第61回日本栄養改善学会学術集会 2P-161 各種とろみ剤の粘度指標作成の試み 小野ひかる 1), 森茂雄 2), 橋本賢 2,3) 1) 美作大学生活科学部食物学科 2) JA愛知厚生連尾西病院 栄養科 3) 美作大学短期大学部栄養学科 ‡ 背 景 ‡ • 嚥下困難者の食事や飲水には、一定の粘性が加えら れ、誤嚥のリスク低減が図られてきた。粘性を加え る方法として、「とろみ剤」が汎用されるようにな り、現在では、多種のトロミ剤が市販されている。 • 成分や使用量、目安量は各商品で異なるため、施設 毎や退院後の自宅や転院、転所先でトロミ剤が異 なったり、利用、調整する担当者のとろみの認識も 異なったり、という問題が予想される。 • そのような問題を解決するべく、2013年に摂食嚥 下リハビリテーション学会は、「嚥下調整食分類 2013」を策定し、食事およびとろみの段階分類を 発表した。 「嚥下調整食分類2013」 日本摂食・嚥下リハビリテーション学会 • 本 邦 に お い て は 従 来 、 米 国 の National Dysphagia Diet (2002) のような、統一された 嚥 下 調 整 食 の 段 階 が 存 在 せ ず、 地域や施設ごとに多くの名称や 段階が混在している。 • 急性期病院から回復期病院、あ るいは病院から施設、在宅およ びその逆などの連携が普及して いる今日、統一基準や統一名称 がないことは、摂食、嚥下障害 者および関係者の不利益となっ ている。 • 学会分類2013は、国内の病院、 施設、在宅医療および福祉関係 者が共通して使用できることを 目的とし、食事(嚥下調整食) およびとろみについて、段階分 類を示した。 活用における課題 • 学会分類の「性状の説明」が主観的評価で、認識 に個人差が生じる。 • 特定の測定法を用いなければ、粘度数値による調 整が困難である。 • とろみ食品の粘度互換が困難である。 ‡ 目 的 ‡ とろみ剤の安全な使用、選択および互換が可能とな る各種とろみ剤の粘度指標を作成する。 ‡材料及び方法‡ 検討材料 • とろみのある食材 ポタージュスープ、ケチャップ、お好みソース、マヨネーズ、 フレンチドレッシング、とんかつソース、ウスターソース、中 濃ソース、サラダ油、濃縮乳酸菌飲料、飲むヨーグルト、ヨー グルト • 市販されている10種類のトロミ剤 Sr-1、Ky-1、Ku-1、Fo-1、Ni-1、Ni-2、Wa-1、He-1、 Sa-1、Sa-2 トロミ溶液の調製 22±2℃の水100mLに対し、トロミ剤濃度0.5、1.0、1.5、 2.0、2.5、3.0、3.5および4.0%(w/w)となるように計量 し、100mLビーカー内でスターラーを用いて溶解した。 粘度測定 ビーカー内で溶解したトロミ溶液を、専用容器に40mL移し入 れ、溶解1、3、5、10および15分後の溶液の粘度を音叉型振 動粘度計(SV-10;A&D社)を用いて測定した。 写真:音叉型振動粘度計 SV-10 ‡結果‡ とろみのある食材の粘度 結果を表1に示す。マヨネーズが最も高く3620mPa・s、と ろみ剤のトロミ目安として汎用されるポタージュスープの粘度 は4.93~18.9mPa・sであった。 粘度 粘度 食品 (mPa・s) (mPa・s) コーンポタージュ(粉) 11.7 フレンチドレッシング(白) 196 かぼちゃポタージュ(粉) 11.3 フレンチドレッシング(赤) 262 コーンスープ(粉) 4.93 とんかつソース 551 ポタージュ(粉) 15.1 ウスターソース 6.85 コーンクリーム(粉) 8.76 中濃ソース 202 コーンクリーム(液) 46.0 濃縮乳酸菌飲料 20.5 10種の野菜スープ(液) 18.9 サラダ油 59.3 ケチャップ 1440 飲むヨーグルト 8.86 お好みソース 605 ヨーグルト 167 マヨネーズ 3620 ヨーグルト 256 表1 とろみのある一般食材の粘度 食品 市販とろみ剤に提示された目安一般食材と粘度 市販とろみ剤に提示された目安一般食材と粘度の測定結果を表2 に示す。また、目安一般食材と粘度の対照を図1に示す。目安一 般食材の粘度と、提示されたとろみ剤濃度における粘度との間に は乖離が認められた。 とろみ剤 Ni-1 Sr-1 Ky-1 Ni-2 He-1 Ku-1 分量 粘度 目安 0.5g 2.71 フレンチドレッシング状 3.0g 399 とんかつソース状 2.0g 83.5 ポタージュスープ状 2.5g 160 ヨーグルト状 3.5g 282 ジャム状 0.8g 21.6 フレンチドレッシング状 1.5g 61.4 とんかつソース状 3.0g 268 ケチャップ状 1.0g 37.9 フレンチドレッシング状 2.0g 225 とんかつソース状 3.0g 531 ケチャップ状 1.0g 45.0 ポタージュスープ状 2.0g 196 とんかつソース状 1.5g 71.4 ポタージュスープ状 2.0~2.5g 126~197 ヨーグルト状 3.0g 283 マヨネーズ状 とろみ剤 Sa-1 分量 粘度 目安 0.5~1.0g 7.72~51.3 ポタージュスープ状 1.0~1.5g 51.3~126 はちみつ状 2.0g 236 ジャム状 Fo-1 1.0g 2.0g 3.0g 33.1 177 375 フレンチドレッシング状 とんかつソース状 ケチャップ状 Wa-1 0.8g 1.3g 2.5g 19.9 77.8 259 フレンチドレッシング状 とんかつソース状 ケチャップ状 Sa-2 0.5g 1.0g 2.0g 4.83 47.9 290 薄いとろみ 中間のとろみ 濃いとろみ 表2 市販とろみ剤に提示された目安一般食材と粘度 フレンチドレッシング状 ポタージュスープ状 200 90 2.0% Sr-1, [Y 値] 80 40 70 1.5% Ku-1, [Y 値] 60 50 1.0% Ni-2, [Y 値] 35 30 1.0% Sa-1, [Y 値] 1.0% He-1, [Y 値] 25 40 20 30 15 20 10 10 0 1.0% Fo-1, [Y 値] 0.5% Sa-1, [Y 値] 0.8% Ky-1, [Y 値] 0.8% Wa-1, [Y 値] 5 0.5% NI-1, [Y 値] 0 ケチャップ状 とんかつソース状 600 600 3.0% Ni-1, [Y 値] 500 500 400 3.0% Ni-1, [Y 値] 400 300 3.0% Fo-1, [Y 値] 300 3.0% NI-2, [Y 値] 2.0% Ni-2, [Y 値] 200 2.0% He-1, [Y 値] 200 2.5% Wa-1, [Y 値] 2.0% Fo-1, [Y 値] 100 1.3% Wa-1, [Y 値] 100 1.5% Ky-1, [Y 値] 0 0 図1 目安一般食材と粘度の対照 :該当する目安食材 とろみ剤濃度と粘度の経時変化 結果を図2に示す。粘度は、大半の調整濃度で時間経過とともに 上昇した。 Sr-1 700 Ky-1 700 600 600 600 500 500 500 400 400 400 300 300 300 200 200 200 100 100 100 0 0 2 4 6 8 10 12 14 16 0 0 0 2 4 6 8 10 12 14 16 Ni-2 Ni-1 700 He-1 700 0 600 500 500 400 400 300 300 300 200 200 200 100 100 100 2 4 6 8 10 12 14 16 6 8 10 12 14 16 Ku-1 600 600 0 4 700 700 0 2 500 400 0 0 0 2 4 6 8 10 12 14 16 0 2 4 6 8 10 12 14 16 Sa-1 700 Fo-1 Sa-2 700 700 600 600 600 500 500 500 400 400 400 300 300 300 200 200 200 100 100 100 0 0 0 2 4 6 8 10 12 14 16 0 2 4 6 8 10 12 14 16 0 0 2 Wa-1 700 0.5% 1.0% 1.5% 2.0% 600 500 400 300 2.5% 3.0% 3.5% 4.0% 縦軸:粘度(mPa・s) 横軸:溶解後の時間経過(分) 200 100 0 0 2 4 6 8 10 12 14 16 図2 とろみ剤濃度と粘度の経時変化 4 6 8 10 12 14 16 とろみ剤溶解後の時間経過による粘度変化 結果を図3に示す。すべての調整濃度において、粘度は時間経過 とともに上昇した。溶解5分後までの粘度上昇は大きく、その後 ほぼ一定の濃度で推移した。 それぞれの濃度において、15分後の粘度を安定濃度と仮定し、 濃度変化を測定時間群間で比較したところ、1分後および3分後 と15分後との間に有意な粘度差が認められ(p<0.05、一元配 置分散分析;Dunnett法)、5分以降では認められず、5分以降 でほぼ安定したと考えられた。 10 0.5% 70 1.0% 9 8 60 7 50 180 1.5% 160 140 6 5 4 3 120 40 100 30 80 60 20 40 2 1 0 0 2 4 6 8 10 12 14 16 10 20 0 0 0 2 4 6 8 10 12 14 16 0 2 4 6 8 10 12 14 16 2.0% 350 2.5% 600 300 3.0% 700 600 500 500 250 400 400 200 300 300 150 200 100 50 100 0 0 0 2 4 6 8 10 12 14 16 3.5% 700 200 100 0 0 2 4 6 8 10 12 14 16 600 500 400 400 300 4 6 8 10 12 14 16 Ky-1 Sr-1 He-1 Ni-1 Ni-2 700 500 2 4.0% 800 600 0 Ku-1 Sa-1 Fo-1 Sa-2 Wa-1 300 200 縦軸:粘度(mPa・s) 200 100 横軸:溶解後の時間経過(分) 100 0 0 0 2 4 6 8 10 12 14 16 0 2 4 6 8 10 12 14 16 図3 とろみ剤溶解後の時間経過による粘度変化 学会分類段階と溶解濃度の対応 溶解5分後の粘度が安定と仮定した場合の学会分類段階と 溶解濃度の関係についての結果を図4に示す。段階Ⅰには 1.0~2.0%、段階Ⅱには2.0~3.5%、段階Ⅲには2.5~ 4.0%の濃度が分布し、種類によって溶解濃度%にバラつき があることが認められた。 学会分類段階と溶解濃度の対応指標 結果を図5、6に示す。溶解5分後における各種とろみ 剤濃度と粘度の関係から近似式を求め、学会分類段階Ⅰ ~Ⅲに対応する濃度を算出した。段階濃度幅は種類に よって異なり、少量でとろみ付けが可能なものほど、濃 度幅が小さいことが認められた。 段階Ⅰ 段階Ⅱ 段階Ⅲ 50~150mPa・s 150~300mPa・s 300~500mPa・s (mPa・s) (mPa・s) 300 150 290 140 1.5% Sa-2, [Y 値] 130 1.5% Sa-1, [Y 値] 120 110 100 (mPa・s) 2.5% Fo-1, [Y 値] 2.0% Ku-1, [Y 値] 1.5% Ni-2, 124 280 3.5% Sr-1, [Y 値] 270 260 250 1.5% He-1, [Y 値] 2.0% Sa-2, [Y 値] 240 2.5% Ni-1, [Y 値] 490 3.0% Ku-1, [Y 値] マヨネーズ状 480 3.0% Ky-1, [Y 値] 460 2.5% Wa-1, 259 ケチャップ状 450 2.0% Sa-1, [Y 値] 3.0% Sr-1, 240 [Y 値].0 2.0% Sr-1, 83.5 1.5% Wa-1, [Y 値] 1.5% Ni-1, [Y 値] 2.0% Ni-2, [Y 値] 80 2.5% Ku-1, [Y 値] 70 60 1.5% Ky-1, [Y 値] 180 2.0% Fo-1, [Y 値] 170 2.0% Ni-1, [Y 値] 160 50 1.0% Sa-1, [Y 値] 150 2.0% He-1, 196 2.0% Wa-1, [Y 値] 190 1.5% Ku-1, [Y 値] 470 3.0% He-1, [Y 値] 4.0% Sr-1, [Y 値] 440 420 3.5% Ky-1, [Y 値] 400 3.0% Ni-1, [Y 値] 2.5% Sa-1, [Y 値] 390 210 200 3.5% He-41, [Y 値] 410 220 90 1.5% Fo-1, 4.0% Ky-1, [Y 値] 430 230 2.0% Ky-1, [Y 値] 500 380 3.5% Ku-1, [Y 値] 370 3.0% Wa-1, [Y 値] 360 2.5% Ni-2, [Y 値] 350 340 2.5% Ky-1, [Y 値] 330 320 2.5% Sr-1, 160 310 300 図4 学会分類段階と溶解濃度の対応 3.0% Fo-1, [Y 値] 2.5% He-1, [Y 値] Ky-1 600 Sr-1 500 500 800 700 y = 343069x2 - 3015.3x + 8.6759 400 600 y = 23.891x2.1866 400 He-1 y= 41.669x2.0841 300 300 200 200 100 100 0 0 0 0 1 2 3 4 5 0 600 y = -14.313x3 + 125.72x2 - 131.91x + 43.206 500 1 2 3 4 0 5 Ni-2 800 Ni-1 700 700 600 600 500 2 3 4 Sa-1 1 2 3 4 5 Fo-1 700 600 400 400 300 300 200 200 100 100 1 2 3 4 5 Wa-1 2 3 y = -33 x3 + 228 x2 - 238 x + 80 200 y = -46.067x3 + 289.99x2 - 279.73x + 76.389 100 0 0 1 2 3 4 5 0 1 2 3 4 縦軸:粘度(mPa・s) 横軸:とろみ剤濃度(%) y = -8.8824x3 + 92.201x2 - 74.455x + 25.266 0 0 1 Sa-2 600 500 4 5 5 300 0 0 500 0 4 500 100 y = 29.366x2 + 61.903x 700 y = -17.764x3 + 139.24x2 - 141.58x + 48.511 3 600 200 0 0 2 400 100 0 1 700 300 200 100 0 800 300 200 0 5 400 400 300 1 700 500 400 y = 10 x3 - 26 x2 + 93 x - 39 200 100 100 500 300 400 200 Ku-1 400 500 300 600 0 1 2 3 4 5 図5 溶解5分後におけるとろみ剤濃 度と粘度の関連 5 Sr-1 1.62 Ky-1 Ku-1 2.52 1.40 2.32 1.17 1.21 1.85 Wa-1 1.22 1.92 Ni-1 He-1 Ni-2 1.17 Sa-1 1.10 Sa-2 1.06 0 1 2.56 1.85 1.61 1.49 2 3.29 2.92 2.17 1.98 段階Ⅲ(300〜500mPa・s) 3.45 2.58 2.30 段階Ⅱ(150〜300mPa・s) 3.42 2.61 段階Ⅰ(50〜150mPa・s) 3.83 3.52 2.64 1.68 4.02 3.11 1.87 1.09 1.04 3.18 2.23 Fo-1 4.25 3.39 2.90 2.60 3 4 5(%) 図6 各種とろみ剤の学会分類段階と濃度との関連指標 ‡考察‡ • とろみ剤溶解濃度と粘度は、種類によっては同一濃度で あっても異なる段階となることが認められた。 • 学会分類2013(とろみ)の基準に基づいて作成した濃 度・分量目安を用いることで、調理用、飲水用それぞれ統 一した物性で提供できる可能性が期待できる。 • 各とろみ剤に提示されている目安食材ととろみ剤濃度にお ける粘度には乖離が認められた。目安食材の設定は、単に 粘度指標だけでなく、固さ、付着性に至るまでの総合的な 物性指標によるものとして作成されたことに起因するのか もしれない。 • 今回の目安指標は粘度物性に特化しているが、少なくとも 飲水のためのとろみ付けは,食事介助者が行うことが多く、 とろみ指標を多職種連携のためのツールとして発展させる 必要があると考えられた。
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