ThermoMass Photo(PDF:4798KB)

Thermo Mass Photo 測定データ集
株式会社リガク
熱分析事業部
目次
1.装置の概要
2.測定事例
2-1.シュウ酸カルシウム一水和物の脱水、熱分解
2-2.PMMA の熱分解
2-3.ウレタンチューブの熱分解
2-4.カーボンブラックの加熱発生ガス分解
2-5.UV 照射によるオリーブオイルの劣化
2-6.Load-Kittelberger 法による速度論的解析
2-7.石炭の熱分解
2-8.ポリ塩化ビニルの熱分解
2-9.医薬品、EI 法による分析
2-10.医薬品、PI 法による分析
2-11.ポリアミドの熱分解
2-12.セラミックスの脱バインダ
2-13.有機金属ガスの検出
2-14.アスベストの熱分解
3.参考資料
3-1.Thermo Mass Photo 測定時の昇温速度の設定について
3-2.Thermo Mass Photo 測定結果の簡易定量について
-2-
-石炭からの発生ガスー
1.装置の概要
光イオン化(PI)技術とスキマー型インターフェイスが融合した示差熱天秤-光イオン化質量分析同時
測定装置、
『Thermo Mass Photo』は試料を加熱した際の重量変化と熱エネルギー変化を検出すると
同時に、発生ガスを分析できる複合分析装置であり、高精度な発生ガス分析を実現しています。新素材
開発や製造技術の確立、品質管理、基礎研究を強力にサポートする分析ツールです。
Thermo Mass Photo は TG-DTA と質量分析(MS)装置が一体化したオールインワンスタイルを採
用しており、省スペース、安全性に優れ、またメンテナンスにも配慮した構成になっています。測定用
ソフトウェアはガイダンス機能を搭載しており、より簡便な測定が可能です。さらにダイナミック TG
(反応速度制御 TG)と MS の同時測定によって、複雑な多段階反応についても解析できます。さらに
スマートローダ(オートサンプルチェンジャー)による自動測定が可能です。
以下に Thermo Mass Photo の主な特長について説明します。
a. スキマー型インターフェイス
TG-MS では TG の加熱炉内で発生したガス
を MS に導入します。その際、TG と MS を
つなぐガス導入用のインターフェイスは、TG
と MS の動作環境(圧力)の違いを解消しつ
つ、ガスを効率よく輸送する役割を担うため、
発生ガス分析の鍵となる要素です。
従来の TG-MS では、発生ガスを MS に導入
図1
スキマー型インターフェイスの模式図
するインターフェイスとして、試料部と MS
室を細管(キャピラリー)でつなぐキャピラリー型インターフェイスを採用していました。このインタ
ーフェイスでは、発生したガスが温度環境の異なるキャピラリー内壁に接触するため、ガスの再凝縮や
変質が問題になります。
そこで Thermo Mass Photo では、スキマー型インターフェイスを採用しています。スキマー型イン
ターフェイスは、ノズルスキマーと呼ばれるジェットセパレータ原理に基づく差動排気部を熱分析装置
の加熱炉内部に組み込んだインターフェイスです。スキマー構造の動作原理を図 1 に示します。スキマ
ー部は先端に細孔(ピンホール)を有する2つのセラミックス管を重ね合わせで構成されています。内
側の管の内部は質量分析計のある高真空室に直結しており、2つの管の隙間は真空ポンプで差動排気を
行うことで中間減圧雰囲気となっています。加熱によって試料から発生したガスはキャリアガスと共に
スキマー部に運ばれ、ジェットセパレータの効果によって効率的に MS 室に導入されます。このインタ
ーフェイスでは、試料部と MS 室を接続するインターフェイス長が極小となり、さらにスキマー部を加
熱炉内に組み込み、しかも試料直近に配置できるため、インターフェイスを試料と同じ温度環境にする
ことができます。そのためガス導入経路での発生ガスの再凝縮やガスの変質、ガスリークなどの問題を
抑制することができます。これにより高沸点のガスについても高精度な測定が可能となりました。
b. 光イオン化
従来の TG-MS で使用する質量分析計では、イオン化法として電子衝撃イオン化(EI)法が主に用いら
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れていました。EI 法は、測定対象のガスに加速した電
子を衝突させることにより、ガスをイオン化させる方法
で、分子がそのままイオン化した分子イオンの他に、分
子が解裂したフラグメントイオンが生じます。このフラ
グメントイオンから分子構造に関する情報を得ること
ができますが、一方で複数のガスが同時生成する系では、
フラグメントイオン同士が重なり合い、マススペクトル
を複雑なものにしてしまう恐れがあります。そのため、
図 2 Thermo Mass Photo のイオン化部
と四重極型質量分析計の模式図
加熱により数種類のガスが同時生成する有機系の混合
物やポリマーの熱分解では EI 法による分析は困難な場
合があります。
Thermo Mass Photo では、EI 法に加えて、分子を壊さずにそのままイオン化するソフトイオン化の
一つである光イオン化(PI)法を利用することができます。PI 法は、重水素ランプからの真空紫外(VUV)
光を基底状態にある分子に照射し、分子から電子を放出させてイオン化する方法です。PI 法は、分子に
過剰なエネルギーを与えることのないソフトなイオン化方法であること、またイオン化エネルギーの大
きな窒素、酸素、水蒸気のような雰囲気ガスの妨害を受けずに有機ガスを選択的にイオン化できるとい
った特長があります。これにより発生ガスをほぼ分子イオンのみの状態で検出でき、同時発生する多数
の有機ガスをリアルタイムに弁別分析することができます。図2に Thermo Mass Photo の質量分析
計の構成を示します。イオン化部には EI 源も装備されているため、PI 法と EI 法を任意に選択できます。
c. スマートローダ
Thermo Mass Photo 用試料自動交換機、スマートロー
ダは Thermo Mass Photo に付加できるコンパクトな
オートサンプルチェンジャーです。図3に示したように
最大 24 個の測定試料がセットでき、リファレンス試料
も 3 個セットできます。サンプルチェンジャー部には、
試料のキャッチセンサや位置センサ、加熱炉カバー開閉
センサを搭載し、確実なオペレーションを実現していま
す。
測定条件は単一のウインドウで設定でき、シンプルでス
図3. スマートローダの試料トレー。測定
試料24個、リファレンス試料3個が
セット可能。
ピーディな操作を実現しました。測定試料毎に温度プロ
グラム、MS 測定条件の他、試料交換温度、MS 安定時間が設定可能で、連続測定だけでなく、単独測
定や割り込み測定にも対応しており、さらに同一サンプルの再昇温(2nd。 heating)、測定ごとのリ
ファレンス試料交換に対応できます。
<参考文献>
(1) T. Arii: J. Mass Spectrom. Soc. Jpn., 51 (2003) 235-241.
(2) リガクジャーナル, 39 (2008) No. 1, 17-25.
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2.測定事例
2-1.シュウ酸カルシウム一水和物の脱水、熱分解
シュウ酸カルシウム一水和物の脱水、熱分解について、Thermo Mass Photo を用いて調べました。
今回の測定ではイオン化法に EI 法を採用しました。
シュウ酸カルシウム一水和物は不活性雰囲気(He)中で加熱すると、以下のような三段階の反応を起こ
します。
(1)CaC2O4・H2O →CaC2O4+H2O
(2)CaC2O4 → CaCO3+CO
(3)CaCO3 → CaO+CO2
上に示した MS イオンサーモグラム(縦軸:発生ガス由来のイオンに関するシグナル強度、横軸:温度)
では、100~150℃で(1)の反応による H2O(m/z 18)のピークが、450~500℃付近で(2)
の反応による CO(m/z 28)のピークが、600~700℃で(3)の反応による CO2(m/z 44)のピ
ークがそれぞれ確認されました。
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2-2.PMMA の熱分解(その1)
アクリル樹脂のポリメチルメタクリレート(PMMA)の熱分解を Thermo Mass Photo を用いて調べ
ました。今回の測定ではイオン化法に EI 法と PI 法を採用しました。
360℃付近より PMMA の熱分解が始まりました。減量速度が最も大きくなる(DTG にてピークが確
認される)390℃付近のマススペクトルより、熱分解によって発生したガスがメチルメタクリレートで
あることがわかります。EI 法では分子イオンの m/z 100 の他にフラグメントイオンの m/z 39、41、
69 が観測されました。一方、PI 法では分子イオンの m/z 100 のみが強く観測されました。
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2-2.PMMA の熱分解(その2)
EI
PI
この熱分解挙動を MS イオンサーモグラムで示すと、EI 法では 300℃、390℃付近にメチルメタクリ
レートの分子イオン、フラグメントイオンのピークが確認されました。PI 法でも、300℃、390℃付
近にメチルメタクリレートのピークが確認されましたが、フラグメントイオンはほとんど確認されませ
んでした。以上のように、PI 法では、ほぼ分子イオンのみを観測できるため、ポリマーの熱分解のよう
な複雑な発生ガス挙動を解析することが可能です。
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2-3.ウレタンチューブの熱分解
ウレタンチューブの熱分解を Thermo Mass Photo、PI 法を用いて調べました。
380℃付近に ε -カプロラクトンの分子イオンピーク(m/z 114)とジフェニルメタンジイソシアネ
ート(MDI)の分子イオンピーク(m/z 250)がそれぞれ確認されました。このウレタンチューブが
MDI/ポリラクトン系ポリウレタンであることがわかりました。
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2-4.カーボンブラックの加熱発生ガス分析
EI
カーボンブラックの表面官能基を Thermo Mass Photo、EI 法を用いて調べました。
図 1 に示したように、カーボンブラック表面にはカルボキシル、フェノール、カルボニル、ラクトン基
などを存在しています。Thermo Mass Photo ではこれらの官能基の熱脱離によって発生する CO や
CO2 の挙動から、官能基について推測することができます。
カーボンブラックの加熱発生ガスの温度プロファイル(MS イオンサーモグラム)から、400~900℃
において確認された CO から表面にフェノール、カルボニル基が存在していること、また 100~700℃
において確認された CO2 からカルボキシル基が存在していることがそれぞれ示唆されます。さらに NO
や SO2 のシグナルも検出されており、カーボンブラック中に窒素、硫黄分も残存していることが確認
されました。
図 1 炭素材料の表面官能基モデル
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2-5.UV 照射によるオリーブオイルの劣化
UV 照射によって劣化したオリーブオイルについて Thermo Mass Photo、EI 法を用いて調べました。
UV 照射前のオリーブオイルを加熱すると、420℃付近にてオレイン酸の発生(フラグメントイオン
m/z 264)を確認しました。一方 UV 照射後のオリーブオイルではオレイン酸の発生量は著しく減少
しました。
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2-6.Load-Kittelberger 法による速度論的解析
EI
シュウ酸カルシウム一水和物の脱水反応について、昇温速度を変えて Thermo Mass Photo、EI 法を
用いて測定しました。
得られた結果を Load-Kittelberger 法を用いて解析することで、反応の活性化エネルギーを求めるこ
とができます。昇温速度βで測定した場合、特定イオンの発生量が最大となる温度(ピーク温度)を Tm
とすると、以下の式が成り立ちます。
ln
Tm2
∆E
 ∆E 
=
+ ln

β
R ⋅ Tm
 A⋅R 
ここで∆E は活性化エネルギー、R は気体定数、A は頻度
因子です。
横軸を 1/Tm、縦軸を ln(Tm2/β )としてプロットし、そ
の傾きからシュウ酸カルシウム一水和物の脱水反応の活
性化エネルギーを計算すると、∆E = 86.5kJmol-1 であ
ることがわかりました。
<参考文献>
(1) F. M. Load, J. S. Kittelberger, Surf. Sci., 43 (1974) 173-182
(2) 有井, 高田, 千田, 岸, 熱測定, 19 (1992) No. 4, 182-185
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2-7.石炭の熱分解
石炭の熱分解について Thermo Mass Photo、EI 法を用いて調べました。
石炭を不活性雰囲気(He)中で加熱すると、H2、CH4、H2O、CO、CO2 が発生しました。また TG
微分曲線(DTG)でピークが認められた 460℃付近では炭化水素系のガスが確認されました。
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2-8.ポリ塩化ビニルの熱分解(その1)
ポリ塩化ビニルの熱分解について Thermo Mass Photo、EI、PI 法を用いて調べました。
ポリ塩化ビニルを不活性雰囲気(He)中で熱分解させると、塩化水素の脱離によりポリエン構造を形成
します。その後、環化反応によってベンゼンなどの芳香族化合物を生成することが知られています。
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2-8.ポリ塩化ビニルの熱分解(その2)
実際の測定では、ポリ塩化ビニルを不活性雰囲気(He)中で加熱すると2段階で減量することがわかり
ました。1段目の減量(300~400℃)では HCl とベンゼン、ナフタレンなどの芳香族化合物が発生
します。2段目の減量(400~550℃)ではトルエン、キシレンなど、1段目の減量で発生したベン
ゼンやナフタレンとは異なる芳香族化合物が発生します。
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2-9.医薬品、EI 法による分析
消炎、鎮痛剤(主成分:ロキソプロフェンナトリウム水和物)の市販品 A、B、C の3種類の試料につ
いて、Thermo Mass Photo、EI 法にて測定しました。
それぞれの試料に共通して、構成原料の分解成分を示す m/z 18, 55, 70, 105, 120 のイオン生成を
付随する 3 段階の重量減少が観測されました。ここで試料 A の分解成分には、156℃と 280℃に発生
ピークをもつ 2 段階の脱水(m/z 18)と、同じく 285℃にピークをもつ CO2(m/z 44)生成が顕
著に観測できます。これに対して、試料 B では、2 段目の脱水ピーク強度が著しく低下しているととも
に CO2 の生成も僅かになっています。さらに、試料 C では、2 段目の脱水ならびに CO2 の生成は観測
できなくなり、かわりに 2 段目の温度域には、m/z 55 と m/z 70 の成分が顕著に生成しています。
以上のように、
Thermo Mass Photo では医薬品の熱分解反応や分解生成物の違いを明確にできます。
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2-10.医薬品、PI 法による分析
2 種類の市販医薬品(高血圧症、狭心症、不整脈の治療薬【主成分:メトプロロール酒石酸塩】)A、B
を Thermo Mass Photo、PI 法にて測定しました。
その結果、300℃付近の発生ガス量に顕著な差異を確認できました。試料 A、B 共に、300℃付近に
て発生しているガスは、PI マススペクトルより m/z 152 と m/z 192 の成分であることが容易にわか
ります。さらにこれらの成分の加熱脱離挙動を表す m/z 192 の MS イオンサーモグラムを比較すると、
医薬品 A に比べて医薬品 B では 4 倍以上の脱離量であることがわかりました。以上のように Thermo
Mass Photo、PI 法にて測定することで、加熱により試料から脱離する有機ガスを分子イオン状態で分
離・識別できるため、医薬品の微小な差異を明確に捉えることができます。
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2-11.ポリアミドの熱分解
代表的な 3 種類のポリアミド(ナイロン)について、不活性雰囲気(He)中で Thermo Mass Photo、
EI 及び PI 法にて測定しました。
従来の EI 法でのマススペクトルは、分解成分のフラグメントイオンが低い m/z 領域で互いに重なり合
い、個々のナイロンを直接、特徴付けて識別することは困難です。これに対して、PI 法でのマススペク
トルは、サンプル間の異なる骨格構造に起因した分解成分の分子イオンのみで構成されるため、各試料
のスペクトルには明確な違いが現れます。モノマーとして、ナイロン 6 は m/z 113 のε-カプロラ
クタム(炭素数 6)、ナイロン 11 は m/z 183 のウンデカンラクタム(炭素数 11)
、ナイロン 12 は
m/z 197 のラウリルラクタム(炭素数 12)等がマススペクトル上で明瞭に特徴付けられています。
このように、PI 法のフラグメントフリーな特性は、サンプル間の微小な変化を敏感にキャッチするため、
スペクトルによる指紋(フィンガープリント)分析としても役立ちます。
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2-12.セラミックスの脱バインダプロセス
市販のアルミナ製のセラミックスシートを He ガス中で加熱処理した時の脱バインダプロセスを
Thermo Mass Photo、EI 及び PI 法を用いて分析しました。
脱バインダに伴う熱変化は、300℃~500℃にかけての単調な重量減少として観測されます。その際
の脱離成分の EI と PI 法のマススペクトルを比較すると、マススペクトルの差は明瞭に現れています。
従来の EI 法では、フラグメントイオンの生成によってスペクトルが複雑となるため脱離ガス成分を定
性分析することが困難です。これに対して PI 法では、分子イオンのみが観測されるため、脱離ガス成
分が m/z 56(ブテン)と m/z 100(メチルメタクリレート)のみであることが確認できます。この
ように Thermo Mass Photo はセラミックスの脱バインダプロセスの効率的なシミュレーション法と
して役立ちます。
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2-13.有機金属ガスの検出
酸化亜鉛合成のための CVD(Chemical Vapor Deposition)原料である亜鉛アセチルアセトナート
を加熱した際の発生ガスを Thermo Mass Photo、PI 法を用いて分析しました。
180℃付近に減量及び発生ガス由来の分子イオンのピークが確認されました。そこで 180℃付近のマ
ススペクトルに注目すると、m/z 100 と m/z 262~266 の 2 成分の分子イオンが検出されたことが
わかりました。m/z 100 は熱分解により亜鉛アセチルアセトナートの配位子がはずれたアセチルアセ
トンです。m/z 262~266 は亜鉛アセチルアセトナートで、分解せずにそのまま蒸発した成分です。
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2-14.アスベストの熱分解
代表的なアスベストであるクリソタイルの熱分解挙動を Thermo Mass Photo、EI 法を用いて分析し
ました。
クリソタイルを昇温した際の TG-DTA 及び MS イオンサーモグラムを示します。600~700℃にて
下記に示すクリソタイルの脱水による重量減量と H2O の発生が確認されました。
2Mg3Si2O5(OH)4 → 3Mg2SiO4 + SiO2 + 4H2O
また 300~400℃の H2O 発生はブルーサイトの脱水と推測されます。
Mg(OH)2 → MgO + H2O
H2O 以外にも CO2 や SO2 の発生が確認されました。400℃、650℃付近の CO2 発生についてはマグ
ネサイト、カルサイトの脱炭酸の可能性が考えられます。
MgCO3 → MgO + CO2、CaCO3 → CaO + CO2
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3.参考資料
3-1. Thermo Mass Photo 測定時の昇温速度の設定について
Thermo Mass Photo の測定では、昇温速度を 10℃/min もしくは 20℃/min に設定することが多い
です。昇温速度を大きくすると、全体の挙動は高温側にシフトし、ピークの分解能は低下しますが、単
位時間当たりの重量変化及び発生ガス量は大きくなるため、発生ガス由来の MS シグナル強度は大きく
なります。よって発生ガス量が少ない場合は、昇温速度を大きくすることが有効となることもあります。
また温度を一定に保ち、時間をかけて減量させると、その際に発生したガス由来の MS シグナル強度は
非常に小さくなるため、検出が困難になることがあります。
上記は昇温速度を 2~50℃/min まで変化させた時のシュウ酸カルシウム一水和物の脱水の TG、
DTG、
MS イオンサーモグラムです。昇温速度を大きくすることで、MS シグナル強度が大きくなり、ピーク
位置が高温側にシフトします。また MS イオンサーモグラムの挙動は DTG とほぼ一致していることが
わかります。
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3-2.Thermo Mass Photo 測定結果の簡易定量について
—石炭からの発生ガス—
Thermo Mass Photo 測定で確認された 10 種類の無機ガスについては簡易定量を行うことが可能で
す。ここでは縦軸をシグナル強度(A)から 1 秒当たりに発生するガス量(ppm/s)に変換する方法を
紹介します。
はじめに、シュウ酸カルシウム一水和物の脱水反応で
発生する H2O の脱離量を利用して、変換係数 K を計
算します。
K=
0.123w
1
×
A
18
(1)
w:シュウ酸カルシウム一水和物の重量
A:H2O(m/z 18)のシグナル面積強度
目的試料から発生する各無機ガスの分子イオン(M )のシグナル強度(I )について、変換係数 K 及
び下記の比感度 X を用いて 1 秒当たりに発生するガス量 C(ppm/s)へ変換します。
C=
IK
1
× M × × 10 6 (2)
W
X
W:目的試料の重量
X:比感度
上記の石炭からの発生ガスに関する MS イオンサーモグラムでは、(1)、
(2)の変換式を用い、縦軸
をガス量に変換しています。
表1 無機ガス10種の比感度(H2O を基準に)
H2
He
CH4
NH3
H2O
CO
N2
O2
Ar
CO2
1.13
1.04
1.00
0.84
1.00
0.77
0.75
0.65
0.92
0.60
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