講義ノート

第一回 力のモーメントと角運動量
物理学講義 I
2014 年 4 月 15 日
1
力のモーメント
回転運動の一つの例として、図 1(a) のような天秤の釣り合いについて考えよう。支点 O から l1 、
l2 の地点におもりがのせられており、それぞれが重力 F1 、F2 により下方に引かれている。このと
き、おもり 1,2 はそれぞれ天秤を左回り、右回りに回転させる能力を持っており、
N ≡ Fl
(1)
この物理量を定義しておけば物体をある点の周りに回転させるための能力(ポテンシャル)を定
義でき、これが等しい時に物体は力学的に釣り合っているということができる。つまり、物体に働
く力の釣り合いを議論する時に便利である。この物理量に力のモーメントまたはトルクという名前
をつけておこう。単位は、[N·m] であり、次元は(ポテンシャル)エネルギーと同じである1 。
l2
l1
l2
O
l1
O
F 2’
θ
F2
F1
F1
(a)
(b)
図 1: (a) 天秤の釣り合いと (b) うでの曲がった天秤の釣り合い。
天秤の片一方のうでが図 1(b) のように角度 θ だけ曲がったとすると、釣り合いを保つために加
0
0
える力 F はどれだけの大きさになるだろうか。支点から力 F2 の力の作用線までの距離は l2 cos θ
であるから、
F 1 l1
0
∴ F2
0
= F2 l2 cos θ
F2
F1 l1
=
> F2
=
l2 cos θ
cos θ
(2)
(3)
となり、図 1(a) の天秤の右側にかける力 F2 よりも大きな力が必要となる。
本来は力はベクトル量であるから、力のモーメントもベクトル量である。そこで、力のモーメン
トの成分を力の成分で表しておこう。ベクトル量であるということは方向があるので、向きの符号
1 単位 [N·m] は仕事の単位 [J](ジュール)と同じだが、トルクと仕事は全く異なる量なので、トルクの大きさを表すと
きは [J] は用いない。
1
を定義しておこう。ここでは時計方向に回転させようとする場合は−、時計と逆方向に回転させよ
うとする場合は+と約束する。
Y
Fy
F=(Fx,Fy,0)
y
Fx
r
x
O
X
図 2: xy 平面上で力を受ける質点。
図 2 のように xy 平面上で力 F = (Fx , Fy , 0) を受け回転軸(z 軸)のまわりを回転する質点を考
える。質点の位置を r = (x, y, 0) とすれば、力 F の x 方向の成分 (Fx , 0, 0) のモーメントは −yFx 、
y 方向の成分 (0, Fy , 0) のモーメントは −xFy となるので、力 F のモーメントは、
N = xFy − yFx
(4)
となる。同様にして、質点が yz 平面上を運動すれば力のモーメントは N = yFz − zFy 、zx 平面
上を運動すれば N = zFx − xFz となるだろう。
一般に質点が3次元空間の位置 r = (x, y, z) にあり、力 F を受けて原点周りを回転しているとき
の力のモーメントは、ベクトル積を用いて次のように表される。
N = r × F.
(5)
力のモーメント N の各成分は、
Nx
= yFz − zFy
(6)
Ny
= zFx − xFz
(7)
Nz
= xFy − yFx
(8)
となる。
¶
³
問 1:トルク N = r × F は、r と F が作る面内に成分を持たないことを示しなさい。
問 2:位置 r = (3.0m)i + (4.0m)j にある粒子に力 F = (−8.0N)i + (6.0N)j の力が働いている。
(a) この粒子に働く原点のまわりのトルクはいくらか?(b)r と F の間の角はいくらか?ただ
し、i と j はそれぞれ x、y 方向の単位ベクトルである。
µ
2
´
角運動量の導入
前章で導入した力のモーメントは質点を回転軸の周りに回転させる能力を表し、天秤のような物
体の釣り合いを議論する時に便利な量であることがわかった。xy 平面上を回転軸 O の周りに回転
2
運動する質点 P を考える(図 3)。質点 P の質量は m で、速度 v で運動しているとすれば、質点
P は p = mv の運動量を持っていることになる。
p=mv
y
φ
r
d
0
x
図 3: xy 平面上で運動量を持って運動する質点。
ここで、力のモーメントの定義(式 (4))において、力の部分を質点の運動量に変更した次の量
を考えよう。
L = mvd = mvr sin θ.
(9)
ここで φ = π/2 なら円運動になる。d は運動量ベクトルを延長した線までの距離であり、円運動な
ら r に等しい。この量は運動量のモーメントになっており、回転運動の勢いを表す量と考えること
ができる。この量のことを角運動量と呼ぶ。
3次元の場合には角運動量を一般的に
L = r × p = r × mv
(10)
書くことができ、その各成分は
Lx
=
m(yvz − zvy )
(11)
Ly
=
m(zvx − xvz )
(12)
Lz
=
m(xvy − yvx )
(13)
となる(確かめよ)。
¶
³
問 3:原点のまわりに半径 r、角速度 ω で等速円運動している質量 m の、原点まわりの角運
動量の大きさは
L = mr2 ω
(14)
となることを示せ。
µ
¶
この回のまとめ
´
³
• ある点の位置ベクトルとそこに働く力のベクトル積を力のモーメントといい、物体を回
転させる能力を現す。
µ
• 運動量のモーメントを角運動量といい、回転運動の勢いを現す。
3
´