 性からリサイクルの重要性が高まっている.自動車用排ガス の PGM 溶解度や PGM のスラグへの溶解形態に関しては, 浄化触媒はアルミナを主成分とするコージェライト製の構造 Nakamura や Sano ら2,3)による先駆的な報告例が存在し,最 体に白金,ロジウム,パラジウムを担持したものである.乾 近では Okabe や Morita らのグループにより精力的に測定が 式法により自動車用排ガス触媒中の PGM を回収する方法の 試みられている4,5).しかしながら,Al2O3CaOSiO2 系スラ 一つとして,コージェライト構造体を高温,還元性雰囲気で グと溶融銅間における PGM の分配に関する報告例は存在し CaO, SiO2 等のフラックスと PGM のコレクターメタルとし ておらず,分配比に与えるスラグ組成や酸素分圧の影響につ て金属銅を溶融し,Al2O3CaOSiO2 系スラグと溶融銅に分 いては不明である. 離し, PGM を溶銅中に濃縮した後, PGM を含有する銅を そこで本研究では,溶銅を用いた PGM リサイクルプロセ 酸化熔錬し,銅中の PGM 品位を上げ, Cu PGM 合金を得 スにおける還元熔錬工程の基礎として Al2O3CaOSiO2 系ス ラグと溶銅間の PGM ( Pt, Rh, Pd )の分配係数を 1723 K で 岩手大学大学院生(Graduate Student, Iwate University) 測定した.また,得られた PGM の分配比に基づきスラグ中 268 第 日 本 金 属 学 会 誌(2014) 78 巻 の PGM 酸化物の存在形態について考察し,その活量係数を では,式( 1 )で定義される塩基度 Q の異なる 2 種類のスラ 算出した. グを用いた.塩基度の計算にあたってはスラグ中への MgO 溶解度も考慮した. 実 験 2. 方 法 Q=(massCaO+massMgO)/ (massCaO+massMgO+massSiO2) 本実験に用いた実験装置を Fig. 1 に示す. Al2O3 CaO SiO2 Cu2O 系スラグと銅を MgO るつぼで溶融し, 1723 K (1) MgO 溶解度は後述するが,実験後の塩基度はおおよそ Q = 0.36 と Q=0.52 であった. で PGM を分配平衡させた.スラグは純度 99.9 mass の炭 融体間が平衡に到達した後,次式で構成される MgO 安定 酸カルシウムを分解して得た酸化カルシウム,純度 99.9 化 ZrO2 固体電解質を用いた酸素センサーで,系の酸素分圧 mass 以上のシリカと酸化アルミニウムを所定の量混合し pO2 を(ここで pO2 は標準圧力 1×105 Pa で酸素分圧を除算し たものを基本組成とした.この混合物に対して,純度 99.9 た無次元数)測定した. massの酸化銅(Cu2O)を 1~90 mass添加し,系の酸素分 Re/Cr・Cr2O3/ZrO2・MgO/sample/Re/Pt (2) 圧を変化させた.この Al2O3 CaO SiO2 Cu2O 系スラグ 7 g pO2 は 1723 K における Cr2O3 ( s )の標準生成自由エネル と純度 99.99 massの金属銅 4 g,スラグと金属銅の全量に ギー変化6)に基づき得られる式( 3 )に,測定された電池の起 対して 1 mass程度の純度 99.9 mass以上の白金,ロジウ 電力 E(V)を代入することで求めることができる. ム,パラジウムを添加した.この混合試料を MgO るつぼ内 log pO2=11.698・E-14.003 (3) に装入し,1723 K で 1 時間,アルゴン雰囲気中で溶融させ 酸素分圧を測定後さらに 1 時間保持し,試料を取り出し, て保持した.なお,予備実験において,平衡到達までに 1 アルゴンガスを吹き付けて急冷した. スラグ相と金属銅相を注意深く分離した後,両相に含まれ 時間あれば分配比は変化しないことを確認している.本研究 る各元素の化学分析を行った. SiO2 以外の成分濃度は, ICP AES 分析法により,SiO2 濃度は重量法により決定した. 実験結果および考察 3. 本実験における金属相およびスラグ相の分析結果を Table 1 に示す.本研究では,実験データを塩基度 Q と pO2 で整理し ながら考察を進める. 3.1 スラグ中の MgO 溶解度 Al2O3 CaO SiO2 Cu2O 系スラグへの MgO 溶解度を Fig. 2 に示す. Q = 0.52 のスラグ組成では MgO の溶解度は 3 ~ 12 mass程度であり,スラグ中の銅濃度が上昇するにつれ, Fig. 1 MgO の溶解度は高くなる傾向がある.一方, Q = 0.36 のス Schematic diagram of the cell assembly. Table 1 Experimental results of metal and slag for Al2O3CaOSiO2Cu2O system. massX in Metal No. Q log pO2 Pt Rh Pd 1 2 3 4 5 6 7 8 9 0.52 0.52 0.52 0.52 0.52 0.52 0.52 0.52 0.52 -9.77 -8.86 -7.80 -7.45 -7.23 -6.63 -6.05 -5.70 -5.58 1.58 1.57 1.60 1.85 1.60 1.42 1.49 1.32 1.49 1.32 1.37 1.35 1.16 1.37 1.21 1.13 1.12 1.16 1.45 1.57 1.49 1.48 1.64 1.32 1.29 1.30 1.30 10 0.52 -5.34 1.48 1.22 1.36 11 12 13 14 15 16 0.36 0.36 0.36 0.36 0.36 0.36 -9.72 -8.80 -6.88 -6.06 -5.04 -5.23 1.66 1.67 2.20 1.30 1.35 1.47 1.47 1.47 1.47 1.37 1.20 1.16 1.52 1.76 1.30 1.19 1.16 1.22 17 0.36 -5.00 1.49 1.26 1.27 massX in Slag Phase Pt Rh Pd Cu2O Al2O3 SiO2 CaO MgO ― ― ― ― ― ― ― ― ― slag A slag B 0.00062 0.00053 0.0010 0.0028 0.0034 0.0063 0.0083 0.0121 0.0110 0.0113 0.0557 0.00040 0.00044 0.00043 0.00043 0.00095 0.00077 0.0098 0.0014 0.0015 0.0013 0.0060 0.00067 0.00052 0.00087 0.0010 0.0013 0.0017 0.0027 0.0021 0.0028 0.0011 0.0118 0.64 0.98 2.43 3.87 6.35 10.5 13.6 21.5 18.5 18.8 99.4 31.7 29.1 31.4 30.2 28.8 24.0 17.7 19.9 17.1 16.2 0.21 33.1 29.8 32.0 32.0 28.3 31.2 32.1 26.4 27.9 26.0 0.09 29.1 28.0 28.4 27.4 26.4 24.1 22.7 22.6 18.6 22.3 0.16 3.57 6.04 5.80 3.54 5.85 8.26 8.17 7.63 12.1 9.51 0.15 ― ― ― ― ― ― slag A slag B 0.00067 0.00063 0.0026 0.0060 0.0085 0.0093 0.0105 0.1180 0.00060 0.00036 0.00024 0.00046 0.00070 0.0096 0.0098 0.0191 0.00072 0.0010 0.00098 0.0019 0.0032 0.0046 0.0032 0.0503 0.57 1.75 5.83 16.3 23.6 25.7 25.9 99.7 12.7 12.3 11.9 10.0 9.09 8.60 8.65 0.06 49.7 48.8 45.6 37.2 32.0 31.3 30.2 0.03 12.5 12.3 11.6 9.90 8.26 8.45 8.51 0.03 22.3 21.3 23.0 22.3 20.0 20.4 22.1 0.20 Q=(massCaO+massMgO)/(massCaO+massMgO+massSiO2) 7 第 号 269 Al2O3 CaOSiO2 Cu2O 系スラグと溶銅間における白金族金属の分配比に及ぼすスラグ組成および酸素分圧の影響 Fig. 2 MgO solubility of Al2O3CaOSiO2Cu2O system at 1723 K. Fig. 3 Solubility of copper in Al2O3CaOSiO2 system as a function of oxygen partial pressure at 1723 K. Solid marks show the date where miscibility gap takes place in slag phase. ラグでは MgO の溶解度は Q=0.52 に比べ 20~22 mass程 度 と 高 く , ス ラ グ 中 の 銅 濃 度 が 15 mass 以 上 に な る と log(massCu)=log MCu+log K+log(nT)+log[aCu] +1/4・log pO2-log(gCuO0.5) MgO の溶解度は僅かに低くなる傾向を示した.図に示され る様に MgO の溶解度はスラグ中の銅濃度よりも Q の影響 (8) ここで,MCu は銅の式量,(nT)はスラグ 100 g 中の構成成分 の方が大きく,Q が低いと MgO の溶解度は高くなる.本研 のモル数の総和,[aCu]は溶銅相の Cu(l)の活量,(gCuO0.5)は 究で Q を式( 1 )として MgO を含めて定義したのは, MgO スラグ相中の CuO0.5 ( l )の活量係数を表す.[ aCu ]と( gCuO0.5 ) の溶解量が 5~25 massと高く,MgO を無視できないため が pO2 に依存しない場合,既報8,9)でも示されているとおり, である. MgO は塩基性酸化物であることから,塩基度が低 log ( Cu )と log pO2 は傾き 1 / 4 の直線関係を示す. Fig. 3 いと溶解度が高くなる.単純系である CaOSiO2MgO 系ス に,スラグの銅濃度 log ( Cu )と log pO2 の関係を掲げる. ラグにおける MgO 溶解度も mass CaO / mass SiO2 比の Al2O3CaOSiO2 系スラグ中の銅溶解度と酸素分圧の対数の 低下に伴い,MgO 3.2 の溶解度は増加することと一致する7). 間には,おおよそ 1 / 4 の傾きが見られ,本スラグ中の銅は 一価の CuO0.5 として存在していると考えられる. 酸素分圧とスラグ中の銅濃度の関係 塩基度が Q = 0.52 のスラグにおいて, Al2O3 CaO SiO2 Al2O3CaO SiO2Cu2O 系スラグの酸素分圧とスラグ中の Cu2O 系スラグの銅濃度が 18 mass程度以上になると,ス 銅濃度の関係を Fig. 3 に示す.本実験において Al2O3CaO ラグ相は二液相分離を起こした.Q=0.36 では,スラグ中の SiO2 Cu2O 系スラグの酸素分圧は log pO2 =- 9.7 ~- 4.9 の 銅濃度が 20 mass程度を超えると,Q=0.52 のスラグと同 範囲であり,いずれの塩基度においても酸素分圧の上昇に伴 様に二液相分離が起きる.Fig. 3 において高酸素分圧側の黒 い,スラグ中の銅濃度は高くなる.スラグ中の銅の価数は溶 塗りのプロットは二液相分離の値を示している.Q=0.52 に 銅との共存下では一価であることが知られており8,9) ,スラ おける二液相分離した試料の鉛直方向の断面写真を Fig. 4 グ中の銅の酸化形態が CuO0.5(本論文では,活量と活量係数 に掲げる. Al2O3CaOSiO2Cu2O 系スラグにおいて二液相 を論じる場合に限り,Cu2O で考えた場合に比べて CuO0.5 と 分離したスラグは, Table 1 の分析結果に示されるように した場合のほうが組成の依存性が小さい,スラグ中の銅溶解 Cu2O を含む Al2O3 CaO SiO2 系スラグ融体( slag A )と,ほ 度との関連式が簡素化できるなどの理由により,Cu2O 成分 ぼ純粋な Cu2O(slag B)であった. を CuO0.5 として取り扱う)とすると,スラグへの銅の酸化溶 解の反応は次式で表すことができる. Cu(l)+1/4O2(g)=CuO0.5(l) (4) DG 0/J=-60670+21.46T 10) (5) この反応の標準生成自由エネルギー変化 DG 0 と平衡定数 K の間には式( 6 )が成り立ち,平衡定数 K と成分活量 a およ び酸素分圧 pO2 間には式( 7 )の関係がある. 3.3 CuO0.5 の活量係数 スラ グ中 の 銅溶 解 度の 結果 に基 づ き Al2O3 CaO SiO2 Cu2O 系スラグにおける CuO0.5 ( l )の活量係数の算出を試み た.前節で示した式( 8 )から次式が得られる. log(gCuO0.5)=log K+log MCu+log[aCu]+log(nT) +1/4・log pO2-log(massCu) (9) DG 0=-RT ln K (6) 本計算に当たっては,溶銅相とスラグ相に共存する微量元素 K=aCuO0.5(l)/(aCu(l)・pO21/4)=exp{-DG 0/(RT)} (7) の存在は無視し得ると考え,銅は純銅とみなし[ aCu ]= 1 と ここで, R は気体定数( J / mol ・ K ), T は絶対温度( K )を表 した.また,スラグ中の銅は化学量論組成の CuO0.5 (l)と仮 す.式( 7 )に基づき,スラグ中の銅溶解度について整理す 定し, CuO0.5 ( l )の標準生成自由エネルギー変化10) より活量 ると式( 8 )が得られる. 係数を計算した. Fig. 5 および Fig. 6 に CuO0.5( l)の活量係 数に及ぼす酸素分圧およびスラグ中の銅濃度の影響をそれぞ 270 日 本 金 属 学 会 誌(2014) 第 78 巻 Fig. 7 Distribution ratio of platinum against oxygen partial pressure at 1723 K. Fig. 4 Miscibility gap in Al2O3CaOSiO2Cu2O system. る傾向を示した.また,Q=0.36 の CuO0.5(l)の活量係数は, Q=0.52 のスラグに比べて僅かに大きな値を示した. 3.4 Al2O3 CaO SiO2 Cu2O 系スラグと溶銅間の白金,ロ ジウム,パラジウムの分配比 本研究では,スラグと溶銅間の PGM の分配比を次式で定 義した. LsX/Cu=(massX in slag)/[massX in Cu] (10) ここで X は白金,ロジウムないしはパラジウムを表す. Fig. 7 に Al2O3CaOSiO2Cu2O 系スラグと溶銅間の白金の 分配比と酸素分圧の関係を示す.本研究における酸素分圧の 範囲では, Al2O3CaOSiO2Cu2O 系スラグと溶銅間の白金 の分配比は 0.0004~0.008 の値をとり,白金はスラグ相に比 Fig. 5 Activity coefficient of CuO0.5 in Al2O3CaOSiO2 CuO0.5 system as a function of oxygen partial pressure at 1723 K. べ溶銅中に 100 ~ 2500 倍多く分配される.酸素分圧が log pO2=-8.0 程度までは,酸素分圧が上昇しても分配比は変化 していないが, log pO2=- 8.0 より高くなると,酸素分圧の 上昇に伴い白金の分配比は高くなる傾向を示した.また,Q = 0.36 の塩基度スラグの分配比は, Q = 0.52 の値に比べ若 干ではあるが小さな値を示した.ロジウム,パラジウムの分 配比をそれぞれ Fig. 8 および Fig. 9 に示す.いずれの分配 比も Fig. 7 に示した白金とよく類似した挙動を示すことが 分かる.なお,パラジウムの実験では,スラグ塩基度 Q の 影響は白金やロジウムに比べて小さいことが分かる. Fig. 8~ 9 の分配比より白金,ロジウム,パラジウムを含 む排気ガス浄化触媒の還元熔錬において, PGM とコレク ターメタルの銅のスラグへの損失を低減するうえで, PGM 分配と銅のスラグへの溶解度は小さいことが望ましい.本実 験結果に基づくと,還元処理は log pO2=-8 以下に制御する ことで,スラグへの PGM と銅の損失を最も小さくできるこ Fig. 6 Relation between activity coefficient of CuO0.5 and copper content in slag. Solid plots show the date with miscibility gap in slag. とが分かる. 本実験結果に基づくと,白金,ロジウム,パラジウムの分 配比は log pO2 =- 9.7 ~- 8.0 の範囲ではいずれも一定値を とるが, log pO2=- 8.0 を超えると,分配比は一様に上昇す る.分配比は高い順に白金,ロジウム,パラジウムとなる. れ示す.黒塗りのプロットはスラグ相が二液相分離した際の スラグ中の PGM の存在形態は, log pO2 =- 8.0 以下の低酸 値である.酸素分圧が高くなるに伴い,すなわち,スラグ中 素分圧の範囲では,PGM の分配比は酸素分圧に依存しない の銅濃度が高くなるに伴って CuO0.5 (l )の活量係数は低下す ため,ゼロ価である金属状態で溶存しているものと推測す 第 7 号 Al2O3 CaOSiO2 Cu2O 系スラグと溶銅間における白金族金属の分配比に及ぼすスラグ組成および酸素分圧の影響 271 る.一方,酸素分圧が log pO2 =- 8.0 ~- 5.0 の範囲におけ の傾きを示し,本スラグ系と本実験条件下において,白金, る分配比と酸素分圧の関係は,白金,ロジウム,パラジウム ロジウム,パラジウムは PtO, RhO1.5, PdO の酸化形態とゼ の順に傾きが大きくなる. ロ価の金属態の混合状態でスラグ中に溶解しているものと考 今,スラグ中の PGM の溶解形態を酸化物と仮定すると, その溶解反応は次式で示される. X(l)+y/2 O2(g)=XOy える. Fig. 10 にはスラグ中の銅濃度と分配比の関係を示す.白 (11) 金,ロジウム,パラジウムの分配比は,スラグ中の銅濃度の ここで X は Pt, Pd ないしは Rh を, y は化学量論係数を示 増加に伴い直線的に上昇する傾向を示した.特に白金の分配 す.この反応式の平衡定数 K は,活量 a と酸素分圧 pO2 より 比は銅濃度の増加に伴い大きく上昇する.著者らは,FeOx 式(12)で表される. SiO2 系スラグへの白金の溶解度を測定し,スラグへの白金 K=aXOy/(aX(l)・pO2y/2) (12) 溶解度はスラグ中の銅溶解度の増加に伴い大きくなることを さらに式(12)に基づき,スラグと溶銅間の PGM の分配につ 明らかにした11) .本実験はスラグ系が,また測定値の対象 いて整理すると式(13)が得られる. が分配と溶解度で異なるが,スラグ中の銅が PGM の溶解と log LsX/Cu=log K+log[gX]+log(nT)-log(gXOy) -log[nT]+y/2・log pO2 分配に密接に関係していることを示す.塩基度の影響におい (13) ここで,[ gX ]と( gXOy)はそれぞれ溶銅中とスラグ中の PGM ては,塩基度が低い Q = 0.36 のスラグの分配比は Q = 0.52 の値に比べて銅溶解度の影響が小さい. および PGM の酸化物の活量係数を表す.よって,スラグと 二液分離したスラグ相をそれぞれ分析し,二液分離したス 溶銅中の PGM の活量係数が pO2 に依存しないで一定とし, ラグ間の分配比の算出を行った.その結果を Fig. 11 に掲げ スラグ中の白金,ロジウム,パラジウムの存在形態がそれぞ る.分配比は式(10)と同様に,分母に銅中の PGM 濃度を, れ PtO, RhO1.5, PdO であるとした場合,分配比の対数と酸 分子に各スラグ相の PGM 濃度を代入し算出した.白金,ロ 素分圧の対数の関係はそれぞれ 1 / 2, 2 / 3, 1 / 2 の傾きにな ジウム,パラジウムの分配比は銅濃度が低いスラグ相に比 る.実験結果に示されるように,白金,ロジウム,パラジウ べ,銅濃度が高いスラグ相の方が高い値を示し,これらの元 ムの分配比と酸素分圧の対数の関係は,いずれも 1/4~ 1/2 Fig. 8 Distribution ratio of rhodium against oxygen partial pressure at 1723 K. Fig. 9 Distribution ratio of palladium against oxygen partial pressure at 1723 K. Fig. 10 Distribution ratios of platinum, rhodium and palladium against copper content in slag at 1723 K. (Open symbol: Q=0.36, closed symbol: Q=0.52) Fig. 11 Distribution ratios of platinum, rhodium and palladium against copper content in slag at 1723 K. (Open symbol: Q=0.36, closed symbol: Q=0.52) 272 第 日 本 金 属 学 会 誌(2014) Table 2 巻 Standard free energy changes for reactions. Reaction Pt(s)+1/2O2(g)=PtO(s) Pt(s)+O2(g)=PtO2(g) Pd(s)+1/2O2(g)=PdO(s) Table 3 78 DG0/kJ at 1723 K K Reference 62.51 165.09 52.93 1.27×10-2 A. Roine12) FactSage13) FactSage13) 9.89×10-6 2.49×10-2 Coefficient of platinum and palladium in copper. Species T/K g0 Reference Pt in Cu Pd in Cu 1723 1723 0.023 0.023 Hultgren14), McCormark15) Hultgren14) 素はスラグ中の銅濃度が高いスラグ中に濃縮される傾向を示 した. 3.5 Al2O3 CaO SiO2 Cu2O 系 ス ラ グ 中 の 白 金 , ロ ジ ウ ム,パラジウムの活量係数 Al2O3CaO SiO2Cu2O 系スラグ中の白金,ロジウム,パ ラジウムの溶存形態は酸素分圧により異なる溶存形態を示す Fig. 12 Activity coefficients of PtO2(g), PtO(s) as a function of oxygen pressure at 1723 K. (Open symbol: PtO(s), closed symbol: PtO2(g)) と前述したが,本研究では白金は PtO ,パラジウムは PdO でスラグ中に溶解していると仮定し,スラグ中の白金とパラ ジウムの活量係数を式( 13 )を変形した式( 14 )に基づき算出 した.なお,スラグ中のロジウムの活量係数は, Cu Rh 合 金系におけるロジウムの活量係数に関する報告がないため算 出は行えなかった. log(gXOy)=log K+log[gX]+log(nT)-log LsX/Cu -log[nT]+y/2・log pO2 (14) 平衡定数 K の計算にあたって使用した PGM の酸化物の 標準生成自由エネルギー変化 DG 0 を Table 2 に示す12,13) . PtO と PdO は純粋な固体基準の値である.白金については PtO2 の純粋な気体基準とした値も用いた.本研究における 金属相は CuPtRhPd の四元系であるが,この四元系に関 する[ gX ]( X: Pt, Pd )のデータは報告がない.本研究では, 銅中の各 PGM 濃度は 2 mass 以下であり,十分希薄であ ると考えて各元素の相互作用は無視できるとした.すなわち, Fig. 13 Activity coefficients of PdO(s) as a function of oxygen pressure at 1723 K. CuX(X: Pt, Pd)二元系合金にて式(13)が成り立つと仮定し て[ gX ]を求めた.[ gPt ]は Hultgren14) , McCormark15) らに よる文献値を,[gPd]は Hultgren14) による文献値を用いた. 具体的には,[ gPt ]は固体 Cu Pt 系の 1350 K における活量 本 研 究 結 果 よ り , 実 プ ロ セ ス で は 酸 素 分 圧 を log pO2 = 値14)から,正則溶体近似により 1723 K の CuPt 系の活量を - 8.0 程度より低くすることで PGM のスラグロスを低く抑 求め, Pt が希薄な状態の活量係数として求めた.なお,こ えることが可能である.さらに,スラグの粘性や熱伝導など の値は,1625 K における溶融 CuPt 系の活量15)から,同様 に注意を払う必要はあるが,分配係数の傾向だけから考える の近似を行い求めた値とも一致した.[gPd]は固体 CuPd 系 と低塩基度スラグで操業を行うことも有効であろう.ただ の 1350 K における活量値から同じように求めた14). し,低塩基度スラグでは, MgO がスラグ中に溶解しやすい Table 3 には溶銅中における白金,パラジウムの活量係数 を一括して掲げる.酸素分圧と白金,パラジウムの分配比よ ので,炉の耐火物の溶損を早めるので耐火物を保護する等, 操業上には工夫が必要となる. り , Al2O3 CaO SiO2 Cu2O 系 ス ラ グ 中 の PtO ( s ) お よ び PtO2( g )の活量係数を算出し,その結果を Fig. 12 に示す. 結 4. 言 同様に PdO ( s)の結果を Fig. 13 に示す.また,これらの活 量係数を Table 4 にまとめた.酸素分圧が高くなると,PtO 1723 K にて,Al2O3CaOSiO2Cu2O 系スラグと溶銅間で ( s)および PtO2( g)の活量係数は大きくなる傾向を示す.こ の PGM の分配平衡実験を行った.その結果は以下のように れらの係数を用いることで熱力学的なプロセス解析や分配比 要約される. の推算が可能となる. Al2O3CaOSiO2 Cu2O 系スラグの相関係を研究した 7 第 号 Table 4 No. 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 273 Al2O3 CaOSiO2 Cu2O 系スラグと溶銅間における白金族金属の分配比に及ぼすスラグ組成および酸素分圧の影響 Q Coefficient of platinum and palladium in Al2O3CaOSiO2Cu2O system. Phase p O2 0.52 0.52 0.52 0.52 0.52 0.52 0.52 0.52 0.52 0.52 0.52 ― ― ― ― ― ― ― ― ― slag A slag B 1.70×10-10 1.39×10-9 1.57×10-8 3.53×10-8 5.88×10-8 2.32×10-7 8.94×10-7 2.01×10-6 2.63×10-6 4.62×10-6 4.62×10-6 0.36 0.36 0.36 0.36 0.36 0.36 0.36 0.36 ― ― ― ― ― ― slag A slag B 1.90×10-10 1.59×10-9 1.32×10-7 8.70×10-6 9.06×10-6 5.89×10-5 1.01×10-5 1.01×10-5 [nT] (nT) (gPtO) (gPtO2) (gPdO) 1.54 1.54 1.54 1.54 1.54 1.54 1.54 1.54 1.54 1.54 1.54 1.47 1.44 1.51 1.43 1.41 1.46 1.41 1.38 1.39 1.36 0.71 9.21×10-6 9.34×10-14 2.97×10-5 5.52×10-5 3.35×10-5 3.01×10-5 3.00×10-5 4.50×10-5 4.00×10-5 5.74×10-5 7.85×10-5 4.50×10-6 8.62×10-13 5.38×10-12 4.88×10-12 5.68×10-12 1.13×10-11 3.31×10-11 4.39×10-11 7.23×10-11 1.21×10-10 7.52×10-12 1.53×10-5 5.96×10-5 1.19×10-4 1.44×10-4 1.63×10-4 1.95×10-4 2.36×10-4 4.38×10-4 3.78×10-4 5.14×10-4 2.55×10-5 1.54 1.54 1.53 1.54 1.54 1.54 1.54 1.54 1.73 1.69 1.69 1.56 1.43 1.44 1.47 0.69 1.11×10-5 2.84×10-5 7.84×10-5 5.95×10-5 1.28×10-4 1.10×10-4 7.85×10-5 4.50×10-5 1.19×10-13 8.81×10-13 2.21×10-11 4.31×10-11 2.99×10-10 2.07×10-10 2.81×10-10 1.32×10-11 1.85×10-5 4.22×10-5 3.02×10-4 3.43×10-4 5.65×10-4 3.37×10-4 7.87×10-4 2.09×10-5 結果,スラグ中の銅濃度が 18 mass程度となると,スラグ 文 献 相が二液相分離を起こし, Cu2O を 18~ 20 mass 程度含む Al2O3CaOSiO2 系スラグ融体と純粋な Cu2O に近いスラグ に分離した. PGM の分配平衡より, PGM はかなり溶銅中に濃縮 するが,酸素分圧が log pO2=-8.0 より高くなるとスラグへ のロスが大きくなる挙動を明らかにした.さらにスラグの塩 基度が高いとスラグへの PGM のロスが大きくなることも明 らかになった. 熱力学的考察を行い,今まで報告がなかった Al2O3 CaOSiO2Cu2O 系スラグ中の Pt および Pd 酸化物の活量係 数を求めた.これにより,本プロセスの熱力学的取り扱いが 可能となる. PGM のスラグへのロスを極力抑え,溶銅中に濃縮さ せるには,スラグ中への Cu2O 添加量を適正化し,さらに低 塩基度スラグで還元熔錬することが好ましい. 1) T. Okabe: Kikinzoku・Reametaru no risaikuru gijyutsushusei, (NTS, 2007) pp. 76 101. 2) S. Nakamura and N. Sano: Metall. Mater. Trans. B 28(1997) 103108. 3) S. Nakamura, K. Iwasawa, K. Morita and N. Sano: Metall. Mater. Trans. B 29(1998) 411414. 4) H. Shuto, T. H. Okabe and K. Morita: Mater. Trans. 52(2011) 18991904. 5) K. Morita, C. Wiraseranee, H. Shuto, S. Nakamura, K. Iwasawa, T. H. Okabe and N. Sano: Mineral Processing and Extractive Metallurgy 123(2014) 2934. 6) The Japan Institute of Metals (Ed.): Physical Chemistry of Metals, (Maruzen, 2003) pp. 198210. 7) E. T. Turkdogan: Fundamentals of steelmaking, (The Institute of Metals, 1996) p. 150. 8) Y. Takeda and A. Yazawa: J. Min. Inst. Japan 102(1986) 311 316. 9) Y. Takeda and A. Yazawa: J. Min. Inst. Japan 99(1983) 4398. 10) Y. Katayama, K. Ono, T. Oishi and J. Moriyama: Trans. JIM 29 (1987) 224. 11) K. Baba and K. Yamaguchi: J. MMIJ 129(2013) 208212. 12) A. Roine: HSC Chemistry 6.0, (2006), Outokumpu. 13) C. W. Bale, P. Chartrand, S. A. Degterov, G. Eriksson, K. Hack, R. Ben Mahfond, J. Melancon, A. D. Pelton and S. Petersen: Calphad 26(2002) 189228. 14) R. Hultgren: Selected Values of the Thermodynamic Properties of Binary Alloys, (1973) pp. 777786. 15) J. M. McCormark, J. R. Myers and R. K. Saxer: Trans. Met. Soc. AIME 236(1966) 16351637.
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