放射線基礎医学 放射線治療部 小林雅夫 放射線の使用場面 放射線診断(単純写真、CT、血管造影) 放射線同位元素(Radio isotope ; RI) 放射線治療(外部照射、小線源治療) 非破壊検査 癌治療の3本の矢 ・手術・・・・・・局所療法。病巣が一部に限局する場合。 ・化学療法・・全身療法で。全身に広がる病巣に。 ・放射線治療・・局所療法である。侵襲は尐ない。 (しかし、放射線治療、化学療法の専門医はまだまだ足りない現状) 集学的治療は、単独治療による効果に限界がある 疾患に対し行われる。 放射線治療とは どれだけ効果があるのか? 舌癌 T2N0症例 舌左縁の4cm病変 治療前 組織内照射1週後 舌を切除しないので、 嚥下、発声への影響なし 組織内照射3週後 セシウム針による (γ線を出す) 組織内照射 晩期影響 乳房温存療法後5年 thermography 晩期影響 Kasabach-Merritt syndrome Before RT 5 years after RT 照射側患肢が短い 放射線治療の歴史 ■ 1895年;レントゲンによるX線の発見、しかし生物作用については記載なし。 ■ 1896年;表在性疾患(皮膚結核、血管性母斑、菌状息肉腫、皮膚癌、湿疹)へのX線 ■ ■ ■ ■ ■ への治療が行われる。 1898年;ラジウムの発見。 1906年;ラジウムよりα、β線をカットし、γ線のみ取り出し皮膚疾患への治療へ。 1913年;真空管の普及で160~200kVpの高電圧の強力かつ安定したX線が使用可。 1923年;放射線量測定のための電離槽が初めて完成。 1927年~;線量の分割方法、病巣への集中方法の研究。子宮頸癌や頭頸部癌で分 割照射が行われる。現在に通じるところである。 ■ 以後、照射に対する生物効果の影響についていろいろな検討がされた。 本日は放射線の生物学的一面を知ってもらいたい。 放射線障害の発見と防護の歴史 ■ 1896年;Daniel:乾板と頭の間にコインを置いてコインのX線写真を撮った.21 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ 日後にX線管球側の頭髪が脱毛した. 1896年;Clausen:X線透視を見世物にする.皮膚紅斑,脱毛,落屑,皮膚癌. 1896年;Freund:有毛性母斑症のX線治療に成功. 1920年代;放射線障害の発生を防止し,安全に配慮する思想の芽生え. 1928年;国際X線ラジウム防護委員会が設置;急性放射線障害の防止. 1940年;核爆弾の開発と使用. 1950年;国際放射線防護委員会(ICRP)へ発展. 1957年;放射線障害防止法制定(日本) ….放射線に対する正しい認識が求められる。全国では放射線治療装置は 1100台を超える台数だが、放射線治療認定医は617名(H20年)ほどである。 まだまだ足りない。 確率的影響および確定的影響の 分子細胞レベルの変化 分子レベル 細胞レベル 細胞の種類 臨床的影響 生殖細胞 遺伝的影響 体細胞 がん 生殖細胞 不妊 体細胞 組織・臓器 の損傷 突然変異 DNA損傷 細胞死 細胞変性 防護上の影響 確率的影響 (単一細胞の 損傷が原因) 確定的影響 (多細胞の 損傷が原因) 放射線の歴史は 正常組織におこる障害と 腫瘍に対する反応 への検討から 始まった 放射線とは 狭義には、物質を電離、励起させる電離放射線のこと を放射線という。 – 電磁放射線 X線・ガンマ線 光としての性質と粒子としての性質から光子(Photon)と呼ぶ。 – 粒子線 電子・中性子・陽子・パイ中間子・イオン・原子核を加速した 粒子線。 放射線の種類 – 電磁放射線(電気および磁気エネルギーの波, 波長のごく短い光) X線・γ(ガンマ)線 光としての性質と粒子としての性質から光子(Photon)と呼ぶ。 エネルギーの塊と考えられる。 間接電離放射線で、それ自体は化学的生物学的な障害は発生しな いが、それが通り抜ける物体に吸収されるとき、そこにエネルギーを 与えて、生物学的作用を果たす。 γ線と X線 の使用場面 電子を装置内で高エネルギーに加速する。その電子をタングステンなどの 標的にたたきつけ、その結果、X線に変換する。 セシウム針からでるγ線は核内の反応から生じる。 X線の発生 加速した電子の運動が X線のエネルギーに変化した。 X線 電子線 入射したX線のエネルギーが 電子線に作用し、核外へ。 波長の異なるX線がでる。 X線 γ(ガンマ)線の発生 X線と異なり、核内反応で生ずる γ線 放射線の種類 – 粒子線 電子・中性子・陽子・パイ中間子・イオン・原子核を加速した 粒子線。 直接電離放射線といい、それ自身が十分な運動エネルギーをもち、 吸収体を通り抜けるとき、その原子構造を変え、化学的・生物学的 作用を果たす。 → 粒子線のいろいろ 重粒子とは電子より重い粒子の ことである。日本では、炭素イ オン以上の重イオンを重粒子と 呼ぶ。 重粒子 重イオン⇨重粒子 20Ne 12C 1n ネオン 質量比 20 カーボン (炭素) : 12 1H 中性子 : 1 パイ中間子 陽子 : 1 e- π- : 1/7 : 南東北病院 電子 X線 ガンマ線 1/1800 不破先生ご厚意 放射性同位元素の壊変 γ線 β線(電子線) 放射性同位元素の壊変 α線(ヘリウム分子) 透過性 α線 β線 γ線 X線 中性子線 紙 アルミなどの 薄い金属 鉛や鉄 水やコンクリート 電離放射線の透過性 100 KV X-ray 4 MV X-ray 10 MV X-ray 10 MeV electron 体表面 放射線が体に当たると 例えば、全身に10Gyという 放射線が照射された。 どうなるのだろう? 放射線のエネルギーは? 短期間で半数以上の人間を 致死させてしまう。 放射線のエネルギー – 照射線量 – 吸収線量(ある容積要素内の物質において、電離放射線によって 付与された平均エネルギーを物質の質量で除したもの) 1 Kgの物質が1 Jのエネルギーを吸収する線量を1 Gy (1 Gy=1 J/kg)。 1 J=0.239 cal. 10 Gyの致死線量の投与によっても、わずか0.00239℃の温度上昇の み 物質に吸収された放射線のエネルギーは最後に熱になるので,熱量 として測定できる。 熱エネルギーならば、僅かであるが、このエネルギーで放 射線はヒトを殺してしまう。放射線障害(原爆、核実験、動 物実験での突然変異)への関心から、放射線生物学の研 究が進んだ。考えとしては、放射線がヒトの体にある局所 的な標的に当たると生命活動を傷害させる。 放射線の生物作用の時間経過 時間(秒) 0 10-18 10-12 10-6 100 数十分 時 日~月 数年 数十年 放射線作用 照射 電離・励起 ラジカル形成 →分子反応 DNA損傷 DNA修復 細胞死・染色体異常 組織障害・個体死 発ガン 遺伝的影響 物理的過程 化学的過程 生物学的過程 間接作用と直接作用 生物学的効果は細胞が 放射線のエネルギーを 吸収することで始まる 間接作用(細胞内の水分) 放射線が細胞内の主に水に作用し、 遊離基(free radical)を発生させ、その ラジカルがターゲットに障害発生させ る。 直接作用(細胞内のDNA) 荷電粒子線(電子線)やX線による2次 電子が、DNA分子を直接電離励起す る。 HALL 放射線生物学参照 電離放射線によるDNAへの影響 (確認) DNA分子はデオキシリボースとよばれる糖 と、リン酸や塩基からなるヌクレオチドで構成。 塩基にはアデニン、グアニン、シトシン、チミンの 4種類ある。 – 塩基の損傷 – 塩基の遊離 – 1本鎖・2本鎖切断 2本鎖切断の頻度は1本鎖の6~8分の1 – DNA分子間架橋 約5個の2本鎖切断に対して 1個の分子間架橋が生じる。 放射線によるDNAの単鎖および二重鎖切断の図 A: 正常な二重らせん構造 B: 単鎖の切断。容易に修復 C: 両鎖に切断。しかし切断部 が離れているため、個々の 切断として修復される。 D: 切断部が2,3の塩基対しか 離れていなければ、二重鎖切 断となり、染色分体が2つの 部分に分かれる。 → 細胞死、突然死、発癌へ HALL 放射線生物学より DNAの損傷の種類と量 傷の種類 自然の傷 (/細胞/日) 放射線の傷 (/細胞/1mSv) 塩基損傷 20,000 0.3 1本鎖切断 50,000 1 2本鎖切断 10 0.03 DNAの2本鎖切断は、自然に毎日細胞1個あたりに約10個発生していると推定されます。 放射線を1日に受ける自然放射線の平均の強さの365倍受けると、毎日1mSvになり、この 程度の被ばくによる2本鎖切断は毎日0.03個で、自然の傷の0.3%です。この程度なら、自 然の傷の治癒機能の範囲内で、私たちの身体はびくともしないでしょう。 『人は放射線になぜ弱いか』 近藤宗平 講談社ブルーバックス DNA損傷 修復可能 細胞生存 修復不可能 分裂死 アポトーシス 修復系の存在が重要なのは、紫外線損傷の修復 機構を先天的に欠損した色素性乾皮症患者(遺伝 性)が紫外線に高感受性であり、太陽紫外線による 皮膚癌になりやすい 普段我々が何気なく過ごしているが、体では損傷・ 修復を繰り返す DNA修復機構( 100 秒)…(生物が生存可能になる) – 塩基除去修復:損傷を受けた塩基を含む1〜数ヌクレオチドの除 去と修復合成 – ヌクレオチド除去修復:損傷を含む数十ヌクレオチドの除去と修復 合成 – ミスマッチ修復:ミスマッチを含む長いヌクレオチドの除去と修復合 成 – 組換え修復:DNA鎖の組換えと修復合成 除去修復 塩基除去修復:損傷を受けた塩基を含む1〜 数ヌクレオチドの除去と修復合成。 損傷塩基をDNAグリコシダーゼにより切り出 し、生じた脱プリン/ピリミジン部位(AP部位) のDNA1本鎖をAPエンドヌクレアーゼが切る。 以後、DNA合成酵素が正常なヌクレオチドを 修復合成する。 ヌクレオチド除去修復:上と異なり、損傷した 塩基を含む広い領域をまず大きく切り取る。 取り除かれた部分をDNAポリメラーゼやDNA リガーゼなどの酵素を使い合成し直し、修復 する。 複製後修復 娘鎖に隙間を残し複製 損傷 組換え修復:DNA鎖の組換えと修復合成。 損傷のない他方の鎖の組み換えで損傷 部位を補充後、損傷のないDNAに生じた 隙間を埋めて閉じる。 (2本鎖のとき重要) 娘鎖にある同じ配列 を借用(組み換え) 修復合成 切断酵素 消化酵素 修復合成 ミスマッチ修復:ミスマッチを含む長い ヌクレオチドの除去と修復合成。 (DNA複製中のエラーをチェックして修復 例えばAとT、CとGという正しい対合を確 認、これで、全体のエラーは0.0001%) DNA2本鎖切断修復機構 DNA二重鎖切断の修復に失敗すると大量のDNA 消失可能性大。他の損傷と比較し 頻度 尐 致死作用 大 DNA二重鎖切断の修復に関わる・・・ 非相同末端結合 (non-homologous end-joining) 相同組換え (homologous recombination) NHEJ と HR 非相同末端結合 相同組換え がんの生物学 ワインバーグ著 NHEJ と HR 非相同末端結合 G1-S期で重要 放射線による二本鎖修復の 主な回復形態 修復エラーが多い 相同組換え S-G2期で重要 姉妹染色分体を欠損する G1 期ではみられない 放射線による二本鎖修復の 10% 修復エラーはほとんど無し 放射線の細胞へ与える影響 – 細胞分裂の遅れ G2期にある細胞がM期への移行に遅れる現象をG2-Block – 細胞死 間期死(interphase death)と増殖死(reproductive death) アポトーシス(apoptosis)とネクローシス(necrosis) – 細胞周期と放射線感受性 放射線高感受性;G2-M期 放射線低感受性;S期後半 – 細胞の回復 亜致死損傷からの回復(SLD repair) 潜在的致死損傷からの回復(PLD repair) 細胞分裂の遅れ(G2-Block) G2-Block HALL 放射線生物学より 放射線を照射された細胞は、細胞分裂の 遅延(mitotic delay)が起こるが、やがて正 常に戻る。この過程は一過性で遺伝子や 染色体の変化には関係しない。 放射線照射直後にみられる細胞分裂阻害 ・分裂阻害がG2期の中頃または終わりにお こるが、この点を通り越した細胞は照射後 でもM期に入り正常に分裂を完了 ・分裂前期の細胞が照射によって染色体の ほぐれをおこし、形態的により早い時期や G2期に戻される。 細胞が放射線損傷を修復する時間を稼ぐ ために積極的に細胞周期の進行をストップ する機構 G2期にある細胞がM期への移行の 遅れる現象をG2-Block。 放射線による細胞周期調節 チェックポイント 細胞周期 G1/S ATM→p53→p21 他にATRを介する 経路も p21がCdk2を阻害 → 細胞周期停止 S ATM→Chk2 Chk2がCdc25Aを 不活性化→ 細胞周期停止 G2/M ATM→Chk2 他にATRを介する 経路も Chk2がCdc25Cを 不活性化→ 細胞周期停止 細胞周期各期での放射線感受性 (Brookhaven Natl. Lab. Report 50203 (C-57), p97, 1969) 放射線高感受性;G2-M期 放射線低感受性;S期後半 分割照射では照射直後に生残った低感受性周 期細胞が再び高感受性周期に移行する (Redistribution) G2期後半からM期で感受性が高い理由 DNA損傷を修復する時間が必要 分裂する前に修復 細胞周期の進行を止める S期後半~G2前半 の放射線抵抗性の原因は、 その時期に相同組換えが作用するため 細胞死 間期死(interphase death)と増殖死(reproductive death) 照射線量が高くなると細胞は直ちに死ぬか、あるいは数回分裂して死ぬ。前者は 間期死、後者は増殖死。間期死は増殖死より大きい線量を必要とする。骨髄細胞、 リンパ球などは数Gyで増殖死を起こす。このような細胞は分裂能が高いことが特 徴の細胞である。しばしば巨細胞となり、最終的には細胞死に至る。間期死は細 胞分裂を介することなく照射後1~2時間後に代謝が止まって死ぬ。形態的には アポトーシスと呼ばれる (Kerrが1972年に概念を提唱) 。リンパ球や卵細胞は数十 cGyから数Gyで間期死をおこすが、非分裂細胞の筋肉、神経細胞などは大線量が 必要である。 線量(全身急性被ばく)* 死亡に関連する影響 死亡までの期間 3 〜 5 Gy 骨髄障害 (LD50/60) 30 〜 60 日 5 〜 15 Gy 消化管および肺障害** 10 〜 20 日 > 15 Gy 神経系障害 1〜5日 (ICRP Publ.60) 細胞死 ThomlinsonとGrayがヒト気管支癌の病理組織学研究より ネクローシス(necrosis) 傷害を受けた細胞の受動的・病理的死。 細胞の膨化・ミトコンドリアの変化がおこ る。 アポトーシス(apoptosis) プログラムされた能動的・生理的細胞死。 形態学的に2期からなり、第1期では細 胞は凝縮し膜を取り囲んだ小体(アポ トーシス小体)を生じる。第2期では近接 した細胞によりこの小体が食され消化さ れる。(被曝して傷害された細胞を、回 復が見込まれない場合、積極的に生体 より排除する機構) 他にAutophagy(細胞内の蛋白を自ら分解)、 Senescenceも認める 照射により核の肥大化を招いた血管内皮細胞 放射線の細胞への作用と細胞死の機序 (JASTRO 教育スライドより) 増殖死は、細胞周期を繰り返すうちに細胞崩壊を示すもので、ネクローシス(他殺)と呼ばれる。 間期死は、最近認識されるようになったアポトーシス(自殺)に類似するものと考えられている。 1 7 2 apoptosis 4 8 6 necrosis 細胞の縮小 核クロマチン凝縮 DNA断片化 ↓ アポトーシス小体 (細胞内容物の 流出なし) ↓ 炎症無く短時間で 処理 Kerrの図より改変 放射線 DNA2本鎖切断(DSB) (初期開始信号) 電離放射線では DSBが重要! ATMが重要 センサー ATMは、クロマチンの 構造変化を認識して活性化 する p53 トランスデユーサー p53R2 エフェクター DNA修復 非相同末端再結合;相同組換え修復 p21 Bax エフェクター 細胞周期進行制御 G1, S, G2 arrest エフェクター アポトーシス ネクローシス 低線量•低線量率放射線による生物影響発現 監修大西武雄 2003 より改変 膜からの細胞死シグナル スフィンゴミエリン 膜 スフィンゴミエリナーゼ セラミド MAPKKK分子 MAPKK分子 MAPK分子 MEKK1/2/4, ASK1 etc P P MKK4, MKK7 P P P P MKK3, MKK6 P P p38 JNK/SAPK アポトーシス 低線量•低線量率放射線による生物影響発現 監修大西武雄 2003 より改変 膜からの生存シグナル PI3-K/Akt 経路 JASTRO 教育スライドより 放射線照射でも 活性化が起こる PI3-K Akt ミトコンドリア 膜からの生存シグナル MEK/ERK 経路 Cell survival JASTRO 教育スライドより MEK/ERK 経路 放射線誘導アポトーシスシグナル伝達機構 (癌・放射線療法2002 より引用) 放射線による細胞死のまとめ ( JASTRO教育講演より) アポトーシスおよび関連するシグナル伝達,蛋白,遺伝子が注目さ れるが,放射線治療では分裂死,壊死(necrosis)も重要 放射線高感受性の腫瘍(リンパ腫),正常組織(リンパ球,小腸クリプ ト細胞)の細胞死ではp53依存性のアポトーシスが主体だが,半減期 が非常に短く(2~6時間という仮定)実態は不明 抵抗性組織では分裂死,壊死の関与が大きいとするが,十分には分 かってない 細胞動態による組織分類と放射線感受性 – – – – static cell population: まったく分裂しない細胞で構成された組織で筋肉や 神経等であり,放射線抵抗性といわれている。 expanding cell population: ゆっくりではあるがある年齢までは細胞数が増 加する細胞集団で,肝臓や腎臓などの実質臓器で放射線に比較的抵抗性 といわれている。 renewing cell population: 分裂は盛んであるが,脱落する細胞と新生する 細胞の数は同じであり,造血組織,小腸,皮膚,水晶体上皮などが属し, 放射線感受性が高い。 neoplastic cell population: 自己制御を受けずに脱落する細胞より増殖す る細胞数が多い細胞集団であり,腫瘍組織が相当する。 正常組織および悪性腫瘍の相対的放射線感受性 Bergonie-Tribondeau law (ベルゴニー・トリボンドーの法則) 放射線に対する感受性を予測する指標。ラット睾丸精細管の 放射線効果から導いた法則。 分裂頻度が高い(細胞周期が短い)細胞ほど、放射線への感受性が 高い 分化度が低い細胞ほど、放射線への感受性が高い 細胞分裂の期間が長いほど、放射線への感受性が高い → 同じ組織でも幼児期や胎児期の細胞の方が、増殖能力が高く、 放射線への感受性が高い。 放射線の細胞への影響(確率論的解析) ....線量と効果の関係 1. 標的理論 2. 直線−2次理論 ( L-Q理論 ) 標的理論(target theory) 仮定 Target となる個々の分子や細胞は、放射線に 対して全く独立に放射線の作用(ヒット)を受け る。 線量に対する効果は確率的過程として扱うこと ができる。 →線量依存した細胞の生死の確率を示すモデル この標的理論は3つの仮定を前提とする。 ・放射線はそのエネルギーを粒子として無差別に 物質に付与する。 ・エネルギー粒子と細胞の相互作用(ヒット)は互 いに独立におこりPoisson分布に従う。 ・放射線の作用が標的細胞を不活化するために は、標的の内部に尐なくともm個のヒットがおこ ることが必要である。 標的理論 単一標的理論:1個の細胞標的へのヒットでその細胞は不活化 すると仮定 N / No = exp ( - λD ) 多重標的理論:1個の細胞中のm個の標的へのヒットで細胞が 不活化すると仮定 N / No = 1 – ( 1 – exp (-D / Do))m 単一標的理論 線量 D (hits/cm3)で照射したとき v (cm3)の標的に平均 vD個のヒットが おこる。 標的 v の中にm個のヒットが起こる確 率はPoisson分布に従う。 実際に標的にn個のヒットが生じるの は P(n) = exp –νD (vD)n / n! 1個のヒットで細胞が不活化するなら ば、N0個のうち線量Dによってヒットを 受けない細胞数の確率は N / N0 = exp –νD 単一標的理論:1個の細胞標的への ヒットでその細胞は不活化すると仮定 多重標的理論 標的 おのおのの個体(体積 v) 内に標的が m個あって、ヒットを受けない標的が1個 でもあったとき生残すると仮定する。 1個の標的にヒットする割合 1 - exp –νD 個体が致死する、 m個の標的では (1- exp –νD )m 生残する確率は 1- (1- exp –νD )m 多重標的理論 ν(傾き)=1/Do 対象の放射線への感受性 m個の標的では (1- exp –νD )m 生残の確率は 1- (1- exp –νD )m 多重標的理論:1細胞中にあるm個 の標的への全ヒットで細胞が不活 化すると仮定 N / No = 1 – ( 1 – exp (-D / Do))m (最初の細胞数 No ヒット後生存する細胞数 N ) 一つの電離で必ずしも1ヒットが生じないため、 標的論の意味は薄れた L – Q(直線-2次)理論 細胞の標的は2本鎖DNAと仮定する。 決定的な損傷(細胞死)は、1粒子もし くは2粒子によるDNAの修復されない 2本鎖切断からなると仮定。 2粒子切断は吸収線量の2乗に比例 (比例定数β(Gy-2))と仮定 1粒子切断は吸収線量Dに比例(比例 定数α(Gy-1))と仮定 致死的損傷の平均数 (μ): μ= αD + βD2 細胞致死率: N / No = exp (- μ) = exp ( - (αD + βD2)) LQ 理論における線量−生存率(効果)曲線 N / No = exp ( - (αD + βD2)) 点線の交点は αD = βD2 の関係が成立 D=α/β で1粒子切断と2粒子切断による 細胞死の数が同じ Fowler, J. F. : Br. J. Cancer 49 [Supple. VI] : 285 - 300, 1984) LQ 理論における線量−生存率(効果)曲線 早期反応に相応 後期反応に相応 N / No = exp ( - (αD + βD2)) α/β比の解析は細胞の修復機構や分割照 射における等価線量の推定に重要な情報 を与える α/β値が 大きい..急性反応型組織 小さい..晩発反応型組織 α/β比は一般に 腫瘍では大きく(5~30 Gy), 正常細胞の後期反応では小さい(1~7Gy) Fowler, J. F. : Br. J. Cancer 49 [Supple. VI] : 285 - 300, 1984) 線量率効果 線量率….時間あたりの照射線量のこと。 線量率の変化は生物反応に大きく影響す る。 ・照射中に亜致死損傷(SLD)が回復する ・細胞周回の遅延、停止、細胞のG2期への 蓄積が生じる ・細胞が増殖する 高線量率照射では照射中に亜致死損傷 の回復は起こらず、細胞周期は進行しな い。線量率が低下すると照射時間が延び、 照射中に亜致死回復の回復が起こり、 生存率曲線の勾配は緩やか。 低線量率照射 高線量率照射 哺乳類細胞の線量−生残率曲線 α/β値が大きい(直線に近い) α/β値が大きい:急性反応型組織 小さい:晩発反応型組織 LETが高くなると1放射線で2本鎖を 同時に切断する率が上昇する。 ↓ αD項が高くなり、より直線的に! 線量が大きくなると指数関数的減尐 多分割照射と低線量率照射 多分割照射と生存率 低線量率効果 1 10分割 0.1 低線量率照射 0.01 生存率 一回照射 5分割 高線量率照射 生存率はSLDの単位時間あたりの生成率と修復率のバランスで決定する。 線質:線エネルギー付与(LET=keV/μm)と生物効果 荷電粒子は軌跡にそってエネル ギーを通過する組織中へ付与する。 電子は低LET放射線、 陽子 < 速中性子 < 重粒子 LETと生物効果 ・LETが高いと直接作用による損傷の割 合が多くなる。 ・LETが高いとRBEも大きい (照射で生き残る細胞がより尐ない) ・酸素効果はLETの増加とともに減尐 ・LETが高くなると、感受性は細胞周期依存 でなくなる ・分割照射による損傷回復は起こりにくい ・PLD回復しにくい 付与されたエネルギーが組織中で作用する α線 生物学的効果比 Relative biological effectiveness (RBE) という。 放射線を照射されたことに対する生物学的効果を比較するために、 標準放射線を設定し、この放射線による生物効果と同様の生物効果 を得るために、異なる線質(LET)や線量率での放射線が必要とする線 量を線量比として表した。 γ線(標準放射線)で一定の生物学効果を得る照射線量 RBE = 比較したい放射線で同様の効果を得る照射線量 この定義が必要なのは、物理学的な吸収線量が同じでも、線質(X線 なのか重粒子線なのか など)や線量率(時間あたりの放射線量が 高いのか低いのか) が変化すると得られる生物学的効果が異なる ことによる。 酸素効果比 OER(oxygen enhancement ratio) 低酸素状態で照射された際、 酸素が十分に存在するときに 照射された場合と同じ効果を与 えるために何倍の線量を必要 とするか、という線量比。 細胞内の酸素圧により放射線 感受性は異なる 低酸素細胞は放射線感受性が 低い 酸素状態にある細胞の放射線 感受性は無酸素状態の細胞の 2.5~3倍である。 低酸素細胞は放射線抵抗性を示 す。 分割照射では酸素細胞が死に至 る結果、低酸素細胞が毛細血管 に近づき酸素に富んだ細胞になる (再酸素化: Reoxygenation) さまざまな線質の放射線によるOER (Hall, E. J (浦野宗保訳):放射線生物学、篠原出版、1980) •放射線により生成したOHラジカルがDNAへの初期損傷を起こす。 この損傷部位に酸素分子が結合し固定化(間接作用) •高LETになると酸素効果があまり得られない 線質(LET)と 生物学的効果(RBE),酸素効果(OER)の関係 overkill (Barendsen, G.W.: Int. J. Rad. Boil. 10 : 317, 1966) 放射線による細胞への影響を修飾する因子 – 酸素効果 – 線量率 生物学的効果比( RBEとLET ) 線量率効果 – 温度効果(低温では感受性が低下) – 希釈効果 – 保護効果(ラジカルスカベンジャー、間接作用を低下させる) 致死損傷 (lethal damage) …DNA切断に起因する不可逆性で修復のない損傷 亜致死損傷 (sublethal damage , SLD) …正常な環境下では数時間以内に修復される損傷、もし修復前に次の 亜致死損傷が加えられると致死損傷になる。 潜在的致死損傷 (potentially lethal damage, PLD) …致死損傷だが放射線照射後の環境(細胞周期が進行できない状態; 実験的には蛋白合成の阻害剤を加える、細胞過密状態におく、栄養 欠乏培地にする)によって修復される損傷 腫瘍細胞と正常細胞の分割照射による 生存率の差 正常細胞のSLD回復 正常細胞 腫瘍細胞の SLD回復 生存率 腫瘍細胞 分割照射とSLD回復(Elkind回復) 1959年、ElkindとSuttonは、一定の時間間隔で 分割照射したときの生存率は、合計線量を一 度に照射するより高い。 これは細胞を適正な代謝状態におけば数時 間で亜致死損傷から回復するため。 .....分割照射によって回復する細胞が出現する。 (一定時間は必要) 生存率の上昇 HALL 放射線生物学より 分割照射とSLD回復(Elkind回復) 1959年、ElkindとSuttonは、一定の時間間隔で 分割照射したときの生存率は、合計線量を一 度に照射するより高い。これは細胞を適正な 代謝状態におけば数時間で亜致死損傷から 回復するため。 .....分割照射によって回復する細胞が出現する。 (一定時間は必要、低感受性周期細胞が再び 高感受性周期に移行する: Redistribution) 生存率の上昇 HALL 放射線生物学より 分割照射だと生存細胞が増える 臨床的見地からの分割照射とSLD回復 正常細胞と腫瘍細胞の回復能に差がある。正常組織の回復能は腫 瘍に比べ大きい。 分割照射はこれを利用。 臨床的見地からの分割照射とSLD回復 正常細胞と腫瘍細胞の回復能に差がある。正常組織の回復能は腫 瘍に比べ大きい。 分割照射はこれを利用。 4R 分割照射に影響を与える大切な因子 Repair of sublethal damage (亜致死障害からの回復) Reoxygenation(再酸素化) Redistribution(再分布) 照射直後に生残した低感受性細胞が再び高感受性周期に移行する Repopulation(再増殖) 腫瘍、正常組織とも治療期間中(3週以降)に生き残った細胞の再増殖が起こる。 治療期間が長すぎると腫瘍の再増殖により制御率が悪くなる →このような分子的メカニズムを経て組織は放射線により、変化する。 放射線治療はこの性格を利用した治療である。マクロ的説明は次回講義で。 低酸素細胞は放射線抵抗性を 示す。 分割照射では酸素細胞が死に 至る結果、低酸素細胞が毛細 血管に近づき酸素に富んだ細 胞になる(Reoxygenation) 再酸素化 照射を繰り返すことで、 低酸素細胞が毛細血管に 近づき酸素に富んだ細胞に なる(Reoxygenation) γ線 低酸素細胞 再酸素化 腫瘍治療曲線 治療可能比とは 周囲正常組織の耐容線量 / 腫瘍の致死線量 治療可能比が 1 以上であれば根治照射の適応 この比が大きいほど放射線治療で治癒しやすい 腫瘍の致死線量 照射野内の腫瘍が高率(80-90%)に制御される線量 腫瘍の放射線感受性が高いほど、腫瘤が小さいほど致死線量は低い 「放射線治療成績向上」への 2つのアプローチ • 確率(%) 腫瘍致死 正常組織の 障害 (空間的線量分布の改善) • 治癒 線量 正常組織をできるだけ避け,腫瘍病 巣に線量を集中させようとする物理・ 工学的努力 腫瘍と正常組織の放射線感受性に できるだけ大きな差を与えようとする 放射線生物学的努力(多分割照射, 化学放射線治療など)
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