グリコシド異性化反応による1,2-cis (α) アミノグリコシドを含む生理活性糖鎖 および新規糖ポリマーの合成 独立行政法人理化学研究所 専任研究員 眞鍋史乃 新技術の特徴・従来技術との比較 • グリコシル化反応において2,3-transカーバメート基を 持つ糖供与体が非常に高い1,2-cis 選択性を示す。 • 2,3-trans カーバメート基を導入すると既存の1,2trans グリコシドが1,2-cis グリコシドへと異性化する。 • 従来は糖供与体と糖受容体との結合生成時(グリコ シル化反応)においてアノマー位の立体が決定され るが、既存の糖鎖の複数のアノマー位の立体を変換 既存の糖鎖の複数のアノマー位の立体を変換 することが可能である。 することが可能 O O O NR 2,3-trans カーバメート 1,2-trans グリコシドと1,2-cis グリコシド これまでの合成 1,2-trans グリコシド 1,2-cis グリコシド 今回の合成 上記に加えて 1,2-trans グリコシド 1,2-cis グリコシド 従来技術とその問題点 これまで1,2-cis アミノ糖合成に使用されてきた 2-アジド糖供与体 1970s Lemieux and Paulsen PO O X N3 O PO O PO NH2 potentially explosive TfN3 azidonitration reaction yield, selectivity? PO グリコシル化反応 X O N3 X glycosylation reaction PO 調製 O X N3 ROH PO O OR N3 selectivity is not high • 調製が容易ではない。(収率、選択性、安全面) • グリコシル化反応における選択性が充分ではない。 1,2-cis アミノ糖を含む生理活性糖鎖の例 HO HO HO HO OH O HO HO O O O P O O O HO HO O HO O HO HO H 3N H 2N HO HO H 2N O O OH R2 O OH HO OH O HO O O HO OH O SHN 3 O HO OH HO OH O NHAc HO O HO O OH O HO O AcNH HO O O O AcHN O OH NH O H 2N O O O P O O O O R3 O HO R1 O OH OH OH OSO3 O O O OSO3 O OMe OH O HO AcHN HO AcHN O HO HO HO O O O OH OH O O OH AcHN HO AcHN O O O HO HO O3SO CO O3SHN 2 Heparin (anti-coagulant drug) OH O anti-Helicobacter pylori oligosaccharide OSO3 O O2C HO OH Glycosyl Phosphatidyl Inositol anchor Neomycin B (antibiotics) HO HO O3SHN O HO O HO O O H 2N NH 2 OH OH OH O OH O OH Mycothiol (in Gram positive bacteria) NH 2 O AcHN O O NH O AcHN O HO HO O H 2N HO HS HO HO HO O O OH OH O HO Me AcHN AcHN O O O H N NHAc O NH Campylobactor jejuni N-linked oligosaccharide 2,3-trans カーバメート基を持つ糖供与体の合成 簡便で大量合成が容易である。 2,3-trans 糖供与体を用いたグリコシル化反応 グリコシル化反応において高い1,2-cis 選択性を示す。 2,3-trans カーバメート基を持つ糖供与体を用いた 抗ピロリ菌糖鎖の合成 抗ピロリ菌糖鎖 2,3-trans カーバメート基糖供与体を用いて、効率的な抗ピロリ菌糖鎖の合成を達成した。 異性化反応におけるカーバメート基上置換基効果 AcO O O OBn O NR SPh BF 3•OEt 2 (2 equiv.) CH 2Cl 2 -30 °C 12 h AcO O OBn O SPh + NR AcO O O O R β α Bn o-nitrobenzyl PMB CH2CN CH2CO2Me H Ac CO2Me CO2All CO2Bn CO2CH2CCl3 16 26 15 15 69 0 0 0 0 0 63 63 77 71 19 75 80 88 88 88 OBn O N SPh R カーバメート基上の置換基は異性化に大きな影響を及ぼし、アセチル基が最もよい。 異性化におけるカーバメート上置換基効果 2糖においても同様の置換基効果を示し、アセチル基では、完全に異性化する。 異性化反応の例 -I- キトサンから 異性化したオリゴ糖 異性化反応の例 –IIMycothiol の合成 異性化反応の例 –IIIヘパリンの合成 異性化のメカニズム endocyclic cleavage 反応と exocyclic cleavage 反応 ピラノシドは、非対称アセタールなので、アノマー炭素と環内酸素の間の結合が切断される exocyclic cleavage 反応とendocyclic cleavage 反応の2つが考えられる。糖科学では、exocyclic cleavage 反応のみが考えられてきた。2,3-trans カーバメート基を持つピラノシドは、極めて珍し いendocyclic cleavage 反応をおこすことを鎖状カチオンを還元、分子内Freidel-Crafts 反応によ り捕捉することにより示した。 Endocyclic cleavage 反応の証明 -I還元による鎖状カチオンの捕捉 Ph O O O O NBn Et3SiH (12 equiv.) BF3•OEt2 (2 equiv.) CH2Cl2 SPh 0 °C β-glycoside BnO HO O α-glycoside BnO HO SPh + O O NBn O O O alcohol O BnO HO O + N SPh Bn OH SPh NBn O reaction period (h) β α alcohol 0.5 72 14 0 0 53 11 6 O O NBn O acid SPh O O O SPh O NBn O O β-glycoside N SPh Bn BnO HO O O O N SPh Bn α-glycoside Et3SiH OH O SPh NBn O reduced product Endocyclic cleavage 反応の証明 -II分子内Friedel-Crafts 反応による鎖状カチオンの捕捉 想定される用途 • 甲殻類の殻から単離されるキトサンを異性化さ せて新規糖ポリマーを創製すること。 • また、新規糖ポリマーはさらに化学修飾可能で、 類縁体合成が可能。 • 上記ポリマーは、繊維、化粧品などに展開する ことも可能。 • 均一な構造を持ち、厳密な品質管理可能な合 成ヘパリンの効率化に貢献できる。 • 1,2-cis アミノ糖の合成に貢献。 セルロースとアミロースは、ともにグリコースが1,4-結合した重合体であるが、アノマー位の立 体化学の違いにより物理化学的性質が異なる。 キチン、キトサンは、グリコサミンがβ-1,4結合した重合体であり(セルロースに類似)、甲殻類の 殻に含まれるが、アミロースに相当するグルコサミン重合体は存在しない。キトサンから新規 糖鎖ポリマー、およびその類縁体を創製することが可能。 化学合成ヘパリンへの応用 • 超低分子量ヘパリンは、副作用が低減されることなど抽出ヘパリンよりも優れた点 が多い。 • 抽出ヘパリンに過硫酸化されたコンドロイチン硫酸が混入され、死者が出た。 • 均一な構造を持ち、厳密な品質管理が可能である化学合成ヘパリンの効率的合成 に貢献可能である。 Fondaparinux (完全化学合成ヘパリン) HO HO O3SHN OSO3 O O2C O HO O O HO OH O SHN 3 OSO3 O O O O HO HO O3SO CO O3SHN 2 OSO3 O OMe 実用化に向けた課題 • 現在、キトサンテトラマー(4糖)について1,2-trans 体か ら1,2-cis体への変換が可能、および、ヘパロサン骨格 合成可能であることを示すところまで開発済み。 • 今後、より分子量の大きなキトサンオリゴマーについて の異性化を検討。 • 低分子量キトサンの異性化についても、コスト低下のた め、より分子量の大きなキトサンオリゴマーからキトサ ンオリゴマーの単離生成法を検討予定。 • より分子量の大きい糖鎖の異性化の精度を測定できる 確立する必要あり。 企業への期待 • 高分子キトサンを扱う技術を持つ企業 • 新規物質の生理活性や繊維としての化合物 の機能評価が可能である企業 • 不溶性高分子の構造決定が開発できる企業 • 医薬品合成への導出 本技術に関する知的財産権 • 発明の名称 :糖鎖化合物および糖鎖化合 物の製造方法 • 出願番号 :特願2013-41312 , PCT/ JP2013/73398 • 出願人 :理化学研究所、情報•システム研究機 構国立情報学研究所 • 発明者 :眞鍋史乃、石井一之、佐藤 寛子 参考文献 J. Am. Chem. Soc. 2006, 128, 10666–10667. J. Org. Chem. 2007, 72, 6107–6115. Chem. Eur. J. 2009, 15, 6894–6901. Tetrahedron Lett. 2009, 50, 4827–4829 Eur. J. Org. Chem. 2011, 497–516. Chem. Commun. 2011, 47, 9720–9722. Tetrahedron, 2011, 67, 9966–9974. J. Am. Chem. Soc. 2011, 133, 5610–5619. Chem. Eur. J. 2014, 20, 124–132. Chem. Rec. 2014, 14, 502-515. お問い合わせ先 独立行政法人理化学研究所 社会知創成事業 連携推進部 知財創出・活用課 実用化コーディネーター 金井 孝之 TEL FAX e-mail 048-467 - 9729 048-462 - 4609 [email protected]
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