潰瘍性大腸炎で穿孔をきたした1例 医学科 6年 M.K 指導医 Y.M 【症例】 20代女性 【主訴】 腹痛 【現病歴】 10年前、下血、下痢の症状が出現し、潰瘍性大 腸炎(Ulcerative colitis)と診断された。 二度の腹部症状の再増悪あったが、いずれも PSL・5-ASAの導入で臨床的寛解を認めていた。 20xx年7月再増悪し、当院に再入院。PSL静注 療法施行するも改善乏しく、PSL抵抗例と判断さ れた。 2ヶ月後、間歇的腹痛を認め、当院救急部を受診。 血液検査所見で、炎症反応上昇を認め、UC増悪 と考えられ、加療目的で緊急入院となった。 【既往歴】原発性硬化性胆管炎 ウルソデオキシコー ル酸にて内服治療 【生活歴】喫煙:なし アルコール:機会飲酒 【家族歴】特記すべき事項なし 【輸血歴】なし 【常用薬】 5-ASA(250mg)16T/2x、タクロリムス(1mg)4c/2x、 ウルソデオキシコール酸(100mg)4T/2x、オメプラゾー ル(20mg)1T/1xM、セレスタミン2T/2x、オロパタジン 塩酸塩(5mg)2T/2x 【入院時身体所見】 ・意識清明 ・身長153cm 体重39 kg ・血圧96/60mmHg 体温36.6℃ 脈拍70 /min(不整) ・腹部:平坦・硬、下腹部圧痛あり。反跳痛あり。 グル音聴取良好。肝は触知せず。 入院時血液検査所見 WBC 9400 /µl RBC 3.85×106 /µl Hb 10.3 g/dl Ht 44.8% Plt 27×104 /µl AST ALT LDH ChE Amy T-Bil D-Bil ALP TP Alb UN Cr Na K Cl CRP 8 IU/l 4 IU/l 144 IU/l 169 IU/l 70 IU/l 0.8 mg/dl 0.1 mg/dl 182 IU/l 5.2 g/dl 2.5 g/dl 13 mg/dl 0.49 mg/dl 139 mEq/l 4.0 mEq/l 104 mEq/l 4.78 mg/dl 画像所見 画像所見のまとめ • 上行結腸・下行結腸・直腸にかけて広範囲に 腸管の浮腫性変化、壁肥厚/周囲の脂肪織混 濁を伴い、全結腸型潰瘍性大腸炎に一致する。 • 病変に接する回盲部にも浮腫性変化を認め、 炎症の波及が示唆される。(backwash ileitis) • 明らかな穿孔を示すfree airは指摘できない。 入院後経過 絶食、補液、抗生剤(CPEX600mg/日)を開始 し、腹痛、炎症反応は速やかに改善した。 しかし、その後も症状の増悪があり、FK506で は治療効果が不十分と考えられ、Infliximab増 量するも、症状の遷延・内視鏡では盲腸∼直 腸まで高度に炎症が残存しており、効果は不 十分であると考えられた。 内視鏡検査翌日に腹痛を自覚しCT撮影施行。 画像所見のまとめ • 直腸から全結腸、遠位回腸にわたる広範な浮 腫性変化を認め全結腸型潰瘍性大腸炎を示 唆する。 • 右後腹膜下中心に腹腔内にもair leakを認め、 穿孔が示唆される。airは一部縦隔にも連続し ており、右横隔膜下にも少量のfree air を認め られる。 診断 潰瘍性大腸炎(全層型)の穿孔 手術所見 【術式】 右半結腸切除術・人工肛門造設 回盲部の炎症は肉眼的に回盲部より口側 へ20cm程度と考えられた。10cm程度余裕 を持ち、回盲部より口側30cmから横行結 腸まで切除、右下腹部に人工肛門を作成 し、それぞれの盲端を開通させた。 病理所見 切除標本の病理結果では、炎症性肉芽、滲出物 付着を伴う浸潤性の小腸粘膜であり、上皮は完全 に消失しており、backwash ileitisとして矛盾しな い所見であった。 考察 潰瘍性大腸炎①概念 • 潰瘍性大腸炎は主として粘膜を侵し、しばしば びらんや潰瘍を形成する大腸の原因不明のび まん性非特異性炎症である。 • 経過中に再燃と緩解を繰り返すことが多く、腸 管外合併症を伴うことがある。長期かつ広範囲 に大腸を侵す場合には癌化の傾向がある。1) 潰瘍性大腸炎②疫学 • 男女比は1:1で性差はない。 • 発症年齢のピークは25‐29歳にあるが、小児 や高齢者の発症もまれとはいえない。 • 2009年の有病率は10万人対84.5人である。 • 2003年では54.1人、2006年では、66.5人であ り有病率は増加傾向にある。2)・3) 潰瘍性大腸炎③分類 【病期による分類】 • 活動期・・・血便を訴え、内視鏡的に血管透見 像の消失、易出血性、びらんまたは潰瘍などを 認める • 緩解期・・・血便が消失し、内視鏡的には活動 期の所見が消失し、血管透見像が出現する1) 潰瘍性大腸炎③分類 【病変の範囲による分類】 「直腸炎型(病変が直腸に限られている)」 「遠位大腸炎型(病変が直腸とS状結腸に限られている)」 「左側大腸炎型(病変が脾彎曲部∼肛門側に限られている)」 「全大腸炎型(病変が脾彎曲部より口側に拡がる)」 にわけられる1) • 全大腸炎型が37%、左側大腸炎型が26%、直腸炎型が 23%であった。直腸のみに限局するタイプは数% • 小腸に及ぶことは少ない3) 潰瘍性大腸炎③重症度分類 重症 (1)排便回数 " 6回以上 (+++) (2)顕血便 (3)発熱 37.5℃以上 (4)頻脈 90/分以上 (5)貧血 (6)赤沈 Hb10g/dl以下 30mm/h以上 中等症 軽症 4回以下 (+)∼(‐) 重症と軽症 との中間 なし なし なし 正常 ・重症とは(1)および(2)の他に全身症状である(3)または(4)のいずれかを満たし、かつ6 項目のうち4項目以上を満たすものとする。 ・軽症は6項目全てを満たすものとする。 ・ 重症の中でも特に症状が激しく重篤なものを劇症とし、発症の経過により、急性劇症型 と再燃劇症型に分ける。 劇症の診断基準:以下の5項目を全て満たすもの (1)重症基準を満たしている。 (2)15回/日以上の血性下痢が続いている。 (3)38℃以上の持続する高熱がある。 (4)10,000/mm3以上の白血球増多がある。 (5)強い腹痛がある。 4)より転載 潰瘍性大腸炎④症状 典型的な症状は粘血便・下痢 軽症例:下痢、粘血便、しぶり腹 重症例:血性下痢、腹痛、発熱、体重減少、貧血 などの全身症状 潰瘍性大腸炎⑤検査 [注腸X線検査] • 粗造・細顆粒状の粘膜のびまん性変化 • 多発性の潰瘍、びらん • 偽ポリポーシス、ハウストラの消失、腸管の狭 小、短縮 http://www.kiyoukai.jp/niwahosp/ibd/ uc.htmより転載 http://www.kiyoukai.jp/niwahosp/ibd/ uc.htmより転載 潰瘍性大腸炎⑤検査 [内視鏡検査所見] • 血管透見像の消失 • 顆粒状粘膜 • 易出血性 • 粘血性の分泌物の付着 • 多発性の潰瘍・びらん • 偽ポリポーシス これらの所見が連続性に認められる 潰瘍性大腸炎⑤検査 [生検組織学的所見] • 直腸から連続性に口側に続く病変 活動期 • 粘膜全層のびまん性炎症細胞浸潤 • 陰窩膿瘍 • 杯細胞の高度な減少 寛解期 • 腺管の配列異常(蛇行・分岐)、萎縮 非特異的な所見であり鑑別が必要である。 潰瘍性大腸炎⑥合併症 【腸管合併症】 ①出血 ②穿孔 ③中毒性巨大結腸症 ④癌化 ⑤サイトメガロウイルス 腸炎 【腸管外合併症】 多彩 潰瘍性大腸炎の穿孔 • 穿孔症例は3% 前後である。 • UC における炎症は粘膜下層までに限局する ことが多く、クローン病やベーチェット病のよう に全層性炎症を引きおこし穿孔に至る症例は 少ない。 • 重症例になると全層性炎症に移行、穿孔に至 る症例が存在する。 • ステロイドを服用している症例では発熱や腹痛 といった症状が隠れてしまい、発見が遅れるこ とがある。5) 潰瘍性大腸炎の穿孔 • 穿孔にもっとも至りやすい状態は中毒性巨大 結腸症であるが、穿孔の30% 以上は巨大結 腸をともなわないといわれている。ただし、多発 穿孔型は中毒性巨大結腸症を合併しているも のが多い。 • 中毒性巨大結腸症を合併した穿孔症例の致死 率は15%と高い。 6) • 強度のbackwash ileitis によると思われる回腸 末端の穿孔症例も存在する。 • 重症化、穿孔の要因のひとつにサイトメガロウ イルス(CMV)感染が注目されている。 結語 • 潰瘍性大腸炎増悪を契機に入院中、消化管穿 孔をきたした一例を経験した。 • 本症例ではサイトメガロウイルスの感染はなく、 backwash ileitisを契機とした穿孔が考えられ た。 • 同じ炎症性腸疾患であるクローン病、ベー チェット病と比較して潰瘍性大腸炎では穿孔例 は比較的少ないとされているが、致死的である ため注意が必要である。 参考文献 1) 『エビデンスとコンセンサスを統合した潰瘍性大腸炎の診療ガイドライ ン』(2006年)Minds版ガイドライン解説 http://minds.jcqhc.or.jp/n/public_user_main.php# 2)今日の治療指針2013年版 >> 第7章 消化管疾患 >> 潰瘍性大腸炎 潰瘍性大腸炎 ulcerative colitis 渡辺 守(東京医科歯科大学教授・消化 器内科) 3)Pharma Medica 30(9): 9-12, 2012.炎症性腸疾患の疫学 武林亨 慶 應義塾大学医学部衛生学公衆衛生学教室 4) IBD Research 7(3): 190-197, 2013.病理もわかるIBD専門医に聞く潰 瘍性大腸炎診療のコツ 長沼誠 慶應義塾大学医学部内視鏡センター 5)日本大腸肛門病学会雑誌 Vol. 61 (2008) No. 6 P 298-302 潰瘍性大腸炎穿孔手術28症例の検討 内野 基,池内 浩基, 松岡 宏樹 6) Harrison's Online Chapter 295. Inflammatory Bowel Disease Sonia Friedman; Richard S. Blumberg
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