真空中の電磁波

2014 量子エレクトロニクス (久我)
I。真空中の電磁波
(a) Maxwell の方程式(真空中)
∇ ⋅ E(r,t) = 0
∇ ⋅ B(r,t) = 0
(1.1)
(1.2)
∂B(r,t)
(1.3)
∂t
∂E(r,t)
∇ × B(r,t) = ε 0 µ0
(1.4)
∂t
ε 0 電気定数(真空の誘電率)、 µ0 磁気定数(真空の透磁率)
∇ × E(r,t) = −
(1.3)式の rotation をとると、
∂ 2 E(r,t)
∂
右辺は、 − ( ∇ × B(r,t)) = −ε 0 µ0
∂t 2
∂t
左辺は、 ∇ × ( ∇ × E(r,t)) = ∇ ( ∇ ⋅ E(r,t)) − ∇ 2 E(r,t) = −∇ 2 E(r,t)
(ベクトル解析の公式)
1 ∂ 2 E(r,t)
=0
c 2 ∂t 2
1 ∂ 2 B(r,t)
∇ 2 B(r,t) − 2
=0
∂t 2
c
1
c=
ε 0 µ0
∇ 2 E(r,t) −
= 2.99792458 × 10 m s
8
(1.5)
波動方程式
(1.6)
−1
(1.7)
真空中の光速度
(定義値)
つまり電場や磁場は波として真空中を伝わる。
Hertz が実証(1887)。
コラム 電気定数、磁気定数について (拙著 「“測る”を究めろ!」57 ページ)
µ 0 = 4 π ×10 −7 N A−2 であり、電流と力の関係を示す定義値(Ampère の実験)
8
−1
c = 2.99792458 × 10 m s も定義値となった(1983)。
1
Maxwell 方程式から ε 0 =
となり、 ε 0 も定義値と考えるのが適切。
µ0c2
つまりこれらは、物理学の原理や枠組みに密接に関わる定数を表現するもの
→ 単なる真空という「媒質」の物性値ではなく、人間が「こう考えましょう」と決
めたもの
→ 別の見方をすると、「自然界の本質」として決まっている量ではない
対比する量として微細構造定数 α ≈ 1 /137
1
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Hertz の実験
(http://people.seas.harvard.edu/~jones/cscie129/nu_lectures/lecture6/hertz/Hertz_exp.html)
2
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(b) 波動方程式の解
∇ 2 E(r,t) −
1 ∂ 2 E(r,t)
=0
c 2 ∂t 2
波動方程式
(1.8)
線形波動方程式・・・「重ね合わせの原理」が成立。
E1 (r,t) と E2 (r,t) が解ならば、 a1E1 (r,t)+ a2 E2 (r,t) も解。
また、E(r,t) は直交座標系において 3 成分(x, y, z 成分)をもつが、成分どうしは独立と考
えられるので、しばらくは 1 成分だけ( f (r,t) とする)を考える。(均一、等方的媒質なら
ば OK)
∇ 2 f (r,t) −
1 ∂2 f (r,t)
=0
c 2 ∂t 2
(1.9)
を、 f (r,t) = A(r) T (t) として変数分離すると、
∇ 2 A(r) 1 T(t)
A(r) 
2
= 2
なので、両辺は定数となる。
T (t) ∇ A(r) = 2 T (t) 、
A(r)
c T (t)
c
この定数を −k 2 とおく。( k = ω / c )
T(t) + ω 2T (t) = 0
(1.10)
(1.11)
∇ A(r) + k A(r) = 0
2
2
(単振動の式)
Helmholtz 方程式
ω : 角周波数(角振動数)、k : 波数( = 2 π / λ )
波数については、 1 / λ と定義する流儀もあるが、ここでは 2π を入れる。
(1.10)式の解・・・ T (t) = exp[−iω t] (振幅は A(r) の方に入れる
ωの前の符号を—にするのも物理流)
(1.11)式の解は以下のようになる。
(i)
平面波の解
A(r) = A0 exp[i k ⋅ r]
(1.12)
Helmholtz 方程式((1.11)式)に代入してみれば、解であることはすぐ分かる。
2
∇A(r) = i kA(r) 、 ∇ 2 A(r) = −k 2 A(r) ( k 2 = k )、 k : 波数ベクトル
f (r,t) = A0 exp[i(k ⋅ r − ωt)] 、 A0 : 振幅、 (k ⋅ r − ωt) : 位相
(ある時刻での) 等位相面 ( k ⋅ r = 一定の面) は平面となる。
証明 : 面内の別の点を r ' とすると、 k ⋅ r = k ⋅ r ' = 一定、すなわち k ⋅ (r − r ') = 0
つまり、 k と r − r ' とは直交するので、等位相面は平面となる。
説明図
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k は平面の法線方向を向いている。平面波 z 方向に進む平面波 k = (0,0, k)
f (r,t) = A0 exp[i(kz − ωt)]
つまり f (r,t) は z と t だけの関数。
ここで f (r,t) を E(r,t) と B(r,t) に戻して Maxwell 方程式に代入すると、(1.1)式は
∂Ez
∂B
= 0 、(1.2)式は z = 0 となり、 Ez = 一定(静電場)、 Bz = 一定(静磁場)を得る。た
∂z
∂z
だ、このような DC 成分は、今は興味の対象外なので、ゼロとする。
以下、 Ez = 0 、 Bz = 0 で考える。
(1.3)、(1.4)式より、
∂Ey (z,t)
∂B (z,t)
=− x
∂t
∂z
∂B (z,t)
∂Ex (z,t)
=− y
∂z
∂t
∂B (z,t)
0=− z
∂t
∂By (z,t) 1 ∂Ex (z,t)
−
= 2
c
∂t
∂z
∂Bx (z,t) 1 ∂Ey (z,t)
= 2
c
∂z
∂t
1 ∂E (z,t)
0= 2 z
∂t
c
(1.13)
−
(1.14)
E(r,t) 、 B(r,t) 、は x、
y、の関数ではないの
で。
(1.15)
(1.16)
(1.13)、(1.16)式は、 ( Ex , By ) の組み合わせ・・・x 偏波(偏光)
(1.14)、(1.15)式は、 ( Ey , Bx ) の組み合わせ・・・y 偏波(偏光)
x 偏光 y 偏光 Ex (z,t) = E0 x exp[i(kz − ωt)]
By (z,t) = B0 y exp[i(kz − ωt)]
E0 x = cB0 y
Ey (z,t) = E0 y exp[i(kz − ω t)]
Bx (z,t) = −B0 x exp[i(kz − ω t)]
E0 y = cB0 x
平面波(振動の図)
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(ii) 平面波展開
⎫
⎧ 1
exp[i k ⋅ r]⎬ ・・・完備な規格直交系 sin k ⋅ r, cos k ⋅ r
関数系 ⎨
⎭
⎩ 2π
⎫
⎧ 1
exp[−iω t]⎬ sin ω t, cos ω t
⎨
⎭
⎩ 2π
( −∞, ∞ ) の任意の関数を表現できる。
数学の世界では、Fourier 級数展開とも言われる。
つまり、任意の関数 f (r,t) は、
f (r,t) = ∑ A0k exp[i(k ⋅ r − ω kt)]
(1.17)
k
平面波展開 (物理の世界)
と書くことができる。
また、重ね合せの原理から、(1.17)式は Maxwell 方程式の解となっている。
(iii) 球面波の解
A(r) = A(r) =
A
A0
exp[ikr] or 0 exp[−ikr]
r
r
(1.18)
これも Helmholtz 方程式((1.11)式)に代入すれば、解であることは分かる。
ただし、 A(r) は A(r) と、 θ , φ に依存しない r だけの関数であることと、
∂ ⎛
∂⎞
∂2
1 ∂⎛ 2 ∂⎞
1
1
r
sin
θ
+
+
⎜
⎜
⎟
⎟
∂θ ⎠ r 2 sin 2 θ ∂φ 2
r 2 ∂r ⎝ ∂r ⎠ r 2 sin θ ∂θ ⎝
であることに注意する。
つまり、
∇ 2 =
⎛ d2 2 d ⎞
2
⎜⎝ dr 2 + r dr ⎟⎠ A(r) + k A(r) = 0
(1.19)
を示せば良い。(これもすぐできる。)
A0
exp[i(kr − ω t)] 外向き(out-going)球面波
r
A
f (r,t) = 0 exp[−i(kr + ω t)] 内向き(in-coming)球面波
r
球面波の図
具体例 : 双極子輻射
f (r,t) =
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(c) 電磁波とは何か?
通常の(≓古典的な)波 ——— 媒質の振動
では真空中も伝播する電磁波を伝える媒質とは? ——— エーテル(Ether)
真空はエーテルで満たされている?
エーテルに対して相対運動すれば、光(電磁波)の速度は異なるはず
(リンク)
電磁波は媒質を必要としない振動、波
→ 電磁波は(電磁)場の振動
つまり、通常の、伝わるのに媒質を必要とする古典的な波とは別物
「場」の概念を生み出した(量子論でいうと第一量子化に対応する)
(d) 近軸光線
現実問題として、平面波、球面波は実在しない。
平面波・・・無限の大きさの波面をもたなければならない
球面波・・・点光源(波源)が必要
実用上、理解を深めておくべき電磁波が近軸光線(幾何光学における用語)
レンズ系
図 近軸光線
カメラ、望遠鏡、顕微鏡、etc
レーザー光
Gaussian Beam
光ファィバー
屈折率分布媒質
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z 軸周辺に電場強度が集中している光(電磁波)を考える。
(当然進行方向は z 軸方向)
Helmholtz 方程式、 ∇ 2 A(r) + k 2 A(r) = 0 ((1.11)式)に A(r) = g(r) exp[ikz] を代入。
" ∂2
∂g(r)
∂2
∂2 %
=0
$ 2 + 2 + 2 ' g(r)+ 2ik
∂z
# ∂x ∂y ∂z &
(1.20)
ここで以下の近軸光線近似を行う。
∂g(r)
 kg(r)
∂z
∂g(r)
λ  g(r) 。つまり、1 波長進ん
∂z
だ時の振幅の変化量が振幅に比べて十分に小さい。
∂g(r)
∂2 g(r)
k
2
∂z
∂z
もう一回、微分したもの。
(振幅の変化率も十分に小さい)
k = 2 π / λ なので
結局、z 軸周辺に電場強度が集中している光は、その性質を保ったまま伝播する。
Slowly Varying Envelope Approximation ともいう。
(1.20)式は以下のようになる。
" ∂2
∂g(r)
∂2 %
g(r)+ 2ik
+
=0
$ 2
2'
∂z
# ∂x ∂y &
(1.21)
近軸 Helmholtz 方程式
もとの波動方程式(1.9)式まで戻ると、 f (r,t) = g(x, y, z) exp[i(kz − ωt)] となるので、
g(x, y, z0 ) は、z 方向に進む波の、断面( z = z0 )における複素振幅分布という意味を持つ。
(i)
放物面波
1/2
r = ( x 2 + y2 + z 2 )
1/2
= z (1+ θ 2 )
θ 2 = ( x 2 + y2 ) z 2
" θ2 %
 z $1+ '
2&
#
( θ  1)
= z+
x 2 + y2
2z
(1.22)
なので、これを球面波の式((1.18)式)に代入。
球面波
A(r) = A(r) =
つまり、 g(r) =
放物面波
A0
exp[ikr]
r
→
A(r) =
' ! x 2 + y 2 $*
A0
exp )ik # z +
&,
z
2z %+
( "
! x 2 + y2 $
A0
exp #ik
& であり、これは近軸 Helmholtz 方程式((1.21)式)
z
2z %
"
を満たす。(これも実際にやってみればよい)
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球面波 放物面波 平面波
等位相面
球面波
放物面波
! x 2 + y2 $
k # z +
& = 一定
2z %
"
kr = 一定
平面波
k ⋅ r = 一定
↓
x + y = ρ 、 z = z0 + η とすると、
ρ2
z0 + η +
= 一定
2z0 (1+ η z0 )
2
2
2
z0  η として、 η +
ρ2
= 一定 ・・・放物面
2z0
放物面
(ii) Gaussian Beam
放物面波の解で、 z → q(z) = z − iz0 と置き換えても、近軸 Helmholtz 方程式の解。
g(r) =
! x 2 + y2 $
A0
exp #ik
&
q(z)
" 2q(z) %
これも(1.21)式の解
(1.23)
ここで、
1
z + iz
1
2
1
=
= 2 02 ≡
+i 2
q(z) z − iz0 z + z0 R(z) kw (z)
R(z) 、 w(z) : 実数
1/2
' ! $2 *
' ! z $2 *
z
0
R(z) = z )1+ # & , 、 w(z) = w0 )1+ # & ,
)( " z % ,+
)( " z0 % ,+
とすると、(1.23)式は以下のようになる。
8
w0 =
2z0
k
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# ρ2 &
#
&
iA0 w0
ρ2
exp %− 2 ( exp %ik
− iζ (z)(
z0 w(z)
$ w (z) '
$ 2R(z)
'
g(r) =
(1.24)
ζ (z) = tan −1 ( z z0 ) 、 ρ 2 = x 2 + y 2
z + iz
1
= 2 02
q(z) z + z0
=
i
2
0
z0 − iz
z +z
2
( z0 を z の前にもってくる)
z02 + z 2
複素平面で考える(右図)
z0 − iz
= exp [−iζ (z)]
z02 + z 2
複素平面
また、
z02 + z 2 = z0 1+ ( z z0 )
2
= z0 w(z) w0
よって、
i w0
1
=
exp [−iζ (z)] となる。
q(z) z0 w(z)
Gaussian Beam の複素振幅
A(r) =
# )
&
# ρ2 &
iA0 w0
ρ2 ,
−
i
exp %− 2 ( exp %ik + z +
ζ
(z)
(
.
z0 w(z)
$ w (z) '
$ * 2R(z) '
(1.25)
Gaussian Beam の性質
○ 強度(Intensity, W/cm2) I(r) ∝ A(r)
I(r) = I 0
# 2ρ 2 &
w02
exp
%− 2 (
w 2 (z)
$ w (z) '
2
(1.26)
Gaussian Profile
Gaussian Profile
w(z) ・・・強度が1 e2 になる半径(ビーム径)
9
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○ パワー(Power, W)
P=
=
∫ I(r)dx dy = ∫
2 π I 0 w02
w 2 (z)
∫
∞
0
∞
0
I( ρ, z) 2 πρ d ρ
& 2ρ 2 )
exp (− 2 + ρ d ρ
' w (z) *
∞
& 2ρ 2 ) )
2 π I w 2 & w 2 (z)
= 2 0 0 (−
exp (− 2 + +
4
w (z) '
' w (z) * *0
(1.27)
π I 0 w02
=
2
一定(あたりまえ)
○ 曲率半径
' ! z $2 *
R(z) = z )1+ # 0 & ,
)( " z % ,+
○ ビーム径
2
w(z) = w0 !"1+ ( z z0 ) #$
○ ビーム広がり
θ0 =
○ 焦点深度
(confocal parameter)
2z0 =
○ 位相
kρ 2
2R(z)
軸上では、φ (0, z) = kz − ζ (z)
(1.28)
1/2
2 λ
π w0
2 π w02
λ
φ ( ρ, z) = kz − ζ (z)+
Gaussian Beam
10
(1.29)
(1.30)
(1.31)
(1.32)
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焦点深度、共焦点パラメーター
位相遅れ
曲率半径
波面
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(iii) ABCD 則
近軸光線(Gaussian Beam を含む)の伝播を便利に表現可能。
幾何光学の paraxial ray optics が起源。
Gaussian Beam (再掲、まとめ)
g(r) =
! x 2 + y2 $
A0
exp #ik
&
q(z)
" 2q(z) %
1
2
1
=
+i 2
q(z) R(z) kw (z)
' ! z $2 *
R(z) = z )1+ # 0 & ,
)( " z % ,+
z における曲率半径
2 1/2
' ! $
z
w(z) = w0 )1+ # &
)( " z0 %
*
ビーム半径
,
(電場強度が 1 / e となる場所)
,+
# ρ2 &
#
&
iA w
ρ2
g(r) = 0 0 exp %− 2 ( exp %ik
− iζ (z)( (1.24)
z0 w(z)
$ w (z) '
$ 2R(z)
'
Beam waist
2z0
w0 =
k
ζ (z) = tan −1 ( z z0 ) 、 ρ 2 = x 2 + y 2
q(z) は、ビーム半径と曲率半径の情報をもっている。
つまり、複雑な(1.24)式を使わなくても q(z) の様子が分かれば、その方が簡便。
ビーム伝播の様子
ABCD 則 Aq + B
q2 = 1
Cq1 + D
(1.33)
12
2014 量子エレクトロニクス (久我)
Amnon Yariv, Optical Electronics in Modern Communications, Oxford 1997. P41
(iv) いろいろな近軸光線
Hermite-Gaussian beam
A(r) =
! 2 x$ ! 2 y$
) ! x 2 + y2 $
,
iA0 w0
Gl #
&Gm #
&exp +ik # z +
& − i(l + m +1)ζ (z).
z0 w(z) " w(z) % " w(z) %
2R(z) %
* "
Gl (u) = H l (u)exp "#−u 2 2$%, l = 0,1,2,…
13
(1.34)
2014 量子エレクトロニクス (久我)
http://www.rp-photonics.com/img/tem_modes.png
Laguerre-Gaussian beam
http://www.apc.univ-paris7.fr/APC_CS/en/system/files/FCKeditor/image/Virgo/Laguerre-gaussian.png
Bessel beam
回折しない(広がらない)波
14