“ET ロボコン 2013”に出場して

“ET ロボコン 2013”に出場して
小笠原
1.
はじめに
祐治*
参加資格は“高校生以上.組込みソフトウェア開
ET ロボコン 2013 東北地区大会が 9 月 23 日(秋
発および同技術教育に興味を持っている方で,他の
分の日)にいわて県民情報交流センタ(アイーナ)
競技者との意見交換,情報交換が可能であること.”
の7階アイーナホールで開催されました.本校の情
とあります.企業,大学,高専,短大,個人に分類
報技術科から 2 チーム(Black rim,Swift runners,
されており,全国で 363 チームが参加しました.
2 年生の学生 6 名)が出場しました.企業や大学が
地区大会は 11 地区で行なわれ,各地区大会で上
出場するなか,デベロッパー・競技部門でチーム
位の成績を獲得したチームがチャンピオンシップ
Black rim が 1 位となりました.
大会に出場することができます.
2.
今年からデベロッパー部門(従来競技の継承)に
大会の概要
アーキテクト部門(次世代のアーキテクト育成)が
ET ロボコン(ET ソフトウェアデザインロボッ
トコンテスト)は組込みシステム技術協会(JASA)
追加されました.
東北地区大会は,昨年に引き続き盛岡市のアイー
が主催しており,組込みソフトウェア技術者の人材
ナで行なわれ,デベロッパー部門に 22 チーム,ア
育成の一環として行なわれる競技大会です.ET は
ーキテクト部門に 3 チームが出場しました.
Embedded Technology(組込みシステム技術)の
3.
略です.2002 年に UML ロボットコンテストとし
て大会が始まり,2005 年から ET ロボコンと名称を
競技の概要
デベロッパー部門の競技概要を説明します.
変更して現在に至っています.大会は図 1 に示すよ
ハードウェアとして走行体(図 2)を使用して,そ
うに地区大会とチャンピオンシップ大会から成っ
れを制御する組込みソフトウェアを競うものです.
ています.
走行体は教育用レゴマインドストーム NXT(レゴ
チャンピオンシップ大会
(東京都)
ブロック)を使用して組み立てるもので,競技規約
が定められており,改造等の余地はほとんどありま
せん.簡単な装飾ができる程度です.走行体は昨年
選抜
地区大会
11 月 20-21 日
9 月~10 月
北陸地区大会
(石川県)
東北地区大会
(岩手県盛岡市)
北海道地区大会
(江別市)
東海地区大会
(愛知県)
東京地区大会
(新宿区)
北関東地区大会
(埼玉県)
中四国地区大会
(広島県)
関西地区大会
(京都府)
南関東地区大会
南関東地区
(神奈川県)
大会
沖縄地区大会
(那覇市)
図1
*
情報技術科
(神奈川県)
九州地区大会
(福岡県)
大会構成
から変更はなく,昨年のものがそのまま使用可能で
した.
ジャイロセンサ(傾きを感知)と光センサ(ライ
ントレース用)を搭載しており,二輪でバランスを
取りながら自立走行(倒立振子制御)することがで
きます.また,両輪にエンコーダが内蔵されており,
各車輪の回転角を知ることができます.また,超音
波センサで障害物を検知することができます.
BlueTooth が搭載されており,PC と通信が可能で
す.PC からスタート指示を出したり,走行データ
を収集することができます.
電池は大会当日,主催者から配布されます.
3.2 競技
評価はモデリングと競技(競技コースの走行時
競技コースを図 3 に示します.競技コースには内
間)で行なわれます.
側(インコース)と外側(アウトコース)のコース
があります.
超音波センサ
ジャイロセンサ
2 チームで 2 回走行を行います.1 回目は,それ
ぞれインコースとアウトコースをスタートの合図
マイコン
とともに走行を開始します.2 回目も同様ですが,
1回目とは逆のコースを走行します.インコースと
エンコーダ
(モ-タ-)
アウトコースの両方の走行時間の合計で評価され
ます.
図 3 の右上からスタートして,中間ゲート(赤点
と赤点の間)を通過し,ゴール(赤点と赤点の間)
までをベーシックステージと呼んでいます.
スタンド
光センサ
図2
NXT 走行体
図2
また,ゴールを過ぎた後に①~④の難所があり,
NXT 走行体
最後のガレージまでをボーナスステージと呼んで
います.難所の直前は灰色のライン(マーカー)に
3.1 モデリング
なっており,難所までの距離を正確に知ることがで
モデリングは,設計書等に相当するもので,UML
きます.
(Unified Modeling Language)を用いて記述する
走行時間はベーシックステージの走行時間から
場合がほとんどです.モデルの書き方(正確性,理
つぎの項目に該当する時間を削減して計算されま
解性)とモデルの内容(品質,設計,性能)で A3
す.ゴールまでたどり着かない場合には,120 秒と
版 6 枚以内(コンセプトシート 1 枚+デザインシー
なります.
ト 5 枚以内)です.事前に審査委員によって評価さ
れます.
スタート位置
スロープ
アウトコース
中間ゲート
スタート位置
インコース
ゴール
置
ショート
カット?
①ルックアップゲート
中間ゲート
置
②シーソー
③ガレージイン
④ガレージイン
中間ゲート
置
中間ゲート
置
図3
競技コース
・リモートスタート(BlueTooth 通信) 5 秒
C++言語を学習していないこともあり,プログラム
・中間ゲート通過(4 カ所)
各5秒
の作製には時間を要しました.また,就職活動や授
10 秒
業の課題等もあり,放課後や休日に取り組む場合に
・ゴールゲート通過
・難所通過
は,学生にモチベションを維持させることに苦心し
①ルックアップゲート・シングル
5秒
ました.
ルックアップゲート・ダブル
10 秒
地区大会は盛岡で行われるので,1 年生の学生に
②シーソー・シングル
5秒
大会の案内を行っています.観戦して興味を持って
シーソー・ダブル
10 秒
もらい,翌年の参加に繋ぎたいと考えています.
③ガレージ・イン
5秒
4.3 支援ツール
④ガレージ・イン
5秒
走行体には BlueTooth が搭載されており,PC と
データ交換を行うことができます.これを利用した
4.
大会への取り組み
支援ツール(PC 側ソフト)を作成しました.
地区大会へは 2009 年から出場しており,今回で
5 回目となります.
4.1 スケジュール
出場する学生を募集し,3 月に参加チームを結成
しエントリしました.東北地区大会関連のスケジュ
ールは以下の通りとなっています.
拡大表示
・エントリ締め切り 4/8
・技術教育 1
距離
5/26(日)
開発環境,モデリング入門,
・技術教育 2
6/2(日)
モデリング実践,モデル実装
・試走会 1
8/4(日)
・試走会 2
8/31(日)
時間
・地区独自試走会 9/16(月・祝)
・地区大会
9/23(月・祝)
4.2 学生の指導
参加する学生が 2 年生であり,就職活動とも重な
図 4.走行軌跡上にグラフ表示
るので,取り組みが十分とは言えませんでした.
(1)勉強,プログラムの作成(4~7 月)
実習(授業)として週 1 回(180 分)及び放課後
距離
倒立振子,競技ルール,開発環境の学習,
プログラムの作成など.
(2)コンセプト,デザインシートの作成(7-8 月)
夏休み中にも数日作成を行ないました.時間およ
び表現力が十分でないので,実際に用いている制御
方法を的確に記述することができず,内容が薄くな
ってしまいました.
提供されているサンプルプログラムは C 言語を
用いていましたが,プログラムの作成には前大会ま
で使用していた C++言語を使用しました.授業で
図 5 横軸が距離のグラフ表示
支援ツールの機能を示します.
・リモートスタート
ます.
・走行ログの収集,グラフ化
安定的により速く走るために,駆動力の余力を把
・走行ログの保存,読出し
握し,一定の余力を残して走行するように制御方法
実際の走行を注意して見ていても,時間の経過と
を変更しました.
ともに過ぎてしまうので,詳細を記憶していること
は困難です.また,走行が期待したとおりに行かな
また,車輪のエンコーダ値から得られる走行距離
をもとに,カーブでの走行を調整しました.
い場合,プログラムの実行部分と走行を対応付ける
ショートカット(図 3 参照)についても検討しま
ことは容易ではありません.それを,改善するため
したが,中間ゲートを1つ通過しないので 5 秒以上
に,つぎに示す 3 種類のグラフ形式で各センサ値を
短縮できないと意味がありません.ショートカット
表示できるようにしました.(図 4, 図 5 参照)
して確実にライン復帰することはできますが,5 秒
・走行軌跡に表示
以上短縮することは難しいと考え残念しました.
・横軸が距離
5.2 ボーナスステージ
・横軸が時間
昨年より難所が減ったので,入賞するためには難
支援ツールを用いることによって,走行状況の把
所を確実に走破する必要があります.
握が容易になりました.特にカーブでのライントレ
ボーナスステージの難所を通過するとベーシッ
ースや難所走行において,安定性の判断ができるよ
クステージの走行時間から規定時間が削減されま
うになりました.
す.走行時間の制限は 120 秒となっており,練習コ
4.4 練習コース
ースではベーシックステージが 40 数秒なので,ボ
コースの大きさは 5460×3640mm であり,一部屋
ーナスステージでは 70 秒以上の時間を使うことが
を占有してしまいます.素材は競技コースを異なり
できます.そのため,急がずに確実に難所を走破す
ますが,大会事務局で販売したコースを購入しまし
るようにしました.
た.
前回までは両輪のエンコーダ値(走行距離に相
5.
当)を利用して難所に対処し,マーカー(灰色ライ
戦略
ン)を利用しない場所もありました.今回は全ての
5.1 ベーシックステージの走行
マーカーを検出しました.
昨年は尻尾走行(図 6 のように尻尾を着いて走
各難所での走行方法はつぎの通りです.
る)ができましたが,ルールが変更になりベーシッ
① ルックアップゲート(シングル:5 秒,ダブル:10 秒)
クコースでは尻尾走行ができなくなりました.その
高が制限されているので,尻尾を下げて後ろのめ
ため,2 輪でバランスと取りながら(バランス走行)
ライントレースを行いました.
りで走行します.
ゲートを通過すると,シングルとなります.その
後,ゲートを戻り再度通過するとダブルとなります.
ダブルに挑戦しました.
後ろのめりで走行するとライントレースに使用
している光センサの向きが変わり,照明の影響を受
けやすくなります.そのため,ライントレースを止
めて直線走行を行いました.両輪のエンコーダ値の
差が一定になるように走行制御を行います.ライン
バランス走行
尻尾走行
図 6 走行方法
バランス走行のライブラリーは,大会事務局がら
から離れるので,ゲート通過後にライン復帰のする
ために,ライン方向に対して斜め方向から接近し,
ライントレース走行に戻ります.
提供されています.速度を指定して走行する制御に
② シーソー(シングル:5 秒,ダブル:10 秒)
なっています.バランス走行は前に傾いた場合に,
シーソーもルックアップゲートと同様に,シング
立て直すための余力を残して走行する必要があり
ルとダブルがあります.ここでもダブルに挑戦する
ことにしました.シーソーダブルとは,シーソー上
インコースではラインの左側,アウトコースでは
で前進→後退→前進走行を行います.そのつど走行
ラインの右側を走行します.最も急なカーブの走行
面(板)がバタンと動くまで前進と後進を行うもの
をなるべく容易に走行するためで,カーブの外側を
です.走行面が動くので,バランスの制御が難しく
走行するようにしています.
なります.図 7 に示すように前のめり,後ろのめり
6.
で走行しました.
ここでもルックアップゲートと同様に,直線走行
を行いました.不安要素として,シーソーから降り
結果
7階アイーナホールに競技コースが設置され,走
行が行われました.
る際,勢いがつき過ぎて転倒することがありました.
シーソー通過後,ラインに復帰したいのですが,
ガレージまでの距離が短いので考慮が必要でした.
シーソーぎりぎりまで,一旦後退してからラインに
復帰しました.
図7
シーソー走行
③ ガレージ・イン(5 秒)
直前のマーカーの検出を行い,マーカーからの距
図9
大会の様子
走行準備中にチームの紹介・インタビューが行わ
れます.
離をもとに走行を終了します.その際,前に倒れな
いようにするために,少し直進して,後ろのめりに
して尻尾を下げます.
5.3 走行シナリオ
走行の流れを図 8 に示します.
インコース,アウトコースともリモートスタート
し,ベーシックコースをライン通りに 40 秒程度で
走行し,ボーナスステージに入ります.ボーナスス
テージでは,ルックアップゲート,シーソーともダ
ブルで,その後ガレージインを行います.
図 10 走行結果の表示
走行毎に 2 チームの走行結果が表示されます.
6.1 チーム・Swift runners
走行結果を図 11 に示します.
インコースでは,ゴールを通過後,ルックアップ
ゲートでゲートに衝突してリタイヤとなりました.
アウトコースでは,中間ゲート通過後コースアウト
してリタイヤとなりました.
結果としては,インコース:5.2 秒,アウトコー
ス:95 秒で合計:100.2 秒となりました.
図8
走行シナリオ
本番前までは好調で,安定して速く走行していた
ので期待したいましたが,不運にも本番ではダメで
ス:-7.6 秒で合計:-15.0 秒となり,競技部門 1 位と
した.予想外!
なりました.
Swift runners に比べれば,安定感がなかったの
で速度を控えめにして走行を行いました.それが功
を奏したようです.
6.3 大会の結果
ET ロボコン 2013 東北地区大会のデベロッパー
部門の結果を示します.
・走行競技部門
1.Black rim(岩手県立産業技術短大 情報技術科)
-15.0 秒
2.Joker(東北大大学院
情報科研究科)
-14.0 秒
図 11
Swift runners の走行結果
3.Monolith(岩手県立大学ソフトウェア情報学部)
6.2 チーム・Black rim
走行結果を図 12 に示します.
-6.2 秒
・モデリングデザイン部門
1.Monolith(岩手県立大学ソフトウェア情報学部)
2.Joker(東北大大学院
情報科研究科)
3.青大ロボコン研(青森大学ソフト情報学部)
・総合部門
1.Monolith(岩手県立大学ソフトウェア情報学部)
2.Joker(東北大大学院
情報科研究科)
3.ひだまり特戦隊(リコーIT ソリューションズ)
まとめ
7.
ET ロボコン 2013 東北地区大会に,本校の情報
図 12
Black Lim の走行結果
インコースでは,ガレージインまで完走しました.
アウトコースも,ガレージインまで完走しました.
技術科から 2 チーム(2 年生の学生 6 名)が出場し
ました.組込みシステム関連の企業や大学・大学院
が出場したなか,デベロッパ・競技部門で1位とな
りました.昨年(競技部門 2 位)よりも成績を上げ
ることができました.
8.
参考資料
1)ET ロボコン 2013 公式サイト:
http://www.etrobo.jp/2013/taikai/chiku.php
2)ET ロボコン 2013 東北地区公式サイト:
http://tohoku.etrobo.jp/2013/120
図 13 表彰後のインタビュー
結果としては,インコース:-7.4 秒,アウトコー