Effects of Potential Modulations on Optical Gain Properties in InGaN

KURENAI : Kyoto University Research Information Repository
Title
Author(s)
Citation
Issue Date
Effects of Potential Modulations on Optical Gain Properties in
InGaN-based Green Laser Diodes( Abstract_要旨 )
Kim, Yoon Seok
Kyoto University (京都大学)
2014-03-24
URL
http://hdl.handle.net/2433/188594
Right
許諾条件により本文は2014-10-01に公開
Type
Thesis or Dissertation
Textversion
ETD
Kyoto University
京都大学
論文題目
博士(
工
学)
氏名
金
潤碩
Effects of Potential Modulations on Optical Gain Properties in InGaN-based Green
Laser Diodes (InGaN 緑色レーザダイオードの光学利得特性におけるポテンシャル変調
の効果)
(論 文 内 容 の 要 旨 )
本論文は,InGaN 系緑色レーザダイオード(LD)における光利得特性が,面内ポテンシャル揺ら
ぎやピエゾ分極・自発分極による面垂直電界などのポテンシャル変調によってどのように変化するか
について,理論検討と光測定によって評価し,今後の更なる緑色 LD の低閾値化や高出力化への指針
を明らかにしたものであり,第 7 章からなっている。
第 1 章は,InGaN 系 LD の長波長化にむけた近年の発展について纏められている。すなわち,従来
の GaN(0001)極性基板上への InGaN 系 LD 構造において,結晶成長技術の進展に伴って,2003 年に
は 450nm(青色)が最長波長であったものが,2005 年には 480nm(青緑色)
,2009 年には 515nm(少し
_
青みがかった緑色)が実現している。また,同 2009 年には,GaN{202 1}半極性基板上への 530nm の
緑色 LD の試作が報告されている。その後,2012 年には,この試作報告に触発される形にて, GaN(0001)
極性基板上においても緑色 LD の低閾値化・高出力化が報告されるなど,極性及び半極性基板上 LD に
おいて熾烈な開発競争がなされているが,将来に向けた指針は未確立であった。
第 2 章は,緑色 LD の特性がどのような要因によって変化するかを定量的に評価解析し,この物
質系の物性限界を明らかにすることを目的に,光利得スペクトルが,面内のポテンシャル揺らぎや面
垂直のピエゾ電界によって,どのような影響を受けるかについて,理論計算を行っている。その結果,
ポテンシャル揺らぎの程度をエネルギー標準偏差σとして定量化し,σの増加に伴って利得スペクト
ルのブロードニング,ピークシフトや利得飽和現象が顕著となることを示した。さらに,極性面上の
緑色 LD では量子閉じ込めシュタルク効果によって,電子と正孔の波動関数の重なり積分の二乗 F
2
が,無極性の場合と比較して一ケタ以上減少してしまうことを,シュレディンガー方程式とポアソン
方程式を自己無撞着的に数値計算することにより示した。
第 3 章は,極性面 GaN 基板上への緑色 LD と同様の成長条件で作製したアンドープ InGaN 量子井
戸の光物性を,従来作製されてきた一般的なサファイア基板上への緑色発光 InGaN 量子井戸(InGaN
の In 組成:25%・膜厚:3nm,発光寿命:138ns,F 2=0.04)と比較して評価した。その結果,緑色 LD
構造では,発光寿命が 66ns と高速化しており,F 2 が 2.2 倍増強していることが明らかとなり,In 組
成:28%・膜厚:2.5nm と従来の構造よりも,In リッチで井戸幅が狭いことを明らかにした。さらに
近接場光学顕微鏡(SNOM)や共焦点顕微鏡によるフォトルミネッセンス(PL)マッピングにより,サ
ブµm スケールでの発光空間分布が均一化するとともに,波長揺らぎも 20nm から 2nm と大幅に抑えら
れていることが示された。PL ピークエネルギーの励起エネルギー密度依存性や温度依存性の解析か
ら,σ=20-25meV と,従来のσ値よりも大幅に抑えられていることも分った。
第 4 章は,極性面上への緑色 LD の光利得スペクトルを,縦モード解析(ハッキ・パオリ法)に
京都大学
博士(
工
学)
氏名
金
潤碩
よって評価した。その結果,内部ロスが 10cm-1 と従来の値の半分以下に低減しており低閾値化の大き
な要因となっていること,光閉じ込め係数Γ=0.006 と紫色~青色 LD(Γ=0.016-0.03)と比較して大
幅に小さく,微分モード利得が小さいことが,高出力化に不利な要因となっていることが明らかにさ
れた。また,光利得のフィッティングの際に用いられた,ポテンシャル揺らぎの指標σg が,σg=95meV
とσ=20-25meV と比較して大きく,PL 弱励起によって評価された裾準位のポテンシャル揺らぎσと,
高密度に注入されたキャリアが状態密度にある程度フィリングされた際に生じるポテンシャル揺ら
ぎσg は異なっており,前者は局所的な局在を,後者はもう少し大きな空間階層で生じるポテンシャ
ル揺らぎを,反映していることが定量的に示された。
_
_
第 5 章では{202 1}半極性面 GaN 上への緑色 LD と同様の成長条件で作製した{202 1}半極性面アン
ドープ InGaN 量子井戸の SNOM-PL マッピングを行った。その結果,300nm 程度のサイズの島状構造が
観測されたが,強度揺らぎの幅は,従来のサファイア基板上への極性面 InGaN 量子井戸(標準試料)
と比較して大幅に低減していることが示された。一方,波長揺らぎは 5nm 程度あり極性面上の標準試
料の 1/4 程度抑えられているが,極性面上の LD 構造と比較すると 2.5 倍ほど大きいことが明らかに
_
なり,ポテンシャル揺らぎの低減に改善の余地があることが示された。とりわけ,[1 014]方向の波
長揺らぎは,原子間力顕微鏡(AFM)観察による表面の微小な傾きとの相関が示された。このことは,
_
この{202 1}面が,c 面とm面のナノファセットから構成されていることと関係しており,c 軸方向や
m 軸方向の傾きは各ナノファセットの割合を変化させ,これが In 取り込まれ率の変化として生じてい
ることを示唆している。この知見は,構造制御による不均一性の抑制といった将来の結晶成長技術の
方向性を示す成果である。さらに,発光ピーク波長と発光強度の負の相関から,In リッチ領域での非
輻射再結合中心の増加を示す結果を得ており,発光の高効率化に向けた今後の課題を明確にした。
_
_
第 6 章では,{202 1}半極性面アンドープ InGaN 量子井戸の時間分解 PL と{202 1}半極性面 GaN
上への緑色 LD の光利得スペクトルの測定結果について示している。前者の測定により,輻射再結合
寿命が 3.4ns と,従来の極性面上の標準試料と比較して約 40 倍高速化しており,ピエゾ電界低減に
よる F
2
の増大を実験的に初めて実証した。また,後者においては,従来の連続励起下の測定に加え
て,ボックスカー積分器を用いた評価手法を確立し,パルス励起下の光利得スペクトルの測定に成功
した。その結果,{20-21}半極性面 InGaN 緑色 LD の内部損失が約 20cm-1 であることが明らかとされた。
第 7 は,本研究の纏めと今後の展望が述べられている。すなわち,極性面上の試料では,結晶成
長技術の成熟と基板の大型化に伴い,ポテンシャル不均一や内部光ロスが大幅に低減された緑色 LD
_
が開発されているが,半極性面上の試料では,{202 1}面上の緑色 LD では,成長技術や基板の大型化
は依然として発展途上にあり,ピエゾ電界の低さによる発光再結合確率の高さといった物性上のメリ
ットを生かし切るには,さらなる物性制御が必要であることが示された。
氏
(論文審査の結果の要旨)
名
金
潤碩
_
本 論 文 は , (0001)極 性 面 上 お よ び {202 1}半 極 性 面 上 GaN 基 板 上 に 作 製 さ れ た InGaN
系緑色レーザダイオード(LD)における光利得スペクトル特性とポテンシャル揺らぎやピエゾ・自
発分極との相関を詳細に評価したものであり , 得 ら れ た 成 果 は 次 の と お り で あ る 。
1. Theoretical Background on Optical Gain Spectra(光利得スペクトルの理論的定式化)
-
光 利 得 ス ペ ク ト ル と 面 内 ポ テ ン シ ャ ル 揺 ら ぎ や 電子と正孔の波動関数の重なり
積分の二乗と の 相 関 に つ い て 定 式 化 し , 定 量 的 な 数 値 計 算 を 実 施 し た 。
2. Carrier Dynamics and Nanoscopic Optical Properties of Polar (0001) Green InGaN QWs
((0001)極性面上 InGaN 量子井戸緑色 LD におけるキャリアダイナミクスとナノ光物性)
-
(0001)極性面上緑色 LD の輻射再結合寿命から,従来の標準試料と比較して高 In 組成・
薄い井戸幅であることを明らかにした。さらに,顕微 PL マッピングにより,ポテンシャル揺ら
ぎが大幅に低減していることを見出した。
3. Optical Gain Properties of Polar (0001) Green InGaN LDs ((0001)極性面上 InGaN 量子井
戸緑色 LD における光利得特性)
-
LD 構造からの縦モードスペクトル測定によって,光利得スペクトルを解析し,(0001)
極性面上緑色 LD において,従来よりも大幅に小さい内部光ロス(10 ㎝-1)を観測した。さらに,
光利得スペクトルの理論フィッティングに用いるポテンシャル揺らぎが,
弱励起 PL で評価され
る揺らぎと比較して異なった指標として定義すべきであることが示された。
_
4. Carrier Dynamics and Nanoscopic Optical Properties of Semipolar {202 1} Green InGaN QWs
_
({202 1}半極性面上 InGaN 量子井戸緑色 LD におけるキャリアダイナミクスとナノ光物性)
-
SNOM-PL マッピングによって,発光ピーク波長の揺らぎと表面の微小な傾きとの相関を
明らかにした。さらに,発光ピーク波長と発光強度の負の相関から,In リッチ領域での非輻射
再結合中心の増加を示す結果を見出し,今後の課題を明確にした。
_
_
5. Optical Gain Properties of Semipolar {20 2 1} Green InGaN LDs({20 2 1} 半極性面 InGaN
量子井戸緑色 LD における光利得特性)
-
_
{202 1}半極性面上 LD 構造において,輻射再結合寿命が 3.4ns と,従来の極性面上の標準
試料と比較して約 40 倍高速化しており,ピエゾ電界低減による F 2 の増大を実験的に初めて実
証した。さらに,パルス励起下における光利得測定法を確立した。
本 論 文 は ,InGaN 系 緑 色 LD の 光利得スペクトルが面内ポテンシャル揺らぎやピエゾ分極・
自発分極による面垂直電界などによるポテンシャル変調とどのような相関があるかについて,理論
的・実験的に研究したものである。得られた知見は,今後の更なる緑色 LD の低閾値化や高出力化
への指針を明らかにしたものであり,基礎物性のみならず応 用 上 に お い て も 寄 与 す る と こ ろ
が 少 な く な い 。よ っ て ,本 論 文 は 博 士( 工 学 )の 学 位 論 文 と し て ,価 値 あ る も の と 認 め
る 。ま た ,平 成 2 6 年 2 月 2 4 日 ,論 文 内 容 と そ れ に 関 連 し た 事 項 に つ い て 試 問 を 行 い ,
申請者が博士後期課程学位取得基準を満たしていることを確認し,合格と認めた。