末吉2014:第69回日本体力医学会

クラシックバレエにおけるバーへのライトタッチと立位バランス能力向上に関する検討
末吉のり子(新潟大学大学院) 村山敏夫(新潟大学)
1.目的
プロのバレエダンサーのみならず、すべてのバレエ教室では安定を保つための補助としてバー(横木)に手を添えてレッスンを行った
プロのバレエダンサーのみならず、すべてのバレエ教室では安定を保つための補助としてバー(横木)に手を添えてレッスンを行った
後、バーを使用しないフロアレッスンを行う。バーは姿勢安定のための補助器具であるが、力強く握ってはならず、手は軽く添える程度
後、バーを使用しないフロアレッスンを行う。バーは姿勢安定のための補助器具であるが、力強く握ってはならず、手は軽く添える程度
(ライトタッチ:LT)が良いとされている。立位姿勢保持に及ぼす
(ライトタッチ: )が良いとされている。立位姿勢保持に及ぼすLT時の指先感覚は力学的支持に頼らない神経系の姿勢制御機構とさ
)が良いとされている。立位姿勢保持に及ぼす 時の指先感覚は力学的支持に頼らない神経系の姿勢制御機構とさ
れ、高齢者の劣った立位バランス能力を向上させるという報告があり、バレエ
れ、高齢者の劣った立位バランス能力を向上させるという報告があり、バレエバーへの
バレエバーへのLTも同様の機構による姿勢制御を経験則に基づい
バーへの も同様の機構による姿勢制御を経験則に基づい
て行われているのではないかと考え、それを検証することとした。
て行われているのではないかと考え、それを検証することとした。
2.方法
被験者:バレエ経験のある16歳~
名、30代
名、50代
名、60代
代1名
名。バレエ経験年数 15.5±
±5.29年
年
被験者:バレエ経験のある 歳~65歳までの
歳~ 歳までの8名。
歳までの 名。10代
名。 代2名、
名、 代2名、
名、 代3名
片脚立位における重心動揺(
:CoP)
)をバーなし状態(ニュートラルポジション:
片脚立位における重心動揺(Center of Presure:
をバーなし状態(ニュートラルポジション:NT)
状態(ニュートラルポジション: )にて①NT開眼②
にて① 開眼②NT閉眼
開眼② 閉眼、強くバーを握りしめた場合(
閉眼、強くバーを握りしめた場合(フォースタッチ:
、強くバーを握りしめた場合(フォースタッチ:FT)にて③
フォースタッチ: )にて③FT開
)にて③ 開
Wii バランスボード
眼、④FT閉眼、
閉眼、できるだけ軽くバーに触れている状態(
開眼、⑥LT閉眼にて各
秒と後半2秒をカットし、
閉眼、できるだけ軽くバーに触れている状態(LT)で
できるだけ軽くバーに触れている状態( )で⑤
)で⑤LT開眼、⑥
開眼、⑥ 閉眼にて各15秒間測定し
閉眼にて各 秒間測定し,前
秒間測定し 前3秒と後半
秒と後半 秒をカットし、10秒間を解析することとした。解析のパラメーターは
秒をカットし、 秒間を解析することとした。解析のパラメーターは
単位軌跡長(LEG/TIME)、矩形面積
)、矩形面積(REC.area)、
)、RMS面積(
面積(RMS.area)、左右方向変位標準偏差(
)、左右方向変位標準偏差(SD-X)、前後方向変位標準偏差(
)、前後方向変位標準偏差(SD-Y)とした。なお、重心動揺測定は任天堂
)とした。なお、重心動揺測定は任天堂Wiiバラ
単位軌跡長(
)、矩形面積
)、
面積(
)、左右方向変位標準偏差(
)、前後方向変位標準偏差(
)とした。なお、重心動揺測定は任天堂 バラ
ンスボードで実施した。
ンスボードで実施した。
FT、
、LTにて
にて15秒間両足立位、
)で15秒の重心動揺測定を
秒の重心動揺測定を⑦
開眼、⑧FToB閉眼、⑨
閉眼、⑨LToB開眼、⑩
開眼、⑩LToB閉眼にて行った。パラ
閉眼にて行った。パラ
にて 秒間両足立位、15秒間片脚立位後
秒間両足立位、 秒間片脚立位後バーから手を離した
秒間片脚立位後バーから手を離したNT状態
バーから手を離した 状態(
状態(Out of Bar: oB)
秒の重心動揺測定を⑦FToB開眼、⑧
開眼、⑧
閉眼、⑨
開眼、⑩
メーターは検証1と同様とした。
メーターは検証1と同様とした。
検証1
検証
検証2
検証
統計解析ソフトRにて、検証1については開眼、閉眼ともNT、
、LTでの
でのCoP各パラメーターを分散分析にて、検証2については
各パラメーターを分散分析にて、検証2についてはFT開眼、
統計解析ソフトRにて、検証1については開眼、閉眼とも 、FT、
での
各パラメーターを分散分析にて、検証2については 開眼、LT開眼と
開眼、 開眼とFT閉眼、
開眼と 閉眼、LT閉眼に
閉眼、 閉眼に
おける各パラメーターのt検定を行い、検討をおこなった。
検定を行い、検討をおこなった。
おける各パラメーターの
統計解析
統計解析
ライトタッチ:LT
ライトタッチ:LT
フォースタッチ:FT
フリーソフトSPECTRAにて、高域遮断を施していない
にて、高域遮断を施していないCoP動揺系列のパワースペクトルをFFT法(高速フーリエ変換)により算出した。
動揺系列のパワースペクトルをFFT法(高速フーリエ変換)により算出した。
フリーソフト
にて、高域遮断を施していない
周波数解析
3.結果
Cop変位典型例
変位典型例(被験者A)
10
*
20
15
15
10
10
10
5
5
0
-5
-5
-10
-10
-10
**
***
左右方向(
軸)変位
左右方向(X軸
10
5
0
***
**
前後方向(
軸)変位
前後方向(Y軸
左右方向(
軸)変位
左右方向(X軸
FT開眼
開眼
20
20
15
15
10
10
10
5
5
0
0
5
0
-5
-5
-5
-10
-10
-10
1
44
87
130
173
216
259
302
345
388
431
474
517
560
603
646
689
732
775
818
861
904
947
990
前後方向(
軸)変位
前後方向(Y軸
左右方向(
軸)変位
左右方向(X軸
前後方向(
軸)変位
前後方向(Y軸
バーを持つことによって力学的支持の関与が示唆された。
(FT,LTともバーの保持で動揺
(FT,LTともバーの保持で動揺の波形が見られらくなる)
動揺の波形が見られらくなる)
35
FT:
:LT開眼
開眼
30
25
25
20
20
15
15
10
10
5
0
0
左右方向(X軸)変位
前後方向(Y軸)変位
左右方向(X軸)変位
FToB閉眼
閉眼
*
*
左右方向(X軸)変位
LT状態でバーを保持してから手
状態でバーを保持してから手
を離した方が、開眼ではSD-Y以
以
を離した方が、開眼では
外のすべてのパラメーターで、閉
眼ではすべてのパラメーターで
眼ではすべてのパラメーターで
値が小さくなる
前後方向(Y軸)変位
LToB閉眼
閉眼
20
15
10
5
0
-5
-10
LTでバーを握る→手を離す
LTでバーを握る 手を離す
動揺が少ない
20
15
10
5
0
-5
-10
1
46
91
136
181
226
271
316
361
406
451
496
541
586
631
676
721
766
811
856
901
946
991
1
46
91
136
181
226
271
316
361
406
451
496
541
586
631
676
721
766
811
856
901
946
991
5
LToB開眼
開眼
20
15
10
5
0
-5
-10
1
46
91
136
181
226
271
316
361
406
451
496
541
586
631
676
721
766
811
856
901
946
991
FT:
:LT閉眼
閉眼
30
前後方向(
軸)変位
前後方向(Y軸
1
46
91
136
181
226
271
316
361
406
451
496
541
586
631
676
721
766
811
856
901
946
991
35
FToB開眼
開眼
20
15
10
5
0
-5
-10
左右方向(
軸)変位
変位
左右方向(X軸
バーがあると無意識のうちに手で身体を
支えてしまう傾向がある
FToB、
、LToBにおける
におけるCoP変位典型例
変位典型例
における
検証2の結果
前後方向(
軸)変位
前後方向(Y軸
LT開眼
開眼
15
左右方向(
軸)変位
左右方向(X軸
FT→LT
FT LT→NTの順に安定である。
LT NTの順に安定である。
特に閉眼の場合に顕著であった。
左右方向(
軸)変位
変位
左右方向(X軸
前後方向(
軸)変位
前後方向(Y軸
20
1
46
91
136
181
226
271
316
361
406
451
496
541
586
631
676
721
766
811
856
901
946
991
0
LNG/TIME:開眼、閉眼とも
:開眼、閉眼とも
NT>LT>F
FT
0
NT開眼
開眼
***
***
5
5
0
-5
1
46
91
136
181
226
271
316
361
406
451
496
541
586
631
676
721
766
811
856
901
946
991
20
15
20
15
1
46
91
136
181
226
271
316
361
406
451
496
541
586
631
676
721
766
811
856
901
946
991
15
LEG/TIME(cm/s)
REC.area(㎠)
RMS.area(㎠)
SD-X(cm)
SD-Y(cm)
p<0.05 *
p<0.01**
p<0.001***
LT開眼
開眼
20
1
46
91
136
181
226
271
316
361
406
451
496
541
586
631
676
721
766
811
856
901
946
991
NT:FT:LT1開眼
開眼
20
FT開眼
開眼
NT開眼
開眼
*** NT:FT:LT1閉眼
閉眼
***
1
46
91
136
181
226
271
316
361
406
451
496
541
586
631
676
721
766
811
856
901
946
991
検証1の結果
前後方向(Y軸)変位
左右方向(X軸)変位
前後方向(Y軸)変位
LTでバーレッスン
後、センターレッスン
を行った方がバラン
スが良くなるので
は?
スペクトラム解析典型例(被験者A)
NT:開眼、閉眼Y
NT:開眼、閉眼Y軸
NT:開眼、閉眼X
NT:開眼、閉眼X軸
FT :LT開眼、閉眼X
:LT開眼、閉眼X軸
FT :LT開眼、閉眼Y
:LT開眼、閉眼Y軸
FToB:LT
FT :LToB開眼、閉眼
:LT 開眼、閉眼X
開眼、閉眼X軸
FToB:LT
FT :LToB開眼、閉眼Y軸
:LT 開眼、閉眼Y軸
0.38Hz, 2.07
0.08Hz, 1.30
0.47Hz, 1.49
0.09Hz, 0.95
0.38Hz, 0.61
0.47Hz, 0.85
0.46Hz, 0.79
0.66Hz, o.46
0.68Hz, 0.56
0.09Hz, 0.34
0.29Hz, 0.69
0.29Hz, 0.34
0.09Hz , 0.22
閉眼時に現れる左右方向0.4Hz付近の周波数、前後方向におけるいくつかの周波数
付近の周波数、前後方向におけるいくつかの周波数
閉眼時に現れる左右方向
は、視覚情報がない状態で、身体の姿勢位置情報の変化を足裏に多く存在する触
覚器が感知し、体性感覚神経の興奮の結果によるのではないかと考えられる。
覚器が感知し、体性感覚神経の興奮の結果によるのではないかと考えられる。
4.考察
バーでFT、
バーで 、またはLT状態開眼ではほとんど周波数の変化は
または 状態開眼ではほとんど周波数の変化は見られない。バーを
状態開眼ではほとんど周波数の変化は見られない。バーを
手で触ることによる力学的支持が行われたのではないかと推測される。
手で触ることによる力学的支持が行われたのではないかと推測される。
皮膚に存在する
皮膚に存在する体性情報
触覚
まとめⅠ
まとめⅠ
視覚系(眼)
体性感覚
(固有感覚
固有感覚:
感覚:
筋紡錘、ゴル
ジ腱器官
ジ腱器官)
器官)
クラシックバレエにおけるバーレッスンの重要性
ダンサーはバレエの長い歴史を通して、バーレッスン
を行うとバランス感覚がよくなることを体験的に知っ
ていた。バーを力学的支持のみに利用するだけでな
く、バーをライトタッチすることよって手に存在する高
いセンサーとしての触覚器を利用してバランス能を高
め非常に難しい踊りを踊ることを可能にしてきたのだ
と考えられる。
バランス能に影響を与える要因
前庭系
(耳)
閉眼時に開眼時には見られない左右方向変位の大きなピークが見られる。CoP
閉眼時に開眼時には見られない左右方向変位の大きなピークが見られる。
変位が大きかったFToBのピークの方が大きくなっている。
変位が大きかった
のピークの方が大きくなっている。
触覚は足底と掌(特に指先)に多く存在するこ
とが先行研究より確認されている。
触覚器・・マイスナー小体(FAⅠ
触覚器・・マイスナー小体(FAⅠ)、メルケル細
胞(SAⅠ
胞(SAⅠ)、パチニ小体(FAⅡ
)、パチニ小体(FAⅡ)、ルフィニ終末
(SAⅡ
(SAⅡ)
体性感覚
(関節感覚)
MI:メルケル細胞(SAⅠ)
R:ルフィニ終末(SAⅡ)
Mr:マイスナー小体(FAⅠ)
P:パチニ小体(FAⅡ)
皮膚の構造と機械受容器(Roland S, Ake B 1983)
たいた
まとめⅡ
まとめⅡ
体性感覚(皮膚感
覚:触覚、圧覚)
体性感覚は、視覚、前庭感覚よりも求心
体性感覚は、視覚、前庭感覚よりも求心
性伝達情報は速い
性伝達情報は速い
感覚統合→
感覚統合 バランス感覚
中枢神経でさまざまな情
報を統合してバランスを
保持する
手は足底部よりも触覚としては優れて
いると言われる。
本
いると言われる。ヒト
と言われる。ヒトの手には
ヒトの手には17000本
の手には
の機械受容器神経線維が分布してい
る。足部からの体勢情報だけでなく
る。足部からの体勢情報だけでなく、
足部からの体勢情報だけでなく、
バーを触ることによって手から体性感
覚情報量の増加が見込まれ、中枢神
経系へ送られる情報量が増加する。
スポーツジム等で
中高年からバレエ
を始める人が増え
ている
バーレッスンの運動としての可能性
①バーを使って運動をするという事は、力学的支
持が可能→運動として安全に行う事ができる(中
高年にも可能)
②感覚の鋭い手の触覚器を利用するため、加齢と
ともに減少する視覚や他の体性感覚を補うための
訓練をすることができる。
③筋力トレーニングとしても優れている。