論文 消費税法における納税義務者の一考察 小林昌弘 ところで、破産管財人がその手続きの過程で換 はじめに 第 l章 判 例 の 紹 介 第 l節 事 案 の 概 要 価を行う際、破産財団の資産を譲渡することにな 第 2節 福 井 地 裁 判 決 平 成 1 9年 9月 1 2日の検討 第 3節 名 古 屋 高 裁 金 沢 支 部 判 決 平 成 2 0年 6月 1 6 日の検討 第 2章 事 業 性 の 検 討 第 l節 破 産 法 の 概 要 第 2節 破 産 管 財 人 と 破 産 財 団 の 意 義 と 法 的 地 位 に つ いて 第 3節破産法における事業性について 第 4節消費税法における事業性について 第 3寧 納 税 義 務 者 の 検 討 第 1節 破 産 法 と 租 税 法 の 接 点 第 2節 破 産 法 と 消 費 税 の 「 事 業 性 Jについて 第 3節 法 人 税 法 か ら の ア プ ロ ー チ 第 4節 所 得 税 法 か ら の ア プ ロ ー チ 第 5節消費税法における納税義務者の検討 おわりに るが、この譲渡に対し、消費税の納税義務は発生 するのであろうか。また発生したとするならば、 その義務を履行すべきなのは破産者なのだろうか、 それとも破産財団の管理者である破産管財人とな るのであろうか。 9年 9月 1 2日J)、及びその控 福井地裁判決平成 1 0年 6月 1 6 訴審、名古屋高裁金沢支部判決平成 2 日2 ) は、破産により破産財団が発生しその処分が行 われた場合、消費税の申告を行うべき納税義務者 は破産財団にあるのか否かについて争われた事案 6年 6月 2日法律第 7 5 である。この判例は平成 1 号(本稿では以下、この改正前の旧破産法を「旧 破産法」、改正後の現在の破産法を単に「破産法」 という。)による改正前に生じた事案ではあるもの の、破産財団や破産管財人等の意義や権限につい はじめに ては、新破産法においても、取扱いに改正がない ことからへ上記の聞いについて検討することは、 消費税法において、圏内取引にかかる納税義務 現在においても意義があるものと考える。 者は「課税資産の譲渡等をおこなった個人事業者 納税義務者が明確でないことは、租税法律主義 及び法人 Jとされている。納税義務者は通常、資 における、公平で明確な課税に影響を及ぽすこと 産の販売等を行った個人又は法人から消費税を預 2年度税制改正により清算所 になる。また、平成 2 かり、その課税資産の譲渡等から計算された税額 3年には所得 得に対する法人税が廃止され、平成 2 から課税仕入に対する税額を控除した金額を国に 税法において、破産が発生した際の労働債権の配 対して納める事で、間接的に消費者から預かった 当に係る源泉徴収義務を、破産管財人は負わない 消費税を納めている。しかし、事業者が経営の悪 とする最高裁判決が出るなど、破産時における租 化等により事業を継続できなくなり、破産宣告を 受けた場合には、破産法の規定により、それまで の財産は破産財団と呼ばれる財産の集合体に移行 することになる o そうなると、破産者は破産財団 の資産を管理・処分することが出来なくなり、代 わって破産管財人が破産財団の管理を引き継ぐこ とになる o 1)楠井地判平成 1 9年 9月 1 2日税資 2 5 7号・1 6 3順号 1 0 7 7 2 2) 名古屋高判平成 2 0年 6月 1 6日税資 2 5 8号 1 1 2順 号1 0 9 7 0 3)新破産法の主な改正の流れについては、山本克己 (舗) 破産法・民事再生法概論J1 1頁以下(商事 法務、 2 0 1 2 )。また破産法の趣旨の解説については、 竹下守夫ほか(編) 大コメンタール破産法J7 8 頁以下(青林骨院、 2 0 0 7 ) 参照 r r 法学研究 No.16 -37ー 税法の取扱いを整理するための環境も整ってきた。 ず、もって納税義務を負わないと主張した。 したがって本稿は、破産という視点を切り口に、 一審では、 Bが勝訴したが、これに対し課税庁 消費税の納税義務者について検討を行いたいと思 はこの主張を認めずに争い、高裁の判決では課税 ワ 。 庁 Cが勝訴した。 まず、第 l章において、福井地裁判決及び名古 屋高裁の判決を紹介し、論点の整理を行う。第 2 第 2節 福 井 地 裁 判 決 平 成 1 9年 9月 1 2日の検討 章では破産法、消費税の紹介をした上で、本判決 この判例での争点、は、「破産管財人の管理処分権 の重要論点、である「事業性 Jについて、検討をお に専属する破産財団は、破産法人の基準期間にお こなう。その上で第 3章では、破産法と租税法の ける課税売上高を引き継がない別の法的主体であ 接点を模索しながら、消費税の納税義務者につい るといえるか否か」である。 て他の税目を参照にしながら、様々な角度から検 討をおこない、それを本件事案に当てはめること で、本稿での結論を導きたい。 ①原告 Bの主張 まず、破産管財人である原告 Bの主な主張は以 下のとおりである。 第 l章 判 例 の 紹 介 第 1節 事 案 の 概 要 1.破産財団法人説 (ア) 株式会社 A (以下 f A社j という。)は、平成 1 4 破産財団は、法律の規定によって法人格 を与えられた法人ではないが、破産法の解 年 1月 28日、福井地裁より破産宣告(当該事案は、 釈として、破産宣告により成立し、破産手 前述の旧破産法に基づくものであり、改正後の破 続きの終了によって消滅する一時的な法人 産法における「破産手続開始の決定Jにあたる。) であり、破産者とは別個独立の法人ないし を受け、原告である破産管財人 B (以下原告とい 法人に準ずるものであると解され、破産管 う。)が選任された。 財人は、この破産財団という法人の代表機 Bは、破産宣告後の平成 1 4年 2月 2 1日から平 成1 5年 2月 2 0日までの課税期間(以下、本件課 税期間という。)に A社の課税資産の譲渡等を行っ 1 0 6万 1 9 1 3円発生したも たため、課税売上高が 2 関としての地位及び権限を有するというべ のの、消費税の確定申告を行わなかった。そのため、 きである。 (イ) 新破産法 4 2条 2項等の表現は、破産財団 が一種の法人であることを前提にしている。 (ウ) 福井税務署長 Cは、平成 1 6年 2月 2日付け「消費 法人税法や消費税法が法人格のない社団 や財団を当該税法の適用においてのみ法人 税及び地方消費税の決定通知書並びに加算税の賦 として扱うみなし規定(消費税法 3条 、 2 課決定通知書Jをもって、 Bに対し本件課税期間 条 7号、法人税法 3条 、 2条 8号 ) を 置 い 分の消費税及ぴ地方消費税について、決定処分(以 ている。 下「本件決定処分Jという。)及び、賦課決定処分 (エ) 破産者が有していた財産は、破産法の規 (以下「本件賦課決定処分」といい、本件決定処分 定により当然に破産財団に帰属し、破産財 、 と併せて「本件処分等j という。)を行った。 Bは 団からの放棄によって破産法人自身に財産 異議申立及ぴ審査請求を行ったが、いずれも棄却 が再び復帰する場合、この内容は所有権の されたため、本件処分等の取消しを求め、訴訟を 移転であると解すべきである。 (オ) 提起した。 破産財団法人説によると、破産財団は、 B は、破産に係る破産団体は、株式会社 A とは 税法上の課税関係においても、破産者とは 別の新たな法的主体であるので、破産団体は、同 別個独立の法税主体であると理解すべきで ある。 社が破産宣告を受けた後の課税期間に係る消費税 につき、基準期間における課税売上高を引き継が -38ー 消費税法における納税義務者の一考察 (カ) 破産管財人が管理処分権の一環として破 産財団に属する財産を換価した場合の消費 税の申告納付義務は破産財団が負い、破産 ②被告 Cの主張 これに対し、被告 Cは次の様に主張した。 管財人が破産財団の代表者として申告納税 義務を負う。 (キ) 1.破産者の財産の帰属について 破産管財人が破産財団から放棄して破産 破産法は、破産者について破産財団に属する財 法人に管理処分権が復帰した自由財産につ 産の管理処分権を失わせただけであり、所有権ま き、清算人が清算事務の一環として換価処 で失わせたものではないから、破産財団に属する 分を行った場合の消費税の課税関係は、破 財産の所有権は破産宣告後も依然として破産者に 産者が当該資産をいくらで換価処分を行っ 帰属し、その管理処分権を有する破産管財人が行っ たかを職務上知り得る立場にない破産管財 た破産財団の換価処分の効果は破産者に帰属する。 人に申告納税の義務があると解することは 困難である o (ク) 2 .最高裁判決の検討 処分したことによる消費税は、破産者個人 9年(行ツ)第 6号岡 4 3年 最高裁昭和 3 1 0月 8日第三小法廷・民集 2 2巻 1 0号 2 0 9 3 頁(以下「最昭 4 3年判決」という。)は、 に申告納税義務がある。 破産財団に属する財産を換価した結果生じ 個人破産の場合も同様であり、破産者個 (ア) 人が破産者個人の自由財産に属する財産を た譲渡所得に対する所得税債権が破産財団 3 .被告 Cの主張の検討 (ア) 被告 C によれば、破産法人に課せられる であり、同譲渡所得も破産者個人の総所得 消費税の申告納税は、破産財団の管理処分 に含まれる旨を判じた。したがって、消費 権の一環と解すべきであり、破産管財人に 税の納税義務についても、破産財団に属す 破産法人の消費税の申告納税義務があると る課税資産の譲渡等による消費税の納税義 いうことになる。しかし被告は、個人破産 務は、破産者が負うというべきである。 の場合の消費税の課税に関して、破産管財 (イ) (ウ) 債権に該当するか否かが争点となった事案 (イ) 最高裁平成 4年 1 0月 2 0日判決(以下「最 人がその管理処分権に基づいて行った課税 平 4年判決Jという。) 4) は、「破産会社にも 資産の譲渡の効果は破産者に帰属すること 法人税法(昭和 5 6年法律第 1 2号による改 から、破産財団に帰属する課税資産の譲渡 0 2条(清算中の所得に係る 正前のもの) 1 についても破産者自身に消費税の納税義務 0 5条(清算中の所得に係 予納申告)及び 1 があると主張しており、個人破産の場合と る予納申告による納付)の規定の適用があ 法人破産の場合で結論が異なることになる。 るものと解すべきであるから、破産会社に 個人破産の場合、被告の主張によると、 は、予納法人税が旧破産法 4 7条 2号但書に 破産管財人が預かり金を納付せずに、破産 いう『破産財団ニ関シテ生ジタルモノ j に 配当等に自由に費消してよく、破産者個人 当たるか否かを関わず、その予納申告等の が、預ってもいない消費税を自由財産から 義務があるものというべきである J旨、判 納付する義務を負うことになり、不合理で 時した。また、破産清算も解散による清算 ある。 手続きの一つであり、法人税法も破産清算 他方、法人破産の場合、徴収可能な破産 の場合を同法ニ編三章一節の適用除外とす 法人からは全く徴収せず、すべての消費税 る明文の規定をおいていないこと、破産法 を破産財団から徴収することになり、放棄 人に法人税法 9 2条 、 1 0 2条 、 1 0 4条等の規 によって固定資産税の負担を免れることと 定がないとすることはできない(最高裁昭 整合性が保てない。 4 )最三小判平成 4年 1 0月 2 0日集民 1 6 6号 1 0 5頁 法学研究 N o . 1 6 -39- 和 62年判決)5 )点等からすれば、破産管財人 係においては、破産財団が「人格のない財団 Jで に破産会社の法人税の予納申告、納付の義 あるとして「事業者Jにあたるものと解する余地 務があることは明らかである。 があるというべきである。 Jとして、破産財団自体 3年判決の判示は、破産財団の申告 最昭 4 が「人格のない財団J に該当するとされるならば「事 義務を認めたと解することができず、破産 業者Jにも該当する可能性を示し、次の様な判示 法人における予納法人税の申告納税義務が、 を行った。 (ウ) 破産法人の財産的活動の処理権限を占有す ることとされている破産管財人に帰属する としたものと解される。 3 .実務上の運用 論点①「破産財団が人格のない社団に該当するか 否かJ r人格のない財団 Jという概念自体は、民事実 体法上にいう権利能力なき社団を借用したものと 実務上も、破産管財人が法 6条所定の非課税資 解されるところ、税法における借用概念は、法的 産以外のものを売却する場合には、破産管財人に 安定性の要請から、原則として本来の法分野にお 破産会社の消費税の申告義務が生ずるものとされ ている。 けるものと同意義に解すべきである(最高裁昭和 35年 1 0月7日第二小法廷判決 6)、最高裁昭和 36年 4 .原告が仮定した事案の検討 1 0月 27日第二小法廷判決 7)、福岡高裁平成 2年 7 月1 8日第二小法廷判決 8)0) …そして消費税法が、 原告の仮定した事案は、破産財団に属する課税 「人格のない財団」を法人として扱う趣旨は、「人 資産の譲渡等と破産財団に属さない課税資産の譲 格のない財団 Jが実質的に法人と異ならない活動 渡等が同 1年分にあるというものであるが、消費 をしていることに鑑み、公平に税負担を配分でき 税法上、事業者である個人が行った課税資産の譲 ることにあることからすれば、…民事実体法と消 渡等につき、破産財団に属する課税資産の譲渡等 費税法の概念を区分して論ずる必要はないので、 と自由財産に属する課税資産の譲渡等が区別され 原則どおり、民事実体法のものと同義に解釈すべ ることはなく、いずれも破産者が納税を負うこと きである。」として、破産財団が、「人格のない財団 J であるか否かは、最高裁昭和 4 4年 6月 26日第一 になる。 小法廷判決 9 )、最高裁昭和 4 4年 1 1月 4日第三小法 以上により、本件課税期間に課税資産の譲渡等 廷判決 10>に照らして判断すべきであり、結果、破 を行った原告は、申告納税義務を負うものとする。 産財団は、破産者自身の利害得失を超えた複合的 な目的を持って活動する社会的実体をそなえた、 ③福井地裁の判断 福井地裁は、本件破産財団は、破産会社 A とは 別途の新規の「事業者Jであり、本件破産財団に 権利能力なき社団に当たるといえるので、消費税 法もまた「人格のない財団」に当たる。 Jと認定し た 。 は本件課税期間に係る基準期間がないため、本件 課税期間において、消費税の納税義務はないとし て原告の勝訴とした。 福井地裁は、まず破産者又は破産財団のいずれ が「事業者 Jとして本来的な納税義務を負うべき かが問題とし、「破産手続の内部関係において破産 財団に法人格を認めることは理論上困難な課題が 残されているものの、少なくとも消費税法との関 5) 最三小判昭和 6 2年 4月 2 1日民集 4 1巻 3号 3 2 9頁 -40ー 消費税法における納税義務者の一考察 論点②「破産財団は事業者といえるかJ また福井地裁は、「事業者Jについて、「現有財 6) 最 二 小 判 昭 和 3 5年 1 0月 7日 民 集 第 1 4巻 1 2号 2 4 2 0頁 7) 最 二 小 判 昭 和 3 6年 1 0月 2 7日 民 集 第 1 5巻 9号 2 3 5 7頁 8) 福岡高平成 2年 7月 1 8日朝j例時報 1 3 9 5号 3 4頁 9) 最 ー 小 判 昭 和 4 4年 6月 2 6日 民 集 第 2 3巻 7号 1 1 7 5頁 1 0 ) 最三小判昭和 4 4年 1 1月 4日 民 集 第 2 3巻 1 1号 1 9 日頁 団としての破産財団に属する財産は、破産者の関 上の根拠(所得税法 l 条 6項はその根拠とならない) 与なく破産管財人により換価されて最終的には配 として破産財団は法人である旨の主張を退けてお 当財団を構成することになり、その多くは破産債 3年判決も、破 り、その上告審である最高裁昭和 4 権者に配当される一方、破産者に残余財産の交付 産財団に属する財産を換価した結果生じた譲渡所 がなされることは極めて少ないという実情からす 得につき、所得税は人的要素を重視した課税であ ると、破産者自身を「事業者 Jと解するのは相当 るので財団債権にならないと判断したものであり、 でなく、破産財団を「事業者 Jとみるのが相当で 破産財団が法人か否かの点につき判断を明示した ある。 Jとして、破産財団を「事業者」と認定した。 ものではないし、破産財団が「人格のない財団 J として納税義務を負うかについての判断を明示し 論点③破産財団を「事業者 Jとした場合に常に免 税となることに対する批判について ていない。…人税である所得税と物税である消費 税とは、その法的性質が異なるのであるから、所 「破産管財人の行う破産財団に属する財産の換価 得税における納税主体の議論は、必ずしも破産財 に係る消費税は、常に破産宣告から 2年間は免税 団の法主体性の議論とは結びつかない。」として、 されることとなり、妥当ではないとの批判 Jにつ 破産財団が「人格のない財団 Jに該当しないとす いては、「個人事業者の法人成りの場合、当該法人 る最高裁判決の根拠を否定した。 は、設立当初の 2年間は免税事業者としてあっか われるところ 11)、個人事業者が法人成りした場合も 論点⑤実務の運用との関係について 自然人又は法人が破産した場合も、…個人事業者 5条 4項に精算中の法 最後に被告が、消費税法 4 又は自然人若しくは法人の財産を引き継いで社会 人に消費税を貸す趣旨の規定があり、破産の場合 活動を営んでいるという点で同様であることから であっても、消費税の納税義務があり、この場合 すれば、自然人又は法人の破産の場合を個人事業 の消費税は破産法人が本来的な納税主体となると 者の法人成りの場合と同様に扱っても均衡を害す いうべきであると主張していることに対し、「精算 ることにはならない」として、その批判は妥当で 中の法人が破産法人である場合の納税義務者を、 はないとした。 同条項が明示的に定めているものではないし、旧 7条は破産宣告後に破産財団に関して生ず 破産法 4 論点④最高裁判例との関係について る債務を財団債権としているものであり、破産財 さらに、福井地裁は「被告は、租税債権が財団 団の管理処分権を有する破産管財人が破産者の代 債権に当たるか否かに係る最高裁判例を引用して 理人であることを当然の前提としているものでは 破産財団の法的主体性ないし納税主体性を否定す ない。とりわけ同条 9号の破産者に対する扶助料 る旨の主張をするが、そもそも納税義務の主体が は、破産管財人が破産者を代理して負担すること 誰であるかと租税債権が財団債権に当たるか否か と明らかに矛盾する。 Jとして、その主張を退けた。 は別個の問題である。」と被告の主張を退け、被告 が引用した最高裁判例を下記のように検討してい 第 3節 名 古 屋 高 裁 金 沢 支 部 判 決 平 成 2 0年 6月 1 6日の検討 る 。 2年判 「最高裁平成 4年判決、及ぴ最高裁昭和 6 決は、…破産財団自体の納税主体性を一般的に否 定したものとはいえない。…福岡高裁昭和 3 8年 9 月3 0日判決 121が、破産財団を法人格とする実体法 これに対し名古屋高裁は控訴審で以下の判断を 示した。 論点①「破産財団が人格のない社団に該当するか 否かJ 1 1 ) 平成 2 3年 6月に消費税法の一部が改正され、事業 者免税点制度の適用要件が見直された。 1 2 )福 岡 高 判 昭 和 3 8年 9月 3 0日 行 裁 集 1 4巻 9号 1 5 1 3頁 「破産者は、あくまで破産財団の管理処分権を喪 失するにすぎず、地位や所有権を喪失するわけで はなく、破産手続終了後に残余財産が存在すれば、 法学研究 No.16 -41ー その管理処分権も回復するし、破産管財人の行っ 産財団を法人として認める規定は存在せず、 その根拠はどこにもない。 た換価処分の効果は、すべて破産者に帰属すると いうべきである。 Jとし、その根拠として、 ① ことを挙げ、消費税の納税義務者は事業者であ 旧破産法 4条が解散した法人は破産の目 的の範囲内で存続したものとみなす旨を規 る破産者であり、納税義務は破産管財人が行うこ とになると判断した。 5条も同旨)、 定しているのは(新破産法 3 破産者が破産手続中も破産財団の帰属が主 たる地位や所有権を喪失するものでないこ とを前提としていると考えられること。 論点②「破産財団は事業者といえるかJ さらに、原告が破産財団は、権利能力なき財団 に該当し、消費税法にいう「人格のない財団」と ②消費税4 5条 4項は「清算中の法人Jの残 して「事業者Jに該当すると主張している点につ 余財産が確定した場合には当該法人に消費 いても、「権利能力なき財団の成立要件は、①目的 税を課す旨を規定しているところ、破産は 一種の清算手続であるから、破産法人が r t 背 算中の法人」に該当し、消費税の納税義務 の帰属であると解されるところ(最ー小判昭和 4 4 者は、破産財団ではなく破産法人であると 年 6月 2 6日民集第 2 3巻第 7号 1 1 7 5頁、最三小判 考えられること。 ③ 最高裁昭和 4 3年判決が納税義務者を破産 財団でなく、破産者としていること。 ④所得税法が、破産手続による資産の譲渡 により、所得は当該破産者の所得であるこ とを前提として、その担税能力に鑑み、こ れを非課税とする旨規定していると考えら れること。 ⑤ 法人税が解散した場合の清算所得に対す る規定は、破産清算を適用除外としていな いこと。 ⑥ 過去の最高裁判決によれば清算中の所得 にかかる予納法人税の予納申告・納付義務 規定は、破産管財人に及ぶこと。 ⑦ 仮に一審のように破産財団が納税義務者 であると解すると、破産宣告から二年間は 消費税の課税期間がないため、消費税の納 税義務を負わないことになる o そうなると 受け取った消費税相当額相当額について、 破産財団が納税義務を負わなければ、当該 消費税分は債権者への配当に充てられてし まうことになる。結果、消費税は譲受人か らの預り金であるという、消費税法の本来 の趣旨から外れること。 ⑧法人は、法律の規定によらなければ成立 3条)、破産法、消費 しないところ(民法 3 税法、及びその他の法律上においても、破 -42ー 財産の分離独立と、②当該財産の管理運営体制の 確立、すなわち、その財産の管理人・管理機関へ 消費税法における納税義務者の一考察 昭和 4 4年 1 1月 4日民集第 2 3巻第 1 1号 1 9 5 1頁 ) 、 前記判示のとおり、破産者は、その財産の帰属主 体たる地位や破産財団の所有権を喪失するもので はなく、破産管財人は単にその管理処分権を有す るにすぎないし、その行為も、すべて破産者に帰 属し、破産財団自体に帰属するものではないから、 破産財団は、権利能力なき財団の成立要件を満た さないものであり、被控訴人の上記主張には理由 がない。 Jとして福井地裁の判断を否定した。 以上、これまで原告と被告のそれぞれの主張と、 それに対する福井地裁と名古屋高裁の判断を、順 を追ってみてきたが、福井地裁が破産財団を「人 格のない財団 Jに該当するとして破産財団に破産 者と別の法人格を認め、消費税の納税義務者とし た一方、名古屋高裁は、破産財団に法人格を認めず、 消費税法の納税義務者は破産者自身であり、破産 管財人にも納税義務があるとし、その結論は正反 対のものとなった。 この判例の論点は、「破産財団に属する財産の換 価について、破産者又は破産財団のいずれが「事 業者Jとして本来的な納税義務を負うべきか否かJ にあるのだが、その「事業者」をどのようにとら えるかが、その判断の分かれ道になったと言えよ 。 つ そして当該事案は、消費税法の納税義務者につ いて検討されているのであるが、そのきっかけは、 破産者が破産したことによって発生したのである 逸を防ぐための「保全処分等j を経て、裁判所に から、その手続きは当然、破産法に基づきおこな われることとなる o このように破産法、消費税法 よる「破産手続開始の決定」が行われて初めて破 産手続が開始される。 の双方が交錯した場合、「事業者」を判断していく そして、裁判所により選任された破産管財人 には、どのようなアプローチがよいだろうか。そ により破産財団の調査・管理・換価が行われるこ こで、第 2章では、破産法と消費税法のそれぞれ とになる。そして換価した財産を、破産管財人が が「事業 Jをどのように捉えているかを確認して 債権者に配当し終わった後、「破産手続終結の決定J により破産手続は完了する。 いくことにする。 1 5 ) 自然人である個人の場合は、この破産手続の終 第 2章 事 業 性 の 検 討 結によって、これまでの人生に一区切りをつけ、 また新たな第一歩を踏み出すわけだが、法律によ 本章では、破産法と消費税法の「事業 Jの取扱 り法人格を付与された会社においては、破産手続 いについて検討をおこなう。まず、その前提として、 開始の決定は、その会社の解散事由とされており 破産法、消費税法について、本件事案を検討する 7 1条の 5 、6 4 1条の 6 )、それによって解 (会社法 4 に必要な言葉の意義や背景について紹介した上で、 散した法人は、破産手続による清算の目的の範囲 「事業」をどの様に捉えるべきかを論述していくこ とにする。 内において、破産手続が終了するまで存続するも のとみなされ(破産 3 5条)、破産手続終結の決定 なお本稿の導入においても確認したが、本件事 によって消滅することになる o また破産手続にお 案は、旧破産法において生じたものではあるが、 いて、破産者に対する債権は、財団債権と破産債 新破産法においても、今回検討をおこなう課題に 権のいずれかに区分される。国税徴収法によって 影響を及ぽす改正もないことから、新破産法にお 徴収できることができる請求権は、租税債権と呼 いてもなお有効性があるとして、まず、破産法よ り検討していくことにする 13)。 第 1節 破 産 法 の 概 要 ばれ、所得税や法人税、地方税及び各種社会保険 料などが含まれる。これらを全体として租税債権 と呼ぶ 16)。租税債権は、財団債権又は破産債権のい ずれかに区分されることになっている o 一般的に我々が使用する「破産J という言葉には、 2つの意味がある。一つは日常用語としての「破産」 であり、もう一つは裁判上の手続きとしての「破産J 第 2節破産管財人と破産財団の意義と法的地位 である。裁判上の手続きである「破産 Jは、まず について 個人や法人が、裁判所に対し「破産手続開始の申 立て Jを行うことで始まり、破産者 14) の財産の散 1.破産管財人の意義と役割 破産管財人とは、破産手続において破産財団に 属する財産を管理処分する権利を専属的に有する 1 3 ) 山本和彦教授は、「財団債権の関係で、旧破産法 4 7 条 2号但書に相当する規定は現行法に存しないが、 …財団債権性を肯定する旧法下の判例準則(最三 小判昭 6 2. 4 . 2 1民集 4 1巻 3号 3 2 9頁・金融法務事 情1 1 6 2号 7 9頁参照)は現行法の下でも維持され ていると解されている。…本判決は現行法の解釈 との関係でもなお検討する意義を失っていないj として、破産後に生じた租税債権が新破産法 1 4 8 条 l項 2号の「破産財団の管理に関する費用」に 含まれるとの見解を示されている。山本和彦『破 産管財人の源泉徴収義務に閲する検討一大阪高判 平2 0 . 4. 2 5に対する疑問を中心に J1 0頁(金融 法務事情 1 8 4 5号 、 28 ) 1 4 )債務者であって、破産手続開始の決定がされている ∞ 者をいう(破産法 2条 1 2項 、 7 8条 1項 ) 。 破産管財人は、破産手続開始決定とともに、破 産手続の実質的中心を担う存在であるが、裁判所 6 1条)、その解任権は裁判 の監督に属し(破産法 1 ) 。 所にある(破産法 75条 ものをいう(破産法 2条 4項 ) 。 1 5 )破産管財人の意義と法的地位については第 2節で 詳しく述べる。 1 6 )伊藤健『破産法・民事再生法J1 8 4頁(有斐閥、前 訂第 3判補訂版 1 0 9頁 、 21 ) ∞ 法学研究 N o . 1 6 -43ー また破産管財人は自然人に限られ 171、破産債権者 に公平、かつできるだけ多くの配当が実現できる に損害を与えた場合は、この善管注意義務に違反 することとなる 2 1 1。 ようにすることを行動の指針とする問。 3 .破産管財人の法的地位 2 .破産管財人の職務 破産管財人は、裁判所によって選任され(破産 法3 1条 1項・ 74条 l項)、その者の受諾をもって 就任する。その職務は公正・中立におこなわれる。 管財人の任務の終了原因は、破産手続の終結のほ このように破産管財人は、破産手続において大 きな役割を果たすことになるが、それゆえ、その 法的地位について、いかに矛盾なく説明するか、 これまで様々な学説が唱えられてきた。その有力 な説として、破産財団に法主体性を認め、破産管 か、死亡、辞任、解任である。辞任は正当な事由 財人をその代表者と介する「破産財団代表説」と、 がなければ認められず、裁判所の許可を要する(破 管理機構としての破産管財人に法主体性を認める 6 0条 ) 。 産法 1 「管理機構人格説」が支持を広げている。 また破産管財人は、裁判所の監督の下に、 原告は、破産財団代表説を採用し、それに基づ イ・破産財団の占有・管理・維持増殖を図り、 いて主張をおこなった。それに対し課税庁である ロ・破産債権の確定に関与し、 被告は、管理機構人格説を採用した。 ハ・破産財団の換価・配当を実施する。 この内、もっとも主要な業務は、破産財団の管 理と換価・配当である。 破産法における、「管理Jとは「破産財団に属す ①破産財団代表説 破産財団代表説とは、「財産の集合体である破産 財団に法人格を認め、管財人をその代表機関とす る財産で、破産管財人にて占有可能なものは占有 るJ説のことである。かつての通説であり、破産 し、占有の対象とならない財産については、破産 財団自体に法人格を認めていた。伊藤鍵氏によれ 管財人に専属する管理・処分権を行使しうる状態 ば、破産財団は、「実定法上の根拠条文はないが、 におくべく、破産管財人が事実上管理できる状態 破産法上の主々の法律効果を矛盾なく説明するた におき、また、破産手続開始時に事業を営んでい めには、それらの効果の帰属主体として破産財団 る場合には、当該事業自体を破産管財人の支配下 に法主体性を認めるの…いわゆる暗星的法人 22)J と におくことを意味し、事業に関連して雇用関係そ される。「この考え方は、財団債権の債務者を破産 の他の契約関係が生じている場合には、その管理 権も破産管財人が掌握する J19) ことをいう。 財団とし、あるいは破産管財人を破産財団の代表 そして、「破産管財人の管理行為には、その管理 機関とするなど、他の法律関係も矛盾なく説明で きるという利点を認められる。 J23) に不可欠な預金通帳、帳簿等の会計書類、契約書類、 この説は、破産財団を通して破産者・破産債権者・ その他の証濃類の管理も当然に含まれる。」加とし ている。 通説とされてきた o しかし、法律の明文がないのに、 なお、処分とは、「破産財産の売却、譲渡による 第三者の関係を統一的に把握できるため、従来の 法人格を認めるには無理がある等の批判もある。 換価Jすることである。 また、破産管財人の職務には、普良な管理者と しての職務、すなわち善管注意義務も課される(破 ②管理機構人格説 これに対し、管理機構人格説では、財産の集合 1 6 4条 l項)。例えば、破産財団に属する債権 体としての破産財団ではなく、財産の管理機構と の取立てを行った場合、税務申告を怠り破産財団 しての破産管財人に法主体性を認める考え方をと 産法 1 7 )伊 藤 良 前 掲 注 ( 17 )1 1 1頁 2 1)伊藤前掲注(17 )1 1 1頁 1 8 )山本克己前掲注 ( 3 ) 37頁 1 9 )竹 下 前 掲 注 ( 3 )3 4 0頁 2 0 )竹 下 前 掲 注 ( 3 )3 4 0頁 2 2 ) 破産財団法人説の根拠として伊藤・前掲注(17 ) 1 4 2頁 幻)伊藤・前掲注(17 )1 4 2頁 -44ー 消費税法における納税義務者の一考察 るo また、破産財団に属する財産の管理及び処分を 管理機構人格説を前提とすると、破産財団は、 する権利は、破産管財人に専属するが、破産管財 管理機構としての破産管財人がもっ管理処分権の 人が営業又は事業の譲渡をするには、裁判所の許 客体となる財産の集合体と解される。この考え方 可を得なければならない(破産法 3 6条)としてい の下では、破産財団を法主体として認めるような るので、破産管財人は、裁判所の許可があれば事 表現を用いている上記の諸規定は、法律効果の実 業の譲渡は行える権限をもっ o しかしながら「破 質的意義を定めているものであり、法律効果その 産管財人は、裁判所の許可を得て事業を継続して 2 4 )にあると ものは独立の法主体である破産管財人 J いても、その資産価値は急速に劣化するから、速 Jことを踏まえると、 する。現在では、この管理機構人格説が有力となっ やかに売却する必要がある ている o 破産法の趣旨から考えても、破産管財人が、破産 27) 後に出来た破産財団の財産を原資として、新たに 4 .破産財団の意義と法的地位 事業を開始することは想定できないであろうし、 債務者に対して破産宣告がなされると、宣告時 既存の事業を譲渡するとしても裁判所の許可なし の総財産について破産者の管理処分権が剥奪され では行えない(かりに行っても無効となる)こと 4条)、その総財産が清算目的のために破 (破産法 3 を考慮すると、破産法において、破産会社や破産 産管財人という機構の管理下に置かれ(旧破産法 管財人が「事業」として行われる範囲は相当に狭 7条、破産法 7 8条)、破産債権者の共同の満足に いと考えるべきである。 充てるために換価される 2 5 }。この財産の集合体のこ とを破産財団という 2 6 )。破産財団に属する権利や財 産をどのようにとらえるかについては、破産管財 人の節で述べた様に、破産財団に権利主体として 第 4節 消費税法における事業性について 1.課税要件 消費税法における納税義務者は、事業者と外国 の性格、すなわち法人格を認めるべきかどうかで 貨物を保税地域から引き取る者と規定されており、 肯定説と否定説がある。 事業者とは個人事業者及び法人を指す(消費税法 第 3節破産法における事業性について 7 1 破産手続開始の決定があった場合、会社法 4 2条)。また消費税法において消費税が課税される のは、「圏内において事業者が行った資産の譲渡等」 に対してであり(消費税法 4条 l項)、事業者は、 条により破産会社は、 -ft 解散し、破産会社が有 園内において行った課税資産の譲渡等につき、消 する財産の管理処分権を奪われる。そのうえで破 費税を納める義務がある(消費税法 5条)と規定 産の目的の範囲内で存続したものとみなされる。 している o さらに、「圏内において事業者が行った したがって破産会社が破産後も事業を継続する意 資産の譲渡等 Jとは、「事業として対価を得て行わ 思があったとしても、事業を行うために必要な資 れる資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供 Jと 源=財産が存在しないため、事実上、事業の継続 されている(消費税法 2条 l項 8号)。つまり、消 は困難となる。 費税の課税要件に該当するためには、 ①圏内において 2 4 )伊藤・前掲注(17 )1 4 3頁 2 5 ) 破産法の目的として第 l条に、「この法律は、支払 不能又は債務超過にある債務者の財産等の清算に 関する手続を定めること等により、債権者その他 の利害関係人の利害及び債務者と債権者との聞の 権利関係を適切に調整し、もって債務者の財産等 の適正かつ公平な消算を図るとともに、債務者に ついて経済生活の再生の機会の確保を図ることを 目的とする j と定めている。 2 6 ) より詳細な破産財団の区別については伊藤健前掲 注(17 )1 4 1頁以下参照 ②事業者が、事業者として ③対価性がある行為を行い、 ④その行為が、資産の譲渡及ぴ貸付け並びに 役務の提供に該当する必要がある o 消費税法では、「事業者Jは、個人事業者及ぴ法 人であり(消費税法 2条 l項 4号)、それは消費税 2 7 )竹下前掲注 ( 3 )7 8頁 法学研究 N o . 1 6 -45ー 法基本通達 1-1- 1において、「自己の計算にお いて独立して事業を行う者である」と規定してい 広い 31) とされる o 消費税法における「事業 Jの意義について争っ 5年 1 1 た事案として、名古屋高裁金沢支部平成 1 る 。 月2 6日釦がある。この判決で、名古屋高裁は、「事 r 業として Jの意義について、「消費税の趣旨・目的 法人でない社団又は財団で代表者又は管理人の に照らすと消費税の『事業jの意義内容は、所得 定めのあるものを、消費税法上「人格のない社団等J 税法上の I 事業j概念と異なり、その規模を関わず、 といい(法 2①七)、法人とみなして同法の規定が f 反復・継続・独立して行われるj ものであるとい 2 . 人格のない社団について J )。 適用されることになっている(法 3 私法上のいわゆる権利能力のない社団・財団が うべきである。 Jとしている。いいかえれば、消費 税法の「事業」の範囲は消費税法の目的、趣旨に これに該当するが、権利能力のない社団・財団が もとづき、消費税法によって判断すべきであり、 その構成員又は出えん者から独立した社団又は財 所得税における「事業」の範囲と同じである必要 団として活動を行う場合には、単に法人格を有し はない。そして消費税法の「事業Jは、その経済 ていないだけでその実体は法人である社団・財団 活動の規模を関わず、反復、継続かっ独立して行 と異ならないところから、社会的に独立した存在 われる必要があることとした。 としてその法主体性が認められていることに伴い、 消費税法においてもこれを法人とみなし、独立し た納税の主体としての地位を認めている。このこ とは、所得税法制及び法人税法制においても同様 である。 第 3章 納 税 義 務 者 の 検 討 第 l節破産法と租税法の接点 前章では破産法と租税法について、双方の視点 ところで、私法上にいう人格のない社団(いわ より検討を行ってきた。当該事案は破産法と消費 ゆる権利能力なき社団)とは、①共同の目的のた 税法に跨るものであるが、これまでみてきた様に、 めに結集した人的結合体であって、②団体として 破産法においても破産時の消費税の取り扱いに関 の組織を備え、③そこには多数決の原理が採られ、 する規定は存在せず、また消費税法においても破 ④構成員の変更にかかわらず団体そのものが存続 産財団や破産管財人に対する規定は存在しないこ し、⑤その組織によって代表、総会の運営、財産 とから、この 2つの法の解釈が今回の事案にどの の管理その他国体としての重要な点が確定してい ように適用されるかが問題となる。 9年 1 0月 1 5日最高裁)、 るものとされているが(昭 3 この点につき、近藤隆司氏は、「破産理論は破産 民法上の組合や商法上の匿名組合は、一種の契約 手続きの内部的法律関係を念頭に置くものである 関係であって団体としての性格はないから、人格 ところ、租税法律関係については基本的に租税法 のない社団にはあたらないことを明らかにしてい の土俵とすべきである。租税法上、破産者から破 る 。 産財団又は、破産管財人への承継・組織変更等に 一審では、破産財団がこの「人格のない社団 J 関する規定はなく、また申告納付義務者は納税者 にあたるとして、納税義務の判定をおこなった。 (納税義務者又は徴収納付義務者)において他はな 7条 、 3 5条)。この理由から、納税義務 い(租通 1 3 .消費税法における「事業性」について 消費税法において「事業j とは、その規模を問 反復・継続・独立して行う わず、同種の行為を f ことお> J であり、所得税法における事業の観念より 者も申告納付義務者は破産者と解すべきであ る。却」と述べている。また、金子宏氏は「租税法 3 1)名古屋高裁金沢支判平成 1 5年 1 1月 2 6日 税資 2 5 3号 順 号 9 4 7 3 (原審富山地裁平成 1 5年 5月 2 1 日判決税資お3号順号 9 3 4 9 ) 2 8 )所得税法基本通達 2 6 2 9 )法人税法基本通達 1 ・ 1 ・ 2 3 2 ) 名古屋高裁金沢支部平成 1 5年 1 1月 2 6日 税資 お3号順号 9 4 7 3 3 0 ) 消費税法基本通達 5・1 1参照 3 3 ) 近藤隆司「倒産手続と消費税ードイツの状況を手 -46ー 消費税法における納税義務者の一考察 は侵害規範 ( E i n g r i f f s n o r m ) であり、法的安定性 定があること,破産の場合に法人税法第 3章第 2 の要請が強くはたらくから、その解釈は原則とし 節の清算の適用があるとする判例の流れから,破 r て文理解釈によるべきであり、みだりに拡張解釈 産管財人に消費税の申告・納税義務があり. 破産 や類推解釈を行うことは許されない o .・・ただし、 財団の管理,換価に関する費用 Jとして財団債権 文理解釈によって規定の意味内容を明らかにする 4 8条 l項 2号)との考え方が採 となる(破産法 1 ことが困難な場合に、規定の趣旨目的に照らして られている(東京地方裁判所破産再生部(民事第 その意味内容を明らかにしなければならないこと 処分権に専属する破産財団は、破産法人の基準期 2 0部) r管財事務の手引き (2008)J95頁)J加として、 について疑問は残しつつも、他の様々 その「事業性J な理由を総合的に勘案して、破産管財人に申告義 7 )。 務を課すとの見解をとる論者も多い 3 間における課税売上高を引き継がない別の法的主 福井地裁は、この点について、「破産会社が「事 。と述べている。 は、いうまでもない制 J ところで当初の争点である「破産管財人の管理 体であるといえるか否かJという聞いは、「法人が 業として Jの反復継続性を有しないことを理由に 破産し、破産管財人が破産財団の資産を譲渡した 納税義務は生じないものとする見解に対する東京 際の消費税を誰が納めるのか(納税義務者は誰か ) J 地方裁判所民事第 2 0部の見解を示したものにすぎ を検討することといいかえてもいいだろう。 ない Jから、「一般論として破産会社が事業者であ とすれば、上記の見解にしたがって消費税法に るとしても、それだけでは破産財団が本来的な納 おける納税義務者の検討を行うとすると、まず消 税義務者であることを否定することは出来ないし、 費税法の明文の規定と見解を適用すべきであるし、 …破産財団自体が納税主体となる場合があること 明文の規定がないものや、破産会社や破産管財人 をことさら否定する趣旨であるとは読み取れな の意義や関係性について等、破産法の内部的法律 い 。 Jとしており、破産財団が納税義務者かどうか 関係に基づくものについては、破産法の規定又は は別として、破産会社自体が一般的に事業者とみ 見解を適用すべきであるといえる o そこで以下で られるとは認めつつ、破産財団が納税義務者であ は、この視点を「前提 Jとして、これまで検討し る余地もあるとの立場をとっている。 てきた課題について整理・検討をおこなっていく。 第 2節破産法と消費税の「事業性Jについて そして、破産法からも同様に「事業性 Jについ て検討したが、その場合、破産会社は原則、破産 後も継続して「事業」を営むことは許されず、破 産管財人は、破産後に破産財団として新たに事業 1.事業性について 消費税法における「事業者Jは「自己の計算に を開始することは当然、既存の事業を継続すると おいて独立して事業を行う者j であり、「事業」と しても裁判所の許可なしでは行えないことから、 は、その規模を問わず、同種の行為を「反復・継続・ 破産法における「事業Jの範囲は相当に狭いのに 独立して行うこと」であることは、前述のとおり 対し、消費税法の「事業 Jは、相当程度に広いこ である。「破産手続開始後の課税資産の譲渡につい とはすでにみてきた。 て.かつては一部の裁判所管轄下において破産会 本稿では、これら破産法と消費税法の「事業性」 社は「事業として Jの反復性・継続性を有しない を踏まえて、破産財団や破産会社の「事業性Jに ので消費税の納税義務はないという扱いがされた ついて、どのように考えるべきであろうか。 5条 4項にお こともあったお)。しかし消費税法 4 前述の「前提 Jによって考えるならば、消費税 いて「清算中の法人につき J消費税を課す旨の規 がかりとしてJ(民事訴訟雑誌 5 2号 1 5 0頁 、 2 0 0 6 ) 3 4 )金子宏前掲注 ( 3 6 )1 1 2頁 3 5 )大阪弁護士会友新会編『弁護士業務にまつわる税法 の落とし穴(新版 ) J2 0 5頁(消文社・ 2 7 )( 永 ∞ 島正春弁護士執筆〕 3 6 )佐藤千弥「税法入門第 4 5回破産管財人は、破産宣 告後の原因に基づいて生じた消費税の納税義務・ L I B R Av o 1 .9N o . 22 0 0 9 1 23 8 申告義務を負うか J( 頁)参照。 3 7 )他に、西野敵雄「租税判例研究第叫4回破産財団に 属する課税資産の譲渡等に係る消費税の申告義務 (ジュリ N O . 1 3 8 9、2 9 ) がある。 ∞ 法学研究 N O . 1 6 -47- 法の「納税義務者 Jを検討するのであるから、や 立ち返ってみると、破産財団は、総債権者の債 はり、まず消費税法による「事業性 Jの概念を検 権の満足に供する目的をもって管理されており、 討すべきであると考える。 とすれば、(原告のいう法人格を有する)破産財 破産会社は破産手続開始の決定により-Jl解散し、 団や破産法人は法人であることから消費税法 2条 l項 4号により、まず「事業者Jに該当するだろう。 産手続が終了するまで存続するものとみなされて 破産手続による清算の目的の範囲内において、破 いる。そして清算の目的とは破産者の財産を「整 rドイツの通説は、い 理し、債権者に分配 j することである。つまり、 わゆる破産・倒産理論(職務説又は代理説)から 破産財団と破産会社は、債権者の分配を目的とし、 ところで近藤隆司氏は、 の帰結として、納税義務者は破産・債務者、申告 破産手続き終結をもって消滅する一度きりの存在 納付義務を履行すべき者は破産・破産管財人と解 であり、それを「反復・継続・独立として」存在 する(なお、 AO [租税基本法]三十四条一項は、 しているわけではない。 納税者の法定代理人は当該納税者の租税上の義務 消費税法の「事業として Jに該当しないならば、 を履行しなければならないとし、岡三項は、管財 次に(原告の主張する法人格を有する)破産財団 人等の財産管理人も同様であるとする)。しかし、 と破産会社の「事業Jについて、破産法による破 破産理論は破産手続きの内部的法律関係を念頭に 産手続きの内部的法律関係を念頭に置く必要があ おくものであるところ、租税法律関係については るo そこで、破産管財人の清算行為の範囲につい 基本的に租税法の土俵で検討すべきである。租税 て検討する。 法上、破産者から破産財団又は破産管財人への承 継・組織変更等に関する規定はなく、また申告納 付義務者は納税者(納税義務者又は徴収納付義務 2 .破産管財人の清算行為の範囲 破産法の目的は、債権者に対する「公平な清算J 者)において他はない(税通十七条・三十五条)。 である。したがって、破産管財人は第三者との公 この理由から、納税義務者も申告納付義務者も破 平を図りながらその業務に携わらなければならな 産者と解すべきである。破産管財人はその履行義 い。この公正中立義務や忠実義務は、広い意味で 務者である(なお、わが国は AO三四条[特に 3項] の普管注意義務に含まれるものとされ湖、これらの に相当する規定を知らないため、少なくとも租税 義務に反した場合には、利害関係者に対し損害賠 法律関係においては破産者の法定代理人とみなす 償責任が発生するほか、裁判所の監督権発動によ べきである)。掛 j と主張している。 り解任されることもありうる。その他、破産者が しかし「事業者jであるからといって、換価に その財産の管理について公法上の義務をおってい より生じた資産の譲渡についてただちに「納税義 るような場合には、破産管財人も、破産財団に関 務」が生じるわけではない。「事業者Jが「事業と する限りその義務を道守しなければならない。 して j対価を得て資産の譲渡を行わなければ、消 租税債権に係る破産財団債権の弁済に関する、 費税の課税要件を満たさず、納税義務は発生しな 破産管財人の善管注意義務違反を認めた例として、 いはずである。 5年 1 0月3 0日がある 40>。この事案は、 最ニ小判昭和 4 確かに、消費税基本通達 5-1-1の注において、 法人が行う資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提 破産管財人が十分な調査を行わないままに破産手 続きを終了した場合は、破産管財人に対し普管注 供は、その全てが「事業として Jに該当するとし 意義務違反があるとしたものである。前述の「前提」 ている。しかしこれはあくまで、その本文である「事 と、この判決を踏まえれば、破産管財人が普管注 業としてjが、「対価を得て行われる資産の譲渡及 び貸付け並びに役務の提供が反復、継続、独立し 意義務をはたしているか否かは、破産法の内部的 て行われること Jを前提としている。 3 8 )近 藤 前 掲 注 ( 4 4 )1 5 0頁 -48ー 消費税法における納税義務者の一考察 法律関係に基づくものであり、たとえ争いが租税 3 9 ) 伊藤・前掲注(17 )1 1 1頁 4 0 )最ニ小判昭和 4 5年 1 0月 3 0日民集 2 4巻 1 1号 1 6 6 7 頁 債権に該当するものであっても、租税法に影響さ 巻 3号 3 2 9頁) .13)がある o 伊藤良氏は、予納法人税 れるものではない。したがって破産管財人は破産 は財団債権といえず、破産管財人の納付義務が否 法の善管注意義務の枠内で、破産法が予定してい 定されたことを前提として、「もっとも、納付義務 る業務、つまり、破産財団の管理・維持を閲りな はなくとも、申告義務が存在するかどうかという がら、破産債権を確定させ、破産財団の換価・配 疑問がある。財団債権性が否定される以上、破産 当を実施することを行えばよく、それ以外の業務、 管財人は、申告義務も負わないといする考え方と、 つまり納税義務が公法上の義務 41) に該当しないの 破産法人の財産について管理処分権をもっ破産管 であれば、それは破産法に規定されていないこと 財人は。破産財団の管理にかかわる公法上として、 から破産管財人の清算行為の範囲外とみることも 申告義務を負うという考え方がありえよう。財団 できる。 債権性と予納法人税の申告義務は別物であるから、 後者の考え方が正当である。 J44) としている。 3 .破産管財人の納税義務の検討 また、破産者が負担する公法上の職務について、 ところで破産管財人が行う換価による資産の譲 破産管財人がその履行の責任を引き受けるべきか 渡等が、消費税法上の「事業として J行われたも どうかは、その義務が破産財団の管理換価に関わ のとして、破産者にその納税義務が発生した場合、 るものであり、破産債権者が共同の負担として、 破産財団の管理者である破産管財人自身にその納 その義務履行にともなって発生する費用等を受任 税義務が及ぶことになるのであろうか。 この点、破産者が消費税の納税義務を負い、破 しなければならないものかどうかによって決せら れる 0445} としている。公法上の義務とは、法律や 産管財人がその義務を負うと破産者から承継する 条令等により定められた義務のことではあるが、 と解すべき法令上の根拠は存在しないのであるか 前述の破産管財人の職務は①破産財団の占有・管 ら、破産管財人は消費税の納税義務を負わないと 理・維持増殖を図り、②破産債権の確定に関与し、 考えることもできる。 ③破産財団の換価・配当を実施することであり、 これに対し、伊藤呉氏は、「破産管財人が公法上 税務申告を行うという明文上の規定はない。また、 の義務を履行すべきものとされるのは、それが破 破産手続終了後に破産法人に自由財産が存在する 産財団所属財産の管理にともなって発生する費用 場合には、そこから別途、法人税の確定申告を行 であり、破産債権者が共同で負担することを受忍 う可能性もでてくる。 しなければならない負担という性質を持つためで す 。 この考え方に基づけば、破産財団の消費税の納 4 2リと述べている。そして、「破産管財人が負 税義務は、破産管財人の換価業務によって発生す 担する公法上の義務について、破産管財人がその るところ、その換価業務が公法上の義務にあたり、 履行の責任を引き受けるべきかどうかは、その義 それにともない破産管財人の納税義務も発生する 務が破産財団の管理換価に関わるものであり、破 こととなる。 産債権者が共同の負担として、その義務履行にと もなって発生する費用等を受忍しなければならな 以 上 、 破 産 法 と 消 費 税 の 「 事 業 性 Jについて、 いものかどうかによって決せられるといってよい 検討をおこなってきたが、まとめてみると、次の でしょう。 Jと指摘している。公法上の義務の具体 ようになるだろう。 例として、予納法人税の申告納付義務について争っ た最高裁昭和 62年 4月 2 1日第三小法廷(民集 4 1 4 1 ) 公法上の義務についての判例として、最二小判平成 2 3年 1月 1 4日民集 6 5巻 l号 l頁がある。この判 決については、第 4節で紹介する。 4 2 ) 伊藤良 f 破産管財人等の職務と地位J1 2頁(事業 1 9号 、 2 8 ) 再生と債権管理 1 ∞ 4 3 ) 最三裁判昭和 6 2年 4月 2 1日民集 4 1巻 3号 3 2 9頁 予納法人税や消算所得に対する法人税の制度自体 2年 1 0月 1日以降に解散する内国法人 は、平成 2 について廃止され、現在は通常の法人税が適用さ れているため、その紹介は割愛する 4 4 )伊藤・前掲注(17 )1 9 7頁 4 5 )伊藤鍵『破産管財人等の職務と地位J4頁(事業再 1 9号 、 2 8 ) 生と債権管理 1 ∞ 法学研究 No.16 -49ー 消費税の納税義務者が破産会社であれ、破産財 外としていないことも、破産会社が消費税の納税 団であれ、法人格を有するならば、それは「事業者J 義務者であることの論拠にあげていた。これは、 に該当する。そして、事業者が「事業として J対 5条 4項の規定が、法人税の規定と同じ 消費税法 4 価を経て行う資産の譲渡をおこなえば、その譲渡 趣旨であり州、破産は清算手続きの一種であるとい は「課税資産の譲渡Jとなり、消費税の納税義務 う考えによるものからきていると推測できる。し が生じる。しかしながら、破産財団と破産会社は、 かし会祉法に基づき解散によって清算される法人 債権者の分配を目的とし、破産手続き終結をもっ と、破産によって清算される法人について、同一 て消滅する一度きりの存在であり、それを「反復・ に取り扱っていいものだろうか。これに対し、次 継続・独立として J存在しているわけではない。 の理由で反論したい。 また、破産法における「事業」の範囲は非常にせ 第一に、会社が解散し清算を行う場合、その手 まし破産管財人も、破産法により委託された業 続きは会社法によって行われるが、破産の場合は 務の範囲内の業務しか行えないこと、破産会社、 破産法に基づいて行われる。つまり外形上が似て 破産管財人のいずれも、通常は「事業Jを行わな いたとしても、その根拠法が別々なわけであるか いことを鑑みれば。破産者や破産財団が消費税の ら、これを同ーのものとして、纏めてしまうのに 納税義務者に該当したとしても、換価による資産 は無理がある。 の譲渡につき、消費税の課税要件を満たしていな いのであるから消費税の納税義務も発生しないと 考えることが出来る。 第 3節法人税法からのアブローチ 第二に、法人税法上、破産会社と会社法の解散 による清算会社とは取り扱いが違うため。 破産会社は、そもそも会社法上の清算株式会社 7 5・4 7 6条 ) 、 の定義から外れているため(会社法 4 清算事務年度の規定(会社法 4 9 4条)の適用がなく、 前節では、破産法と消費税法の両方から「事業性J 租税法令にも別段の手当てが定められていないた について検討をおこなってきたが、この節より他 め、現行の法人税法では、解散の日から定款の定 の租税法の視点から本件事案について検討をおこ ないたい。 める事業年度末日までが第 1期の清算事務年度と なる 4 i )0 4 8 ) 法人税における納税義務者 か l謀共同「法人税基本通達等の一部改正につい 国税庁も、平成 法人税法における納税義務者は法人であるが、 そのうち、内国法人(圏内に本底または主たる事 1 9年 3月 1 3日付課法 2-3ほ てJ(法令解釈通達)の趣旨説明において基本通達 を改正した理由を以下の様に説明している。 務所を有する法人)は、無制限納税義務者として、 「法人が事業年度の中途において解散(合併によ その源泉が圏内にあるか圏外にあるかを問わず、 る解散を除く。)をした場合、その事業年度開始の 全ての所得について納税義務を負う(法人税法 4 日から解散の日までの期間及び解散の日の翌日か 条 l項・ 5項 ) 。 人格のない社団等も、法人税法の適用について の事業年度とみなすこととされているが(法 1 4 は、法人としてみなされる(法人税法 3条)。人格 のない社団等に該当するかどうかは、前述にある ー)、ここでいう「事業年度終了の日 Jの「事業年 度J とは、会社が定款で定めた事業年度をいうのか、 らその事業年度終了の日までの期間をそれぞれー ように、消費税法における判断と同様にとってよ かろう。よって、消費税法と同様、破産財団が人 格のない社団等と判断されれば、破産財団もまた 法人税法の納税義務者として、法人税が課される ことになる。 ところで、名古屋高裁は、法人税が解散した場 合の清算所得に対する規定は、破産清算を適用除 一切ー 消費税法における納税義務者の一考察 4 6 )大島隆夫ほか『消費税の考え方・読み方J 3 9 1頁(税 務経理協会、五訂版、平成 2 2年) 4 7 ) 岡正晶『破産手続と租税に関する近時の重要問題j 租税法の発展 2 0 1 05 6 8頁 脚 注 1 1参照 4 8 ) 法人税基本通達 1 2 7及びその解説は、国税庁 HP h t t p : / / w w w . n t a . g o . j p / s h i r a b e r u l z e i h o ・ k a i s h a k u l j o h o z e i k 国s h a k u l h o j i n l 0 7 0 3 1 3 / 0 2 . h t m( (平成 2 6年 1月 1 8日最終閲覧) 会社法で定める清算事務年度をいうのか、疑問を 会社法 4 7 5条において、「…清算の開始原因からは、 もっ向きもあるようである。 破産手続開始の決定の場合及び破産手続開始の決 8年度の この点、会社法の規定を踏まえ、平成 1 税制改正により、法人税法上の事業年度の定義が 定により解散した場合であって当該破産手続が終 了していない場合を除く蜘」とあると規定している 「営業年度その他これに準ずる期間で、法令で定め ことから、破産手続開始については清算開始にあ るもの又は法人の定款、寄附行為、規則若しくは たらないと解することができる。よって法人税法 規約に定めるもの」から「法人の財産及び損益の 基本通達 1-2-9にいう「解散等」には、「破産 計算の単位となる期間で、法令で定めるもの又は 手続開始」は含まれず、破産の場合には上記基本 法人の定款、寄附行為、規則若しくは規約に定め 通達 3 )、清 るもの Jに改められていることから(法 1 条の規定がそのまま適用されることとなる。 1-2-9の適用は無い。よって法人税法 1 4 i i 青算事務年度」が法人税 また、消費税の諜税期間もこれに準じている。 3条に定める「法人の財産及び損益の計算の 法第 1 消費税法基本通達 3-2-3によれば、法人が課 単位となる期間で、法令で定めるもの」に該当す 税期間の中途において解散した場合には、当該解 ることとなる o したがって、法人が事業年度の中 散した法人の課税期間は、その事業年度開始の日 算中の会社にあっては、 途において解散(合併による解散を除く。)をした 4条に規定する解散までの日とな から法人税法第 1 場合には、まず、法人が定款等で定めた事業年度 り、当該課税期間の翌課税期間は、当該解散の日 開始の日から解散の日までの期間についてみなし の翌日 その事業年度終了の日までの期間とな る 51)。 事業年度が生じ、次に、解散の日の翌日から会社 法上の清算事務年度終了の日までの期間について みなし事業年度が生じることとなる。」。 つまり、破産会社と清算会社が悶ーと考えるな らば、事業年度の取扱い等の手続きも同一であっ そして、破産手続開始の決定による解散の場合 てしかるべきところ、法人税法においても、それ や持分会社が解散した場合にあっては、清算事務 ぞれの会社の趣旨を鑑みて、別々の取扱いをおこ 8年度税 年度は定められていないことから、平成 1 なっているのである。 制改正前と同様に、会社が定款等に定めた事業年 度を法人税法上の事業年度として、従来どおり法 人税法第 1 3条及び第 1 4条の規定が適用されるこ ととなる。つまり破産にもとづく清算と会祉法に 基づく清算で事業年度の考えが違うわけである。 したがって、名古屋高裁の上記判断について全 面的には賛成することは出来ない。 第 4節所得税法からのアブローチ 1.所得税法における納税義務者について 4 9)にある「清算事務年度J 1 2 9 所得税の納税義務者は、その性質上、原則とし とは、会社法 4 9 4条で定めている、解散した株式 て個人であるが、そのうち、居住者は、無制限納 法人税基本通達 会社についての事業年度のことをさす。同条では、 税義務者として、その源泉が圏内にあるか国外に 株式会社が解散等をした場合において、「その解散 あるかを問わず、すべての所得について納税義務 等をした日の翌日又はその後毎年その日に応当す を負い(所得税法 5条 1項・ 7条 l項①号)、非居 る日から始まる各 1年の期間 Jを清算事務年度と 住者(居住者以外の個人)は、制限納税義務者と の範囲について、 定めている。そしてこの「解散等J して、国内源泉所得についてのみ納税義務を負う 4 9 ) 法人税基本通達 1 2 9 株式会社等が解散等(会社 7 5条各号又は一般法人法第 2 0 6条各号(清 法第 4 算の開始原因)に掲げる場合をいう)をした場合 における清算中の事業年度は、当該株式会社等が 定款で定めた事業年度にかかわらず、会社法第 4 9 4条第 l項又は一般法人法第 2 2 7条第 1項(貸 借対照表等の作成及び保存)に規定する清算事務 年度になるのであるから留意する。 ) 。 (所得税法 5条 2項・ 7条 1項 3号 所得税法においては、平成 2 3年に破産管財人の 源泉徴収義務について、最高裁判決があった。こ の事案は、本事案にも影響があると思われるため、 以下でその紹介と検討をおこなう。 5 0 ) 国税庁 HP前掲註 ( 5 9 ) 51)国税庁 HP前掲注 ( 5 9 ) 参照 法学研究 No.16 -51ー 2 .最二小判平成 2 3年 1月 1 4日の紹介及び検討 えられて、法令上定められた職務の遂行に当たる 事案の概要 者であり、破産者が雇用していた労働者との聞に 、 本事案は、 Y社の破産管財人である上告人 Xが おいて、破産宣告前の雇用関係に関し直接の債権 旧破産法の下において、破産管財人の報酬の支払 債務関係に立つものではなく、破産債権である上 いをし、破産債権である元従業員らの退職金の債 記雇用関係に基づく退職手当等の債権に対して配 権に対する配当をしたところ、所轄税務署長から、 当をする場合も、これを破産手続上の職務の遂行 0 4条 1項 2号の規定が、 上記支払いには所得税法 2 として行うのであるから、このような破産管財人 9 9条の規定がそれぞれ適用さ 上記配当には同法 1 と上記労働者との聞に、使用者と労働者との関係 れることを前提として、源泉所得税の納付の告知 に準ずるような特に密接な関係があるということ 及び不納付換算税の賦課決定を受けたことから、 はできない。 Jと述べ、破産管財人と元従業員の開 上告人 Xの被上告人に対する源泉所得税及び不納 には「特に密接な関係j がないと指摘した。 付加算税の納税義務が存在しないことの確認を求 さらに、本判決は、「破産管財人は、破産財団の めるとともに、予備的に、被上告人に対する源泉 管理処分権を破産者から承継するが(旧破産法 7 所得税及び不納付加算税の債権が破産財団債権で 条)、破産宣告前の庖用関係に基づく退職手当等の ないことの確認を求めた事案である。本稿ではこ 支払に関し、その支払の際に所得税の源泉徴収を のうち労働債権に対する配当における源泉徴収の すべき者としての地位を破産者から当然に承継す 要否について、さらに当該事案に関わるものを抜 ると解すべき法令上の根拠は存しない。 Jとした。 粋して紹介する。 これは、破産管財人の管理処分権が、法令上の 根拠条文がないことを理由に、源泉徴収義務を承 最高裁の判決について 一審、二審ともに、本件退職金の配当について Xが源泉徴収義務を負うとし、課税庁の X に対す る各処分を適法と判断したのに対し、最高裁は、 退職金配当に係る Xの源泉徴収義務を否定し、控 訴審判決を破棄した。その根拠として、以下のも のを挙げている。 継する根拠にはならないとするものである。 そして、本判決は、「破産管財人は、上記退職手 9 9条にいう「支払をする者J 当等につき、所得税法 1 に含まれず、破産債権である上記退職手当等の債 権に対する配当の際にその退職手当等について所 得税を徴収し、これを国に納付する義務を負うも と判断した。 のではないと解するのが相当である。 J 最高裁昭和 3 7年の判決却に基づき、「所得税法 1 9 9条の規定が、退職手当等(退職手当、一時恩 3 .検討 給その他の退職により一時に受ける給与及びこれ 徴収義務を負うとされる「支払をする者 j に該当 らの性質を有する給与をいう。以下同じ。)の支払 するか否か、そして Y社が本件退職金配当または をする者に所得税の源泉徴収義務を課しているの 本件報酬について、「支払をする者j に当たるとし も、退職手当等の支払をする者がこれを受ける者 た場合、破産管財人である X は源泉徴収義務を負 と特に密接な関係にあって、徴税上特別の便宜を うか否か、つまり、所得税法の源泉徴収義務者は 誰かについて争われた。 有し、能率を挙げ得る点を考慮したことによるも この事案は、 Y社または Xが.所得税法上源泉 のである。 Jと述べ、支払をする者に源泉徴収義務 学説上、破産管財人が給与等や退職手当等の労 を課すためには支払者と受給者の関に「特に密接 働債権を配当するに際し源泉徴収を要するかにつ な関係」が必要であるとした。 また「破産管財人は、破産手続を適正かつ公平 に遂行するために、破産者から独立した地位を与 5 2 ) 最高裁昭和 3 1年(あ)第 1 0 7 1号伺 3 7年 2月 2 8 日大法廷判決・刑集 1 6巻 2号 2 1 2頁 -52- 消費税法における納税義務者の一考察 いては、不要とする説がー舷的であったが、近年、 源泉徴収を必要とする説が現れてきた制。 必要説は、その根拠として、破産管財人が破産 5 3 ) 佐藤英明「破産手続きにおける租税際債権の扱い j (ジュリ 1 2 2 2号 1 9 1頁) 者の地位を引き継ぐため、破産者の負う源泉徴収 義務も引き継ぐとすること 5 . 1 )、破産管財人の管理処 分権の一環として破産管財人が破産者の負う源泉 徴収義務の手続を行う義務を負うとすることがあ げられる o 国税不服審判所裁決平成 1 4年 2月 2 5 本判決は前述の本稿の見解を補強するものとなる。 第 5節 消費税法における納税義務者の検討 本章の最後節では、消費税法における「人格の ない社団 Jについて検討をおこなう。 日裁決事例集 6 3巻 2 1 2頁は、裁決の中で源泉徴収 の「支払をする者 Jは破産者にあたるが、管理処 分の一環として破産管財人が源泉徴収義務を負う 1.人格のない社団について 福井地裁は、破産財団を消費税法の「人格のな い財団」にあたるとして、その法人格を認めたの と判断している。 破産管財人の立場について、「破産管財人は、破 に対し、名古屋高裁は、破産者は、破産財団の管 産会社と別個な破産財団という法人格の代表的立 理処分権を喪失するにすぎず、破産管財人の行っ 場であり、破産会社に代わって給与の支払いをな た換価処分の効果は、すべて破産者に帰属すると す義務者ではない。悶 Jし、「破産管財人は、破産 いうべきであるとして、破産財団の法人性を否認 会社でも代理人でもない。卸 Jとする見解もある。 した。 しかし本判決は、その見解を取らず、破産者の さらに、「権利能力なき財団の成立要件は、①目 源泉徴収をすべき者としての地位を破産管財人が 的財産の分離独立と、②当該財産の管理運営体制 当然に承継すると解すべき明文上の規定がないこ の確立、すなわち、その財産の管理人・管理機関 とを、判決の根拠にあげている。 への帰属であると解されるところ、破産者は、そ 最高裁は、判決の中で、「破産管財人は、破産手 の財産の帰属主体たる地位や破産財団の所有権を 続を適正かつ公平に遂行するために、破産者から 喪失するものではなく、破産管財人は単にその管 独立した地位を与えられて、法令上定められた職 理処分権を有するにすぎないし、その行為の行為 務の遂行に当たる者であり、…破産債権である上 も、すべて破産者に帰属し、破産財団自体に帰属 記雇用関係に基づく退職手当等の債権に対して配 するものではないから、破産財団は、権利能力な 当をする場合も、これを破産手続上の職務の遂行 き財団の成立要件を満たさないものであるとして として行うのであるから、このような破産管財人 福井地裁の判断を否定した。両者のスタンスは「破 と上記労働者との聞に、使用者と労働者との関係 産財団代表説」と「管理機構人格説Jそのもので に準ずるような特に密接な関係があるということ ある。 はできないりとして、破産管財人の職務の範囲に 言及し、それを超える関係性について否定した。 さらに、「破産管財人は、破産財団の管理処分権 を破産者から承継するが、…その支払の際に所得 税の源泉徴収をすべき者としての地位を破産者か ら当然に承継すると解すべき法令上の根拠は存し しかし、 ①学説上も「管理機構人格説」が有力である こと ②実務上でも破産財団を法人としていないこ と ③そして何より本稿で判断の基準としてきた 「前提Jに従えば、法人格の付与にあたり消 ない。」 破産管財人の職務に言及し、法令上の根拠の有 費税法においても破産法においても明文の 無を基準とした最高裁の判決は、前章において「前 提 j を下に検討してきた本稿の判断と一致し、そ 規定がない「破産財団代表説 Jを採用する ことは出来ない。 してそれは租税法律主義にもかなう。したがって 福井地裁が、「破産財団代表説Jが現在の有力説 5 4 ) 佐藤英明「破産手続きにおいて支払われる賃金と 所得税J税務事例研究 6 7号 2 3頁 ( 2 2 ) 0 9号 1 1 4頁(16 9 7 ) 5 5 ) 上野久徳『破産と税金処理j判タ 2 5 6 ) 永島正春『破産管財人の源泉骸収義務j 税務広報 3 6巻 9号 1 4 8頁(19 8 8 ) ∞ ではないことを承知の上で、破産法はさておき、「消 費税法上は破産財団に破産者と独立した納税主体 性があるといった背景には,単純に破産財団を免 税事業者とすれば破産財団は消費税の納付義務を 法学研究 NO.16 -53ー 免れ.財団増殖に有利になり破産債権者に利する との考えがある o 5ilJ との見方もある。 異としていること、破産者は納税義務者とするこ とで、消費税法と破産法のどちらからも破産手続 しかし、もし破産財団が破産者と別の納税主体 をより明確にできること、破産法人に対し納税義 であるならば、破産と同時に破産者から破産財団 務を負わせないという結論は、債権者に対しより に資産の譲渡が発生することになるが、その場合、 多くの配当を行うことを意味し、債権者の破産に その資産の譲渡に対し消費税の納税義務は生じる よる負担の軽減を図ることが出来ることが、本稿 ことになる。それは、破産者にとってその消費税 の意義と考える o を払うことは困難であるから、むしろ不利になる ことになり、福井地裁の考えにそぐわない結論を 招くことになる。 おわりに 以上にわたり、本稿では、破産時における消費 税の納税義務者について、ひとつの「前提Jをベー 2 .結論 本稿では「破産管財人の管理処分権に専属する スにしつつ、破産法と消費税の基本に立ち返って 破産財団は、破産法人の基準期間における課税売 検討をおこなってきた。しかし本稿による結論で 上高を引き継がない別の法的主体であるといえる 全ての疑問が解消されるわけではない。 か否か Jという論点を通して、消費税法における 本稿の論拠でいくとしても、たとえば、破産財 納税義務者について検討をおこなってきた。まず 団の財産を整理する過程で、消費税還付がわかっ (原告のいうところの法人格を有する)破産財団や たとしても、資産の譲渡に対して納税義務が発生 破産法人が、法人であることをもって、消費税法 しないため、課税売上がなく、還付できないケー の「事業者Jにあたり、消費税の納税義務者にな スが想定される。また個人において、破産後、新 ることを確認しつつ、どちらの法人も「事業Jを たに事業を始めることが出来るが、その場合、破 おこなっているとはいえないことから、換価に起 産者が納税義務者となるが、破産者は破産財団の 因する資産の譲渡に対し、納税義務がないことを 状態がわからないため、破産管財人が消費税の申 指摘した。そして、消費説法、破産法のどちらにも、 告をおこなった場合、一人の人物に対し別々の申 破産財団が「人格のない社団 Jであるとする明文 告を行う事になる o その場合の課税売上高の算定 上の規定がないことを理由に、破産財団の法人性 はどのようにすればよいのか。再度、検討の余地 を否定した。結論として破産法人が、消費税法の があるものと思われる。 納税義務者であるが、破産管財人も公法上の義務 「納税義務者Jは、租税法にとって重要な概念で としてその申告義務を負う。しかし資産の譲渡に あるにも関わらず、本件事案のように、その判断 おいては、課税要件をみたさず申告義務はないと が分かれることは、課税される側としても問題が の結論にいたった。 あるといえよう。消費税法をはじめ租税法には破 納税義務者の判断は名古屋高裁の結論と同じと 産に関する規定も少ないことから、今後、法整備 なったが、本稿では、ひとつの「前提 Jをベース が進み、円滑な破産手続が進むことを期待して、 におき、消費税法と破産法の基本に立ち返って検 討をおこなってきたことから、その判断の過程を 本稿を終わらせたいと思う。 5 7 ) 佐藤千弥前掲注 ( 4 8 ) -54- 消費税法における納税義務者の一考察 本件事案のフローチャー卜(参考) 手続的保障原則 誰が納税義務者か? 圏内取引については、課税資産の譲渡等を行った事業者が納税義務者である 消費税法上、原則、個人でも法人でもないなら納税義務者にならないが、実態を鑑みて 課税すべき場合(人格のない社団)は、医亙とみなして課税する 成立 4要件(民法) ①団体としての組織を備えていること ②多数決の原則が行われていること ③構成員が変更しても団体そのものは存続すること ④その組織によって代表の方法、総会の運営、財産の管理その他団体としての主要な点が確定 していること 法学研究 N o.16 -55ー
© Copyright 2024