氏 名 田丸 洵 ( 医 学 ) 博士の専攻分野の名称 博 士 学 号 医工博 4 甲 第 142 号 学 位 授 与 年 月 日 平成26年3月20日 学 位 授 与 の 要 件 学位規則第4条第1項該当 専 先進医療科学専攻 位 記 番 攻 名 学 位 論 文 題 名 Deficiency of Phospholipase A2 Receptor Exacerbates Ovalbumin-induced Lung Inflammation (ホスホリパーゼA2受容体遺伝子欠失は卵白アルブミンによる肺 炎症を悪化させる) 論 文 審 査 委 員 委員長 教 授 大塚 稔久 委 員 准教授 坂本 穣 委 員 講 師 土田 孝之 学位論文内容の要旨 (研究の目的) ホスホリパーゼ A2(PLA2)はグリセロン脂質の 2 位のアシル基を特異的に加水分解するアラキドン 酸の遊離に関わる酵素であり、現在までに 30 種類以上の分子種が認められている。PLA2 受容体は PLA2 の一種である分泌型 PLA2(sPLA2)を認識する膜 1 回貫通型のタンパク質で、生体内の種々 の臓器や細胞に発現している。sPLA2 は炎症病態時における脂質メディエーターの産生に関与して いるが、その中でも IB 型(sPLA2-IB)は PLA2 受容体への結合を介して様々な生体反応を引き起こ すことが確認されている。さらに、強力なアラキドン酸遊離作用を有する X 型(sPLA2-X)など、IB 型以外にも複数種の sPLA2 が PLA2 受容体と高い親和性を持つことが明らかとなっている。今回我々 は、sPLA2 をリガンドとする PLA2 受容体のアレルギー性炎症における機能的役割を解明するため、 PLA2 受容体欠損マウスを用いてアレルギー性気管支炎モデルマウスを作成し、PLA2 受容体の機能 解析を試みた。 (方法) C57/BL6 野生型(WT)マウスと PLA2 受容体遺伝子を欠損した(PLA2-R KO)マウスに鳥卵白ア ルブミン(OVA)を腹腔内投与して感作後、経鼻吸入にて抗原暴露することでアレルギー性気管支 炎モデルを作成した。PLA2 受容体の肺における局在を免疫染色法で、発現量を定量 PCR 法で明ら かにした。また、それぞれのマウスから気管支肺胞洗浄液(BALF)と肺組織を採取し、BALF 中の 総細胞数、好酸球数、サイトカイン産生、エイコサノイド産生、sPLA2 蛋白濃度の測定と肺組織学 的評価を行った。125I で標識した sPLA2-IB をマウス気管内に投与した後にも BALF と肺組織を採 取し、125I の量を測定することで sPLA2 の生体内でのクリアランス機能を調べた。単離、培養した リンパ球を Th2 細胞に分化させて sPLA2-IB で刺激した際のエイコサノイド産生、 肥満細胞に PGD2 を添加した際のサイトカイン産生についても検討した。さらに単離、培養した気道平滑筋細胞に 125I で標識した sPLA2-IB を添加し、リガンドの取り込みと分解の評価を in vitro で行った。 (結果・考察) 肺において PLA2 受容体は定常状態から気管支周囲の平滑筋に発現しており、発現量や部位はアレル ギー性気管支炎モデルでも大きく変わることはなかった。アレルギー性気管支炎による炎症細胞の浸 潤、Th2 サイトカイン産生、エイコサノイド産生が PLA2-R KO マウスでは WT マウスと比較して 有意に増悪しており、炎症細胞の浸潤や杯細胞の過形成などの肺組織学的変化も PLA2-R KO マウス の方が大きかった。また、PLA2 受容体のリガンドである sPLA2-IB や sPLA2-X の BALF 内蛋白濃 度はアレルギー性気管支炎モデルマウスで増加しており、PLA2-R KO マウスでは WT マウスよりも さらに増加していた。sPLA2-IB をマウス気管内に投与すると、PLA2-R KO マウスでは sPLA2-IB の 分解が抑制されており、気道内でのクリアランスが遅延していた。マウスから単離、培養した Th2 細胞に sPLA2-IB を加えるとエイコサノイド産生が亢進し、肥満細胞に PGD2 を添加すると Th2 サ イトカイン産生が亢進した。気道平滑筋細胞に sPLA2-IB を添加すると細胞内に取り込まれて分解さ れた。 (結論) PLA2-R KO マウスではアレルギー性気管支炎が WT マウスに比べて増悪する。それは、アレルギー 性炎症により惹起される sPLA2 の受容体によるクリアランス機能が失われているためである。 論文審査結果の要旨 ホスホリパーゼ A2(PLA2)は、生体内のアラキドン酸の遊離にかかわる酵素であり、これまでに 30 種類以上の分子種が同定されている。PLA2 受容体は PLA2 の一種である分泌型 PLA2 (sPLA2)を 認識する膜一回貫通型のタンパク質で、生体内の様々な臓器、細胞に広く発現していることが知られ ている。本研究では、sPLA2 をリガンドとする PLA2 受容体のアレルギー性炎症における機能的役割 を解明するため、PLA2 受容体欠損マウスを用いてアレルギー性気管支炎モデルマウスを作成し、 PLA2 受容体の機能解析を試みている。 方法としては、C57/BL6 野生型 (WT) マウスと PLA2 受容体遺伝子を欠損した (PLA2-RKO) マ ウスに鳥卵白アルブミン (OVA) を腹腔内投与して感作後、経鼻吸入にて抗原暴露することでアレル ギー性気管支炎モデルを作出した。そこで、PLA2 受容体の肺における局在を免疫染色法で、発現量 を定量 PCR 法で解析した。そして、肺において PLA2 受容体は定常状態から気管支周囲の平滑筋に 発現しており、発現量や部位はアレルギー性気管支炎モデルでも大きく変わることはないというデー タを得ている。一方で、実際のタンパク質の局在がどうなっているかのデータはなく、抗体を用いた ウェエスタンブロットもしくは免疫染色のデータが有ればより説得力が増すと思われた。 さらに、それぞれのマウスから気管支肺胞洗浄液 (BALF)と肺組織を採取し、BALF 中の総細胞数、 好酸球数、サイトカイン産生、エイコサノイド産生、sPLA2 蛋白濃度の測定と肺組織学的評価を行 った。アレルギー性気管支炎による炎症細胞の浸潤、Th2 サイトカイン産生、エイコサノイド産生 が PLA2-R KO マウスでは WT マウスと比較して有意に増悪しており、炎症細胞の浸潤や杯細胞の過 形成などの肺組織学的変化も PLA2-R KO マウスの方が大きかったことを示した。また、PLA2 受容 体のリガンドである sPLA2-IB や sPLA2-X の BALF 内蛋白濃度はアレルギー性気管支炎モデルマウ スで増加しており、PLA2-R KO マウスでは WT マウスよりさらに増加していた。sPLA2-IB をマウ ス気管内に投与すると、PLA2-R KO マウスでは sPLA2-IB の分解が抑制されており、気道内でのク リアランスが遅延していた。 このことから、PLA2-R KO マウスではアレルギー性気管支炎が WT マウスに比べて増悪し、アレル ギー性炎症により惹起される sPLA2 の受容体によるクリアランス機能が失われているためと結論づ けている。この仮説は大変興味深く、より詳細なメカニズムが解明されれば、病態の根本的な理解や 治療法の開発に貢献できることが期待される。おそらく、ユビキチン化などのタンパク質分解経路に よって、リガンドと受容体の複合体がクリアランスされていくと想定しているようであるが、今後の 研究の進展に期待したい。
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