星形成レガシープロジェクト:大質量星形成領域

星形成レガシープロジェクト:大質量星形成領域DR21の分子輝線観測
○片倉翔、山日彬史、秦野義子、下井倉ともみ、土橋一仁(東京学芸大学)、 西谷洋之(NRO)、島尻芳人(CEA/Saclay)、原千穂美(東京大学)、 中村文隆(国立天文台)、他45m星形成レガシーチーム 概要
DR21は全天の中でも特に活発な大質量星形成領域の一つである。Ori-­‐KLと同様に、DR21はミリ波分子輝線の
標準天体としても認識されており、昔から様々な分子輝線で観測されてきた(e.g., Loren & WooVen 1985)。
DR21の母体分子雲は南北に細長く伸びており、その中にはDR21(OH)として知られる別の大質量星形成領域も
ある。最近ではHerschelによる大規模な探査も行われ、その母体分子雲のフィラメント構造がダスト放射のデー
タから描き出されている(Hennemann et al. 2012)。この母体分子雲についてはこれまでに様々な研究がなされ
ているが、その正確な距離は不明で、概ね1.5ー3kpcにあると考えられている(e.g., Schneider et al. 2007)。また、
分子雲全体の速度構造も、必ずしも明らかではない。そこで我々は、野辺山45m鏡を用いて、DR21の母体分子
雲全体を高い角分解能で描き出し、ガスの分布やその速度構造と、内部での星形成との関係を調べた。2013
年3ー5月と2014年4月に観測を行った。受信機はTZ、分光計はSAM45を用いて母体分子雲を含む8ʹ′ × 12ʹ′の領
域を合計27分子輝線で観測した。その結果、12CO及び13COのデータより、分子雲衝突を示唆する異なる速度を
持つ2つの分子雲が検出された。分子雲衝突は大質量星形成やクラスター形成のきっかけになることが知られ
ている。DR21の母体分子雲と速度成分の異なる分子雲が衝突を起こしていると考えられる。ショック領域をト
レースするSiO分子輝線を含む8分子輝線を2012ー2013、2013ー2014 年シーズンで観測した。このポスター で
はこれまでの観測によって得られたデータよりこの領域で分子雲衝突が起きているか否かを議論する。 観測
野辺山45m鏡を用いてDR21を含む領域を観測した。観測は2013年3-­‐5月と2014年4月に行っ
た。観測方法はOTF(On The Fly)、較正方法はチョッパーホイール法を用いた。分光計は
SAM45、受信機はTZを用いた。その他観測の詳細は表1にまとめる。
2012-­‐2013シーズン
表1
2013-­‐2014シーズン
観測輝線 115GHz,110GHz,100GHz から代表的な物を複数
12CO(J=1-­‐0),13CO(J=1-­‐0),C18O(J=1-­‐0), CS(J=2-­‐1),HCO+(J=1-­‐0),SiO(J=2-­‐1,v=0), SO(N,J=5,4-­‐4,4), Etc. (41 lines)
SiO(J=2-­‐1,v=0),SO(N,J=5,4-­‐4,4),SO(N,J=2,3-­‐1,2), CS(J=2-­‐1),HC3N(J=11-­‐10),HCO+(J=1-­‐0), H13CO+(J=1-­‐0),HCN(J=1-­‐0,F=2-­‐1) (8 lines)
観測領域
DR21、DR21(OH)のコアを含む 8’×12’
DR21、DR21(OH)のコアを含む 5’×10’
観測期間
2013/3/18-­‐5/26, 2014/4/23-­‐24 観測時間
10.5 時間 (総観測時間 20 時間)
2 時間 (総観測時間 4 時間)
ノイズレベル
0.41 K (Tmb) 速度分解能 0.1 Km/s
0.43 K (Tmb) 速度分解能 0.1 km/s
解析結果 13CO分子輝線は2つの速度成分で検出された(図1)。Vlsr=-­‐3km/s付近の
観測結果
200.0
13CO
W75SFIR3
W75SFIR2
メイン成分
100.0

高速成分
N34


42°

 
N34
N35
0.0
20h38m40s K km/s
s
h
m
s
h
m
s
20 38 40
K km/s
● Massive Star
図3. カラースケールと白コンターは5 < Vlsr < 13 km/sの範囲での 13COの積分強度で間隔は5 Kkm/s、最小値は5 Kkm/s。 黒コンターは -­‐10 < Vlsr < 5 km/sの範囲での 13COの積分強度で 間隔は25 Kkm/s、最小値は25 Kkm/s。 
30.0

42°

42°
W75SFIR2


 
SiO


DR21OH
42°
W75SFIR1
42°


7.5




 


DR21

N34
SiO
Declination (J2000)

42°
15.0
42°


20h38m40s K km/s

 
● Massive Star
図4. SiOの積分強度マップ。 積分範囲は-­‐30 〜 20 Kkm/s。 コンターの最小値は1.24 Kkm/s。 間隔は2 Kkm/s。 グラフは円でかこった部分のピークの SiO分子輝線のスペクトル。 
d
N34
DR21

SiO
m
s
h
m
s
h
20 39 11
20 38 55
Right Ascension (J2000)
20 38
39 K km/s
m


 
m
s
h
m
s
20 39 12
20 38 56
Right Ascension (J2000)
s
● Massive Star
図5. グレースケールは13COの積分強度。 積分範囲は 5 〜 13 km/s。 青のコンターはSiOの積分強度。最小値は1.24 Kkm/s、間隔は2 Kkm/s。 積分範囲は-­‐30 〜 20 km/s。 

黒線:13CO 赤線:HCO+
(b)
0.0
0.0
h


 
N35
h
42°


c



20h39m12s
20h38m56s
Right Ascension (J2000)

42°
50.0
42°


0.0
b
a
黒線:13CO 赤線:HCO+


42°
DR21OH-­‐S
42°
N35
42°


42°
(a)

DR21OH
N34
DR21


42°
DR21OH

N35
W75SFIR3
W75SFIR2
W75SFIR1


W75SFIR1
42°
W75SFIR3
W75SFIR2


100.0
HCO+


SiO
SiO

15.0
W75SFIR3
m
20 39 12
20 38 56
Right Ascension (J2000)

h
m
s
20 38 40
K km/s
● Massive Star
図6. グレースケールはHCO+の積分強度。 積分範囲は -­‐30 〜 30 km/s。 赤のコンターはDR21におけるouHlowによるred robe。 積分範囲は-­‐30 〜 -­‐10 km/s、最低値5 Kkm/s、間隔は2 KKm/s。 青のコンターはDR21におけるouHlowによるblue robe。 積分範囲は 10 〜 30 km/s、最低値5 Kkm/s、間隔は4 KKm/s。 




 
(c)
黒線:HCO+ 赤線:H13CO+

黒線:13CO 赤線:HCO+




図8. Schneider et al. (2010) より引用。 (a): HCO+分子輝線によるinfallのマップ。緑の△はMoVe et al. (2007) が作
成した、Dense Coreカタログの座標。 (b): Schneider et al. (2010)で定義されたinfallの速度成分。-­‐3km/sを中心
にしている。 (c): DR21(OH)-­‐S(MoVe et al. (2007)のカタログではN48)のスペクトル。 黒点線:12CO(J=2-­‐1)、実線:HCO+(J=1-­‐0)、緑:N2H+(J=1-­‐0)、赤:C34S(J=2-­‐1)、
青H13CO+(J=1-­‐0)。 
図9. 左図はDR21OH-­‐Sのスペクトル 実線はHCO+、青線はH13CO+ 野辺山のデータでもinfallの兆候が見られた。 Infallの速度成分は-­‐3km/sを中心に検出された。 図7で示した9km/s成分の吸収は 
DR21(OH)では検出されていない。






 




 
(d)

黒線:13CO 赤線:HCO+



図8(b). Schneider et al. (2010) より引用

Declination (J2000)
DR21
42°
0.0
解析結果
42°
15.0
42°

● Massive Star
図2. 13COの積分強度マップ。 積分範囲は-­‐10 < Vlsr < 5km/s。 コンターは最小値25 Kkm/sで間隔は25 Kkm/s。 42°
42°
h
20h39m12s
20h38m56s
Right Ascension (J2000)
42°
DR21OH
42°
N35
42°
W75SFIR1

DR21
Declination (J2000)
DR21OH
42°
42°
W75SFIR3
W75SFIR2
W75SFIR1
42°
13CO
42°

Declination (J2000)
42°

13CO
30.0
Declination (J2000)
42°
図1. 高速成分積分強度のピークでの13COのスペクトル。 グラフの縦軸は輝度温度Tmb [K]、 横軸は視線速度Vlsr [km/s]。
成分をメイン成分,Vlsr=10km/s付近の成分を高速成分と呼ぶ。それぞれ
の速度成分の積分強度図を図2、図3に示す。図3に、黒のコンターでメイン
成分の分布を重ねて示す。図3より、この2つの成分はピークの位置が異な
る事がわかる。図のMassive StarはMoVe et al. (2007)が作成したDense Coreのカタログを参照した。それぞれの成分の質量を距離を1.7kpcとし、
LTEを仮定して13COのデータから質量を求めた。その結果DR21のメイン成
分の分子雲の質量は3.8×104太陽質量となった。また、高速成分の分子雲
の質量を同じ仮定で求めたところ5.3×103太陽質量となった。 図4はショック領域でしばしば観測されるSiO分子輝線の積分強度図であ
る。DR21で観測されたスペクトルから積分する速度範囲を-­‐30~20km/sに設
定した。コンターの最小値はノイズレベルを計算し1.24Kkm/sとした。SiOは
この領域ではDR21、DR21(OH)、W75S付近では強く検出され、コア付近で
なくとも検出される領域があった。図5は5〜13km/sの速度成分を持った高
速成分の分子雲とSiO分子輝線の観測結果を重ねた図である。高速成分
のピークではSiO分子輝線は検出されなかった。 図6はHCO+分子輝線の積分強度図である。図7(a),(c),(d)に示すような
ouHlowによるwingが観測された。また、高速成分と同じ9km/sに吸収線が
検出された。しかし、高速成分のピークの座標やDR21(OH)では9km/sに吸
収線は検出されなかった。最近ではDR21(OH)からW75SFIR3にかけて、
infallによる吸収が検出され(Schneider et al. 2010)、このinfallの兆候は野
辺山でも検出された(図9)。infallによる吸収と図7で示した吸収は分布や
速度成分が異なるため、図7で示した吸収線はinfallが直接の原因ではな
い。現在、原因を調査中である。 
図8(a). HCO+によるinfallマップ Schneider et al. (2010) より引用
図8(c). Schneider et al. (2010) より引用
まとめ・今後の展望 ●13CO分子輝線で異なる速度成分を持った分子雲が検出された。 DR21の母体分子雲に対し高速成分は1/10程度の質量を持つ。 ●SiOが検出された。局所的ではなく全体的に分布していることがわかった。 しかし高速成分のピークでは検出されていない。 ●HCO+分子輝線ではベースラインを下回る程の吸収線を検出した。 しかしSchneider et al. (2010)で示唆されたinfallとは分布、速度が異なる。 ●今後はHCO+のouHlowや13COの2つの成分の位置関係から分子雲衝突の タイムスケールの導出を行っていく予定である。


 

図7. 図6で示した丸の座標のスペクトル 黒は13CO、赤はHCO+のスペクトル (a): DR21、(b): 高速成分ピーク、 (c): 図6におけるDR21左の白円、 (d): 図6におけるDR21右の白円 グラフ内の赤楕円はHCO+の吸収線を示す
参考文献 L. B. Loren & A. WooVen 1985., ESO-­‐IRAM-­‐Onsara Workshop on (Sub) Millimeter Astronomy, 91-­‐107 MoVe, F., Bontemps, S., Schilke P., Schneider, N., & Menten, K. 2007, A&A, 476, 1243 Schneider, N., Simon, R., Bontemps, S., Comerón, F., & MoVe, F. 2007, A&A, 474, 873 Schneider, N., Csengeri, T., Bontemps, S., Comerón, F., MoVe, F., Simon, R., Hennebelle, P., Federrath, C., & Klessen, R. 2010, A&A, 520, A49 Hennemann, M. et al. 2012, A&A, 543, L3