マルチバンドアンテナ メタマテリアル R&D 無線通信 メタマテリアルを用いたマルチバンドアンテナ NTTアクセスサービスシステム研究所 そう ひ で や 宗 秀哉 あんどう あ つ や /安藤 篤也 すぎやま たかとし /杉山 隆利 NTTアクセスサービスシステム研究所では,移動無線通信システム用基地局アン テナとして,広帯域アンテナ放射素子とメタマテリアルからなる複数枚の反射板を 有するマルチバンドアンテナを開発しています.ここでは一例として,800 MHz, 2 GHz,4 GHzの3周波数におけるマルチバンドアンテナの設計の試作結果につい て紹介します. 複数の周波数帯域を用いる無 線通信システムのアンテナ装置 所では,複数の周波数帯域を同時に使 板に適用したN周波数帯域を共用するマ 用することができるアンテナ技術とし ルチバンドアンテナの構造を図 2(a)に て,アンテナ装置の反射板にメタマテリ 示します.マルチバンドアンテナは,メ 近年,スマートフォンやタブレット端 アルを適用したマルチバンドアンテナの タマテリアルを適用した複数枚の反射 末の普及によって,無線通信システム 研究を進めてきました.メタマテリアル 板(メタマテリアル反射板)と共用する の高速 ・ 大容量化が要求されています. とは,波長と比べて小さな誘電体や金 周波数帯域をカバーする広帯域アンテ 移動無線通信システムでは,指向性ア 属導体などを単位粒子として,これを ナ放射素子から構成されます.メタマテ ンテナにより扇形のセルを形成するセク 周期的に配列することで構成した構造 リアル反射板は,それぞれ異なるEBG タセル構成をとっています.セクタセル 体です.メタマテリアルはEBG(Electro 帯域を持ちます. 1 辺Ln の正方形状の 構成にすることで,指向方向以外から magnetic Band Gap)特性により,周波 メタマテリアル反射板を広帯域アンテナ の干渉波を除去することができ,より近 数帯域によって電磁波を反射や透過さ 放射素子からs n 離して,メタマテリアル いセルで同じ周波数帯域を繰り返し使 せることができます .電磁波を反射さ 反射板# 1(n = 1 ) ,メタマテリアル反射 用できるため,周波数利用効率を向上 せ る 周 波 数 帯 域 をEBG帯 域 と い い 板# 2(n = 2 ) ,…,メタマテリアル反射 ます. 板#N(n =N )の順に配置します(図 2 (1) することができます .さらに,同一の 無線通信システムが複数の周波数帯域 (3) このメタマテリアルをアンテナの反射 (b)) .後方への不要放射を抑制するため を同時に使用することで大容量化を実 現しています(2). このような移動無線通信システムの アンテナ装置は,従来では図 1 のように, 金属反射板 ( f1を反射) 金属反射板 ( f2を反射) アンテナ放射素子と金属反射板などか らなる指向性アンテナを使用する周波 数帯域ごとに設置する必要があります. 将来的に無線通信システムが使用する 周波数帯域がさらに増加すると,アンテ ナの設置場所が増大することが問題に なると考えられます. メタマテリアルを用いたマル チバンドアンテナ NTTアクセスサービスシステム研究 82 NTT技術ジャーナル 2014.3 アンテナ放射素子 図 1 従来のアンテナ構成 金属反射板 ( を反射) fN R &Dホットコーナー メタマテリアル反射板#2 f2 ( を反射) メタマテリアル反射板#1 f1 ( を反射) LN Z L1 f2 L1 L2 LN fN 広帯域アンテナ 放射素子 LN L2 L1 Z f1 X sN s2 s1 L2 広帯域アンテナ 放射素子 X メタマテリアル反射板# fN ( を反射) メタマテリアル反射板#1 f1 ( を反射) メタマテリアル反射板#2 f2 ( を反射) メタマテリアル反射板# fN ( を反射) Y (a) 斜視図 (b) 側面図 図 2 メタマテリアルを用いたマルチバンドアンテナ構成 に,最低周波数を反射する最後尾の反 an /2 射板(n =N )を金属反射板とすること an もできます. wn 1 中 心 周 波 数 が f n( f 1>f 2>…>f N ) の an /2 EBG帯域を持つメタマテリアル反射板 an an Z #n は,f n の電磁波を反射し,水平面内放 射パターンは指向性を持ちます.一方, wn 2 EBG帯域以外の電磁波はメタマテリア ル反射板の影響を受けずに透過し,無 指向性となります.これにより,各々の メタマテリアル反射板は,それぞれの EBG帯域の電磁波を反射することで, マルチバンドアンテナを実現しています. an /2 X wn 2 Z Dn wn 2 wn 1 X Y D層 A層 (a) 斜視図 また,共用する周波数帯域の変更や B層 C層 (b) 側面図 図 3 Woodpile型メタマテリアル 追加が必要な場合には,メタマテリアル 反射板のEBG帯域の変更やメタマテリ アル反射板の追加によって容易に行う ことができます.さらに,周波数帯域ご EBG特性を持つメタマテリアル とのビーム幅の制御も,各反射板のパ EBG特性を持つメタマテリアルとし ラメータ(反射板の大きさやアンテナ放 て,Woodpile型メタマテリアルが検討 射素子との距離,構造パラメータなど) (4) されています .Woodpile型メタマテリ 方向の角柱の太さをw n 1,Y軸およびZ軸 方向の角柱の太さをw n 2としたとき,Y軸 方向またはZ軸方向を向いたw n 1×w n 2の 底面を持つ角柱を図 3(b)のように, A (C) 層とB (D) 層は互いに空間で直交し, 4 を変更することによって,周波数帯域ご アルは図 3(a)のように,長方形の底面 層積層させます.各層における角柱は, とに実現できます. を持つ誘電体の角柱を格子状に周期配 a n の間隔で周期的に配列し,C (D) 層の 列構造を取ることで作製できます.X軸 角柱はA (B) 層の角柱の配置からa n / 2 ず NTT技術ジャーナル 2014.3 83 らして配置します.このWoodpile型メタ 射板を透過する電力を図 ₅ に示します. マテリアルを,メタマテリアル反射板に この図からメタマテリアル反射板は各々 周波数がよく一致していることが分かり 適用することを考えます. の周波数帯域を反射することが分かり ます.実測値における透過電力は,解 ます.また実測と解析において,共振 3周波共用アンテナ 提案するマルチバンドアンテナ技術 金属反射板 の特性を評価するために,一例として ₈₀₀ MHz,2 GHz,4 GHzを 共 用 する 3 周波共用アンテナを設計しました(₅). 3 セクタ構成を想定し,各々の周波数 375 mm 帯域のビーム幅を₉₀度となるように設計 しまし た.メタマ テリア ル 反 射 板 に Woodpile型メタマテリアルを用いた 3 周波共用アンテナの試作アンテナの外 観を図 ₄ に示します. 3 周波共用アン テナは,金属反射板(₈₀₀ MHzを反射) アンテナ放射素子 とメタマテリア ル 反 射 板を 2 種 類 (2 GHz,4 GHzを反射) ,マルチバンド メタマテリアル反射板#1 アンテナ放射素子から構成されます.マ メタマテリアル反射板#2 ルチバンドアンテナ放射素子と各メタマ テリアル反射板の距離s n はそれぞれの 反射板が反射する周波数の波長の 4 分 の 1 としました(s 1=1₈.₈ mm,s 2=3₇.₅ 図 4 試作アンテナ外観 mm,s 3=₉3.₈ mm) .マルチバンドアン テナ放射素子は,バイコニカルアンテナ とダイポールアンテナを組み合わせた (dB) 形状を取り,₈₀₀ MHz,2 GHz,4 GHzの 0 3 周波数帯域で共振するものを用いま メタマテリアル反射板は,比誘電率₉.₆ クスからなります.各々のメタマテリア ル反射板のパラメータは,2 GHzならび に4 GHzを 反 射 す る よ う に,w 11=4.₇ mm,w 12 = ₈.₆ mm,a 1 = 3₇.₅ mm,w 21 = 14.1 mm,w 22=14.₆ mm,a 2=₇₅.₀ mmと しました.正方形状の反射板の 1 辺の 長さは,反射する周波数の約 1 波長と し,L 1 = ₈3.₆ mm,L 2 = 1₆4.₆ mm,L 3 = 3₇₅.₀ mmとしました. 周波数帯域ごとのメタマテリアル反 84 NTT技術ジャーナル 2014.3 −10 透過電力 (誘電正接3.₅×1₀₅ at 2GHz)のセラミッ メタマテリアル 反射板#2 ( 2 GHzを反射) −5 した. メタマテリアル 反射板#1 ( 4 GHzを反射) 実測値 −15 w11 = 4.7 w12 = 8.6 a 1 =37.5 w21 =14.1 w22 =14.6 a 2 =75.0 −20 −25 −30 0 mm mm mm mm mm mm 1 解析値 2 3 周波数 4 5 図 5 Woodpile型メタマテリアルのEBG特性 6(GHz) R &Dホットコーナー X X X 10 10 10 0 0 0 −10 −10 −10 −20 −20 −20 −30(dBi) −30(dBi) Y (a) 800 MHz Y (b) 2 GHz 解析値 実測値 −30 (dBi) Y (c) 4 GHz 図 6 水平面内放射パターン MHz,2 GHz,4 GHzの 3 周波数帯域を 表 ビーム幅 800 MHz 2 GHz 4 GHz 解析値 94 90 90 実測値 98 103 89 共用するマルチバンドアンテナを設計 し,実測値と解析値がよく一致すること を確認しました.今後は,共用する周 波数帯域のさらなる増加を進めていき ます. 析値と比べて劣化しています.解析で は,メタマテリアルを無限周期として計 算していますが,実測では有限サイズ による測定のため,透過電力が劣化し ています. ₈₀₀ MHz,2 GHz,4 GHzの 3 周 波 数 帯域における水平面内放射パターンを 図 ₆ に示します.実測値と解析値はほ ぼ一致していることが分かります.この ときのビーム幅を表に示します. 3 周波 共用構成において,₉₀度のビーム幅を 実現していることが確認できます. 今後の展開 ここでは,複数枚の反射板にメタマテ リアルを適用する小型なマルチバンドア ンテナを紹介しました.提案するマルチ バ ン ド ア ン テ ナ の 検 証 の た め,₈₀₀ ■参考文献 (1) 長 ・ 山口 ・ 蒋:“次世代移動通信システム実現 に向けた基地局 ・ 端末アンテナ技術, ” 信学論 (B),Vol.J₉1B,No.₉,pp.₈₈₆₉₀₀,2₀₀₈. (2) M.Iwamura,K.Etemad,M.Fong,R.Nory,and R.Love: “Carrier Aggregation Framework in 3GPP LTEAdvanced,” IEEE Trans. Commun. Mag.,Vol.48,No.₈,pp.₆0₆₇,Aug. 2₀1₀. (3) D.Sievenpiper,L.Zhang,R.F.J.Broas, N.G.Alexopolus,and E.Yablonovitch: “High Impedance Electromagnetic Surfaces with a Forbidden Frequency Band,” IEEE Trans. Microw.Theory Tech.,Vol.47,No.11, pp.2₀₅₉2₀₇4,Nov. 1₉₉₉. (4) E.Ozbay,A.Abeyta,G.Tuttle,M.Tringides, R.Biswas,T.Chan,C.M.Soukoulis,and K.M.Ho: “Measurement of a threedimensional photonic band gap in crystal structure made of dielectric rods,” Phys. Rev. B,Vol.₅0,No.3,pp.1₉4₅ 1₉4₈,July 1₉₉4. (5) 宗 ・ 安藤 ・ 関 ・ 川島 ・ 杉山:“Woodpile型メタ マテリアルを用いた等ビーム周波数共用アンテ ナ, ” 信学総大,B 1 14₈,2₀13.3. (左から)杉山 隆利/ 宗 秀哉/ 安藤 篤也 メタマテリアルを用いたマルチバンドア ンテナ技術によって,アンテナ装置を小型 化することが可能となります.今後は共用 する周波数帯域のさらなる増加を推進して いく予定です. ◆問い合わせ先 NTTアクセスサービスシステム研究所 ワイヤレスアクセスプロジェクト TEL 046-859-3341 FAX 046-855-1752 E-mail sou.hideya lab.ntt.co.jp NTT技術ジャーナル 2014.3 85
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