と畜 検 査デ ー タの 有効 活 用に 向 けた 取 り組 み ~ デー タ フィ ー ドバ ック の 新た な 方 向性 の 検討 ~ 大分 県 食肉 衛生 検 査所 ○三 村 純一 郎 、江 川 英明 奈 須直 子 、伊 東 成 巳 1 はじ め に 当所では食肉の安全性の確保や家畜の生産性向上を目的として、と畜検査データを生 産者に提供するデータフィードバック(以下、FB)事業を実施しており、当所の重点 事 業 とし て 位置 づ けて い る。 本事業は、当所がデータを作製し、それを基に家畜保健衛生所(以下、家保)が生産 者へ指導・還元を行う体制となっている。しかし、昨今の畜産経営の企業化・農場HA CCPの導入・獣医師による農場管理(管理獣医師制度)など、畜産を取り巻く情勢が 変 化 して お り、 新 たな 還 元方 法 につ い て検 討 する 必 要が あ ると 考 えた 。 そこで、当所管轄のと畜場に搬入する生産者の要望等を把握する目的で、アンケート 調査や生産者との協議を実施したところ、今後のFB事業の方向性について新たな知見 を得ることができた。また、その結果に基づきFB対象者の拡大や課題解決の取組を実 施 し たの で 、併 せ て報 告 する 。 2 生産 者 の要 望 及び 活 用状 況 の把 握 生 産 者 の要 望 や 活 用 状 況 等 の 把握 は、 年 に 2回 開 催 す る 家 保と の F B 検 討 会 で 行っ て き たが、当所と生産者との間に直接的な繋がりがなく間接的に聞き取る形態であるため、 十 分 に 把 握 で き て い な い 可 能 性 が あ っ た 。 そ の た め 、 H24.10月 に 直 接 生 産 者 の 意 見 を 把 握するためにアンケート調査を実施するとともに、出荷頭数の多い畜産企業Aについて は 直 接聞 き 取り 調 査を 行 った 。 ( 1 )ア ン ケー ト 調査 ① 調査 対 象 当所 が 管轄 す ると 畜 場に 出 荷す る 豚7生 産者 、 牛6生 産 者( 合 計13生 産者 ) ② 調査 方 法 以下 の 9項目 に つい て、 郵 送に て アン ケ ート 調 査を 実 施 。 1.情 報 の量 2.み や すさ 3.わ か りや す さ 4.活 用 状況 5.満 足 度 6.還 元 によ っ て効 果 のあ っ た点 7.具 体 的に ど の疾 病 対策 に 役立 っ てい る か 8.デ ー タで 重 視す る もの 9.生 産 者の 同 意を 前 提に 掛 かり 付 けの 獣 医師 に デー タ を還 元 する こ と ③ 調査 結 果 豚 5生 産 者 、 牛 5生 産 者 ( 合 計 10生 産 者 ) よ り 回 答 が あ っ た ( 図 1)。 そ の 結 果 、 ほ ぼ 全ての回答者がデータを活用し、満足している状況であった。なお、効果があった点 で は 「 家 畜 疾 病 を 知 る 機 会 に な っ た 」・「 疾 病 対 策 に 役 立 て ら れ た 」 以 外 に 「 獣 医 師 ・ 行政への相談の機会が持てた」という回答数が多く、FBが生産者・獣医師・行政と の 連携 強 化に 間 接的 に 役立 っ てい る とい う 側面 が 認め ら れた 。 また、生産者の同意を前提に掛かり付けの獣医師にデータを還元することについて は 、 10生産 者 中 7生 産 者 で 「 有 効 で ある 」 と 考 え て お り 、 これ か ら の F B の 方 向性 を 示 唆 す る もの で あ る と 考 え ら れ た。 図1 アン ケ ート 調 査結 果 ( 2 )生 産 者と の 協議 ① 協議 対 象 当所 が 管轄 す ると 畜 場に 出 荷す る 畜産 企 業A ( 直営 5農 場、 預託 4農 場出 荷 ) ② 協議 方 法 畜 産 企業 Aの事 業 所 で 直 接 協 議 を 行い 、 現 状 の F B に つ いて 様 式 ・ 内 容 ・ 還 元方 法 な ど につ い て検 討 し、 生 産者 側 の意 見 を聞 き 取り 調 査し た 。 ③ 協議 結 果 現状のFB内容に満足している回答であり、特に疾病別グラフが当該農場と県平均 が比較できる点、疾病程度によりグレード分けしている点、格付け項目が記載されて いる点などが高評価であった。課題として、家保を経由する還元では手元に届くまで に 時間 が かか る ため 、 直接 還 元す る 迅速 的 なF B につ い て要 望 があ げ られ た 。 3 生産 者 及び 獣 医師 へ のF B 推進 アンケート調査や畜産企業Aとの協議結果から、新規FB対象者の拡大や、生産者や 獣医師に直接還元する迅速なFB(以下、直接FB)を積極的に行う必要があると考え た 。 そこ で 、生 産 者に 対 して 新 たに F B事 業 の周 知 を図 っ た。 ( 1 )新 規 FB 対 象者 の 拡大 F B説 明 パ ン フ レ ッ ト (図 2) を 作 成 し 、 F B 未実 施で あ る 豚 16生 産 者 の 内 、年 間 出 荷 50頭 以 上 の 5生 産 者 に パ ン フ レ ッ ト を 配 布 し た と こ ろ 、 新 た に 2生 産 者 か ら F B 申 請 が あ っ た 。 そ の 結 果 、 還 元 率 は H23年 度 ベ ー ス で 生 産 者 62.8%→ 67.4%、 出 荷 頭 数 92.1% → 93.7%に 向上 し た。 申請 が ない 3生 産者 につ い ては 、家 畜商 と して 豚 を仕 入 れて 出 荷す る 形態 で ある こ と、 出荷の大半が母豚であること、当所管轄のと畜場以外に多く出荷していることなどが 理 由で あ ると 考 えら れ た。 ( 2 )直 接 FB 対 象者 の 拡大 ① 生産 者 への 直 接F B 畜産 企 業A の 直営 及 び預 託 9農 場 に加 え て、家 保 を経 由 して 還 元し て いる 生 産者 の 内、 2生 産 者よ り 直 接 F B の 希 望 があ っ た た め 、 併 せ て11生 産 者に 直 接 F B を 開 始 する こ と に した 。 ② 獣医 師 への 直 接F B 管理獣医師や診療獣医師へデータを還元して日々の診療に利用してもらい、FBを よ り 有 効に 活 用 す る 方 向 を 模 索す るた め 、 診 療 獣 医 師 2名 に依 頼 し 、 試 験 的 に FB を 実 施 し た と こ ろ 、「 駆 虫 薬 や ビ タ ミ ン A 投 与 の 必 要 性 を 生 産 者 に 説 明 す る 際 に 、 実 際 の デ ータ が ある と 役立 っ た」 な どの 意 見が 得 られ た 。 畜産農家 出 荷 と畜場 (食肉衛生検査所) 検査データ還元 家畜保健衛生所 検査データ還元 衛生指導 ・ 疾病対策 検査データの還元とは!? 検査結果の一例 検査データ還元っち、なんかえ?何をしてくれるんじゃ? 出荷された家畜の検査結果や お肉の格付けを記載したデータをお返しします。 病気があったっち言っても、どげえしたらいいかわからんのじゃ。 ☆1頭毎の疾病発生状況・廃棄部位 ☆出荷日単位での疾病発生率 ご心配なく! 私たち家畜保健衛生所の獣医師がご相談にのります。 ☆疾病の発生率をグラフ化 ☆枝肉格付けデータ付随 ほうか。それなら安心じゃのお。いっちょ、わしもやってみるか。 お問い合わせは大分県食肉衛生検査所までお気軽にどうぞ 図2 ☆県内の疾病発生状況 Tel:097-578-1011(検査課まで) パン フ レッ ト 図3 ホ ーム ペ ージ ( 3 )ホ ー ムペ ー ジへ の 掲載 F B の 詳 細 説 明と 申 請 様 式 を 掲 載 し、 より F B を申 請し や す い環 境 を整 え るた め 、H 25.1月 に 食肉 衛 生検 査 所ホ ー ムペ ー ジに F Bペ ー ジを 作 成し た 。( 図 3) 4 新た な 課題 へ の取 り 組み ( 1 )様 式 の改 善 ア ン ケ ー ト 調 査 の 結 果 、 現 在 の 様 式 が 「 見 に く い 」「 字 が 小 さ い 」 と い う 回 答 が あ っ た 。 そ こ で 、 Excelデ ー タ を 加 工 処理 し て 印 刷 範 囲 を 拡 大し 、 見 や す い 様 式 へ改 善 を 図 った 。 ( 2 )業 務 の効 率 化 新規FB対象者や直接FBによる還元先の拡大によって、データの加工処理など職 員の業務量が増大し、事務処理時間や人為的ミスの増加が懸念されため、帳票作成処 理 なら び に郵 便 事務 作 業の 2点に お いて 、 業務 の 効率 化 を 図っ た。 ① 牛帳 票 作成 処 理の マ クロ 化 (ち え のわ ブ ログ を 活用 し た事 例 ) 情 報 政 策 課 が ち えの わブ ロ グ に 公 開 し た 、Excelを 使 っ たデ ー タ 処 理 に 役 立 つマ ク ロ プログラムを利用し、その結果、牛の耳標番号チェックならびにデータ統合事務処理 時 間は 平 均15~ 20分 か ら1分 30秒 へ 短縮 す るこ と がで き た 。 ② 豚帳 票 作成 処 理の マ クロ 化 豚 の 場 合 、 牛 と 違 い Excellフ ァ イ ル の 加 工 処 理 が 必 要 と な る た め 、 情 報 政 策 課 の マ クロプログラムは利用できなかった。そこで、加工処理を実施するマクロプログラム を 新 た に 作 成 し た 結果 、1生 産 者 当 た り の 加 工 処理 時 間 を 平 均 4~ 5分 か ら 30秒 に短 縮 で き た( 毎 月平 均 25生 産 者処 理)。 ③ 郵便 事 務作 業 の軽 減 還元先が増えたことにより宛名書きに時間がかかるという問題が発生したので、生 産 者の 宛 名ラ ベ ルシ ー トを 作 成し 、 郵便 事 務作 業 の軽 減 を図 っ た。 5 まと め 生産者のFBに対する満足度は高く、当所のFB事業の有用性がわかった。また、生 産者が家畜生産に影響を与える疾病情報を迅速に求めていることもわかり、より迅速な FBの体制作りが必要であることが判明した他、今回取り組んだ業務の効率化は職員の 業 務 量を 大 幅に 改 善す る もの で あっ た 。 と畜検査結果は農場では得られない貴重な情報であり、より有効活用してもらうため に、さらなる改善を行うとともに生産者・獣医師・行政間の連携を強化して、FB事業 のあり方についてさらに検討を重ねていき、安全・安心な食肉の提供をしていきたいと 思う。
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