広島県における違法ドラッグ買上げ検査 (平成 24 年度)

広島県立総合技術研究所保健環境センター研究報告,No. 21,p19−27,2013
資 料
広島県における違法ドラッグ買上げ検査
(平成 24 年度)
伊達 英代,小田 新一郎,中島 安基江,新井 清,寺内 正裕,松尾 健 *
Inspection of Illegal Drugs in Hiroshima (2012-2013)
HIDEYO DATE, SHINICHIROU ODA, AKIE NAKASHIMA, KIYOSHI ARAI,
MASAHIRO TERAUCHI, and TAKESHI MATSUO*
平成 24 年度,本県薬務課が実施した,違法ドラッグを対象とした買上げ調査において,3製品から指定薬
物類似成分(平成 24 年 10 月指定)を検出したので,その概要を報告する
Key words:違法ドラッグ,LC-MS/MS,GC-MS,HPLC,MAM-2201,XLR-11
MAM-2201 及び XLR-11 は Cayman Chemical 製を使
緒 言
用した.
( 2 )その他試薬及び器材
近年,違法ドラッグと称される製品の流通が増加して
メタノール及び蒸留水は SIGMA-ALDRICH Inc. 製
おり,これらの製品に起因する健康被害が問題となって
HPLC 用 を, ア セ ト ニ ト リ ル は, 関 東 化 学( 株 ) 製
いる.違法ドラッグには,指定薬物あるいは未指定であ
HPLC 用を用いた.その他試薬は,特級品を使用した.
るが,構造が類似しているため,同様の作用が疑われる
試料の粉砕は,
手もみ式簡易粉砕容器
(フィンガーマッ
成分が添加されており,特に,合成カンナビノイド系化
シャー 2.0 mL(株)アシスト製)を用いた.
合物が添加されていた報告例が後を絶たない.[1]
[2]
3 装 置
[3]
平成 23 年度,本県においても,違法ドラッグによる
GC-MS は 6890 GC/5975 MSD(Agilent Technologies
健康被害事例が初めて発生した.この事例を受け,平成
製)
,HPLC は Agilent 1100(Agilent Technologies 製),
24 年度より,広島県独自の違法ドラックを対象とした
LC-MS は Agilent 1100/MSD
(Agilent Technologies 製)
,
買上げ検査を開始した.平成 24 年度は3製品を薬務課
LC-MS/MS は API 3000(AB SCIEX 製)を用いた.
が購入し,その成分分析を当センターが実施したところ,
2製品から MAM-2201,1製品から XLR-11 が検出され
4 標準溶液の調製
た.その概要を報告する.
各標準品約2 mg を精密に量り取り,それぞれメタ
ノールで溶解して1 mL とした.更に,この各溶液を
方 法
メタノールで希釈して,電子イオン化(EI)スペクト
ル測定用標準溶液(50 μg/mL),プロダクトイオンス
1 試 料
ペクトル測定用標準溶液(10 μg/mL)及び検量線用標
県内の店舗で買上げた3製品(① BLACK POWER,
準溶液(10-50 μg/mL)を調製した.
② JIN,③ infinity)で,それぞれアルミパウチ袋に乾
燥植物片が入っており,その内容物重量は,すべて約3
5 試料溶液の調製
g であった.
均等に混和した各試料をフィンガーマッシャーに入
れ,手もみ粉砕した.その粉砕試料約 20 mg を精密
2 試 薬
に量り取り,メタノール2 mL を正確に加え,15 分間
( 1 )標準品
超音波抽出を行った.さらに抽出液を遠心分離(3000
*
現広島県感染症・疾病管理センター:Hiroshima Prefectural Center for Disease Control and Prevention
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広島県立総合技術研究所保健環境センター研究報告,No. 21(2013)
rpm,10 min)し,上澄み液を試料溶液とした.
( 3 )GC-MS 条件
GC-MS 条件は,内山らの方法を参考とした[5]
.
6 分析条件
カラムは HP- 5MS(30 m × 0.25 mm i.d.,膜厚 0.25
( 1 )LC-MS 条件
μm,Agilent Technologies 製 ) を 用 い た. キ ャ リ ア
カラムは,Xtera MS C18(2.1 × 150 mm,3.5 μm,
ガ ス(He) 流 量 は,1.0 mL/min と し た. 注 入 口 温 度
Waters 製)を用いた.移動相は,0.1 % ギ酸溶液(A 液)
は 200℃,注入量は1μL,注入方法はスプリットレス
及び 0.1 %ギ酸メタノール / アセトニトリル(1:1)
で実施した.カラムオーブンの昇温条件は,初期温度
溶液(B 液)を用いてグラジエントにより分析を行った.
を 80℃とし,1分間保持した後,5℃ /min で 190℃ま
グラジエント条件は,A 液:B 液(50:50)から 30 分
で昇温した後,15 分間保持し,さらに,10℃ /min で
で(10:90)とし,さらに5分間保持した.流量は 0.3
310℃まで昇温した後,10 分間保持した.検出器温度は
mL/min,注入量は1 μL,カラム温度は 40℃とした.
230℃,スキャン範囲は m/z 40-550 とした.
イオン化はエレクトロスプレーイオン化(ESI)のポジ
( 4 )HPLC 条件
ティブ(pos.)モード,スキャン範囲は m/z 100-600,
カ ラ ム は,YMC-Pack Pro C18(1.5 × 150 mm, 5
フラグメント電圧は 30 eV とした.
μm,
YMC 製)を用いた.0.1 % ギ酸溶液(A 液)と 0.1
( 2 )プロダクトイオンスペクトル測定条件
% ギ酸含有アセトニトリル(B 液)を用いてグラジエン
プロダクトイオンスペクトルの測定は,豊田ら[4]
トにより分析を行った.グラジエント条件は,A 液:B
の方法を用いた.まず,標準溶液及び試料溶液について
液(50:50)から 30 分で(5:95)とし,さらに5分間
+
Q 1スキャンを行い,プロトン付加([M+H])イオン
保持した.流量は 1.0 ml/min,注入量は 20 μL,カラ
と推察されるイオンを確認した.次に,そのイオンをプ
ム温度は 40℃,検出波長は 310 nm とした.
リカーサーイオンとし,表1に示した条件を用いて,プ
ロダクトイオンスキャン測定を実施した.
表1. プロダクトイオン測定条件
表 1 プロダクトイオン測定条件
HPLC Conditions
Device
Column
Flow rate
Column Temp.
Inj. Volume
Mobile phase
:Agilent 1100 (Agilent Technologies)
:Phenomenex Mercury MS Luna® C18(2.0×10 mm, 3 μm)
:0.2 mL/min
:40°C
:1 μL
:Sol.A:H2 O containing 5 mmol/L CH 3COONH 4
:Sol.B.:CH 3 OH/CH 3CN(1:1) containing 5 mmol/L CH3 COONH 4
Gradient profile :A:B (80:20)→5 min→A:B (5:95) (Hold 3 min)
MS/MS Conditions
Device
:API 3000 (AB SCIEX)
Ionization mode :ESI (Positive)
Scan type
:Product ion scan
Ion spray voltage : 5500 eV
CE voltage
:+ 20 eV, + 35 eV, + 50 eV
Ion souce temp. :400°C
(The other conditions were values of each device.)
z 374 のイオンが認められた.このことから,製品①及
結果及び考察
び②については,分子量 373 の化合物が含まれていると
示唆された.
1 LC-MS 分析の結果
製品③については,RT19.0 分付近にピークが認めら
製品に添加された化合物の分子量を推定するため,
+
イオンと推
れ,スペクトルを確認したところ,
[M+H]
LC-MS によるスキャン分析を実施したところ,製品①
察される m/z 330 のイオンが認められた.このことから,
及び②については,保持時間(RT)18.3 分付近にピー
製品③については,分子量 329 の化合物が含まれている
クが認められ,それぞれのピークから得られたスペクト
と示唆された.
+
イオンと推察される m/
ルを確認したところ,[M+H]
20
広島県立総合技術研究所保健環境センター研究報告,No. 21(2013)
図 1 試料溶液の LC-MS 分析 ①:BLACK POWER,②:JIN,③:infinity
2 LC-MS/MS 分析の結果
みた.まず,製品①及び②いずれからも,CE 50 eV で
LC-MS により検出した,製品①及び②に含まれてい
検出される m/z 144 は,図3及び図4から,合成カン
ると推察される分子量 373 の化合物及び製品③に含まれ
ナビノイド化合物の基本骨格であるインドール環の3位
ていると推察される分子量 329 の化合物について,さら
にケトン基のついた構造を示すイオンと推察される.次
に詳細に構造を推定するため,表1に示した条件を用い
に,m/z 232 のイオンは,図3に示す AM-2201 のデー
て,LC-MS/MS によるプロダクトイオンスキャンを実
タから,フルオロペンチルインドールにケトン基がつい
施した.
た構造に由来すると推察された.また,m/z 141 は,図
( 1 )製品①及び②の結果
4に示す JWH-122 のデータから,4- メチルナフタレン,
製品①及び②の試料溶液を測定して得られたスペクト
m/z 169 は4- メチルナフタレンにケトン基がついた構
ルを確認すると,いずれの試料溶液もコリジョンエネル
造に由来するイオンと推測される.
+
イオンである m/z
ギー(CE)20 eV の強度で[M+H]
以上のことから,製品①及び②に含まれる化合物
374 が強く観測された.また,CE の強度を 35 eV に上
は, 図 5 に 示 す,
(1(5-fluoropentyl)-1H-indol-3-yl)
げると m/z 169 及び m/z 232 が強く観測され,50 eV で
(4-methyl-1-naphthalenyl)-methanone(MAM-2201,
.
は m/z 141 及び m/z 144 のイオンが確認できた(図2)
分子量 373)であると推定した.なお,MAM-2201 のプ
そこで,これらのイオンについて,類似のイオンピー
ロダクトイオンスペクトル測定用標準溶液を同様の条件
クを示す既知成分 AM-2201(図3)及び JWH-122(図
で測定した結果,製品①及び②の試料溶液から検出され
4)を対照に,基本構造及び置換基に帰属させたデータ
た成分と得られた各イオンのスペクトルは一致した.
を比較し,製品①及び②に含まれる成分の構造推定を試
21
広島県立総合技術研究所保健環境センター研究報告,No. 21(2013)
㻕㻓㼈㻹
㻖㻘㼈㻹
374
㻾㻰㻎㻫㼀㻎
཰᧶precuser ion 374
169
232
200
100
200
㻕㻓㼈㻹
374
100
Intensity, cps
m/z
300
m/z, Da
141
300
m/z, Da
m/z
㻘㻓㼈㻹
232
Intensity, cps
Intensity, cps
200
200
169
141
169
169 232
100
100
㻖㻘㼈㻹
㻾㻰㻎㻫㼀㻎
ཱ᧶precuser ion 374
m/z
300
m/z, Da
232
144
374
m/z
300
m/z, Da
Intensity, cps
100
169
141
Intensity, cps
Intensity, cps
169 232
㻘㻓㼈㻹
374
200
m/z
300
m/z, Da
144 232
115
100
200
m/z
300
m/z, Da
図 2 試料溶液(製品①及び②)のプロダクトイオンスペクトル ①:BLACK
POWER,②:JIN
ᅒ2.ࠈムᩩ⁈ᾦ㸝⿿ဗձཀྵࡦղ㸞ࡡࣈࣞࢱࢠࢹ࢕࢛ࣤࢪ࣋ࢠࢹࣜ
ձ㸯BLACK POWER㸡ղ㸯JIN
㻕㻓㼈㻹
㼐㻒㼝 㻔㻗㻗
m/z 155
㻖㻘㼈㻹
㻾㻰㻎㻫㼀㻎
2
155
163 232
200
232
127
116 144163
m/z
300
100
Intensity, cps
Intensity, cps
100
m/z 232
155
127
155
360
Intensity, cps
1
m/z 127
㻘㻓㼈㻹
200
360
69 117 144
88105
m/z
300
232
100
200
300
m/z
)
図 3 標準溶液(AM-2201,分子量 359)のプロダクトイオンスペクトル
ᅒ3.ࠈᵾ‵⁈ᾦ㸝AM-2201㸡ฦᏄ㔖359㸞ࡡࣈࣞࢱࢠࢹ࢕࢛ࣤࢪ
࣋ࢠࢹࣜ
m/z 169
㼐㻒㼝 㻔㻗㻗
㻕㻓㼈㻹
㻖㻘㼈㻹
㻘㻓㼈㻹
2
㻾㻰㻎㻫㼀㻎 356
100
169 214
200
300
357
m/z
Intensity, cps
Intensity, cps
Intensity, cps
1
m/z 141
141
169
214
100
141167 213
200
144
115
159 214
71 130
168
356
300
169
m/z
100
200
300
m/z
m/z 214
図 4 標準溶液(JWH-122,分子量 355)のプロダクトイオンスペクトル
ᅒ4.ࠈᵾ‵⁈ᾦ㸝JWH-122㸡ฦᏄ㔖355㸞ࡡࣈࣞࢱࢠࢹ࢕࢛ࣤࢪ࣋ࢠࢹࣜ
㼐㻒㼝 㻔㻗㻗
m/z 169
㻕㻓㼈㻹
㻖㻘㼈㻹
141
Intensity, cps
Intensity, cps
Intensity, cps
1
㻘㻓㼈㻹
169
㻾㻰㻎㻫㼀㻎 374
2
232
100
m/z 232
200
m/z, Da
300
m/z
100
200
m/z, Da
300
m/z
100
)
ᅒ5.ࠈᵾ‵⁈ᾦ㸝MAM-2201㸡ฦᏄ㔖373㸞ࡡࣈࣞࢱࢠࢹ࢕࢛ࣤࢪ࣋ࢠࢹࣜ
図 5 標準溶液(MAM-2201,分子量 373)のプロダクトイオンスペクトル
22
232
144
374
m/z 141
169
200
m/z, Da
300
m/z
広島県立総合技術研究所保健環境センター研究報告,No. 21(2013)
( 2 )製品③の結果
2201 データから,フルオロペンチルインドールにケト
ン基がついた構造に由来すると推測された.次に,m/z
製品③の試料溶液を測定して得られたスペクトルを確
+
認すると,CE 20 eV の強度で[M+H] イオンである
97 は,図7に示す UR-144 のデータから,テトラメチル
m/z 330 が強く観測された.また,CE の強度を 35 eV
シクロペンチル,m/z 125 はテトラメチルシクロペンチ
に上げると m/z 125 及び m/z 232 が強く観測され,CE
ルにケトン基がついた構造に由来すると推察される.
50 eV では m/z 97 及び m/z 144 のイオンが確認された.
こ の こ と か ら, 製 品 ③ に 含 ま れ る 化 合 物 は, 図8
(図6)
に 示 す(1(5-fluoropentyl)-1H-indol-3-yl)
(2, 2, 3, 3-
これらのイオンについて,製品①及び②と同様に,類
tetramethylcyclopropyl)methanone(XLR-11,分子量
似のイオンピークを示す既知成分 AM-2201(図3)及
329)であると推定した.なお,XLR-11 のプロダクト
び UR-144(図7)を対象に,構造推定を試みた.
イオンスペクトル測定用標準溶液を同様の条件で測定し
まず,m/z 144 のイオンは合成カンナビノイド化合物
た結果,製品③の試料溶液から検出された成分と得られ
の基本骨格を示すイオンと推察される.また,m/z 232
た各イオンのスペクトルは,一致した.
のイオンも,製品①及び②と同様に,図3に示す AM-
㻕㻓㼈㻹
200
232
330
297312
230
97
83
m/z
300
m/z, Da
125
100
200
300
m/z, Da
Intensity, cps
Intensity, cps
125
100
㻘㻓㼈㻹
125
330
Intensity, cps
ི᧶precuser ion 330
㻖㻘㼈㻹
144
8397
69
232
282
222
208
91
m/z
100
200
m/z
300
m/z, Da
図 6 試料溶液(製品③)のプロダクトイオンスペクトル ③:infinity
ᅒ6ࠈムᩩ⁈ᾦ㸝⿿ဗճ㸞ࡡࣈࣞࢱࢠࢹ࢕࢛ࣤࢪ࣋ࢠࢹࣜ
ճ㸯infinity
m/z 125
㼐㻒㼝 㻔㻗㻗
2
㻕㻓㼈㻹
㻖㻘㼈㻹
㻾㻰㻎㻫㼀㻎 312
1
125
m/z 214
100
214
125
200
m/z, Da
300
m/z
214
8397
212
144
100
279
294312
200
m/z, Da
300
Intensity, cps
Intensity, cps
Intensity, cps
m/z 97
㻘㻓㼈㻹
m/z
125
83
97
144
214
130
m/z
100
264
222
194
200
m/z, Da
300
m/z
図 7 標準溶液(UR-144,分子量 311)のプロダクトイオンスペクトル
ᅒ7.ࠈᵾ‵⁈ᾦ㸝UR-144㸡ฦᏄ㔖311㸞ࡡࣈࣞࢱࢠࢹ࢕࢛ࣤࢪ࣋ࢠࢹࣜ
㼐㻒㼝 㻔㻗㻗
m/z 125
㻕㻓㼈㻹
㻖㻘㼈㻹
m/z 97
100
m/z 232
125
200
m/z, Da
300
m/z
232
83
97
100
Intensity, cps
Intensity, cps
Intensity, cps
1
㻘㻓㼈㻹
125
㻾㻰㻎㻫㼀㻎330
2
330
230 297 312
200
m/z, Da
300
m/z
97125 144
83
69
91
100
232 282
222
200
m/z, Da
300
m/z
)
図 8 標準溶液(XLR-11,分子量
329)のプロダクトイオンスペクトル
ᅒ8.ࠈᵾ‵⁈ᾦ㸝XLR-11㸡ฦᏄ㔖329㸞ࡡࣈࣞࢱࢠࢹ࢕࢛ࣤࢪ࣋ࢠࢹࣜ
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広島県立総合技術研究所保健環境センター研究報告,No. 21(2013)
3 GC-MS 分析の結果
なお,RT47.5 分付近の別ピークについて,国立医薬
LC-MS 分析及び LC-MS/MS 分析で得られた各試料
品食品衛生研究所に問い合わせたところ,GC の注入口
に含まれると推察される成分について,GC-MS により,
温度による熱分解物であると判明した.
確認を行った.
MAM-2201 及び XLR-11 の EI スペクトル測定標準溶
4 HPLC による定量の結果
液及び試料溶液について,GC-MS を用いたスキャン分
各試料溶液及び検量線作成用標準溶液を分析し,得ら
析を実施したところ,製品①,②及び MAM-2201 につ
れた HPLC クロマトグラム及び UV スペクトルを図 11
いては,RT55 分付近にピークが認められ,3つのピー
に示した.
クのEIスペクトルを比較したところ,図9に示すとお
まず,ピーク面積による絶対検量線法で検量線を作
り,同等の結果が得られた.このことから,製品①及び
成したところ,MAM-2201 及び XLR-11 は,10-50 μg/
②共に含まれる化合物は,MAM-2201 であると確認さ
mL の濃度範囲でr= 0.999 以上の良好な直線性を示し
れた.
た.また,2成分の定量限界(LOQ)
[シグナル対ノイ
製品③及び XLR-11 については,いずれも,RT 47.2
ズ比
(S/N)
= 10]
は,
MAM-2201 及び XLR-11 共に約 0.08
分付近に主ピークが,また,RT47.5 分付近に別ピーク
μg/mL であった.
が認められた. RT47.2 分付近の主ピークについて,E
続いて,製品①,②及び③の試料溶液について分析し
Iスペクトルを比較したところ,図 10 に示すとおり同
たところ,各製品中の含有量は表2に示すとおりであっ
様の結果が得られ,製品③に含まれる化合物は,XLR-
た.
11 であると確認された.
な お, 3 製 品 を 買 上 げ た 平 成 24 年 8 月 当 時 は,
図 9 標準溶液(MAM-2201)及び試料溶液(製品①及び②)の EI スペクトル
①:BLACK POWER,②:JIN
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広島県立総合技術研究所保健環境センター研究報告,No. 21(2013)
図 10 標準溶液(XLR-11)及び試料溶液(製品③)の EI スペクトル
③:infinity
MAM-2201 及び XLR-11 は未規制であったが,同年 10 月,
買い上げ調査当時,当センターはこれらの標準品を所
これら2成分は指定薬物に指定された.
有していなかったことから,標準溶液との比較による成
分の確認が困難であった.しかし,試料溶液を分析して
ま と め
得られたプロダクトイオンスペクトルについて,類似の
イオンピークを示す既知成分と比較する手法を用いて2
平成 24 年度,違法ドラックを対象にした買上げ検査
成分の構造を推定し,その結果,製品中の含有量を迅速
において,MAM-2201 及び XLR-11 が検出された.
に測定することができた.
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広島県立総合技術研究所保健環境センター研究報告,No. 21(2013)
㼐㻤㻸
㻙㻓
㼐㻤㻸
ᵾ‵⁈ᾦ:10ppm
㼐㻤㻸
㻙㻓
㻚㻓
㻰㻤㻰㻐㻕㻕㻓㻔
䚭䚭㻵㻷㻝㻃㻔㻗㻑㻘㻓㻓
㻘㻓
㻻㻯㻵㻐㻔㻔
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図 11 標準溶液及び試料溶液の HPLC クロマトグラムと UV スペクトル
①:BLACK POWER,②:JIN,③:infinity
表 2 各製品の定量結果
製品名
① . BLACK POWE
検出化合物と定量結果
MAM-2201:55mg/g (1 包装中 170mg)
② . JIN
例は,継続的に発生している.しかし,これらの成分の
MAM-2201:52mg/g (1 包装中 160mg)
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③ . infinity
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XLR-11 :51mg/g (1 包装中 160mg)
標準品は入手困難な場合が多いことから,成分を迅速に
分析・同定することが一層困難となっている.
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近年の薬物の規制状況は,平成 25 年2月,ナフチル
今回報告した,既知成分の基本構造及び置換基に帰属
- インドール骨格を有する合成カンナビノイド系化合物
させたプロダクトイオンスペクトルデータと比較し,構
772 成分が包括指定に,同年4月及び6月に 32 成分が
造を推定する手法は,このような違法ドラッグ検査にお
個別指定薬物として追加される等,これまでにない頻度
ける迅速な成分の同定及び薬務課等への速やかな情報提
で規制成分が増加し,さらに,規制を逃れるためと推察
供を可能とし,それにより健康被害の未然防止,拡大防
される,これら規制成分に構造が類似した成分の検出事
止に資すると考える.
26
広島県立総合技術研究所保健環境センター研究報告,No. 21(2013)
山奈穂子,花尻(木倉)瑠理,合田幸広.違法ドラッ
謝 辞
グ試買検査の実施について(2011).京都府保健環
境研究所年報.2012;57:56-63
MAM-2201 及び XLR-11 の構造推定の際,ご助言いた
[4]豊田安基江,杉村光永,松尾健,寺内正裕,
伊達英代,
だいた国立医薬品衛生研究所 生薬部 花尻(木倉)瑠
井原紗弥香,森田晃祥,山辺真一,肥塚加奈江,
理先生に,感謝申し上げます.
藤原美智子 他.相互利用可能な LC/MS/MS ス
ペクトルライブラリ作成のための研究(第1報)
文 献
―プロダクトイオンスキャンによる MS/MS スペ
クトル取得条件の検討―.広島県立総合技術研究
[1]Naoko Uchiyama, Riri Kikura-Hanajiri, Jun
Ogata, Yukihiro God.
所保健環境センター研究報告. 2008;16:1-4.
Chemical analysis
[5]N a o k o U c h i y a m a , M a i k o K a w a m u r a , R i r i
of synthetic cannabinoids as designer
Kikura-Hanajiri, Yukihiro Goda. Identification
drugs in herbal products. Foresic Science
and quantitation of two cannabimimetic
International.2010;198:31-38
phenylacethylindoles JWH-251 and JWH-250,
[2]高橋市長,
長谷川貴志,西條雅明,永田知子,花尻(木
and four cannabimimetic naphthoylindoles JWH-
倉)瑠理,合田幸広.千葉県における違法ドラッ
081, JWH-015, JWH-200 and JWH-073 as designer
グ試験検査について(平成 21 年度)
.千葉県衛生
drugs in illegal products. Foresic Toxicol.
研究所年報.2009;58:51-54
2011;29:25-37.
[3]野澤真里菜,鳥居南豊,松本洋亘,茶谷祐行,内
27