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Title
Author(s)
高知県におけるニラとショウガの土壌伝染性病害の発生
生態と防除に関する研究 Studies on the epidemiology and
control of soilborne diseases of Chinese chive and ginger in
Kochi prefecture, Japan
山崎, 睦子
Citation
Issue Date
2014-03-03
URL
http://hdl.handle.net/10636/448
Type
Thesis or Dissertation
Textversion
ETD
学
位
論
文
要
旨
高知県におけるニラとショウガの土壌伝染性病害の
発生生態と防除に関する研究
Studies on the Epidemiology and Control of Soilborne Diseases of
Chinese Chive and Ginger in Kochi Prefecture, Japan
生物生産科学専攻
山崎
生物制御科学大講座
睦子
高知県はニラやショウガの国内最大の産地である.ニラでは乾腐病や紅色根
腐病,ショウガでは疫病や根茎暗斑病といった土壌伝染性病害が慢性的に発生
しており,収量・品質の低下を招くため問題となっている.そこで本研究では,
これら土壌伝染性病害の発生生態の解明と防除技術の構築を試みた.
ニラ乾腐病は,茎盤部が褐変し,地上部の萎縮,黄化,枯死する病害で,高
知 県 内 で 広 域 に 発 生 し て い た . ニ ラ 乾 腐 病 に は 2 種 の Fusarium 属 菌 が 関 与 し て い
る こ と を 明 ら か に し た . そ の う ち , F. oxysporum は , ニ ラ , ネ ギ , タ マ ネ ギ , ア
ス パ ラ ガ ス に 病 原 性 を 示 し , タ マ ネ ギ 乾 腐 病 菌 や ネ ギ 萎 凋 病 菌 と 同 じ 分 化 型 f.
sp. cepae (Hanz.) Snyd. and Hans. と 同 定 し た . rDNA-IGS 領 域 の 塩 基 配 列 に 基 づ く 分 子 系
統 解 析 に よ っ て , ニ ラ 乾 腐 病 菌 で あ る F. oxysporum に は 複 数 の 系 統 が 存 在 す る こ
と を 明 ら か に し た . 一 方 , F. proliferatum (Matsushima) Nirenberg ex Gerlach and Nirenb. var minus
Nirenberg も ニ ラ 乾 腐 病 の 病 原 で あ る こ と を 新 た に 見 出 し , 記 載 し た . F.
proliferatum は , ニ ラ , ネ ギ , タ マ ネ ギ , ア ス パ ラ ガ ス , ニ ン ニ ク に 病 原 性 を 示 し
た . ニ ラ 乾 腐 病 菌 で あ る F. proliferatum は , ネ ギ 萎 凋 病 菌 と し て 報 告 の あ る F.
proliferatum と 分 子 系 統 学 的 に 近 縁 で あ っ た .
乾 腐 病 に 罹 病 し た ニ ラ 植 物 組 織 や 罹 病 圃 場 の 土 壌 か ら は , F. oxysporum で も F.
proliferatum で も , 病 原 性 を 持 つ 菌 株 に 併 せ て 非 病 原 性 の 菌 株 が 高 頻 度 に 分 離 さ れ
るため,病原性菌株の識別技術の確立を試みた.病原性菌株と非病原性菌株は
分子系統学的に近縁であるうえ,病原性菌株が特有に保持する病原性関連遺伝
子等を見出すことができなかったため,分子生物学的識別技術は確立できなか
った.一方,ガラス試験管内で発芽させた品種 ‘ スーパーグリーンベルト ’ に
1.0✕107 bud cells/ml の 分 生 子 懸 濁 液 を 1 ml 灌 注 接 種 し , 7 ~ 14 日 後 に 病 原 性 を 評 価
することで病原性菌株と非病原性菌株を識別できることを見出した.
乾腐病に強いニラ品種を 8 品種を対象に探索したところ, ‘ タフボーイ ’ が
F. oxysporum お よ び F. proliferatum の い ず れ に も 耐 病 性 で あ る こ と を 見 出 し , 推 奨 す
る こ と と し た . ま た , 太 陽 熱 消 毒 , ダ ゾ メ ッ ト (DZ) 粉 粒 剤 , カ ー バ ム ナ ト リ ウ
ム 塩 (CS) 液 剤 に よ る 土 壌 く ん 蒸 処 理 お よ び 生 育 期 に お け る ベ ノ ミ ル (B) 水 和 剤 ,
チ オ フ ァ ネ ー ト メ チ ル (T) 水 和 剤 , ヒ ド ロ キ シ イ ソ キ サ ゾ ー ル 液 剤 , バ リ ダ マ イ
シン液剤および亜リン酸液体状肥料の土壌灌注処理で両病原による乾腐病に対
する防除効果が認められた.
ニラ紅色根腐病は,根と鱗茎が紅変し,地上部がやや生育不良となる
Pyrenochaeta terrestris に よ る 病 害 で あ る . 本 病 原 菌 は , ニ ラ の 他 , ネ ギ , ト マ ト ,
オクラ,キュウリ,サヤインゲン,ヤマノイモ,グロリオサ,ショウガ,ミョ
ウ ガ に 病 原 性 を 示 し た . 本 病 原 菌 の 生 育 温 度 は 10 ~ 35°C で あ り , 生 育 適 温 は
28°C で あ っ た . 発 病 は 気 温 15 ~ 30°C で み ら れ , 発 病 適 温 は 25°C 付 近 で あ っ た .
ま た , ニ ラ 乾 腐 病 菌 (F. oxysporum ま た は F. proliferatum) と の 複 合 感 染 に よ っ て 発 病 が
助 長 さ れ る こ と が 明 ら か に な っ た . 汚 染 土 壌 中 の 本 病 原 菌 は , 45°C で 300 分 間 ,
50°C で 10 分 間 , あ る い は 55°C で 3 分 間 以 上 の 温 湯 処 理 で 死 滅 し た . 本 病 に 対 す
る 土 壌 還 元 消 毒 , 太 陽 熱 消 毒 , ク ロ ル ピ ク リ ン (CP) 錠 剤 , CP テ ー プ , DZ 粉 粒
剤 , CS 液 剤 に よ る 土 壌 く ん 蒸 処 理 お よ び ト リ フ ル ミ ゾ ー ル (TR) 水 和 剤 に よ る 土
壌灌注処理の防除効果は高かった.
ショウガ疫病は,生育期および根茎の貯蔵中に主に根茎内部が淡褐色に腐敗
す る 病 害 で , 病 原 菌 を Phytophthora citrophthora (R. E. Smith and E. H. Smith) Leonian と 同 定 , 新
病害として報告した.本病原菌は,ショウガの他,ナス,キャベツ,サヤイン
ゲ ン に 病 原 性 を 示 し た . 発 病 温 度 は 10 ~ 30°C , 適 温 は 20°C で あ っ た . 露 地 栽 培
で の 発 病 時 期 は , 栽 培 初 期 の 6 月 上 中 旬 と , 栽 培 後 期 の 10 月 初 旬 以 降 の 年 2 回
であった.貯蔵中の被害は,罹病根茎の病勢の進展,罹病根茎から健全根茎へ
の感染,汚染土壌から健全根茎への感染によって拡大した.汚染土壌中の病原
菌 は , 40°C で 180 分 間 , 45°C で 10 分 間 , 或 い は , 50°C で 3 分 間 以 上 の 温 湯 処 理
で死滅した.本病に対する還元土壌消毒,湛水処理,メチルイソチオシアネー
ト ・ D-D 油 剤 , CP 液 剤 や DZ 粉 粒 剤 に よ る 土 壌 く ん 蒸 処 理 , 生 育 期 の 予 防 的 な
シアゾファミド水和剤の土壌灌注処理の防除効果は高かった.
ショウガ根茎暗斑病は,貯蔵中の根茎表面に黒色で不整形の病斑を形成する
病 害 で , 病 原 菌 を Myrothecium verrucaria (Albertini et Schweinitz) Ditmar と 同 定 , 新 病 害 と し
て報告した.本病原菌は,ショウガの他,ハクサイ,キャベツ,ホウレンソウ,
オクラ,ダイコン,ニンジンに病原性を示した.発生時期は貯蔵開始約 1 ヶ月
後以降であり,貯蔵期間が長くなるほど病斑数は多く,黒斑が濃くなった.シ
ョウガ栽培に用いられる有機資材のケイントップ上で本病原菌の分生子塊を形
成 し や す く , 病 原 の 温 床 と な る こ と が 示 唆 さ れ た . 本 病 に 対 し て は , DZ 粉 粒
剤 や CS 液 剤 に よ る 土 壌 く ん 蒸 処 理 お よ び B 水 和 剤 , TR 水 和 剤 お よ び T 水 和 剤 の
防除効果が認められた.