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活躍する三洋化成グループのパフォーマンス・ケミカルス
109
ウレタン樹脂用新規PPGの
塗膜防水材用途への展開
ート基
(NCO基)
の反応により生成
するウレタン結合を有する高分子
。ウ
材料の一般名称である[図1]
レタン樹脂は一般に伸縮性に富ん
だ弾性を持ち、加えて耐摩耗性や
HO − R − OH O = C = N − R' − N = C = O
ポリオール成分 ポリイソシアネート成分
−− R − O − C − N − R' − N − C − O −−
▶
O H H O
n
=
ポリイソシアネートのイソシアネ
[ 紹介製品のお問い合わせ先 ]
当社輸送機本部輸送機・フォーム産業部
−
るポリオールの水酸基(OH基)と、
当社接着・コーティング材料研究部
ユニットチーフ
−
レングリコール(PPG)に代表され
=
ウレタン樹脂とは、ポリプロピ
前川雄一
ウレタン樹脂
図1●ウレタン化反応
ウレタン樹脂
非発泡
非フォーム
耐薬品性、耐屈曲性などに優れる
塗膜防水材
シーラント
特長も有するため、幅広い用途で
使用されている。
接 着 剤
原料となるポリオールとポリイ
エラストマー
熱可塑性
合成皮革
熱硬化性
ソシアネートはその種類が豊富で
あり、用途ごとの要求特性を満た
弾性繊維
すために最適な材料の組み合わせ
が選定されている。本稿では、当
社が開発した反応性と耐水性に優
発泡
フォーム
自動車シートや家具などのクッション
( 軟質フォーム )
れる新規PPG『プライムポール』
冷蔵庫や建築用の断熱材 ( 硬質フォーム)
の特徴と、塗膜防水材用途への展
開について紹介する。
図2●主なウレタン樹脂の用途
フォーム用途と非フォーム用途
ウレタン樹脂の伸縮性や弾性、基
塗膜防水材用ウレタン樹脂の施
ウレタン樹脂の用途は2つに大
材への密着性などの特徴を生かし
工は、NCO基を末端に有するプレ
別される。1つは、ウレタン樹脂
て、塗膜防水材やシーラント、接
ポリマー*
(主剤)
とPPG(硬化剤)
を発泡させて使うフォーム用途で
着剤、エラストマー、かばんや靴
を施工現場にて混合後、施工個所
ある。そのクッション性を利用し
などの合成皮革などの用途で使用
に塗布してウレタン化反応が完了
た軟質フォームは、自動車シート
[図2、表1]
。
されている
して固まるまで養生(硬化)させる
やベッドおよびソファー、化粧用
塗膜防水材用途での使用例
のパフやブラジャーパッドなどに
塗膜防水材は、建築物の屋上な
用いられ、また硬質フォームは、
どに塗布することにより、雨が構
冷蔵庫や建築用の断熱材などに使
造体の隙間を通じて建物内部に侵
用される。
入することを防ぐ目的で施工され
もう1つは、ウレタン樹脂を発
るものであり、耐水性や耐候性が
泡させずに使う非フォーム用途で、
性能上重要である。
三洋化成ニュース ❶ 2014 初夏 No.484
[図3]
。
*プレポリマー:あらかじめ所定量の PPG と
イソシアネートを反応させた未硬化の液状物。
OH 基に対して NCO 基が過剰となるようにポ
リオールとポリイソシアネートを反応させる
ことで末端が NCO 基の液状物を形成する[図
4]
。プレポリマーが PPG や空気中の水分と
反応することでウレタン樹脂となる。
表1●非フォーム用ウレタン樹脂の主な用途
塗膜防水材
主な用途
目 的
使用される
ポリオール
エラストマー
接着剤
ゴ ム 弾 性 に 富 む 窓枠など建築物の
シームレス層防水材 シーリング材
床や屋上の防水
使用方法
シーラント
熱可塑性
接着剤
靴底、ホース
かばん、靴、衣類
常温固体である液状
板状ウレタン樹脂作 ウレタン樹脂作成時
原料代替によるハン
成時の反応時間短縮 の反応時間短縮
ドリング性向上
PPG(硬化剤)
ビル屋上などの防水に
板状ウレタン樹脂を
ポリオールとポリイ
破砕したペレットを
ウレタン樹脂溶液の
ソシアネート混合液
用いて注型または
脱溶剤
の注型
押し出し成形
ポリエステルポリオ ポリエステルポリオ ポリエステルポリオ ポリエステルポリオ
ール、PPG
ール、PTMG、PPG ール、PTMG、PPG ール、PTMG
PPG
プレポリマー作成時の反応時間短縮、
現場施工時の養生時間短縮
ニーズ
タイヤ、ベルト、
パッキン
食品包装フィルムの
建築資材の目地充て
接 着 、 建 築 資 材 、 弾性ゴム製品の製造 弾性ゴム製品の製造 合成皮革製品の製造
ん
(気密性保持、
防水)
自動車部品の接着
ウレタンプレポリマ ウレタンプレポリマ
2液硬化型でスプレ
ーを用いて1液硬化 ーを用いて1液硬化
ーまたは塗り付けに
型または2液硬化型 型または2液型で
よる現場施工
で現場施工
使用
PPG
合成皮革
熱硬化性
後述するが、PPGの末端構造は1
かくはん器
級OH基であるほうが反応性は高
くなる。したがって施行時間を短
くするために、OH基にエチレン
オキシド(EO)を付加して末端構
造を1級OH基化し、反応性を高め
施 工 現 場 で ウレ タン
プレポリマーと配合後、
ヘラやコテを用いて塗工
し防水膜を形成させる
たPPGを硬化剤として使用する方
ウレタンプレポリマー
重要な性能である耐水性などが低
図3●塗膜防水材の施工イメージ
PPG
HO
イソシアネート
OH
OCN
下してしまうため、本用途向けに
硬化ウレタン樹脂
は適用できない。
NCO
OH
HO
このため主に通常のPPGが使用
OH
OCN
NCO
OCN
NCO
されてきたが、湿度が高い環境下
OH
での施行時には、反応性の遅さが
原因で泡かみやフクレなどが生じ
て表面の平滑性を損ない外観不良
液状プレポリマー
PPG
HO
イソシアネート
OCN
NCO
OCN
NCO
OCN
NCO
OCN
NCO
が発生することがあった。またこ
の泡かみやフクレは基材との接着
OH
OH
法もあるが、EO付加により最も
面積を減少させることにもなり、
OCN
OCN
NCO
密着性の低下要因にもなっていた。
これは、通常のPPGの2級OH基
OCN
図4●プレポリマーのイメージ
の反応性が低いため、主剤のプレ
ポリマーが持つNCO基がPPGと
これは、通常のPPGではOH基の
のウレタン化反応よりも、空気中
これまで塗膜防水材は現場施行
大半が反応性の低い2級OH基に
の水分と優先的に反応し、炭酸ガ
時の養生に時間が必要であった。
なっているためである。詳しくは
スを発生させるためである。
塗膜防水材における課題
三洋化成ニュース ❷ 2014 初夏 No.484
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ウレタン樹脂用新規PPGの塗膜防水材用途への展開
この対策として、これまではウ
使用イソシアネート:TDI
レタン化反応を促進するため施工
使用イソシアネート:IPDI
100
100
80
80
時に加える触媒を増量する方法が
とられてきたが、コストアップや
このような状況から、PPGに
反応率
反応率
耐久性低下の原因となっていた。
60
(%) 40
EOを付加したり、触媒に頼らず
とも、反応性と耐水性を両立でき
(%) 40
反応温度75℃
プライムポール 20
るPPGが望まれていた。この要望
0
に応えるべく当社が開発したのが、
60
通常のPPG
0
0 2 4 6 8 10 12 14
反応時間(h)
EO付加なしに1級OH基比率を高
反応温度115℃
プライムポール 20
通常のPPG
0 5 10 15 20 25 30 35
反応時間(h)
TDI:トルエンジイソシアネート、IPDI:イソホロンジイソシアネート
図5●『プライムポール』とイソシアネートとの反応性
めた新規PPG『プライムポール』
シリーズである。
NCO基との反応性:1級OH基>水>2級OH基
『プライムポール』の塗膜防
H
速い
NCO
NCO+1級OH基
水材用途での効果
∨
(プレポリマー)
『プライムポール』とイソシアネ
O
NH2+炭酸ガス↑
NCO+水
ートの反応性を図5に示す。同組
∨
成の通常のPPGと比べて反応が完
結するまでの時間が短いことがわ
NCO+2級OH基
H
遅い
NCO
O
かる(必要な反応時間が30 ∼ 50
%低減)
。これにより反応時間短
図6● PPG( 硬化剤 ) の末端構造と反応序列
縮による現場施工時の養生時間短
用途に最適化させたものが『プラ
縮などの生産性向上が可能となる。
イムポールFF』シリーズである。
また同等の養生時間の場合には触
『プライムポールFF』シリーズは
媒量低減により、得られる樹脂の
PPG中 にEOを 含 有 し な い た め、
耐久性向上が見込める。
高い反応性を有し耐水性も良好で
さらに『プライムポール』を使用
ある。表2に『プライムポールFF』
した場合は、プレポリマーのNCO
シリーズを用いて得られたウレタ
基と『プライムポール』の反応が空
ン樹脂の吸水率を示す。
高めているため、高い反応性と耐
気中の水分との反応よりも優先的
通常のPPGでEOを付加しない
水性を両立できている。
に進行し炭酸ガスの発生が抑制で
場合は1級OH基比率が低い。一
『プライムポールFF』シリーズを
きるため、泡かみやフクレが発生
方、EOを付加したPPGは、1級
用いた場合では、樹脂の耐久性
せず、密着性に優れる塗膜が形成
OH基比率は高くなるものの吸水
(耐水性)を維持したまま硬化が完
。図7にPPG(硬化
できる[図6]
率も高くなってしまう。それに対
結するまでの時間を半分にでき、
剤)の違いによる樹脂の発泡状態
し『プライムポールFF』はEOを付
フクレによる外観不良に伴う施工
の差を示す。同じ樹脂量、同じ湿
加することなく1級OH基比率を
のやり直しをなくすことができる。
度では通常のPPGを使用した場合
た場合では樹脂の発泡が抑制でき
ることがわかる。
このような特長を生かして特に
塗膜防水材、シーラント、接着剤
通常の PPG
図7●PPG(硬化剤)による樹脂の発泡状態の違い
表2●『プライムポール FF』を使用したウレタン樹脂の吸水率
は樹脂が大きく発泡しているのに
対し、
『プライムポール』を使用し
プライムポール プライムポールFF
通常の
PPG
EO含量
(質量%)
1級OH基比率
(mol%)
ウレタン樹脂の吸水率
(質量%)
2.5
0
65
EO含有
15
65
5.0
PO単独
0
2
2.5
〈実験方法〉下記主剤とPPG(官能基数=3、水酸基価≒56)をR値(NCO基/ OH基のモル比)=1.1で混合し、厚み
1.0mmで硬化させ試験片を得た
主剤:TDIとPPG(官能基数=3、水酸基価≒56)をR値=2.0、金属触媒100ppm存在下で反応させたプレポリマー
吸水率測定方法:試験片を水浴に7日間浸漬し、増加した重量を吸水率として測定
三洋化成ニュース ❸ 2014 初夏 No.484
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ウレタン樹脂用新規PPGの塗膜防水材用途への展開
。しかし付加させたEOは水と
9]
−
CH3
R−O−CH−CH2−OH
R−OH
CH 3
1級OH基
−
2価:プロピレングリコール
3価:グリセリン、
O
レタン樹脂の親水性が高くなる。
ウレタン樹脂はウレタン結合どう
▶
付加重合 CH3
−
CH 2−CH
トリメチロールプロパンなど
触媒
の親和性が高いため、得られるウ
R−O−CH2−CH−OH
2級OH基
多価アルコール PO PPG しが水素結合により凝集すること
で硬度などの樹脂物性を発現する
ことから、親水性が上がり吸水率
が高くなると、長期間の使用でウ
図8● PPG の合成反応
レタン結合が分解し耐水性が大き
100
1級OH基比率
90
く低下する。
80
当社はPOが付加した際の1級
70
OH基比率を高めるために、POの
60
付加重合時の立体選択性に着目し、
50
置換基がかさ高い触媒を使用、ま
(mol%) 40
た触媒活性を高めるためにルイス
30
0
0
1 2 3 4 5 6 7 EO付加mol数(官能基当たり)
8 9 10
酸性を高めたトリス(ペンタフル
オロフェニル)
ボランを選択した。
図9● PPG への EO 付加量と1級 OH 基比率との関係
本触媒を使用して得られた『プ
また樹脂上層に塗装をする場合で
量でウレタン樹脂の弾性(分子量
ライムポール』は、1級OH基比率
も、塗装膜との密着性が良く塗装
が大きいと弾性の高い樹脂を形
を約70mol%まで高めており、耐
が剥がれにくい。
成)をそれぞれ調整することがで
水性と反応性を両立できた。また
通常の PPG と『プライムポー
きる。これらを最適化することで
さらに反応性を高めたい場合でも
ル』
樹脂の要求物性に応じたPPGの組
『プライムポール』の末端に少量の
最後に『プライムポール』の特徴
成設計が可能となる。
EOを付加するだけでよいため、
をまとめる。
ウレタン化反応速度は2級OH
従来よりも耐水性の低下を抑える
ウレタン樹脂のポリオール成分
基より1級OH基のほうが速く生
ことができる。
として働くPPGは、グリセリンや
産性向上につながる。通常はアル
『プライムポール』
のラインアップ
プロピレングリコールなどを出発
カリ触媒を使用しPOを付加重合
現在『プライムポール』は『プラ
物質として、POを付加重合させ
させるため、得られたPPGの末端
イムポールFF』シリーズに加え、
。POは出発物質
て得られる[図8]
構造は大半が2級OH基となり、
より強度や耐久性が必要となる合
のOH基 に 付 加 し て い く た め、
その比率は約98mol%が2級OH
成皮革用途に
『プライムポールFH』
PPGのOH基の数(官能基数)は出
基、約2mol%が1級OH基である。
。
シリーズを上市予定である[表3]
発物質のOH数で決まる。
通常のPPGの1級OH基比率を
今後も通常のPPGでは達成でき
その官能基数でウレタン樹脂の
高くするためには末端にEOを付
ない機能を発現する『プライムポ
硬度(官能基数が大きいと硬度の
加させる必要があり、EO付加量
ール』のラインアップを充実させ、
高い樹脂を形成)を、PPGの分子
に応じてその比率は高くなる[図
種々の用途に展開していく。
表3●『プライムポール』の製品一覧
製品名
官能基数
水酸基価
換算分子量
粘 度
(mPa・s)
プライムポールFF-3550
プライムポールFF-3320
3
34
5,000
1,000
0
65
3
56
3,000
600
0
65
試作品
プライムポールFH-2200
プライムポールPX-1000
2
56
2,000
1,000
0
65
試作品
2
112
1,000
200
0
65
上市済み
プライムポールFL-2101
2
80
1,400
300
30
90
上市済み
三洋化成ニュース ❹ 2014 初夏 No.484
EO含量
(質量% )
1級OH基比率
市場開発状況
(mol% )
上市済み