当院における術中誘発電位測定の一例 産業医科大学病院 臨床工学部

当院における術中誘発電位測定の一例
産業医科大学病院 臨床工学部 春藤毅之 石守哲也
はじめに
術中誘発電位測定とは、脳脊髄神経に関わる手術では術後の麻痺や感覚障害などの神経障
害を生じる場合がある。そのため最近当院では、神経モニタリングの必要性が増し普及し
ている。術中モニタリングには瞬時に判読を行うスキルや術中に起こるトラブル対応があ
り、測定者の技術が重要となる。当院では術中誘発電位測定は臨床工学技士が行っている。
昨年度の誘発測定を用いた手術は、整形外科で 58 例脳神経外科で 72 例の合計 130 例であ
り年々症例は増加傾向にある。
誘発の種類は体性感覚誘発電位(SEP)運動誘発電位(MEP)聴性脳幹反応(ABR)異常
筋反応(AMR)視覚誘発電位(VEP)脳・神経直接刺激のモニタリングを行っている。
術中誘発電位モニタリングの注意点は、OP 室内にある医療機器からのるノイズや麻酔深度
や筋弛緩剤による影響、そして、室内の温度や患者様の皮膚温が低下すると波形が遅延す
る可能性がある。
今回、術中にトラブルが起こった事例を報告する。
症例
63 歳 女性、主病は左斜台髄膜腫にて広範囲頭蓋底腫瘍摘出術施行。もとより左難聴、右
半身片麻痺がみられる。
方法
MEE-1216・MS-120B(共に日本光電工業株式会社)を使用し、ABR+MEP のモニタリン
グを行った。
MEP のモニタリングは上肢は短母趾外転筋と三角筋。下肢は母趾外転筋と前脛骨筋の計 8
か所で出力はバイフェージックのシングルトレイン 5 回の 200mA。ABR は右耳刺激の脳
幹でのモニタリング。出力はクリック音の 105dB で,導出場所は両耳朶と Fz を使用。
事例
術前のコントロール時の MEP の波形は,右側が左側に比べ振幅は約 50%低い波形となった
が、モニタリングには問題なかった。
しかし、ABR の波形にはノイズが混入し、術前のコントロールをとることが出来なかった。
対策
ノイズ除去のため、装置のケーブルや入力ボックスの位置を変えたが、ノイズは減少しな
かった。また電極をすべて変えたが、改善はしなかった。
次に導出電極の位置を Fz から Cz に位置を変えたところノイズ混入を抑えることができ、
その後モニタリングは問題なく行えた。
考察
この患者様は、以前に 2 度の開頭手術を行っており、頭蓋骨固定の金属プレート(3cm×
3cm)が Fz 付近(前頭部)にあったため、そこから無影灯や顕微鏡等からのノイズが混
入したと考えられる。
まとめ
術中のセッティングは、OP 時間を出来るだけ短くするため、限られた時間内に的確かつ正
確に行う。そして可能な限り術前の検査を行い、術式、麻酔法も調べておく事が大切であ
る。手術室でのモニタリングは、当該外科医、麻酔科医、看護師、検査技師と情報共有を
行う事の出来る信頼関係を築くことが重要である。
また、今回の症例のようなトラブル対応していき、今後に生かしていくことが大事である。