成長ホルモン治療の登録 ・ 評価に関する研究 103

的とした。
平成 2 4 年 度 厚生労働科学研究費補助金 (成育疾患克服等次世代育成基盤研究事業)
「 小 児 慢 性 特 定 疾 患 の 登 録 ・ 管 理 ・ 解 析 ・ 情 報 提 供 に 関 す る 研 究 」 分担研究報告書
成長ホルモン治療の登録 ・ 評価に関する研究
研究分担者
神崎
晋 (鳥取大学医学部周産期・小児医学教授)
研究要旨
本 研 究 で は 平 成 1 0 年 度 か ら 2 3 年 度 ま で の 小 児 慢 性 特 定 疾 患 治 療 研 究 事 業 ( 以 下 、 小慢
事 業 ) の 登 録 デー タ を 用 い て G H 治 療 を 受 け て い る 疾 患 に っい て 解 析 し 、 わ が 国 の G H 治
療 の 現 状 を 明 ら か に し た 。 ま た 、 (公財) 成長科学協会に登録されている各GH治療対象
疾患新規患児数と同じ年度に小慢事業に新規に登録された患児数を比較した。
そ の 結 果 、 以 下 の こ と が 明 ら か と な っ た 。 1 ) G H 分 泌 不 全 性 低 身 長 症 ( 1 7 0 3~ 2 1 6 9 名 例 ) 、
タ ー ナ 一 症 候 群 ( 1 0 5 ~ 1 5 4 例 ) 、 P r a d e r W i 1 1 i 症 候 群 ( 4 8~ 6 3 例 ) 、 軟 骨 無 形 成 症 ( 8 0
-
例 前 後 ) 、 慢 性 腎 不 全 性 低 身 長 ( 1 7~ 2 3 例 ) 程 度 が 近 年 新 規 に 登 録 さ れ て い る 。 2 ) G H 分
泌 不 全 性 低 身 長 症 と タ ーナ 一 症 候 群 の 小 児 人 口 あ た り の 登 録 数 に は 、 明 か な 地 域 差 が み と
められる。3)平成20年度から22年度に登録されたGH治療新規患者数と小慢に登録さ
れた新規患者数は、 疾 患 に よ っ て 異 な る が 、 (公財) 成長科学協会には小慢登録数の30%
程度のみが登録されている。
研究協力者:
療の継続に っい て 、 判 定 と 助 言 を 行 つ て い る 。
伊藤善也(日本赤十字北海道看護大学教授)
そこで、
(公財) 成長科学協会に登録されて
いる各GH治療対象疾患新規患児数と同じ年
度に小慢事業に新規に登録された患児数を比
A. 研究目的
較し、適正な小慢申請の一助にすることを目
小児慢性特定疾患治療研究事業(以下、小
慢事業) は 平 成 1 7 年 度 の 法 制 化 が な さ れ た 。
これに伴い、成長ホルモン(GH)治療患者
B.研究方法
を含めた小慢事業への患者登録数が変化する
可 能 性 が あ る 。 一 方 、 以 前 よ り 小 児 人 ロ あた
GH治療を行つているGH分泌不全性低身
-
りのGH治療対象者数が、都道府県によって
長症、タ ー ナ 一 症候群、Prader Wi11i症候群、
異 な る こ と が 指 摘 さ れ て お り 、 各都道府県に
軟骨無形成症、 慢性腎不全性低身長症を対象
おいてその登録内容が均一でない可能性も否
とした。下垂体機能低下症にもGH分泌不全
定 で き な い 。 本年度の研究では小慢事業の実
が含まれるが、GH治療を行う場合、GH分
施主体である各都道府県、 政令指定都市と中
泌不全性低身長症として別に登録される。 従
核市より厚生労働省に提出された登録データ
って下垂体機能低下症として小慢事業に登録
を用いてGH治療を受けている疾患にっいて
された症例でGH治療を行つている事は極め
解析し、 わが国のGH治療の現状を明らかに
て 希 と 考 え ら れ る た め 、 今回の検討からは除
することを目的とした。
外した。
GHの適正な使用のために(公財)成長科
各分担研究者に配布された小児慢性特定疾
学協会は、 G H 治 療 適 応 の 有 無 、 あ る い は 治
患登録票 (医療意見書) に 記 載 さ れ た デ ー タ
103
を用いた。今回は登録患者数の年次的な変動
ー ナ 一 症候群新規登録数は、平成 20 年度で平
の検討を目的としたため、平成10年度から
均 1 .0 名 で あ っ た 。 し か し 、 県 別 で み る と 3
23年度の登録データを解析対象とした。政令
年 間 全 く 申 請 の な い 県 か ら 2. 1 人 と 登 録 数 に
都市あるいは中核都市として独立して報告さ
差が見られた(図4)。
れている場合には、 それぞれの属している都
3)Prader W i l l i 症 候 群
-
-
G H 治 療 を 行 う P r a d e r Wi1li症候群の新規
道府県にまとめて評価した。
15歳以下の人口あたりのGH分泌不全性低
登録は、平成14年から登録が始まり、平成
身 長 お よ び タ ー ナ一症候群の新規登録は、 総
17年まで新規登録数が増加したが、それ以降
務省から発表された平成23年10月1日時点
は年間48~63名程度の登録数となっている。
の都道府県別子供の数に対するGH分泌不全
男 女 比 ( 男 / 女 ) は 0.7 0 か ら 1 . 3 1 で 、 性 差 は
性低身長症およびターナ
ない(図5)。
一 症候群の都道府県
別新規登録数(平成21年度から23年度の平
4)軟骨無形成症
均) と の 比 で 検 討 し た 。
GH治療を行う軟骨無形成症の新規登録数
は、48名から87名で、最近は80名前後の新
(公財)成長科学協会に平成20年度から
22年度に登録された各GH治療対象疾患新規
規登録がある(図6)。
患児数と同じ年度に小慢事業に新規に登録さ
5)慢性腎不全性低身長症
れた患児数を比較した。
GH治療を行う慢性腎不全性低身長症の新
規登録数は、平成16年に56名と多い登録数
が見られた。それ以前は24から34名で、そ
C研究結果
れ以降は17から23名と減少していた(図7)。
1.小慢事業に登録されたGH治療患者
2. (公財) 成長科学協会と小慢への新規登録
1)GH分泌不全性低身長症
GH分泌不全性低身長症の新規登録数は、
(公財) 成 長 科 学 協 会 か ら 供 与 さ れ た 平 成
平成10年から17年までは1,848名から2,492
20年度から22年度に登録されたGH治療新
名 の 間 で 変 動 し て い た 。 小慢事業が法制化さ
規患者数と小慢に登録された新規患者数を表
れた18年以降は、1703名から2169名程度で
に示す。疾患によって異なるが、
推 移 し て お り 、 登録数はやや減少していた。
長科学協会には小慢登録数の 30%程度のみ
男女比(男/女)は1.65から1.86で、男児に
が登録されている。
(公財)成
多 く 、 法制化前後で変動は認められなかった
( 図 1 ) 。 1 5 歳 以 下 の 人 口 (100,000人)あ
たりのGH分泌不全性低身長症新規登録数は、
D. 考察
平均13.3名であった。しかし、県別でみると
小慢事業法制化のGH治療患者登録数への
2.7 人 か ら 3 0 . 0 人 と 登 録 数 に 大 き な 差 が 見 ら
影響を検討した。今回の検討では、平成18
れた(図2)。
年度以降、どのGH治療該当疾患においても
2)ターナ
一症候群
GH治療を行うターナ
1年間の新規登録数は多少の年度毎の変動は
一 症候群の新規登録
見 ら れ る も の の 、 年度毎の差はそれほど大き
いものではなかった。
数は、平成12年に212名と多い登録数が見ら
れたが、 それ以降は、 小慢事業が法制化され
一方、GH分泌不全性低身長症およびター
た18年以降も含め、105名から154名の間で
ナ 一 症候群の各県別新規登録率 ( 1 5 歳 以 下 の
変動していた ( 図 3 ) 。 1 5 歳 以 下 の 人ロ
人 ロ に対する登録数) は、都道府県の間で大
(100,000人)あたりのGH治療を行つたタ
きな差が認められる。特にGH分泌不全性低
104
-
720 4.
のみが登録されている。
身長症は、 平 均 1 0 万 人 あ た り 13.3人である
が、多い県と少ない県では約11倍の差がある。
謝辞
タ ーナ一症候群は、平均は10万人に1名程度
で あ る が、 多 い 県 で は 2 . 7 人 と な っ て い る 。
新規GH治療開始患者の資料を提供頂きま
タ ー ナ一症 候 群 は 染 色 体 検 査 で 診 断 さ れ る た
した (公財) 成 長 科 学 協 会 に 深 謝 致 し ま す 。
.
め、診断の誤りは少なく、そのためにGH分
泌不全性低身長症ほどの都道府県間の差が無
い も の と 思 わ れ る 。 GH分泌不全性低身長症
F.研究発表
も、統一したGH刺激試験の基準が用いられ
1.論文発表
て お り 、 診断の誤りは少ないものと思われる
1 ) S a n o H, Nagata K, Kato K, Kanai K,
Yamamoto K , 〇 k u n o K , K u w a m o t o S,
,
が。 現実には都道府県の間で極めて大きな差
,
-
が 見 ら れ る 。 新規登録率の低い自治体では、
一方多い県ではover diagnosisになっている
のではないかと憂慮される。
H i gaki Mori H , S u gihara H, Kato M ,
Murakami I, Kanzaki S, H a y ashi K.
EBNA 2 Deleted Epstein Barr Virus from
P3HR 1 C a n Infect Rabbits w i t h Lower
(公財) 成 長 科 学 協 会 は 申 請 さ れ た デ ー タ
Efficiency than Prototype Epstein Barr
を専門的な知識を豊富に有する小児内分泌科
専門医が解析し、GH治療開始あるいは継続
Virus from B95 8. Intervirology . 2013;
56(2):114 21.
の可否に っ い て 判 断 を 行 つ て い る 。 残念なこ
2)Hanada T,〇kuno K,〇kada S,Fujimoto M
と で は あ る が 、 それぞれの疾患の小慢申請数
Kuranobu H, Hashida Y, Ueyama J,
の 約 3 0 % 程 度 し か 申 請 さ れ て い な い 。 今後
(公財)成
Murakami J, Hayashi A, Hanaki K,
Kanzaki S.Castleman disease in a child
長科学協会の判定を全例が使用することが重
w i t h short stature.Pediatr Int.2012;54(5):
未治療の患者が多く存在する可能性があり、
GH治療の適正化を考える上で、
,
- -
-
-
-
-
,
要と思われる。
3 ) T a i S , T a n a k a T,Hasegawa T,〇zono K,
,
Tanaka H,Kanzaki S,Yokoy a S,Fujieda K,
Chihara K, Seino Y. A n observational
E.結論
stud y of the effectiveness and safety of
本研究より、以下のことが明らかとなった。
1.GH分泌不全性低身長症(1703~2169名例)、
タ
ー
ナ
-
一症候群
(105~154例) 、
Prader W i l l i 症 候 群 ( 4 8 ~ 6 3 例 ) 、 軟 骨 無
growth
hormone
(Humatrope® )
treatment i n Japanese children with
形成症(80例前後)、慢性腎不全性低身
growth hormone deficiency or Turner
sy ndrome.Endocr J.2013;60(1):57 64.
長(17~23例)程度が近年新規に登録さ
4 ) K a w a s h i m a Y,Nishimura R,Utsunomi ya
-
れている。
2. G H 分 泌 不 全 性 低 身 長 症 と タ ー ナ 一 症 候 群
A , K a g a w a R, Funata H , Fujimoto M ,
Hanaki K , Kanzaki S. Leprechaunism
の小児人口あたりの登録数には、明かな地
(Donohue sy ndrome): A case bearing
域差がみとめられる。
novelcompound heteroz ygous mutations
i n the insulin recep tor gene. Endocr J .
,
3.平成20年度から22年度に登録されたGH
-
2013;60(1):107 12.
治療新規患者数と小慢に登録された新規
患者数は、疾患によって異なるが、(公財)
5 ) M u r a k a m i J,Nagata I,IitsukaT,〇kamoto
M,Kaji S,Hoshika T,Matsuda R,Kanzaki
成長科学協会には小慢登録数の 3 0 % 程度
105
-
179 85.
S , S h i r a k i K , S u ya m a A , H i n o S . R i s k
factors for mother to child transmission
- -
of hepatitis C v i r u s : M a t e r n a l h igh vira1
1oad a n d fetalexposure i n the birth canal .
HepatolRes. 2012,42(7):648-57.
6 ) K a w a s h i m a Y,Higaki K,Fukushima T,
Hakuno F,Nagaishi J,Hanaki K , N a n b a E
Takahashi S,Kanzaki S.Novelmissense
,
-
mutation in the IGF I recep tor L 2 d o m a i n
results i n intrauterine a n d postnata1
growth retardation.Clin Endocrino1(〇xf).
2012;77(2):246 54.
7 ) K a w a s h i m a Y,Takahashi S,Kanzaki S.
-
-
Familialshort stature w i t h IGF I recep tor
gene anomal y .Endocr J.2012;59(3):
2. 学 会 発 表
1)Fujimoto M , K a w a s h i m a Y,Hamajima N ,
,
Nishimura R,Hanaki K,Kanzaki S.
Stature Bearin g w i t h a Nonsense
-
Mutation( p.Q1220X)of the IGF I
Receptor.The Endocrine Societ y's94th
ArtnualMeeting & E x p o. 2012年6月23 26
-
日,Houston.
G. 知的財産権の出願・登録状況
1.特許取得
なし
2.実用新案登録
3.その他
なし
なし
表.GH治療疾患の小慢申請者数と成長科学協会登録数の比較
GH分泌不全性低身長
タ ーナ一症候群
Prader W i l l i 症 候 群
軟骨異栄養症
慢性腎不全性低身長
-
平成20年度
小慢
成長科学
申請者
協会登録
772
1967
139
40
50
10
28
87
21
3
平成21年度
小慢
成長科学
申請者
協会登録
2063
695
126
34
63
73
19
11
25
5
平成22年度
小慢
成長科学
申請者
協会登録
2169
755
154
38
62
11
80
31
25
6
※ 小 慢 申 請 者 に っい て は 、 2 0 1 2 年 1 1 月 時 点 の 小 慢 D B 登 録 デ ー タ を 使 用
3000
2500
2000
1500
1000
500
0
107
5 0 2
0 5
2 5
3
3 5 0
1 1
0
250
200
150
100
50
0
108
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30
20
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・
80
-
■
●
l
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100
90
80
70
60
50
40
30
20
10
0
0
6
0
5
0
4
0
3
0
2
0
1
0
110