ハワイ手帳 2015 ハワイアンソング 12 曲 はじめに 対訳に取りかかる際は、はじめに歌の背景や作者の経歴などを出来る限り調べることからスタートすることをお勧 めします。そして、まずはハワイ語の辞書を引きながら直訳をしてみます。訳語を載せていますが、これはひとつの 例です。違う意味や解釈もありますから、なるべく辞書で単語を調べてみましょう(最近はネットで調べることもで きます。http://wehewehe.org/) 。そしてことばをつないでみます。はじめは不自然な日本語かもしれません。そ うしたら、改めてじっくりと歌詞を見つめながら、こんなことを想像してみます。もし、私が歌の主人公だったとし たら。作曲者になったつもりで、 ちょっと歌の中に入り込んでみましょう。歌の背景などを調べておけば、想像(妄想?) するときに役に立ちそうですね。 例えばカナナカという人魚の歌が出てきますが、もし自分が人魚だったら?どんなふうにラハイナの海で過ごすで しょうか。そんなふうに思いを巡らせていて、やがて風景や光景として頭に浮かんできたらしめたものです。その浮 かんできた絵をもとにして、改めて自分の言葉に変えて訳してみましょう。そうして出来た訳には、読む側にも風景 や情景がきっと浮かぶはずです。この企画の目的は、対訳のテクニックを競うこととはちょっと違います(と僕は思っ ています) 。皆さんがどんな歌の風景を描くか、対訳というキャンパスに向かって想像力豊かに筆をふるってくれる ことを期待しています。 歌詞は曲によって 1 番だったり 2 番だったりと様々です。また、簡単な解説をつけました。皆さんが対訳をする際 の参考になれば幸いです。なお、ハワイアンソングには歌詞の異なるバージョンがしばしばあります。ここで取り上 げた歌詞にも異なるバージョンがあることをご了承ください。 神保 滋 1月「He Aloha Nō ʻO Honolulu」 Lot Kauwe He aloha nō ʻo Honolulu I ka ua Kūkalahale Ka nuku aʻo Māmala ʻAu aʻe nei mahope he aloha nō : 大好きな ʻo Honolulu : ホノルル i ka ua : 雨の中 Kūkalahale : クーカラハレの雨 ka nuku : 入り口 aʻo Māmala : マーマラ湾の ʻau aʻe nei :(船が)進む mahope : 後にして マウナロア号という船に乗り、オアフ島ホノルルを出航してマウイ島経由でハワイ島まで航海をする歌。1 番の歌詞 の前半を取り上げました。ホノルルに降る雨の名前やホノルル湾の古語名が出てきます。作者の故郷はハワイ島ホオ ケナだったので、たぶん里帰りの船旅でしょう。この歌が書かれたのは 1920 年頃とのこと。ホノルルで船が入出港 するのは、ちょうどアロハタワーが建っている場所です。 2月「Pāpālina traditional Lahilahi」 He aha nō hoʻi kau lā ʻO ke alawiki ʻana mai Ua ʻike iho nō ʻoe lā A he pua ʻoe ua ʻako ʻia he aha : 何? nō hoʻi kau :(感情の強調) lā :(感嘆詞) ʻo ke alawiki ʻana : 急ぐこと mai: こちらへ ua ʻike iho : 知っている(現在進行形) nō :(感情の強調) ʻoe : あなたは a he pua : 花だ ua ʻako ʻia : 摘まれた(受け身過去形) 曲名は「柔らかくてかわいいほっぺた」のこと。その 2 番を取り上げました。恋人とのやりとりを歌っています。つ きあって長いのでしょうか。歌詞からは、お互い遠慮がなくなってきているような印象を受けます。ハワイ文化のひ とつにカオナ(kaona)があります。カオナはことばの裏に隠された意味のことで、この歌にもカオナがあるとされ ています。隠すくらいですから、その内容は思い切りセクシャルだったり。 3 月「Lei by Charles Nāmāhoe Nani」 ʻAuhea wale ʻoe kuʻu lei nani Hoʻi mai nō kāua lā e pili Kou aloha kaʻu aʻe hiʻipoi nei Hākuʻikuʻi ʻeha i koʻu manaʻo ʻauhea wale : どこに?、聞いてください ʻoe : あなたは kuʻu lei : 私のレイ nani : 美しい hoʻi mai: 戻る nō :(感情の強調) kāua : あなたと私は、私たちは lā :(感嘆詞) e pili : 一緒になる kou aloha : あなたの愛 kaʻu : 私のもの aʻe hiʻipoi nei : 大事にする hākuʻikui ʻeha : 痛みが打つ i koʻu manaʻo : 私の思い 1 番と 2 番の歌詞です。フラソングではレイを子どもや恋人、伴侶など大切な人に例えます。レイのようにいつも胸 に抱いていたい存在です。実は、 最初の曲名は「Lei Lani」であり、作者も違うという説があります。その説によると、 ハワイ島の桃源郷パリウリに住む伝説上の美少女、ラーイエイカヴァイがモチーフになっているとか。ラーイエイカ ヴァイにかなわぬ恋をした男性の想いを歌っているそうです。 4 月「Henehene traditional Kou ʻAka」 Kaʻa uila mākēneki Hōʻoniʻoni kou kino He mea maʻa mau ia For you and I kaʻa uila : 路面電車 mākēneki : モーター hōʻoniʻoni : 揺らす kou : あなたの kino : 体 he mea maʻa mau : よくあること ia : それは 20 世紀初頭、ワイキキには路面電車が走っていました、当時の高校生のデートは、路面電車に乗ってあちこち食べ に行ったり泳ぎに行ったりすること。そんな楽しさが歌われています。歌詞は 2 番です。歌のモデルとなったデート をするふたりは、ヘレン・デシャ・ビーマーの次男フランシス・ポノ・ビーマーとルイーズ・ウォーカーと言われて います。1923 年に彼らは結婚をし、その年に長女が生まれました。 5 月「Pua Carnation」 by Charles E. King ʻAuhea wale ana ʻoe Pua carnation kaʻu aloha A ke lawe ʻia ala ʻoe E ka makani pā kolonahe ʻauhea wale ana : いったいどこに?、どうか聞いて ʻoe : あなたは pua : 花 kaʻu : 私の aloha : 愛 a ke lawe ʻia ala : 運ばれている(受け身の現在進行形) e ka makani : 風によって pā: 吹く kolonahe : やさしく カーネーションをハワイに持ち込んだのは、アメリカからやってきたプロテスタントの宣教師たちで、19 世紀半ば のことだったそうです。その後カーネーションのレイはハワイでポピュラーになっていきます。歌詞は 1 番です。作 者のチャールズ E キングはハワイ王国時代の 1874 年生まれ。多くのスタンダードナンバーを残し、ハワイアン音楽 の父として音楽史に名前を残しています。 6 月「Kawohikūkapulani」 by Helen Desha Beamer He lei aloha ʻoe ua kaulana I paukū ʻia me ka ʻāhihi Hoʻohihi nō wau naʻu ʻoe ʻO koʻu kuleana paʻa nō ia he lei aloha : 愛するレイである ʻoe : あなたは ua kaulana : 名高い、よく知られた i paukū ʻia : つながれている、つながれた(受け身) me ka ʻāhihi : アーヒヒの花によって hoʻohihi : 絡ませる nō :(感情の強調) wau : 私は naʻu : 私のもの ʻo koʻu : 私のだ kuleana : 権利 paʻa nō : しっかりと離れない ia : それは 作者が末娘のヘレン・エリザベス・カヴォヒクーカプラニへ贈った曲。1941 年、披露宴のときにサプライズで演奏 されたそうです。2 番の歌詞を取り上げました。歌詞に出てくるレイはもちろん末娘のこと。娘を嫁がせる際のせつ ない親心が歌われています。ビーマー家は音楽一家であり、ヘレン・デシャ・ビーマーの孫にシンガーのマヒ・ビーマー、 ひ孫にスラッキーギタリストのケオラ・ビーマーがいます。 7 月「I Aliʻi traditional Nō ʻOe」 He keu ʻoe a ke aloha ʻole lā I nēia mau maka ʻimo aku nei lā Hōʻike mai nō, a he palupalu lā A he iwi haʻi wale kō ka ʻamakihi lā he keu : 極端である ʻoe : あなたは a ke aloha ʻole : 愛がない(否定) lā :(感嘆詞) i nēia : この(あなたの) mau maka : 両目 ʻimo aku : あちらへウインクする nei : ここで(自分の前で) hōʻike mai : こちらに見せて nō: 強調 a he palupalu : 弱いものである、こわれやすい a he iwi : 骨である haʻi wale : 折れてしまう kō ka ʻamakihi : アマキヒ鳥の aliʻi は古代ハワイ時代の首長であり kanaka は首長の下にいる民を指しますが、この歌ではその主従関係を比喩とし て使っています。その 3 番と 4 番から。1 番 2 番では “ 私はあなたに仕えて食事を作ります ” と相手への献身ぶり が歌われています。しかし、 その報いは…。アマキヒはハワイ固有のミツスイ鳥。メジロよりやや小さめの小鳥です。 そのかよわい小鳥を自分に例えています。 8 月「Kananaka」 traditional Nani wale ia puʻe one I ka nalu heʻe mai aʻo Kananaka Kahi a mākou a i heʻe ai I ka ʻehuʻehu o ke kai nani wale : とても美しい ia puʻe one : その砂州は i ka nalu : その波で heʻe mai : すべっていく aʻo Kananaka : カナナカの kahi : 場所 a mākou : 私たちの a i heʻe ai : 波をすべる i ka ʻehuʻehu : しぶきの中で o ke kai : 海の マウイ島ラハイナの海には、人魚のカナナカが住んでいたという伝説があります。カナナカはサーフィンを楽しみ、 またサーファーの若者を誘惑したとか。歌詞はサビパート。人魚はハワイの神話に見あたらないため、白人の船乗り から伝わった西洋の人魚伝説がハワイの伝説に転化した可能性があります。19 世紀、ラハイナは捕鯨船の寄港地と して栄えました。歌詞中の puʻe one は砂州のことで、河口に出来やすくサーフィンに適した波が立ちます。 9 月「Manu ʻŌʻō」 Harry Naʻope ʻO ka manu ʻŌʻō i Mālama A he nani kou hulu ke lei ʻia Mūkīkī ana ʻoe i ka pua lehua Kāhea ana ʻoe i ka nui manu ʻo ka manu ʻōʻō : オーオー鳥だ i Mālama : マーラマの地の a he nani : そして美しい kou hulu : あなたの羽 ke lei ʻia : レイとなる mūkīkī ana ʻoe : あなたは吸う i ka pua lehua: レフアの花(の蜜)を kāhea ana : 呼ぶ i ka nui manu : 鳥の群れを 1 番の歌詞を取り上げました。オーオーは花の蜜を吸うハワイ固有の鳥。その全身は真っ黒ですが、羽根の付け根に わずかに黄色い羽毛があり王族のマントやレイに用いられました。歌の中でレフアの蜜を吸うオーオーですが、残念 ながら今は絶滅したと考えられています。作者のハリー・ナオペは、アンクル・ジョージ・ナオペの祖父。歌詞中の Mālama はハワイ島カラパナの火口があるエリアの地名です。 10 月「Makee James K. ʻĪʻī ʻAilana」 Ka leo o ka wai kaʻu aloha I ka ʻī mai e anu kāua Inā ʻo you me mī nei Noho ʻoe i ka noho paipai ka leo: 声 o ka wai : 水の kaʻu aloha : 私の愛 i ka ʻī : 話しかける mai : こちらに e anu: 涼しみなさい kāua: あなたと私は、私たちは inā: もしも ʻo you : あなたである me mī : 私と一緒に nei: ここに noho : 座る ʻoe : あなたは i ka noho paipai: ロッキングチェアに かつて、カピオラニ公園内の動物園あたりに川を引き込んで作った池があり、そこにマキイ島という小島がありまし た。橋で渡れるようになっていて、 島にあるバンドスタンドではコンサートが開かれました。歌詞は 3 番と 4 番。 「水 の声」という表現が詩的ですね。4 番のロッキングチェアですが、実は島にあった形跡がありません。マキイはカピ オラニ公園の造成に尽力した人物の名前だとか。 11 月「ʻAhulili」 by Scott Haʻi He aloha nō ʻo ʻAhulili A he lili paha koiala I ke kau mau ʻole ʻia E ka ʻohu kau kuahiwi he aloha nō : 大好きな ʻo ʻAhulili : アフリリの山 a he lili : 嫉妬がある paha : たぶん koiala : 彼女には(所有格 kona と同じ) i ke kau : そこにいること mau ʻole ʻia : ずっとではない e ka ʻohu : 霧によって kau kuahiwi : 山をおおう マウイ島の東側にあるカウポー地区は、作者スコット・ハイの生まれ故郷。アフリリは、そこにある山の名前です。 歌詞は 1 番。霧がかかることが多いアフリリの山を、女性に例えて歌っています。その女性のモデルは誰かいるので しょうか。スコットさんの奧さんかも?想像するのも面白いですね。 12 月「Aloha by Queen Liliʻuokalani ʻOe」 Haʻaheo ka ua i nā pali Ke nihi aʻela i ka nahele E hahai ana paha i ka liko Pua ʻāhihi lehua o uka haʻaheo : おごそかである ka ua : 雨 i nā pali : 連なる崖に ke nihi aʻela : 忍び寄る i ka nahele : 森の中に e hahai ana : 追い求める paha : たぶん i ka liko : つぼみを pua ʻāhihi lehua : アーヒヒ・レフアの花 o uka : 山側の リリウオカラニがコオラウ山脈にある牧場からホノルルへ向けて帰るとき、同行者のボイド大佐がハワイアンの女性 からレイを受け取り抱擁する姿を、つい見てしまいます。別れを惜しむ若者二人からインスピレーションを受け、帰 途の馬上でメロディを口ずさみながら歌を作ったとされます。1 番の歌詞を取り上げました。歌詞に出てくるアーヒヒ・ レフアは、オアフ島に咲くレフアの亜種です。
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