気ままな留学記念エッセイ 2014 年 Maimonides Medical Center 小児科レジデント 西田 純子 この度、N program の多大なご支援を賜り、ニューヨーク州ブルックリンにあるマ イモニデス・メディカルセンターで勤務する運びとなりました。西元慶治先生、 Newman 先生、N program 歴代派遣生の皆様、東京海上日動火災保険株式会社関 係者の皆様、友人や家族を含め、ご支援頂きました全ての方々に心から感謝を申し 上げます。 わたくしのエッセイは気の向くままに、 (1)西元慶治先生の功績 (2)お役立ちフレーズ 〜面接招聘への返信メールから〜 (3)起死回生のチャンスを信じる価値のある国 の3部構成となっております。どうぞお愉しみ下さいませ。 (1)西元慶治先生の功績 先ずは、N program がどれほど「特別な扉」であるか、2013-14 年シーズンにわた くしが直接体験した事柄を基にご説明したいと思います。多くの諸先生方が述べら れている通り、わたくし達日本人を含め、外国人がアメリカのレジデンシープログ ラムにマッチすることの難しさは言わずと知れた事です。N program はその困難な 挑戦を成功に導いてくれる、「特別な扉」と言えるでしょう。どれほど、又どのよ うに「特別」なのか、具体的な出来事を描写しながらお伝えしたいと思います。 皆様ご存知の通り、長年にわたり N program 運営の中心的な役割を担って来られ た西元先生ですが、「優れた候補者を推薦する人物」として推薦先の医療機関でも 揺るぎない信用を得ていらっしゃいます。その信用の様相について、わたくしが今 回、N program を通じてご推薦頂いた病院の一つで、面接の時にこのような解り易 い出来事がありましたので皆様にもご紹介致します。 面接当日、30 人ほどの候補者が集まる中で、わたくしは一番最後に面接室に呼ば れました。面接室に入り、面接官の前に座るや否や、 「西元先生にこの病院に来るように言われたの?」 と面接官が尋ねます。 後から思えばこの時の面接官は、西元先生をはじめ N program の背景をよくご存 知で、ディレクターともその理解を共有されていらっしゃる特別な方であり、何十 人もいる面接官と応募者の中から、わたくしの面接がその方と一番最後に当たるよ うに元々予定を組んで下さったのだと思います。 わたくしが「はい」と答えますと、 「解ったわ。彼はいつもとても素晴らしい候補者を送ってくれるの。彼の推薦する 人物は皆素晴らしい。」 と話し始め、彼女の手元にあるわたくしの書類を捲りながら、 「あなたも本当に素晴らしい(Outstanding)。」 とさらりと言うと、 「これまでに西元先生が推薦してくれた医師の写真があるから、一緒に見に行きま しょう」 と別室へ案内されました。そこには、数年前までその病院で活躍していらした日本 人医師の写真が、彼を讃える説明文とともに並べられていました。 「彼は、伝説のレジデントよ。私たちは彼とずっと一緒に働きたかった。でもご自 身のキャリアの為に別の場所へ移られたの。とても残念よ。悦ばしい事だけれどね」 聞くところによりますとその方は、心肺停止で運ばれてきた抹消静脈も確保できな いような小児患者に、指導医がまだ到着しない中、熟達した手さばきで中心静脈ラ インを挿入し、蘇生を成功させ患者を救った、その病院では知らない人はいないほ どの伝説をもたらした存在なのです。面接官はこのような流れで、いかに西元先生 の推薦する人物が卓越しているかを、その写真の前でよくよくわたくしに説明され ました。そして、 「これからあなたをディレクターに直接紹介するから、ついて来て」 と、ディレクターの部屋まで直接二人で赴き、ディレクターと対面させると、 「ヘンリー(ディレクターのこと)、この方が今年、西元先生が推薦する人物です。 大変素晴らしい。私は個人的に彼女のことを強く推します」 と紹介して下さいました。ディレクターからは進んで握手を求められ 「来年からあなたと一緒に仕事できる事を愉しみにしています」 と言葉を頂きました。そしてこの病院での面接は終了となりました。 皆様お気付きの通り、何ら面接らしい質問は一つもなく、所謂「顔パス」的な流れ で話が運び、面接時間内にディレクターに直接対面させて頂いた上に、極上の形容 詞で紹介して頂く---このようなことは一般的な面接では起こりえない光景です。ア メリカの病院に応募する外国人からの応募書類は、開封すらしてもらえない(実際 は形だけ秘書が開封しますが、面接に招聘されることも、ひいては選考の机上に上 ることはないという意味です)ことが多い中、開封され、重鎮が目を通し、客観的 に高く評価され面接に最高の待遇で招聘された上、最終決定権を持つはずのディレ クターに直接強力に推薦される、それほどの流れを起こす西元先生の力に、ただ驚 嘆致しました。 西元先生から過去に推薦を受けた派遣生の先輩方が、期待以上の働きをなさること で、西元先生の推薦を正解にし、「西元先生の推薦は確かである」という事実を創 り続けた現在が、このような様相なのです。わたくしは 2012-13 年シーズンにアン マッチだっただけに、この並外れた対応の「特別」さが痛いほど解りました。 西元先生の N 詣(毎夏に行われるニューヨーク訪問)は 2014 年夏で最終となりま すが、このように築かれた信用の血脈を今後も豊かに未来へ繋いでゆけるよう、派 遣生の一人として、それに相応しい振舞いを心がけようと思いました。 (2)お役立ちフレーズ〜面接招聘への返信メールから〜 プログラムから面接の招聘が届いたら、希望の日程を調整しますが、その時に使え るお役立ちフレーズを幾つかご紹介致します。お好みでご参考にされて下さい。 (尚、 いずれも 2013 年の時点で語学学校 Berlitz の講師から適切であると確認を受けた ものです。) 9 月中に招聘が来る場合の多くは、面接枠が比較的空いているため、 「11 月から 12 月の火曜と木曜の中から 3 つ希望日を挙げて返信して下さい」といった具合に日程 に広い選択肢を与えられます。10 月以降の招聘では、面接枠が埋まりつつある為、 「11 月○日、○日、12 月○日の中からご都合の良い日を選んで下さい」と選択肢 が狭くなってきます。以下が返信サンプルです。 Dear Ms.xxxx Thank you for your invitation for an interview. I am an applicant to your program, my name is oooo ooooo and I am writing today in regards to my interview date. As far as my interview date preference is concerned, my first preference is Dec.3, followed by Dec.5, or Dec.6. I am looking forward to seeing you. Thank you in advance, Sincerely, また、日本からアメリカまで面接に出かける場合、プログラムによっては、事情を 説明すると日程調整を優先してくれる事もあります。「国際線なので、出来る事な ら12月の初めの週のどこかに面接枠を取って頂けませんか。」といった文面はこち らです。 Because of the difficulty of international flight schedules, I would greatly appreciate it if you could arrange my slot on the 1st of December(または、during the week of December 1st.など). このようにメールを送ったものの、なかなか返信が来ない時、丁寧な文面で確認を 促します。「先日メールをお送りしましたが、届いておりますでしょうか。希望日 はいついつですがご都合如何でしょうか。お早めにご返答頂けましたら幸いです。」 といった文面は、以下がサンプルです。 Dear Ms.xxxx My name is Dr. oooo ooooo, an applicant to your pediatric residency program. I am writing to confirm my interview dates. I had written to you earlier on Oct.1 mentioning my interview date preference. I was wondering if you received my email. I would prefer to have an interview on Dec.3, or Dec.5 or 6. Please let me know if these dates are convenience for you and would appreciate a response as soon as possible. Looking forward to your reply. Best regards, さて、このようにやりとりをしながら折角調整した面接日程を、生憎キャンセルし たい時、相手に失礼のないように面接をお断りする文面のサンプルに次のような表 現があります。体調不良でやむなくキャンセルという場合はその事実を書いてもよ いでしょうが、実は別のプログラムと日程がダブルブッキングして、もう一方のプ ログラムの面接を優先したいといった状況では、率直に書く事が躊躇われます。そ のようなときは、unforeseen circumstance(予測できないことが起きて)という フレーズを用いる事が出来ます。 Dear Ms.xxxx I am terribly sorry for the inconvenience but unfortunately I would like to cancel my interview scheduled on Dec.5 due to an unforeseen circumstance. I truly appreciate your invitation and I wish your hospital the best of luck. Sincerely, (正式に面接日が決まると、プログラムから正式な招聘文面がメールもしくは郵送 書類で届きます。この時、自分の面接官の氏名や、彼らの専門分野などを予め訊く こともできますが、2013-14 年シーズンにわたくしが招聘を受けたプログラムの殆 どから、「当日にランダムに面接官を決めるので、前もってお答えする事は出来ま せん」と返答されました。) (3)起死回生のチャンスを信じる価値のある国 こちらは、N program とは全く関係のない話題です。かつてアメリカで仕事をした 折、わたくしの身近に起きた出来事からの学びで、これからアメリカで新しく仕事 を始めようとする方々の一助になればと思いまして、お話し致します。 日本ではなかなか経験しない、アメリカのくれるチャンスについてです。それは、 絶体絶命の状況に、起死回生のチャンスが必ずあると、信じる価値があるというこ とです。もし、「そんなこと言ったって、起死回生のチャンスなんてどこを探して もない!」という場合は、その状況は絶体絶命ではないのかもしれません。 例えばこのような状況です。あなたが初めてアメリカへ留学したとき、右も左も分 からないようなあなたに、上司が激しいハラスメントを行ったとします。給与はも ちろん、ポジションも、ひいてはビザ発行の手綱まで握られている上司が、周囲に はわからない形であなたを不条理に虐げたとしましょう。約束していたお給料を支 払わなかったり、保険に加入させなかったり、「言う事を聞かないなら即解雇だ」 と脅して強制的にあなたを 24 時間監視下に置いて労働させたとしましょう。あな たはアメリカに来たばかりで、何が正しく何が間違っていて、誰が味方で敵なのか も解らない状況です。折角海を渡ってアメリカまで来て、職を失いたいと思う人は いません。仕方なく上司に従いますが、どんどんハラスメントが酷くなる中、相談 する人もいない…(少々極端ですが)このような苦境に陥ったとします。 必ず、一刻も早く、人権委員会に報告をし、助けを求めて下さい。留学生を受け入 れるような大きな施設では、殆どの場合このような委員会(雇われている人達の権 利を保護する委員会)が設置されています。一度も面識がなくとも、連絡を取り、 「至急相談したい深刻な問題を抱えているので、直ちに、内密に、アポイントを取 りたい」と伝えれば十分です。ハラスメントの証拠(例えば会話のレコーダー記録 やメール内容)が一つもない状況でも(あればベストですが)、このような委員会 においては、相談者の人となりを観て「この相談者は救わなければならない」と判 断する能力のある方々がそれなりにいらっしゃるので、証拠の有無に関わらず、行 動を起こし扉を叩くことが重要です。 一刻も早い相談がとても大切です。と、申しますのもこのような実例があるからで す。アメリカ留学中に、同僚からのハラスメントに苦しんでいた日本人の方が、半 年以上我慢した挙げ句、漸く委員会に相談を持ちかけたところ、「半年もその状況 にいられたということは、あなたもその状況にそれほど不満ではなかったという事 だ。半年間放置したあなたの態度も、相手の行動に拍車をかけた一因である」とみ なされ、ハラスメントを行った男性はお咎めなし、被害を受けていた日本人女性は 結果としてアメリカでの職を失い、帰国を余儀なくされました。ハラスメントを行 った男性が、その職場に必要な人物だったといった経緯もありますが、ただでさえ 立場の弱い外国人が、不条理に被害を受けた時、一刻も早く行動を起こすことが肝 要であることに違いはありません。 また、このように申し出を行い、では身の安全の為に他の職場を探す事になったと します。この場合は問題の上司の上司(例えば、科の administrator 等)に相談す ることになります。相当な上級職なので、本来ならばコミュニケーションを取る機 会すら稀な立場にある方々です。このような上級の役職に就かれる方々の中にも、 一定の割合で、良識のある方々がいらっしゃるという点も印象的でした。アメリカ での業績も信用もない留学生が、アメリカで働き出した早々、上司との間にトラブ ルを抱えたとなりますと、例えどのような理由であれ(あなたに非がなくとも)好 意的には受け止めてもらえません。その人物は嘘をついていないのか、本当に求め られる能力を備えているのか、全く解らないわけですから、そのような留学生に帰 国を促すか、或はもう一度チャンスを与えるかどうかは、その上級管理者に一任さ れる事になります。もしあなたが誠実な人間で、かつその上級管理者が良識のある 方であれば、きっともう一度チャンスを与えて貰えるでしょう。そこで挽回できる かどうかは本人次第ですが、証拠も後ろ盾も何もない外国人の可能性を見抜き、無 償でもう一度チャンスを与えるという光景は、なかなか日本では目にしないもので した。ですので、絶体絶命だと思っても、あなたが真摯に生きている限り、良識の ある味方が必ずどこかにいることを信じて、行動を起こす価値のある国なのです。 そしてその行動は、次の被害を食い止め、未来の被害者を救う事になるかも知れな い事も、どうぞ忘れないで下さい。 尚、冒頭にもご説明した通り、こちらの話題は N program の派遣先となる医療機 関には一切関係がございません。呉々も誤解をなさいませんように、重ねて申し上 げます。こちらのエッセイをご覧の方々は、臨床留学に限らず留学全般に関心のあ る方、また留学中の方、留学をされている方が身近にいらっしゃる方が多いと思い ますが、日本人留学生は真面目でよく働き、安い賃金や不条理な待遇にも文句を言 わずに従順である傾向があります。外国においては、それを悪い方向に利用するた めに日本人を採用する雇用主がいることも事実であること、またそれを打開する方 法があることをお伝えするために書かせて頂きました。何か困る事が身近に起きた 場合、こちらの内容が少しでもお役に立てば幸いです。 以上でわたくしのエッセイは終わりです。 最後になりましたが、これまでも数々の推薦状を快く書いて下さり、常にご支援頂 いている、中澤誠先生、阪井裕一先生、高山ジョン一郎先生、また、いつもわたく しを暖かく迎えて下さる国立成育医療研究センターの諸先生方に心より感謝を申 し上げます。本当に有難うございました。
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