広島県立総合技術研究所保健環境センター研究報告,No. 21,p19−27,2013 資 料 広島県における違法ドラッグ買上げ検査 (平成 24 年度) 伊達 英代,小田 新一郎,中島 安基江,新井 清,寺内 正裕,松尾 健 * Inspection of Illegal Drugs in Hiroshima (2012-2013) HIDEYO DATE, SHINICHIROU ODA, AKIE NAKASHIMA, KIYOSHI ARAI, MASAHIRO TERAUCHI, and TAKESHI MATSUO* 平成 24 年度,本県薬務課が実施した,違法ドラッグを対象とした買上げ調査において,3製品から指定薬 物類似成分(平成 24 年 10 月指定)を検出したので,その概要を報告する Key words:違法ドラッグ,LC-MS/MS,GC-MS,HPLC,MAM-2201,XLR-11 MAM-2201 及び XLR-11 は Cayman Chemical 製を使 緒 言 用した. ( 2 )その他試薬及び器材 近年,違法ドラッグと称される製品の流通が増加して メタノール及び蒸留水は SIGMA-ALDRICH Inc. 製 おり,これらの製品に起因する健康被害が問題となって HPLC 用 を, ア セ ト ニ ト リ ル は, 関 東 化 学( 株 ) 製 いる.違法ドラッグには,指定薬物あるいは未指定であ HPLC 用を用いた.その他試薬は,特級品を使用した. るが,構造が類似しているため,同様の作用が疑われる 試料の粉砕は, 手もみ式簡易粉砕容器 (フィンガーマッ 成分が添加されており,特に,合成カンナビノイド系化 シャー 2.0 mL(株)アシスト製)を用いた. 合物が添加されていた報告例が後を絶たない.[1] [2] 3 装 置 [3] 平成 23 年度,本県においても,違法ドラッグによる GC-MS は 6890 GC/5975 MSD(Agilent Technologies 健康被害事例が初めて発生した.この事例を受け,平成 製) ,HPLC は Agilent 1100(Agilent Technologies 製), 24 年度より,広島県独自の違法ドラックを対象とした LC-MS は Agilent 1100/MSD (Agilent Technologies 製) , 買上げ検査を開始した.平成 24 年度は3製品を薬務課 LC-MS/MS は API 3000(AB SCIEX 製)を用いた. が購入し,その成分分析を当センターが実施したところ, 2製品から MAM-2201,1製品から XLR-11 が検出され 4 標準溶液の調製 た.その概要を報告する. 各標準品約2 mg を精密に量り取り,それぞれメタ ノールで溶解して1 mL とした.更に,この各溶液を 方 法 メタノールで希釈して,電子イオン化(EI)スペクト ル測定用標準溶液(50 μg/mL),プロダクトイオンス 1 試 料 ペクトル測定用標準溶液(10 μg/mL)及び検量線用標 県内の店舗で買上げた3製品(① BLACK POWER, 準溶液(10-50 μg/mL)を調製した. ② JIN,③ infinity)で,それぞれアルミパウチ袋に乾 燥植物片が入っており,その内容物重量は,すべて約3 5 試料溶液の調製 g であった. 均等に混和した各試料をフィンガーマッシャーに入 れ,手もみ粉砕した.その粉砕試料約 20 mg を精密 2 試 薬 に量り取り,メタノール2 mL を正確に加え,15 分間 ( 1 )標準品 超音波抽出を行った.さらに抽出液を遠心分離(3000 * 現広島県感染症・疾病管理センター:Hiroshima Prefectural Center for Disease Control and Prevention 19 広島県立総合技術研究所保健環境センター研究報告,No. 21(2013) rpm,10 min)し,上澄み液を試料溶液とした. ( 3 )GC-MS 条件 GC-MS 条件は,内山らの方法を参考とした[5] . 6 分析条件 カラムは HP- 5MS(30 m × 0.25 mm i.d.,膜厚 0.25 ( 1 )LC-MS 条件 μm,Agilent Technologies 製 ) を 用 い た. キ ャ リ ア カラムは,Xtera MS C18(2.1 × 150 mm,3.5 μm, ガ ス(He) 流 量 は,1.0 mL/min と し た. 注 入 口 温 度 Waters 製)を用いた.移動相は,0.1 % ギ酸溶液(A 液) は 200℃,注入量は1μL,注入方法はスプリットレス 及び 0.1 %ギ酸メタノール / アセトニトリル(1:1) で実施した.カラムオーブンの昇温条件は,初期温度 溶液(B 液)を用いてグラジエントにより分析を行った. を 80℃とし,1分間保持した後,5℃ /min で 190℃ま グラジエント条件は,A 液:B 液(50:50)から 30 分 で昇温した後,15 分間保持し,さらに,10℃ /min で で(10:90)とし,さらに5分間保持した.流量は 0.3 310℃まで昇温した後,10 分間保持した.検出器温度は mL/min,注入量は1 μL,カラム温度は 40℃とした. 230℃,スキャン範囲は m/z 40-550 とした. イオン化はエレクトロスプレーイオン化(ESI)のポジ ( 4 )HPLC 条件 ティブ(pos.)モード,スキャン範囲は m/z 100-600, カ ラ ム は,YMC-Pack Pro C18(1.5 × 150 mm, 5 フラグメント電圧は 30 eV とした. μm, YMC 製)を用いた.0.1 % ギ酸溶液(A 液)と 0.1 ( 2 )プロダクトイオンスペクトル測定条件 % ギ酸含有アセトニトリル(B 液)を用いてグラジエン プロダクトイオンスペクトルの測定は,豊田ら[4] トにより分析を行った.グラジエント条件は,A 液:B の方法を用いた.まず,標準溶液及び試料溶液について 液(50:50)から 30 分で(5:95)とし,さらに5分間 + Q 1スキャンを行い,プロトン付加([M+H])イオン 保持した.流量は 1.0 ml/min,注入量は 20 μL,カラ と推察されるイオンを確認した.次に,そのイオンをプ ム温度は 40℃,検出波長は 310 nm とした. リカーサーイオンとし,表1に示した条件を用いて,プ ロダクトイオンスキャン測定を実施した. 表1. プロダクトイオン測定条件 表 1 プロダクトイオン測定条件 HPLC Conditions Device Column Flow rate Column Temp. Inj. Volume Mobile phase :Agilent 1100 (Agilent Technologies) :Phenomenex Mercury MS Luna® C18(2.0×10 mm, 3 μm) :0.2 mL/min :40°C :1 μL :Sol.A:H2 O containing 5 mmol/L CH 3COONH 4 :Sol.B.:CH 3 OH/CH 3CN(1:1) containing 5 mmol/L CH3 COONH 4 Gradient profile :A:B (80:20)→5 min→A:B (5:95) (Hold 3 min) MS/MS Conditions Device :API 3000 (AB SCIEX) Ionization mode :ESI (Positive) Scan type :Product ion scan Ion spray voltage : 5500 eV CE voltage :+ 20 eV, + 35 eV, + 50 eV Ion souce temp. :400°C (The other conditions were values of each device.) z 374 のイオンが認められた.このことから,製品①及 結果及び考察 び②については,分子量 373 の化合物が含まれていると 示唆された. 1 LC-MS 分析の結果 製品③については,RT19.0 分付近にピークが認めら 製品に添加された化合物の分子量を推定するため, + イオンと推 れ,スペクトルを確認したところ, [M+H] LC-MS によるスキャン分析を実施したところ,製品① 察される m/z 330 のイオンが認められた.このことから, 及び②については,保持時間(RT)18.3 分付近にピー 製品③については,分子量 329 の化合物が含まれている クが認められ,それぞれのピークから得られたスペクト と示唆された. + イオンと推察される m/ ルを確認したところ,[M+H] 20 広島県立総合技術研究所保健環境センター研究報告,No. 21(2013) 図 1 試料溶液の LC-MS 分析 ①:BLACK POWER,②:JIN,③:infinity 2 LC-MS/MS 分析の結果 みた.まず,製品①及び②いずれからも,CE 50 eV で LC-MS により検出した,製品①及び②に含まれてい 検出される m/z 144 は,図3及び図4から,合成カン ると推察される分子量 373 の化合物及び製品③に含まれ ナビノイド化合物の基本骨格であるインドール環の3位 ていると推察される分子量 329 の化合物について,さら にケトン基のついた構造を示すイオンと推察される.次 に詳細に構造を推定するため,表1に示した条件を用い に,m/z 232 のイオンは,図3に示す AM-2201 のデー て,LC-MS/MS によるプロダクトイオンスキャンを実 タから,フルオロペンチルインドールにケトン基がつい 施した. た構造に由来すると推察された.また,m/z 141 は,図 ( 1 )製品①及び②の結果 4に示す JWH-122 のデータから,4- メチルナフタレン, 製品①及び②の試料溶液を測定して得られたスペクト m/z 169 は4- メチルナフタレンにケトン基がついた構 ルを確認すると,いずれの試料溶液もコリジョンエネル 造に由来するイオンと推測される. + イオンである m/z ギー(CE)20 eV の強度で[M+H] 以上のことから,製品①及び②に含まれる化合物 374 が強く観測された.また,CE の強度を 35 eV に上 は, 図 5 に 示 す, (1(5-fluoropentyl)-1H-indol-3-yl) げると m/z 169 及び m/z 232 が強く観測され,50 eV で (4-methyl-1-naphthalenyl)-methanone(MAM-2201, . は m/z 141 及び m/z 144 のイオンが確認できた(図2) 分子量 373)であると推定した.なお,MAM-2201 のプ そこで,これらのイオンについて,類似のイオンピー ロダクトイオンスペクトル測定用標準溶液を同様の条件 クを示す既知成分 AM-2201(図3)及び JWH-122(図 で測定した結果,製品①及び②の試料溶液から検出され 4)を対照に,基本構造及び置換基に帰属させたデータ た成分と得られた各イオンのスペクトルは一致した. を比較し,製品①及び②に含まれる成分の構造推定を試 21 広島県立総合技術研究所保健環境センター研究報告,No. 21(2013) 㻕㻓㼈㻹 㻖㻘㼈㻹 374 㻾㻰㻎㻫㼀㻎 ᧶precuser ion 374 169 232 200 100 200 㻕㻓㼈㻹 374 100 Intensity, cps m/z 300 m/z, Da 141 300 m/z, Da m/z 㻘㻓㼈㻹 232 Intensity, cps Intensity, cps 200 200 169 141 169 169 232 100 100 㻖㻘㼈㻹 㻾㻰㻎㻫㼀㻎 ཱ᧶precuser ion 374 m/z 300 m/z, Da 232 144 374 m/z 300 m/z, Da Intensity, cps 100 169 141 Intensity, cps Intensity, cps 169 232 㻘㻓㼈㻹 374 200 m/z 300 m/z, Da 144 232 115 100 200 m/z 300 m/z, Da 図 2 試料溶液(製品①及び②)のプロダクトイオンスペクトル ①:BLACK POWER,②:JIN ᅒ2.ࠈムᩩ⁈ᾦ㸝ဗձཀྵࡦղ㸞ࡡࣈࣞࢱࢠࢹ࢛ࣤࢪ࣋ࢠࢹࣜ ձ㸯BLACK POWER㸡ղ㸯JIN 㻕㻓㼈㻹 㼐㻒㼝 㻔㻗㻗 m/z 155 㻖㻘㼈㻹 㻾㻰㻎㻫㼀㻎 2 155 163 232 200 232 127 116 144163 m/z 300 100 Intensity, cps Intensity, cps 100 m/z 232 155 127 155 360 Intensity, cps 1 m/z 127 㻘㻓㼈㻹 200 360 69 117 144 88105 m/z 300 232 100 200 300 m/z ) 図 3 標準溶液(AM-2201,分子量 359)のプロダクトイオンスペクトル ᅒ3.ࠈᵾ‵⁈ᾦ㸝AM-2201㸡ฦᏄ㔖359㸞ࡡࣈࣞࢱࢠࢹ࢛ࣤࢪ ࣋ࢠࢹࣜ m/z 169 㼐㻒㼝 㻔㻗㻗 㻕㻓㼈㻹 㻖㻘㼈㻹 㻘㻓㼈㻹 2 㻾㻰㻎㻫㼀㻎 356 100 169 214 200 300 357 m/z Intensity, cps Intensity, cps Intensity, cps 1 m/z 141 141 169 214 100 141167 213 200 144 115 159 214 71 130 168 356 300 169 m/z 100 200 300 m/z m/z 214 図 4 標準溶液(JWH-122,分子量 355)のプロダクトイオンスペクトル ᅒ4.ࠈᵾ‵⁈ᾦ㸝JWH-122㸡ฦᏄ㔖355㸞ࡡࣈࣞࢱࢠࢹ࢛ࣤࢪ࣋ࢠࢹࣜ 㼐㻒㼝 㻔㻗㻗 m/z 169 㻕㻓㼈㻹 㻖㻘㼈㻹 141 Intensity, cps Intensity, cps Intensity, cps 1 㻘㻓㼈㻹 169 㻾㻰㻎㻫㼀㻎 374 2 232 100 m/z 232 200 m/z, Da 300 m/z 100 200 m/z, Da 300 m/z 100 ) ᅒ5.ࠈᵾ‵⁈ᾦ㸝MAM-2201㸡ฦᏄ㔖373㸞ࡡࣈࣞࢱࢠࢹ࢛ࣤࢪ࣋ࢠࢹࣜ 図 5 標準溶液(MAM-2201,分子量 373)のプロダクトイオンスペクトル 22 232 144 374 m/z 141 169 200 m/z, Da 300 m/z 広島県立総合技術研究所保健環境センター研究報告,No. 21(2013) ( 2 )製品③の結果 2201 データから,フルオロペンチルインドールにケト ン基がついた構造に由来すると推測された.次に,m/z 製品③の試料溶液を測定して得られたスペクトルを確 + 認すると,CE 20 eV の強度で[M+H] イオンである 97 は,図7に示す UR-144 のデータから,テトラメチル m/z 330 が強く観測された.また,CE の強度を 35 eV シクロペンチル,m/z 125 はテトラメチルシクロペンチ に上げると m/z 125 及び m/z 232 が強く観測され,CE ルにケトン基がついた構造に由来すると推察される. 50 eV では m/z 97 及び m/z 144 のイオンが確認された. こ の こ と か ら, 製 品 ③ に 含 ま れ る 化 合 物 は, 図8 (図6) に 示 す(1(5-fluoropentyl)-1H-indol-3-yl) (2, 2, 3, 3- これらのイオンについて,製品①及び②と同様に,類 tetramethylcyclopropyl)methanone(XLR-11,分子量 似のイオンピークを示す既知成分 AM-2201(図3)及 329)であると推定した.なお,XLR-11 のプロダクト び UR-144(図7)を対象に,構造推定を試みた. イオンスペクトル測定用標準溶液を同様の条件で測定し まず,m/z 144 のイオンは合成カンナビノイド化合物 た結果,製品③の試料溶液から検出された成分と得られ の基本骨格を示すイオンと推察される.また,m/z 232 た各イオンのスペクトルは,一致した. のイオンも,製品①及び②と同様に,図3に示す AM- 㻕㻓㼈㻹 200 232 330 297312 230 97 83 m/z 300 m/z, Da 125 100 200 300 m/z, Da Intensity, cps Intensity, cps 125 100 㻘㻓㼈㻹 125 330 Intensity, cps ི᧶precuser ion 330 㻖㻘㼈㻹 144 8397 69 232 282 222 208 91 m/z 100 200 m/z 300 m/z, Da 図 6 試料溶液(製品③)のプロダクトイオンスペクトル ③:infinity ᅒ6ࠈムᩩ⁈ᾦ㸝ဗճ㸞ࡡࣈࣞࢱࢠࢹ࢛ࣤࢪ࣋ࢠࢹࣜ ճ㸯infinity m/z 125 㼐㻒㼝 㻔㻗㻗 2 㻕㻓㼈㻹 㻖㻘㼈㻹 㻾㻰㻎㻫㼀㻎 312 1 125 m/z 214 100 214 125 200 m/z, Da 300 m/z 214 8397 212 144 100 279 294312 200 m/z, Da 300 Intensity, cps Intensity, cps Intensity, cps m/z 97 㻘㻓㼈㻹 m/z 125 83 97 144 214 130 m/z 100 264 222 194 200 m/z, Da 300 m/z 図 7 標準溶液(UR-144,分子量 311)のプロダクトイオンスペクトル ᅒ7.ࠈᵾ‵⁈ᾦ㸝UR-144㸡ฦᏄ㔖311㸞ࡡࣈࣞࢱࢠࢹ࢛ࣤࢪ࣋ࢠࢹࣜ 㼐㻒㼝 㻔㻗㻗 m/z 125 㻕㻓㼈㻹 㻖㻘㼈㻹 m/z 97 100 m/z 232 125 200 m/z, Da 300 m/z 232 83 97 100 Intensity, cps Intensity, cps Intensity, cps 1 㻘㻓㼈㻹 125 㻾㻰㻎㻫㼀㻎330 2 330 230 297 312 200 m/z, Da 300 m/z 97125 144 83 69 91 100 232 282 222 200 m/z, Da 300 m/z ) 図 8 標準溶液(XLR-11,分子量 329)のプロダクトイオンスペクトル ᅒ8.ࠈᵾ‵⁈ᾦ㸝XLR-11㸡ฦᏄ㔖329㸞ࡡࣈࣞࢱࢠࢹ࢛ࣤࢪ࣋ࢠࢹࣜ 23 広島県立総合技術研究所保健環境センター研究報告,No. 21(2013) 3 GC-MS 分析の結果 なお,RT47.5 分付近の別ピークについて,国立医薬 LC-MS 分析及び LC-MS/MS 分析で得られた各試料 品食品衛生研究所に問い合わせたところ,GC の注入口 に含まれると推察される成分について,GC-MS により, 温度による熱分解物であると判明した. 確認を行った. MAM-2201 及び XLR-11 の EI スペクトル測定標準溶 4 HPLC による定量の結果 液及び試料溶液について,GC-MS を用いたスキャン分 各試料溶液及び検量線作成用標準溶液を分析し,得ら 析を実施したところ,製品①,②及び MAM-2201 につ れた HPLC クロマトグラム及び UV スペクトルを図 11 いては,RT55 分付近にピークが認められ,3つのピー に示した. クのEIスペクトルを比較したところ,図9に示すとお まず,ピーク面積による絶対検量線法で検量線を作 り,同等の結果が得られた.このことから,製品①及び 成したところ,MAM-2201 及び XLR-11 は,10-50 μg/ ②共に含まれる化合物は,MAM-2201 であると確認さ mL の濃度範囲でr= 0.999 以上の良好な直線性を示し れた. た.また,2成分の定量限界(LOQ) [シグナル対ノイ 製品③及び XLR-11 については,いずれも,RT 47.2 ズ比 (S/N) = 10] は, MAM-2201 及び XLR-11 共に約 0.08 分付近に主ピークが,また,RT47.5 分付近に別ピーク μg/mL であった. が認められた. RT47.2 分付近の主ピークについて,E 続いて,製品①,②及び③の試料溶液について分析し Iスペクトルを比較したところ,図 10 に示すとおり同 たところ,各製品中の含有量は表2に示すとおりであっ 様の結果が得られ,製品③に含まれる化合物は,XLR- た. 11 であると確認された. な お, 3 製 品 を 買 上 げ た 平 成 24 年 8 月 当 時 は, 図 9 標準溶液(MAM-2201)及び試料溶液(製品①及び②)の EI スペクトル ①:BLACK POWER,②:JIN 24 広島県立総合技術研究所保健環境センター研究報告,No. 21(2013) 図 10 標準溶液(XLR-11)及び試料溶液(製品③)の EI スペクトル ③:infinity MAM-2201 及び XLR-11 は未規制であったが,同年 10 月, 買い上げ調査当時,当センターはこれらの標準品を所 これら2成分は指定薬物に指定された. 有していなかったことから,標準溶液との比較による成 分の確認が困難であった.しかし,試料溶液を分析して ま と め 得られたプロダクトイオンスペクトルについて,類似の イオンピークを示す既知成分と比較する手法を用いて2 平成 24 年度,違法ドラックを対象にした買上げ検査 成分の構造を推定し,その結果,製品中の含有量を迅速 において,MAM-2201 及び XLR-11 が検出された. に測定することができた. 25 広島県立総合技術研究所保健環境センター研究報告,No. 21(2013) 㼐㻤㻸 㻙㻓 㼐㻤㻸 ᵾ‵⁈ᾦ:10ppm 㼐㻤㻸 㻙㻓 㻚㻓 㻰㻤㻰㻐㻕㻕㻓㻔 䚭䚭㻵㻷㻝㻃㻔㻗㻑㻘㻓㻓 㻘㻓 㻻㻯㻵㻐㻔㻔 㻵㻷㻝㻔㻘㻑㻚㻖㻔 㻰㻤㻰㻐㻕㻕㻓㻔 㻵㻷㻝㻃㻔㻗㻑㻘㻓㻓 㻗㻓 㻙㻓 㻻㻯㻵㻐㻔㻔 䚭䚭㻵㻷㻝㻔㻘㻑㻚㻖㻔 㻘㻓 㻘㻓 㻗㻓 㻗㻓 㻖㻓 㻖㻓 㻖㻓 㻕㻓 㻕㻓 㻕㻓 㻔㻓 㻔㻓 㻔㻓 㻓 㻓 㻓 㻘 㻔㻓 㻔㻘 㻕㻓 㻕㻘 㻖㻓 㻖㻘 㻕㻕㻘 㻕㻘㻓 㻕㻚㻘 㻖㻓㻓 㻖㻕㻘 㻖㻘㻓 㻖㻚㻘 㼑㼐 㻕㻓㻓 㻕㻕㻘 㻕㻘㻓 㻕㻚㻘 㻖㻓㻓 㻖㻕㻘 㻖㻘㻓 㻖㻚㻘 㼑㼐 㼐㻤㻸 㻔㻗㻑㻘㻔㻕 䐖 㻕㻓㻓 㻗㻓 㻗㻓 䐖䚭㻵㻷㻝㻃㻔㻗㻑㻘㻔㻕 㻖㻘 㻗㻓 㻖㻓 㻕㻘 㻖㻓 㻕㻓 㻕㻓 㻔㻘 㻔㻓 㻘 㻚㻑㻘㻘㻙 㻔㻑㻜㻜㻖 㻔㻓 㻓 㻓 㻓 㻘 㻔㻓 㻔㻘 㻕㻓 㻕㻘 㻖㻓 㻖㻘 㻕㻓㻓 㻗㻓 䐗 㻕㻘㻓 㻕㻚㻘 㻖㻓㻓 㻖㻕㻘 㻖㻘㻓 㻖㻚㻘 㼑㼐 㼐㻤㻸 㻔㻗㻑㻘㻓㻚 㻔㻓㻓 㻕㻕㻘 㻗㻓 䐗䚭㻵㻷㻝㻃㻔㻗㻑㻘㻓㻚 㻖㻘 㻛㻓 㻖㻓 㻕㻘 㻙㻓 㻕㻓 㻔㻘 㻗㻓 㻔㻓 㻕㻓 㻚㻑㻘㻗㻚 㻔㻑㻖㻗㻔 㻕㻑㻓㻓㻛 㻕㻑㻙㻔㻕 㻘 㻓 㻓 㻕㻓㻓 㻓 㻘 㻔㻓 㻔㻘 㻕㻘 㻖㻓 㻖㻘 㻕㻕㻘 㻕㻘㻓 㻕㻚㻘 㻖㻓㻓 㻖㻕㻘 㻖㻘㻓 㻖㻚㻘 㻗㻓 㼑㼐 㼐㻤㻸 㻔㻘㻑㻚㻖㻔㻃 䐘 㻘㻓 㻕㻓 㻙㻓 䐘䚭㻵㻷㻝㻔㻘㻑㻚㻖㻔 㻘㻓 㻗㻓 㻗㻓 㻖㻓 㻖㻓 㻕㻓 㻕㻓 㻔㻓 㻔㻛㻑㻕㻖㻗 㻔㻑㻖㻚㻕 㻔㻑㻛㻔㻘 㻔㻓 㻓 㻓 㻓 㻘 㻔㻓 㻔㻘 㻕㻓 㻕㻘 㻖㻓 㻖㻘 㻕㻓㻓 㻗㻓 㻕㻕㻘 㻕㻘㻓 㻕㻚㻘 㻖㻓㻓 㻖㻕㻘 㻖㻘㻓 㻖㻚㻘 㼑㼐 図 11 標準溶液及び試料溶液の HPLC クロマトグラムと UV スペクトル ①:BLACK POWER,②:JIN,③:infinity 表 2 各製品の定量結果 製品名 ① . BLACK POWE 検出化合物と定量結果 MAM-2201:55mg/g (1 包装中 170mg) ② . JIN 例は,継続的に発生している.しかし,これらの成分の MAM-2201:52mg/g (1 包装中 160mg) ᅒ11. ᵾ‵⁈ᾦཀྵࡦムᩩ⁈ᾦࡡHPLCࢠ࣏ࣞࢹࢡ࣑࡛ࣚUVࢪ࣋ࢠ ③ . infinity ࢹࣜ XLR-11 :51mg/g (1 包装中 160mg) 標準品は入手困難な場合が多いことから,成分を迅速に 分析・同定することが一層困難となっている. ձ㸯BLACK POWER㸡ղ㸯JIN㸡ճ㸯infinity 近年の薬物の規制状況は,平成 25 年2月,ナフチル 今回報告した,既知成分の基本構造及び置換基に帰属 - インドール骨格を有する合成カンナビノイド系化合物 させたプロダクトイオンスペクトルデータと比較し,構 772 成分が包括指定に,同年4月及び6月に 32 成分が 造を推定する手法は,このような違法ドラッグ検査にお 個別指定薬物として追加される等,これまでにない頻度 ける迅速な成分の同定及び薬務課等への速やかな情報提 で規制成分が増加し,さらに,規制を逃れるためと推察 供を可能とし,それにより健康被害の未然防止,拡大防 される,これら規制成分に構造が類似した成分の検出事 止に資すると考える. 26 広島県立総合技術研究所保健環境センター研究報告,No. 21(2013) 山奈穂子,花尻(木倉)瑠理,合田幸広.違法ドラッ 謝 辞 グ試買検査の実施について(2011).京都府保健環 境研究所年報.2012;57:56-63 MAM-2201 及び XLR-11 の構造推定の際,ご助言いた [4]豊田安基江,杉村光永,松尾健,寺内正裕, 伊達英代, だいた国立医薬品衛生研究所 生薬部 花尻(木倉)瑠 井原紗弥香,森田晃祥,山辺真一,肥塚加奈江, 理先生に,感謝申し上げます. 藤原美智子 他.相互利用可能な LC/MS/MS ス ペクトルライブラリ作成のための研究(第1報) 文 献 ―プロダクトイオンスキャンによる MS/MS スペ クトル取得条件の検討―.広島県立総合技術研究 [1]Naoko Uchiyama, Riri Kikura-Hanajiri, Jun Ogata, Yukihiro God. 所保健環境センター研究報告. 2008;16:1-4. Chemical analysis [5]N a o k o U c h i y a m a , M a i k o K a w a m u r a , R i r i of synthetic cannabinoids as designer Kikura-Hanajiri, Yukihiro Goda. Identification drugs in herbal products. Foresic Science and quantitation of two cannabimimetic International.2010;198:31-38 phenylacethylindoles JWH-251 and JWH-250, [2]高橋市長, 長谷川貴志,西條雅明,永田知子,花尻(木 and four cannabimimetic naphthoylindoles JWH- 倉)瑠理,合田幸広.千葉県における違法ドラッ 081, JWH-015, JWH-200 and JWH-073 as designer グ試験検査について(平成 21 年度) .千葉県衛生 drugs in illegal products. Foresic Toxicol. 研究所年報.2009;58:51-54 2011;29:25-37. [3]野澤真里菜,鳥居南豊,松本洋亘,茶谷祐行,内 27
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