第 49 回日本理学療法学術大会 (横浜) 5 月 31 日 (土)16 : 40∼17 : 30 ポスター会場(展示ホール A・B)【ポスター 神経!発達障害理学療法 5】 1307 発達に伴う乳幼児歩行の運動力学的特徴 推進機能に着目して 田邉 紗織,大田 瑞穂,長田 悠路,渕 雅子 誠愛リハビリテーション病院 key words 乳幼児歩行・推進機能・三次元動作解析 【はじめに,目的】一般的に,乳幼児は生後 1 年で歩行動作が可能となるが,成熟した歩行パターンの獲得には 3 年を要すると いわれている。成熟した歩行パターンが獲得されるまでの発達的変化を詳細に分析することにより,安定した歩行に必要な因子 とその獲得過程が明らかになると考えられる。今回,健常乳幼児 1 例を対象に,1 歳 1 ヶ月から 2 歳 5 ヶ月までの歩行の運動力 学的特徴を縦断的に調査し,特に推進機能の発達に着目して分析を行ったのでここに報告する。 【方法】対象は,健常女児 1 名とした。独歩での自由歩行を三次元動作解析装置(VICON MX13 カメラ 14 台) と床反力計 (AMTI 社製)6 枚を用いて計測した。調査期間は,数歩の独歩が可能となった 1 歳 1 ヶ月(以下 A)から開始し,以後,1 歳 4 ヶ月 (以下 B) ,1 歳 6 ヶ月(以下 C) ,1 歳 10 ヶ月(以下 D) ,2 歳 1 ヶ月(以下 E) ,2 歳 5 ヶ月(以下 F)の計 6 回の計測を行った。 分析対象は 1 歩行周期における単脚支持時間,step length,上下方向の重心位置,床反力の前後方向成分 (以下 Fy),股・膝・ 足関節の関節角度とした。また,調査期間中に可能となった粗大運動を聴取した。 【倫理的配慮,説明と同意】本研究は当院倫理委員会の承認を受け,対象者とその家族に紙面と口頭で研究内容の説明を行い, 同意を得て実施した。 【結果】対象は,A で数歩の歩行が可能となり,B では自宅内での移動方法が四つ這いから歩行に変化した。また,D では小走 りが可能となり,E では手繋ぎで 1 足 1 段の階段昇降が,F ではジャンプが可能となった。1 歩行周期における単脚支持時間の 比率は,A : 33.2%,B : 31.1%,C : 36.0%,D : 36.9%,E : 34.5%,F : 38.9% であった。step length(身長比)は,A : 5.7%,B : 21.8%,C : 29.2%,D : 28.4%,E : 35.3%,F : 36.5% であった。立脚期の重心位置 (身長比) の最高値は,A : 46.4%,B : 46.0%, C : 46.0%,D : 48.4%,E : 48.3%,F : 50.0% であった。Fy は,A では大きな前後方向成分の変化は認められなかった。B 以降に おいては,立脚初期に後方成分,立脚後期には前方成分のピーク値を示し,その値は B (0.89N! kg,0.62N! kg) ,C(1.85 N! kg, 0.45 N! kg) ,D(1.93 N! kg,1.10 N! kg) ,E(1.88 N! kg,1.16N! kg) ,F(1.40N! kg,1.49N! kg)であった。関節角度は,A の立 脚初期において股・膝関節の軽度屈曲と足関節の底屈を認め,立脚中期においては股・膝関節屈曲角度と足関節背屈角度の増 大を認めた。B では,立脚初期において足関節底屈角度の減少を認め,立脚中期∼後期においては股・膝関節屈曲の減少を認め た。C では,立脚初期においてさらなる足関節底屈角度の減少と膝関節屈曲角度の増大を認め,立脚中期∼後期においては股関 節の屈曲角度がさらに減少した。D では,立脚中期∼後期において股関節屈曲角度の減少と足関節背屈角度の増大を認めた。E では,立脚初期において股・膝関節屈曲角度の減少を認め,立脚中期∼後期においては股関節伸展角度の増大・膝関節屈曲角度 の減少・足関節背屈角度の増大を認めた。F では,立脚初期において膝関節の伸展を認め,立脚中期においては膝関節屈曲角度 の減少を認めた。 【考察】歩くことを学習するためには,最初の段階(歩行開始後 3∼6 ヶ月後)でバランスの制御を学び,次の段階(歩行開始後 5 年間)で歩行パターンが漸進的に改良されると言われている。本研究では,独歩開始後 3 ヵ月となる B において立脚中期∼後 期の股・膝関節の屈曲角度が減少し,Fy の前後方成分が出現したことから,前方推進機能が向上したと考えられ,結果として step length が拡大したと思われる。C では立脚初期における足関節底屈角度の減少とともに,膝関節屈曲角度と Fy の後方成分 の増大が認められたため,double knee action による衝撃吸収機能が獲得された時期であると考えられる。さらに,立脚中期∼ 後期における股関節の伸展運動が増大したことから,単脚支持時間の比率と step length が拡大したものと思われる。また,D 以降は自立歩行開始後 9 ヶ月∼1 年 4 ヶ月経過した時期となるため,歩行パターンが改良される時期にあると思われる。本研究 では,立脚初期における股・膝関節屈曲角度が減少し,立脚中期∼後期における股関節伸展角度・足関節背屈角度の増大ととも に,Fy の前方成分が増大したことから,推進機能がさらに発達し,重心位置の向上と単脚支持時間の比率,step length の更な る拡大に寄与したものと思われる。 【理学療法学研究としての意義】今回,三次元動作解析装置を用いて,乳幼児の歩行獲得過程を縦断的に調査し,特に推進機能 の発達について考察した。今後も継続して調査を行い,詳細な運動力学的特徴を分析することで,成熟した歩行の獲得に必要な 因子が明らかとなり,理学療法プログラムの立案に寄与するものと考える。
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