(ニホンアワサンゴ)ー褐虫藻共生体における光合成生産量の推定

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研究成果報告
温帯性サンゴAlveopora japonica (ニホンアワサンゴ)―褐虫藻共生体における光合成生産量の推定
2014年2月28日
新宅航平 (指導教員 小池一彦)
広島大学大学院 生物圏科学研究科 海洋生態系評価論研究室
【はじめに】
ニホンアワサンゴ (Alveopora japonica)
温帯では特有の環境ストレスに曝される
幅広い水温変化(特に冬の低水温),高濁度環境による低照度など

イシサンゴ目

褐虫藻と共生

温帯域に生息
ニホンアワサンゴは特有の環境ストレス耐性をもつのでは?
群生地発達の背景を知り,今後の動態を予測する上で重要な知見
【ニホンアワサンゴに共生している褐虫藻について】
一般的なサンゴと褐虫藻との共生関係
サンゴ
光合成産物
光合成産物に依存
栄養塩など
褐虫藻
Symbiodinium属の
渦鞭毛藻

褐虫藻(Symbiodinium)は遺伝子等の違いによ
り9つのグループに分類される

ニホンアワサンゴはイシサンゴとの共生事例が
少ないグループの褐虫藻と共生している※1
ニホンアワサンゴは珍しい褐虫藻と共生
【ニホンアワサンゴ―褐虫藻共生体の水温ストレス耐性について】
< 飼育実験を実施 >
低水温処理区
18℃ → 10℃
コントロール区
18℃のまま
< 飼育実験結果・考察 >
水温10℃,28℃で光合成活性が低下
高水温処理区
18℃ → 28℃
(28℃ではニホンアワサンゴが死亡した)
10℃以下,28℃以上は生息に適さない

1日に0.5℃ずつ温度を変化させた

その間,毎日「光合成活性」を測定
一般に,サンゴの生育に適した水温は
20~28℃
⇒ 水温10~28℃の間の様々な水温での光合成活性
高い低水温ストレス耐性を示唆
【地家室沖の水温とニホンアワサンゴ―褐虫藻共生体の水温ストレス耐性】
地家室沖の群生地の水温は約10℃~26℃(公益財団法人黒潮生物研究所による測定結果)
水温10~28℃の範囲内であり,本研究の結果からニホンアワサンゴの生息に適した環境と思われる
最低水温は下限に近い?
周防灘で冬季の水温上昇が報告されている(和西, 2004)
黒潮生物研究所によって測定された地家室沖
の水温(2010年9月~2013年9月)を見ると…

1973年~2003年の間に表層で0.71℃水温が上昇
水温11℃を下回る頻度が減少している

特に冬季の水温が上昇(水温10℃を下回る頻度が減少)
冬季の水温上昇(特に10℃を下回る頻度の減少)がニホンアワサンゴ群生地の発達を促した?
※1 Rodriguez-Lanetty et al., 2003など。地家室沖のニホンアワサンゴについても同様であることを本研究で確認した
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【ニホンアワサンゴ―褐虫藻共生体の光合成と低照度について】
< 飼育実験を実施 >
< 飼育実験結果・考察 >
光合成速度の測定方法
明条件
光合成
暗条件
呼吸
呼吸
O2濃度の変化から光合成速度を算出

どの水温でも,光が強いほど光合成速度が大きくなった

最大光合成速度は水温20℃で最大
(理由はよく分からない)

低照度への適応の程度は“普通”
…実験結果より求めたIk は 熱帯のサンゴと同程度だった
ニホンアワサンゴの生息には明るい場所が適すると思われる
光の強さと光合成速度の関係
(イメージ図)
最大光合成速度
光合成速度
水温14℃,17℃,20℃,23℃で,様々な光の
強さにおける光合成速度を測定
⇒光の強さと光合成速度の関係式を作成した
初期勾配
Ik
光の強さ

光が強いほど光合成速度が
大きいが,やがて飽和する

𝐼𝑘 =

低照度に適応しているサン
ゴでは Ik が小さくなる
最大光合成速度
初期勾配
実験結果を元に得た光の
強さと光合成速度の関係式
群生地の水温※2
群生地の光の強さ
(海面の光量※3および
透明度※4から推定)

光合成量―呼吸量
((μg O2 /cm2 /day)
【地家室沖の水温・光環境でのニホンアワサンゴ―褐虫藻共生体の光合成量推定】
光合成>呼吸
“成長する”
地家室沖水深7 mに生息するニホンアワサンゴの日毎の光合成量―呼吸量(推定)
水深7 mでは光合成量>呼吸量となる日が多く,年間の光合成量>年間の呼吸量となった
地家室沖の光環境はアワサンゴの生息・成長を支えうる

水深13.6 m以深では年間の呼吸量>年間の光合成量
地家室沖のアワサンゴ分布状況(水深約14 mまで生息)と概ね一致した

浅い場所ではより多くの光合成が可能だが,地家室沖でニホンアワサンゴが最も多いのは約6~10 m
浅い場所では海藻が繁茂しているため,ニホンアワサンゴの生息が制限されている??
近年,藻場や海藻の減少が西日本各地で報告されている(磯焼けなど)
海藻が減少することで,より多くのニホンアワサンゴが生息できるようになる可能性がある
【まとめ】

ニホンアワサンゴ―褐虫藻共生体は高い低水温ストレス耐性をもつが,低照度へは特に適応してはいない

地家室沖の水温・光環境はニホンアワサンゴの生存・成長を支えうることが示唆された

冬季の水温上昇や海藻の減少がニホンアワサンゴ群生地の発達を促した可能性がある
地家室沖の海藻やニホンアワサンゴ群生の状態は,瀬戸内海における環境変化の指標として重要
※2 公益財団法人 黒潮生物研究所による測定結果より ※3 独立共生法人NEDOのデータベース(METPV-11)より
※4 山口県水産研究センター,平成24年度平生岩国定線調査より
報告書作成者:新宅航平(指導教員 小池一彦)