外国競争法研究会 要点整理 1 米国及び欧州再販売価格維持に関する

外国競争法研究会 要点整理
米国及び欧州再販売価格維持に関する動向について
2014 年 9 月 17 日、13:30~16:30
講師:法学博士・弁護士(日本・NY州)
・ベーカー&マッケンジー法律事務所パートナー
井上 朗 氏
第 1.問題点の概観
2007 年、米国連邦最高裁は Leegin 事件において 1911 年の Dr. Miles 事件以来維持さ
れてきた「最低再販は当然違法」を覆し、「最低再販は合理の原則で判断すべし」とした。
しかるに、州レベルでの扱いはまちまちで、例えばコネチカット州は連邦最高裁と同様の
解釈を採用したが、カリフォルニア州、ニューヨーク州、メリーランド州では「最低再販
は当然違法」を再確認した。2010 年にガイドラインを改定した EU レベルでは目立った
執行はないが、加盟国レベルでは最低再販に対する執行は活発であり、また国際的にみて
も中国、韓国、オーストラリア等で同様の状況である。
第 2.米国における再販価格維持(RPM)の動向
1.Sara Lee 事件1
(1)事案概要
食パン等のメーカーという位置づけにある Sara Lee(以下、SL 社)は、SL 社から卸売
業者へ、そして卸売業者からチェーンストア(Vons, Safeway, Ralphs, Costco, Smart &
Final, Sam’s Club, Walmart, Target 及び Food 4 Less)へとその食パン等を販売して
いるが、本件は SL 社が最低再販、販売地域制限を行ったとして、卸売業者が加州反トラ
スト法である Cartwright Act 等に基づき訴えを提起したもの。最低再販の証拠裏付けがな
いとして、請求を棄却。
(3)争点
①SL 社とチェーンストアとの間で垂直的な価格固定が行われたか否か。
②垂直的な価格固定の違法判断基準は何か。
(4)加州地裁判断のポイント
争点①について、
・卸売業者にはチェーンストアとの直接交渉権があるので、SL 社が卸売業者からチェ
ーンストアへの価格を支配しているとは言えない。
・卸売業者は Cartwright Act 違反事実の立証を欠く。すなわち、SL 社とチェーンスト
アとの間の共謀が形成され実行されたかが不明である。
争点②について、
本件で垂直的価格協定の事実が認定された場合、連邦最高裁の Leegin 事件判決に拘わ
らず、Mailand v. Burckle 事件2及び Cartwright Act により当該協定は当然違法となる。
Kaewsawang vs. Sara Lee Fresh, Inc. et al; Case No.BC360109, Superior Court of
the State of California for the county of Los Angeles
2 L.A. No. 30706. Supreme Court of California. January 5, 1978
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加州において最低再販は当然違法であり、連邦最高裁判決に拘束されるべき理由はない。
2.RPM に対する連邦レベル判断の変遷
(1)1911 年 Dr. Miles 事件判決
(2)1919 年 Colgate 事件判決
(3)1937 年 Miller-Tydings Act
(4)1952 年 McGuire Act
(5)1975 年 Consumer Goods Pricing Act
(6)1977 年 Sylvenia 事件判決
(7)1984 年 Monsanto 事件判決
(8)1988 年 Business Electronics 事件判決
(9)1997 年 Kahn 事件判決
(10)2003 年 Compact Disc Min. Advertised Price 事件
3.Leegin 事件判決後の各州における RPM の取扱3
(1)合理の原則を採用した州
コネチカット州など
(2)当然違法を維持する州
カンザス州、ニューヨーク州、メリーランド州、カリフォルニア州など
第3.欧州における RPM の動向
1.EU 条約 101 条とガイドライン
(1)EU 条約 101 条:RPM に関する基本条文である。
・
「事業者」とは一経済取引単位あることに留意するべき4。
・
「加盟国間の取引への影響」についてはガイドライン5があり、域内市場占有率が 5%
超で、且つ、水平的合意であれ垂直的合意であれ、対象製品の域内市場売上高が 4000
万ユーロ超であれば影響があると判断される。
・一方でデミニマス(競争効果の重要性判断基準)6もあり、垂直的合意については関連
市場における 15%を超えない場合、累積効果排除効果がある場合には 5%を超えない
かぎり、101 条 1 項の適用が排除される。
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http://www.americanbar.org/content/dam/aba/publishing/antitrust_source/feb14_linds
ay_chart.authcheckdam.pdf
4 COUNCIL REGULATION (EC) No 139/2004 of 20 January 2004 on the control of
concentrations between undertakings(合併規則)
5 Guidelines on the effect on trade concept contained in Articles 81 and 82 of the
Treaty (2004/C 101/07)
6 Commission Notice on agreements of minor importance which do not appreciably
restrict competition under Article 81(1) of the Treaty establishing the European
Community (de minimis) (2001/C 368/07)
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・また中小企業の取扱7もあり、売上高(5000 万ユーロ以下)、総資産(4300 万ユーロ以
下)
、従業員数(250 名以下)で 101 条 1 項の適用が排除される。
(2)Leegin 事件判決後の動向
①CEPSA 事件8
石油元売でガソリンスタンドの運営委託者の CEPSA と運営受託者 Tobar とのスペイン民
事訴訟に関する欧州司法裁判所(European Court of Justice)の先行判決である。判決要
旨は、欧州司法裁判所においては次の通りで、当然違法を採用するものではないことを示
している。判決の要点は以下の通り。
・石油製品の独占的供給契約は、例え運営受託者が専属義務、競業避止義務のみを負う
場合でも、101 条 1 項の適用がある。
・本件契約は 101 条 3 項に基づく一括適用免除
(委員会規則 2790/1999(1984/83No.1582
/97)
)の適用があると思われる。従って、本件契約に再販売価格維持が含まれているか否
かをスペイン法に照らして再確認し、もし含まれていても修正することで一括適用免除
101 条 3 項が適用できるか否かを確認するべきである。
101 条 1 項違反条項を含む契約は、
当該条項が分離できない場合は 101 条 2 項により無効となるが、分離修正可能であれば、
当該契約のその他の条項まで無効とするものではない。
②Pedro Ⅳ Servicios 事件9
石油元売りの Total とガソリンスタンドを経営する Pedro IV との契約を巡るスペインで
の訴訟に関連する欧州司法裁判所の先行判決である。判決要旨によると、これも、は次の
通りで、これも当然違法を採用するものではないことを示している。また、
・小売価格に関する契約条項は、最高販売価格を定める、又は販売価格を推奨するなど小
売業者が小売価格を決定できるものではなく、最低再販を定める場合には一括適用免除の
適用はない。スペイン裁判所は、経済的及び法的分析に基づき契約条件を審査して 小売業
者の価格を制約する義務が課せられていたかを判断するべきである。
(3)理事会規則・ガイドライン
①理事会規則 2010 年 330 号104 条(a)は推奨価格又は最高販売価格を除く価格制限は
ハードコア制限としている。
COMMISSION RECOMMENDATION of 6 May 2003 concerning the definition of
micro, small and medium-sized enterprises C(2003) 1422
8 Judgment of the Court (Third Chamber) of 11 September 2008. CEPSA Estaciones de
Servicio SA v LV Tobar e Hijos SL. Reference for a preliminary ruling: Audiencia
Provincial de Madrid - Spain.
9 Judgment of the Court (Third Chamber) of 2 April 2009. Pedro IV Servicios SL v
Total España SA. Reference for a preliminary ruling: Audiencia Provincial de
Barcelona - Spain.
10 COMMISSION REGULATION (EU) No 330/2010 of 20 April 2010 on the
application of Article 101(3) of the Treaty on the Functioning of the European Union to
categories of vertical agreements and concerted practices
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②垂直制限ガイドライン11223 項~229 項は、RPM が EU 条約 101 条 1 項に該当するも
のとみなされるとしつつ、効率性に基づき 101 条 3 項該当性を主張する余地があるとして
いる。
③推奨価格又は最高販売価格が競争阻害効果を有するか否かは供給事業者の市場での地
位にも依る。Double Marginalization Problem(複数の供給者がいる場合に、互いに牽制す
るため合計利益が独占の場合の利益より少なくなること)を回避するため推奨価格又は最
高販売価格が使われているか否か検討要素である。
2.EU 加盟国における RPM 事件:執行が活発に行われている。
(1)ドイツ
・WALA Heilmittel 事件:2013 年 7 月 31 日ドイツカルテル庁は 650 万ユーロの制
裁金賦課決定を行う。
(2)スイス
・BMW 事件:スイス競争委員会は 1 億 3000 万ユーロの制裁金賦課決定を行う。
(3)ポーランド
・Roland Polska 事件:ポーランド競争・消費者保護庁は 21 万 9947 ジズロの制裁金
賦課決定を行う。
以上
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Guidelines on Vertical Restraints (2010/C 130/01)
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