Ⅲ.カニュレーションの要点

若⼿医師のための心臓手術の基本とその根拠
Ⅲ.カニュレーションの要点
.心膜展開後、心臓を観察する
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【その根拠】観察のポイントは、①RA・RV の大きさ②RV、LV の収縮⼒③上⾏⼤動脈
の太さ・⻑さ・偏位の程度④⼼奇形合併の有無(PAPVR・PLSVC など)
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. Aorta を触診する。
【その根拠】触診により⽯灰化の有無・局在部位を同定し、上⾏送⾎・⼤動脈遮断が可
能かを判断する。
Epiaortic echo スキャンの適応は、①術前 CT で壁肥厚および粥腫が疑われる場合、
②OPCAB の中枢側吻合部位の性状を確認する場合。
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. 上⾏送⾎可能と判断したら全身ヘパリン化を麻酔医に依頼する。
【その根拠】もしも上⾏が使えない場合には①弓部送血②大腿動脈送血②右腋窩動脈送
血のいずれかのルートを選択し、⾎管を露出した後にヘパリン(300U/Kg)を投与し
てもらう。ヘパリンを投与してから⾎管確保に移ると、⾎管の露出剝離での出血が多く
なるため。ヘパリンは 1mL=1000U。たとえば体重 50Kg の人なら 15mL。
☝南先生のワンポイント・アドバイス
ヘパリン投与を忘れることの無いよう、常に同じタイミングで指示出しをする!
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. ⼈⼯⼼肺回路を術野に準備展開する
【その根拠】緊急手術でなければ、カニュレーションの糸掛けをしながら回路の準備を
しない。⼀度にあれこれ同時並⾏でやると看護師さんが困惑。
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. カニュレーション操作の順序はいつも同じで
【手順】①上⾏送⾎糸掛け・カニューレ挿入②RA 糸掛け・SVC カニューレ挿入③人工
心肺開始④RA 糸掛け・IVC カニューレ挿入⑤IVC テーピング⑥PV 糸掛け・LV ベント
カニューレ挿入⑦SVC テーピング
【その根拠】いつも同じ順番だと助手も器械出し看護師さんも混乱しない。上⾏からは
じまり IVC へ向かって。そしてまた頭側へ戻る流れで。
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. 上⾏送⾎糸掛け
【手順】①上⾏⼼膜翻転部下縁辺りを触診して壁性状良好の部位を同定する②はじめに
外膜はむかない③2 重の菱形タバコ縫合④運針は中膜までかかる深さ⑤内側の糸は気
外膜のみまででもよい⑥外側の糸は内側の糸を引っ掛けないように運針。
【その根拠】この日の心臓手術で最初の運針が Aorta の糸掛けなので、慣れないうち
はある意味大変。AVR、CABG では上⾏大動脈の working space を確保するため、送
血部位はできるだけ遠位側で。外膜をはじめにむかないのは確実に外膜に糸が掛かるよ
うにするため。内側の糸で出血させると外側の糸を掛ける時に厄介なので気持ち浅めに。
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AS、AR では Aorta 壁が薄い場合が多いので注意!フェルトプレジェットは術後の癒着
を考え、はじめから使わない。
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. 送血カニューレ挿入
【手順】①ACT が 200 秒以上になっていることを確認②外膜をメッツェンで剝離③血
圧が 100mmHg 以下(理想)であることを確認④メスで尾側から⻑軸⽅向に切開する
と同時に左⽰指をスライドさせ切開⼝をふさぐ⑤カニューレの先端を切開⼝に当てて
滑り込ませる⑥カニューレ先端の向きが頭側になるように回転させる。
【その根拠】⻩⾊い中膜が露出するまで外膜をしっかりむくことが⼤切!慣れないうち
は血液が噴出して切開が⼩さくなりがち。⾎液を周りに⾶ばすと、不潔になったり、⼿
術進⾏が⽌まる。カニューレ挿入時に麻酔医に両側頚動脈の圧迫を依頼しない。頚動脈
プラークがある場合、逆に飛ばす恐れがあるため。
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. SVC 脱血カニューレ挿入
【手順】①右心耳をアリス鉗子で把持②右心耳の周りを 1 重タバコ縫合(外に出る糸の
部分を多く)③SVC と対側方向に糸が出るように運針④右心耳全体をサテンスキー鉗
子で把持し、先端をメッツェンで切除⑤両側をピンセットで掴み、サテンスキー鉗子を
開けてカニューレを滑り込ませる⑥カニューレの深さを確認(目盛と触診)⑦エアー抜
きしながら⼼肺回路と接続し、人工心肺開始。
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【その根拠】心房の糸は外に出る部分を多くして、まさに巾着のようにカニューレを外
側から包みこむ。脱血1本入ったら、すぐに人工心肺を開始すれば RA が小さくなり、
その後の操作が容易になる。結果的には人工心肺時間が短縮する。右心耳が小さい時は
RA 側面にタバコ縫合をかける。ただし、AVR の時に右心耳が邪魔になる時あり。
.SVC 直接カニューレーションの適応は、①僧帽弁手術②心房粘液腫③ASD
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【その根拠】⼼房の視野展開に有利。ただし、SVC 壁は⼼房壁と違って薄いため裂け
やすく、カニューレ周囲からエアーを引き込みやすいため注意!
10. SVC 直接カニュレーション
【手順】①SVC の首が短い時は心膜翻転部を内側に向かって切開剝離②RA 接合部から
10mm 位離れた部位に大きめの菱形(⻑軸に⻑く)タバコ縫合③SVC と対側方向に糸
が出るように運針④タバコ縫合の両端をピンセットで掴む⑤メスで⻑軸⽅向にしっか
り切開⑥メッツェンで開大⑦L 字型脱血カニューレ挿入
【その根拠】SVC 周囲を剝離する時、SVC の裏に奇静脈があることを意識!L 字型カ
ニューレは太目なので入れにくい時がある。
11. IVC 脱血カニューレ挿入
【手順】①RA をガーゼで用手的に圧排把持する②IVC 側の RA に 1 重タバコ縫合(全
部逆手)③IVC と対側方向に糸が出るように運針④メスでしっかり切開(オープンサー
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クルに向かって)④メッツェンで開大⑤カニューレを滑り込ませる⑥カニューレの深さ
を確認⑦⼼肺回路と接続(すでに回路内は流れているため、エアー抜きする必要はない)
【その根拠】IVC 脱血チューブ内のエアーは⾎流に乗って流れるため、生食で満たさな
くてもエアーブロックを生じない。RA1 本脱血はルーチンでは⾏わない。基本的にい
つも2本脱血にすることで手技が統一できる。2 本脱血なら急な RA 切開にもすぐに対
応できる。
12. IVC テーピング
【手順】①IVC-PV 間膜を壁吸引管の先端で半ば鋭的に剥離②左拇指と⽰指で IVC の周
りをくりくりと剥離し指で掴めるようにする③⼤動脈剥離鉗⼦を向こう側から⼿前に
通す(鉗⼦が⼊るところをよく⾒る)④テープを通してターニケットで締め、IVC を遮
断する。
【その根拠】IVC 周りは指で剝離するのが安全。ただし、癒着している時は鋭的剝離が
原則。IVC 後壁を突き刺すと修復が厄介。IVC が太い時にはテープをもう一回りまわし
て締めると、遮断が確実。
13. PV 糸掛け・LV ベントカニューレ挿入
【⼿順】①右上肺静脈の⼼膜側を少し剥離②右上肺静脈左房境界部付近に 3 角形タバコ
縫合(全部逆手)③脱血をしぼって心臓に血液を戻し肺を加圧してもらいながら、PV
切開④ベントカニューレを釣り針状に形をつけ⼼尖部に向けて挿入⑤カニューレ内腔
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から溢れるくらい逆流があるか、PVC が連発したら LV に入った証拠⑥カニューレを 2
本線(10cm)の所で留める
【その根拠】右側左房切開の時はより心膜側で。LV ベントカニューレは確実に LV に挿
入するが大事!心停止後に入れ直すのは少し面倒。その時は心臓を軽く脱転し左指で左
心耳をブロックしながら、ベントカニューレをピンセットでつかんで押し込む。
14. SVC テーピング
【手順】①PA-SVC 間膜を PA の真上で切開②メッツェンで間膜を PA 側で剥離③ケリ
ー鉗子(大)を SVC の手前から向こう側に出す④テープを通してターニケットで締め
る。
【その根拠】SVC 壁は薄いので PA 側で剥離する。SVC を串刺しにしない。初回心筋
保護液回収のため、はじめはターニケットを締めない状況がある。
人工心肺開始までの目標所要時間
皮切→胸骨正中切開→⼼膜切開→⼈⼯⼼肺回路準備→送⾎カニューレ挿⼊→脱⾎カニ
ューレ(1 本)挿入→人工心肺開始まで、20 分を目安。
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緊急開胸の手順
⽪切→電メスで骨膜まで→頚切痕剝離→スターナル・ソウ→骨膜⽌⾎せず→開胸器→⼼
膜切開→ヘパリン投与(心停止時は直接 RA から注入)→⼈⼯⼼肺回路準備(助手が同
時進⾏でセットアップ)→送血糸掛け 1 重→ヘパリン投与後 3 分以上(できれば
ACT200 秒以上を確認)→送血カニューレ挿入→カニューレ固定→回路エアー抜き→脱
血糸掛け→脱血カニューレ挿入(RA に 1 本)→人工心肺開始
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