糖尿病患者との比較による検討 - 第49回日本理学療法学術大会

第 49 回日本理学療法学術大会
(横浜)
5 月 31 日
(土)13 : 00∼13 : 50 第 5 会場
(3F 303)【口述 内部障害!代謝 1】
0903
糖尿病性末梢神経障害患者の身体活動量を低下させる要因
―糖尿病患者との比較による検討―
鈴木
啓介1,2),西田
裕介2),細川
真登1),内田
敏男1),満冨
一彦1)
1)
磐田市立総合病院リハビリテーション技術科,
聖隷クリストファー大学大学院リハビリテーション科学研究科
2)
key words 糖尿病性末梢神経障害・身体活動量・歩行機能
【はじめに,目的】
日本における糖尿病(以下 DM)患者は増加し続けており 2030 年までには 1000 万人を超えると予測されている。DM 患者が患
う合併症のうち最も多く,早期に起きるものとして糖尿病性末梢神経障害(以下 DPN)がある。DPN 患者は DM 患者と比較し
て重篤な合併症の罹患率や死亡率が高いことが報告されており,その原因の 1 つとして運動を行う頻度が低く,身体活動量が少
ないことが報告されている。運動が実施されない背景には社会的要因,環境的要因,個人的要因が複雑に絡み合っているが,DPN
患者においては末梢神経機能の低下から生じる歩行機能の低下によって,身体的な疲労を助長させ身体活動量が制限されると
考えられる。そこで本研究は DPN 患者の身体活動量を低下させる要因について歩行機能を含めた評価から明らかにすることを
目的とし,DM 患者との比較により検討を行った。
【方法】
対象は当院に教育入院され内分泌内科より運動療法の処方が出された DM 患者 7 名(年齢 51±16 歳,身長 166.3±6.0cm,体重
,DPN 患者 24 名
(年齢 57±13 歳,身長 161.7±6.4cm,体重 60.9±12.1kg,BMI23.2±4.4kg!
70.8±15.5kg,BMI25.5±3.8kg!
m2)
m2)とした。DPN の診断は内分泌内科医によって行われ神経障害の自覚症状,アキレス腱反射の低下,振動覚の低下のうち 2
項目以上当てはまる者とした。なお,整形外科的疾患や中枢性疾患,疼痛のある者については対象から除外した。測定項目は身
体活動量の評価として国際標準化身体活動量質問票 Long Version を用いガイドラインを参考に消費エネルギー量を算出し,運
動をしない理由の評価として 13 項目からなる選択回答式のアンケートを実施した。また,運動耐容能の評価として最大歩行速
度での 6 分間歩行テストを実施し歩行距離を測定した。歩行の動揺性の評価には 3 軸加速度計を用い,自己選択した速度での 10
m 歩行を実施し,得られたデータより Root Mean Square(以下 RMS)を算出した。なお,RMS は速度の影響を受けるため速
度の 2 乗値で除し,標準化した値を用いた。統計学的解析は DM 群,DPN 群の比較として対応のない t 検定を行い,有意水準
は危険率 5% 未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
対象者には本研究の趣旨,目的,測定内容を口頭にて説明し,書面にて同意を得た。また,個人情報については当院の個人情報
保護の指針に基づき,匿名化し個人が特定されないよう十分な配慮を行った。
【結果】
消費エネルギー量は DM 群 1530±549kcal,DPN 群 1076±422kcal であり DPN 群にて有意に低値を示した(p<0.05)
。運動をし
ない理由のアンケート結果では,DM 群において 1 位:面倒くさい 57%,2 位:機会がない,現状で満足 29%,3 位:疲れる・
疲れている 14% であり,DPN 群では 1 位:疲れる・疲れている 67%,2 位:面倒くさい,体調が悪い 25%,3 位:時間がない
16% であった。6 分間歩行距離は DM 群 586±33m,DPN 群 460±111m であり DPN 群にて有意に低値を示した(p<0.05)
。RMS
。また,年齢,身長,体
は DM 群 19.1±1.9m!
sec2,DPN 群 24.1±5.6 m!sec2 であり DPN 群にて有意に高値を示した(p<0.05)
重,BMI は両群に有意な差を認めなかった。
【考察】
本研究において,DPN 患者は DM 患者と比較して身体活動量が低く,運動をしない理由として疲労が最も大きな影響を与えて
いることが明らかとなった。また,DPN 患者は運動耐容能が低く,歩行の動揺性が大きいことが明らかとなった。DPN は末梢
神経髄鞘の脱落や軸索の変形,感覚受容器の低下によって固有感覚からのフィードバックが低下する。その結果,DPN 患者は歩
行における足関節の機動性の低下や,前脛骨筋と下腿三頭筋の協調性が変化することが報告されていることから,歩行の動揺性
が高値を示したと考えられる。また,歩行の動揺性の増加は歩行中の筋活動量を増加させエネルギー消費量を増加させる。DM
患者は健常者と比較し,筋グリコーゲン含有量が少ないことやミトコンドリア機能の低下により運動耐容能が低いことが明ら
かとなっているが,DPN 患者は加えて歩行の動揺性が大きく消費エネルギー量が多いことで運動耐容能が低下していると考え
られる。運動耐容能の低下は運動中の疲労を早期に惹起することから,DPN 患者の身体活動量は低値を示したと考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
本研究の結果より,DPN 患者は歩行の動揺性が大きく運動耐容能の低下によって身体的疲労を助長し,身体活動量が低下してい
る可能性が示唆された。DPN 患者に対する運動指導は確立されておらず,DM 患者と同様の運動指導が行われているのが現状で
ある。DPN 患者の歩行機能に対し,理学療法士が評価を行い,問題点を抽出することで DPN 患者の運動指導の確立に寄与でき
ると考えられ,理学療法士の職域の拡大に繋がると考えられる。