子宮筋腫,子宮腺筋症に対する Gn―RH agonist sequential 療法の検討

170 日エンドメトリオーシス会誌
; :
−
〔一般演題/薬物治療
〕
子宮筋腫,子宮腺筋症に対する Gn―RH agonist sequential 療法の検討
金沢医科大学医学部産科婦人科学講座
高木
弘明,山口
笹川
緒
直孝,坂本
人一,藤田
寿之,牧野田
言
智子
知
毎,治療効果は子宮体部前後径(治療前後)
,
Gonadotropin releasing hormone agonist(以
CA
濃度(治療前後)
,副作用は腰椎骨密度
下 Gn―RH agonist)は子宮筋腫および子宮内
DEXA(dual-energy X-ray absorptiometry)法
膜症(子宮腺筋症)に対し,優れた治療効果を
による BMD(bone mineral density)測定(治
示す反面,顕著にエストロゲン分泌を抑制する
療前後)
,骨型 ALP(alkaline phosphatase)濃
ため,卵巣欠落症状や骨密度の減少を引き起こ
度(治療前後)
,卵巣欠落症の程度(治療毎)
すことが知られている.わが国では投与期間が
を測定記録した.統計処理は Mean±SD もし
ヵ月間と制限されている薬剤であり,そのた
め,治療として用いられる方法は安全に手術を
くは Mean±SE で表記し,
は Mann-Whitney’s U test で検定した.
行うための腫瘍縮小効果を狙った手術前投与法
や,閉経期に近い 歳前後の女性に Gn―RH agonist を投与し腫瘍を温存したまま閉経期に移
成
績
治療成績として子宮体部前後径の縮小率は A
群 .%,B 群 .%,P= . ,
行させる閉経逃げ込み療法などが主に行われて
意差は認めなかった(図
いる.
はA群
今回われわ れ は,Gn―RH agonist 投 与 に お
いて治療効果を保持したまま,副作用である卵
群間の平均の差
.%,B 群
)
.CA
の低下率
.%,P= . ,
に有意差は認めなかった(図
(以下 E )値の
群間に有
群間
)
.平均 estradiol
群間の経時的変化は投与 週
巣欠落症状および骨密度減少の軽減を目的とし
で P= . , 週 で P= . , 週 で P= .
て,エストロゲン分泌抑制の軽度な buserelin
と 週以降で A,B 群の間に有意傾向を認めた
徐放性注射製剤を他の Gn―RH agonist と併用
(図
)
.Sequential 療法 (goserelin/buserelin)
の E 経時的変化において 例中
した療法について検討を行った.
例(症 例
, )が投与 週において大きく E 値が跳
対象と方法
本研究に対し informed consent が得られた
前治療がない子宮筋腫・子宮腺筋症患者 例を
対象とした.Leuprorelin . mg 単独 投 与 群
(A 群:n= )と(goserelin .mg
erelin .mg
n= )を
回)sequential 投与群(B 群:
週間ごとに合計
象の背景を表
回,bus-
Gn―RH
agonist
の 群比較
Gn―RH agonist 群間の背景
A群
leuprorelin
B群
goserelin/
buserelin
P value
回投与した.対
診断名
子宮筋腫 例 子宮筋腫 例
(症例数) 子宮腺筋症 例 子宮腺筋症 例
群に分け,治療
年齢
(M±SD)
.± .
.± .
P= .
BMI
(M±SD)
.± .
.± .
P= .
に示す.
方法は対象を無作為に下記
表
を行い各検討項目の調査を行った.検討項目は
卵巣機能抑制効果として E 濃度を治療
週間
子宮筋腫,子宮腺筋症に対する Gn―RH agonist sequential 療法の検討 171
SIZE縮小率(P=0.60)
SIZE
[mm]
18.5%
160.0
CA125低下率(P=0.50)
CA125
[U/ml]
15.4%
120.0
53.5%
45.0%
100.0
120.0
80.0
80.0
40.0
104.7
118.5
40.0
82.1
59.5
25.5
0.0
24wL
before
24wL
before
77.9
20.0
0.0
21.2
A群
CA
図
子宮体部前後径の変化(Mean±SE)
Tumor lesions : direction measurement
24wL
before
24wL
before
B群
A群
図
60.0
137.0
B群
の変化(Mean±SD)
Carbohydrate antigen ; CA―
CLEIA
(chemi-luminescent enzyme immuno-assay)
A群
E2pg/ml
B群
180.0
150.0
120.0
P=0.08
90.0
P=0.04
60.0
P=0.11
30.0
0.0
before
4w
8w
12w
16w
20w
24w
A群
95.7
17.8
12.9
17.5
13.7
12.6
12.2
B群
177.9
11.7
12.6
14.8
73.2
39.8
24.3
群間の経時的変化(平均 E )
Electro chemiluminescence immunoassay(ECLIA);ECLusys E
reagent
図
Roche Diagnostics Japan
E2pg/ml
700
No.11
600
No.12
500
No.13
No.14
400
323
300
No.15
No.16
253
No.17
200
110
100
23
No.18
100
No.19
22
No.20
0
before
図
ね上がった(図
4w
8w
12w
)
.
骨密度減少率は A 群 . %,
B 群 . %,P= . と有意差は認めなかった
(図
16w
20w
24w
Sequential 療法(goserelin/buserelin)の E 経時的変化
)
.骨 型 ALP の 増 加 率 は A 群 .%,B
群 .%,P= . と有意差を認めなかった(図
)
.Gn―RH agonist 投与における卵巣欠落症
は A 群が 例中
例( %)に中等 度 以 上 の
症状を認め,約
週から 週まで続いた.一方,
B 群は 例中
例( %)に中等度以上の症状
172 高木ほか
BMD減少率(P=0.38)
BMD
[g/cm2]
4.45%
BAP増加率(P=0.55)
BAP
[µg/l]
3.05%
1.200
15.9%
20.0
10.3%
16.0
0.900
0.600
12.0
1.119
1.072
1.071
1.038
0.300
16.7
13.3
before
A群
24wL
before
24wL
0.0
before
B群
骨密度の変化(Mean±SE)
Dual-energy x-ray absorption(DEXA)method
図
―
lumbar vertebrae bone mineral density
(BMD)
No.
1
2
3
4
5
6
7
8
9
1
Age
40
46
43
49
43
51
44
48
56
54
BMI
27.0
37.8
23.0
22.1
25.6
19.4
23.2
21.6
20.2
28.0
before
−
−
−
−
−
−
−
−
−
−
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
44
42
53
42
48
54
48
49
51
48
18.5
22.7
24.1
33.3
36.2
28.0
19.7
21.4
27.7
18.4
−
−
−
−
−
−
−
−
−
−
図
A群
24wL
B群
骨型 ALP の変化(Mean±SE)
Bone Specific Alkaline Phosphatase;BAP
CLEIA
(chemi-luminescent enzyme immuno-assay)
Alone
(leuprorelin)
4w
8w
12w
−
+
+
−
−
−
+
+
+
−
−
−
−
−
−
−
±
±
+
+
+
−
−
−
+
+
++
−
+
+
Sequential(goserelin/buserelin)
−
+
+
−
±
±
−
−
−
−
++
++
−
−
−
−
−
−
−
−
−
−
++
++
−
−
−
+
−
+
16w
+
−
+
−
−
±
+
±
++
+
20w
+
−
+
−
−
±
+
±
++
+
24w
+
−
+
−
−
±
+
±
++
+
+
±
−
+
−
−
−
+
−
±
−
−
−
−
−
−
−
±
−
±
−
−
−
−
−
−
−
±
−
−
卵巣欠落症状
Ovarian deficiency symptom ±=weak,+=medium,++=heavy
は
erelin 投与時には症状が軽減した(図
く,不正出血の頻度は
)
.
察
おいて卵巣欠落症状は
週から増加し, 週がピークで出現率は高
回投与群( 例)に
週から増加し, 週が
Sequential 療法投与症例として合阪ら〔 〕
は,
leuprorelin . mg
回,buserelin .mg
回投与群( 例)と goserelin .mg
ピークで出現率は後述する leuprorelin 投与群
erelin .mg
/ ( .%)
,
巣欠落症状は
より低く,不正出血の頻度は
/ ( .%)
,BMD 減
少率 .%と報告している.
Gn―RH agonist 単独投与症例として合阪ら
〔 〕は buserelin .mg
24wL
before
を認めたが, 週から 週にピークを迎え,bus考
11.6
10.3
4.0
0.000
図
8.0
回投与群(
回,bus-
例)において卵
週がピークで,以降減少傾向を
/ ( .%)と報
BMD 減少率 .%であった.Leuprorelin .
示し,不正出血の頻度は
mg
告している.石原ら〔 〕
は,leuprorelin . mg
回投与群( 例)において卵巣欠落症状
子宮筋腫,子宮腺筋症に対する Gn―RH agonist sequential 療法の検討 173
(leuprorelinacetate)
によっては切り替え時期に Gn―RH agonist の
作用が
A群
週間維持できない可能性も考えられ
る.し か し,裏 を 返 せ ば,Gn―RH agonist の
血中濃度が低くなることから卵巣欠落症状の軽
Implant(goserelinAcetate) particle(buserelinacetate)
減につながることが理解される.Sequential 療
法における投与
B群
回の分担について良い投与法
は,腫瘍縮小効果を優先するか,また,副作用
軽減を目的にするかにおいて
/ ,
/ 回
を選択すればよいと考える.
図
Gn―RH agonist 製剤による血中濃度推移(約
週間)
森 宏 之:GnRH ア ナ ロ グ 療 法 の 課 題 Pharm
より改変.
Med
; : ―
結
論
Sequential 療法と 単 独 療 法 の
て,CA
群間におい
低下や腫瘍縮小効果に有意差は認
めず治療の有効性に差はなかった.副作用とし
回,buserelin .mg
回投与群(
例)に
おいて卵巣欠落症状は ∼ 週で / ( .%)
を認め,以降は無症状,不正出血の頻度は
/
て起こる卵巣欠落症状は buserelin 投与時より
エストロゲンの減少が緩徐になり改善された.
Sequential 療法は単独療法より骨密度減少が軽
( .%)と報告している.
減傾向であり,骨型 ALP 変化が少ないことか
これに対し,われわれの研究では Leuprorelin
ら従来のリュ ー プ ロ レ リ ン 単 独 投 与 法 よ り
単独群と Sequential(goserelin/buserelin)群に
QOL の向上に良い治療法と思われた.
おいて骨密度減少率および骨型 ALP 増加率に
有意差は認められなか っ た が,BMD は A 群
. %,B 群 . %,骨型 ALP は A 群 .%,
B 群 .%と sequential 療法において骨量減少
の軽減傾向を示した.
Sequential 療法の 週において大きく E 値
が跳ね上がった症例に関して,森〔 〕が Gn―
RH agonist 製剤による約
移を述べている(図
週間の血中濃度推
)
.Leuprorelin や gosere-
lin の高い血中濃度を維持する製剤に対し,buserelin は
週間の血中濃度の低下が早く,症例
文
献
〔 〕合阪幸三ほか. 種類の Gn―RH agonist 徐放性注
射製剤の臨床効果の比較―血中各種ホルモン動態
からみた評価―.産と婦
; : −
〔 〕合阪幸三ほか.副作用の軽減を目的とした GnRH
agonist の新しい投与法の開発.HORMONE FRONTIER IN GYNECOLOGY
; : −
〔 〕石原 理ほか.子宮内膜症および子宮筋腫に対す
る GnRH アゴニスト製 剤 使 用 上 の 新 た な 工 夫.
HORMONE FRONTIER IN GYNECOLOGY
;
: −
〔 〕森 宏之.GnRH アナログ療法の課題.Pharm Med
; : −