Lifting動作時の筋活動は動作前の座位姿勢の違いによりいかなる影響を

第 49 回日本理学療法学術大会
(横浜)
5 月 31 日
(土)13 : 00∼13 : 50 ポスター会場(展示ホール A・B)【ポスター 基礎!身体運動学 12】
0939
Lifting 動作時の筋活動は動作前の座位姿勢の違いによりいかなる影響を受ける
か
緒方 悠太1),新小田幸一2),武田
高橋
真2)
拓也1),石島ゆり野3),岩本
義隆3),谷本
研二4),阿南
雅也2),
1)
広島大学医学部保健学科理学療法学専攻,2)広島大学大学院医歯薬保健学研究院応用生命科学部門,
広島大学大学院医歯薬保健学研究科博士課程前期保健学専攻,
4)
広島大学大学院医歯薬保健学研究科博士課程後期保健学専攻
3)
key words 持ち上げ動作・表面筋電図・座位姿勢
【はじめに,目的】
2013 年の厚生労働省の発表では,腰痛は職業性疾病のうち 6 割を占め,その原因として長時間のデスクワークや Lifting 動作時
の脊椎や脊柱起立筋に対する負荷が挙げられている。このことから,座位時の姿勢とその後の Lifting 動作における筋活動の関
連性を検討すれば,座位姿勢後に Lifting 動作を強いられる職種の職業性腰痛の原因解明と予防策に関し,新たな知見が得られ
ると考えられる。そこで本研究は,一般に不良姿勢と言われる脊柱屈曲座位姿勢がその後の Lifting 動作における筋活動に及ぼ
す影響を明らかにし,職業性腰痛の予防策考案の一助とすることを目的として行った。
【方法】
被験者は脊柱や上下肢に整形外科的既往歴および現病歴を有さない健常若年男性 8 人
(身長:1.69±0.62m, 体重:65.0±7.2kg,
年齢:22.3±1.3 歳)であった。課題動作は脛骨粗面の高さに置かれた 5kg の重りの入った篭の Lifting 動作とした。動作方法は
膝関節を伸展した状態で行う Stoop 法を採用し,動作時間は 2 秒と規定した。自然な脊柱弯曲の状態の座位を 10 分間保持する
前後に行う条件(以下,条件 N)と,骨盤後傾位かつ脊柱屈曲位の状態の座位を 10 分間保持する前後に行う条件(以下,条件
F)
の 2 条件を採用し,各条件の計測には 24 時間以上の時間を空けた。運動学的データは赤外線カメラ 6 台からなる三次元動作
解析システム(Vicon 社製)で,同時に運動力学的データは床反力計(テック技販社製)4 基で,筋電データは表面筋電計 EMG
マスター(メディエリアサポート企業組合社製)で取得した。被験筋は左の腰部傍脊柱筋(以下,LP)と大殿筋(以下,GM)と
し,電極貼付位置は下野の方法に準拠した。得られたデータを基に BodyBuilder
(Vicon 社製)
を用いて,身体重心
(以下,COM),
標点マーカ座標,セグメント角度を算出した。課題動作の解析区間は篭の床反力が 10N 以下になった瞬間から体幹の伸展角速度
が正から負へと転じた瞬間までとした。また,運動学的データは座位姿勢保持前後の変化をより詳細に検討するために,座位後
の値から座位前の値を引いた値(以下,変化量)を算出した。筋電は測定日ごとに最大等尺性随意筋収縮(以下,MIVC)を測
定し,動作中の筋活動量を MIVC に対する割合として求めた(以下,%MIVC)
。解析区間は 100% に時間正規化され,10% ご
とに%MIVC の積分値を区間積分値として算出し,運動学的データと同様に変化量を算出した。統計学的解析には統計ソフト
ウェア SPSS Ver.22.0(IBM 社製)を用い,有意水準は 5% 未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究はヘルシンキ宣言に沿った研究であり,研究の実施に先立ち,本研究を実施した機関の倫理委員会の承認を得た。また,
被験者に対して研究の意義,目的について十分に説明し,口頭および文書による同意を得た後に実施した。
【結果】
座位姿勢は条件 F では条件 N と比較して,股関節屈曲角度および骨盤前傾角度は有意に低値を示し,体幹屈曲角度は有意に高
値を示した
(p<0.01)
。条件 N では LP と GM の動作 10% 区間積分値の変化量と開始時の左外果を原点とした COM の前後方向
0.89,p<0.01,r=!
0.85,p<0.01)。一方,条件 F では開
の距離(以下,COMy 距離)との間に有意な負の相関を認めた(r=!
0.74,p<0.05,
始時の COMy 距離の変化量は,LP の 10%,20% 区間積分値の変化量との間に有意な負の相関を認めたが(r=!
r=!
0.74,p<0.05),GM の 10%,20% 区間積分値との間に有意な相関は認めなかった。
【考察】
条件 N では動作開始時の COM が外果から近くなるほど,つまり COM が対象物から遠くなるほど,LP および GM の活動量は
増加することが示された。対して条件 F では,COM が対象物から遠くなるほど,LP のみの活動量がより長い区間で増加するこ
とが示された。一般に Lifting 初期は股関節伸展を主とした運動であり,GM の関与が大きい。しかしながら,条件 F では,条
件 N とは対照的に Lifting 初期において GM の活動量は変化しなかった。つまり,GM が弛緩する肢位となる屈曲座位後の Lifting 初期では,GM の活動量が LP によって代償されていたためであると考えられる。以上のことから,屈曲座位後にそのまま
Lifting 動作を行うことは,LP の活動を増加させ,腰痛の発症と増悪のリスクを高めることが考えられる。したがって,このよ
うな腰痛の予防戦略として,屈曲座位後においては,LP の代償的な活動を抑制するために,Lifting 前に GM を適切に賦活させ
ることが重要であることが示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
本研究は,職業性腰痛の予防策を示し,罹患者およびそのリスクの高い者への,適切な動作および生活習慣の構築の指導に関し,
理学療法士の介入の有用性を示した点で意義がある。