ヘリウムを含有する天然ガスに関する調査

平成25年度石油産業体制等調査研究
ヘリウムを含有する
天然ガスに関する調査
報告書
平成26年3月
要
旨
〇世界のヘリウム供給を支える米国の供給が減少
米国のヘリウム生産量(備蓄払出量を含む)は、2012年時点で世界生産量の約76%を
占めている。しかしながら、2013年10月に新たに2013年ヘリウム管理法が制定された
ことにより、備蓄払出方法に大きな変化が生じている。今後、払出量が減少する可能
性が高い上に、少なくとも2021年9月までに民間企業向けの払出は終了する見込みであ
る。さらに、2015年からオークション制度が導入されることで払出価格が上昇する可
能性が高い。その上、ヘリウムを含むガス田の一部は枯渇しつつあり、2020年頃まで
に天然ガスからのヘリウム生産量も大きく減少することが予想される。
〇米国以外の供給は増加するが、米国の供給減は補えない
米国以外では、カタール、アルジェリア、ポーランド、オーストラリア、ロシアで
ヘリウムが生産されている。これまで、米国以外のヘリウム生産量は限定的であった
が、2013年に世界最大のヘリウム精製工場である通称カタールIIが稼働を開始したこ
とにより、今後大きく生産量を伸ばす見込みである。一方、カタールに次いで生産量
の大きいアルジェリアでは、過去のLNGプラント事故やパイプラインによる天然ガス輸
出の増加等によって、LNGの生産量が減少し、その結果としてヘリウムプラントの稼働
率が低迷している。ただし、2014年に新規LNGプラントが立ち上がることで、一部のプ
ラントでは今後稼働率が回復することが期待される。
一方、新規プロジェクトは、2018年以降に生産を開始する可能性がある東シベリア
を除き小型のプロジェクトしか計画されていない。また、東シベリアにおける開発プ
ロジェクトもロシアの天然ガス輸出計画に左右されることから、遅延する可能性が高
い。以上を鑑みると、米国以外の供給量は増加するものの、2010年代後半において米
国のヘリウム供給量減少を補うことはできないと予想される。
〇今後の需要は拡大する見通し
ヘリウムは、MRI、光ファイバー、半導体、リークテスト等の分野で使用されている。
世界全体のヘリウム需要はこれまで3∼4%程度で拡大してきたが、近年のヘリウムの供
給不安や価格高騰により、今後はこれまでよりも需要の伸び率が減少する可能性があ
る。しかしながら、各用途の大部分では代替・削減や回収・再利用が困難であること
から、現時点の価格水準が維持されるならば、今後もヘリウム需要は拡大すると予想
される。
分野別には、世界最大のヘリウム需要分野であるMRIでは、ヘリウム補充量を減少さ
せることができる高性能な冷凍機を搭載したMRIが普及しつつあり、1台あたりのMRIに
使用するヘリウム量は減少する可能性がある。一方、世界的なMRI設置台数は急激に増
加していることからヘリウム需要量は拡大していくと予想される。光ファイバーや半
導体用途では、冷却ガスや雰囲気ガス等の目的で、いつくかの生産プロセスでヘリウ
ムが使用されている。その中の一部では、ヘリウムを削減できる可能性があるが、生
産効率の観点から大部分のプロセスではヘリウムを削減することが難しい。また、不
純物が混入しやすいため、回収・再利用することも難しい。リークテスト分野でも、
ヘリウムを代替する有望なガスがなく、大部分の小規模ユーザーでは回収・再利用す
ることが困難であることから、精密な試験にはヘリウムが使用され続けると見られる。
〇2010年代後半に需給逼迫の可能性が高い
上記で示した供給及び需要の見通しを鑑みると、短期的にはカタールIIの供給によ
り世界需給は安定するが、2010年代後半に需給逼迫が発生する可能性が高い。また、
短期的に見てもヘリウムは備蓄しにくいという性質を持つことから、生産や流通面で
何らかの障害が発生した場合、ただちに需給逼迫に陥る危険性がある。
〇ヘリウムの引取権確保や流通を安定化させる仕組みが重要
ヘリウムは天然ガスの随伴ガスとして産出する。ロシア、カタール等の天然ガス資
源国では、政府系企業が資源開発を担っている。このため、政府の外交的支援によっ
て、日本企業の引取権の確保を支援していくことは有効であると考えられる。
また、たとえ需給状況が安定していたとしても、今後も生産や流通における突発的
な障害が発生する可能性は十分にある。緊急時にサプライヤー間で連携して、相互融
通を行う仕組み作りや、ヘリウム充填設備の強化を通して、たとえ1つのソースが途絶
したとしても、特定の需要家に影響が波及しにくい体制を整えることが重要であると
考えられる。
〇需要家の省資源・リサイクル設備の導入も同時並行で
各ヘリウム需要分野では、代替ガスまたは生産プロセスの改善等によって、ヘリウ
ムの使用量を削減できる可能性や、使用したヘリウムを回収・再利用できる可能性が
ある。
一部の分野では、すでに技術的に削減・代替技術や回収・再利用システムが確立し
ているものの、経済性の観点から導入が困難な場合もある。また、高温超伝導技術の
ように実用化すればヘリウム削減に与える効果は大きいが、現時点では技術的に困難
である技術もある。以上から、省資源・代替・リサイクル技術の開発及びそれら技術
の普及を支援していくことが重要であると考えられる。
また、こうような取組を促進するためにも、日本政府が、ヘリウムの需給動向や供
給リスクに関しての情報収集を継続的に行い、産業界全体に周知していくことが重要
であると考えられる。
目 次
I. 調査の背景と目的 ............................................ 1
I-1.
調査の背景 ...................................................... 1
I-2.
調査の目的 ...................................................... 2
I-3.
調査の実施内容 .................................................. 2
II. ヘリウムの供給分析 ......................................... 3
II-1.
世界におけるヘリウムの全体像 .................................. 3
1. ヘリウム供給に関する基礎情報 ...................................... 3
2. 過去の需給逼迫事例 ................................................ 7
II-2.
米国からのヘリウム供給見通し ................................. 11
1. 米国におけるヘリウム生産の概要 ................................... 11
2. ヘリウムの備蓄及び払出制度 ....................................... 12
3. 天然ガスからのヘリウム生産 ....................................... 28
4. 米国における今後の供給見通し ..................................... 37
II-3.
米国以外からのヘリウム供給見通し.............................. 38
1. 米国以外のヘリウム生産の概要 ..................................... 38
2. 既存生産国における生産動向 ....................................... 39
3. 新規生産国の生産可能性 ........................................... 46
4. 米国以外における今後の供給見通し ................................. 50
II-4.
今後の供給見通し ............................................. 51
III. ヘリウムの需要分析 ....................................... 52
III-1.
世界におけるヘリウム需要の全体像.............................. 52
1. ヘリウム需要に関する基礎情報 ...................................... 52
III-2.
主要用途における需要分析 ..................................... 55
1. MRI ............................................................. 55
2. 半導体 ........................................................... 67
3. 光ファイバー ..................................................... 77
4. リークテスト ..................................................... 88
5. その他 ........................................................... 97
III-3.
今後の需要見通し ............................................. 98
IV. 今後の需給分析 ............................................ 99
IV-1.
今後の見通し ................................................. 99
IV-2.
今後の調達リスク ............................................ 101
1. 短期的な調達リスク .............................................. 101
2. 中長期的な調達リスク ............................................ 101
V. 我が国のヘリウム安定調達に関する政策課題及び提言 ........... 102
VI. 参考資料 ................................................. 104
VI-1.
2013年ヘリウム管理法(仮訳) ................................ 104
I.調査の背景と目的
I-1. 調査の背景
ヘリウムは、あらゆる物質のなかで最も沸点が低く熱伝導性が高いことや他の
物質と反応しない不活性物質であることから、 MRI の超伝導磁石の冷却、光フ
ァイバー・半導体の製造、自動車用部品のリークテスト等、我が国が強みを有す
る産業で使用されている。これらには代替することが難しい分野や、ヘリウムを
使用しなければ製品を製造することができない分野もあり、我が国の産業界にと
って重要な物質となっている。
ヘリウムは天然ガスに含有されているものを分離・精製して生産している。し
かしながら、採算性の観点からヘリウム単独での採掘が行われることはなく、天
然ガス採掘時の随伴品として生産されており、その供給量は天然ガスの生産状況
に大きく左右される。
現在、世界のヘリウムの約8割は米国における備蓄払出しと天然ガスからの分
離によって供給されており、我が国は、国内需要の 98%(2012 年)を米国から
の輸入に依存している。しかしながら、米国においては、ヘリウムガス田の産出
量減少、施設老朽化による供給トラブルの多発、備蓄量の減少といった諸問題が
発生している。また、米国以外における新規生産も拡大しているものの、その量
は限定されているのが現状である。
一方、新興国における MRI の設置台数の増加や光ファイバーによる通信イン
フラの整備の拡大によって、世界全体のヘリウム需要量は増加傾向にあり、中長
期的にヘリウムの需給逼迫の可能性がある。
上記の状況を鑑みて、世界におけるヘリウム需給の現状及び今後の見通しを把
握し、我が国産業の安定的な経済活動を維持するため、適切な施策を実施してい
く必要性が生じている。
1
I-2. 調査の目的
本調査は、米国等の既存の生産国及び新たな供給源における天然ガスから分
離・精製されたヘリウムの生産量及び世界的な需要等について調査を行うことに
よって、我が国産業へ影響を及ぼさないための戦略的な資源確保に資するものと
する。
I-3. 調査の実施内容
本調査では、以下に示す項目について調査分析を実施した(図表 1)。
図表 1
調査の全体像
供給予測
①米国における天然ガスから生産されるヘリウムの供給について
 米国におけるヘリウムの備蓄及び払出制度
 BLMの払出量の実績及び今後の予測
 民間企業による天然ガスから分離した粗ヘリウム 生産量の実績及び今後の
予測
②グローバル市場における天然ガスから生産されるヘリウムの供
給について
 既存生産国における生産量の実績及び今後の予測
 新規生産国の生産可能性
とりまとめ
④強じんな生産体制構築への課題
 供給側の課題と対策
 需要側の課題と対策
需要予測
③グローバルマーケットにおける需要量の推移について
 グローバルマーケットにおける需要量の実績と今後の予測
2
II.ヘリウムの供給分析
II-1.
1.
世界におけるヘリウムの全体像
ヘリウム供給に関する基礎情報
(1)生産量
ヘリウムは、空気中にわずか0.0005%(5ppm)程度しか存在しないことから、
比較的含有量の多い天然ガスの副産物として生産されている。
米国地質調査所(USGS:United States Geological Survey)によれば、世界
のヘリウム生産量は1.74億m3(2012年実績)で、長期的に増加傾向にある。
生産国の内訳を見ると、米国、カタール、アルジェリア等の一部の国に限られ
ている。これは、ヘリウムを多く含む天然ガス田が限られているためである。
1990年代半ばまでは、米国が世界生産量のほとんどを占めていたが、その後ア
ルジェリアやカタール等でも生産が開始されている。しかしながら、2012年時
点でも世界供給の76%を米国に依存している。
図表 2
世界のヘリウム生産量の推移
(億m3)
2.0
1.5
1.0
0.5
0.0
米国(備蓄払出)
米国(天然ガス)
カタール
アルジェリア
その他
(注)2013年は見込み値。
(資料)US Geological Surveyより三菱UFJリサーチ&コンサルティング作成
3
(2)埋蔵量
天然ガスに含まれるヘリウム量はガス田によって大きく異なることから、現在
は比較的ヘリウムを多く含むガス田のみが採算を確保することができる。現在、
ヘリウム生産が行われているガス田には、おおよそ0.5%∼3%程度のヘリウムが
含まれている。
USGSが公表するヘリウムの可採埋蔵量 1を見ると、米国、アルジェリア、ロシ
アを合わせて75億m3となっている。しかしながら、主要生産国であるカタールを
含めて上記3カ国以外の国の可採埋蔵量は不明とされており、世界全体の可採埋
蔵量も正確な値は明らかになっていない。
一方、ベース埋蔵量 2を見ると、世界全体で490億m3 となっている。内訳として
は、米国が41%を占めているものの、カタール、アルジェリア、ロシア、その他
(カナダ、中国、等)にも多くのヘリウムが埋蔵されていることがわかる。
図表 3
世界のヘリウム埋蔵量
(a)可採埋蔵量
(b)ベース埋蔵量
合計490億m 3
合計75億m 3
その他
8%
ロシア
14%
ロシア
23%
アルジェ
リア
24%
米国
53%
アルジェ
リア
17%
米国
41%
カタール
20%
(資料)US Geological Surveyより三菱UFJリサーチ&コンサルティング作成
1
採掘可能な資源のうち、現在の市場価格において技術的・経済的に採掘可能な埋蔵総量(既生産分
は除く)。
2
経済性は考慮せずに、現在の技術で採掘可能な量。
4
(3)日本の輸入量
日本のヘリウム輸入量は2001年頃まで急拡大し、ITバブル後は、1,300万∼
1,600万m 3程度で推移していた。近年は、価格高騰や供給不足等の理由から、輸
入量は急激に減少している。2013年の輸入量は、約1,100万m3と1996年頃の水準
まで落ち込んでいる。
図表 4
日本のヘリウム輸入量の推移
(万m3)
2,000
1,800
1,600
1,400
1,200
1,000
800
600
400
200
0
(注1)ヘリウムの体積は、重量値データをUSGSが公表する101.325 kPa、15℃の条件で体積に換算3
(資料)財務省「貿易統計」より三菱UFJリサーチ&コンサルティング作成
3
USGSでは標準立法フィート(SCF:Standard Cubic Feet)を70°F、 14.7 psiaとしており、1,000
scfを27.737 m 3(15℃、101.325 kPa)に換算している。また、1kg = 213.3 scfである。本報告書
では、これ以降、特に注意書きがない限り、体積は101.325 kPa、15℃の条件で換算している。
5
(4)価格動向
ヘリウム価格は、1990年代半ばから2000年代前半にかけて安定していた。こ
れは、米国土地管理局(BLM:Bureau of Land Management)の備蓄払出が続い
ていたことに起因する。しかしながら、世界需要の拡大、米国における供給量の
不足、BLMの払出価格の上昇等によって、ヘリウム価格は近年急騰している。日
本ではリーマンショック以降、円高が続いていたため、その影響は緩和されてい
たが、2012年末から急速に円安が進んだため、2013年に円建ての輸入価格が急
騰することとなった。
図表 5
精製ヘリウム価格の推移(USGS公表の参考値)
(ドル/m3)
(円/m3)
1,000
10
800
8
600
6
400
日本輸入価格(左軸)
200
4
2
米国USGS推定価格(右軸)
0
0
(注1)日本は輸入CIF(運賃・保険料込み条件)価格、米国はUSGSが公表するGrade Aヘリウム4の市
場推定価格。
(資料)財務省「貿易統計」、US Geological Surveyより三菱UFJリサーチ&コンサルティング
作成
4
USGSによれば、純度99.997%以上の精製ヘリウムとしている。
6
2.
過去の需給逼迫事例
(1)概要
ヘリウムは輸送効率を高めるため、長距離輸送を行う際に液化する必要がある。
しかしながら、ヘリウムは、沸点が-269.8℃とすべての元素の中で最も低いた
め、流通の過程で気化していく。したがって、在庫を多めに持つことが難しく、
一般的に備蓄することが難しい5。
このため、ヘリウムは、生産・流通において障害が発生すると、需給逼迫に陥
りやすいという特徴を持つ。本項では過去の需給逼迫事例を整理する。
(2)事例
①
2002年米国西海岸港湾閉鎖に伴う需給逼迫6,7
2002年9月29日から10月9日まで、米国海岸の主力29港が11日間閉鎖(ロック
アウト)となり、ヘリウムだけでなく様々な製品の物流が停止し、世界の経済活
動に大きな影響を与えた。この背景には、3年毎に更新される港湾荷役労使協定
の改定交渉が不調に終わったことがある。労使協定の改定交渉がまとまらない中、
労働組合側がスローダウン(故意に作業を遅らせること)を行ったのに対して、
経営者側がロックアウトを敢行したとされている。スローダウンで物流が滞って
いたところにロックアウトが重なったため、世界全体の物流に大きな影響が及ぶ
こととなった。当時のブッシュ大統領が24年ぶりにタフト・ハートリー法に基
づく指揮権8を発動したことによって、10月10日以降から荷動きが再開された。
ヘリウムに関しては、日本向けヘリウムコンテナ船数隻に1ヶ月程度の遅延が
生じた。これにより、コンテナ繰りの遅延が発生し、10月末頃に需給逼迫に陥
ったとされている。しかしながら、日本では、ITバブル崩壊により光ファイバ
ー向け需要が大きく落ち込んでいたことから、ヘリウム供給不足の影響は緩和さ
れたようである。
5
米国ではクリフサイド・フィールで備蓄を実施している。これはブッシュドーム(Bush Dome)と
呼ばれる特殊な地層構造を持つガス田にヘリウムを注入することで実現している。
6
ガスレビューNo.515(2002年11月1日号)
7
日本政策投資銀行ロスアンジェルス事務所「2002年米国西海岸湾岸閉鎖が問いかけるもの-国際港
湾機能の重要性とIT化の意味-」(2002年10月)
7
②
2007年米国ヘリウム生産設備トラブルに伴う需給逼迫9
2007年8月にガスメジャーは不可抗力条項(Force Majeure)10を発動し、世界
規模で大幅な供給制限を行った。上記の事態に至った背景は、BLMパイプライン
の故障、Exxon Mobil精製工場の修理等のトラブルが重なったためとされている。
BLMパイプラインに関しては、BLM及び周辺民間企業が設置する配管が老朽化
していることから、たびたびトラブルが発生している。パイプラインは600kmと
大規模な設備であるため、不具合の発生を予測することや定期修理等で未然に防
ぐことが難しい。2007年においては、2006年末に発生したストームによって数
週間に渡り操業が停止したため、需給がタイト化したことに加えて、6月に炭酸
ガス除去装置の故障で一部ラインが停止したことや、7月末に配管の破損で40%
の供給制限が実施されたことによってガスメジャーの供給制限に至ったとされ
ている。
上記に加えて、Exxon Mobilは、設備トラブルから2007年4月から10月頃まで
15%の減産を続けたことで、さらに供給がタイト化したとされている。減産が長
期 化 し た 背 景 に は 、 窒 素 除 去 用 圧 力 ス イ ン グ 吸 着 ( PSA : Pressure Swing
Adosorption) 11 設備、コンプレッサー、粗ヘリウムからの炭酸ガス除去プロセ
ス、等の複数の設備トラブルが重なったことがあるとされている。
③
2011年米国ヘリウム生産設備トラブルに伴う需給逼迫12
2011年も、2007年のときと同様にBLMの供給制限やExxon Mobilの定期修理延
長等が重なり、秋頃に供給がタイトになったとされるが、2007年や2012年より
も影響は軽微だったとされている13。
8
タフト・ハートリー法は、労働組合の活動と勢力を監視する米国連邦法である。同法は、労使紛争
に連邦政府が介入することを目的として、1947年に成立した。ストライキ等が発生し労使紛争の影響
が大きいと判断されるときに、連邦政府が最長80日間の中断命令を行使できる。
9
ガスレビューNo.632(2007年9月15日号)
10
天災や事故等の不測事態が発生し、安定供給が不可能に陥った場合、供給側が一方的にこれを回避
できる条項。欧米のガス供給契約に通例として含まれる。
11
分子レベルで多数の孔が開いた吸着材を用いて成分を分離する方法。ヘリウム、水素、炭酸ガス、
一酸化炭素の精製等に使用される他、空気から酸素と窒素を分離する際にも使用される。ヘリウム分
離法には、PSAの他に深冷分離や膜分離等があるが、PSAは特に粗ヘリウムから高純度ヘリウムを得る
手段として使用される。
12
ガスレビューNo.728(2011年9月15日号)
13
インタビュー調査より。
8
BLMは、2011年初めから、配給制度(アロケーション)を適用していた。この
要因は、保守点検のために粗ヘリウム濃縮設備の稼働を留めた際に、何らかの事
情で予定していなかった設備まで停止した可能性があるとされている。
一方、Exxon Mobilは、8月から約25日間の計画定期修理を実施したが、設備
の修理に時間がかかることが判明したため、10日以上の定期修理の延長を行っ
たようである14。
④
2012年夏∼2013年初頭の需給逼迫
2012年夏頃から2013年初頭にかけて、比較的長期間に渡り、過去に経験した
ことのない需給逼迫が発生した。
まず、2012年夏に米国のBLMとExxon Mobilが相次いで定期修理に入ったこと
で、ガスメジャーの輸出制限通告が発せられた。削減幅は数10%程度とされる15。
その後、Exxon Mobilの定期修理が長引き、10月末に再稼働した後も、立ち上
げ不調により低稼働の状態が続いた。さらにBLMでは、11月頃に精製プラントへ
送ガスするパイピングにおいて圧力が上昇しないというトラブルが発生したこ
とから、20%の減産状態が続いたとされている16。
さらに、物流面においても、米国の主要なコンテナ発着地であるロサンゼルス
港で11月27日からストライキが発生し、港湾機能が停止した。12月4日にストラ
イキが解除されたものの、一部のコンテナの手配遅れ等が発生したとされている
17
⑤
。
米国の法改正に伴う混乱
BLMによる米国の備蓄払出は、後述の通り、1996年に成立したヘリウム民営化
法(Helium Privatization Act of 1996)に基づき、実施されてきた。しかし
ながら、当該法では、ヘリウムを備蓄していた際の負債を完済した財務年度でヘ
リウムの払出を終了し、貯蔵庫とパイプラインの運営を停止すると定められてい
14
定期修理の延長が決まった時点の記事をもとに記述しているため、実際の再稼働時期については不
明。
15
ガスレビューNo.749(2012年8月1日号)
16
ガスレビューNo.757(2012年12月1日号)
17
ガスレビューNo.758(2012年12月15日号)
9
たため、負債の返済が完了した2012年度(2012年10月1日∼2013年9月30日)後、
停止期間も含めても10月7日には運営停止に陥る事態となった18。
米国連邦議会では、運営停止に先立ちヘリウム民営化法を引き継ぐ法案の準備
が進められていたが、上院での法案通過が遅れたことから、運営停止の可能性が
現実化した。9月末時点で、BLMは貯蔵庫の閉鎖準備を進めていたことから、米
国ガスメジャーも新法案の成立が間に合うどうかの判断がつかない状況にあり、
世界中のヘリウム需要家の間でヘリウムの供給不安が高まった。
実際には、2013年9月19日に上院で修正案が通過し、9月25日に下院でさらに
法案の修正が実施された後、9月26日に上院が下院修正案に同意したことにより、
可決することとなった。10月2日には、オバマ大統領の承認を得て、正式に法制
化された。これにより、ヘリウムの備蓄払出が停止する事態は避けられた。しか
しながら、BLMの備蓄払出に依存するヘリウムの供給体制について、世界中で改
めて供給リスクが認識されることとなった19。
18
この事態は、業界内では「財政の崖」に引っ掛けて「ヘリウムの崖(Helium Cliff)」と呼ばれ
ていた。
19
Helium Stewardship Act of 2013 (Public Law 113-40)
10
II-2.
1.
米国からのヘリウム供給見通し
米国におけるヘリウム生産の概要
2012年における米国のヘリウム供給量は、世界生産の約76%を占め、そのうち
の約半分近くをBLMの備蓄払出に依存している。しかしながら、BLMのヘリウム
備蓄量は年々減少しており、今後の米国からの供給減少が懸念されている。
図表 6
世界のヘリウム生産量(2012年、合計1.74億m 3)
その他
24%
米国
(天然ガスから
の分離)
42%
米国
(備蓄払出)
34%
(資料)US Geological Surveyより三菱UFJリサーチ&コンサルティング作成
図表 7
米国のヘリウム備蓄量
(億m 3)
15
1996年:ヘリウム民営化法制定
1999年:払出開始
10
5
0
BLM備蓄量
民間企業在庫(BLMと契約)
(注)民間企業在庫は、BLMが民間企業との契約に基づき、クリフサイード・フィールドに貯蔵して
いるもの
(資料)三菱UFJリサーチ&コンサルティング作成
11
2.
ヘリウムの備蓄及び払出制度
(1)米国のヘリウム政策の変遷20, 21
①
全体の概要
米国のヘリウム政策の変遷を図表 8にまとめた。各時期の詳細については、次
項以降に整理した。
図表 8
米国におけるヘリウム生産・管理の変遷
年
概要
1918 年

第一次世界大戦期にヘリウムガス生産に関する取り組みを開始
1925 年


「Helium Act of 1925(43 Stat. 1110)」を制定
ヘリウムの生産と販売を米国鉱山局に一元化。
1945 年

第二次世界大戦終戦を機に、余剰ヘリウムの備蓄開始(Cliffside)
1960 年


1925 年法を「Helium Act Amendments of 1960(P.L. 86-777)」によって改正
米国鉱山局が国家備蓄を本格化
1996 年


1960 年法を「Helium Privatization Act of 1996(P.L. 104-273)」によって改正
民間企業への備蓄放出を開始
2013 年


1996 年法を「Helium Stewardship Act of 2013(P.L. 113-40)」によって改正
備蓄払出について、3 段階の払出プロセスを導入
(注)P.L.はPublic Law番号、Stat.はStatutes at Large(会期別法令集)番号を示す。
(資料)William J. Nuttall他「The Future of Helium as a Natural Resource」、阪東寛他「大
気圏外に散逸する希少資源ヘリウム」、各法律条文をもとに三菱UFJリサーチ&コンサル
ティング作成
②
ヘリウム生産の開始
米国では、第一次世界大戦期に飛行船用の浮揚ガスとしてのヘリウムの有用性
に関する認識が高まり、既存の天然ガス田からヘリウムを抽出する取組が始まっ
た。1918年にLinde、Air Products等が実験プラントにおいてヘリウム抽出に成
功したのがヘリウム生産の始まりとされている。
第一次世界大戦終結後もヘリウム抽出計画は継続され、1925年にはヘリウム
法(Helium Act of 1925)が制定され、ヘリウムの生産と販売を米国鉱山局
(USBM:United States Bureau of Mines、現在のBLM)に一元化した。
20
21
William J. Nuttall他「The Future of Helium as a Natural Resource」
阪東寛他「大気圏外に散逸する希少資源ヘリウム」
12
第二次世界大戦時にはヘリウム需要が急増し、ヘリウム精製施設の増強が図ら
れた。しかしながら、1945年に第二次世界大戦が終わるとヘリウム需要が縮小
したため、クリフサイド・フィールド(Cliffside Field)における余剰ヘリウ
ムの備蓄が始まったとされている。
③
ヘリウムの本格的備蓄
1960年には、ヘリウム法が改正されて、米国鉱山局による国家備蓄が本格化
した。具体的には、連邦政府が民間企業から粗ヘリウムを購入し、クリフサイド・
フィールドに備蓄できるようにした。このため、米国鉱山局は、クリフサイド・
フィールドと各ガス源を結ぶパイプラインを建設した。同パイプラインは1962
年7月に完成し、米国鉱山局が、国庫から毎年最大4,750万ドルを借り入れ、22
年のテイク・オア・ペイ契約22に基づき、民間企業からヘリウムを購入すること
となった。同プログラムでは、1985年までに520億ft3(約14.4億m 3)のヘリウム
を備蓄する計画となっていた。
1960年法に基づく計画では、需要に応じて備蓄した粗ヘリウムを政府の精製
工場でGrade Aヘリウムに精製し、需要家に販売することによって、運営費、ヘ
リウム購入費用、国家から借り入れた負債の金利をすべて賄う計画となっていた。
しかしながら、この価格が割高であったことや、米国内の需要増が想定よりも伸
び悩んだことから、同プログラムに関する負債は1970年度の終わりまでに2.1億
ドルまで膨れ上がり、1973年11月に粗ヘリウム買取契約を打ち切った。図表 10
に示す実績から、実際に米国政府が現在払出しているヘリウムのほとんどは、
1960年代から1970年代初頭に備蓄されたことがわかる。
22
買い手が売り手に対して、一定金額以上の支払いを約束し、また、一定量の商品、あるいは、サー
ビスの引き取りを無条件で約束する契約のこと(新語時事用語辞典より)。
13
図表 9
クリフサイド・フィールドの構造
(注)赤色は注入井(Injection Wells)から注入されたヘリウムを示す。ヘリウムの注入によりも
ともと存在していた天然ガス(黄色)は押し出される。貯蔵庫の北部・東部はガス水面(Gas Water
Contact)で遮断されており、南部・西部は多孔性尖滅(Porosity Pinch-out)で遮断されて
いる(それぞれ青色)。
(資料) National Academy of Science「Selling the Nation's Helium Reserve」
図表 10
米国におけるヘリウム生産・管理の変遷
(資料)US Geological Survey「Minerals Yearbook 2011」
14
④
ヘリウムの備蓄放出
1980年代から1990年代にかけては、スペースシャトルChallenger号墜落事故
等で米国政府機関向けの需要が落ち込む中、米国以外におけるヘリウム需要の増
加していった。これによって、米国政府機関のヘリウム需要の割合は低下し、連
邦政府がヘリウム事業へ関与する必要性は減少していった。
上 記 の 状 況 を 鑑 み て 、 1996 年 10 月 に は ヘ リ ウ ム 民 営 化 法 ( HPA : Helium
Priviization Act of 1996)が制定され、以下の方針が定められた。
 米国鉱山局は粗ヘリウムの貯蔵・輸送・引出に関する業務及び、それらに関する施設(ク
リフサイド・フィールド及びパイプライン)を維持する。
 法律制定後18カ月以内(1998年4月9日まで)に政府のGrade Aヘリウム生産・精製・販
売業務を停止する。
 上記の停止業務に関連する施設、設備、その他資産のすべてを精製施設閉鎖後の24カ月
以内に処分する。
 2015年までにクリフサイド・フィールドの国家備蓄ヘリウムを、6億ft 3(約1,660万m 3)
残して、一定の量ずつ売却する。ただし、事業負債完済時点で、業務を停止する。
 ヘリウムの払出価格は、各年度当初の事業負債残高を備蓄残量で割った額を、インフレ
率を加味して調整する。
⑤
2013年における法改正
2013 年 10 月 に ヘ リ ウ ム 民 営 化 法 を 引 き 継 ぐ ヘ リ ウ ム 管 理 法 ( Helium
Stewardship Act of 2013)が制定された。当該法の制定背景及び内容について
は、次項で詳述する。
15
(2)2013年ヘリウム管理法の概要
①
背景
前述の通り、ヘリウム民営化法では、ヘリウムを備蓄していた際の負債を完済
した財務年度でヘリウムの払出を終了し、貯蔵庫とパイプラインの運営を停止す
ると定められていたため、負債の返済が完了した2012年度(2012年10月1日∼
2013年9月30日)後、停止期間も含めても10月7日には運営停止に陥る事態とな
った。しかしながら、2012年時点で、BLMの払出量は、世界供給の34%を占めて
いたことや、ヘリウム備蓄が数年分残っていることなどから、法改正を行うこと
でBLMの払出を続けるべきとの意見が産業界等から寄せられていた。
払出延長の必要性に加えて、ヘリウム民営化法の払出プロセスの問題点も顕在
化していたため、払出プロセス全体が見直されることとなった。ヘリウム民営化
法では、前述の通り、市場価格に関係ない価格決定プロセスが導入された。ヘリ
ウムの払出を開始した当初は、払出価格は市価を上回っていたため、大きな問題
にはならなかった。米国科学アカデミー(NAS:National Academy of Science)
が2000年5月に発表したヘリウム民営化法に関する評価レポートにおいても、政
府のヘリウム備蓄の払出はヘリウム市場へ悪影響を与えないと結論づけている
23
。
しかしながら、世界的にヘリウム需要が拡大したことによって、ヘリウム需給
は引き締まり、図表 11に示す通り、払出価格は市場価格を下回る状態が続いた。
これに対しては、BLMが割安価格で払出を続けたことによって米国内のヘリウム
源新設、既存施設の維持管理への投資を阻害した、との指摘もある24。BLMはNAS
に対して2000年の評価レポートのフォローアップを行うように依頼し、米国科
学アカデミーは2010年に新たな評価レポートを発表した。同レポートでは、1996
年ヘリウム民営化法は米国の国益及び納税者の利益を損ねているとして、(1)
払出価格の決定方法の見直し、(2)ヘリウム貯蔵設備の管理の継続、(3)米
国政府機関への優遇価格での供給、の3つが提言されている25。
NASレポートを受けて、2010年にBLMは払出の価格体系を変更した。具体的に
は、米国政府機関向けには最低水準の価格を適用し、民間企業向けには最低水準
の価格にその他すべての経費を上乗せした価格を適用することとなった。
23
24
25
National Academy of Science「The Impact of Selling the Federal Helium Reserve」
阪東寛他「大気圏外に散逸する希少資源ヘリウム」
National Academy of Science「Selling the Nation's Helium Reserve」
16
さらに、ヘリウム払出から得られる収益は米国の納税者利益となることから、
BLMの備蓄払出政策は、米国内務省の監察総監室(OIG:Office of Inspector
General) 26 と、政府から独立した行政評価機関である米国会計検査院(GAO:
Government Accountability Office)からも評価されている。
OIGは、2012年11月に公表したレポートにおいて、BLMの払出価格が市場価格
ではなく、コストによって決められているとし、(1)BLMは内務省鉱物評価室
(OME:Office of Minerals Evaluation)とともに民間企業向けに払出す公平
な市場価格の決定プロセスを開発すること、(2)2013年末までに新規ヘリウム
価格決定プロセスを導入すること、(3)民間企業へのヘリウム売却を管理する
包括的な手続きを作成及び導入すること、を勧告した27。
GAOは、2013年2月に公表したレポートにおいて、1996年ヘリウム民営化法の
制定時と現在では市場環境が変化していること、及び過去のヘリウム備蓄によっ
てできた負債の返済目途が立ったことから、ヘリウム価格の見直しと残りのヘリ
ウム備蓄の活用方法の再検討が必要であることを指摘した28。
NAS、OIG、GAOからの指摘を踏まえて、2013年ヘリウム管理法には、オークシ
ョン制度が盛り込まれることとなった。
26
OIGは連邦政府の各省庁や独立委員会等にそれぞれ設置される行政評価組織である。
Office of Inspector General「Bureau of Land Management’s Helium Program」
28
Gaverment Accountability Office「Helium Program –Urgent Issues Facing BLM’s Storage and
Sale of Helium Reserves」
27
17
図表 11
Grade AヘリウムとBLM払出価格の過去の推移
(資料)Government Accountability Office (GAO)「Helium Program ‒ Urgent Issues Facing BLM's
Storage and Sale of Helium Reserves」
18
②
内容
2013年ヘリウム管理法では、図表 12に示す3つのフェーズ(フェーズDにおい
て設備処分)を導入している。
フェーズAでは、対象期間を2014年(2013年10月∼2014年9月)までとし 29、内
務長官が市場の混乱を最小限にするために必要であると判断した、適正数量、適
正時期、最低価格を下回らない適正価格、その他諸条件で払出されることとして
いる。なお、最低価格は以下の優先順位で決定することしている。
 オークション販売における粗ヘリウムの販売価格30
 適格な国内ヘリウム取引に関して信頼性のある調査が可能で、利益相反のな
い独立した第三者機関が提案する価格及び価格決定のための要素データ
 適格な国内ヘリウム取引として認められる調達、売買、または処理される粗
ヘリウム及び精製ヘリウムの容量加重平均価格31
 粗ヘリウムを精製ヘリウムにするために必要な容量加重平均費用
なお、政府関係機関向けには優先パイプライン・アクセス権が与えられている。
これは、政府関係機関向け購入分は、ヘリウム精製施設へ優先的に配送されるこ
とを意味する。
2015年度に開始予定のフェーズBでは、オークション制度に徐々に移行する。
競売対象となる数量は、2015年度は払出総量の10%とし、その後は毎年15%増加
し32、2020年度以降は100%となる。ただし、30億ft3(約8,320万m 3)に達した時
点でフェーズBは終了し、フェーズCに移行することが定められているため、今
後の払出量によっては、2020年度に到達する前にフェーズCに移行する可能性が
ある。なお、オークションの対象外となる数量分は、フェーズAと同様の最低価
格以上33で、以下の目的に適合した諸条件で払出される。
29
なお、フェーズBへの移行が遅延した場合または一時停止した場合にもフェーズAが適用される。
フェーズBも含めた最低価格の決定方法であるため、オークション販売についても言及されている。
フェーズAでは、オークションは実施されないため、オークション販売価格は除外されると考えられ
る。
31
同法では、連邦政府は、連邦政府と粗ヘリウムに関して契約している事業者に対して取引情報の開
示を要求できる権利があるとしているため、開示請求した取引情報データを使用して算出すると考え
られる。
32
2016年度は25%、2017年度は40%、2018年度は55%、2019年度は70%となる。
33
オークションにおける粗ヘリウム販売価格が最低価格の決定方法で最も高い優先度となっている
ため、実質的にオークション以外の払出価格はオークション価格以上となると考えられる。
30
19
 連邦ヘリウム備蓄からのヘリウムの総採取量を最大化する
 納税者の利益を最大化する
 連邦ヘリウム備蓄からヘリウムの抽出及び生産を実施する能力に従って粗ヘリウム販
売を管理できるようにする
 連邦ヘリウム備蓄に障害が発生した場合、連邦政府機関のヘリウム需要を優先的に満た
せるようにする
 市場の混乱を最小限にする
フェーズBのスケジュールは、2015年度においては、オークション1回と、2014
年8月1日までに行われ、2014年9月26日までに支払いが行われる売買1回34のみを
実施できるとしている。2016年以降は、会計年度ごとに2回の競売を実施するこ
とができるとしている35。また、2016年度以降は次の会計年度中に競売で提供さ
れる予定の粗ヘリウム量の最大10%について、先行競売を実施することができる
としている。
ヘリウム備蓄量が30億ft 3(約8,320万m 3)に達した時点から開始するフェーズ
Cでは、需要に応じて政府関係機関向けに備蓄を払出すことができるとしている。
したがって、フェーズCでは民間企業向けの払出は終了することとなる。
フェーズCの開始日から2年以内かつ2021年9月30日までに政府が所有するヘ
リウム関連施設、設備、その他資産をすべて処分するとしている。
なお、フェーズA∼Cにおいて、最低販売量を、(1)2012年度に販売した粗ヘリ
ウムの数量、(2)連邦ヘリウム系の最大総生産能力、のいずれか少ない方と規定
している36。
34
2016年度に提供可能な数量から、2014年8月1日以前に一括販売(one-time sale)が実施される予
定となっている。この数量は、少なくとも2.5億ft 3(約693万m 3)とされている。
35
ただし、競売を実施するのは(1)備蓄からのヘリウム供給に混乱を引き起こさない、(2)費用
対効果の高い措置である、(3)納税者のための大きな利益を生み出す、(4)価格発見の有効性を高
める、ことが前提となる。
36
最低数量を規定しているものの、2014年度に関しては、2014年すでに払出量が減少していること
や、最終的には長官の判断ですべての取引条件を決められることからこの限りではない可能性がある。
20
図表 12
「Helium Stewardship Act of 2013」の概要
フェースA
フェーズB
 【時期】
 【時期】

2014年度(2014年9月30日ま
で)まで。

フェーズBへの移行が遅れた
場合、フェーズAが効力を持
つ。



政府関係機関

民間企業

備蓄量30億ft3 (8,320万m3)
に達した時点から
 【売却先】
オークション制度に移行

‒ 2015年度は全体量の10%
‒ 2016 ∼2019年度は前年
度+15%
随時定められる最低額を下回
らない価格
 【売却先】
 【時期】
2015年度(2014年10月1日)
以降
 【価格】
 【価格】

フェーズC
政府関係機関に限定
フェーズD
 【時期】
フェーズC開始日の2年以内
かつ2021年9月30日までに移
行
 【内容】


すべてのヘリウム関連施設、
設備等を処分する。
‒ 2020年度以降は100%
 【売却先】

政府関係機関

民間企業
(資料)Helium Stewardship Act of 2013(P.L. 113-40)」をもとに三菱UFJリサーチ&コンサ
ルティング作成
21
③
今後の展開
2013年ヘリウム管理法でも、法律上ですべてが規定されているわけではなく、
現在も詳細な枠組みについては議論が進められている。クリフサイド・フィール
ドを管理するBLMのアマリロ地域事務所(AMFO:Amarillo Field Office)は、
2013年ヘリウム管理法の施行に伴う課題や懸念に関するパブリックコメントを
2014年3月21日まで募集している。また、2014年3月6日には、公聴会を開き、法
律の内容を精査する予定となっている。同公聴会では(1)トーリング契約の促進
37
、(2)価格の透明性向上、(3)オークション形式、の3つが主要な議題に挙げら
れている。
また、2013年ヘリウム管理法では、フェーズDで処分を規定することから、連
邦ヘリウム・パイプラインへのアクセスについて、新しい制度(新パイプライン・
アクセス)を定めると規定されており、今後このような検討も進められていくも
のと考えられる。
また、2013年ヘリウム管理法では、BLMを通じて、情報公開も実施していくこ
とが規定されている。特に重要な点として、30億ft3(約8,320万m 3)に達した時
点から開始するフェーズCの時期を予測することとしている。
また、フェーズDに達した時点で政府関連機関も政府からのヘリウム供給を受
けることができなくなることから、2013年ヘリウム管理法の制定日から2年以内
に連邦機関のヘリウム獲得戦略も策定することが規定されている。これには、
(1)粗ヘリウム及び精製ヘリウムの消費及び需要予測に関する評価、(2)ヘ
リウムの利用可能性を保証する20年戦略、(3)フェーズDの実施日の決定、(4)
精製ヘリウム価格上昇の影響並びにその影響を緩和する方法及び政策の評価、
(5)今後ヘリウム供給を減少させる可能性のある利用方法を特定するプロセス
の説明、が示されることとなっている。
37
ヘリウム精製事業者とヘリウム精製設備を持たないその他主体の間で、その他主体に契約した価格
でヘリウム精製処理して引き渡す契約。仮にヘリウム精製設備を持たない事業者がオークション制度
に参加した場合でも、トーリング契約によって精製事業者に精製業務を委託できるようにすることを
目指していると考えられる。
22
④
その他
米国は、ヘリウムを戦略的物資と認識しており、2013年ヘリウム管理法では、
備蓄の払出だけでなく、ヘリウムガス資源の開発や有効利用についても言及され
ている。具体的には、米国内のヘリウムガス資源の評価、ヘリウムに対する国際
的な需要動向の評価、各種分野におけるヘリウム利用に関する調査一覧の作成、
ヘリウムの再生・再利用の技術的・商業的実現可能性及び代替材料の利用可能性
等の特定、等を実施することが定められている。これに対して、100万ドルの予
算を割り当てることができるとされている。
また、ヘリウム保全のために、各種研究、開発、実証事業、保全事業等の支援
を行うとしている。この中には、低Btuガスや天然ガス等からのヘリウムの分離
に関する活動、並びにヘリウムの膜分離及び再利用・再処理に関する技術開発事
業等が含まれる。これらに300万ドルの予算を割り当てることができるとされて
いる。
23
(3)払出実績
これまで、備蓄払出量のほとんどは、BLM周辺の精製設備を持つ企業(Air
Products、Praxair、Linde、Keyes)に対してその設備能力とオファー量に応じ
て割り当てられてきた。また、一部は、精製事業者以外も含めて払出が行われて
きた(Non Allocated Sale)。
この他、政府機関向けの払出が2013年度時点で1.32億ft 3(365万m 3)となって
おり、年間払出量の5.8%を占めている。時系列で内訳を見ると、図表 14の通り、
従 来 大 き か っ た 米 国 航 空 宇 宙 局 ( NASA : National Aeronautics and Space
Administration)、国防総省(DOD:Department of Defense)、エネルギー省
(DOE:Department of Energy)が大口の需要家となっているが、需要量は減少
傾向にある。その他の政府関連機関のヘリウム使用量は増加しているが、政府関
連機関全体の需要は減少傾向にある。
払出価格は、前述の通り、これまで事業負債、コスト、インフレ率等から決定
されていたため、その増加幅はゆるやかであった。しかしながら、NASのレポー
トにおいて価格体系の問題点を指摘されたことから、2011年度(2010年10月∼
2011年9月)から、政府関連機関向けと民間企業向けの価格体系を区別されるよ
うになった。この結果、民間企業向けの払出価格は上昇している。今後の払出価
格は、2014年度まで現在の傾向を維持して上昇すると考えられるが、2015年度
からはオークションが開始されるため、払出量に対してはオークション価格以上
の価格が適用されるものと考えられる38。
なお、2014年度においては、1∼6月分として4億ft3 (約1,110万m 3)が払出さ
れる予定となっている39。
38
オークション以外で払出されるヘリウムの価格も、最低価格をオークション価格以上にしなければ
ならないと定められている。
39
この他に、政府機関向けの払出が行われる。
24
図表 13
米国の払出量の推移
(万m3)
8,000
6,000
4,000
2,000
0
Air Products
Linde
Non Allocated Sale
Praxair
Keyes
In-Kind
(資料)BLM「Helium Sales Archive」
図表 14
政府機関向け(In-kind)払出量の推移
(資料)米国会計検査院(GAO)「Helium Program ‒ Urgent Issues Facing BLM's
Storage and Sale of Helium Reserves」(原典はBLM)
25
図表 15
払出価格の推移
(US$/m3)
4.0
3.5
3.0
2.5
2.0
1.5
1.0
0.5
0.0
Open Market(民間企業向け)
In-Kind(米国政府機関向け)
(資料)BLM「Bureau of Land Management Crude Helium Price」をもとに三菱
UFJリサーチ&コンサルティング作成
26
(4)今後の払出量の見通し
BLMは、2014年3月6日の公聴会資料において、今後の備蓄払出量の見通しを示
している40。これによれば、2020年までフェーズCには到達しない見込みである。
図表 16
BLMの払出量の実績と予測
払出量
(億m3)
備蓄量
(億m3)
1.0
10
0.5
5
0.0
0
-0.5
-5
(資料)Helium Stewardship Act of 2013(P.L. 113-40)」をもとに三菱UF
Jリサーチ&コンサルティング作成
40
Bureau of Land Management「Helium Stewardship Act of 2013 Public Scoping Meeting (2014
年3月6日)」
27
3.
天然ガスからのヘリウム生産
(1)概要
米国では、BLMの備蓄払出以外にも天然ガスからヘリウムを生産している。ヘ
リウムを含有する天然ガス田は米国中西部に偏在している。主にBLMパイプライ
ン周辺のHugoton-Panhandle complexガス田と、Exxon Mobilが生産するワイオ
ミング州のLa Bargeガス田が主要な生産地域である。
図表 17
米国のヘリウムソースとなる主要ガス田
Wyoming
Big Piney-LaBarge Gas
Fieldは比較的安定
Big Piney (Matheson、APCI)
Shute Creek (Exxon)
Ladder Creek (DCP)
Harley Dome
(IACX Energy)
Utah
Ulysses (Paraxair)
Colorado
Kansas
Lisbon(Encana)
※生産休止
Doe Canyon(APCI)
Shiprock(Nacogdoches)
※生産休止
Keyes
(Keyes Helium)
Bushton
(Paraxair)
New
Mexico
BLMパイプライン近くのガス田は
産出量減少(Hugoton-Panhadle
Complex)
Oklahoma
Liberal
(APCI)
Guymon (APCI)
Texas
ガス田
ヘリウム精製施設
(注)APCI=Air Products and Chemicals、Inc.
(資料)US Geological Surveyより三菱UFJリサーチ&コンサルティング作成
28
Otis
(Linde)
(2)今後の生産に影響を与える要因
①
ガス田の埋蔵量
BLMパイプライン近くのガス田の産出量は減少している。米国の天然ガスから
のヘリウム生産の半分以上を占めるHugoton(残りは主にExxon Mobil)は、1970
年代に生産ピークを迎えた。その後は、ガス井の増加にもかかわらず、ガス生産
量は減少している。
2010年に発表されたNASのレポートでは、今後、BLMパイプラインに接続した
ガス田から供給を受ける精製工場のほとんどは原料不足によって停止すると予
想している。 その結果、2020∼2025年には米国は純輸入国になる可能性がある
としている。
米国の確認埋蔵量 41を見ると、Hugoton-Panhandle complexでは、備蓄量を除
3
3
いても205億ft(5.69億m
)となっている。一方、ワイオミング州は、Exxon Mobil
が立地するRiley Ridgeが490億ft 3 (13.59億m 3 )、Denburyが立地するRands
Butte 42 が170億ft 3 (47.1億m 3 )となっており、比較的多くのヘリウムが存在し
ていることがわかる。
41
可採埋蔵量は回収の確実性によって確認埋蔵量(Proven Reserves)、推定埋蔵量(Probable
Reserves)、予想埋蔵量(Possible Reserves)に分かる。
42
Riley Ridge及びRand Butteは、Big Piney-LaBargeガス田の1つである。
29
図表 18
Hugotonガス田のガス生産量の推移
(資料) Rigzone「Helium to Move from Byproduct to Primary Drilling Target」
図表 19
Hugoton地区のガス生産に関する予測(既存文献)
(注)2015年、2020年は予測値
(資料)National Academy of Science「Selling the Nation's Helium Reserve」
30
図表 20
米国の確認埋蔵量
埋蔵量
(億ft 3)
205
490
170
140
260
地域
埋蔵量
(億m 3)
5.69
13.59
47.1
38.8
72.1
Hugoton-Panhandle Complex(備蓄分除く)
Riley Ridge Field, Wyoming州(Exxon Mobli)
Rands Butte, Wyoming州(Denbury)
St John's Field、Arizona州(Enhanced Oil Resources Inc.)
その他
(注)2007年データ
(資料)National Academy of Science「Selling the Nation's Helium Reserve」より三菱U
FJリサーチ&コンサルティング作成
31
②
新規開発の動向
米国では、現在比較的大きなプロジェクトとして、Big PineyとDoe Canyonの
2つのプロジェクトが立ち上がっている。 両プラントともに2014∼2015年の稼
働 を 見 込 ん で い る と 見 ら れ る 。 Doe Canyon プ ロ ジ ェ ク ト は 石 油 増 進 回 収 法
(EOR:Enhanced Oil Recovery)用のCO 2 からヘリウムを分離・生産する新プロ
セスを採用している。
その他、2013年後半にユタ州のHearley Domeでも小規模な新規精製プラント
が立ち上がっている43。
図表 21
原料ガス供給
精製設備保有者
生産能力
引取権
生産開始
Big Pineyプロジェクトの概要
Denbury(当初、合弁であったが2011年6月にCimarex Energyから持分
57.5%を取得し100%所有者となる)
APMTG Helium(Air ProductsとMATHESONの合弁会社)
2億ft 3(約550万m3)
※最大4 億ft 3(1,110万m3)まで拡大性あり
米Air Products50%、Matheson(大陽日酸)50%
2014年初頭の見込み
(資料)ガスレビュー、Gas Worldより三菱UFJリサーチ&コンサルティング作成
図表 22
Doe Canyonプロジェクト
原料ガス供給
Kinder Morgan CO2 Company のCO2から分離
精製設備保有者
米Air Products
生産能力
2.3億ft 3(約640万m3)
引取権
米Air Products100%
生産開始
2015年春の見込み
(資料)Gas World、Air Productsニュースリリース44より三菱UFJリサーチ&コンサルテ
ィング作成
43
Gas Wolrd「Helium – The market in 2014」
Air Products「Air Products "Thinks Outside-the-Box" in Obtaining New Helium Source」
http://www.airproducts.com/company/news-center/2013/10/1028-air-products-thinks-outsid
e-the-box-in-obtaining-new-helium-source.aspx
44
32
③
米国の天然ガスの生産及び輸出
米国では、シェールガス生産の増加により、天然ガス需給が緩和し、価格が下
落している。この結果、ヘリウムを含む天然ガス田の採算性が悪化し、新規プロ
ジェクトの遅延等につながっているものと見られる。
他国と比べて米国の天然ガス価格が著しく低迷している要因は、天然ガスを輸
出しにくい環境のため、国内に天然ガスが滞留していることにある。米国は、こ
れまで天然ガス輸入国であったため、輸出インフラ設備が存在しなかった。さら
に、米国は戦略的物資である天然ガスをFTA非締結国向けに輸出することを原則
禁じているため、LNG需要の大きい日本や中国に輸出することはできなかった。
ただし、上記の状況は、今後変化する可能性がある。近年米国では、エネルギ
ーセキュリティの観点から、天然ガス輸出の是非についての検討が進められてき
た。このような検討の一環として、DOEは、LNG輸出が国内天然ガス価格、国内
経済に与える影響に関する調査研究をそれぞれ米国エネルギー情報局(EIA:
Energy Information Administration)とNERA Economic Consultingに委託した。
両研究機関が発表した調査研究は、米国の天然ガス輸出は米国内の天然ガス価格
上昇につながるものの、輸出によって米国の国富は安定拡大するため、「天然ガ
ス輸出は米国の経済利益と合致する」と結論づけている。
この結果に基づき、現時点で米国は天然ガスを輸出する方針となっている。す
でに米国内ではLNG受入基地をLNG輸出基地へ改造し、LNG輸出を行おうとする取
組が多数存在している。米国の建設予定のLNGプラントの容量は、同国内におけ
る現在のガス生産量の半分を超えている。早ければ2015年にも米国からのLNG輸
出が開始する見込みであり、今後天然ガスの米国内外価格差は縮小すると考えら
れる。
一方、天然ガスの国内価格上昇を懸念する米国国内の産業界は輸出反対の姿勢
を強めている。また、世界のLNG市場における米国産LNGの競争力を疑問視する
声や、エネルギーセキュリティの観点から米国政府の方針転換を懸念する声もあ
る。
33
図表 23
米国、欧州、日本の天然ガス価格
(注)米国はHenryry Hub、欧州は英国のNational Balancing Point、日本はLNG通関輸入に基づく
(資料)三菱UFJリサーチ&コンサルティング「シェール革命(けいざい早わかり2013年度第10号)」
図表 24
米国の天然ガス需給
(注1)2012年以降は米国エネルギー情報局(EIA)の予測。
(注2)緑は純輸入を示す。
(資料)松本哲人「シェールガスの「一物一価」が崩壊した理由(日経ビジネスオンライン」
34
図表 25
米国の天然ガス輸出計画
(資料)資源エネルギー庁「石油・天然ガスをめぐる最近の動向」、三井住友銀行「着目される米国
産LNGとアジア市場への影響」
35
(3)今後の天然ガスからのヘリウム生産見通し
米国における天然ガス生産はBLMパイプライン周辺部のガス田の枯渇により、
生産量が減少していくと予想される。新たな精製プラントが立ち上がるものの米
国全体の生産規模は減少する。
予測の前提条件は以下の通りである。なお、予測の前提条件は文献調査やイン
タビュー調査等に基づいた仮定である。
 ワイオミング州のExxon Mobil工場は、老朽化していることから定期修理やプラントト
ラブル等により、低稼働率(年間稼働率80%程度)になる。しかしながら、一定の生産
規模を維持する。
 BLMパイプラインに連結したプラント群は、ガス田の枯渇から2020年度までに4.28億ft3
(約1,190万m 3)まで減少する(BLM予測45を採用)。
 2014年半ばに、ワイオミング州でマチソントライガス(大陽日酸子会社)とエアプロダ
クツが所有する新精製プラントが立ち上がる。
 2015年半ばに、コロラド州ドーキャニオンのプラントが立ち上がる 。
 2018年半ばに、米国内の天然ガス価格上昇により、ワイオミングの新プラントの拡張工
事が実施されて、製造能力が倍増する。
図表 26
米国における天然ガスから分離・精製するヘリウムの生産実績と予測
(億m3)
1.5
1.0
0.5
0.0
天然ガスからの生産量
Exxon
BLMパイプライン周辺
新工場(ワイオミング、ドーキャニオン)
(資料)US Geological Survey等をもとに三菱UFJリサーチ&コンサルティング作成
45
Bureau of Land Management「Helium Stewardship Act of 2013 Public Scoping Meeting (2014
年3月6日)」
36
4.
米国における今後の供給見通し
米国からの供給量は、2014年から備蓄払出量が減少する見込みである。さら
に、天然ガスからの生産量も減少することで、米国全体からの供給量は2013年
時点の約1.3億m 3から2020年に0.8億m 3まで減少する可能性がある。
図表 27
米国におけるヘリウム生産実績と予測
(億m3)
1.5
1.0
0.5
0.0
天然ガスからの生産
BLMの備蓄払出
( 資 料 ) US Geological Survey 等 を も と に 三 菱 U F J リ サ ー チ & コ ン サ ル テ ィ ン グ 作 成
37
II-3.
1.
米国以外からのヘリウム供給見通し
米国以外のヘリウム生産の概要
米国以外では、カタール、アルジェリア、ポーランド、オーストラリアでヘリ
ウムの生産が行われている。世界における今後のヘリウム供給においては、生産
規模の大きいカタールの新規プラントの立ち上がり、アルジェリアプラントの稼
働動向、東シベリア地域の開発動向が大きな影響を与えると考えられる。
図表 28
オドラヌフ(ポーランド)
280万m3
⇒小規模生産
米国以外のヘリウム供給ソース(精製工場)
オレンブルク(ロシア)
640万m3
⇒採算性悪く、枯渇傾向
東シベリア
(今後の供給が
期待される地域)
アルヅー(アルジェリア)
1,660万m3
⇒天然ガスパイプラインの
整備に伴い低稼働
スキクダ(アルジェリア)
1,660万m3
⇒2004年に爆発事故
により原料不足
米国合計
約1億4,200m3
⇒供給量減少
カタールI&II(カタール)
1,940 +3,610万m3
⇒Ⅰは、本格生産まで2年程度遅延
⇒Ⅱは、稼働後すぐに本格稼働
ダーウィン(豪州)
2010年3月∼
420万m3
⇒小規模生産
(注)数値は年間精製能力。ただし、米国は備蓄払出量を含む。
(資料)各種資料をもとに三菱UFJリサーチ&コンサルティング作成
38
2.
既存生産国における生産動向
(1)カタール
カタールのラスラファンでは、2005年にLNGプラントにヘリウム回収設備を導
入し、ヘリウムの生産を開始している。2013年夏には第2プラント(カタールII)
が稼働を開始し、生産量を拡大させている。
カタールでは、ペルシャ湾のノースフィールド・ガス田から産出した天然ガス
をラスラファンのLNGプラントで液化する際にヘリウムを分離している。同ガス
田のヘリウム含有量は0.05%にとどまるものの、規模が大きいことから採算を
確保することが可能となっている46。
Gas Worldによれば、カタールIIプロジェクトは、2013年10月までに稼働率95%
程度に達し、2013年12月には正式な竣工イベントを開催している。カタールⅠ
プロジェクトは本格生産まで2年程度の時間がかかったが、カタールIIプロジェ
クトでは、比較的立ち上がりは早かったとされている。
さらに、第3プラント(カタールIII)の建設プロジェクトの計画も立ち上が
っている。 カタールIIIは、詳細は現時点で不明点が多いが、(1)Air Liquide
が製造プロセスに関してRas GASと会談、(2)早ければ、2017年にも生産開始
となる見込み、(3)ヘリウムⅠプラントよりも小規模になる見込み、とされて
いる。
46
Air Liquideウェブサイト
http://www.airliquideadvancedtechnologies.com/en/our-offer/scientific-research-1/refer
ences/liquefaction-helium-pour-le-site-ras-laffen-au-qatar.html
39
図表 29
カタールIプロジェクトの概要
原料ガス供給
LNGトレイン8基から供給(Ras Gasトレイン1∼5及びQatargasトレイン
1∼3)
精製設備保有者
Ras Gas(Qatar Petroleumが70%、Exxon Mobileが30%を出資するLNG
会社)
生産能力
7億ft 3(約1,940万m3)
引取権
仏Air Liquide 50%、独Linde50%
生産開始
2005年8月
(資料)岩谷産業、Ras Gasウェブサイト、ガスレビューより三菱UFJリサーチ&コンサルテ
ィング作成
図表 30
カタールIIプロジェクトの概要
原料ガス供給
LNGトレイン6基から供給(Ras Gasメガトレイン6、7及びQatargasメガ
トレイン4∼7)
精製設備保有者
Ras Gas
生産能力
13億ft 3(約3,610万m3)
※最大4 億ft 3(1,110万m3)まで拡大性あり
引取権
仏Air Liquide 50%、独Linde30%、岩谷産業20%
生産開始
2013年6月
(資料)岩谷産業、Ras Gasウェブサイト、ガスレビューより三菱UFJリサーチ&コンサルテ
ィング作成
図表 31
ノースフィールド・ガス田及びラスラファン工業団地の立地
(資料)岩谷産業ウェブサイト
40
(2)アルジェリア
アルジェリアでは、2つのヘリウム精製プラントが稼働している。アルジェリ
ア北部のアルジェから南に600kmにあるハッシメル・ガス田(Hassi R'Mel Gas
Field)等からパイプラインで輸送される天然ガスを原料として、アルヅー、ス
キクダのLNGプラントで天然ガスの液化時にヘリウムを分離している。
アルズーでは、1994年秋からヘリウム精製プラントが稼働している。それま
でヘリウムを米国からの輸入に依存していた欧州市場にとって、同プラントは重
要なヘリウム供給源となっている。しかしながら、プラントの稼働率は近年下が
っており、稼働率が50%を切っているとも言われている47。この要因の1つは、図
表 35から分かるように、2000年以降、天然ガス輸出量が減少しているためと考
えられる。さらに、1990年以降、2つのパイプラインが開通し、さらに2011年に
はスペインにつながるMedgasパイプラインが開通したことも大きい。パイプラ
インでの輸出が増加することでLNGプラントの稼働率が低下し、結果的にヘリウ
ム生産プラントの稼働率低下にもつながってきているものと見られる。
なお、アルズーでは、第2プラント(Arzew II)の建設計画がある。報道によ
れば、Lindeがプラント建設候補となっており、新プラントからは600万∼800万
m3程度のヘリウム輸出が見込まれる48。
スキクダでは、2003年3月に国営石油・ガス会社であるアルジェリア炭化水素
公社(Sonatrach)とドイツのガスメジャーLindeの共同出資により、ヘリウム
生産を実施する合弁会社Helisonが設立された 49。当時、スキクダにはLNGプラン
ト(LNGトレイン)が6系列あった。しかしながら、2004年1月に爆発事故が発生
し3系列で生産不能となり、その他もう1系列も損傷した50。6系列のうち3系列は
2004年11月に生産を再開し、ヘリウム精製プラントは2007年4月に稼働した。し
かしながら、原料ガスの不足から、設計能力6億ft3 (1,660万m3 )のうち稼働率
40%(2.4億ft3 =約670万m3 )でしか運転できずにいたと見られる51,
47
52
。その後、
インタビュー調査より
Chambre de Commerce et d'Industrie Suisse-Algérie「Réalisation du projet d’hélium Arzew
2 : Linde seul candidat」
http://www.chambrealgerosuisse.com/site/index.php/2007/09/13/69-realisation-du-projetdhelium-arzew-2-linde-seul-candidat
49
Linde Kryotechnik「Large Scale Helium Liquefaction and Considerations for Site Services
for a Plant Located in Algeria」
50
Hydrocarbons-technology.com「Sonatrach Skikda LNG Project, Algeria」
51
Inter-American Corporationウェブサイト
http://www.helium-corp.com/worldproduction/skikda.html
52
Linde Kryotechnikのレポートによれば、利用可能な原料ガスは10∼50%程度であったようである。
48
41
生産不能となった3系列を大型トレイン1基に建てなおす計画が進められた。当
初2009年8月に完成予定であったが、2009年の発表では、2013年の生産開始に延
期されている。
当該プラントは、2014年1月に正式に生産を開始したと報道されている 53 。
Gasworldに掲載されているLindeに対するインタビューによれば、新規LNGプラ
ントが立ち上がれば、十分な原料ガスが得られるため、設計能力近くまでヘリウ
ムの増産が可能であるとしている。このことから、2014年以降のスキクダの生
産能力は拡大すると見られる。
図表 32
アルズーヘリウムプラント(Helios)の概要
原料ガス供給
精製設備保有者
SonatrachのLNGプラントから供給
Helios(Sonatrach51%、HELAPS49%の合弁会社)
※HELAPSはAir Liquide50%、Air Products50%の合弁会社
生産能力
6億ft 3(約1,660万m3)
引取権
米Air Products2/3、仏Air Liquide1/3
生産開始
1994年秋
(資料)大家泉「ヘリウム需給の見通し」、Sonarachアニュアルレポート、ガスレビュー等を
もとに三菱UFJリサーチ&コンサルティング作成
図表 33
スキクダヘリウムプラント(Helison)の概要
原料ガス供給
SonatrachのLNGプラントから供給
精製設備保有者
Helison(Sonatrach49%、Linde51%の合弁会社)
生産能力
6億ft 3(約1,660万m3)
引取権
独Linde50%、Sonatrach50%
生産開始
2007年4月(2004年のLNGプラント爆発事故で遅延)
(資料)大家泉「ヘリウム需給の見通し」、Sonarachアニュアルレポート、ガスレビュー等を
もとに三菱UFJリサーチ&コンサルティング作成
53
Reuters「Algeria ends work on Skikda refinery, opens LNG unit-official(2014年1月」
42
図表 34
アルジェリアのヘリウムガス田及びヘリウム精製プラントの立地
(資料)JOGMEC「アルジェリア・イルメナスでの事件から何を学ぶべきか」
図表 35
アルジェリアの天然ガス輸出量の推移
(億m3)
1,000
800
600
400
200
0
消費
生産
(資料)BP「BP Statistical Review of World Energy」
43
純輸出
図表 36
アルジェリアの天然ガス輸出量の推移
(億m3)
700
600
500
400
300
200
100
0
LNG
Pipeline
(資料)BP「BP Statistical Review of World Energy」
図表 37
アルジェリアのLNGプラントの概要
液化能力
(万トン/
生産開始
備考
年)
Arzew
GL4Z(3系列)
110
1964年
2011年に生産終了
GL1Z(6系列)
780
1978年
GL2Z(6系列)
780
1981年
GL3Z(1系列)
470
2015年(予定)
Skikda
GL1K I(3系列)
255→85
1972年
2004年事故で2基が破損
GL1K II(3系列)
335→250
1981年
2004年事故で1基が破損
GL2K(1系列)
450
2013年(予定) 2014年1月に正式稼働
(資料)Hydrocarbons-technology.com「Sonatrach Skikda LNG Project, Algeria」、日本エネル
ギー経済研究所「LNG取引条件の変化に関する調査」、日本エネルギー経済研究所「アルジ
ェリアの天然ガス事件と人質事件による国際市場への影響」、日本エネルギー経済研究所「新
たな環境局面に直面するOPEC」をもとに三菱UFJリサーチ&コンサルティング作成
地域
トレイン名
図表 38
パイプライン名
Pipeline Enrico Mattei
(GEM)
Pedro Duran Farell
pipeline (GPDF)
アルジェリアの天然ガスパイプラインの概要
開始年
1983
1996
MEDGAZ Pipeline
2011
GALSI Pipeline
Trans-Saharan Gas
Pipeline (TSGP)
計画中
計画中
ルート
アルジェリアからイタリア(チュニ
ジア経由)
アルジェリアからスペイン(モロッ
コ経由)
アルジェリアからスペイン(地中海
経由)
アルジェリアからイタリア
ナイジェリアからアルジェリア(ニ
ジェール経由でMEDGAZに接続)
(資料)US EIAウェブサイト
44
長
さ
(miles)
輸 送 容 量
(Bcf/年)
1,023
1,170
324
410
125
282
534
282
2,602
706-1,059
(3)ロシア
ロシアのオレンブルグ(Orenburg)では、1977年から小規模なヘリウム生産
が 行 わ れ て い る 54 。 ロ シ ア の 国 営 ガ ス 会 社 Gazprom の 100% 子 会 社 で あ る
Orenburggazpromがプラントを運営している。生産能力230mmcf(約640万m3)で
ある。
プラントは2011年から減産しているが、2014年初頭に液化装置の更新を完了
し、再稼働する見通しである55。一方で、オレンブルグガス田のヘリウム含有量
は0.055%と低く、2020年までにヘリウム生産は停止すると予測するレポートも
ある56。
(4)ポーランド57
ポーランドでは、国営ガス会社のPGNiG(Polish Oil & Gas Company)がオド
ラヌフ(Odolanow)で1977年からヘリウムを生産している。生産規模は、100 mmcf
(約280m 3 )程度である。オドラヌフで産出するガスには0.08∼0.45%のヘリウ
ムが含まれる。
PGNiGによれば、2010年3月オドラヌフのヘリウム回収・精製・液化設備の再
建設を開始し、2012年1月に終了した。この設備更新により、ヘリウムの流量は
30%向上し、電力消費量も減少するとしている58。
(5)オーストラリア59
オーストラリアでは、ドイツのガスメジャーLindeがダーウィン(Darwin)で
2012年3月にヘリウム生産を開始している。オーストラリア国内の出荷に加えて、
ニュージーランド、アジア地域に輸出されていると見られる。生産能力は
150mmcf(約420m3)である。
54
Inter-American Corporationウェブサイト
http://www.helium-corp.com/worldproduction/orenburg.html
55
Gasworld「Helium – The market in 2014(2014年1月)」
56
ロシアNIS貿易会「ロシアのヘリウム生産の現状と展望」
57
Inter-American Corporationウェブサイト
http://www.helium-corp.com/worldproduction/odolanow.html
58
PGNiGウェブサイト
http://www.pgnig.pl/pgnig/com/8387?r%2Cnews%2CpageNumber=11&r%2Cnews%2CdateTo=&r%2Cnew
s%2CdateFrom=&r%2Cnews%2CnewsId=34300
59
Inter-American Corporationウェブサイト
http://www.helium-corp.com/worldproduction/darwin.html
45
3.
新規生産国の生産可能性
(1)東シベリアにおける新規開発動向
①
ヘリウム生産計画の概要
Gazpromは、東シベリアのチャヤンダガス田とコビクタガス田の2つのガスを
合わせて、最大2億2,000万m3/年のヘリウム生産が可能なポテンシャルがあると
している。現在、ガスメジャーの支援を受けて、ベロゴルスクにおいて2018年
からヘリウムの生産を開始することを目指している。
チャヤンダガス田からパイプラインで未精製ガスをベロゴルスクに輸送し、ヘ
リウム生産を行う予定となっている。ヘリウムは、ベロゴルスクから陸路(リベ
リア横断道路)または鉄道用液体コンテナ(シベリア鉄道)でウラジオストック
まで輸送する計画である。
また、コビクタガス田では、GazpromとRPC Grasysの共同プロジェクトとして、
ヘリウム分離の試験が実施されている。2014年3月には、膜分離に初めて成功し
たとしている60。
図表 39
東シベリアのヘリウム開発の概要
原料ガス供給
精製設備保有者
生産能力
チャヤンダガス田等からパイプラインで輸送する計画
Gazprom等(ガスメジャーと共同になる可能性あり)
当初最大1億m 3
※ 精製 工場の 規模等 は未 公表 であ るため 、チャ ヤン ダガ ス田 生産量
172m 3にヘリウム含有率0.58%を乗じて算出。
引取権
Matheson、Linde、Air Products、Air Liquideが交渉中
生産開始
早くても2018年
主な課題
①天然ガス需給の緩和による天然ガス開発遅れの可能性
②未精製ガスをパイプラインで長距離輸送するため、ヘリウムが逸散す
る可能性
③未開発地域であるため、インフラ整備が遅れる可能性
(資料)JOGMEC「ロシア:東シベリアはガス田開発もスタート」、ガスレビュー、ロシアNIS調査月
報(2018年8月号)、等をもとに三菱UFJリサーチ&コンサルティング作成
図表 40
60
東シベリアのヘリウムガス田及びヘリウム精製プラントの立地
Gas World「First helium test complete in Siberian field」
46
(資料)Gazpromウェブサイト 61
61
http://www.gazprom.com/about/production/projects/east-program/
47
②
東シベリアにおける天然ガス開発の見通し
チャヤンダガス田の天然ガスは、建設中のヤクーチャ・ハバロフスク・ウラジ
オストク(YKV:Yakutia-Khabarovsk-Vladivostok)ガスパイプラインを通して、
ウラジオストクまで輸送し、ウラジオストクでLNG化して東アジア等に輸出する
予定となっている62。さらに、中国にはガスパイプラインで輸出する計画となっ
ている。
中国へのパイプライン供給に関しては、2013年9月にGazpromと中国石油天然
気集団(CNPC:China Natinoal Petroleum Corporation)が、基本条件で合意
している。具体的には、東シベリアから中国に至るパイプラインによって、2018
年に380億m 3の天然ガスの供給を開始するとしている。しかしながら、最大の課
題となっている価格面で合意はできておらず、今後の交渉が注目される。当初は、
2013年末までの合意を目指すとしてきたが、2014年初頭時点ではまだ合意に至
っていない。
ウラジオストクでは、国際石油開発帝石(INPEX)、伊藤忠商事、石油資源開
発(JAPEX)、丸紅及び伊藤忠石油開発が出資する極東ロシアガス事業調査と
Gazprom が 2011 年 か ら 2012 年 の 間 に 共 同 事 業 化 調 査 を 実 施 し 、 2013 年 2 月 に
Gazpromは投資決定を行っている63。
東シベリアにおけるヘリウム生産は上記の天然ガス開発と一体的な計画とな
っているため、上記の開発計画の動向に左右されるものと考えられる。
62
プーチン大統領は、2012年12月に同計画を「シベリアの力」と名付けるとしている。
伊藤忠商事ニュースリリース「ウラジオストクにおけるLNGプロジェクトに関するMOU締結(2013
年6月24日)」
http://www.itochu.co.jp/ja/news/2013/130624.html
63
48
(2)その他
現状では、ヘリウムを大規模に生産するプロジェクトは存在しない。中国では、
渤海やオルドス盆地等のガス田において、ヘリウム成分の分析等が行われている
64
64
。
http://cpfd.cnki.com.cn/Article/CPFDTOTAL-ZGYJ199812001039.htm
49
4.
米国以外における今後の供給見通し
カタールIIプロジェクトが順調に本格稼働に移行したことによって、生産量は
2014年から急増する。東シベリアは2020年までの稼働は難しいと予想する。
予測の前提条件は以下の通りである。なお、予測の前提条件は文献調査やイン
タビュー調査等に基づいた仮定である。
 カタールでは、ラスラファンIIが2013年末から本格稼働し、2014年以降はフル稼働(年
間稼働率80%程度)する。 2018年にはラスラファンIIIが稼働する。
 アルジェリアでは、スキクダの新規LNGトレインが立ち上がることで、スキクダの稼働
率が2014年以降、80%程度まで上昇する。アルズーは現状を維持する。
 ポーランドでは、設備更新により、2013年より生産量が30%向上する。
 ロシアのオレンブルクのガス田は枯渇傾向にあり、年率10%程度の割合で減産していく。
 東シベリアのプラントの生産開始は2020年以降になる。
図表 41
米国以外における天然ガスから分離・精製するヘリウムの生産実績と予測
(億m3)
1.0
0.8
0.6
0.4
0.2
0.0
ロシア
ポーランド
豪州
アルジェリア
カタール
(資料)US Geological Survey等をもとに三菱UFJリサーチ&コンサルティング作成
50
II-4.
今後の供給見通し
2014年は、米国の備蓄払出量が減少するものの、カタールIIの稼働によって、
生産全体の供給量は増加する。その後は、大規模な精製プラントの稼働予定がな
いことから、米国の天然ガスからのヘリウム生産量が減少するにつれて、世界全
体の生産量も徐々に減少していくと考えられる。
図表 42
世界におけるヘリウムの生産実績と予測
(億m3)
2.0
1.5
1.0
0.5
0.0
米国払出
米国天然ガス
カタール
アルジェリア
その他
(資料)US Geological Survey等をもとに三菱UFJリサーチ&コンサルティング作成
51
III.ヘリウムの需要分析
III-1. 世界におけるヘリウム需要の全体像
1.
ヘリウム需要に関する基礎情報
(1)地域別の需要動向
ヘリウムの世界需要は3∼4%程度の割合で増加している。1995年以前は米国に
おける需要が世界需要の3/4程度を占めていたが、BLMの備蓄払出の開始によっ
てアジア、欧州での需要が拡大してきた。
図表 43
世界のヘリウム需要
(資料)National Academy of Science「Selling the Nations's Helium Reserve」(原典はCryogas
International)を一部修正
52
図表 44
ヘリウム需要の地域別割合(2013年)
アフリカ・中東・
インド
その他米州 6%
米国
32%
10%
環太平洋
31%
欧州
21%
(注)2013年需要値は63億ft3(1.75m 3)
(資料)Cryogas International
53
(2)用途別の需要動向
世界の用途別需要に関しては、詳細なデータは存在しない。Gasworldが2006
年に公表した資料によれば、MRI向けが20%と最も多く、次いで溶接17%、研究用
10%となっている。日本では、光ファイバー、リークテスト向けはそれぞれ6%、
5%となっている。半導体向けは雰囲気ガス3%に含まれている可能性がある。
図表 45
ヘリウム需要の用途別内訳
(注)記事は2006年のものであるが、図表の対象年に関して記載なし
(資料)Gas World
54
III-2. 主要用途における需要分析
1.
MRI
(1)ヘリウムの使用理由
MRI(Magnetic Resonance Imaging、磁気共鳴イメージング法)は、核磁気共
鳴現象を利用し、生体内部の状態を画像化する方法である。測定には強い磁場を
必要とするため、MRI装置には強力な超伝導磁石65や永久磁石66が搭載されている。
一般に、超伝導磁石コイルを搭載した筒状の装置をクローズMRI、永久磁石を上
下に配置した装置をオープンMRIと呼ぶ。以下に代表的なクローズMRI、オープ
ンMRIの構造を示した 67。
図表 46
MRI装置の構造(左:クローズMRI、右:オープンMRI)
(資料)株式会社日立メディコ社ウェブページより
クローズMRI装置に搭載される超伝導磁石の転移温度は、絶対零度付近の極低
温であるため、超伝導磁石の冷却剤として、沸点が4.2K(-268.9℃)の液体ヘ
リウムが使用される68 。クローズMRI装置には、液体ヘリウムの揮発を防ぐ目的
で、冷凍機が搭載されている。冷凍機は、絶対温度10Kまで冷却可能な10Kタイ
プがかつて主流であったが、現在は4Kタイプという絶対温度4K付近まで冷却可
65
超伝導磁石とは、特定の化合物において発現する超伝導現象を利用した電磁石のことである。ニオ
ブチタンなどの金属は、ある一定温度(転移温度)以下に達すると、電気抵抗が急激に0の状態に限
りなく近づくことが知られており、この現象は超伝導と呼ばれる。超伝導体は、電気抵抗がないため
大電流を流すことができ、強力な磁場を発生させることが可能である。
66
永久磁石とは、電流を流すことなく、長期にわたり磁性をしめす磁石のことである。ネオジム磁石
など磁場の非常に強い永久磁石が開発されたことで、MRI装置用磁石としても利用されている。
67
一般的に、クローズMRI装置には超伝導磁石、オープンMRI装置には永久磁石が使用されるが、こ
の限りではなく、超伝導磁石を搭載したオープンMRI装置も販売されている。
68
なお、オープンMRI装置に搭載される永久磁石は常温で強力な磁場を発するため、液体ヘリウム等
の冷却剤を必要としない。
55
能な冷凍機が開発されている。4Kタイプの冷凍機を搭載したMRI装置 69 は、10K
タイプの冷凍機を搭載したMRI装置に比べて液体ヘリウムの揮発量が非常に少
ない。
図表 47
種別
MRI装置の種類と使用する磁石
クローズMRI装置
オープンMRI装置
搭載される
磁石

主に超伝導磁石

主に永久磁石
ヘリウム
利用の有無

超伝導体冷却剤として利用

利用しない
 磁場強度を強くできるため
 装置が低価格
高解像度の画像化が可能
 低ランニングコスト など
 撮像時間が短い など
 装置が高価格
 重量が大きい
デメリット
 冷媒ヘリウムが高価格
 磁場強度が弱い など
 騒音が大きい など
(資料)三菱UFJリサーチ&コンサルティング作成
メリット
図表 48
MRI装置の構造例
(資料)Yuri Lvovsky et al, 2013 Supercond. Sci. Technol. 26 093001
69
ゼロボイルオフ型MRIとも呼ばれる。液体ヘリウムの揮発量をゼロにできるため、ヘリウムの補充
をほとんど必要としない(http://www.istec.or.jp/web21/past-j/06_08_all.pdf)。
56
MRI装置の製造から利用までの間のヘリウム利用を図表 49に整理した。MRI装
置用液体ヘリウムは、(1)超伝導磁石の製造工場、(2)MRI装置製造工場、(3)
病院等のユーザーによるMRI装置の利用、の各段階で必要とされる。
超伝導磁石の製造工程では、磁石製造時の初期充填や製造後の超伝導磁石のト
レーニング試験時、MRI装置メーカーへの磁石納品時などである。超伝導磁石は、
一定の確率でクエンチングという現象70が発生するが、このクエンチングが繰り
返されることで安定化する。この安定化はトレーニング試験と呼ばれ、液体ヘリ
ウムを大量に使用する。
MRI装置製造工程では、MRI装置メーカーが超伝導磁石メーカーから超伝導磁
石を調達しMRI装置を製造し、医療機関などに出荷する。顧客への納入時に、液
体ヘリウムが揮発している場合、充填することもある。ただし、MRI装置用液体
ヘリウムの消費全体に占める割合はごくわずかである。
医療機関にMRI装置が納入された後、MRI装置メーカーは定期的に装置のメン
テナンスを行うが、この際、液体ヘリウムの補充も実施する。充填の頻度はMRI
メーカーによって異なるが、4K冷凍機を搭載したゼロボイルオフ型MRI装置では、
2∼3年に1度の補充でも問題なく稼働できる71。
図表 49
MRI装置用液体ヘリウムの使用プロセス
超電導磁石製造工場
 超伝導磁石メーカーによるヘリウ
MRI装置製造工場
 MRIメーカーによるヘリウム 利用
ム利用
・ 磁石製造時の初期充填
・ 製造後のトレーニング試験
・ MRIメーカーへの出荷時 など
・ MRI装置の納品時 など
病院等の医療機関
 MRIメーカーによるヘリウム 補充
・ 製品導入時の補充
・ 数年に1度の補充
・ クエンチング発生後の補充
など
(資料)インタビュー調査をもとに作成
70
超伝導磁石の一部で超伝導状態から通常伝導状態に切り替わり、その影響でさらに周辺でも次々と
超伝導の破れが生じ、その結果として磁石の急激な温度上昇が発生する現象。ひとたびこの現象が発
生すると、超伝導磁石の冷却用Heは一気に蒸発し、ほとんどが揮発してしまう。
71
インタビュー調査より
57
なお、超伝導磁石に必要なヘリウム量は、磁石の磁場強度によっても異なるが、
高磁場の磁石ほどヘリウム充填量が多くなる。平均的な初期充填量は2,000L程
度といわれている72。この液体ヘリウムの初期充電量と、超伝導磁石を搭載した
クローズMRI装置の国内生産量及び生産額73をもとに、MRI装置の売上高に占める
ヘリウムコストの割合を試算した結果を図表 50に示した。2012年における算出
値は1.23%となった。
同様の試算を時系列で見ると、近年のヘリウム価格高騰に伴い、MRI装置生産
額に占めるヘリウムコストの割合は、図表 51の通り上昇している。2010年には
0.97%だったヘリウムコストの割合が、2012年には1.23%へと増加している。
図表 50
MRI装置の売上高に占めるヘリウムコスト(2012年・国内)
ヘリウムコスト
1.23%
(注1)ヘリウム価格は487円/Sm 3(2012年)として試算
(注2)国内全体のMRI装置生産額及びMRI装置向けヘリウム販売量をもとに、MRI装置の売
上高に占める平均的なヘリウムコスト割合を算出
(資料)平成24年薬事工業生産動態統計調査、一般社団法人日本産業・医療ガス協会統計
などをもとに三菱UFJリサーチ&コンサルティング作成
72
株式会社ガスレビュー「ガスアプリケーション2012」
平成24年薬事工業生産動態統計調査によると、2012年の「超電導式磁気共鳴画像診断装置」の国
内生産台数は367台、生産額は228億7,205万円である。
73
58
図表 51
ヘリウム価格の変化が及ぼす影響
2.0%
1.5%
1.23%
1.08%
0.97%
1.0%
0.5%
0.0%
2010年
2011年
2012年
(注1)各年のヘリウム価格はそれぞれ、408円/Sm 3(2010年)、416円/Sm 3(2011年)、
487円/Sm 3(2012年)として試算
(注2)国内全体のMRI装置生産額及びMRI装置向けヘリウム販売量をもとに、MRI装置の売
上高に占める平均的なヘリウムコスト割合を算出
(資料)平成24年薬事工業生産動態統計調査、一般社団法人日本産業・医療ガス協会統計
などをもとに三菱UFJリサーチ&コンサルティング作成
59
(2)今後のヘリウム使用量に影響を与える要因
①
市場動向
世界におけるMRI装置市場は、今後も増加傾向が続くことが予想されている。
2012年から2018年の間に、約60億US$から約110億US$規模に成長するとの見立て
もある。
主要国別に見ると、中国とインドにおけるMRI市場は今後著しく成長すると予
測されており、年平均の成長率は中国で28%、インドでは24%に達するという
見方もある。特に中国市場は2018年頃に、世界最大のMRIマーケットである米国
を抜き、世界最大のMRI市場になると見られている。このような急成長の背景に
は、今後の人口増加に加えて、図表 54に示す通り、これらの国のMRI装置の普
及率の低いことが挙げられる。中国の人口100万人あたりのMRI装置の普及台数
は約3台、インドは1台以下と言われており74、今後の伸び代が大きいと考えられ
る。日本や米国などの先進国においては、成長率こそ新興国に比べて低いものの、
機器更新需要により、一定の成長率で拡大していくと見られている。
図表 52
世界のMRI市場規模の推移と予測
予測
(100万US$)
11,262
12,000
9,928
10,000
8,972
7,352
8,000
8,012
6,713
6,000
4,848
5,088
2009
2010
5,888
6,140
2011
2012
4,000
2,000
0
others
Russia
France
2013
India
2014
Germany
2015
Japan
2016
USA
2017
2018
China
(資料)Espicom「The Worldwide Medical Market Forecasts to 2018」をもとに作成
74
GBI Research「MRI Systems Market to 2018 - Technological advancements, Increasing Number
of Applications and Advent of MRI Compatible Pacemakers to Drive Future Growth」
60
図表 53
主要国のMRI市場の推移と見通し
(100万US$)
4,000
28%
3,000
5%
2,000
9%
4%
1,000
24%
11%
3%
0
China
USA
2009年
Japan
Germany
2012年
India
France
Russia
2018年
(注)図表内の%は年平均成長率
(資料)Espicom「The Worldwide Medical Market Forecasts to 2018」をもとに作成
図表 54
人口100万人あたりの国別MRI保有台数
(注)Hospital:医療機関におけるMRI、Outside hospital:医療機関以外のMRI、Total:
合計値(保有区分が不明な場合)
(資料)OECD「Health at a Glance 2013」
61
機種別に見ると、世界のMRI装置市場は、1.5∼3.0T(テスラ 75)クラスの超伝
導磁石を搭載したクローズMRI装置が大半を占めている。新興国では現在のとこ
ろ、低価格なオープンMRI装置が主流であるが、今後は、クローズMRIの価格低
下や高度医療に対する要求の高まりとともに、クローズMRIの導入が進むと見ら
れている76。
国内においては1.5T未満の低磁場MRI装置のシェアが低下する一方、1.5T以上、
とりわけ3.0T以上の高分解能MRI装置の市場が拡大している。背景には、1.5T以
上のMRI装置の診療報酬点数が高いことや、MRI装置本体価格が低下しているこ
となどがある。国内市場は、今後も1.5T以上の超伝導磁石を搭載したクローズ
MRIが中心となるが、一部の医療機関などで3.0T以上の導入が進み、1.5T未満の
低磁場MRIは、減少すると見られている。
75
磁束密度の単位。数値が大きいほど磁場が強い(高磁場)。MRI装置では一般に、この数値が大き
いほど高解像度の画像が得られる。
76
インタビュー調査より
62
図表 55
世界の機種別MRI市場
(注)2010年の出荷総量を1としている。
(資料)Yuri Lvovsky et al, 2013 Supercond. Sci. Technol. 26 093001
図表 56
国内のセグメント別構成比(金額ベース)
100%
13
12
11
17
18
19
41
36
29
33
2010
2011
48
22
0%
2009
1.5T未満
1.5T(ローエンド)
1.5T(ハイエンド∼ミドル)
3.0T
(資料)株式会社アールアンドディ「医療機器・用品年鑑2012年版」より作成
63
②
代替・削減技術
超伝導磁石を搭載したクローズMRIは、高価な液体ヘリウムを大量に使用する
ため、液体ヘリウムを使用しない装置、あるいは使用時の補充量が少ない(ラン
ニングコストが低い)装置の開発が求められている。
そのひとつは永久磁石を利用する方法で、この方法は先述の通り、すでに実用
化されている。メリットとしては、磁石自体の価格が比較的安く、またヘリウム
を使用しないため、イニシャルコスト、ランニングコストともに低いことが挙げ
られる。一方デメリットは、磁場強度を上げることが難しいことである。現在市
販されている永久磁石を搭載したオープンMRI装置は、0.5∼0.7T程度の低磁場
が中心である。国内では、小規模の医療機関を中心にオープンMRI装置が導入さ
れているが、超伝導電磁石MRIの価格が低下するなか、オープンMRI装置の市場
シェアは低下している。
液体ヘリウムを使用しないもうひとつの方法として、高温超伝導体の利用が挙
げられる。高温超伝導とは、高い転移温度で発現する超伝導現象のことを指し、
一般には−200∼−100℃前後で超伝導を示す物質を高温超伝導体と呼ぶ。液体
窒素(沸点77.3K、−195.8℃)以上の転移温度の高温超伝導体が開発、実用化
されれば、大気中に大量に存在する窒素を利用可能となるため、大幅なランニン
グコスト削減が可能となる。高温超伝導体は1980年代後半から活発に研究開発
が進められているものの、技術的な課題のほか、材料コストの高さなどから、実
用化には至っていない。
64
③
リサイクル77
MRI装置に使用される液体ヘリウムが逸散する機会は、大きく分けて(1)超
伝導磁石製造時等にクエンチング現象が発生してヘリウムが一気に揮発する場
合、(2)MRI装置の運転している際に徐々に揮発していく場合、が考えられる。
超伝導磁石のクエンチング現象がひとたび発生すると、磁石の温度は急激に上
昇するため、液体ヘリウムのほとんどは揮発する。超伝導磁石メーカーでは、超
伝導磁石製造時、クエンチングで揮発したヘリウムを回収するため、工場内にガ
スバックや冷凍機を備え付け、回収に努めている。しかしながら、インタビュー
調査によれば、一部には回収していないヘリウムもあり、これらのヘリウムは回
収可能性がある78。
また、運転中に揮発するヘリウム量を減少させるための手段として、ゼロボイ
ルオフ型MRI装置がある 79。すでに現在販売している超伝導磁石を使用するMRI装
置のほとんどは、ゼロボイルオフ型MRI装置となっている。普及台数では、現時
点では過去に販売された10Kタイプのものも利用されているが、今後は徐々に4K
タイプの割合が増加すると考えられる。
図表 57
MRI分野におけるHe削減・代替・リサイクルの見通し

ヘリウム
代替・削減技術



ヘリウム
リサイクル技術

ヘリウムを一切使用しない、永久磁石を利用したオープンMRI
がすでに実用化されている
高温超伝導磁石の開発が長らく進められており、実用化され
ればヘリウム使用量が大きく削減できる可能性が高い
一方で、永久磁石は高磁場の発生が難しいというデメリット
があり、高解像度の画像診断に不向きである。また高温超伝
導体は開発段階であり、実際にMRIへ搭載される時期は不透明
磁石製造プロセスにおいては、多くのヘリウムが回収再利用
されている
現在市場に出回っている超伝導磁石タイプのMRI装置のほと
んどに、4Kタイプの高性能冷凍機が搭載されている。これら
は液体ヘリウムの揮発がほとんどないゼロボイルオフタイプ
であり、ヘリウムの補充は2∼3年に1回程度である
(資料)インタビュー結果より三菱UFJリサーチ&コンサルティング作成
77
インタビュー調査より
磁石製造工程以外でも、医療機関でのMRI使用時等にクエンチングが生じることもあるが、医療機
関にガスバック等の回収装置が導入されているケースはほぼ皆無であるため、回収はほぼ不可能であ
る。この場合、再度液体ヘリウムを全量補充する必要が生じる。
79
冷凍機のメンテナンス時、冷凍機を停止し、装置から取り外すため、いくらかのヘリウムが揮発す
る。
78
65
(3)今後のヘリウム消費動向
MRI装置におけるヘリウム消費は、大きく分けて新規販売用と補充用に分かれ
る。
新規販売に関しては、世界全体のMRI装置の新規導入台数が急速に拡大すると
見られることから、これに伴いヘリウム需要も拡大していくものと見られる。特
に、新興国では磁場の弱い永久磁石タイプから、高性能な超伝導磁石タイプへの
切り替えが進むと考えられるため、ヘリウム需要も拡大すると考えられる。ただ
し、超伝導磁石は、先進国で製造されているため、MRIの導入地域において、必
ずしもヘリウム需要が拡大するわけではないことに留意する必要がある。
一方で、補充用のヘリウムは、各国の普及台数が各国のヘリウム需要につなが
る。現在普及しているMRI装置に搭載された冷凍機は、10Kタイプが一定量を占
めるが、現在の出荷の大半はゼロボイルオフ型MRI装置であり、補充用のヘリウ
ム消費量は減少すると見られる。ただし、普及台数自体は、世界的に急拡大する
ため、補充用のヘリウム需要が急激に減少することはないと考えられる。
66
2.
半導体
(1)ヘリウムの使用理由80
半導体の製造工程は、ウエハ上にICチップを製造する「前工程」と、製造した
ICチップを切り分け、パッケージング化し製品にする「後工程」の2つに大別で
きる。このうち前工程(ウエハ処理)で、ヘリウムガスが使用される。半導体の
種類は多岐に渡るが、そのほとんどでヘリウムガスが使用されている。ヘリウム
の使用量は、ウエハの面積におおよそ比例するため、ウエハ1枚辺りの面積が大
きくなるほど、ヘリウムの消費量は多くなる。
前工程のうち、ヘリウムが使用されるプロセスは主にCVD(chemical vapor
deposition、化学気相成長)、リソグラフィー工程、ドライエッチング工程で
使用される。これらの各工程の概要と、ヘリウム使用の目的を図表 59に示した。
インタビュー調査によれば、これらの工程のうち、ヘリウムを最も多く消費す
るのはCVD工程である。CVD工程では、ウエハ表面に積層する原料として、TEOS
(テトラエトキシシラン)という液状の化合物が用いられるが、不活性なヘリウ
ムガスをTEOS中でバブリングし、気化させる。また、CVD工程はウエハ表面が高
温となるため、温度調整のためにヘリウムガスが用いられる。
ドライエッチング工程やリソグラフィー工程に使用されるヘリウムガスの消
費量は、CVD工程に比べると少量である。これら工程では、混合ガスやレーザガ
スとして、ヘリウムが用いられる。
80
インタビュー結果より
67
図表 58
半導体集積回路(前工程)の製造プロセス
マスク製造・ウエハ製造工程
後工程
(資料)株式会社堀場製作所ウェブページ
図表 59
工程
半導体製造工程におけるヘリウムの使用目的
工程の概要
用途
CVD 工程
 原料ガスを熱やプラズマで
分解し、基板表面に積層さ
せるプロセス
 TEOS バブリング用
 ウエハ温度調整用 など
ドライエッチン
グ
工程
 プラズマ放電によりイオン
やラジカルを生成させ、表
面加工を行うプロセス
 エッチングの混合ガス
リソグラフィー
工程
 露光装置とフォトマスクに
より、半導体のパターンを
表面に焼き付けるプロセス
 レーザ用ガス
など
(資料)インタビューをもとに三菱UFJリサーチ&コンサルティング作成
68
など
図表 60に、国内の半導体産業におけるヘリウムコストの割合を示した。ヘリ
ウムコストの割合は0.023%程度と非常に小さい。このため、近年のヘリウム価
格高騰に伴う半導体製造コストへの影響は比較的小さいと予想される。
半導体製造における近年のヘリウム価格の影響を図表 61に示した。ヘリウム
価格の上昇に伴い、半導体の売上高に占めるヘリウムコストの割合は、増加して
いるが、直近のヘリウム価格(約700円/Sm 3)においても、売上高に占めるヘリ
ウムコストの割合はわずか0.04%程度である。
図表 60
半導体の売上高に占めるヘリウムコスト(2011年・国内)
ヘリウムコスト
0.023%
(注1)ヘリウム価格を416円/Sm 3(2011年)として試算
(注2)国内全体の半導体生産額及び半導体向けヘリウム販売量をもとに、半導体分野の売
上高に占める平均的なヘリウムコスト割合を算出
(資料)一般社団法人電子情報技術産業協会(JEITA)2012年12月「電子情報産業の世界
生産見通し」、一般社団法人日本産業・医療ガス協会「ヘリウム生産・販売実績
一覧表」などをもとに三菱UFJリサーチ&コンサルティング作成
69
図表 61
ヘリウム価格の変化が及ぼす影響
0.05%
0.040%
0.04%
0.027%
0.03%
0.022%
0.023%
0.02%
0.01%
0.00%
2010年
2011年
2012年
2013年
(注1)各年のヘリウム価格はそれぞれ、408円/Sm 3(2010年)、416円/Sm 3(2011年)、
487円/Sm 3(2012年)、721円/Sm 3(2013年)として試算
(注2)国内全体の半導体生産額及び半導体向けヘリウム販売量をもとに、半導体分野の売
上高に占める平均的なヘリウムコスト割合を算出。なお、2012年、2013年の生産
額データは入手できなかったため、2011年の半導体生産額及び半導体向けヘリウ
ム販売量データをもとに価格のみを変化させている。
(資料)一般社団法人電子情報技術産業協会(JEITA)2012年12月「電子情報産業の世界
生産見通し」、一般社団法人日本産業・医療ガス協会「ヘリウム生産・販売実績
一覧表」などをもとに三菱UFJリサーチ&コンサルティング作成
70
(2)今後のヘリウム使用量に影響を与える要因
①
市場動向
世界の半導体市場は、今後拡大することが見込まれている。2008年リーマン
ショック後、世界の半導体市場は一時的に大きく落ち込んだものの、2010年に
は市場が急回復し、近年は横ばいの状態が続いている。2012年から2015年まで
は、年平均約4%で成長するものと見られている。主にスマートフォンやタブレ
ット端末などのモバイル機器をはじめとしたデジタル機器が成長を牽引すると
見られている。
図表 62
世界の半導体集積回路の地域別市場推移と予測
予測
(10億US$)
400
298
300
292
2010
2011
2012
300
256
304
317
327
249
226
200
100
0
2007
2008
AsiaPacific
2009
Japan
Europe
2013
2014
2015
Americas
(注)Asia pacific:アジア大洋州、Europe:欧州、Americas:米州
(資料)World Semiconductor Trade Statistics(WSTS)公開資料をもとに作成
地域別には、日本以外の地域において半導体市場が拡大すると見られている。
特に世界最大のアジア大洋州地域は、年平均約5%で成長するといった見立ても
ある。米州地域も、中南米など新興国の市場拡大による影響もあり、年平均6∼
7%と大きな成長が見込まれている。
71
図表 63
地域別の半導体市場予測
(10億US$)
4.9%
200
100
6.6%
3.0%
-3.2%
Europe
Japan
0
Americas
2012(実績)
AsiaPacific
2015(予測)
(資料)World Semiconductor Trade Statistics(WSTS)公開資料をもとに作成
世界の半導体市場の拡大とともに、半導体生産量も増加が見込まれている。半
導体前工程に使用される製造装置の、地域別市場規模の推移と予測を以下に示し
た。これによると、半導体製造設備の投資市場規模は、北米、台湾、韓国が今後
も大きなシェアを占めると見られ、これらの地域が半導体前工程製造の中心とな
る。半導体製造におけるヘリウムのほとんどは前工程で使用されるため、これら
の国でのヘリウム需要が拡大すると見られる。
一方で国内の半導体製造装置市場は、2009年から2011年にかけて市場が拡大
したが、その後は大きな成長が見込まれていない。国内の半導体生産量も減少傾
向をたどっている。今後も横ばいが続くという見方もあり、半導体向けヘリウム
の国内消費量は増加しないものと思われる。
72
図表 64
半導体製造装置の市場推移と予測
予測
(10億US$)
50
43.5
42.1
39.9
38.2
40
その他
37.4
中国
30
韓国
欧州
20
台湾
15.9
日本
10
北米
0
2009
2010
2011
2012
2013
2014
(年)
(注1)装置はウエハプロセス用、組立・パッケージング用、試験用、その他のものを含み、
うち8割以上をウエハプロセス用装置が占める
(注2)2012年は推計値
(資料)SEMI公開資料をもとに作成
図表 65
国内の半導体集積回路の生産量推移と予測
予測
(億個)
500
400
387
372
364
320
312
2012
2013
296
320
300
200
100
0
2008
2009
2010
2011
(資料)JEITA統計データより作成
73
2014
(年)
②
代替・削減技術
過去、半導体分野でのヘリウム使用量の削減や代替の取り組みは積極的には進
められていなかったが、一部メーカーにおいては近年、代替ガスの検討が進めら
れている81。半導体製造工程のコスト全体に占めるヘリウムの調達コストの割合
が小さく、ヘリウム使用量削減によるコスト削減効果が十分に得られないこと、
また代替ガスの使用や削減により、品質低下や生産性の低下が懸念されるため、
代替は費用対効果の面から難しいと見られていた。しかしながら、近年の需給逼
迫を背景に削減の取り組みが始まってきている。
インタビュー調査によれば、半導体製造プロセスのうち、CVD工程のTEOSキャ
リアガスは一部代替・削減できる可能性がある。ガス変更により品質低下などの
問題があるが、検討が進められているところで、切り替えができれば、大幅なヘ
リウム使用量削減が可能となると見られている。一方、温度調整用としてヘリウ
ムガスを利用している工程では、生産性低下の影響が懸念されるため、代替が難
しい状況であるといえる。
ただし、半導体製造装置は、半導体の中でも、製品群によってもヘリウム代替・
削減の可能性に違いがあると考えられる。たとえば、DRAMやフラッシュメモリ
などは、製品の世代交代のサイクルが短いため、製造設備の切り替えのタイミン
グでの代替ガスの検討が比較的容易である。一方、例えばマイコンなどの少量多
品種生産の半導体においては、製造設備更新や切り替えのサイクルが長いため、
代替ガスの検討が難しい可能性がある。
81
インタビュー調査より
74
③
リサイクル
半導体製造で使用されるヘリウムガスのリサイクルも、代替や削減同様、取り
組みが進んでいなかった。その理由として、前工程で使用した後のヘリウムガス
は、様々な化合物ガスが混ざった混合ガスの状態であるため、このガスを回収、
精製し、再び半導体製造用の高純度ガスを得るには多額のコストを要することが
挙げられる
半導体製造全体におけるヘリウムの使用量は大きいものの、各工程一つ一つで
使用されるヘリウムガスは少量のため、それらを回収、輸送して精製するとなる
と非常に多くの設備投資と労力が発生するため、リサイクルは現実的でないとい
う見方もある。
図表 66
半導体分野におけるHe削減・代替・リサイクルの見通し

ヘリウム
代替・削減技術
ヘリウム
リサイクル技術


CVD工程のキャリアガスなど、アルゴンガス代替の検討がすで
に始まっている工程も一部ある
温度調整用途では、ヘリウムと同等の熱伝導性を持つガスが
少なく、代替や削減により生産性低下が懸念されるため、難
しいと見られている
前工程で使用後のヘリウムガスには不純物が多く含まれてい
るため、回収、精製によりリサイクルはコスト的に困難と見
られている
(資料)インタビュー結果より三菱UFJリサーチ&コンサルティング作成
75
(3)今後のヘリウム消費動向
世界全体の半導体生産量の増加とともに、今後、米国や韓国、台湾などの半導
体生産拠点を中心に、半導体製造用のヘリウムガスの消費量が増加すると見られ
る。国内需要は、半導体生産量の低迷から、大きく需要が拡大する見込みは少な
いと考えられる。
半導体製造用ヘリウムガスは、代替が検討されている工程はあるものの、製品
品質の管理や生産性、またヘリウムコストが占める製造コストの割合の小ささな
どから、他のヘリウム利用分野に比べて積極的な代替や削減の動きが進みにくい
可能性がある。
また、半導体用ヘリウムガスに要求される純度が高い一方、半導体製造後のヘ
リウムガス中に不純物が多いことからも、半導体製造後のヘリウムガスのリサイ
クルは、現在のところ難しいと見られている。
76
3.
光ファイバー
(1)ヘリウムの使用理由
ガラス系光ファイバーは、インターネット通信の伝送媒体として、世界中で使
用されている通信ケーブルである。ガラス系光ファイバーは、透明なガラス製か
らなるコア部と、それを被覆するクラッドとの二重構造のファイバーで、コア部
の光の屈折率を高くすることで、コア内に光を閉じ込め伝搬させることができる。
コア部は、光ファイバーの伝送損失を最小限にするため、高い透明性が求められ
る。また長距離にわたる情報通信を行うケーブルであるため、高い生産性も要求
される。
光ファイバーのコア・クラッド構造には、いくつかの型があるが、一般的なデ
ータ通信用ケーブルとして、以下のシングルモード型が使用されている。
図表 67
シングルモード型光ファイバーケーブルの構造
(資料)三菱UFJリサーチ&コンサルティング作成
光ファイバーの製造工程は、母材製造工程と線引き工程とに大別できる。母材
製造工程は、スートと呼ばれるガラス多孔質体を生成し、そのスートを焼結によ
り高温脱水処理を行い、透明化するプロセスである。線引き工程とは、透明化し
たガラスを高温で溶融し、連続的に巻き取ることで光ファイバーを製造するプロ
セスである。
77
光 フ ァ イ バ ー の 母 材 製 造 プ ロ セ ス と し て は 、 VAD ( Vapor-phase Axial
Deposition)法、OVD(Outside Vapor-phase Deposition)法、MCVD(Modified
Chemical Vapor Deposition)法の3つの方法が知られているが、このうちVAD
法とOVD法の2つが主に使用されている。MCVD法は生産性がそれほど高くなく、
一部の光ファイバー製造に使用されている82。
国内で最も多く使用されているVAD法は、SiCl 4(四塩化ケイ素)及びGeCl 4(四
塩化ゲルマニウム)を原料とし、酸素と水素雰囲気の火炎内でこれらを反応させ
スートを合成する。その後、高温雰囲気下にて焼結処理を行い、ガラスの透明化
を行う。ヘリウムガスは、原料である塩化物のキャリアガスとして使用されるほ
か、ガラス透明化の雰囲気ガスとしても使用される。
図表 68
VAD法による母材製造工程の概要
(資料)公益社団法人日本セラミック協会「セラミック」41(2006)No.10より
OVD法は、中心ロッドを使用し、その周りにスートを生成する方法である。ヘ
リウムガスに使用方法はVAD方法と同様、原料ガスのキャリアガスとして、また
透明化のための焼結の雰囲気ガスとして利用される。
3種類の母材製造工程のうち、VAD法とOVD法は、MCVD法に比べてヘリウムガス
を多く使用するプロセスであるといわれている。
82
インタビュー調査より
78
図表 69
OVD法によるスートの製造方法
スート
中心ロッド
原料ガス(SiCl4・GeCl4)、O2など
(資料)三菱UFJリサーチ&コンサルティング作成
線引き工程では、母材製造工程で得られた透明な光ファイバー母材を、高温の
炉内で溶融した後、高速で巻き取ることで光ファイバー素線が製造される。なお
ファイバーは線引き後に、紫外線硬化樹脂などをコーティングする必要があるが、
溶融直後のファイバーは約2,000℃と高温であるため、この状態で、ファイバー
表面に紫外線硬化樹脂を均一に塗布し、硬化させることは難しい。そのため、溶
融し線引き炉から引き出されたファイバーは、熱伝導性の高いヘリウムガスを吹
き付け冷却される。
図表 70
線引き工程
(資料)住友電工株式会社2013年1月・SEIテクニカルレビュー・第182号「光ファイバー
の被覆材料と構造」(http://www.sei.co.jp/tr/pdf/special/sei10749.pdf)よ
り
79
図表 71の通り、国内の光ファイバー売上高に占めるヘリウムコスト(平均値)
は2.9%で、先に計算した半導体の割合の100倍以上と試算された。この分野で
はヘリウム価格高騰のインパクトが大きいことが推測される。
光ファイバー製造における近年のヘリウム価格の影響をを図表 72に示した。
直近のヘリウム価格(約700円/Sm 3)においては、売上高に占めるヘリウムコス
トの割合は約5%にまで達すると予想され、価格高騰の影響は非常に大きいと思
われる。
図表 71
生産額に占めるヘリウムコスト(2011年・国内)
ヘリウムコスト
2.9%
(注1)ヘリウム価格を416円/Sm 3(2011年)として試算
(注2)国内全体の光ファイバー素線生産額及び光ファイバー向けヘリウム販売量をもとに、
光ファイバー売上高に占める平均的なヘリウムコスト割合を算出
(資料)経済産業省・工業統計、一般社団法人日本産業・医療ガス協会「ヘリウム生産・
販売実績一覧表」などをもとに三菱UFJリサーチ&コンサルティング作成
80
図表 72
ヘリウム価格の変化が及ぼす影響
6%
4.95%
5%
4%
3.34%
2.86%
3%
2.46%
2%
1%
0%
2010年
2011年
2012年
2013年
(注1)各年のヘリウム価格はそれぞれ、408円/Sm 3(2010年)、416円/Sm 3(2011年)、
487円/Sm 3(2012年)、721円/Sm 3(2013年)として試算
(注2)国内全体の光ファイバー素線生産額及び光ファイバー向けヘリウム販売量をもとに、
光ファイバー売上高に占める平均的なヘリウムコスト割合を算出。なお、2012年、
2013年の生産額データは入手できなかったため、2011年の光ファイバー素線生産額
及び光ファイバー向けヘリウム販売量データをもとに価格のみを変化させている。
(資料)経済産業省・工業統計、一般社団法人日本産業・医療ガス協会「ヘリウム生産・
販売実績一覧表」などをもとに三菱UFJリサーチ&コンサルティング作成
81
(2)今後のヘリウム使用量に影響を与える要因
①
市場動向
世界全体の光ファイバー市場は、ここ数年で拡大を続けており、特に中国市場
は、通信網整備を背景に近年、著しい拡大を続けている。日本市場はすでに通信
網の整備が進んでいることから、ここ数年の市場規模は縮小傾向にある。
将来的には中東やアジアなどの新興国でも通信網の整備が進むと見られる。ま
た新興国だけではなく、先進国でも通信網の整備が進んでいない地域は多く、光
ファイバーの世界市場は今後も拡大が見込まれている。
図表 73
世界の光ファイバー市場の地域別推移
(注1)2012年の発表資料中の図表であることから、2012、2013年の市場規模はそれぞれ見込
値、予測値と思われる。
(注2)シングルモード光ファイバーの市場規模。
(資料)2012年11月 61st International Cable Connectivity Symposium「Market Update
on Global Optical Cable Demand(CRU International)」より
82
図表 74
各年の地域別市場規模成長率
(注1)2012年の発表資料中の図表であることから、2012、2013年の市場規模はそれぞれ見込
値、予測値をもとに算出した成長率と思われる。
(注2)シングルモード光ファイバーの市場規模をもとに算出。
(資料)2012年11月 61st International Cable Connectivity Symposium「Market Update
on Global Optical Cable Demand(CRU International)」より
光ファイバー生産は、工程の分業化が進んでいる。たとえば、母材製造工程は、
高い技術力やノウハウが要求されるプロセスのため、海外ではコーニングやプリ
ズミアン、国内では古河電工、フジクラ、住友電工など、数社が製造し、供給し
ている。国内メーカーのうち一部には、母材製造の海外移転を行っている企業も
あるが、大半は国内で製造されている。
一方で線引き工程は、母材と線引き装置を調達できれば、高い技術がなくとも
製造できるプロセスである。光ファイバーメーカーは、コスト競争力の高い国へ
の線引き工程の移転を進めている。図表 76 に示す通り、新興国におけるファイ
バー生産シェアが高く、国内における生産割合は約11%程度である。
83
図表 75
地域別の光ファイバー生産量の推移
(注1)線引き後の光ファイバー素線の生産量。
(注2)2012年発表資料中の図表であることから、2012、2013年の生産量はそれぞれ見込値、
予測値と思われる。
(資料)2012年11月 61st International Cable Connectivity Symposium「Market Update
on Global Optical Cable Demand(CRU International)」より
図表 76
2012年の光ファイバーの地域別生産割合
(注)線引き後の光ファイバーの生産量の割合。
(資料)2012年11月 61st International Cable Connectivity Symposium「Market Update
on Global Optical Cable Demand(CRU International)」より
84
②
代替・削減技術83
近年のヘリウム価格の高騰により、光ファイバーの製造コストが大幅に増加し
ていることから、光ファイバーメーカーはヘリウムの代替や削減を積極的に進め
ている。製造コスト全体に占めるヘリウムコストのインパクトが大きい業界のた
め、ヘリウム削減の可能性について早い段階から検討されてきた。
スート母材を合成する際のキャリアガスや雰囲気ガスのヘリウム代替ガスと
して、アルゴンガスなどの不活性ガスの代替が検討されている。
ただし、母材製造工程のうち、使用量の大きいと見られる透明化工程では、代
替が難しいと考えられている。ヘリウムガスは分子の大きさが小さく、ガラスス
ートへ溶け込みやすい性質を持つため、内部に発生した気泡を除去することがで
きる。アルゴンガスや窒素ガスを利用した場合は、光ファイバーを透明化するこ
とが難しい84。
線引き工程では、ヘリウムの熱伝導性の高さという性質を活かし、加熱溶融し、
線引きした後のファイバーガラスの冷却のため、ヘリウムガスが使用されている。
ヘリウムガス同様、高い熱伝導性を持つガスとして水素ガスが知られているが、
爆発などの危険性から水素ガスへの代替は進んでいない。
83
84
インタビュー調査より
株式会社インプレスR&D「大容量光社会を作る仕事の数々
85
2005年へ光る道」
③
リサイクル
インタビューによると、現在のところ、光ファイバーで使用されるヘリウムを
リサイクルしているメーカーはほとんど存在していない。理由として、光ファイ
バー製造に使用したヘリウムには不純物が含まれるため、使用後のガスを回収・
精製し再利用するために一定の検討期間と検討コストが必要となることと、回収、
精製装置のコストが高いことなどが挙げられる。
特に、母材製造工程で使用されるヘリウムは、不純物を多く含むことから、回
収再利用が難しいと見られる。一方、線引き工程の冷却用ヘリウムは、不純物ガ
スの混入が少なく、リサイクルの可能性が比較的高いと見られている。現時点で
は、リサイクルよりも、代替や削減の取り組みがより進んでいるが、ヘリウムの
価格や途絶リスクなどが高まれば、リサイクルの動きも進むものとみられている。
図表 77
光ファイバー分野におけるHe削減・代替・リサイクルの見通し

ヘリウム
代替・削減技術



ヘリウム
リサイクル技術

母材製造工程の一部で代替ガス(アルゴンガス)の動きが進
められている
透明化プロセスではヘリウム代替が難しいと見られている
ヘリウムコストのインパクトが強いことから、代替や削減へ
の意欲は高い
母材製造工程では、原料ガスや酸素、水素ガスなど様々な不
純物を含むため、回収して生成することは難しいと見られて
いる
線引き工程の冷却用ガスであれば回収の可能性があるが、費
用対効果の点から導入された実績はない
(資料)インタビュー結果より三菱UFJリサーチ&コンサルティング作成
86
(3)今後のヘリウム消費動向
光ファイバーの世界需要は、高い成長率で拡大しており、中国を中心に今後4
∼5年先まで成長が見込まれている。国内はすでに光通信網が整備されているが、
日本以外では先進国においても光通信網が未整備な地域も多く、これらの地域で
も一定の需要が見込まれる。
光ファイバー分野のヘリウム代替や削減、リサイクルはすでに検討されている
ところであるが、近年のヘリウム価格高騰及び需給逼迫を受けて、特に国内で取
り組みが活発化すると見られる。
母材製造工程は、高い技術力が要求される工程のひとつで、国内メーカーはこ
の工程の多くを国内で実施している。母材製造工程は、光ファイバーのヘリウム
需要の多くを占めており、国内におけるヘリウム需要は今後も一定量消費される
と見られる。この工程では、母材製造用のキャリアガスはアルゴン代替の検討が
進むと見られる。
一方、線引き工程は中国をはじめとした海外への移転が進んでいることから、
線引き工程用ヘリウムは今後、これら新興国で需要が高まると予想される。一方
で、熱伝導性が高く、かつ不活性なヘリウムガスに替わるガスが存在しないため、
代替は難しいといわれている。こちらはリサイクルの検討が進められるものと見
られる。
87
4.
リークテスト
(1)ヘリウムの使用理由
高い気密性が要求される部品や機械、装置を製造する際、それらからのリーク
(漏れ)をチェックする目的でリークテストが実施される。リークテストに使用
する気体は空気や水素、ヘリウムなど様々であるが、その中でもヘリウムガスは、
特に高い気密性が要求される部品や機械、装置のリークを調べる際に使用される。
以下にリークテストの適用範囲を示した。ヘリウムリークテスターの特徴は、高
い精度でのリーク検出が可能であり、また測定方式によってはリークの定量化も
行うことができることである。
図表 78
各種リークテストの適用範囲
測定範囲( ml/sec)
101
0
10-1
10-2
10-3
10-4
10-5
10-6
10-7
流量式リークテスト
エアーリークテスト
水素リークテスト
ヘリウムリークテスト
(資料)株式会社フクダウェブページをもとに作成
ヘリウムリークテストの方法は、①装置外部をヘリウム雰囲気にし、装置内部
に侵入したヘリウムを検出する方法と、②装置内部にヘリウムガスを充填し、装
置の外部に漏れ出したヘリウムを検出する、という2つに大別できる。
①の方法は、試験対象の内部を真空状態にし、装置の周囲をヘリウム雰囲気に
する。真空吹付法(内部真空法)や真空外覆法(真空フード法)などの試験方式
が知られている。試験体に隙間があると、装置内部にヘリウムガスが入り込むた
め、そのガスを検出器(質量検出器)にて検出する。これらの方法は、リーク量
の精密定量が可能である。
88
②の方法は、ヘリウムを内部に充填させ、外部にリークしたヘリウムを検出す
る方法である。試験方式には、吹込法(スニッファー法)や浸せき法(ボンビン
グ法)、真空容器法(ベルジャー法)などがある。試験体の形状を問わずテスト
が可能な測定法なども多く、幅広い用途に使用されている。
図表 79
ヘリウムリークテストの方法(例)
真空吹付法
(内部真空法)
真空外覆法
(真空フード法)
吹込法
(スニッファー法)
浸せき法
(ボンビング法)
真空容器法
(ベルジャー法)
概要
試験体内部を真空
に排気し、外部より
ヘリウムを吹付け、
漏れ箇所より進入
したヘリウムを検
出する
ヘリウムを詰めた
ビニール袋で覆っ
た試験体を真空排
気し、漏れ箇所より
入ったヘリウムを
検出する
試験体内部にヘリ
ウムを加圧圧入し、
漏れ個所から流出
するヘリウムをプ
ローブで吸入し検
出
ヘリウムを加圧し
た試験体をチャン
バー内に入れ、真空
差圧にて流出した
ヘリウムを検出
チャンバー内にヘ
リウムを封入した
試験体を入れ、真空
排気した後、ディテ
クタに接続し、漏れ
箇所より流出した
ヘリウムを検出
用途
溶接配管、フレキシ
ブルチューブ、ハー
メチックシールな
ど
マスフローコント
ローラーなど
溶接配管、フレキシ
ブルチューブ、ハー
メチックシールな
ど
水晶振動子、SAWフ
ィルターなど
消火器、エアバック
用インフレーター
など
メリット
・超高感度のリーク
検出が可能(最高
10 -12 Pam 3 /s程度、通
常 で も 10 - 10 ∼
10 -11 Pam³)
・試験体全体のリー
クを見落としなく
検出可能
・リーク量を正確に
定量可能
・試験体の強度が低
い場合にも利用可
能
・試験体の大きさや
形状を問わず試験
可能
・漏れ位置が特定可
能
・試験体内部が真空
や空気、ガスで充て
んされた密閉容器
でも試験可能
・超高感度分析が可
能
デメリット
・大型機器や装置に
は不向き
・漏れ位置が特定で
きない。
・感度が比較的低い
( 10 -7 ∼ 10 - 8 Pam 3 /s
程度)
・漏れが大きい場合
などは試験の長時
間を要することや、
試験が出来ない場
合がある
・漏れ位置を特定で
きない
名称
(資料)各社ウェブページ、インタビュー結果をもとに作成
ヘリウムリークテストが使用される分野は多岐に渡り、自動車分野では空調関
連のラジエーター、核融合炉や加速器、FPD(フラットパネルディスプレイ)用
チャンバーなどのリークテストにヘリウムリークテスターが使用される。その他
自動車部品として、タイヤのホイール、エアバック部品、コンプレッサー、油圧
機器、バルブ類、エンジンなど様々な部品にリークテストが使用されている。自
動車部品は全量検査が基本のため、オートメーションされた装置で、全自動で分
析が行われることが多い。
89
図表 80
産業
Heリークテストの適用例
具体的な用途
自動車
エンジン部品、ガソリンタンク、各種配管、アルミホイール、電装系、ヘッドラ
イト、エアコン部品など
電気部品
電気部品用ケース、セラミックケースなど
半導体製品
半導体製品、半導体製造用のエッチング装置 など
医療機器
カテーテル、血液パック、チューブ、計器類など
包装材
食品用包装材、医薬品包装材 など
(資料)インタビュー、各社ウェブサイトをもとに作成
90
(2)今後のヘリウム使用量に影響を与える要因
①
市場動向
リークテスターは幅広い産業分野で使用されている試験装置であるが、特に自
動車部品産業や電機電子産業などでの利用割合が多く、これらの産業の拡大に比
例して需要が拡大する85。
以下に、ヘリウムリークテスターの国内出荷額と輸出額の推移を示した。国内
のリークテスター需要は減少傾向にある中、海外への輸出比率は大きく増加して
いる。輸出先は主に東南アジアや中国などで、これらの国々で今後リークテスタ
ーの需要が拡大することが見込まれる。
図表 81
ヘリウムリークテスターの国内出荷額と輸出額推移
(百万円)
3,000
2,658
2,449
2,512
2,430
2,299
2,111
1,951
2,000
1,810
1,875
1,747
1,458
1,312
1,000
0
2002
2003
2004
2005
2006
輸出
2007
2008
2009
2010
2011
2012
2013
(年)
国内出荷
(資料)日本真空工業会統計をもとに三菱UFJリサーチ&コンサルティング作成
以下に、米国と国内のリークテスター用ヘリウムガスの販売量を示した。米国
では年々、ヘリウムリークテスターの需要が減少傾向にある。日本国内はここ数
年、横ばいの状況が続いている。国内リークテスター需要は今後も横ばいもしく
は微減傾向になると、業界団体やリークテスターメーカーは予想している。
85
インタビュー調査より
91
図表 82
米国のリークテスター用ヘリウムの販売量推移
(千m3)
4,000
3,000
2,000
3,400
3,000
2,900
2,600
1,000
2,100
1,860
1,900
0
2005
2006
2007
2008
2009
2010
2011
(年)
(資料)USGS「Mineral Yearbook」より作成
図表 83
日本のリークテスター用ヘリウムの販売量推移
(千m3)
4,000
3,000
2,000
1,000
1,303
928
2008
2009
1,148
1,194
1,163
2010
2011
2012
0
(年)
(資料)一般社団法人日本産業・医療ガス協会「ヘリウム生産・販売実績一覧表」より作成
92
②
代替・削減技術
リークテスト分野におけるヘリウム代替、削減の取り組みは、試験装置を開発
しているリークテスターメーカーと、テスターを利用するユーザーとの双方にて
進められている。
メーカー側の取り組みとして、窒素/水素ガスなどの代替ガスが利用可能な装
置の開発を進めている。すでに代替ガスが利用可能な装置を実用化しているメー
カーも存在する。
自動車メーカーなどのリークテスターユーザーは、特に2012年冬のヘリウム
需給リスク前後から、代替ガスへの切り替えを検討しはじめている。一部の需要
家においては、テスターメーカーが実用化した代替ガスを利用するテスターの導
入も検討している。しかしながら、ヘリウムガスは高感度で不活性というリーク
テスター用ガスとしての高い性能を有するため、代替ガスは限られた用途での利
用にとどまっている。
93
③
リサイクル
リークテスターの試験方法のうち、浸せき法(ボンビング法)などの閉鎖系の
リークテスター方法は、高純度ガスのリサイクル可能性が高いと見られている。
実際にリークテスター用の回収装置なども市販されている。
しかしながら、ユーザーサイドでは現状、取り組みはあまり進んでいない状況
にある。リークテスターに使用される国内全体のヘリウム消費量は多いが、多岐
に渡る産業分野、企業で消費されており、個々の企業における使用量はそれほど
大量ではない。このため、企業1社での回収を考えた場合、回収コストが高くつ
くことが多いと思われる。一方で、大規模な部品メーカーでは、回収の可能性も
あると考えられる。
94
図表 84
リークテスター分野におけるHe削減・代替・リサイクルの見通し


ヘリウム
代替・削減技術


ヘリウム
リサイクル技術

窒素/水素などの混合ガスへの代替が検討されており、一部
では代替が始まっている
残留ガス分析装置など、リークテストなしで装置の漏れを検
出可能な装置(真空装置)も販売されている
水素ガスは、爆発の危険性などから、低濃度での使用に限ら
れる。また窒素やアルゴンガスは高感度分析が難しいことか
ら、高い信頼性が要求される分野では代替が進みにくいと見
られる
回収装置自体は市販されており、入手可能な状況にある。浸
せき法(ボンビング法)など、閉鎖系のテスト方法であれば、
高純度ガスを回収することが可能である
回収装置のコストなどから、導入はあまり進んでいない状況
にある
(資料)インタビュー結果より三菱UFJリサーチ&コンサルティング作成
95
(3)今後のヘリウム消費動向
ヘリウムリークテスターの需要先は、自動車メーカーや家電メーカー及びそれ
らの部品メーカーが主流であるが、食品や医薬品のパッケージ、配管、真空装置
など利用分野が拡大しており、用途は多岐に渡る。
国内のリークテスター出荷額は、自動車や家電など、リークテスターの主要ユ
ーザーの海外移転により、減少傾向にあるが、新規用途での拡大により、国内需
要が急激に減少することはないとみられている。
一方で世界では、特に新興国への産業の移転が進んでおり、国内リークテスタ
ーの海外出荷比率も高まっていることから、リークテスター用ヘリウム需要は新
興国を中心に拡大することが予想される。
リークテスターにおけるヘリウム使用量削減や代替の取り組みは、2012∼
2013年頃の需給逼迫、需給リスクを機に、代替ガス利用の機運が高まってきた
ところである。しかしながらヘリウムの高い分析精度と、不活性という特性をい
ずれも満たす代替ガスは存在しないため、当面は一部分野における混合ガスの使
用などにとどまるものと見られる。リークテスター分野では、代替や削減よりも
ヘリウムガス回収のほうが技術的には有望であると見られており、回収コストな
どがペイできれば、閉鎖系リークテスター(ボンビング法など)でのヘリウム回
収、再利用が進むものとみられる。
96
5.
その他
国内のヘリウムガス及び液体ヘリウムの用途別の販売割合を以下に示した。分
析用途や溶接、バルーン・飛行船や、低温工学などでもヘリウムが使用されてい
る。以下に各用途の概要を示した。
図表 85
国内におけるヘリウムガス/液体ヘリウムの用途別販売量(2012年)
その他
16%
その他
7%
低温工学
2%
低温工学
14%
光ファイバー
29%
バルーン・飛
行船
4%
溶接
7%
分析
9%
MRI(NMR)
79%
半導体
19%
リークテスト
14%
(資料)一般社団法人日本産業・医療ガス協会統計より作成
図表 86
ヘリウムガス/液体ヘリウムの用途と概要
用途
分析
溶接
概要
 ガスクロマトグラフィ分析のキャリアガスとしてヘリウムガスが使用され
る。
 窒素やアルゴンなど、ヘリウム以外の不活性ガスでも分析自体は可能だが、
高感度分析ではヘリウムが必須である。高感度分析では水素ガスも利用可能。
ガス消費量の低減が可能なガスセーバー付の装置も販売されている。
 金属同士を溶接する際、例えばアーク放電やレーザにより局所的に高温にし
ている。その際、金属が酸化することを防ぐため、不活性ガスであるヘリウ
ムやアルゴン、炭酸ガスを吹き付けながら行う。ヘリウムを用いることで気
孔欠陥を防ぐことができる。
 炭酸やアルゴンガスとの混合ガスなどでも使用される。
バルーン・
飛行船
 浮揚ガスとしてヘリウムが使用されている。1kgの重量の物体を浮かせるの
に必要なヘリウムは約1m 3である。
 飛行船は、航空法により年1回の点検が義務付けられているが、その際ヘリウ
ムは全量抜き取られ、回収・精製され再度充填される。
低温工学
 リニアモーターカーなどの超伝導磁気浮上列車の研究や、大規模加速器、超
伝導応用検出器(SQUID)や、各種科学実験における冷却媒体として使用さ
れている。
 国内においてはヘリウムを回収精製し、再液化を行っている例が多い。
(資料)各種資料をもとに三菱UFJリサーチ&コンサルティング作成
97
III-3. 今後の需要見通し
2013年においては、従来見通し86よりも需要伸び率は減少し、年率2.0%程度と
予想する。
予測の前提条件は以下の通りである。なお、予測の前提条件は文献調査やイン
タビュー調査等に基づいた仮定である。
 米国では、2000年代後半で需要が大きく減少している。さらに、2013年ヘリウム法には、
代替技術や再回収技術の導入促進が盛り込まれており、今後も徐々に需要は減少してい
くと考えられる。
 欧州では徐々に増加すると予想するが、これまでに比べて緩やかな伸びになると考えら
れる。
 アジア及びその他地域では、MRIの普及や、製造拠点(半導体、光ファイバー、自動車
等)の新興国への移転等により、需要が拡大すると見られる。しかしながら、ヘリウム
の価格上昇により、 これまでに比べて緩やかな伸びになると考えられる。
図表 87
世界におけるヘリウムの需要量に関する実績と予測
(億m3)
2.5
2.0
1.5
1.0
0.5
0.0
米国需要
欧州
アジア
その他
(注)実績部分は、世界需要量を世界生産量と同じとし、内訳は各種データから推計した。
(資料)US Geological Survey、 National Academy of Science「Selling the Nations's Helium
Reserve」 、Cryogas International等のデータをもとに三菱UFJリサーチ&コンサルテ
ィング推計
86
2013年6月のヘリウムサミットにおいて、Air Productsヘリウム調達・サプライチェーン部長は、
今後もこれまで3∼4%の割合でヘリウム需要は拡大していくと予想している。
98
IV.今後の需給分析
IV-1.
今後の見通し
推計した供給見通しと需要見通しを図表 88にまとめた。2015年までは需給は
おおよそ一致するが、2016年以降に需要が供給を上回ると予想する。実際には、
需要が供給を上回ることはできないため、価格が上昇することによって需要が抑
制されると考えられる。
図表 89には、需要と供給能力を比較し、さらに余剰供給能力の割合を図表 90
に示した。これによれば、2000年頃は、世界全体で10%を超える余剰供給能力が
あったが、2000年中頃から徐々に減少している。今後は供給能力が不足してい
くことが予想される。
図表 88
世界におけるヘリウム需給に関する実績と予測
(億m3)
2.0
1.5
1.0
0.5
0.0
米国払出
米国天然ガス
カタール
アルジェリア
その他
需要
(注)実績部分は、世界需要量を世界生産量と同じとし、内訳は各種データから推計した。
(資料)三菱UFJリサーチ&コンサルティング推計
99
図表 89
世界におけるヘリウム供給能力と需要に関する実績と予測
(億m3)
2.0
1.5
1.0
0.5
0.0
米国払出
米国天然ガス
カタール
アルジェリア
その他
需要
(注)米国の払出量は、これまでの実績における最大値を採用した。それ以外に関しては、これまで
もできる限り多くの量を生産していたと考えられるため、各年の供給能力は生産実績に等しい
と仮定した。
(資料)三菱UFJリサーチ&コンサルティング推計
図表 90
世界におけるヘリウム余剰供給能力(割合)の実績と予測
25%
20%
15%
10%
5%
0%
-5%
-10%
-15%
-20%
-25%
(注)各年において、{(ヘリウム供給能力)−(ヘリウム需要)}÷(ヘリウム需要)で算出。生
産能力は、トラブル等における生産設備の停止等は考慮していない。
(資料)三菱UFJリサーチ&コンサルティング推計
100
IV-2.
1.
今後の調達リスク
短期的な調達リスク
2014年現在、カタールIIの稼働やアルジェリアにおける増産等によって供給
は安定している。しかしながら、過去の需給逼迫事例からもわかる通り、ヘリウ
ムは貯蔵が難しく、在庫を多く保有できないことから、生産や流通等で障害が発
生すると、ただちに需給逼迫に陥る可能性がある。これまで、Exxon Mobilの精
製プラント、BLMパイプラインの不調や米国の港湾封鎖等によって需給逼迫が発
生しており、このような突発的な供給リスクは存在する。また、米国以外でもカ
タールやアルジェリアにおける生産量が増加していることから、米国以外での大
型プラントのトラブル等が発生した場合でも、深刻な需給逼迫が発生する可能性
がある。
2.
中長期的な調達リスク
2015年頃までは、比較的需給バランス上の問題はないが、国際的な天然ガス
市場動向が、カタールやアルジェリア等のLNG輸出に影響を与えることから、こ
れらの地域において生産が縮小すれば需給はタイト化すると見られる。
さらに、米国のBLMパイプライン周辺のガス田の枯渇が進むことや、政府関連
機関以外へのBLMの備蓄払出が終了する可能性があることを考慮すると、2010年
代後半にかけて急激に需給がタイト化する可能性がある。
長期的には、東シベリアからの供給ポテンシャルが大きいものの、その生産開
始時期は不透明である。東シベリアにおける生産が安定するまでは需給環境は厳
しい状況が続くものと考えられる。
101
V.我が国のヘリウム安定調達に関する政策課題及び提言
(1)情報収集の継続及び産業界全体への情報提供
ヘリウム需給は米国政府の備蓄払出政策の方針によっても大きく影響を受け
る。米国政府との意見交換や情報共有を継続的に進めることで、米国における突
発的な供給リスクに関する情報を察知するとともに迅速に対策が実施できる体
制を整えることが重要である。
また、ヘリウム関連事業者へのインタビューによれば、ヘリウムの供給リスク
に対する認識はヘリウムサプライヤーやヘリウム需要家の中では大きいものの、
それよりも下流のサプライチェーンでは希薄となっている傾向にある。日本政府
が、情報収集を継続的に行い、産業界全体に周知していくことによって、緊急時
の混乱も緩和されることが期待される。
(2)ヘリウム充填設備の強化の検討
ヘリウムの長距離輸送には、輸送効率の観点から液化する必要がある。しかし
ながら、ヘリウムは、沸点が−268.9℃と低く、液化しても徐々に気化していく
ため、貯蔵することが難しい。また、気化したヘリウムの一部は、空気中に逸散
していることがある。
一方で、ヘリウム充填所に再液化設備を導入することによって、貯蔵しやすく
することが容易になる。こうした設備の導入支援を進めることによって、緊急時
におけるヘリウム需給逼迫の緩和が期待される。
(3)既存の省資源技術やリサイクル設備の導入支援の検討
すでに実用化している省資源技術やリサイクル技術も多いが、経済面から導入
が困難な技術もある。こうした技術の導入支援を行っていくことで、日本のヘリ
ウム需給を緩和させる効果があると考えられる。
また、一部の分野では、技術的に代替技術の適用や再利用システムの構築が困
難である。このような分野においては、分野ごとに代替技術開発やリサイクルシ
ステムの構築を支援していくことが重要である。
102
(4)緊急時における需給安定化のための仕組み作りの検討
たとえ需給環境が安定していたとしても、今後も生産や流通における突発的な
障害が発生する可能性は十分にある。日本におけるサプライヤーの調達先は、こ
れまで米国1カ国に集中していたが、近年はカタール等からの調達も増加してい
る。したがって、緊急時にサプライヤー間で連携して、相互融通を行うことによ
って1つのソースが途絶したとしても、特定の企業に影響が波及することを避け
られる体制を整えることが重要と考えられる。
(5)引取権の確保支援
ヘリウムは天然ガスの随伴として産出する。ロシア、カタール等の天然ガス資
源国では、政府系企業が資源開発を担っている。このため、政府の外交的支援に
よって、日本企業の引取権の確保を支援していくことは有効であると考えられる。
103
VI.参考資料
VI-1.
2013年ヘリウム管理法(仮訳)
米国の納税者の利益を保護しつつヘリウム市場の安定性を確保する競争市場の形
で連邦ヘリウム備蓄の民営化を完了する目的、およびその他の目的のためにヘリウム
法を修正する法律。
開会中の米国上下両院議会により制定する。
第1条 簡略表題
本法は「2013年ヘリウム管理法」と言及することができる。
第2条 定義
ヘリウム法第2条(50 U.S.C. 167)は、以下の通り読み替える。
「第2条 定義
「本法においては、
「(1)クリフサイド・フィールド‐用語「クリフサイド・フィールド」は、
連邦ヘリウム備蓄が保管されているヘリウム貯蔵庫を意味する。
「(2)連邦ヘリウム・パイプライン‐用語「連邦ヘリウム・パイプライン」
は、連邦ヘリウム備蓄用のヘリウムが輸送される連邦所有のパイプライン系を意
味する。
「(3)連邦ヘリウム備蓄‐用語「連邦ヘリウム備蓄」は、米国が所有するヘ
リウム備蓄を意味する。
「(4)連邦ヘリウム系‐用語「連邦ヘリウム系」は、以下を意味する。
「(A)連邦ヘリウム備蓄
「(B)クリフサイド・フィールド
「(C)連邦ヘリウム・パイプライン
「(D)ヘリウムの貯蔵、輸送、取出、濃縮、精製、あるいは管理のた
めに契約に基づいて長官が所有、賃借、または管理しているその他のインフ
ラ
「(5)連邦政府使用者‐用語「連邦政府使用者」は、連邦政府機関またはヘ
リウムを使用する一つまたは複数の連邦研究補助金の学外受給者を意味する。
「(6)低BTUガス‐用語「低BTUガス」は、窒素、ヘリウム、アルゴン、お
よび二酸化炭素などの不燃性ガスを含有することから高位発熱量として測定され
る標準立方フィートあたり発熱量250Btu未満の燃料ガスを意味する。」
104
「(7)人‐用語「人」は、個人、法人、パートナーシップ、会社、組
合、信託、不動産、公的または民間機関、あるいは州または行政的小区域を
意味する。
「(8)優先パイプライン・アクセス‐用語「優先パイプライン・アク
セス」は、長官が連邦ヘリウム系によるヘリウム精製所への粗ヘリウム配送
を計画し、保証する粗ヘリウム配送の最優先権を意味する。
「(9)入札有資格者‐
「(A)一般‐用語「入札有資格者」は、長官が自らの使用、
精製、あるいは使用者に再配送するためにヘリウムを調達しよう
と決定する人を意味する。
「(B)除外‐用語「入札有資格者」には、本法に基づく入札
資格者の要件を満たしていない人であると長官が以前決定した人
は含まれない。
「(10)国内ヘリウム取引の認可‐用語「国内ヘリウム取引の認可」
は、連邦ヘリウム系からの粗ヘリウムの受領、貯蔵、配送、または再配送に
関する長官との契約保有者が当事者である、過去1年間に米国内で
15,000,000標準立方フィート以上の粗ヘリウムまたは純ヘリウムの調達ま
たは売買のために締結された契約、あるいは再交渉された契約を意味する。
「(11)精製業者‐用語「精製業者」は、連邦ヘリウム・パイプライ
ンから粗ヘリウムの配送を受領し、粗ヘリウムを純ヘリウムに精製すること
ができる人を意味する。
「(12)長官‐用語「長官」は、内務長官を意味する。」
第3条 長官の権限
ヘリウム法第3条(50 U.S.C. 167a)は、末尾に以下を追加して修正する。
「(c)連邦政府所有地の貯留層からのヘリウムの抽出‐連邦政府所有地のヘリウ
ムの売買または処分から長官が得た金額はすべて、第6条(e)に基づき設立されるヘ
リウム生産基金に入金されるものとする。」
第4条 貯蔵、取出、および輸送
ヘリウム法第5条(50 U.S.C. 167c)は、以下の通り読み替える。
「第5条 貯蔵、取出、および輸送
「(a)一般‐長官がヘリウムの貯蔵、取出、または輸送業務を任意の人に提供す
る場合、長官は当該業務の経済価値を正確に反映した料金を当該人に課すものとする。
「(b)最低料金‐(a)項に基づいて課される料金は、連邦ヘリウム系の改善お
よび保守への資本投資を含めて、貯蔵、取出、または輸送業務の提供費用全額を長官
に弁済するために必要な金額を下回らないものとする。
「(c)料金表‐第6条(a)、(b)、または(c)項に基づく売買または競売の前
に、長官は、長官が本条に基づいて課する料金の標準一覧表を毎年発行するものとす
る。」
105
「(d)取り扱い‐本条に基づき長官が受領した料金はすべて、第6条(e)に基づ
き設立されるヘリウム生産基金に入金されるものとする。
「(e)貯蔵および配送‐本条に従い、長官は以下を行うものとする。
「(1)第6条に基づき粗ヘリウムの売却または競売を受ける任意の人ある
いは入札有資格者が連邦ヘリウム備蓄にヘリウムを貯蔵することを許可するこ
と、および(2)以下の場合に連邦ヘリウム系を使用するヘリウムの輸送および
配送の予定を立てること。
「(A)第6条(b)(2)に基づき競売にかけられたヘリウムの適時の
配送を保証する場合
「(B)第6条(b)(2)に従い非配分売買などの競売以外の手段で長
官から入手した連邦ヘリウム備蓄のヘリウムの適時の配送を保証する場
合、および
「(C)連邦政府使用者に対する現物売買のために連邦ヘリウム・パイ
プラインへの優先アクセスを提供する場合
「(f)新パイプライン・アクセス‐長官は、第6条に基づき資産の商業販売およ
び処分を段階的に廃止する計画と一貫性のある方法で、連邦ヘリウム・パイプライン
へのアクセスの応用を検討するものとする。」
第5条 粗ヘリウムの売買
ヘリウム法第6条(50 U.S.C. 167d)は、以下の通り読み替える。
「第6条 粗ヘリウムの売買
「(a)フェーズA:配分の推移
「(1)一般‐長官は、(b)(7)項に基づき確定された数量、時期、最低
価格以上、および最小限の市場混乱で本項を遂行するために長官が必要であると
決定した取引条件で粗ヘリウムを売りに出すものとする。
「(2)連邦政府調達‐連邦政府使用者は、長官から現物価格で相当数量の粗
ヘリウムを調達する執行可能な契約を締結した人から、本項に基づき優先パイプ
ライン・アクセスで精製ヘリウムを調達することができる。
「(3)期間‐本項は、以下の期間適用される。
「(A)2013年ヘリウム管理法の制定日に始まり、2014年9月30日で終了
する期間、および
「(B)(b)項に基づくヘリウムの売買が遅延または一時停止している
期間
「(b)フェーズB:競売の実施
「(1)一般‐長官は、各競売の完了後に、(2)号に基づく競売の対象で
はない数量の粗ヘリウムを(7)号に基づき確定された最低金額以上で、以下のた
めに長官が必要であると決定した取引条件で売りに出すものとする。
「(A)長期間にわたり連邦ヘリウム備蓄からのヘリウムの総採取を最
大にするため
「(B)納税者に対する財務利益を最大にするため」
106
「(C)連邦ヘリウム備蓄からヘリウムの抽出および生産を行う長
官の職能に従い粗ヘリウム売買を管理するため
「(D)連邦ヘリウム備蓄に混乱が生じた場合に、連邦政府使用者
のヘリウム需要を満たすことに優先権を与えるため、および
「(E)最小限の市場混乱で本項を遂行するため
「(2)競売数量‐(4)号に記載した期間中、(8)号に記載した条件
に沿って、長官は、連邦ヘリウム備蓄の以下と等しい数量の粗ヘリウムを任
意の入札有資格者に対して毎年競売にかけるものとする。
「(A)2015会計年度については、当該会計年度に提供される粗ヘ
リウムの総量の10パーセント
「(B)2016∼2019会計年度については、前会計年度に提供される
割合よりも15パーセント多い粗ヘリウムの総量の割合
「(C)2020会計年度以降の各会計年度については、当該会計年度
に提供される粗ヘリウムの総量の100パーセント
「(3)連邦政府調達‐連邦政府使用者は、長官から現物価格で相当数
量の粗ヘリウムを調達する執行可能な契約を締結した人から、本項に基づき
優先パイプライン・アクセスで精製ヘリウムを調達することができる。
「(4)期間‐本項は、以下の期間適用される。
「(A)2014年10月1日に始まり、
「(B)連邦ヘリウム備蓄における採取可能な粗ヘリウムの容量(第
5条および本条に基づき連邦ヘリウム備蓄に一時的に貯蔵される粗ヘ
リウムの民間所有量を除く)が3,000,000,000標準立方フィートとなる
日に終了する期間
「(5)セーフティーバルブ‐長官は、(2)号で指定された数量を以
下の通り調整することができる。
「(A)長官が以下のために調整が必要と決定した場合には下方調
整
「(i)米国経済の安泰を脅かす市場混乱を最小限とするため
に
「(ii)上院のエネルギー・天然資源委員会および下院の天
然資源委員会に対して調整を正当化する書面を提出した後に限
り、または
「(B)長官が粗ヘリウムの競売への参加または納税者の利益を増
大させるために調整が必要と決定した場合には上方調整
「(6)競売の形式‐長官は、連邦政府の歳入を最大とする方法で各競
売を実施するものとする。
「(7)価格‐長官は、規定に従い、妥当な場合には以下の優先順位で、
(a)(1)項ならびに(1)号および(2)号に基づく最低競売価格を個別
に毎年設定するものとする。」
107
「(A)(2)号に基づき長官が開催する競売における粗ヘリウムの
販売価格
「(B)利益相反のない、適格な国内ヘリウム取引の秘密調査を実施
する有資格の独立した第三者による価格の提案および個別要素データ
「(C)すべての適格な国内ヘリウム取引において各人が調達、売買、
または処理したすべての粗ヘリウムおよび純ヘリウムの容積加重平均
価格
「(D)気体粗ヘリウムを純ヘリウムに変換する容積加重平均費用
「(8)取引条件
「(A)一般‐長官は、粗ヘリウムの取出、受入、貯蔵、輸送、配送、
または再配送のための長官との契約の当事者であるすべての人に対し
て、極秘扱いで以下を開示することを要求するものとする。
「(i)適格な国内ヘリウム取引において各人が調達、売買、
または処理したすべての粗ヘリウムおよび純ヘリウムの容量および
千立方フィートあたりのドル建て関連価格
「(ii)気体粗ヘリウムを純ヘリウムに変換する容量および千
立方フィートあたりのドル建て関連価格、および
「(iii)精製所の能力および将来の能力予測
「(B)条件‐2013年ヘリウム管理法の制定日の90日後から発効す
る(a)(1)項ならびに(1)号および(2)号に基づく精製業者への
売却または競売の条件として、精製業者は、以下に対して商取引上合
理的な料金で余剰ヘリウム精製能力を提供するものとする。
「(i)(2)号に基づく競売で優勢な人、および
「(ii)2013年ヘリウム管理法の制定日後に、非配分売買など
の(2)号に基づく競売以外の手段で長官から連邦ヘリウム備蓄の粗
ヘリウムを入手した人
「(9)情報の利用‐長官は、本法に基づき収集した情報を以下のため
に利用することができる。
「(A)粗ヘリウム価格を見積もるため、および
「(B)米国の納税者のために粗ヘリウムの価格から適正価格を確実
に回収するため
「(10)秘密保護‐長官は、本法に基づき提出された情報の秘密を保
持するために長官が必要かつ合理的と判断する行政方針および手続きを
採用するものとする。
「(11)先行競売‐2016会計年度の発効により、長官は、長官が先行
競売は以下の通りであると決定した場合には、次の会計年度中に競売で提
供される予定の粗ヘリウムの容量の最大10パーセントに相当するヘリウ
ム数量について、会計年度ごとに1回の先行競売を実施することができる。
「(A)備蓄からのヘリウム供給に混乱を引き起こさない。
「(B)費用効果の高い措置となる。」
108
「(C)納税者のためにより大きな利益を生み出す。および
「(D)価格発見の有効性を高める。
「(12)販売計画および頻度‐2015会計年度については、長官は、先
行する競売1回と、2014年8月1日までに行われ、2014年9月26日までにそれに
対する全額最終支払が行われる売買1回のみを実施することができる。(2)
号に基づき設定される年間要領に沿って、2016会計年度の発効により、長官
は、長官が競売の頻度は以下の通りであると決定した場合には、会計年度ご
とに2回の競売を実施することができる。
「(A)備蓄からのヘリウム供給に混乱を引き起こさない。
「(B)費用効果の高い措置となる。
「(C)納税者のためにより大きな利益を生み出す。および
「(D)価格発見の有効性を高める。
「(13)一括販売
「(A)一般‐(4)(A)号にかかわらず、長官は、本条に基づき、
2016会計年度に提供可能な数量から、2014年8月1日以前にヘリウムの
一括販売を行うものとする。当該販売の全額最終支払は、販売された
日から45日以内に行われなければならない。
「(B)販売容量‐本号に基づき販売されるヘリウムの容量は、以
下の通りとする。
「(i)少なくとも250百万立方フィート、かつ
「(ii)(2)(B)号に沿って販売可能な容量
「(c)フェーズC:連邦政府使用者の継続的アクセス
「(1)一般‐長官は、本項を遂行するために長官が必要であると決定
した時期、当該販売の全費用を長官に弁済するために必要な価格、および取
引条件で連邦政府使用者に販売される粗ヘリウムを提供するものとする。
「(2)連邦政府調達‐連邦政府使用者は、長官から現物価格で相当数
量の粗ヘリウムを調達する執行可能な契約を締結した人から、本項に基づき
優先パイプライン・アクセスで精製ヘリウムを調達することができる。
「(3)発効日‐本項は、(b)(4)(B)項に記載された日以降適用
される。
「(d)フェーズD:資産の処分
「(1)一般‐(c)項に記載されたフェーズCの開始日から2年以内か
つ2021年9月30日までに、長官は、余剰財産を指定し、米国が連邦ヘリウム系
に保有しているすべての施設、設備、およびその他の不動産および動産、な
らびにそれらに関するすべての権益を処分するものとする。
「(2)適用法‐(1)号に記載された財産の処分は、合衆国法典第40
巻サブタイトルIに従うものとする。
「(3)収益‐(1)号に記載された財産の売却またはその他の処分に
より米国にもたらされたすべての収益は、(e)項のために本法に基づき受領
した資金として扱われるものとする。」
109
「(4)費用‐本項に基づく売却および処分(職員の解雇に伴う費用を含む)、
ならびに活動の停止に伴うすべての費用は、(e)項に基づき設立されるヘリ
ウム生産基金の使用可能な金額から支払われるものとする。
「(e)ヘリウム生産基金
「(1)一般‐粗ヘリウムの売買または競売による金額を含めて、本法に基
づき受領された金額はすべて、以下を含む連邦ヘリウム系の改善および保守へ
の資本投資を含めて、長官が本法(第16条、第17条、および第18条を除く)を
遂行するために必要かつ費用効果が高いと決定した目的のために会計年度の
制限なく利用できるヘリウム生産基金に入金されるものとする。
「(A)クリフサイド・フィールドにおける坑口の保守
「(B)クリフサイド・フィールドの加圧施設の保守および改善への資
本投資
「(C)連邦ヘリウム備蓄の粗ヘリウムの貯蔵、取出、濃縮、輸送、精
製、および売買に関連した設備の保守および改善への資本投資
「(D)連邦ヘリウム系からの粗ヘリウムの採取を最大とする新設坑井
の掘削または既存坑井の再生のための調達、賃借、またはその他の契約の
締結、および
「(E)連邦ヘリウム系のその他の定期保守または計画外保守
「(2)余剰資金‐(1)号を遂行するために長官が必要と決定した金額を
超えるヘリウム生産基金の金額は、財務省の一般基金に支払われ、年間連邦財
政赤字の削減に使用されるものとする。
「(3)公的債務の返済‐(2)号に基づき財務省の一般基金に支払われる
金額から、財務長官は公的債務を返済するために51,000,000ドルを使用するも
のとする。
「(4)報告‐2013年ヘリウム管理法の制定日から1年以内およびその後毎
年、内務長官は、上院のエネルギー・天然資源委員会および下院の天然資源委
員会に対して、本法を遂行するための土地管理局によるすべての支出を記載し
た報告書を提出するものとする。
「(f)最低数量‐長官は、各会計年度内に(a)項、(b)項、および(c)項に基
づき、次のうちいずれか少ない方の数量の粗ヘリウムを売買または競売に提供するも
のとする。
「(1)2012会計年度に長官が販売に提供した粗ヘリウムの数量、または
「(2)連邦ヘリウム系の最大総生産能力」
第6条 情報、評価、研究、および戦略
ヘリウム法(50 U.S.C. 167以降)は、以下により修正する。
(1)第15条(50 U.S.C. 167m)の廃止
(2)第17条(50 USC 167注)の第20条としての再指定
(3)第14条(50 U.S.C. 167l)の後への以下の挿入
110
「第15条 情報
「(a)透明性‐長官は、土地管理局を通じて、以下を含む連邦ヘリウム系に関連
した情報をインターネット上で提供するものとする。
「(1)一般市場価格および現物価格の継続的公表
「(2)余剰精製能力の集計予測
「(3)連邦ヘリウム備蓄に保有されているヘリウムの所有者
「(4)連邦ヘリウム・パイプラインを通じて各人に配送されるヘリウムの容
量
「(5)連邦ヘリウム・パイプラインの圧力制約
「(6)粗ヘリウムの連邦ヘリウム備蓄への残存が3,000,000,000標準立方フ
ィートとなり、第6条(c)に記載された最終フェーズが始まる予定日の予測
「(7)第5条に基づき課される料金の金額
「(8)連邦ヘリウム・パイプラインを通じた粗ヘリウム配送の予定、および
「(9)透明性を高めるその他の要素
「(b)報告‐2013年ヘリウム管理法の制定日から90日以内に、ヘリウム資源に
影響を及ぼす適切かつ適時の情報を市場へ提供するために、土地管理局長は、以下を
含むヘリウム事業に影響を及ぼすデータを提供するための適時の公的報告手順を確立
するものとする。
「(1)年間保守計画および四半期ごとの更新で、以下を含むものとする。
「(A)連邦ヘリウム・パイプラインの計画的停止の日時および期間
「(B)定期、延長、または臨時のいずれかを問わず、連邦ヘリウム系で
予定されている作業の性質
「(C)ヘリウム供給に対する作業の予想される影響
「(D)供給プロセスに対する影響を最小限とするために行われる取り組
み、および
「(E)パイプラインの圧力またはパイプラインの通常運転からの逸脱を
含む、連邦ヘリウム・パイプラインの保守に関する懸念
「(2)計画外の停止が行われるごとに、以下の説明
「(A)停止の開始
「(B)停止の予定期間
「(C)問題の性質
「(D)ヘリウム供給に対して予想される影響
「(E)見込まれる是正期間の予想および期間内で計画が成功する見込み
を含む、問題点の是正計画
「(F)ヘリウム供給プロセスに対する悪影響を最小限とするための取り
組み、および
「(G)修理状況の更新および予定稼働日
「(3)参加者リストおよび会議または通信の結果講じられた措置の記載を含
む、土地管理局とCliffside Refiners Limited Partnershipとの間の会議および
通信の月次要約、および
「(4)現行の需要および予想される需要、ならびに次の会計年度中の連邦ヘ
リウム系の予想最大生産能力に基づく粗ヘリウムの供給可能期間の長さを含む、
連邦ヘリウム系の寿命に関する現在の予測」
111
「第16条 ヘリウムガス資源の評価
「(a)一般‐2013年ヘリウム管理法の制定日から2年以内に、長官は、米国地
質調査所所長を通じて、以下を行うものとする。
「(1)関係する州地質調査所の所長と協力して、
「(A)二酸化炭素、窒素、および天然ガスなどの各ヘリウム源にある
成分ガスの評価を含む、各貯蔵庫におけるヘリウム3同位体を含むヘリウム
の数量を確認し、定量化する米国内のヘリウムガス評価を完了すること、
および
「(B)ブッシュドーム貯蔵庫の特徴づけのために近代的な地震および
地球物理学的ログ・データを提供すること
「(2)関係する国際機関および国際地質学会と協力して、各貯蔵庫におけ
るヘリウム3同位体を含むヘリウムの数量を確認し、定量化する国際的なヘリ
ウムガス評価を完了すること
「(3)エネルギー情報局管理官を通じて、エネルギー長官と協力して、以
下を完了すること
「(A)ヘリウム3同位体を含むヘリウムに対する国際的な需要動向の
評価
「(B)科学、医療研究、商業、製造、宇宙工学、低温工学、および国
防などのすべての部門にわたるヘリウムに対する国内需要の10年予測、お
よび
「(C)連邦政府利用を含む、医療、科学、工業、商業、およびその他
の米国内でのヘリウム利用に関する調査一覧を作成し、ヘリウム利用の性
質、必要数量、当該利用におけるヘリウムの再生および再利用の技術的・
商業的実現可能性、ならびに可能であれば代替材料の利用可能性を特定す
ること
「(4)上院のエネルギー・天然資源委員会および下院の天然資源委員会に
対して、本号で要求された評価の結果を記載した報告書を提出すること
「(b)割当額の認可‐本条を遂行するために1,000,000ドルの割り当てを認可
する。
「第17条 低BTUガスの分離およびヘリウム保全
「(a)認可‐エネルギー長官は、以下の研究、開発、商業的応用、および保全
事業((b)項に記載された事業を含む)を支援するものとする。
「(1)低Btuガスおよびヘリウム資源の国内生産を拡大するためのもの」
112
「(2)天然ガス流からヘリウムを分離および捕獲するためのもの、および
「(3)天然ガスの探査および生産中にヘリウムおよびヘリウムを産出する低
Btuガスの排出を低減させるためのもの
「(b)事業
「(1)膜技術研究‐エネルギー長官は、他の関係機関と協議のうえ、天然ガ
スのBtu含有量を低下させるヘリウムおよびその他の成分ガスを除去する技術を
含む、低Btuガスの分離に使用される先進膜技術を開発する民間研究事業を支援す
るものとする。
「(2)ヘリウム分離技術‐エネルギー長官は、以下を含む地質学的貯蔵庫ま
たは層において自然に発生する低濃度ヘリウムの分離、採集、および処理を行う
技術を開発する研究事業を支援するものとする。
「(A)低Btuガスの生産流、および
「(B)天然ガス生産中のヘリウムガスの大気中排出を最小限にする技術
「(3)工業ヘリウム事業‐エネルギー長官は、エネルギー省の先進製造技術
局と調整して、以下の研究事業を遂行するものとする。
「(A)連邦政府利用を含む、医療、科学、工業、商業、航空宇宙、およ
びその他すべての米国内でのヘリウム利用に関するヘリウムの再利用、再処
理、および再生のための低コスト技術および技術システムの開発、および
「(B)アンモニア処理を含む他の化学的処理によりヘリウムを捕獲する
工業的採集技術の開発
「(c)割当額の認可‐本条を遂行するために3,000,000ドルの割り当てを認可す
る。
「第18条 ヘリウム3の分離
「(a)省庁間の協力‐長官は、以下を含む粗ヘリウムおよびその他の潜在的資源
からのヘリウム3同位体の抽出ならびに精製に関連した評価あるいは研究において、エ
ネルギー長官または被指名人と協力するものとする。
「(1)ガス分析、および
「(2)インフラ研究
「(b)実現可能性調査‐長官は、エネルギー長官または被指名人と協議のうえ、
以下の実現可能性を評価する調査を実施できるものとする。
「(1)粗ヘリウムからヘリウム3同位体を分離する施設の設置、および
「(2)ヘリウム3同位体の他の潜在的資源の探査
「(c)報告‐2013年ヘリウム管理法の制定日から1年以内に、長官は、上院のエ
ネルギー・天然資源委員会および下院の天然資源委員会に対して、本条に基づき実施
された評価の結果を記載した報告書を提出するものとする。
「(d)割当額の認可‐本条を遂行するために1,000,000ドルの割り当てを認可す
る。」
113
「第19条 連邦機関のヘリウム獲得戦略
「第6条(d)に記載されたフェーズDの実施を見越して、2013年ヘリウム管理法の
制定日から2年以内に、長官は、(エネルギー長官、国防長官、全米科学財団ディレク
ター、航空宇宙局管理官、国立衛生研究所ディレクター、および必要に応じてその他
の機関と協議のうえ、)連邦政府使用者に以下を記載した報告書を議会に提出するも
のとする。
「(1)粗ヘリウムおよび精製ヘリウムの消費および予測需要に関する評価
「(2)ヘリウムの利用可能性を保証する20年連邦戦略の内容
「(3)連邦政府使用者に対する供給途絶の可能性を最小限とする、第6条(d)に
記載されたフェーズDの実施に向けた2021年9月30日以前の日付の決定
「(4)精製ヘリウム価格上昇の影響、ならびに判定された影響を緩和する方法お
よび政策の評価、および
「(5)時間の経過とともに発生する恐れのあるヘリウム供給の可能性低下をもた
らすような利用の優先順位を決定する過程の説明」
第7条
修正の遵守
(a)ヘリウム法第4条(50 U.S.C. 167b)は、(c)(3)項、(c)(4)項、
および(d)(2)項に記載されている「第6条(f)」をそれぞれ削除し、「第6条(e)」
を挿入することにより修正する。
(b)ヘリウム法第8条(50 U.S.C. 167f)は、廃止される。
第8条
現存する契約
(a)一般‐本法および本法による修正は、本法の制定日に現存する契約に基
づく内務長官ならびに民間当事者の権利および義務に影響を及ぼさないものであり、
これらを減少させないものとする。ただし、制定日以後に更新または延長された契約
の範囲についてはこの限りではない。
(b)配送‐(a)項に記載された契約はいずれも、ヘリウム法第5条(e)(2)
(50 U.S.C. 167c(e)(2))(第4条により修正した通り)に従いヘリウムの配送を受
けるために、ヘリウム法第6条(50 U.S.C. 167d)(第5条により修正した通り)に従
い本法の制定日以降にヘリウムを調達する当事者の権利に影響を及ぼさないものと
し、またこれを減少させないものとする。
第9条 規制
内務長官は、不当な行為および不公正な慣行を防止するために必要な規制を含む、
本法および本法による修正を実施するために必要な規制を公布するものとする。
第10条 他の法律の修正
( a ) 農 村 学 校 確 保 ・ 地 域 社 会 自 己 決 定 事 業 ( SECURE RURAL SCHOOLS AND
COMMUNITY SELF DETERMINATION PROGRAM)
(1)連邦政府所有地を含む州・郡に対する支払確保
114
(A)支払いの可能性‐2000年農村学校確保・地域社会自己決定法第101
条(16 U.S.C. 7111)は、記載されている「2012」をそれぞれ削除し、「2013」
を挿入することにより修正する。
(B)選定‐2000年農村学校確保・地域社会自己決定法第102条(b)(16
U.S.C. 7112(b))は、以下により修正する。
(i)(1)(A)号において、「2012」を削除し、「2013」を挿入
すること、および
(ii)(2)(B)号において、記載されている「2012」をそれぞれ
削除し、「2013」を挿入すること
(C)有資格の各郡に対する支払いの分配‐2000年農村学校確保・地域社
会自己決定法第103条(d)(2)(16 U.S.C.7113(d)(2))は、「および2012
年」を削除し、「から2013年まで」を挿入することにより修正する。
(2)連邦政府所有地で特別事業を実施する権限の継続‐2000年農村学校確
保・地域社会自己決定法第II巻は、以下により修正する。
(A)第203条(a)(1)(16 U.S.C. 7123(a)(1))において、「2012」
を削除し、「2013」を挿入すること
(B)第204条(e)(3)(B)(iii)(16 U.S.C.7124(e)(3)(B)(iii))
において、「2012」を削除し、「2013」を挿入すること
(C)205条(a)(4)(16 U.S.C. 7125(a)(4))において、記載されて
いる「2011」をそれぞれ削除し、「2012」を挿入すること
(D)第207条(a)(16 U.S.C. 7127(a))において、「2012」を削除し、
「2013」を挿入すること、および
(E)第208条(16 U.S.C. 7128)において、
(i)(a)項において、「2012」を削除し、「2013」を挿入すること、
および
(ii)(b)項において、「2013」を削除し、「2014」を挿入するこ
と
(3)郡基金を留保し使用する権限の継続‐2000年農村学校確保・地域社会自
己決定法第304条(16 U.S.C. 7144)は、以下により修正する。
(A)(a)項において、「2012」を削除し、「2013」を挿入すること、
および
(B)(b)項において、「2013」を削除し、「2014」を挿入すること
(4)割当額の認可‐2000年農村学校確保・地域社会自己決定法第402条(16
U.S.C. 7152)は、「2012」を削除し、「2013」を挿入することにより修正する。
(b)廃坑井の修復‐2005年エネルギー政策法第349条(42 U.S.C. 15907)は、
末尾に以下を追加して修正する。
「(i)連邦政府掘削の坑井‐現在または以前の国立石油備蓄基地にある廃棄され
た油井およびガス坑井を修復、再生、ならびに閉鎖するために、別途割当がない場合
には、財務省の資金から2014会計年度に10,000,000ドル、2015会計年度に36,000,000
ドル、および2019会計年度に4,000,000ドルを長官に提供するものとし、それ以降の割
当は行わず、使い終わるまで使用可能なままとする。」
115
(c)国立公園整備の未処理分‐1996年包括公園公有地管理法第814条(g)(16
U.S.C. 1f)は、末尾に以下を追加して修正する。
「(4)利用可能な資金‐遅延整備事業に対する課題費用分担協定の連邦政府財
政支援分担金の支払および国立公園局のインフラ不足の是正のために、別途割当が
ない場合には、財務省の資金から2018会計年度に20,000,000ドル、および2019会
計年度に30,000,000ドルを内務長官に提供するものとし、それ以降の割当は行わ
ず、使い終わるまで使用可能なままとする。
「(5)費用分担要件‐連邦政府財政支援分担金を支払うために(4)号に基づ
き提供される資金の総事業費の少なくとも50パーセントは、適正価格による物品お
よびサービスの現物出資を含めて、連邦財源以外から得られるものとする。」
( d ) 廃 坑 の 再 生 資 金 ‐ 1977 年 露 天 採 掘 管 理 再 生 法 第 411 条 ( h ) ( 30
U.S.C.1240a(h))は、末尾に以下を追加して修正する。
(6)追加財政支援‐
(A)制限の放棄‐(5)号にかかわらず、本項に基づき認定された州また
はインディアン部族に対する年間総支払額に対する制限は、2014会計年度およ
び2015会計年度に適用しないものとする。
(B)放棄に対する制限‐(A)号にかかわらず、本項に基づき認定された
州またはインディアン部族に対する年間総支払額は、2014会計年度については
28,000,000ドルを超えないものとし、2015会計年度については75,000,000ド
ルを超えないものとする。
(C)不足金額‐(1)号および(2)号に基づき認定された州またはイン
ディアン部族に対する年間総支払額が(B)号により制限された場合には、長
官は以下を行うものとする。
(i)(2)号に基づく支払いを優先すること、および
(ii)(1)号に基づく支払いに対して残りの資金を使用すること
(e)ソーダ灰使用料‐鉱物賃貸法第24条(30 U.S.C. 262)および同法に基づく賃
貸借契約条件にかかわらず、本法の制定日から起算して2年間に連邦政府所有地から市
場に出荷された時点のナトリウム化合物の総産出額および関連製品の数量に対する使
用料は、4パーセントとするものとする。
(f)権限の補正‐2007年エネルギー独立性・安全保障法第207条(c)(42 U.S.C.
17022(c))は、末尾の期間の前に以下を挿入することにより修正する。
「ただし、本条を実施するために割当が認可されるが、2013年ヘリウム管理法の制定
日現在には割り当てられていなかった金額は、6,000,000ドル削減されるものとする。」
承認日:2013年10月2日
立法経緯‐下院第527号決議案:
議会報告書:No. 113-42(天然資源委員会)
連邦議会議事録第159巻(2013年)
4月25日・26日:下院で審議され通過
9月19日:上院で審議され修正の上通過
9月25日:下院が下院第354号決議案で修正の上、上院修正案に同意
9月26日:上院が下院修正案に同意
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平成25年度石油産業体制等調査研究
(ヘリウムを含有する天然ガスに関する調査)
報告書
平成26年3月
発行:
経済産業省製造産業局化学課
委託先:三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社
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