Ultra Performance Liquid Chromatography

共有結合で架橋された高分子量インシュリンのサイズ排除
Ultra Performance Liquid Chromatography
Stephan Koza, Paula Hong, and Kenneth J. Fountain
Waters Corporation, 34 Maple Street, Milford, MA, USA
アプリケーションの利点
はじめに
インシュリンモノマーと共有結合で架橋された
世界糖尿病財団によると、2010 年時点で世界中に 2 億 8 千 5 百万人の糖尿病
高分子量型インシュリンの分離を改善
患者が存在し、患者数は 2030 年までに 4 億 3 千 8 百万人に増加すると推定さ
■■
迅速 & ハイスループット SEC 分析
換えバイオ医薬品として誕生し、インシュリン、インシュリンアナログの売り上
■■
低分子量インシュリン分解物の分離の向上
■■
アセトニトリル使用量の削減
■■
れています。糖尿病の初期治療に使用されるインシュリンは 1982 年に初の組
げは 2009 年までに全世界で 131 億円に達しています。米国および欧州薬局方
(USP および EP)では、共有結合で架橋された高分子量(HMW)タンパク質の
管理をインシュリン注射剤の重要な品質管理の一つと位置付けています。USP34
(3134 ページ)、E P(Volume 5、1800 ページ)では、HPLC サイズ排除クロマト
グラフィー(SEC)により HMW を測定するというモノグラフがあります。USP の
モノグラフでは、 L20(多孔性シリカ粒子にジヒドロキシプロパン基を化学的に
結合、粒子径 3-10 μm)に属する 7.8 mm x 30 cm のカラムが、EP ではクロマトグ
ラフィー R のポアサイズ 12-12.5 nm の親水性シリカ(5-10 μm)でインシュリン
モノマーとダイマーおよびポリマーの分離に適したグレード、内径 7.5 mm 以上、
長さ 30 cm のカラムが規定されています。
本アプリケーションでは、125 Åのポアサイズ、2 μm 以下の粒子径のエチレン架橋
型ハイブリッド(BEH)充 填 剤と Waters Ultra Performance Liquid Chromatography
(UPLC®)システムを、この従来の分析に適用した場合にみられる優位性をご紹介
します。分析時間の短縮、高感度、インシュリンとインシュリン HMW の優れた
分離の達成と同時にアセトニトリル使用量、廃液量も大きく減少させます。
ウォーターズのソリューション
ACQUITY UPLC® H-Class Bio
ACQUITY UPLC BEH125 SEC, 1.7 μ m カラム
EmpowerTM 3 ソフトウェア
キーワード
サ イ ズ 排 除 ク ロ マト グ ラ フィー、UPLC 、
インシュリン、US P、E P、分析法開発、
凝集体
1
実験方法
サンプル前処理
LC 条件
インシュリン標準品(Sigma, 12643) 4.0 mg/mL を 0.01 N 塩酸に溶解しました。
システム:
ACQUITY UPLC H-Class Bio
TUV システム
(チタンフローセル)
インシュリン注射剤製品サンプルは有効期限を過ぎたものを使用しました。
結果および考察
検出波長:
276 nm
本アプリケーションでは USP、EP の治療用インシュリン中の HMW タンパク質分析の
カラム温度:
25℃
モノグラフに規 定されている条 件下 での ACQUITY UPLC BEH125 SEC, 1.7 μ m,
サンプル温度:
10 ℃
4.6 x 300 mm(P/N 186006506)の性能評価に焦点をあてています。両局方に記載
注入量:
10 μ L
(その他の条件は別途記載)
流速:
0.4 mL/min
(その他の条件は別途記載)
移動相:
L - アルギニン(1.0 g/L)/
酢酸(99%)/ アセトニトリル;
65/15/20(v/v/v)
ニードル洗浄液およびパージ溶媒:
10% アセトニトリル
されている酸性移動相は、0.65 g/L L- アルギニン、15% 酢酸、20 %(v/v)アセト
ニトリルから成ります。この移動相は、非共有結合の自己会合やカラムとの相互
作用を排除して、製剤中の共有結合で架橋された HMW の存在比率を評価する
目的で使用されます。この移動相を用い、カラム要因として、ポアサイズ、粒子径、
カラム長について評価しました。
分析対象と充填剤表面との二次的相互作用を最小限に抑えるため、親水性コー
ティング処理を行っているカラムを選択して、HMW の分離と定量について評価を
行いました。また、すべてのカラムの評価は同一の ACQUITY UPLC H-Class Bio
システム、Empower 3 ソフトウェアを用いて実施しました。分離結果は、USP に
シールウォッシュ: 10% メタノール
定められているタンジェントピーク幅およびシステム適合性の規定の一部として
サンプル希釈溶媒:0.01 N 塩酸
E P、USP 両モノグラフにあるピークバレー比(P/V)に基づいて算出しました。ピーク
カラム
高さ)を HV(ベースラインから、モノマーピークとダイマーピークを分離するカーブ
ACQUITY UPLC BEH125 SEC, 1.7 μ m,
4.6 x 150 mm(P/N 186006505)
パラメーターで要求されるのは、EP、USP どちらのモノグラフでも、0.4% 以 上
バレー比は HP(共有結合で架橋されたダイマーのピークのベースラインからの
の最も低い点を結んだ高さ(谷の高さ))で割った値です。このシステム適合性
ACQUITY UPLC BEH125 SEC, 1.7 μ m,
4.6 x 300 mm(P/N 186006506)
HMW を含むサンプルについて 2.0 以上となっています。
ACQUITY UPLC BEH200 SEC, 1.7 μ m,
4.6 x 300 mm(P/N 186005226)
ポアサイズ
TM
BioSuite 125 UHR SEC, 4 μ m,
4.6 x 300 mm(P/N 186002161)
Insulin HMWP HPLC, 10 μ m,
7.8 x 300 mm(P/N WAT201549)
EP モノグラフのインシュリンのサイズ排除 HMW 定 量 法では 120Å から 125Å
(12-12.5 nm)のポアサイズが規定されていますが、USP のモノグラフにはポア
サイズについて特別な記載はありません。ACQUITY UPLC BEH125 SEC, 1.7 μm カ
ラムのポアサイズは 125 Åですので、EP のモノグラフの要求も満たしています。
SEC の分離では適切なポアサイズを選択することが重要です。図 1 に、BEH125
SEC, 1.7 μ m カラムとポアサイズ 200Å の ACQUITY UPLC BEH200 SEC, 1.7 μ m
データ管理
ソフトウェア:Empower 3
(Auto • Blend PlusTM 機能を含む)
カラムの 分 離の比 較を 示しました。適 切なポ アサイズ を 選 択することにより、
分離度が増大します。これらのクロマトグラムで重要なのは HMW とインシュリ
ンモノマーの分離であり、 125 Åでは 200 Åと比較し、標準試料で 8% の分離
度の増加がみられます。有効期限を過ぎた 2 種の治療 用試料ではペプチドの
分解が進んでいることにより、ポアサイズによる分離の改善の度合が減少して
います。分離 度の改善に加え、HMW ピークの面積 % が 0.4% 以 上である 2 種
の治療用試料では、200 Åのポアサイズ( P/V=11)と比べ 125Å のポアサイズ
( P/V=37)で P/V 平均値が高い値となっています。しかしながら、どちらのカラム
も USP、EP のモノグラフのシステム適合性の 0.4% 以上 HMW 存在下で、P/V=2.0
以上という基準を満たしました。125 Åのポアサイズのカラムで治療用試料を
分析した際には、さらに HMW ダイマーと HMW 多量体との分離、インシュリン
共有結合で架橋された高分子量インシュリンのサイズ排除 Ultra Performance Liquid Chromatography
2
モノマーとインシュリンフラグメントとの分離についても改善が見られています。ポアサイズが 200Å の
カラムでは、多量体やフラグメントは十分分離せず、125Å のポアサイズを選択することにより、製品品質
のさらなる評価が可能になります。
ACQUITY UPLC BEH125, 1.7 µm
(4.6 x 300 mm)
ACQUITY UPLC BEH200, 1.7 µm
(4.6 x 300 mm)
Control
Rs=3.13
Control
Rs=3.37
UV Absorbance (276 nm)
HMW
Sample 1
Rs=2.63
Sample 1
Rs=2.38
Fragment
Sample 2
Rs=2.55
Sample 2
Rs=2.63
4
5
6
7 min
7
8
9 min
図1 ポアサイズ 125Åの ACQUITY UPLC BEH125 カラム、ポアサイズ 200 Åの ACQUITY UPLC BEH200 カラムを用いた
インシュリン HMW 、モノマー、低分子量フラグメントの SEC 分離。 サンプル 1、サンプル 2 は有効期限を超過した
治療用インシュリン。
粒子径
EP モノグラフに記載されたインシュリン SEC HMW 定量法では SEC の粒子径を 5-10 μ m と定めており、USP
では 3-10 μ m としています。今回は粒子径 1.7、4 、10 μ m の 3 種類の SEC カラムを比較しました。 3 種類
ともポアサイズは 125 Å、カラム長は 300 mm です(図 2)。粒子径 1.7 μ m カラムでは、粒子径 4 μ m、10 μ m
のカラムと比べ 35% を超える顕著な分離度の増加が見られました。2 種の治療用試料の HMW の P/V 平均
値は、3 種類のカラムすべてで EP、USP のシステム適合性基準を満たしましたが、1.7 μm カラムで P/V=37 と、
4 μm カラム(P/V=9)、10 μm カラム(P/V=8)を大きく上回る結果となりました。分離度の増大に加えて、1.7 μm
カラムでは、総溶出容量も ~5 mL で、 4 μ m カラム( ~6 mL )、 10 μ m カラム( ~13 mL)と比べ溶媒使用量を
削減すると共にスループットを向上させることも可能です。図 3 に 1.7 μm および 10 μm カラムによるデータの
ベースライン拡大図を示しました。2 μ m 未満の UPLC カラムによる大幅な分離の向上が認められます。
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3
ACQUITY UPLC BEH125, 1.7 µm
(4.6 x 300 mm)
BioSuite125 UHR, 4 µm
(4.6 x 300 mm)
Control
Rs=3.37
HMWP, 10 µm
(7.8 x 300 mm)
Control
Rs=2.21
Control
Rs=2.08
Sample 1
Rs=1.93
Sample 1
Rs=1.95
Sample 2
Rs=1.92
Sample 2
Rs=1.88
UV Absorbance (276 nm)
HMW
Sample 1
Rs=2.63
Fragment
Sample 2
Rs=2.63
4
5
6
7 min
7
8
9
10 min
14
16
18
20
22 min
図2 粒子径1.7、4 、10 μm の 125Åポアサイズカラムによるインシュリン HMW、モノマー、低分子フラグメントのSEC
分離。粒子径10 μmカラムについては、EP モノグラフに従い、注入量 100 μ L、流速 0.5 mL/minとしました。サンプル 1、
サンプル 2 は有効期限を超過した治療用インシュリン。
0.007
0.20
0.006
0.00
0
0.005
AU
ACQUITY UPLC BEH125
(4.6 x 300 mm)
0.40
0.008
2
4
0.004
6
8
10 min
Insulin
Fragment
0.83% HMW
0.003
0.002
0.001
UV Absorbance (276 nm)
0.000
3.8
4.0
4.2
4.4
4.6
4.8
5.0
5.2
5.4
5.8
6.0
6.2
6.4 min
Waters HMWP
(7.8 x 300 mm)
0.40
0.010
5.6
0.20
0.00
0.008
10
0.006
20 min
AU
0.85% HMW
0.004
0.002
0.000
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21 min
図3 図2のACQUITY UPLC BEH125 および Waters HMWP カラムによる治療用インシュリン試料(有効期限超過後に分
析)の拡大クロマトグラム。全体のクロマトグラムは中枠に表示。Waters HMWP カラムについては、EP モノグラフに
従い、注入量 100 μ L 、流速 0.5 mL/minとしました。ACQUITY UPLC BEH カラムは分離、感度を向上させ、分析時間も
大幅に短縮。同時に溶媒使用量も削減します。
共有結合で架橋された高分子量インシュリンのサイズ排除 Ultra Performance Liquid Chromatography
4
カラム長
4.6 x 150 mm および 4.6 x 300 mm の ACQUITY UPLC BEH125 カラムによるインシュリンの分離を比較し、カラム長
による影響についても評価しました(図 4)。クロマトグラフィーの原理から、カラム長の平方根に比例して
分離が向上することが予測できますが、その通りの結果が得られました。150 mm カラムと比較し、300 mm
カラムでは 41-43% の分離度の向上が見られ、予測された 41%(√ 2)とも一致した結果となりました。2 種の
医療用インシュリン試料について、150 mm カラム、300mm カラムともに EP および USP の HMW ピークバレー比
のシステム適合性基準である 2 以上に適合していますが、ピークバレー比の平均値は、300 mm カラムで 37 と
150 mm カラムでの P/V=5 を大きく上回りました。分離の改善はモノマーのピークテールについても明らかで、
300 mm カラムの使用により、150 mm カラムでは見られなかった小さな低分子量フラグメントが検出されてい
ます。ただし、300 mm カラムで、より分離を改善するためには、2 倍の分析時間と移動相が必要となること
を考慮する必要があります。
ACQUITY UPLC BEH125, 1.7 µm
(4.6 x 300 mm)
ACQUITY UPLC BEH125, 1.7 µm
(4.6 x 150 mm)
Control
Rs=3.37
Control
Rs=2.35
UV Absorbance (276 nm)
HMW
Sample 1
Rs=2.63
Sample 1
Rs=1.87
Fragment
Sample 2
Rs=2.63
4
Sample 2
Rs=1.86
5
6
7 min
2.0
2.5
3.0
3.5 min
図4 ACQUITY UPLC BEH125 の 300 mmカラムと 150 mmカラムの分離比較。この試験では両カラムで同じ流速を用い
ました(0.5 mL/min)。注入量は、300 mm カラムで 10 μ L 、150 mm カラムで 5 μ L としました。
より高い分離度を求めるのか、それともより高いスループットを求めるのかといった分析の要求によってカラ
ム長は選択します。たとえば、品質試験においては長いカラムで分離を改善しより高い定量的信頼性を得る、
探索や開発段階、リアルタイムでの工程モニタリングにおいては、短いカラムで分析時間を短縮し、スループット
を向上させるといった使い方が考えられます。
共有結合で架橋された高分子量インシュリンのサイズ排除 Ultra Performance Liquid Chromatography
5
40
3.0
Average Peak/Valley
35
2.5
Average Rs
30
P/V
20
1.5
15
Rs
2.0
25
1.0
10
0.5
0.0
Columns
Bi
10
µm
H
, 3 MW
00 P,
mm
oS
ui
4 te B
µm EH
, 3 12
AC
00 5,
QU
mm
ITY
UP
1. LC
7
µm BEH
, 3 20
00 0,
mm
AC
QU
ITY
U
1. PLC
7
µm BEH
, 3 12
AC
00 5,
QU
mm
ITY
U
1. PLC
7
µm BEH
, 1 12
50 5,
mm
5
USP/EP Limit
(NLT 2) 0
図5 HMW のピークバレー比( P/V )、USP 分離度( Rs)について評価したカラム性能のまとめ。点線で EP および USP
モノグラフで定められている P/V 下限値を示しました。
結論
参考文献
サイズ排除クロマトグラフィーは、治療用インシュリンの共有結合
1. Walsh G. Biopharmaceutical benchmarks 2010. Nat Biotechnol.
2010; 28:917-24.
をもつ HMW の分析の USP、EP 標準法です。異なるポアサイズ、粒
子径、長さの SEC カラムを使い性能を評価したクロマトグラフィー
データを示し、結果を図 5 にまとめました。長年用いられてきた
この SEC 分析に、ポアサイズ 125 Å、粒子径 2 μm 未満のエチレン
架橋型ハイブリッド(BEH)充填剤と Waters Ultra Performance Liquid
Chromatography(UPLC )システムを投入することにより、従来の SE-
2. Insulin, Human, European Directorate for the Quality of
Medicines (EDQM), 2001.
3. Insulin, The United States Pharmacopoeia Convention, Inc.,
Rockville, MD, 2002.
HPLC 法と比較して、飛躍的な分離の改善と同時に分析時間、移動
相使用量の削減が実現します。
日本ウォーターズ株式会社 www.waters.co.jp
東京本社 ࠛ140-0001 東京都品川区北品川 1-3-12 第 5 小池ビル TEL 03-3471-7191 FAX 03-3471-7118
大阪支社 ࠛ532-0011 大阪市淀川区西中島 5-14-10 サムティ新大阪フロントビル 11FࠉTEL 06-6304-8888 FAX 06-6300-1734
ショールーム
東京 大阪
テクニカルセンター 東京 大阪 名古屋 福岡 札幌
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©2012 Waters Corporation. Printed in Japan. 2012 年10月 720004271JA PDF