イオン液体を用いた超薄窒化ホウ素ナノシートの高効率合成法の確立

イオン液体を用いた超薄窒化ホウ素ナノシートの高効率合成法の確立
イオン液体を用いた層間剥離法による窒化ホウ素ナノシートの高効率合成
(豊田中央研究所)○森下卓也、岡本浩孝、片桐好秀、松下光正、福森健三
[1PC35]
(TEL: 0561-63-6484)
株式会社豊田中央研究所(愛知県長久手市、所長:菊池昇)のナノ粒子複合樹脂研究チームは、
イオン液体(IL)を用いることで、黒鉛(グラファイト)と同様の層状物質である六方晶窒化ホウ素
(h-BN)の層間剥離を飛躍的に進行させ、従来法と比べて、窒素とホウ素からなり原子 1 個から数
個の厚さの 2 次元シート構造を有する超薄窒化ホウ素ナノシート(超薄 BNNS)を極めて高収率かつ
簡便に合成することに成功した(図 1)。
h-BNのIL分散液
超薄BNNSのIL分散液
1) 弱い超音波処理
ILの物理吸着による
高効率層間剥離
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IL
h-BN
2) 遠心分離
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超薄BNNS
h-BN:層数>約300
IL: ⊕
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図 1. IL を用いた層間剥離法による超薄 BNNS の合成
超薄 BNNS は単層から数層の層構造を有し、超薄層化によりグラフェンと同様に物質中で最高レ
ベルの熱伝導性や力学物性を有する。更にグラフェンにない優れた特長として、白色粒子である
とともに、高絶縁性(ワイドバンドギャップ)、高耐熱性、高耐酸化性、高化学安定性、遠紫外発
光特性等が挙げられる。すなわち、革新的ナノ粒子として、樹脂とのナノ複合化による高機能化
をはじめ、次世代デバイス素材等の様々な用途への応用が大いに期待できる。一方、IL は、プラ
スイオン(カチオン)とマイナスイオン(アニオン)とからなる室温で液体の塩であり、有機溶媒に
はない不揮発性・不燃性という特長を有するため、環境に優しい“グリーンソルベント”として
注目されている。
これまでの超薄 BNNS の製造法としては、h-BN のマイクロメカニカル劈開(テープ剥離)法、化
学気相成長(CVD)法、h-BN の特定の有機溶媒中での強力な超音波処理による湿式剥離法等が報告
されている(図 2(a))。但し、これらの従来法では、超薄 BNNS の収率が極めて低く、スケールア
ップも困難であり、実用化に向けて、ナノシートの一辺が µm オーダーで、単層から数層(1~6 層)
の超薄 BNNS の高収率かつ量産可能な簡便な合成手法の確立が大きな技術課題であった。
本研究では、h-BN を IL 中に加え、弱い超音波処理により混合することで、h-BN の超薄 BNNS へ
の剥離が飛躍的に進行することを見出した(図 1)。これは、IL が BN 表面と強い相互作用を有し、
h-BN 表面や層間に吸着することが主因となっている。超音波処理後、遠心分離操作を行って剥離
が不十分な BN 粒子等を除去し、上澄み液を回収することで、超薄 BNNS の高濃度分散液を作製し
た(図 1)。また、分散液の洗浄濾過・乾燥により、超薄 BNNS を粉体として得ることができる。得
られた超薄 BNNS は、一辺の平均長さが 1m 以上で、かつほぼ全てが単層から 6 層(厚さ: 約 0.3 nm
~約 2 nm)の層構造を有する(図 2(b):単層構造の例)。本手法で合成した超薄 BNNS は、表面に IL
が物理吸着しているため、その表面構造を破壊することなく超薄 BNNS の溶媒中での分散性が向上
し、かつ超薄 BNNS 同士の再凝集を抑制できる。特に、特定のカチオンと、嵩高くかつカチオンに
直接配位しない特定のアニオンを有する IL を用いることで、BN 表面への吸着性が大幅に向上し、
従来法と比べ、極めて簡便な手順にて超薄 BNNS の収率が飛躍的に向上した(収率:約 41%)。更に、
超薄 BNNS 作製時の遠心分離で沈殿した BN 粒子を再利用し、IL を加えて抽出・回収サイクルを経
て、沈殿物中に残存している超薄 BNNS を得ることで、原料 h-BN に対する超薄 BNNS のトータルの
収率を約 50%まで向上できる。一方、従来法に基づく超薄 BNNS の収率は、約 0.1%~約 20%(5 回以
上の抽出・回収サイクルまたは多段階の合成工程が必要)が限界であった(図 2(a))。
本手法により合成した超薄 BNNS は IL 以外の様々な有機溶媒中にも良好な分散が可能であり、
樹脂との複合化に適した高機能ナノ粒子としての応用が期待できる。そして、グリーンソルベン
トである IL の特長をそのまま活かした複合体や加熱処理により表面吸着の IL を除去した超薄
BNNS 単独での活用など、極めて自由度、かつ有用性が高い超薄 BNNS を提供するものである。
品質(高結晶性、層数少、サイズ大)
(a)
(b)
IL残渣
IL吸着層間剥離法
IL構造最適化
マイクロメカニカル
劈開法
CVD法
:収率50%
BNNS表面
湿式剥離法
アルキルアミン:収率10~20%
(多数回の抽出・回収サイクル)
ジメチルホルムアミド:収率0.1%
量産に向けた適合性(収率、簡便性)
0.2 m
2 nm
単層のエッジ
(黒い線が層数を示す)
図 2. (a)従来法との比較, (b)超薄 BNNS(単層構造)の高分解能透過型電子顕微鏡像
<適用分野>
本手法により、高機能かつ高品質な超薄 BNNS の大量合成が可能となるため、機能性ナノ粒子と
しての応用、樹脂とのナノ複合化による樹脂の高機能化など、自動車や航空機等の電気・電子系
部品、放熱板、絶縁皮膜、保護薄膜、光学デバイス素材、マイクロエレクトロニクス部品、キャ
パシタ、二次電池・燃料電池用電解質、熱流体等の広範な応用展開が期待される。