急激に進行した腎機能障害の一例 (腎機能障害シリーズ

急激に進行した腎機能障害の一例
(腎機能障害シリーズ①)
(富山労災病院症例検討会)
平成26年9月8日
富山労災病院
腎・高血圧科
絹野裕之
高齢者に多い腎疾患
症例: 69歳 男性
【主訴】食欲不振、全身倦怠感
【嗜好歴】たばこ 20本×50年 ビール350ml+α×50年
【既往歴】平成16年 虫垂炎で手術、平成17年5月 脳梗塞
平成21年 下肢静脈瘤 平成24年 慢性閉塞性肺疾患
【現病歴】 脳梗塞、慢性閉塞性肺疾患のため、当院脳神
経外科と近医に通院中。
平成25年5月上旬より、アルコールが飲めなくなった。5月
14日より、胸部不快感、下痢が出現。近医で補液を受けた
が、症状は改善せず、尿量は減少し、全身倦怠感が増強し、
ボーとしているため、21日、当院脳神経外科に紹介受診。
頭部CT、MRIでは異常なく、BUN 155mg/dl, Cre 22.38mg/dl
と高度の腎機能障害を認めたため、当科に紹介。精査加療
目的に緊急入院となった。(内服薬の変更は行っていない)
入院時身体所見
身長 170 cm、体重 80 kg、体温 36.0℃
意識レベル JCS 1
血圧 120/70 mmHg 、脈拍 100 /分 (整)
結膜 貧血あり、黄疸なし
表在リンパ節の腫脹なし、甲状腺腫なし
胸部 ラ音なし、心音 心雑音なし
腹部 平滑、軟、圧通なし
四肢 下腿浮腫あり
入院時検査所見①
WBC
RBC
Hb
Ht
Plt
10,900 /μl T-Chol 140mg/dl
357×104 /μl TG
74mg/dl
10.0 g/dl
HDL-C 48mg/dl
30.2%
LDL-C 83mg/dl
66.9×104 /μl UA 7.7mg/dl
BUN 155mg/dl
TP
6.7 g/dl
Cre 22.38mg/dl
Alb 2.9 g/dl
Na
140mEq/l
AST 9 IU/l
K
7.0mEq/l
ALT 9 IU/l
Cl
105mEq/l
LDH 227 IU/l
CRP 26.2mg/dl
Alp 319IU/l
γ-GTP 43 IU/l
ESR 60mm/2hr
CPK 97IU/l
(ABG)
pH
pCO2
pO2
HCO3
BE
Lac
7.144
15.0mmHg
110.0mmHg
5.1mmol/l
-23.7
4mg/dl
Room air, supine
(検尿)(導尿:数ml)
OB 3+
Pro 300<
Glu 100
胸部レントゲン
入院時心電図
腹部レントゲン
頭部CT
頭部MRI
胸部CT
胸腹部CT
入院時検査所見②
ASO 97IU/mL
T-SPOT TB (-)
ASK 2560倍
リゾチーム 16.5μg/mL
ACE
9.0IU/L
アミロイドA 864.0g/mL
ANA
<×40
抗SSA抗体 <1.0U/mL
IgG
1448 mg/dl 抗SSB抗体 <1.0U/mL
IgA
268mg/dl 抗DNA抗体 3IU/mL
C-ANCA
<1.0U/mL
IgM
70mg/dl
<1.0U/mL
IgE(RIST) 11IU/mL P-ANCA
CH50
90.0U/ml 抗CCP抗体 <0.6U/mL
C3
131mg/dl βDグルカン <6.0pg/mL
プロカルシトニン 5.33ng/mL
C4
43mg/dl
蛋白分画 M蛋白なし可溶性IL-2レセプター 2590U/mL
PT-INR 1.23
APTT 41.8 sec
Fib
980mg/dl
FDP
17.6μg/mL
AT-Ⅲ 104.5%
D-Dimer 2.7g/mL
入院時検査所見③
抗GBM抗体 ≧350
(752U/ml)
抗GBM抗体型急速進行性糸球体腎炎と診断
5月24日(金)午後判明:(21日入院)
抗GBM抗体型急速進行性糸球体腎炎
全身倦怠感、食欲不振
m-PSL500mg
PSL60
50
40
35
30
HD・無尿
PE 3600-3150-3150ml
抗GBM抗体
CRP
25
20
その後・・・・・・
①8月下旬に胸やけ、胸部灼熱感を認め、真菌性食道炎と
診断。
念のため、心臓カテーテル検査施行:有意狭窄を認めな
かった。(PSL 20mg→15mg)
②9月下旬に疥癬と診断。治療(個室管理)を行った。
妻が、デイサービスを利用している。
③11月中旬に転院した。
(PSL 12mgとし、転院)
10月21日 抗GBM抗体 3.5、CRP1.1
退院時腹部CT
要約
●来院時、尿毒症症状を示した抗GBM 型急速進行性
糸球体腎炎の1例を経験した。
●透析療法、ステロイド療法、血漿交換などの集学的
治療を行い、全身状態は改善したが、無尿が持続し、
腎死は免れなかった。
●本症例においては、残念ながら、腎生検は施行して
いない。
●経過中、真菌性食道炎、疥癬を認めた。
●どの程度の治療がよいのか・・・・・・・
結語
尿毒症症状を示した抗GBM 型急速進行性糸球体
腎炎に対し、透析療法、ステロイド療法、血漿交換な
どの集学的治療を行ったが、腎死となった症例であ
る。
どの程度の治療がよいのかなかなか判断が難しく
今後の症例の蓄積が待たれるところである