溶融Znめっき鋼板のFe/Zn固液界面反応に及ぼす 鋼板組織の - J

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論
文
鉄 と 鋼 Tetsu-to-Hagané Vol. 100 (2014) No. 9
溶融 Znめっき鋼板の Fe/Zn 固液界面反応に及ぼす
鋼板組織の影響
高田 尚記 1)*・竹山 雅夫 1)
Effect of Steel Microstructure on Solid Fe/Liquid Zn Interface Reaction in Hot-dipped Zn Galvanized Steels
Naoki Takata and Masao Takeyama
Synopsis : We have examined the growth kinetics of Fe-Zn intermetallics layers formed on Fe-1.5Mn (α-Fe single phase) and Fe-3.5Mn-0.1C (γ-Fe+α-Fe
two phase) steel sheets dipped in pure Zn melt at 460 ºC. In an early stage of dipping, FeZn13-ζ phase layer is initially formed and its thickness
slightly increases with increasing dipping time till about 10 s, and then all Fe-Zn intermetallics layers (ζ, δ1, Γ) grow following a parabolic
law. The growth kinetics can be recognized in both steels. This result demonstrates a slight effect of steel microstructure on the formation of
Fe-Zn intermetallics layers. The composition analysis revealed a significant Fe dissolution into pure Zn melt in an early stage of dipping. The
supersaturated Fe in Zn melt would provide the driving force for the crystallization of ζ phase layer on steel sheets. The continuous layer of ζ
phase would control Fe diffusion for the following growth of the other Fe-Zn intermetallics layers.
Key words: galvanized steel; intermetallics; diffusion; continuous cooling transformation (CCT) diagram.
1. 緒言
する。その後,鋼板は Zn 浴に浸漬され,鋼板(α -Fe 固相)
と Zn 浴(Zn 液相)の界面において Fe-Zn 合金層が形成する。
溶融 Zn めっき鋼板は優れた防
性を示すため,建材分
フェライト(α)+マルテンサイト(α )組織を有する
野で広く用いられている 。溶融 Zn めっきおよび合金化溶
高強度 DP 鋼板の溶融 Zn めっき工程に伴う組織変化は,
融 Zn めっきによる表面処理鋼板の生産量は年々増加して
フェライト単相鋼板と異なる。Fig.2 に,DP 鋼を模擬した
おり 1),近年溶融 Zn めっきは DP(Dual Phase)鋼等の高強
Fe-0.2 wt.%C 鋼板(α+α 組織)の溶融 Zn めっき工程に伴
度複相鋼板へ適応
されつつある。Zn めっき鋼板は曲げ
う組織変化を模式的に示す。γ単相域において表面還元処
加工等の成形性も要求されるため,Zn めっき皮膜の密着
理(γ単相化)された鋼板は,冷却中にフェライト変態開
性 が重要な課題となる。この密着性改善には,Zn めっき
始線(Fs)を通過するが,γ→α変態は完了せず,α+γ二
/鋼板界面に形成する Fe-Zn 合金層(Fe-Zn 金属間化合物
相組織で Zn めっき処理される。めっき処理後の急冷にて
相)の制御 が必要となる。
マルテンサイト変態(γ→α )が起こり,鋼板はα+α 組
1)
2,3)
4)
5)
溶融めっき鋼板は熱処理とめっきとを一体化した連続プ
織を呈する。したがって,溶融 Zn めっき DP 鋼板において,
ロセスで製造される 1,5)。そのため,鋼板の組織は溶融めっ
α+γ二相と Zn 液相の界面反応により Fe-Zn 合金層が形
き工程中に変化する。溶融 Zn めっき工程において,鋼板は
成する。
800∼850 ℃にて表面還元処理を施された後,約 460 ℃にて
電析による Zn めっき皮膜の生成は鋼板の組織および結
Zn 浴に浸漬される 。この還元処理温度は鋼板のオーステ
晶方位に強く依存する 6)。溶融 Zn めっきも同様,Fe/Zn 固
ナイト(γ)+フェライト(α)二相域に,Zn めっき温度は
液界面に形成する Fe-Zn 合金層は Fe 固相の結晶構造や結晶
鋼板のフェライト(α)単相域に対応する。したがって,溶
方位に影響を受けると予想される。高強度鋼板はα相(bcc
融 Zn めっき工程は鋼板のγ→α変態を伴う。Fig.1 に,α
構造)やγ相(fcc 構造)から構成される複相組織を有する
単相鋼板を模擬した純 Fe の溶融 Zn めっき工程に伴う組織
ため,複数の Fe 固相と Zn 液相が反応する。したがって,
変化を模式的に示す。γ+α二相域において表面還元処理
Fe/Zn 固液界面反応に及ぼす鋼板の構成相の影響は,溶融
(γ+α二相化)された鋼板は,冷却中にフェライト変態開
Zn めっき複相鋼板における Fe-Zn 合金層制御の観点から重
始線(Fs)および終了線(Ff)を通過し,γ→α変態が完了
要な課題である。本研究では,連続冷却変態線(CCT)図を
1)
平成 25 年 12月27日受付 平成 26 年 2月20日受理(Received on Dec. 27, 2013 ; Accepted on Feb. 20, 2014)
1) 東京工業大学大学院理工学研究科材料工学専攻(Department of Metallurgy and Ceramics Science, Graduate School of Science and Engineering, Tokyo Institute of
Technology, 2-12-1-S8-8 Ookayama Meguro-ku Tokyo 152-8552)
* Corresponding author : E-mail : [email protected]
DOI : http://dx.doi.org/10.2355/tetsutohagane.100.1172
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溶融 Znめっき鋼板のFe/Zn 固液界面反応に及ぼす鋼板組織の影響
基にγ→α変態を制御した Fe-Mn-C 鋼に純 Zn めっきを施
冷(冷却速度:約 15 ℃ /s)に伴う試料の温度変化を測定し
し,Fe/Zn 固液界面反応に及ぼす鋼板組織(α相および過冷
た。その結果,Fe-1.5M および Fe-3.5Mn-0.1C のγ→α変態
γ相)の影響を検討した。
開始温度は,約 770 ℃および約 500 ℃である。
2. 実験方法
℃に加熱後,厚さ 4 mm まで熱間圧延を施した後,厚さ 1
本研究では,真空溶解されたインゴットを 1200∼1230
mm まで冷間圧延を施した Fe-1.5Mn および Fe-3.5Mn-0.1C
本研究で用いた鋼板の組成は Fe-1.5Mn,Fe-3.5Mn-0.1C
鋼板を用いた。両鋼板に機械研削およびバフ研磨を表面に
(wt.%)である。本鋼板の組成を Fe-Mn2 元系状態図および
施した後,N2-15%H2 雰囲気(露点− 45 ℃)にて 900 ℃ /60 s
Fe-Mn-C3 元系状態図上に示したものを,Fig.3 に示す。こ
加熱・保持後,460 ℃まで冷却し,純 Zn 浴(460 ℃)に 2∼
れらの状態図は,市販の熱力学データベース PanFe を基
600 s 浸漬させ,その後急冷した。これらの温度履歴は,鋼
に状態図計算ソフトウェア(Pandat
板に溶接した K 熱電対を用いて測定した。本研究における
7)
)を用いて作成した。
8,9)
還元処理温度である 900 ℃において両鋼ともγ単相域であ
鋼板の純 Zn 浴浸漬実験実験は,Zn めっきシミュレーター
るが,Zn めっき浴温度である 460 ℃において Fe-1.5Mn は
を用いた。試料の組織観察は,光学顕微鏡および走査型電
α単相域,Fe-3.5Mn-0.1C はα+ Fe3C 二相域である。これ
子顕微鏡(SEM)を用いた。元素分析は,エネルギー分散型
らの鋼板のγ→α変態点を予め測定するため,鋼板に K 熱
X 線分析(EDS)を用いた。また鋼板の硬さはビッカース硬
電対を溶接し,900 ℃ /600 s 加熱・保持(γ単相化)後,空
度計を用い,荷重 9.8 N にて測定した。
Fig. 1. S
chematic illustrations showing a change in microstructure of the α-single phase steel (pure Fe) in the Zn galvanizing process: (a)
Fe-C binary phase diagram, (b) a representative thermal history in process, together with the continuous cooling transformation
(CCT) diagram of pure Fe, (c) microstructures.
Fig. 2. S
chematic illustrations showing a change in microstructure of dual phase steels (Fe-0.2wt.%C) in the Zn galvanizing process: (a)
Fe-C binary phase diagram, (b) a representative thermal history in process, together with the continuous cooling transformation
(CCT) diagram of Fe-0.2wt%C steel, (c) microstructures.
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鉄と鋼 Tetsu-to-Hagané Vol. 100 (2014) No. 9
Fig. 3. C
hemical compositions of studied steels on (a) Fe-Mn binary phase diagram and (b) the cross section of 0.1 wt.% C in Fe-Mn-C
ternary phase diagram.
Fig. 5. O
ptical micrographs of the Fe-1.5Mn steel dipped in
pure Zn melt at 460 ºC for (a) 2 s, (b) 10 s, (c) 60 s and (d)
600 s.
3・2 鋼板組織
Fig.5 お よ び Fig.6 に,Fe-1.5Mn 鋼 お よ び Fe-3.5Mn-0.1C
Fig. 4. E
xperimentally measured thermal histories of the hotdipping Zn coating process for (a) Fe-1.5Mn and (b) Fe3.5Mn-0.1C steels, together with γ→α transformation
start lines (Fs).
鋼の 460 ℃純 Zn 浴浸漬に伴う鋼板組織の変化をそれぞれ
示す。Fig.7 に,両鋼の Zn 浴浸漬に伴う硬さの変化を示す。
Fe-1.5Mn 鋼は粒径数 100 µm のフェライト(α)単相組織を
有する(Fig.5)
。その組織は Zn 浴浸漬中全く変化せず,硬
3. 実験結果
さは 0.9 GPa と一定である(Fig.7)。2 s Zn 浴浸漬後急冷し
3・1 鋼板の温度履歴
ナイト(γ)粒から生成したマルテンサイト(α )と一部
た Fe-3.5Mn-0.1C 鋼の組織は,粒径約 20 µm の旧オーステ
Fig.4 に,
(a)Fe-1.5Mn 鋼 お よ び(b)Fe-3.5Mn-0.1C 鋼 に
の旧γ粒界上に生成したα粒から構成される組織である
おける還元処理後の冷却および Zn めっき処理(2 s および
(Fig.6(a))
。これは,Zn 浴浸漬時のγ+α 2 相組織がその
600 s Zn 浴浸漬)中の温度履歴を各鋼板のフェライト変態
後の急冷によってα +α組織に変化したものである。Fe-
開始線(Fs)と併せて示す。Fe-1.5Mn 鋼は空冷中約 750 ℃
3.5Mn-0.1C 鋼のα(γ)+α二相組織は 60 s 浸漬まで大き
にて放熱反応を示し(Fig.4(a)
)
,これはγ→α変態に対応
な変化は認められないが(Fig.6(a-c))
,600 s 浸漬後明るい
する。一方,Fe-3.5Mn-0.1C 鋼は明瞭な放熱反応を示さない
コントラストのα相の体積率は増大し,暗いコントラスト
が,約 500 ℃にて冷却速度が若干低下する(Fig.4(b)
)。こ
のα の体積率は減少する(Fig.6(d))。Fe-3.5Mn-0.1C 鋼の
れは,γ→α変態開始による放熱の影響と考えられる。460
硬さは 60 s 浸漬まで約 3 GPa と一定であるが,600 s 後 2.5
℃の Zn 浴浸漬後,両鋼の温度は一定である。
GPa と低下する(Fig.7)。この硬度低下は,α相の体積率の
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溶融 Znめっき鋼板のFe/Zn 固液界面反応に及ぼす鋼板組織の影響
Fig. 6. O
ptical micrographs of the Fe-3.5Mn-0.1C steel dipped
in pure Zn melt at 460 ºC for (a) 2 s, (b) 10 s, (c) 60 s
and (d) 600 s.
Fig. 8. B
ack-scattered electron images (BEIs) of (a, c, e) Fe1.5Mn and (b, d, f) Fe-3.5Mn-0.1C steels dipped in pure
Zn melt at 460 ºC for (a, b) 2 s, (c, d) 60 s and (e, f) 600 s.
Fig.9 に,
(a)Fe-Zn 合金層厚さおよび(b)Fe-Zn 合金層を
構成する FeZn13- ζ相,FeZn7-δ1 相,Fe3Zn10- Γ相の厚さの
純 Zn 浴浸漬時間に伴う変化を両対数表示で示す。本研究
では,δ1 相のδ1k とδ1p10)およびΓとΓ111)の区別は行わず,
単一相として厚さを測定した。合金層の総厚さは浸漬時間
に伴い増加し,その増加の傾きは約 0.3 である。
(Fig.9(a))
Fig. 7. C
hange in hardness of Fe-1.5Mn and Fe-3.5Mn-0.1C
steels with dipping time in pure Zn melt at 460 ºC.
これは,Marder ら 5,12)による純 Zn めっきを施した種々の
鋼板における合金層の厚さ変化の結果と良く対応する。ま
増大に起因する。したがって,Fe-3.5Mn-0.1C 鋼は Zn 浴浸
た,Fe-1.5Mn 鋼および Fe-3.5Mn-0.1C 鋼における合金層の
漬中においてγ+α二相組織を有するが,60 s 以上の浸漬
厚さはほぼ同じである。Fe-Zn 合金層中の金属間化合物相
に伴いγ→α変態が進行し,α相の体積率が増大する。
の成長挙動は,その種類によって大きく異なる(Fig.9(b))
。
3・3 Znめっき/鋼板界面組織
2 s 浸漬後,厚さ 10 µm のζ相が形成し,60 s 後 15 µm まで
Fig.8 に,Fe-1.5Mn(α単相)鋼および Fe-3.5Mn-0.1C(γ
成長する。60 s 以上浸漬において,ζ相の成長速度は増大
+α二相)鋼の 460 ℃純 Zn 浴浸漬に伴う Zn めっき/鋼板
し(傾き 0.5),その厚さは 600 s 浸漬後約 30 µm まで達する。
界面組織の変化を示す。Fe-3.5Mn-0.1C は,めっき/鋼板界
δ1 相は傾き 0.5 と同一の速度で成長し,その厚さは 600 s 浸
面近傍まで微小なα相を含むマルテンサイト組織を呈す
漬後約 20 µm となる。Γ相も傾き 0.5 と同じ成長速度を示
(Fig.8(b, d, f))
。これは,γ+α二相組織を有する鋼板と
す。これらすべての Fe-Zn 化合物相の成長速度は,両鋼板
Zn 液相が反応していることを示す。両鋼板のめっき/鋼板
とも同じである。
界面に Fe-Zn 合金層が形成する。2 s 浸漬後,厚さ約 10 µm
以上の結果より,溶融 Zn めっき鋼板の鋼板組織(α相,
の合金層が形成する(Fig.8(a, b)
)。その合金層はめっき側
過冷γ相)は,Fe-Zn 合金層(ζ相,δ1 相,Γ相)の形成お
に FeZn13- ζ,鋼板側に FeZn7-δ1 相の 2 層構造を有する。合
よび成長にほとんど影響を及ぼさないことが明らかとなっ
金層の厚さは浸漬時間の増加に伴い増大し,600 s 後 40 µm
た。
以上まで成長する(Fig.8(e, f)
)。また,60 s 以上の浸漬後,
3・4 Znめっき/鋼板界面の組成分析
鋼板/δ1 相界面に Fe3Zn10- Γ相(および Fe5Zn21-Γ1)が生成
Fig.10 に,2 s 純 Zn 浴に浸漬した Fe-3.5Mn-0.1C 鋼におけ
する(Fig.8(c, d)
)
。Γ相の厚さも浸漬時間の増加に伴って
るめっき/鋼板界面の組成分布を示す。合金層中の Fe の濃
増大する(Fig.8(e, f)
)
。この合金層の構成相およびその厚
度は,Zn 液相(観察時は Zn 固相)側に近づくにつれて減少
さの浸漬に伴う変化は,両鋼板ともほぼ同じである。
する傾向にある。δ1 相中の Fe 濃度は鋼板近傍で約 15 at.%,
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鉄と鋼 Tetsu-to-Hagané Vol. 100 (2014) No. 9
ζ相近傍で約 9 at.% であり,明瞭な組成勾配を示す。ζ相
討した結果,ζ,δ1,Γの化合物相はすべて放物線則を満
の Fe 濃度はδ1 相近傍で約 8 at.% であるが,中央部で約 7
たし成長することを報告した。浸漬初期におけるζ相の成
at.% とほとんど変化しない。その Fe 濃度はζ /Zn 液相界面
長に関する実験結果の相違は,Zn 浴浸漬方法に起因すると
近傍で 10 at.% と若干増大する。また,約 5 at.% Fe および約
考えられる。本実験では,900 ℃から 460 ℃に冷却された
1 at.% がζ相近傍の Zn 液相中に認められる。なお,これら
鋼板が Zn 浴に浸漬されるのに対し,貝沼らの実験 10)では
のめっき/鋼板界面における Fe,Zn および Mn の濃度分布
室温の純 Fe を 450 ℃の Zn 浴に直接浸漬する。数秒の Zn 浴
は,Fe-1.5Mn 鋼および Fe-3.5Mn-0.1C 鋼ともにほぼ同じで
浸漬後では純 Fe の温度が Zn 浴温度に到達していなかった
あることを確認している。
と推察される。したがって,本研究におけるγ→α変態を
Fig.11 に,600 s 純 Zn 浴に浸漬した Fe-3.5Mn-0.1C 鋼にお
制御した鋼の Zn 浴浸漬実験は,浸漬初期のζ相の成長機
けるめっき/鋼板界面の組成分布を示す。2 s 浸漬後と同
構が他の化合物相のものと異なることを明らかにした。
様,浸漬中成長したδ1 相およびΓ相の Fe 濃度は Zn 液相に
Zn めっき/鋼板界面の元素分析は,2 s と短時間の浸漬
近づくにつれて減少し,明瞭な組成勾配を示す。ζ相の Fe
後にもかかわず,Zn 液相に 5 at.% 以上の Fe が存在するこ
濃度はδ1 相近傍で約 8 at.% であり,明瞭な濃度勾配は示さ
とを明らかにした(Fig.10)。これは,鋼板から Zn 液相に多
ない。しかし,ζ相近傍の Zn 液相中の Fe 濃度は約 1 at.% ま
量の Fe が溶出したことを示す。また,ζ /Zn 液相界面から
で減少する。
4. 考察
4・1 Fe-Zn 合金層の形成過程
本実験は,溶融 Zn めっき鋼板の鋼板組織(α相および過
冷γ相)は,Fe/Zn 固液界面における合金層の形成および成
長に影響を及ぼさず,合金層を構成する Fe-Zn 金属間化合
物相(ζ,δ1,Γ)の成長はζ相の初期(10 s 以下の浸漬)
を除いて,放物線則を満たすことを示した。Kainuma and
Ishida ら 10)は,純 Fe/ 純 Zn 界面における合金層の成長を検
Fig. 10. ( a) BEI and (b) the corresponding composition profile
in the Fe-Zn alloy layer formed on Fe-3.5Mn-0.1C steel
dipped in pure Zn melt for 2 s.
Fig. 9. C
hanges in (a) the total thickness of a Fe-Zn alloy layer
and (b) the constituent intermetallics layers formed on
Fe-1.5Mn and Fe-3.5Mn-0.1C steels with dipping time
in pure Zn melt at 460 ºC.
Fig. 11. ( a) BEI and (b) the corresponding composition profile
in the Fe-Zn alloy layer formed on Fe-3.5Mn-0.1C steel
dipped in pure Zn melt for 600 s.
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溶融 Znめっき鋼板のFe/Zn 固液界面反応に及ぼす鋼板組織の影響
離れるにつれて,Zn 液相中の Fe 濃度は低下する。これは,
どないことを示唆する。
鋼板浸漬直後,鋼板/Zn 固液界面近傍において高濃度の
Fig.14 に,
(a)Zn-rich 組成における Fe-Zn2 元系状態図お
Fe を含んだ Zn 液相が存在し,鋼板/Zn 固液界面において
よび(b)460 ℃におけるα -Fe 相,γ -Fe 相,液相,ζ相の
ζ相が形成したことを示唆する。以上の考察を基に得られ
組成−自由エネルギー曲線を示す。併せて,本実験結果を
た Fe-Zn 合金層の形成・成長過程の模式図を,Fig.12 に示
基に考察した純 Fe(固相)/純 Zn(液相)界面におけるζ
す。鋼板が Zn 液相に接触した直後,鋼板の Fe が Zn 液相へ
相の生成の模式図を,Fig.14(c, d)に示す。純 Zn 液相の自
溶出する(Fig.12(a))
。過飽和 Fe を含む Zn 液相中からζ相
由エネルギーは約 4 at.% まで Fe 濃度増加に伴い低下し,4
が鋼板/Zn 固液界面にて形成し,液相側に成長する(Fig.12
∼5 at.% 間はほぼ一定である(Fig.14(b))
。そのため,Fe 固
(b))。その後,鋼板/ζ界面において Fe-rich なδ1 相が形
相から Fe が溶出するため,Fe/Zn 固液界面近傍では過飽和
成する(Fig.12(c))
。その後,Zn 浴側への Fe の供給はδ1 相
な Fe を含む Zn 液相が存在する(Fig.14(b, c)
)。その後,Zn
およびζ相(鋼板/δ1 界面およびδ1/ ζ界面)を経由する
液相からζ相が晶出すると考えられる(Fig.14(b, d)
)。な
(Fig.12(d))
。化合物相の成長は化合物中の Fe の拡散に律
お,本研究におけるζ相の Fe 濃度は 7∼8 at.%(Fig.10)と,
速されるため,放物線則を満たすようになる。
液相と平衡するζ相の組成(Fig.14(a)
)と良く対応する。
4・2 Fe/Zn 固液界面におけるζ相の生成
したがって,Fe/Zn 固液界面におけるζ相の生成は,Fe 固
本研究において,純 Zn 浴浸漬初期に Fe/Zn 固液界面に
相から溶解した過飽和な Fe を含む Zn 液相からの晶出に起
ζ相が形成し,その厚さおよび形態は鋼板組織(α相およ
因すると考えられる。またζ相生成後,Zn 液相中の Fe の過
び過冷γ相)に依存しないことを明らかにした。本項で
飽和度が減少するため,ζ相の成長速度は低下すると考え
は,Fe/Zn 固液界面におけるζ 相の生成機構を考察する。
られる(10 s 以下の浸漬)
。
Fig.13 に,
(a)Fe-Zn2 元系状態図および(b)460 ℃におけ
以上より,Fe/Zn 固液界面近傍において鋼板から溶出し
るα -Fe 相,γ -Fe 相,液相,ζ相の組成−自由エネルギー
た過飽和な Fe を含む Zn 液相からζ相は晶出する。その後,
曲線を示す。これらの状態図および組成−自由エネルギー
鋼板から Fe が供給され,δ1 相やΓ相中の Fe の拡散律速に
曲線は,既報の熱力学データベース 13,14)を基に状態図計算
よって Fe-Zn 化合物相は成長する。Fe の溶出は鋼板の構成
ソフトウェア(Pandat)を用いて作成した。本データベー
スは,δ1k とδ1p の 2 相分離を除いて既報の Fe-Zn 2 元系状態
図 5)を良く再現する(Fig.13(a)
)。Zn 濃度 80 at.% 以下にお
いて,α -Fe 相およびγ -Fe 相の自由エネルギーは Zn 濃度
の増加に伴い大きく低下する(Fig.13(b)
)
。また純 Zn 液相
の自由エネルギーは,約 4 at.% まで Fe 濃度増加に伴って低
下する。これらの組成−自由エネルギー曲線は,純 Fe(固
相)/純 Zn(液相)拡散対が相互拡散により両相の自由エ
ネルギーを下げるため,Fe 固相から Zn 液相への溶解が起
こることを示す。なお,γ -Fe 相の Zn 濃度に伴う自由エネ
ルギー変化はα -Fe 相と同じ傾向を示す。これは,Fe の溶
出に及ぼす鋼板の構成相(α -Fe,γ -Fe)の影響はほとん
Fig. 12. S
chematic illustration showing the growth of the Fe-Zn
alloy layer formed at the interface between solid Fe and
liquid pure Zn.
Fig. 13. ( a) Fe-Zn binary phase diagram and (b) changes in free
energies of several phases as a function of Zn content at
460 ºC13,14).
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Fig. 15. I sothermal cross section at 460 ºC in Fe-Zn-Al ternary
system14).
ても平衡相として存在し,Fe2Al5 /液相の二相域,Fe2Al5
/ 液 相 /δ1 相 の 三 相 域 を 形 成 す る(Fig.15(b))。Zn-0.5
at.%Al(Zn-0.2 wt.%Al)液相は,Zn-Al2 元系では液相単相
であるが,0.1 at.% の Fe 含むと Fe2Al5/液相の 2 相域に変化
する。これは,鋼板からの Fe の溶解が過飽和な Fe を含む
Zn-Al 液相を生み出し,液相から Fe2Al5 を晶出させること
Fig. 14. ( a) Fe-Zn binary phase diagram and (b) changes in free
energies of several phases as a function of Zn content
at 460 ºC, together with (c, d) the schematics for the
formation process of ζ phase.
を示す。一般に,Zn-Al 合金溶融めっき鋼板において微細
な Fe2Al5 層が Fe/Zn 固液界面に形成し 17),Fe-Zn 合金層形成
を抑制することが知られている 18)。なお,0.5 at.%Al を含ん
だ Zn 液相の組成−自由エネルギー曲線は純 Zn(Fig.13(b))
相(α -Fe 相,γ -Fe 相)に依存しないと考えられる。した
とほぼ同じである。したがって,Zn-Al 合金溶融めっき鋼
がって,溶融 Zn めっき鋼板の組織は合金層の形成および
板における Fe2Al5 層の形成は,Fe の溶解による Zn-Al 液相
成長に影響を及ぼさないと結論付けられる。
からの晶出に起因すると考えられる。以上の考察を基に作
4・3 Zn-Al 合金浴におけるFe-Zn 合金層形成
成した Fe-Al 合金溶融めっき鋼板における Fe-Zn 合金層の
本研究によって得られた純 Zn 浴における Fe-Zn 合金層
形成・成長過程の模式図を,Fig.16 に示す。鋼板から溶解
形成機構を基に,Zn-Al 合金浴における合金層形成を考察
した Fe を含む Zn-Al 液相中から Fe2Al5 相が Fe/Zn 固液界面
する。Fig.15 に既報のデータベース
を用いて作成した
に晶出し(Fig.16(a)
)
,微細な Fe2Al5 相の連続膜が形成す
Fe-Zn-Al 三元系状態図を示す。再現した Zn-rich 側の相領
る(Fig.16(b))。0.3at.% 以上の Fe が Zn-Al 液相中に溶出し
域(Fig.15(b))は,実験により同定されたものと良い一
た場合,液相組成は Fe2Al5/液相/δ1 相の 3 相平衡となる
致を示す
14)
。Fe2Al5 相の単相域は等 Fe 濃度方向に大きく
(Fe 溶出による Zn 合金浴の組成変化は Fig.15(b)中の矢印
拡大し,Fe2Al5 相の Al サイトに約 20 at.% の Zn を置換する
方向に対応する)ため,Fe2Al5 相に続いてδ1 相が生成する
(Fig.15(a))。Fe2Al5 相は 99 at.% 以上の Zn-rich 領域におい
と予測される(Fig.16(c))
。Fe2Al5 相の連続膜は鋼板からの
15,16)
130
溶融 Znめっき鋼板のFe/Zn 固液界面反応に及ぼす鋼板組織の影響
謝辞
本研究は,材料の特性と物性部会における「合金化溶融
亜鉛めっき鋼板の皮膜特性に及ぼす鋼中 Si 添加の影響研
究会」
(2010∼2013)にて活動した研究成果である。本研究
の純 Zn 浴浸漬実験は,日新製鋼(株)清水剛氏,浦中将明
氏の協力によるものである。また,熱力学計算は(株)材料
設計技術研究所 橋本清氏に協力頂き,データ解釈に関して
有益なご意見を頂いた。ここに特記して謝意を表す。
文 献
Fig. 16. S
chematic illustration showing the formation of Fe-Zn
alloy layer at the interface between solid Fe and liquid
Zn-0.5 at. %Al.
1 ) 鷺山勝,渡辺豊文:大学教材 鉄鋼工学 材料編 厚鋼板・薄鋼板・
表面処理鋼板,第 6 章 表面処理鋼板,JFE 21 世紀財団(2006),
178.
2 ) H.Liu, F.Li, W.Shi, R.Liu and L.Li: Surface & Coatings Technology,
205 (2011), 3535.
3 ) G.M.Song, T.Vystavel, N.V.D.Pers, J.T.M.D.Hosson and W.G.Sloof:
Acta Mater., 60 (2012), 2973.
4 ) T.Sudo, T.Nakamori and M.Nishihara: Tetsu-to-Hagané, 66(1980),
73.
5 ) A.R.Marder: Prog. Mater. Sci., 45 (2000), 191.
6 ) H.Nakano, K.Araga, M.Iwai and J.Kawafuku: Tetsu-to-Hagané, 83
(1997), 635.
7 ) 株式会社 材料設計技術研究所ホームページ PanFe,http://www.
materials-design.co.jp/pdb/panfeJ.htm,(参照 2014-07-01).
8 ) S.-L.Chen, S.Daniel, F.Zhang, Y.A.Chang, X.-Y.Yan, F.-Y.Xie,
R.Schmid-Fetzer and W.A.Oates: CALPHAD, 26 (2002), 175.
9 ) W.Cao, S.-L.Chena, F.Zhang, K.Wu, Y.Yang, Y.A.Chang, R.SchmidFetzer and W.A.Oates: CALPHAD, 33 (2009), 328.
10) R.Kainuma and K.Ishida: Tetsu-to-Hagané, 91 (2005), 349.
11) G.Bastin, F.van Loo and G.Rieck: Z. Metallkd., 65 (1974), 656.
12) C.E.Jordan and A.R.Marder: J. Mater. Sci., 32 (1997), 5593.
13) J.Nakano, D.V.Malakhov and G.R.Purdy: Computer Coupling of
Phase Diagrams and Thermochemistry, 29 (2005), 276.
14) J.Nakano, D.V.Malakhov, S.Yamaguchi and G.R.Purdy: Computer
Coupling of Phase Diagrams and Thermochemistry, 31 (2007), 125.
15) H.Yamaguchi and Y.Hisamatsu: Tetsu-to-Hagané, 59 (1973), 131.
16) 山口周:材料の組織と特性部会 合金化溶融亜鉛めっき皮膜の
構造と特性研究会 成果報告書 合金化溶融亜鉛めっき皮膜の
構造と特性 ,日本鉄鋼協会,東京,(2004), 123.
17) T.Kato, K.Nunome, K.Kaneko and H.Saka: Acta Mater., 48 (2000),
2257.
18) 貝沼亮介,石田清仁:材料の組織と特性部会 合金化溶融亜鉛
めっき皮膜の構造と特性研究会 成果報告書 合金化溶融亜鉛
めっき皮膜の構造と特性 ,日本鉄鋼協会,東京,(2004), 107.
Fe 拡散の障壁として作用し,その後の Fe-Zn 合金層の形成
を著しく遅滞させると考えられる。
5. 結言
本研究では,連続冷却変態線(CCT)図を基にγ→α変
態を制御した Fe-Mn-C 鋼に純 Zn めっきを施し,Fe/Zn 固液
界面反応に及ぼす鋼板組織(α相および過冷γ相)の影響
を検討した結果,以下の知見を得た。
1)Fe/Zn 固液界面おける Fe-Zn 合金層の形成および成長に
及ぼす鋼板組織の影響はない。
2)Zn 浴浸漬初期(10 s 以下)における FeZn13- ζ相の成長を
除いて,Fe-Zn 金属間化合物相は放物線則を満たし成長
する。
3)Fe/Zn 固液界面における FeZn13- ζ相の生成は,鋼板から
溶出した過飽和な Fe を含む Zn 液相からの晶出に起因す
ると考えられる。
4)Zn-Al 合金浴における Fe/Zn 固液界面に形成する Fe2Zn5
相の連続膜は,鋼板から溶出した過飽和な Fe を含む Zn
液相からの晶出に起因すると考えられ,その後の Fe-Zn
合金層の形成を著しく遅滞させる。
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