(様式 5) 氏 名:山宮育郎 論文題名 :T e g a f u rの 5 ・f l u o r o u r a c i lへの代謝活性化における立体選択性に関する研究 区分:甲 論 文 内 容 の 要 旨 経口制癌剤であるテガブール( FT)は, 5 −フルオロウラシノレ( 5-FU)のプロドラッグであり,生 体内で 5-FUに変換される。 FTは分子内に不斉炭素を持つキラル化合物であり, FTを投与した癌患 者において R体および S体の体内動態が異なることが報告されている I 。 ) 5-FUへの代謝が FTの主 消失経路と考えられるが, 5・FU変換活性に関する立体選択性が明らかにされていないために, FT 投与後の血中 5・FU濃度に対する各異性体の寄与は不明であった。 そこで本研究では,初めにヒト肝試料を用いて FT立体異性体の 5・FU変換活性に関する選択性に つき,その規定因子を検討した(第 l章)。ヒト肝試料を用いて FT立体異性体の代謝試験を実施 し , R体の 5・FUへの変換効率が S体より高く,癌患者における体内動態の立体選択性と一致するこ とを明らかにした。また, 5・FUの生成に t h y m i d i n ep h o s p h o r y l a s e( T P a s e)はほとんど寄与せず,ほ ぼc ytochromeP450 (CYP)にのみ触媒されることが示された。酵素反応速度論的解析,阻害試験お よび r e l a t i v ea c t i v i t yf a c t o r(RAF)法による予測結果から, R体および S体の 5-FUへの変換に関わる 主代謝酵素はいずれも CYP2A6であり, CYP2A6の基質特異性が FTの体内動態における立体選択 性の規定因子であることが明らかとなった。 FTの代謝酵素である CYP2A6は多くの遺伝子多型が知られており,本 CYPで代謝される薬剤の 体内動態に顕著な個人差を生じさせる。遺伝子多型が酵素活性に与える影響の程度は基質に依存す ることも多く,キラノレ薬物の場合は,異性体聞で影響が異なる場合もある。すなわち,置換される アミノ酸残基が代謝状況へ及ぼす影響に関して異性体聞の差異が存在する場合があり,遺伝子多型 が酵素活性に及ぼす影響は立体異性体ごとに評価することが望ましい。そのため, FT立体異性体の ふFU変換活性に対する CYP2A6遺伝子多型の影響を検討した(第 2章)。 CYP2A6遺伝子多型の中 で,日本人で比較的高頻度で認められる CYP2A6*7, * 8 , *JOおよび *1 1を選択した。これらの遺伝 子多型の影響に立体選択性は認められなかったが, FTの ふFU変換活性を低下させた。特に, CYP2A6*7および *JOで Vmaxの低下に伴う活性の低下が著しかった。 FTが経口制癌剤として見出されてから,多くの動物モデルを用いて抗腫蕩効果および毒性が検討 されてきたが,立体選択性の種差に関する知見は得られていなかった。また,ヒトにおける FTの 代謝酵素である CYP2Aは種差の大きい CYP分子種であり,サイトゾノレに存在する TPaseも動物種 間で活性が異なることが知られている。そこで本研究では,ラット,イヌおよびサノレにおける FT 立体異性体の体内動態および 5 ・ FU変換活性の種差を検討した(第 3章)。ラットおよびサノレにお ける FTの体内動態はヒトと同じ立体選択性を示し, R体と比較して S体が高濃度で推移した。対 照的に,イヌでは S体の肝クリアランスが高値を示した。ラットとイヌにおける薬物動態の立体選 択性は CYP活性の差に起因した。一方,サノレにおいて両異性体聞に CYP活性の差は認められなか ったが, R体に対してのみ代謝活性を有する TPaseが立体選択性の決定に寄与した。このように, FTの代謝活性および代謝酵素には明らかな種差が存在したが, i nv i v oで観察される立体選択性はす べての動物種で i nv i t r o酵素反応速度論的パラメータからの予測が可能であった。 以上の研究結果から,ヒトにおいて CYP2A6の基質特異性により S体と比較して R体の 5-FU変 換活性が高いことが明らかとなった。このことは R体がより効率的な 5・FUのプロドラッグであり, ラセミ体と比較しても優れた制癌剤となる可能性を有することを示唆するものである。さらに, CYP2A6遺伝子の多型が FTの 5・FU変換活性に及ぼす影響に関する知見は,癌患者における FTお よび 5 ・ FUの体内動態の個人差を考察する上で有用な情報を提供することが期待される。また,ヒ トを含むすべての種で吸収率およびタンパク結合率に FTの立体異性体間で差は認められず,肝代 謝固有クリアランスが立体選択性を直接反映した。このように,従来ラセミ体として観測されてい た血築中 FT濃度は異なる体内動態を示す R体及び S体を総合した結果であり, 5・FUは各異性体か ら異なるクリアランスで生成する。従って, FTラセミ体とその薬効本体である 5-FUの関係を明ら かにするためには,光学分割による FTの体内動態の評価が重要と考えられる。 参考文献) 1 )DamleBD,NarasimhanN I ,andKaulS( 2 0 0 1 )S t e r e o s e l e c t i v em e t a b o l i s mandp h a r m a c o k i n e t i c so f t e g a f u r .BiopharmDrugDispos2 2 :4 5・5 2 .
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