メモリの大革命 3 次元 NANDフラッシュ 厚木エレクトロニクス / 加藤 俊夫 1. はじめに ~メモリの全般状況~ さくして集積度を上げるためには、キャパシタの面積をで 本レポートは、3 次元 NAND フラッシュ・メモリ(以下、 利用するトレンチ型や、基板の上部にキャパシタを重ねる 3D-NAND フラッシュ)について詳しく説明するのが目的 スタック型が用いられ、さらに誘電率の高い材料も用いら であるが、メモリに詳しくない方のために、まず最初に半導 れて、プロセスが複雑になってきている。 きるだけ小さくする必要があり、トレンチを掘って側面を 体メモリ全般について簡単に述べておく。 現在、 半導体メモリといえば、 DRAM(Dynamic Random 2. SRAM Access Memory)、SRAM(Static Random Access SRAM は、図 2 のようにフリップフロップ回路である。 Memory)、フラッシュの 3 種類が主なタイプで、それ以外 フリップフロップというのは、ぎったんばったんと動く に FeRAM(Ferro-electric RAM)などもあるが、まだ主流 シーソーのことで、図の MOS・Q1 が ON になれば、MOS・ 製品ではないので、ここでは省略する。 Q2 が OFF になり、Q 1が OFF なら、Q 2が ON になる。こ のように、どちらが「ぎったん」で、どちらが「ばったん」かに 1. DRAM よって ON-OFF を決めるメモリである。動作速度が速く安 DRAM の 1 ビットは図 1 のように、MOS トランジスタ 定した動作が期待されるので、キャッシュメモリとして良 とキャパシタで構成されている。MOS は、ビット線とワー く用いられている。最近のロジック系の LSI では、チップ ド線がアクセスされた時に導通して ON 状態になるスイッ 面積の半分ぐらいが SRAM で占められている場合がある チの役目を行っている。その時、キャパシタに電荷が貯まっ ようである。SRAM の問題点は、MOS6 個で 1 ビットであ ているかどうかで ON か OFF と検知される。MOS が導通 るから、ビットあたりの面積が大きく、集積度を問題にする していない時もキャパシタは完全には絶縁されていないの 用途には向いていないという点である(MOS4 個と抵抗 2 で、電荷が逃げていく。そこで、電荷が失われる前に再度書 個からなる SRAM もある)。 き込む必要がある。これをリフレッシュと呼んでおり、1 以上、DRAM と SRAM の説明で分かるように、どちらも 秒間の数十~数百回も行う必要があることから、Dynamic 電源が繋がって動作している場合はメモリの状態が保たれ RAM と呼んでいる。キャパシタの容量が大きければ、頻繁 るが、電源を切るとメモリが消えてしまう。これを揮発性 にリフレッシュする必要がなくなるが、1ビットの面積を小 と呼んでいる。 図 1 DRAM のビット構成 42 図 2 SRAM のビット構成 3. フラッシュ・メモリ ON 状態にすればいいわけである。このように、順次送って フラッシュ・メモリは、現在、おもに用いられている構造 いけば、すべての MOS にアクセスすることができる。 は図 3 のようなフローティング・ゲート(Floating Gate = ここで、図 5 の回路図をよく眺めていただきたい。通常、 浮遊ゲート、以下、FG)型である。通常の MOS のゲート電 MOS はソース、ドレイン、ゲートの 3 つの端子が出ている 極と Si 基板(チャンネル)との間に、どこにも繋がっていな が、この NAND フラッシュの回路では、ソースとドレイン い FG があり、この FG に電荷を貯めると、周りが SiO2 の絶 が全 MOS に共通で、それぞれの MOS には FG のみの電極 縁物なので電荷が逃げる心配がない。電源を切ってもメモ が繋がっている。したがって、1 ビットに 1 配線ですむの リが消えないので、不揮発性メモリと呼ばれている(Non で、構造がきわめて簡単なものになり、集積度を上げるには Volatile =以下、NV)。FG に電荷を貯める方法は、Si 基板 理想的な構造である。微細化が進むと DRAM よりも集積 と FG の間は非常に薄い SiO2 膜(数 nm 以下)なので、高電 度が上がり、今や集積度ではナンバーワンのメモリとなっ 圧を掛けてトンネル効果で電子を移動させる。電荷を引 ている。さらに、FG に蓄えた電荷量は「有、無」の2値では き抜く時も同様である。絶縁物なのに電流が流れるのは なく、 「多い、少ない、ゼロ」のように、多値の情報を記憶する 不思議であるが、ファウラー・ノルドハイム・トンネリング ことができる。これにより、1 個の MOS を 2 ビットとして (Fowler-Nordheim Tunneling) と呼ばれる量子トンネル 働かせれば、集積度が 2 倍に増えたことになる。これを ML 効果を利用しているからである。 (Multi Level)と呼ぶ。このような努力により、最近は 1 枚 フラッシュ・メモリには、NOR 型と NAND 型があるが、 のチップで 128Gbit(Giga bit、1280 億ビット)という高 本稿では省略する。NOR と NAND の言葉自体についてご 集積度の製品が生産されている。 存じない方は、ぜひデジタル回路の基礎を勉強していただ きたい。 2.NAND フラッシュ・メモリ 1. NAND フラッシュの構造と特徴 まず、NANDフラッシュのビット構成を図4に示す。ワー ド線が隣接する MOS でソースとドレインを共有され、長く 繋がっている。この繋がりは String(ストリング)と呼ば れており、数十個の MOS からなっている。動作については 図 5 に示す。ビット線を選択するには、まず、同図の選択線 に繋がっている MOS を ON にする。ついで、FG をもって いる NV-MOS のうち、2 ~ N までのゲートに電圧を加えて ON にする。この ON 状態を太線で表したのが図 5 である。 図 4 NAND 型フラッシュ・メモリの回路図 この状態は MOS1 がアクセスされたことを意味しており、 書き込みや読み出しを行うことができる。次に、MOS2 にアクセスするためには、MOS2 以外のすべての MOS を 図 3 FG(フローティングゲート)型フラッシュメモリ 図 5 NAND フラッシュの動作 43 ○ちょっと豆情報 フラッシュ・メモリの発明者として、舛岡富士雄氏(当時 東芝、現東北大学)が知られているが、半導体エネルギー研 3.NAND フラッシュ・メモリの積層膜による 立体化 究所の山﨑舜平氏が 1970 年に出願された特許がはるか 1. V-Channel に早く、 「絶縁膜で囲まれたフローティング・ゲートを持つ これまでの NAND フラッシュは、Si ウエハ上に MOS を メモリ」となっているので、まさに現在のフラッシュであ 形成するプレーナ型であったが、積層して MOS を積む巧 る。舛岡氏が NAND フラッシュを発明されたのは 1984 妙な方法が、2007 年の VLSI Tech. IEEE において、 (株) 年のことである。当時の不揮発性メモリは、フローティン 東芝が BiCS(Bit Cost Scalable)と呼ばれる新構造の グ・ゲートに電荷を貯める原理は現在と同じであったが、 NAND フラッシュ・メモリを発表した。これが本レポート 紫外線消去の EPROM(Erasable Programmable Read の中心話題である。 Only Memory) で、紫外線光が入るようにパッケージに窓 その後、 サムスンはTCAT (Terabit Cell Array Transistor) が開いており、消去するのに 30 秒もかかった。それを電気 や、ハ イ ニ ッ ク ス が SMArT(Stacked Memory Array 的に一括消去できるようにした訳で、一括消去が写真のフ Transistor)と 名 付 け た 同 様 の NAND フ ラ ッ シ ュ・メ モ ラッシュのようなので舛岡氏により「フラッシュ」と命名さ リを発表した。V-Channel(Vertical Channel =縦方向 れた。当時から、舛岡氏は「将来、フラッシュ・メモリは広く チャネル)と呼ばれる構造である。この構造は、これまで 普及し、磁気ディスクを置き換えていく」と主張されていた の NAND フラッシュはもちろんのこと、それ以外の MOS のが、今や実現しつつある。 LSI とも大きく異なり、同じ建物でも平屋の我が家とスカイ ツリータワーほどの違いがある。以下に、ていねいに説明 2. 微細化の限界と SONOS 構造 したいと思う。 図 3 で 示 し た 構 造 の NAND フ ラ ッ シ ュ は、FG 構 造 の NV-MOS がびっしり並んでいるため、微細化により集積 2. BiCS の構造 度を上げていくと、隣のビットとの間隔が狭くなってきて 図 7 に概略の構造を示す。Si 基板上に、SiO2 / Poly-Si しまい、その結果、隣接するセル同士が電気的な干渉を起 の層を連続的に積層する。積層数は、最近のサムスンの発 こし、セル・トランジスタの閾値電圧がシフトしたり、隣の 表では 24 層となっているが、さらに多い方がビット数が ビットの情報との混信が起こるようになる。このため、以 多くなる。平板状の Poly-Si は、NV-MOS のコントロール 前は、NAND フラッシュの微細化は 50nm が限度で、それ 電極になり、SiO2 はその間の絶縁物となる。その積層膜の 以上は無理であるといわれていた。しかし、現在は 20nm 上から下までホール(Hole =孔)をエッチングする。ホー 以下の製品も生産されており、15nm 程度に微細化しても ルの開口寸法は 50nm 程度と思われ、深さとの比(Aspect 製品化可能と思われている。このように、限界といわれて Ratio)は、50 程度になっていると推定している。次に、 も、それを突破するのが半導体開発の常である、ということ ホ ー ル の 中 に、図 8 の よ う に SONOS 構 造 を 形 成 す る。 ができるだろう。 SiN 膜は、先に述べた SONOS 構造の電荷をトラップする そのため、FG 構造ではない、まったく別の構造の SONOS 膜となり、SiO2 膜は、トンネル電流が流れるように 10nm 構 造 の フ ラ ッ シ ュ が 注 目 さ れ て い る。SONOS は、SiSiO2-SiN-SiO2-Poly-Si の略で、その構造は図 6 に示すと おりである。Poly-Si でできた FG の代わりに SiN が用いら れている。SiN は、Stoichiometry(化学量論的)は、Si3N4 となるが、実際の膜は Si:N が 3 対 4 ではなく、9 対 10 のよ うに、Si rich になっている。このため、Si の 4 本ある結合 手のうち、結合にあずかれない手、すなわちダングリング・ ボンド(Dangling Bond =未結合手)が多数生じ、そこに電 子がトラップ(Trap =捕獲)される。SiN 中に電荷がトラッ プされているか否かが ON-OFF の情報となる。SiN 構造の NV メモリは、FG 型より微細化が可能といわれている。 44 チャネルからトラップの多い SiN 膜へ、薄い SiO2 膜をトンネル電流 となって、電子が注入される 図 6 SONOS 構造のフラッシュ・メモリ 以下の薄膜や、コントロール・ゲートからの電界を強めるた チャンネルが N 型不純物をわずかにドーピングした Poly- め極めて薄い膜になっている。図の縦方向の Poly-Si が、 Si であり、粒界のトラップ密度が高いため電子の移動度は MOS のチャンネルになる部分で、通常の平面 MOS とは異 低く、MOS の閾値特性(Vth)がばらつくことになり、この なりホールの中で縦になっているので、V - Channel( 縦 対策として Poly-Si 層を 10nm 程度と非常に薄くしてト チャンネル)と呼ばれる。また、コントロール電極からの導 ラップ数を減少させている。 通を上面に取り出すため、チップ端に階段状にエッチング これは中空円筒の構造となることから、マカロニ型と呼 し電極を取り出す。 んでいるようである。マカロニであれば中心部に空洞があ この NV-MOS の動作を説明すると、Poly-Si の柱と板状 れば料理の味付けに最適であるが、LSI では後の工程に支障 の電極の交点が、Poly-Si をチャンネルとする SONOS の をきたすため、SiO2 などの絶縁物で埋めている。平面状に MOS となる。1 本の Poly-Si 柱には、この MOS が多数直 積層されたゲート電極となる Poly-Si は、金属電極の役割な 列に連続して接続されて NAND ストリングとなる。最近 ので抵抗を下げるため、高濃度の P 型不純物をドーピング のサムスンの 120Gbit の NAND フラッシュの発表では、 していると思われる。 この Poly-Si 柱が 25 億個(2.5Giga 個)あり、ゲート電極が 説明が少々込み入って分かりにくかったかもしれない 24 層で、2 ビットの ML(Multi Level)であるから、2.5 が、皆さんの頭脳は、筆者と違って一度読んだところは消え × 24 × 2 = 120Gbit のチップになる。V-Channel では、 ない不揮発性なので大丈夫だろう。 3. 3D-NAND フラッシュの製造プロセス と歩留まり 東芝は、2007 年に BiCS の発表を行い、 その後も三重工場で量産すると何度か発表 したが、6 年後の今になっても量産に至っ ておらず、やはり量産のためのプロセス技 術の開発が思うように進んでいないものと 思われる。この間、サムスンが一足先に量 産開始を発表したが、本当に歩留まりが上 がり、適正な価格で大量の3 D-NAND が出 荷されるのか、まだ疑問視する意見もある。 それだけ、歩留まりは大問題であると思わ 図 7 3D-NAND フラッシュの概略図 れる。 (1)多層膜の生成 SiO2 と Poly-Si を順に積んでいくわけであるが、その厚 みは SiO2 が 60nm、Poly-Si が 40nm 程度だろうと筆者 は推定している。SiO2 は厚いほど絶縁が完全に行われる が、ホールの深さが深くなりアスペクト比が大きくなるの で、エッチングや穴埋め CVD が大変難しくなる。コント ロール電極用 Poly-Si の厚さはチャンネル長さを決めるこ とになり、微細化することも可能と思われるが、MOS の安 定動作には、40nm 程度が適当だろうと思う。この結果、 60 + 40 = 100nm となり、24 層なら 2400nm がホー ルの深さとなる。多層膜の平坦性を保つことや、異物混入 図 8 3D-NAND フラッシュ、SONOS 構造 (Si-SiO2-SiN-SiO2-Si) を防ぐことなど、単層膜の CVD にはない難しさがあると 思われる。 45 コントロール電極は、抵抗を下げるため、Ni や Co のシ まず、Si 側の SiO2 膜は、電子がトンネル効果で注入され リ サ イ ド が 用 い ら れ る 可 能 性 が あ る。 将 来 的 に は グ ラ る膜であるから、膜厚はきわめて薄く、かつ高電圧で破壊が フェンも考えられ、検討されているようである(グラフェ 進まないように緻密な膜が要求される。できれば高温熱 ンは、カーボンが平面状に並んだ単結晶で、電気抵抗が金 酸化のような緻密な膜が望ましいと思われるが、微細な膜 属よりはるかに低いので、電極として用いればメリット 厚の均一性を考量して ALD(Atomic Layer Deposition がある)。 =原子層堆積)が用いられるであろう。次いで、SiN は、緻 密 さ で は LPCVD(Low pressure CVD = 減 圧 CVD)が (2)アスペクト比の大きいホールのエッチング 勝るが、ダングリング・ボンドを多く形成するため、通常の ホールの形状を推定すると、深さは 24 層なら 2400nm PCVD(Plasma CVD)が用いられると思われる。しかし、 程度と推定され、ホール径は 50nm とすると、アスペクト比 ホールの側面に均一な膜を形成するのはそれなりの高度な (Aspect Ratio =深さ対開口の比)は 48 となる。トレン 技術が要求される。 チ型 DRAM では、この程度のホールをエッチングした経験 があるかもしれないが、3D-NAND フラッシュの場合は、被 (4)チャンネル エッチング材料が均一な結晶ではなく異物質の多層膜であ MOS のチャンネルは Poly-Si を用いることになるが、 るため、その難しさは比較にならない。筆者の推定すると 半導体は歴史始まって以来、常に良質な単結晶を求めてき ころでは、図 9 のように正常な形状ばかりでなく、いろいろ たのと、まるで正反対である。ホールの内部にエピタキシ な不良形状がありうる。SiO2 と SiN の積層物質のエッチ などで単結晶を作成することはとても考えられないので、 ングであるから、単一のエッチングガスで均一にエッチン チャンネルは Poly-Si となる。MOS のチャンネルが単結 グできるとは限らないので、実際のエッチング形状は図 9 晶でないのは不都合な点がいろいろ出てくる。Poly-Si の のようになっていると思われる。また、300mm ウエハ全 厚さを 10nm 以下に薄くするため ALD で正確に膜厚を制 面にわたってエッチングガス(プラズマの荷電粒子)が垂直 御し、できるだけ単結晶に近い性質にしなければならない に入射しなければならないから、この制御もかなり難しく、 ことは、先に述べた通りである。 ひとつ間違えると斜めエッチングになってしまう。 (5)電極取り出しの工夫 (3)ONO 膜の製作と問題点 コントロール・ゲートの電極取り出しは、図 7 にように数 ONO 膜の生成は、NAND フラッシュの性能を決める、 十段の段差から取り出す必要があり、このような構造は過去 もっとも重要なプロセスである。重要なノウハウの部分で の LSI では経験がない。段差を実現するには、厚いフォトレ あるため各社のプロセスの詳細は不明だが、筆者は次のよ うに推定している。 図 9 ホール・エッチングの異常の数々 44 図 10 フォトレジストのスリム化により、段差形成 ジストでマスクし、エッチングの度にフォトレジストがサイ ドエッチングされて細ることにより、繰り返しエッチングで 4.NAND の将来 図 10 のように段差構造を作ることである。この方法だと、 1. 3D-NAND フラッシュの性能について フォトレジスト工程が 1 回ですむ。段差ができると厚い絶 サ ム ス ン の 発 表 に よ る と、10nm 世 代 の 浮 遊 ゲ ー ト 縁膜を被せて、上から順にトレンチをエッチングする。厚い NAND フラッシュに比べて、動作信頼性を 2 ~ 10 倍、書 絶縁物はウエハ全面に付着するので、CMP で削って平坦化 き込み速度を 2 倍に改善できるとし、セルの寿命を示す書 する。次に、ホールのエッチングでは、浅いホールから深い き込み回数(耐久年限)は製品ごとに最低 2 倍から最大 10 ホールまで図 11 のように数十回のエッチングが必要にな 倍以上に向上する、一方、消費電力は半分に減らせるとい り、そのたびにフォトレジストでマスクする必要がある。し う。しかし、3D-NAND は、これまで用いられてこなかった かし、図 12 のような巧妙な案が発表されており、フォトレジ SONOS 構造であり、用いられてこなかった原因があるわ ストの回数が大幅に減らすことができる。 けで、その方がすぐれているという理屈はあり得ない、とい う反論もある。また、肝心の MOS のチャンネ ルが単結晶ではないのも不利な点だろう。し たがって、性能の優劣を云々するのはまだ早計 というべきで、ユーザーの検討を待ちたいと思 う。 なお、今回は SONOS 構造のみを紹介した が、FG(フローティング・ゲート)型の 3D - NAND フラッシュも開発されている。かなり トリッキーなプロセスと思われるので、主流技 術となるかどうか疑問に思っているが、図 13 にその構造図のみを載せておく。 2. コストについて LSI のコストは、一般に設備投資額と歩留り が大きな影響を与える。3D - NAND フラッ シュの場合の投資額について考えると、リソ 図 11 階段状ホールの形成方法(1 段ずつエッチングする方法) グラフィは数十 nm 程度のパターンであるか SiO2/Poly-Si の多層膜のエッチングで、SiO2 をサイドエッチング して凹ませ、そこへ Poly-Si を埋め込んでフローティング・ゲート にした構造 図 12 エッチング回数を減らした階段状ホールの形成方法 図 13 フローティング・ゲートの 3D-NAND フラッシュ 45 ら巨額な投資が必要な微細加工の必要がない。従来から使 り、サムスンは Tera bit を視野に入れた戦略を考えている われているArFのステッパ で 十 分 に 間 に 合 い、Double ようである。 Patterning も必要ない。一方、CVD とエッチングは、従来 また、ReRAMへ期待するという意見もある。3D-NAND の装置でも工夫すれば間に合うかもしれないが、多層連続 フラッシュは、SiN に電荷を蓄えるメモリであるが、抵抗の 膜付けや、多層膜エッチングなどはこれまでにないプロセ 変化を利用した ReRAM を用いたフラッシュ・メモリなど スであるから、専用の特殊な装置が必要だろうと思われる。 が活発に検討されており、SiN 型と置き換わる可能性があ CMP なども特別な仕様の装置が必要かもしれないが、総合 る。ReRAM についても、いずれ機会があれば本誌で取り すると投資額はリソグラフィが簡単であるから、あまり大 上げたいと思う。 きくないと考えられる。 いずれにせよ、フラッシュ・メモリは、Giga bit 時代から 歩留まりの点では、仮にホールが 25 億個とするとすべて Tera bit 時代へと大変革が起こると予想される。 合格するとは考えられないため、冗長回路を設けておき、不 良ビットを合格ビットに置き換える方法が行われる。ただ し、冗長回路をどの程度の割合で導入するかは、歩留まりに 依って決まるが、やたらに多くすることもできない。 歩留まりがこれまでのプレーナ型に追いつくのは容易で はないと思われる。そこで、筆者のまったくのあてずっぽ うではあるが、コスト推移について図 14 のような経過を辿 るのではないかと考えている。 3. NAND フラッシュの今後 NAND フラッシュ・メモリのビット需要は、スマートフォ ンなどの携帯電話機やタブレット端末の二つだけで全体の 50 %を占め、ますます増えつつある。さらに中長期的には サーバなどのインフラ側でも NAND フラッシュ・メモリの 採用が進むと考えられる。したがって、10 年ぐらいのレン ジで考えれば総ビット数は桁違いの量が要求されると思わ れ、生産工場をいくら増やしても追いつかず、3D 化などの 技術革新で対応する必要がある。以前の東芝の発表では、 2015 年に 512G ビットの大容量品を実現するとしてお ①歩留まりが向上せず、2017 年でも Planer 型に追いつけない場合 ② 2016 年頃に追いつく場合 ③きわめて順調に量産が立ち上がった場合 図 14 Planer 型と 3D-NAND のコスト比較 44
© Copyright 2024