別冊:Vascular Access News vol.2

第59回日本透析医学会学術集会・総会
日本コヴィディエン クリニカルセミナ―
VA管理におけるエコー活用を考える
2014年6月13∼14日 神戸ポートピアホテル 本館
VA管理における超音波検査の意義と透析現場での簡単活用法
特定医療法人 桃仁会病院 臨床工学部 兵庫県立大学大学院 応用情報科学研究科
人 見 泰 正
先生
はじめに
今回は、Vascular Access(VA)
管理において、
エコーを透析現場の中でどのように使うべきか?なぜVA管理においてエコーが注目を集めて
いるのかをご説明します。
VAの特徴
我が国におけるVAの主流は、
自己血管内シャント
(AVF)
であり、
およそ全体の90%を
占めています。そして約7%が人工血管内シャント
(AVG)、残りの約3%がその他のVAと
なります
(図1)。一般的にVAを管理することは、AVFとAVG、特にAVFを管理することと
言えます。
ここでは、AVFとAVGを併せてシャントと呼びます。
VAは透析において非常に重要なもので、
これは透析を施すために必須の道具とも
言えます。ただし、
シャントは人工産物であるため、永久的に使えるものではありません。
いずれ必ず壊れてしまいます。特に穿刺や圧迫をはじめ、
さまざまな外的ストレスが加わる
ことによる劣化は避けられません。このことからも、VAには日常的な管理が必要不可欠と
言えます。
図1:我が国におけるVAの主流
The 59th Congress of the Japanese Society for Dialysis Therapy
VAにおいて重要な管理手法
VAにおいて最も重要な管理手法は、
日本透析医学会のガイドラインにも示されている
通り、VA機能をモニタリングするプログラムの確立です。これは主に視診・聴診・触診
(理学所見)
のことを指します。ですので、
まずは理学所見でVAの異常をしっかりと見極
める術を身に付けることが重要です。そこを疎かにして、他の管理手法だけでVAを評価
するような行為は避けるべきです。
ただし、理学所見にも欠点があります。それは、
シャントの情報を一定の基準として数値
化できない点です。人間の感覚は非常に曖昧で、時と場合、
または人の違いによってその
尺度は大きく変化します
(Weber–Fechnerの法則)。理学所見はシャントの異常を発見
するうえで最も重要な管理手法ではありますが、基準値が作れないことで異常の程度を
追及していくことが難しい手法でもあります。
エコーでシャント情報を定量化、可視化
•VA機能をモニタするプログラムの確立(理
学所見【視診・触診・聴診】
(
)1-B)
(2-C)
•VA血流量の測定
(2-C)
•再循環率の測定
(2-D)
•超音波検査
•AVGの場合は以下を追加
•静脈圧の測定(1-C)静脈圧の継続的な上
昇はAVGの機能不全を反映する
推奨度のグレード
レベル1強…を推奨する
レベル2弱…が望ましい
エビデンスの質
A 高い B 中等度
C 低い D 最も低い
日本透析医学会「慢性血液透析用バスキュラーアクセスの作製および修
復に関するガイドライン2011」より
図2:どのVA管理方法が最も良いか?
クリアランスギャップ、
HD02モニタでの血流測定、
再循環率や静止静脈圧といった管理手法は、
様々な視点からシャントの情報を定量化、
数値化
しようという手段です。
これらの管理手法は、
それぞれに有用な面を持ち合わせていますが、
シャントの状態や内部構造を直接的に可視化および
数値化することはできません。これらの手法は、主に生化学検査値や血液回路内血流などを基にして、間接的な数値情報からシャントの実態を
予測する手段と言えます。
直接的にシャントの状態を評価できる管理手法には、血管造影、CT、
エコーがあります。
これらの手法は、
シャントそのものの内部を可視化したうえで評価することができます。
この
中でエコーは、
ここ数年の装置の高性能化により画像診断能力が格段に向上しました。
また小型化が急速に進んだこともあり、取り回しが楽で、穿刺時やPTAの際のガイドとして
の汎用性も高まりました
(写真1)。そして、近年ようやく血流や形態に対する評価基準が
定まり、
その有用性の高さから広く普及し始めました。
エコーを用いることで、理学所見だけでは分からないシャント情報を定量化したり、内部
構造を可視化したりすることができます。エコーは今後、透析現場において心強い味方に
なってくれるはずです。
写真1:コンパクトエコー
シャント血流機能評価と形態評価
エコーを用いたシャント管理には血流機能評価と形態評価という、2つの評価法が
あります。
シャント血流機能評価とは
AVFの場合、
作製と同時に静脈血管が拡張・怒張して、
そこに流入する血流量が増加し
ます。
また、動静脈が短絡されることで、中心静脈へ返流される血流抵抗が著しく低下しま
す。つまり、
シャント血流における機能とは、
シャントに流入する血流量が増加することと、下
流への抵抗が低くなることの2点であると言えます
(図2)
。
それらを数値化して評価する方法
がシャント血流機能評価です。
シャント血流機能評価の指標
図3:シャント造設前後の血流量の変化
指標1 シャント血流量:FV
(Flow Volume)
一つ目の指標はシャント血流量(FV)
です。FVは、最も測定誤差が少ないとされる上腕動脈で測ることがスタンダードとされています。FVの
基準値はだいたい350∼500mL / min以上となります。
※基準値は計算式で求めることが可能です。FVはシャントの脱血不良に対して、感度と特異度が高い検査の指標です。血流量や穿刺位置、穿刺針などの違い
にもよりますが、主に350mL/min以下であると、透析中の脱血が困難である場合が多くなります。
The 59th Congress of the Japanese Society for Dialysis Therapy
指標2 血管抵抗指数:RI
(Resistance Index)
もう一つの指標は血管抵抗指数
(RI)
です。
これも上腕動脈で測定します。拡張期の血流速度が、収縮期に対して何パーセント落ちたのかを
評価する指標です。
カットオフ値として0.6が基準になります。
※収縮期の60%以下に血流速度が落ちていれば、高度狭窄や閉塞の指標となるということです。
シャント血流機能を測定することで、
シャントの血流を数値化して評価することができます。
ただし注意すべき点は、
シャント血流機能評価は、
どこかにトラブルがあることを予測するための手段であり、
それのみでシャント状態の良し
悪しを判別することはできないという点です。基本的には、FVが下がってRIが上がるという状態がシャント不全に近い状態と言えますが、穿刺
箇所や狭窄部位の違いによって、FVとRIは異常値にも正常値にもなり得ます。
このことからも、
まずは理学所見を駆使し、
しっかりと視て、聴いて、触って、
シャントの全体像や穿刺位置を把握し、
どこに病変があるかを知った
うえで検査することが重要です。
透析室でのエコー使用法
(形態評価)
シャント内部の形態的所見は概ねエコーで確認できます。
ここでは、透析室でエコーをどのように使用すべきかを紹介します。
①狭窄部の経過観察
前述の通り、
シャント管理手法には様々なものがありますが、実際に治療の標
的となることが多い狭窄部がどういう状態かを見極めることが、最も手っ取り早
い確認手段といえます。
このとき、
エコーは狭窄の程度を判断し、経過を追うう
えで非常に有用なツールとなります。狭窄部の形状と径を観察/計測しておくだ
けでも、
それ以降の管理に大いに役立つ情報が得られます。
②治療中のトラブル
急な脱血不良や穿刺部痛などの治療中トラブルの際にもエコーが有用で
す。理学所見ではまっすぐ静脈が走っているように感じても、実際には別方
向へ走行していたり屈曲していたりする場合があります。
また、静脈圧が上昇す
る原因が分からない場合もあります。
そのような症例にエコーを用いた形態評
価を施すことで、
トラブルの原因が明確化します。
また、
その情報を共有すること
図4:透析室でのエコー使用例
でそれ以降の治療にも活かすことができます。
③ガイド下穿刺にも有用
小型エコーを用いたエコーガイド下穿刺法を習得することで、穿刺の失敗リスクは低減します。中でも、深さがあり触診でわかり難いような血管
には有用です。
どんな血管に対してでもエコーガイド下でアプローチすることは推奨されませんが、適応のある血管に対しては非常に有用で
あり、患者さんの苦痛も和らぎます。
狭窄のメカニズム
動脈に静脈を吻合し、
壁の薄い静脈に動脈の速い血流が入り込むことで、
シャント本管の
血流は必ず、乱流、過流を発生します。
その速い血流のストレスに対抗するために元々薄い
静脈の壁が厚みを増し、
内膜肥厚を起こします。
この内膜肥厚が狭窄の原因です。狭窄は、
分岐部や吻合部の上、
または頻回に穿刺しているところなどに発生しやすいです。
ようするに、
乱流や過流、
もしくはストレスが加わっている部位は、狭窄が起こりやすいということです。
このことを覚えておけば、狭窄の部位を理学所見で特定する際の手助けとなります
(図5)
。
図5:狭窄の発生機序
The 59th Congress of the Japanese Society for Dialysis Therapy
エコーでの狭窄評価で必要なことは、長・短軸での狭窄径の測定とその前後の正常部
血管径の測定です。径は2.0mm以上あることが望ましいとされています。
また、50%以上の
狭窄は早く詰まりやすく、10∼25%ぐらいの狭窄であれば細い血管でも大きな問題はない
場合が多いです。次に狭窄の長さがどれぐらいあるかも測っておきます。
また、高度狭窄や
閉塞時には、
エコーで血管壁をしっかり追えるかどうかも確認しておくべきです。血管壁が
はっきりしている場合は治療が成功しやすいですが、逆の場合では治療困難なケースが
多いです。
また、体表からの写真を撮っておくと、次の穿刺時に同じ場所を同じように評価
でき有用です
(図6)
。
形態を評価していくときのポイント
■
図6:狭窄の好発部位
血管に対してプローブを縦向きに置くと長軸像という縦切り像が出てきます。
プローブを横にクロスして置くと短軸像という輪切り像が出て
きます。血管の計測は長・短軸の双方に対して行い、立体構造として評価する必要があります。
■
静脈は圧迫するとすぐに潰れてしまいますので、
エコージェルをできるだけ多めに塗り、
プローブと体表間を少し浮かすような状態で、静脈が
つぶれないように走査することが重要です。エコージェルは硬めのものを選択した方が走査しやすいでしょう。
■
近年は高性能のドップラー機能を搭載した機器が数多く出てきていますので、
カラードップラーやパワードップラーの機能を上手く使い、効
率的に形態を評価することをお勧めします。特に狭窄部や閉塞部の内腔を評価する際は、
ドップラー機能を組み合わせて評価すべきです。
おわりに
VA管理で一番重要なことは、
やはり理学所見と言えます。理学所見をしっかり評価することで他の管理手法での評価効率も格段に向上し
ます。ただし、理学所見には定量化できないという大きな欠点があります。その定量化を実現でき、直接的にシャント構造を可視化できるうえで、
エコーは優れていると言えます。エコーで行うシャント管理には、血流機能評価と形態評価の2つの方法がありますが、血流機能評価は血流の
情報を数値化し、状態を予測するための手段です。そして形態評価は、
シャントの内部構造を可視化するための手段です。理学所見にこの
2つを組み合わせることで非常に効率的かつ詳細にシャントの状態を診断することができます。
また、簡易評価として、理学所見に形態評価を
加えるだけでも、簡便に高質なシャント管理が実現します。
さらに、透析現場にエコーを常設しておけば、
ガイド下での穿刺や治療中のトラブル
対応にも迅速に対応できます。
総合的なVA管理を効率的かつ簡便に行ううえで、是非エコーを利用したVA管理の導入をご検討いただければと思います。
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